説明

光学素子の調整構造、及び、光ピックアップ

【課題】回転調整が必要な光学素子に対して好適な、光学素子の調整構造を提供する。
【解決手段】光学素子の調整構造は、回転調整される光学素子12を含む回転側30と、光学素子12が取り付けられる非回転側10と、を備える。回転側30には、先細りした先端部40と、先端部40と反対側の端部に設けられて調整治具60が接触される接触部41と、が含まれる。非回転側10には、先端部40と係合する凹部54が含まれる。先端部40を凹部54に係合させるとともに接触部41に調整治具60を接触させ、調整治具60を動かすことによって先端部40を支点として回転側30を回転させて、光学素子12の回転調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば回折格子(グレーティング)等の光学素子の回転調整を行うために使用される、光学素子の調整構造に関する。また、本発明は、そのような光学素子の調整構造を備える光ピックアップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ピックアップの光学系には、光源から出射された光を分割して光ディスク上に複数の光スポットが形成されるように、回折格子(回折素子)が配置されることがある(例えば、特許文献1及び2参照)。この回折格子の存在により、例えば3ビーム法やDPP(Differential Push-Pull)法等を用いてトラッキングエラー信号を生成することが可能になる。
【0003】
この回折格子は、上記複数の光スポットの位置が狙いの位置となるように回転調整が行われた上で、光ピックアップのベース(光学台)に対して固定されるのが一般的である。回折格子は樹脂で形成される場合もあれば、ガラスで形成される場合もある。なお、最近ではブルーレイディスク(以下、BDと記載する)のような高容量の情報を記録できる光ディスクが実用化されているが、このBD対応の光ピックアップに備えられる回折格子は、現状、樹脂ではなくガラスで形成されることが多い。
【0004】
回折格子がガラスで形成される場合には、回折格子をホルダ(光学素子ホルダ)で保持して光ピックアップのベースに取り付けるのが一般的であり、ホルダを回転しながら回折格子の回転調整が行われる。なお、回折格子が樹脂で形成される場合には、回折格子をホルダで保持することもあるが、回折格子としての機能とホルダとしての機能とを併せ持つ1つの部材を光ピックアップのベースに取り付けることもある。
【0005】
ここで、回折格子をホルダで保持して光ピックアップのベースに取り付ける場合の従来の構成例について説明する。図10は、従来の光ピックアップにおいて、回折格子をベースに取り付ける前の状態を示す概略斜視図である。図11は、従来の光ピックアップにおいて、回折格子をベースに取り付けた状態を示す概略斜視図である。
【0006】
図10に示すように、従来の光ピックアップにおいては、回折格子101を保持するホルダとして、略円柱状の樹脂製ホルダ102が用いられる。回折格子101は、このホルダ102の略中央部に接着剤等を用いて固着される。回折格子101を保持したホルダ102は、光ピックアップのベース103に設けられる略円筒状の収容空間103aに収容される。
【0007】
収容空間103aに収容されたホルダ102は、図11に示すように、ホルダ102の背後に配置されるスプリング104によって、ベース103の当て面103b(図10参照)に押し付けられる。すなわち、ホルダ102は、スプリング104の作用によって、収容空間103aに収容された状態で保持される。ただし、上述のように回折格子101は回転調整が必要となる。このために、スプリング104は、当て面103bに押し付けられたホルダ102の回転調整が行えるように、その付勢力が調整されている。
【0008】
図10に示すように、ホルダ102には調整治具を差し込む調整溝102aが形成されている。また、図10及び図11に示すように、光ピックアップのベース103には調整治具を差し込むための切り欠き103cが形成されている。このため、収容空間103aに収容されてスプリング104によって当て面103bに押し付けられたホルダ102は、調整治具を用いて回転調整を行える。ホルダ102は、調整治具を用いた回転調整が行われた後に、ベース103に対して動かないように接着剤等を用いて固定される。この接着剤等によるホルダ102の固定によって、回折格子101のベース103への取り付けが完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−18845号公報
