説明

光学素子及び光学機器

【課題】 入射する光の角度の違いにより透過率特性が変化しにくく、また、基板との貼り合わせ構成を必要とせずに厚みの薄い光学薄膜が成膜された光学素子及び光学機器を提供すること。
【解決手段】 基板22と該基板22の面上に複数の層が形成された光学薄膜21とを有する光学素子20であって、前記光学薄膜21が、前記基板よりも屈折率が低い材料からなる低屈折率層と、少なくとも1層が酸化物を主成分とした材料からなるとともに前記低屈折率層よりも屈折率が高い高屈折率層とを備え、前記低屈折率層と前記高屈折率層とからなる前記光学薄膜21の少なくとも1層にCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの少なくとも1種類の金属イオンを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に光を吸収する光学薄膜を成膜した光学素子及びこれを備えた光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ、顕微鏡、内視鏡などの光学機器に内蔵されたCCD(Charge Coupled Device)等の固体撮像素子は、光(映像)を電気信号に変換するシリコン半導体デバイスであり、このシリコン半導体デバイスは近赤外線(IR)に感度を持っているため、可視光以外に近赤外線も映像として取り込んでしまう。このため、レンズ群で取り込んだ可視光だけの光(映像)をCCDにて電気信号に変換するように、CCDとレンズ群との間には近赤外光線カットフィルタを介している。このIRカットフィルタの分光透過率特性は、デジタルカメラ等のCCDを介して得られた映像の色再現性を決める際に重要な要素をもっている。
【0003】
IRカットフィルタのタイプとしては、ガラス中の成分により光吸収を利用してIRをカットするガラスタイプと、光の干渉を利用した反射により、IRをカットするコーティングタイプとがある。さらに、これらガラスタイプとコーティングタイプとの両者を併用したIRカットフィルタ(光線カットフィルタ)が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
まず、IRカットフィルタのガラスタイプは、銅イオン等を含んだガラスを使用しており、これらガラス中に溶け込んだ金属イオンが赤外線(不要な光)を吸収し、可視光(必要な光)を透過させている。また、ガラスタイプのIRカットフィルタは、光の入射角に対する分光透過率特性の影響をほとんど受けることがない。さらに、ガラスタイプのIRカットフィルタは、水晶複屈折板と貼り合わせして、光学ローパスフィルタとしての機能を持たせることにより、デジタルカメラ等の光学機器の構成の簡素化を図ることができる。
【0005】
一方、IRカットフィルタのコーティングは、一般に用いられている真空蒸着法やスパッタリング法などにより、水晶やニオブ酸リチウムの複屈折板を基板材とした光学ローパスフィルタ上へのTiO,Ta,Nb等の高屈折率材料と、SiO,MgF等の低屈折率材料とを交互に成膜した光学薄膜を使用している。このような光学薄膜により、光の干渉を利用して赤外線(不要な光)を反射させ、可視光(必要な光)を透過させている。
【0006】
IRカットフィルタのガラスタイプとコーティングタイプとを併用した場合、可視光を透過させ、IRカットフィルタの分光透過率特性が最も好ましいとされている人の目の感度特性に近い「可視光域から近赤外域にかけて緩やかに透過率が下降する特性」で、かつ、近赤外線をカットすることができる。
【特許文献1】特開2003−161831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、TiOとSiOとを交互に32層成膜する場合、図13に示すように32層成膜すると、このフィルタを通過する光の入射角が0度から30度へ大きくなるに伴い、近赤外線をカットする分光透過率特性が短波長側にシフトしてしまう。入射波長が620nmにおいて入射角が0度では、透過率が約97%であるのに対し、入射角30度では透過率が約38%と可視光域の一部をカットしてしまう。つまり、コーティングタイプのIRカットフィルタへ入射する光の角度の違いにより、デジタルカメラ等のCCDを介して得られた映像の色再現性が変化するという不具合がある。
【0008】
一方で、上述したIRカットフィルタのガラスタイプのフィルタ及び上記特許文献1に記載のようなIRカットフィルタのガラスタイプとコーティングタイプとを併用したタイプのフィルタでは、光学ローパスフィルタ機能を含ませるため、水晶複屈折板とIRカットフィルタとの貼り合わせ工程が必要となるので、コストアップしてしまう不具合がある。