【特許文献2】特開平11−110775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、図12を参照しながら、上述した従来の構成における問題点について説明する。従来の構成においては、回折格子101の回転調整が行われる場合、図示しない調整治具(調整ピン)が調整溝102aに差し込まれ、調整ピンが図12の左右方向に動かされる。これにより、円形のホルダ102の中心Oが回転中心となってホルダ102が回転され、回折格子101の回転調整が行われる。
【0011】
しかしながら、この構成の場合、調整ピンとホルダ102とが接触する接触部(溝部102a)と、回転中心Oと、の距離が短くなり易い。この場合、左右に移動される調整ピンの移動量に対する回折格子101の角度変化が大きくなり易く、調整精度が粗くなってしまうといった問題がある。
【0012】
また、従来の構成では、調整ピンを用いて回転調整を行った後は、溝部102a近傍がベース103に接着固定される。この場合において、ホルダ102の外周とベース103の収容空間103a(図10参照)の内面との接触箇所は一定とはならず、調整作業毎に異なった位置となるのが通常である。このために、回折格子101周辺で温度変化が生じた場合や衝撃が加えられた場合等に、収容空間103a内でホルダ102が動いて(前述の接触箇所が変わって)、光学素子が調整位置からずれてしまう可能性がある。
【0013】
なお、特許文献1及び2には、上記した構成例とは異なる、回折格子の調整構造が開示されている。しかしながら、特許文献1の構成は、上述した従来例同様に、回折格子の光軸(回折格子の中心)周りの角度位置を調整する構成であり、調整精度が粗くなり易い。また、回折格子周辺で温度変化が生じた場合や衝撃が加えられた場合等に、ホルダが動いて光学素子が調整位置からずれてしまうといった事態が依然として起こり易い。
【0014】
また、特許文献2の構成では、樹脂製のホルダに設けられる摩擦突起を利用してホルダが支持される構成であり、衝撃等によって位置ずれが起こることが懸念される。また、特許文献2の構成では、衝撃等による位置ずれを生じさせないために摩擦突起の寸法管理が重要となると考えられ、この点が製造時において負担となることが考えられる。
【0015】
以上の点に鑑みて、本発明の目的は、回転調整が必要な光学素子に対して好適な、光学素子の調整構造を提供することである。詳細には、調整精度が良い光学素子の調整構造を提供することである。また、回転調整後に、温度変化や衝撃等によって位置ずれを生じにくい光学素子の調整構造を提供することである。また、本発明の他の目的は、そのような光学素子の調整構造が使用されることにより、信頼性の高い光ピックアップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明の光学素子の調整構造は、回転調整される光学素子を含む回転側と、前記光学素子が取り付けられる非回転側と、を備える光学素子の調整構造であって、前記回転側には、先細りした先端部と、前記先端部と反対側の端部に設けられて調整治具が接触される接触部と、が含まれ、前記非回転側には、前記先端部と係合する凹部が含まれ、前記先端部を前記凹部に係合させるとともに前記接触部に調整治具を接触させ、前記調整治具を動かすことによって前記先端部を支点として前記回転側を回転させて、前記光学素子の回転調整を行うことを特徴としている。
【0017】
本構成によれば、調整治具が接触する接触部と、回転側の回転の支点(先端部)とが離れた位置となるように構成できるために、調整治具の移動量に対する光学素子の角度変化を小さくでき、調整精度の向上が図れる。また、本構成によれば、回転側の回転の支点となる先端部が非回転側の凹部と係合される構成となっており、回転調整後に、温度変化や衝撃等によって光学素子の位置ずれが発生しにくい構成にできる。
【0018】
上記構成の光学素子の調整構造において、前記先端部及び前記凹部が略V字形状であるのが好ましい。これにより、調整治具が接触する接触部と回転中心との距離を長くして調整精度の向上を図れるとともに、回転調整後に、温度変化や衝撃等によって光学素子の位置ずれが発生する可能性を低くできる。
【0019】
上記構成の光学素子の調整構造において、前記回転側においては前記光学素子が光学素子ホルダに保持されており、前記光学素子ホルダを介して前記光学素子が前記非回転側に取り付けられ、前記光学素子ホルダを回転させて前記光学素子の回転調整が行われる、こととしてもよい。なお、前記回転側は、前記光学素子そのものからなる構成や、前記光学素子とホルダとが一体となったものでもよく、この場合には、これらが回転調整されることになる。
【0020】
上記構成の光学素子の調整構造において、前記光学素子ホルダはバネ部を有し、前記非回転側には、前記光学素子の光軸方向に対向する2つの壁部が含まれ、前記バネ部によって前記光学素子ホルダが前記2つの壁部に押し付けられた状態で、前記光学素子の回転調整が行われるのが好ましい。そして、この構成においては、前記光学素子ホルダは板金を加工してなるのが好ましい。
【0021】
板金加工によって光学素子ホルダを得る場合、バネ部を光学素子ホルダに一体的に設け易い。また、バネ部を利用して取り付け対象(非回転側;光ピックアップのベース等)に取り付けることができるために、光学素子ホルダの取り付け対象への取り付け作業を容易とできる。
【0022】
また、上記目的を達成するために本発明の光ピックアップは、上記構成の光学素子の調整構造を備えることを特徴としている。本構成によれば、光学素子の回転調整を精度良く行え、更には、温度変化や衝撃等によって光学素子が位置ずれを起こす可能性を低くできるために、信頼性の高い光ピックアップを提供できる。
【0023】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記光学素子は回折格子であってもよい。光ピックアップに備えられる回折格子は回転調整が必要な場合が多く、本構成は、本発明の好適な構成例である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、回転調整が必要な光学素子に対して好適な、光学素子の調整構造を提供できる。また、本発明によれば、そのような光学素子の調整構造が使用されることにより、信頼性の高い光ピックアップを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略平面図
【図2】本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す概略平面図
【図3】本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す概略斜視図
【図4】本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す正面図で、回折格子が取り付けられた状態を示す図
【図5】本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す概略側面図
【図6】本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す展開図
【図7】本実施形態の光ピックアップにおける、回折格子ホルダが取り付けられる取付部の構成を示す概略斜視図
【図8】図7に示す取付部に回折格子ホルダが収容された状態を示す概略斜視図
【図9】本実施形態の光ピックアップにおける、回折格子ホルダと取付部の溝部との関係を示した模式図
【図10】従来の光ピックアップにおいて、回折格子をベースに取り付ける前の状態を示す概略斜視図
【図11】従来の光ピックアップにおいて、回折格子をベースに取り付けた状態を示す概略斜視図
【図12】従来の光ピックアップの問題点について説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の光学素子の調整構造、及び、光ピックアップの実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下においては、本発明の光学素子の調整構造が、回折格子の調整構造であり、この回折格子の調整構造が光ピックアップに適用される場合を例に説明する。
【0027】
図1は、本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略平面図で、図1(a)は光ピックアップの上面図、図1(b)は光ピックアップの側面図である。なお、図1(b)は、図1(a)に示す矢印Aに沿って見た図である。また、図1(b)には、理解を容易とするために、光ディスクDが併せて示されている。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の光ピックアップ1は、回折格子を含む複数の光学部材が搭載されるピックアップベース10と、ピックアップベース10上に固定配置される対物レンズアクチュエータ20と、を備える構成となっている。
【0029】
ピックアップベース10の左右の端部には軸受け部10a、10bが設けられている。ピックアップベース10は、この軸受け部10a、10bによって、光ディスク装置(光ディスクDの再生や記録を行うための装置)に設けられるガイドシャフトGS(図1(a)に破線で示す)に摺動可能に支持されることになる。光ディスク装置に設けられるガイドシャフトGSは、光ディスクの半径方向(ラジアル方向;Rad方向)に延びるように配置される。ガイドシャフトGSに対して摺動可能とされる光ピックアップ1は、回転する光ディスクDの所望のアドレスにアクセスして情報の読み取りや書き込みを行うことができる。
【0030】