また、コーティングタイプのIRカットフィルタと同等の分光透過率特性を得るためには、ガラスタイプのIRカットフィルタ自体の厚みが約1mm必要であるので、スペース的に制約があるデジタルカメラ等の光学機器が厚くなってしまうという問題もある。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、入射する光の角度の違いにより透過率特性が変化しにくく、また、基板との貼り合わせ構成を必要とせずに厚みの薄い光学薄膜が成膜された光学素子及び光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の光学素子は、基板と該基板の面上に複数の層が形成された光学薄膜とを有する光学素子であって、前記光学薄膜が、前記基板よりも屈折率が低い材料からなる低屈折率層と、少なくとも1層が酸化物を主成分とした材料からなるとともに前記低屈折率層よりも屈折率が高い高屈折率層とを備え、前記低屈折率層と前記高屈折率層とからなる前記光学薄膜の少なくとも1層にCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの少なくとも1種類の金属イオンを含むことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、金属イオンは吸収する光の波長が決まっているため、吸収させたい波長の金属イオンを含ませた材料を成膜することにより、光の入射角度変化に対して吸収する波長が変わることがない。したがって、光学薄膜にCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの少なくとも1種類を混入させると、分光透過率特性が入射角度変化に対して変化しにくくなる。具体的には、ガラスタイプのIRカットフィルタには、近赤外線を選択的に吸収するように燐酸塩系ガラスにCuOが添加されている。このガラス中で多数の酸素イオンに配位されている銅イオンが、約520nmより長波長側の可視光と近赤外線を選択的に吸収する。Cu以外にもFe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Ni等の金属イオンは、ガラス中で多数の酸素イオンに配位されて特定の光を選択的に吸収する類似の性質を持つ。大きく3つに分けると、可視光のうち、Au,Ag及びMnは約460nm〜700nmの波長の光を、Cu,Cr及びFeは約520nm〜700nmの波長の光を、Co及びNiは約580nm〜700nmの波長の光を、それぞれ主に選択的に吸収する。つまり、金属イオンを含ませた材料を成膜することにより、分光透過率特性等の光学特性が依存しないコーティングタイプのみで赤外線をカットするフィルタを成す光学薄膜が成膜された光学素子を得ることができる。なお、光学薄膜中に含まれるCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niからなる金属イオンの含有率が0.5%未満ではその効果が十分ではない。したがって、1%以上望ましくは2%以上混入させる方が好ましい。また、30%を超えると可視光域の必要な光の透過率の一部を低下させてしまうおそれもある。
【0012】
また、本発明の光学素子は、基板と該基板の面上に形成された光学薄膜とを有する光学素子であって、前記光学薄膜がSiOまたはMgFを主成分とする材料からなる第1の層と、Ta,Nb,Ti,W,Zr,Hf,Ce,La,Biの少なくとも1種類とCuとOとからなる第2の層とを備え、前記光学薄膜を構成する層のうち前記基板から最も離間した位置に形成された層が第1の層であることを特徴とする。
【0013】
この発明では、Cuを含む酸化物層を用いることにより、Cuが約520nm〜700nmの波長の光を吸収する際、可視光域から近赤外線域にかけて分光透過率特性が緩やかに減衰することになる。ところで、低屈折率層であるSiOまたはMgFを主成分とする層にCuを含む酸化物を混入させると、屈折率が上昇し、低屈折率層と高屈折率層とを有する光学薄膜においては、必要な分光透過率特性を得るために必要な光学薄膜の層数が増加してしまう。そのため、Ta,Nb,Ti,W,Zr,Hf,Ce,La,Biの少なくとも1種類、または、これらの酸化物からなる高屈折率層に、Cuを含む酸化物を混入させることにより、高屈折率層としてCuを含む酸化物層として基板上に成膜する。
この結果、基板上にTa,Nb,Ti,W,Zr,Hf,Ce,La,Biの少なくとも1種類とCuとOとからなる層を高屈折率層と、SiOまたはMgFを主成分とする低屈折率層とを積層することで、所望の分光透過率特性を有する光学薄膜を形成することができる。なお、光学薄膜中に中間屈折率層を含めたり、Cuを含まない高屈折率層を含めることは設計上適宜実施することができる。また、光学薄膜中に含まれるCuからなる金属イオンの含有率が0.5%未満ではその効果が十分ではなく、30%を超えると可視光域での透過率をも低下させてしまうおそれがある。
なお、基板から最も離間した位置に、SiOまたはMgFを主成分とする材料からなる第1の層を設けると、この層は化学的に安定していることから、長期間経過しても該層表面での光散乱等の発生が少ないものとなっており、また、機械的強度が優れているので、層表面に傷が付きにくいものとなる。