対物レンズアクチュエータ20は、光ピックアップ1の光学系に備えられる対物レンズ17をフォーカス方向(光ディスクDの情報記録面RSに垂直な方向)及びトラッキング方向(Rad方向と同じ方向)に移動可能とする装置である。光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ17の焦点位置が常に光ディスクDの情報記録面RSに合うようにフォーカシング制御を行う必要がある。また、光ピックアップ1においては、情報の読み取りや書き込みを行う際に、対物レンズ17によって光ディスクDの情報記録面RSに集光される光スポットの位置が、光ディスクDのトラックに常に追随するようにトラッキング制御を行う必要がある。対物レンズアクチュエータ20は、これらのフォーカシング制御及びトラッキング制御を行う際に駆動される。
【0031】
なお、対物レンズアクチュエータ20は、対物レンズ17を保持するレンズホルダ20aを有し、レンズホルダ20aをワイヤ20bで揺動可能に支持する構成のものである。そして、対物レンズアクチュエータ20は、コイル及び磁石を利用して発生させた力でレンズホルダ20aとともに対物レンズ17を動かすものである。このようなタイプの対物レンズアクチュエータは公知であるので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0032】
図2は、本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す概略平面図である。半導体レーザ11は、光ピックアップ1が対応する(情報の読み取りや書き込みを行う)光ディスクDの種類によって、その種類が決まる。例えば、光ピックアップ1がBD対応であれば、半導体レーザ11としては、波長405nm帯のレーザ光を出射するものが使用される。
【0033】
半導体レーザ11から出射されたレーザ光は、回折格子12に送られる。回折格子12は、入射したレーザ光を主光と2つの副光とに分ける。このため、半導体レーザ11から出射されたレーザ光は3つの光に分けられて光ディスクDに至ることになる。本実施形態では、DPP法によるトラッキングエラー信号が得られるように、光ピックアップ1の光学系中に回折格子12が配置されている。なお、DPP法によってトラッキングエラー信号を得る方法は公知であるために、その説明は省略する。
【0034】
回折格子12から出射されたレーザ光は、偏光ビームスプリッタ13に送られる。偏光ビームスプリッタ13は、半導体レーザ11から出射されたS偏光(直線偏光の一例であり、これに限定される趣旨ではない)を反射する。偏光ビームスプリッタ13で反射されたレーザ光は、1/4波長板14で円偏光に変換される。1/4波長板14から出射されるレーザ光は、コリメートレンズ15を透過後、立ち上げミラー16で反射される。立ち上げミラー16で反射されたレーザ光は、立ち上げミラー16の上方にある対物レンズ17へと至る。対物レンズ17は、入射したレーザ光を光ディスクDの情報記録面RSに集光する機能を有する。
【0035】
対物レンズ17によって情報記録面RSに集光された後、情報記録面RSで反射された反射光(戻り光)は、対物レンズ17を通過後、立ち上げミラー16で反射される。そして、戻り光は、コリメートレンズ15を通過し、1/4波長板14でP偏光に変換されて偏光ビームスプリッタ13を透過する。偏光ビームスプリッタ13を通過した戻り光は、シリンドリカル面を含むセンサーレンズ18を通過後、光検出器19へと集光される。
【0036】
センサーレンズ18にシリンドリカル面を設けて非点収差が与えられるように構成しているのは、非点収差法を用いてフォーカスエラー信号を生成できるようにするためである。また、光検出器19は、受光した光信号を電気信号に変換する光電変換手段として機能する。光検出器19から出力された電気信号は、図示しない信号処理部に送られ、信号処理部において、再生信号、フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号等に変換される。フォーカスエラー信号は上述のフォーカシング制御を行うために使用され、トラッキングエラー信号は上述のトラッキング制御を行うために使用される。
【0037】
なお、半導体レーザ11、回折格子12、偏光ビームスプリッタ13、1/4波長板14、コリメートレンズ15、立ち上げミラー16、センサーレンズ18、及び、光検出器19は、ピックアップベース10上に搭載される。また、対物レンズ17は、対物レンズアクチュエータ20のレンズホルダ20aに搭載されて、ピックアップベース10の上に配置される。
【0038】
また、コリメートレンズ15は、光軸方向M(図2の左右方向)に移動可能となっており、その位置はレイヤージャンプ等に応じて適宜移動される。これにより、光ピックアップ1においては、球面収差の影響が適切に抑制される。
【0039】
ピックアップベース10に搭載される回折格子12は、ピックアップベース10に固定される前に回転調整され、光ディスクDSに形成される光スポットの位置が所望の位置になった状態でピックアップベース10に固定される。本実施形態の光ピックアップ1は、この回折格子12の調整構造に特徴を有する。以下、この特徴点(特徴的な構成)について説明する。
【0040】
なお、回折格子12は、本発明の回転調整される光学素子の一例である。また、ピックアップベース10は、本発明の「光学素子(本実施形態では回折格子12)が取り付けられる非回転側」の一例である。また、本実施形態では、回折格子12は、ホルダ(回折格子ホルダ;本発明の光学素子ホルダの一例)に保持された状態でピックアップベース10に搭載される。そして、回折格子12を保持した回折格子ホルダ(詳細は後述する)が、本発明の「回転調整される光学素子を含む回転側」の一例となる。
【0041】
図3は、本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す概略斜視図である。図4は、本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す正面図で、回折格子が取り付けられた状態を示す図である。図5は、本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す概略側面図である。
【0042】
光ピックアップ1が備える回折格子ホルダ30は板金を加工してなる。図3に示すように、回折格子ホルダ30は、回折格子12が搭載される搭載面31と、板金の折り返しによって得られ、搭載面31に搭載された回折格子12の位置決めに使用される位置決め壁32と、位置決め壁32を得るための折り返しとは異なる折り返しによって得られるバネ部33と、を備える。
【0043】
図4に示すように、搭載面31に搭載される回折格子12は、平面視略平行四辺形状の四角柱となっている。回折格子12は、例えばガラスで形成され、略平行四辺形をなす2つの面の一方側に回折パターンが形成されている。回折格子12は、4つの側面のうち、隣り合う2つの側面が位置決め壁32に当接された状態で、回折格子ホルダ30に位置決め保持される。
【0044】
回折格子ホルダ30には、図3及び図4に示すように、搭載面31に搭載された回折格子12の角を保護する等の目的で、平面視略半円状の空間である逃げ部34が2つ形成されている。搭載面31に搭載された回折格子12の固定は、例えば接着剤等を用いて行われる。回折格子12を接着固定する際の接着箇所は特に限定されるものではないが、例えば、回折格子12の対向する2つの角部12a、12b近傍が接着箇所として使用される。
【0045】
なお、回折格子ホルダ30には、搭載面31に搭載された回折格子12への光の入射と、回折格子12からの光の出射とが可能となるように、貫通孔35、36が設けられている(図3参照)。
【0046】
また、図5に示される(図3及び図4にも示される)ように、回折格子ホルダ30には、バネ部33が必要以上に曲げられて塑性変形を起こさないように、塑性変形防止リブ37が形成されている。この塑性変形防止リブ37がないと、例えば、回折格子ホルダ30をピックアップベース10に取り付ける際や、ピックアップベース10に取り付けられた回折格子ホルダ30が取り外される際(リワーク時)などに、バネ部33に大きな力が加わり、バネ部33が塑性変形を起こすことがある。
【0047】
この点、本実施形態の回折格子ホルダ30のように、バネ部33に向かって突出する塑性変形防止リブ37が設けられていると、バネ部33が一定範囲を超えて曲がるのを防止できるために、バネ部33の塑性変形を防止できる。なお、塑性変形防止リブ37が設けられる位置や、塑性変形防止リブ37の数は、本実施形態の構成に限らず、適宜変更して構わない。
【0048】
また、回折格子ホルダ30には、回折格子12の回転調整を行う際に、先端が回転中心として使用される略V字状の凸部40と、凸部40と対向する一端部に設けられ、調整治具(回転調整用の治具)と係合する略V字状の治具用係合部(切り欠き)41と、が設けられる(図3及び図4参照)。回折格子ホルダ30の略V字状の凸部40は、本発明の「回転側に含まれる先細りした先端部」の一例である。また、回折格子ホルダ30の治具用係合部41は、本発明の「回転側に含まれる、先端部と反対側の端部に設けられて調整治具が接触される接触部」の一例である。
【0049】
また、回折格子ホルダ30には、回折格子12の回転調整が行われる際に、その(回折格子ホルダ30)の回転量を規制するストッパー部38と、回折格子ホルダ30をピンセット等で掴みやすくする等の目的でバネ部33に形成される持ち手部39と、が設けられる(図3から図5参照)。
【0050】
図6は、本実施形態の光ピックアップが備える回折格子ホルダの構成を示す展開図である。図6において、破線は山折りを行う箇所を示し、一点鎖線は谷折りを行う箇所を示す。図6に示すように、回折格子ホルダ30を構成する板金は、第1の部分P1と、第2の部分P2と、第3の部分P3と、を有する。