【0014】
また、本発明の光学素子は、前記光学薄膜が、可視光を透過させるとともに、近赤外線の一部を吸収し、前記吸収された前記近赤外線以外の近赤外線を反射する近赤外線カットフィルタであることを特徴とする。
この発明では、基板上に上述した光学薄膜を形成することにより、Cu等の吸収を利用して、赤外線カットフィルタとなる光学薄膜を形成することができる。また、Cu等の吸収特性を利用しているので、角度を変えて光を入射させた際の分光透過率特性がほとんど変化しない。このことを利用して、入射光の入射角度が変化するレンズ面上へ直接多層膜を成膜することで、レンズ面上に近赤外線カットフィルタを形成することも可能になる。
【0015】
また、本発明の光学素子は、前記光学薄膜が、紫外線の一部を吸収し、前記吸収された前記紫外線以外の紫外線を反射する紫外線カットフィルタの機能を有する透過率特性をもつことを特徴とする。
この発明では、Pb,Ti,Bi,Ce,Wの少なくとも1種類の金属イオンを含む酸化物層を光学薄膜に用いることにより、紫外線を選択的に吸収することができる。また、基板上に数十層の紫外線カットフィルタを成膜することにより、紫外線を選択的に反射することができる。さらに、420nm付近以下の紫外線について、人間の目の感度は、420nm付近ではほとんど感度がないのに対し、CCDは、350nm付近から420nm付近でも感度をもっている。また、CCDで受光して電気信号に変換し、人間の目の感度特性に近い透過率特性となるように画像処理していたが、CCDに入る光線を調整することにより、青色のカラーバランス調整をする画像処理を簡略化することができる。
【0016】
また、本発明の光学素子は、前記光学薄膜が、前記基板側からの前記光学薄膜の1層目に前記基板と略等しい屈折率を有する等屈折率層を備え、少なくとも前記等屈折率層にCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの少なくとも1種類の金属イオンが含まれることを特徴とする。
この発明では、基板から1層目に成膜された等屈折率層の膜厚を、必要な吸収量に応じて設定することにより、不要光を吸収する光学薄膜を備えた光学素子ができる。特に、近赤外線を吸収するように設定することにより、デジタルカメラで使用されている近赤外線吸収ガラスとして使用することも可能となる。また、この近赤外線吸収ガラスの厚さが約1mmに対し、光学薄膜では数μm程度で良いので、厚さを薄くすることができる。さらに、等屈折率層の上に反射防止膜を成膜した光学素子は、透過率特性を良くすることができる。また、等屈折率層の上に多層の光学薄膜を成膜した光学素子は、この光学薄膜の干渉により不要光を反射してカットしていた領域を、等屈折率層の吸収により不要光を吸収してカットするように調整ができるので、膜層数を減らすことができる。さらに、干渉により不要光をカットすると入射角に対する透過率特性が変化してしまうが、吸収により不要光をカットすると入射角に対する透過率特性がほとんど変化しないので、本光学素子は、角度特性も小さくすることが可能となる。
【0017】
また、本発明の光学素子は、前記基板が水晶であることを特徴とする。
この発明では、水晶基板上に近赤外線カットフィルタや紫外線カットフィルタの光学薄膜を形成することにより、デジタルカメラのモワレ防止をすることができ、さらに、CCDのカラーバランス調整を簡略化することも可能となる。また、光学薄膜が形成された水晶基板、もしくは複数の水晶基板同士を貼り合わせた光学素子は、デジタルカメラに使用される光学ローパスフィルタとして使用することも可能となる。
【0018】
本発明の光学機器は、上記の光学素子を備えていることを特徴とする。
この発明では、光学機器に従来使用されていた近赤外線吸収ガラスを省くことができ、デジタルカメラ等の光学機器をより小型化することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては以下の効果を奏する。
本発明に係る光学素子及び光学機器によれば、基板上へ光学薄膜を成膜した際、光を吸収する光学薄膜を成膜することが可能になり、入射角特性の影響をほとんど受けない分光透過率特性を有する光学素子及び光学機器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の第1実施形態について、図1から図8を参照して説明する。
本実施形態に係る光学素子20は、図1に示すような、光学薄膜成膜装置1により光学薄膜が成膜されてなるものである。