【0051】
第1の部分P1は平面視略五角形状に形成され、この第1の部分P1に回折格子12が搭載される。すなわち、第1の部分P1は、回折格子12を搭載する搭載面31を有する。この第1の部分P1には、上述した、平面視略円形状の貫通孔35と、ストッパー部38と、略V字状の凸部40と、治具用係合部41と、が形成される。なお、貫通孔35と治具用係合部41とは、板金の一部を切り欠くことによって得られる。
【0052】
第1の部分P1に繋がる第2の部分P2(外形は略長方形状である)は、谷折りされて(第1の部分P1に対して紙面手前側に折り返されて)第1の部分P1に接触した状態で重ねられる。第2の部分P2は、主に外周側を除いて多くの部分が切り欠かれている。そして、これにより、第2の部分P2を折り返して第1の部分P1に重ねることによって、板厚分の位置決め壁(段差)32(図3等参照)が形成されるとともに、第2の部分P2を折り返しているにもかかわらず、第1の部分P1に回折格子12が搭載されるようになっている。
【0053】
また、第2の部分P2には、上述の逃げ部34(図3等参照)を形成するための切り欠きも設けられている。また、第2の部分P2には、山折りする(紙面奥側に向けて折る)ことによって、上述の塑性変形防止リブ37となる部分が形成されている。
【0054】
第2の部分P2に繋がる第3の部分P3(外形は略長方形状である)は、山折りされて(谷折りされた第2の部分P2に対して紙面手前側に折り返されて)バネ部33を形成する。第3の部分P3は主に外周側を除いてほとんどの部分が切り欠かれており、第3の部分P3の折り返しにより、上述の貫通孔36が得られる。なお、この切り欠きの大きさは、光の通路を確保するためだけではなく、バネ部33の弾性力を調整する要素としても重要であり、この点も考慮して、切り欠きの大きさは決められている。
【0055】
また、詳細には、第3の部分P3は、前述の折り返し位置から離れた位置で弾性力の調整等を目的として若干曲げられている。また、第3の部分P3には、谷折りする(紙面手前側に向けて折る)ことによって、上述の持ち手部39となる部分が形成されている。
【0056】
次に、ピックアップベース10の、回折格子ホルダ30が取り付けられる取付部50の構成について、図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、本実施形態の光ピックアップにおける、回折格子ホルダが取り付けられる取付部の構成を示す概略斜視図である。図7には、破線矢印方向に向けて収容される回折格子ホルダ30(回折格子12を保持する)も併せて示している。図8は、図7に示す取付部に回折格子ホルダが収容された状態を示す概略斜視図である。
【0057】
取付部50には、回折格子ホルダ30の搭載面31の裏面(第1の部分P1の回折格子12が搭載される面の裏面)に当接する第1の壁部51と、回折格子ホルダ30のバネ部33(第3の部分P3)に当接する第2の壁部52と、が形成されている。第1の壁部51には、半導体レーザ11(図7及び図8には図示せず;図2参照)から光が通過できるように光路孔51aが形成されている。第2の壁部52には、回折格子12から出射する光が偏光ビームスプリッタ13(図7及び図8には図示せず;図2参照)に至るように、平面視略U字状の切り欠き52aが形成されている。第1の壁部51と第2の壁部52とは、取付部50に回折格子ホルダ30が収容された状態で、回折格子12の光軸方向に対向するように配置されている。
【0058】
また、第1の壁部51の上部には、接着剤を充填する接着剤充填部53が設けられている。また、取付部50の底面には、第1の壁部51と第2の壁部52とを結ぶ方向へと延びる断面視略V字状の溝部54が形成されている。なお、溝部54が延びる方向は、回折格子12を通過する光の進行方向(回折格子12の光軸方向)と略平行な方向である。この溝部54は、本発明の「非回転体側に含まれて、先端部(略V字状の凸部40)と係合する凹部」の一例である。
【0059】
取付部50に回折格子ホルダ30を取り付ける際には、バネ部33を弾性変形させて回折格子ホルダ30の厚みを小さくする。なお、この際、バネ部33は塑性変形防止リブ37の存在により、厚みを小さくする方向に所定の量以上曲げられることがないので、取り付け時に回折格子ホルダ30が塑性変形する可能性は低い。
【0060】
厚みを小さくされた回折格子ホルダ30は、図7の破線矢印方向に降ろされて取付部50内に収容される。この際、回折格子ホルダ30の略V字状の凸部40の先端が、溝部54の最深部(V字の先端)に係合するように、回折格子ホルダ30は取付部50に収容される。取付部50に収容後は、回折格子ホルダ30は、バネ部33の弾性力によって第1の壁部51及び第2の壁部52の押し付けられた状態となる。
【0061】
なお、上述のように、回折格子12は、光ディスクDの情報記録面RS上に形成される3つの光スポットの位置が狙いの位置となるように、回転調整される必要がある。このために、バネ部33は、回折格子ホルダ30が取付部50から容易に外れることがないという条件とともに、回折格子ホルダ30の回転による回折格子12の回転調整ができるという条件を満たすように、その弾性力が調整されている。
【0062】
この回転調整は、光ピックアップ1の組み立て作業の最終段階に行われる。具体的には、ピックアップベース10に光学部品12〜18、半導体レーザ11、光検出器19を取り付けて、主光を用いて光検出器19の位置調整を行った後に、副光が狙いの位置となるように回折格子ホルダ30を回転して回折格子12の回転調整が行われる。
【0063】
ここで、本実施形態の回折格子12(光学素子)の調整構造を用いた回転調整と、その効果と、について図9を参照して説明する。なお、図9は、本実施形態の光ピックアップにおける、回折格子ホルダ(回転側の一例)と取付部の溝部(非回転側の凹部)との関係を示した模式図である。
【0064】
図9に示すように、回折格子12の回転調整を行う際には、調整治具(調整ピン)60を回折格子ホルダ30の治具用係合部41に係合(接触)させる。そして、光スポットの位置が所定の位置となるように、調整治具60を用いて、回折格子ホルダ30を、V字状の凸部40の先端が支点となるようにして回転させる(図9の左右方向に調整ピン60を動かす)。なお、本実施形態では、この支点が回転中心になる。
【0065】
回折格子ホルダ30がV字状の凸部40の先端を支点として回転できるように、取付部50の溝部54のV字形状は、回折格子ホルダ40の凸部40の傾斜よりもなだらかとなっている。また、回折格子ホルダ30の側面部に設けられるストッパー部38の存在により、回折格子ホルダ30は必要以上に回転されることがない。
【0066】
回折格子ホルダ30は、回折格子12の回転調整が終了すると、調整された位置から動かないようにピックアップベース10に固着される。例えば、回転調整を行う段階で紫外線硬化型の接着剤(UV接着剤)55(図8参照)を接着剤充填部53に入れておき、回転調整が済んだ段階で紫外線を照射して固着するといった方法で、回折格子ホルダ30のピックアップベース10への固着が行われる。
【0067】
なお、回折格子ホルダ30に設けられる持ち手部39は、回折格子ホルダ30が取付部50に収容された状態で第2の壁部52に形成される平面視略U字状の切り欠き52a内へと突出している(図8参照)。このため、この持ち手部39を回折格子ホルダ30の回転量を規制するストッパーとして機能させることができる。すなわち、場合によっては、ストッパー部38に代えて持ち手部39をストッパー部としてもよい。
【0068】
本実施形態の回折格子12の調整構造では、調整ピン60が回折格子ホルダ30に接触する接触部(治具用係合部41)と、回転中心(V字状の凸部40の先端)との距離が長くなる(この比較対象として、例えば図12に示す従来の構成が挙げられる)。このために、本実施形態の回折格子12の調整構造によれば、調整ピン60の左右への移動量に対する回折格子12の角度変化を小さくでき、調整ピン60を用いた回転調整の調整精度の向上を図れる。
【0069】
また、本実施形態の回折格子12の調整構造では、回折格子ホルダ30がピックアップベース10(取付部50)に接着固定された後においては、回折格子ホルダ30は、接着箇所(治具用係合部41近傍)とV字状の凸部40の先端とがピックアップベース10に対して固定された状態となる。そして、V字状の凸部40の先端は、V字状の溝部54の最深部と接触した状態となっている。このために、回折格子12周辺で温度変化が生じた場合や、光ピックアップ1に衝撃が加えられた場合等においても、回折格子ホルダ30が位置ずれを起こす可能性が低い。
【0070】
すなわち、本実施形態の回折格子12の調整構造を採用した光ピックアップ1は、非常に信頼性の高いものとなる。その他、本実施形態においては、回折格子ホルダ30が板金を用いて構成されている。このために、回折格子ホルダを樹脂で形成する場合のように、別途スプリングを容易する必要がなく、低コスト化を図り易い。また、板金の折り返しによってできる板厚分の段差を位置決め壁32として利用する構成となっている。このために、回折格子12を回折格子ホルダ30に搭載する作業が容易である。また、本実施形態の回折格子ホルダ30は板金の加工で容易に得られ、更に、それが取り付けられる取付部50の構成も簡単な構成とできる。
【0071】
以上に示した実施形態は本発明の一例であり、本発明の光学素子の調整構造及び光ピックアップは以上に示した構成に限定されるものではない。
【0072】
例えば、以上に示した実施形態では、回転側(回折格子ホルダ30)の先細りした先端部がV字状の凸部40である構成とした。しかし、本発明は、この構成に限定される趣旨ではなく、例えば、先細りした先端部の先端が尖っておらず、丸みを帯びている構成等であっても構わない。ただし、丸みを帯びた部分があまり大きくなりすぎると、調整ピン60が接触する接触部(治具用係合部41)と回転中心との距離が短くなるので、先細りした先端部の先端はなるべく尖がっているのが好ましい。また、非回転側(ピックアップベース10)の凹部(溝部54)の形状もV字状に限定される趣旨ではなく、場合によっては丸みを帯びたもの等であっても構わない。
【0073】
また、以上に示した実施形態では、回転調整される回折格子12を含む回転側が、回折格子12を保持する回折格子ホルダ30である構成とした。しかし、本発明の適用範囲は、この構成に限定されるものではない。すなわち、回転調整される回折格子そのものが本発明の回転側を構成するものであったり、回転調整される回折格子がホルダと一体的に設けられたものが本発明の回転側を構成するものであったりしてもよい。この場合には、回折格子やホルダと一体型の回折格子は、スプリングでピックアップベース10に仮固定された状態で、回転調整されるようにしてもよい。
【0074】
また、以上に示した実施形態では、回折格子ホルダ30に形成される治具用係合部41が略V字状とされたが、治具用係合部41の形状は、調整治具の形状に合わせて適宜変更可能である。
【0075】
また、以上に示した実施形態では、回折格子ホルダ30が、塑性変形防止リブ37、ストッパー部38、及び、持ち手部39を有する構成とした。しかしながら、これらのうちの少なくとも1つが無い構成も本発明に含まれる。
【0076】
また、以上に示した実施形態では、本発明の光学素子の調整構造が、回折格子の調整構造であることとした。しかし、本発明の光学素子の調整構造は、回折格子以外の、回転調整が必要な光学素子の調整構造として広く適用できるものである。また、本発明の光学素子の調整構造が適用される対象は、光ピックアップに限定されず、他の光学装置であってもよいのは当然である。更に、本発明の光学素子の調整構造が適用される光ピックアップは、本実施形態の構成とは異なり、複数種類の光ディスクに対応するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の光学素子の調整構造は、回転調整が必要な光学素子に対して好適であり、例えば、光ピックアップに備えられる回折格子の調整構造として好適である。
【符号の説明】
【0078】
1 光ピックアップ
10 ピックアップベース(非回転側)
12 回折格子(光学素子)
30 回折格子ホルダ(回転側、光学素子ホルダ)
33 バネ部
40 凸部(先細りした先端部)
41 治具用係合部(接触部)
51 第1の壁部
52 第2の壁部
54 溝部(凹部)
60 調整ピン(調整治具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転調整される光学素子を含む回転側と、前記光学素子が取り付けられる非回転側と、を備える光学素子の調整構造であって、
前記回転側には、先細りした先端部と、前記先端部と反対側の端部に設けられて調整治具が接触される接触部と、が含まれ、
前記非回転側には、前記先端部と係合する凹部が含まれ、
前記先端部を前記凹部に係合させるとともに前記接触部に調整治具を接触させ、前記調整治具を動かすことによって前記先端部を支点として前記回転側を回転させて、前記光学素子の回転調整を行う、光学素子の調整構造。
【請求項2】
前記先端部及び前記凹部が略V字形状である、請求項1に記載の光学素子の調整構造。
【請求項3】
前記回転側においては前記光学素子が光学素子ホルダに保持されており、前記光学素子ホルダを介して前記光学素子が前記非回転側に取り付けられ、前記光学素子ホルダを回転させて前記光学素子の回転調整が行われる、請求項1又は2に記載の光学素子の調整構造。
【請求項4】
前記光学素子ホルダはバネ部を有し、
前記非回転側には、前記光学素子の光軸方向に対向する2つの壁部が含まれ、
前記バネ部によって前記光学素子ホルダが前記2つの壁部に押し付けられた状態で、前記光学素子の回転調整が行われる、請求項3に記載の光学素子の調整構造。
【請求項5】
前記光学素子ホルダは板金を加工してなる、請求項4に記載の光学素子の調整構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の光学素子の調整構造を備える光ピックアップ。
【請求項7】
前記光学素子が回折格子である、請求項6に記載の光ピックアップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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