この光学薄膜成膜装置1は、図1及び図2に示すように、真空槽2内に配設され製品となる基板22上に光学薄膜21を成膜する装置であって、基板22に対向して真空槽2の底部側でかつ中心軸線から偏った位置に配設された二つの蒸着源3,4と、真空槽2の上方側のほぼ中央位置で一枚の基板22を保持して蒸着源3,4上と傾斜した状態で対向する基板保持部5と、蒸着源3,4のそれぞれの直上に配され蒸着源3,4と基板保持部5との間を遮蔽可能なシャッター6,7と、基板22に成膜された光学薄膜21の光学特性値を計測する特性計測手段(不図示)と、膜厚制御を行う膜厚制御システム(不図示)と、蒸着源3,4の間でかつ光学薄膜21が成膜される基板22に向けられて、この基板22上の光学薄膜21に金属元素を注入するイオンガン8と、金属元素を注入時にイオンガン8上方でイオンガン8と基板22に成膜される光学薄膜21との間にガス導入可能なガス導入管9とを備えている。
【0021】
また、基板22はOHARA製S−BSL7のガラスを使用しており、この基板22は、真空槽2の上部側に該基板22に対し予め成膜された5層の反射防止膜23が位置するように、基板保持部5に保持されるようになっている。また、金属元素の注入のために、Cu材料からなるプレート10がイオンガン8とガス導入管9との間に配置されている。
【0022】
シャッター6,7は、シャッター支持棒6a,7aにそれぞれ支持されており、シャッター6,7が蒸着源3,4の直上と、そこから外れた位置との間を移動することにより蒸着源3,4からの蒸発物質による基板22上へ各層の成膜開始、終了が行われ、各層の膜厚制御を行う。
【0023】
蒸着源3は高屈折率材料としてTaを使用し、蒸着源4は低屈折率材料としてSiOを使用する。
基板保持部5は、真空槽2の上部に配置された駆動モータ11とこの駆動モータ11に連結された不図示の駆動力伝達手段(ギア)と真空槽2内に延在した中空の支持軸12を介して真空槽2のほぼ中央位置で回転可能に支持されている。
基板保持部5上には、上下を貫通する孔5aが設けられ、孔5aに一枚の基板22が保持されている。
【0024】
なお、基板保持部5は一枚の基板22のみを保持して成膜構成としたが、一枚の基板22のみの基板保持部5に限定されるものではなく、多数の基板22を保持する半球型形状、平面型形状、半球型で段付きの形状、多数の平板または半球型を有する自公転形状を成すものであっても構わない。また、真空槽2内には、基板保持部5及び基板22を加熱するヒーター(図示略)も内蔵されている。
【0025】
次に、以上の構成からなる本実施形態の光学薄膜成膜装置1を用いて、図2に示すような、Cuを約2%含むTaで構成されている高屈折率酸化物材料からなる物質(高屈折率層)21aとCuを約2%含むSiOで構成されている低屈折率酸化物材料からなる物質(低屈折率層)21bとを、図3に示すような基準設計膜厚に基づいて交互に32層積層された多層の光学薄膜を形成する薄膜形成方法について説明する。
【0026】
まず、図2に示すように、基板22の一方の面に5層の反射防止膜23を真空蒸着法により、不図示の光学薄膜成膜装置を用いて基板22の温度を300℃にした状態で成膜した。このときの反射防止膜23の分光反射率特性が、図4に示すように、基板22の一方の面に波長400nm〜670nmで反射率0.7%以下、かつ、波長671nm〜700nmで反射率1.5%以下である反射防止膜23が基板22に形成された。
【0027】
次に、基板22の反射防止膜23が形成された面と対向する面上に、Ta膜とSiO膜とが交互に32層積層された光学薄膜21を成膜する場合について説明する。この積層された光学薄膜21は、光学フィルタとして用いられるものである。
まず、基板22上に成膜された反射防止膜23を設けた面と対向する面が、真空槽2の底部側を向くように基板22を基板保持部5の孔5aに取り付ける。次に、駆動モータ11を駆動させ、支持軸12に支持した基板22を回転させる。そして、基板保持部5をヒータで加熱して基板22の温度を200℃にした状態で、基板22上に光学薄膜21を成膜する成膜工程を行う。
【0028】
この成膜工程では、まず、蒸着源3,4の上方をシャッター6,7で覆い、蒸着法に基づき成膜準備を行う。そして、真空槽2内の圧力が1×10−3Paになった時点で、蒸着源3の上方を覆っていたシャッター6を蒸着源3の上方から移動させて、基板22に蒸着源3としてセットされた蒸着物質Taからなる高屈折率酸化物材料21aの光学薄膜の成膜を開始する。このとき、ガス導入管9よりOガスを導入して圧力を2.5×10−2Paに設定して、イオンガン8よりArイオンビームを基板22へ成膜中の高屈折率酸化物材料21a上に所定時間照射する。これにより、イオンガン8の上部に配置されたプレート10がエッチングされ、Cuの金属酸化物が高屈折率酸化物材料21a中に取り込まれながら成膜されていく。その後、Taの膜厚が基準設計膜厚115nmに到達した時点でシャッター6を蒸着源3の上方へ移動させて覆い、1層目の成膜が終了した。ここでCuが取り込まれる比率は、主に蒸着レートとイオンガンパワーとに依存するが、今回はそれぞれ3Å/sec.と600Wとで成膜を行い、約2%のCu含有率を得た。
【0029】
次に、蒸着源4の上方を覆っていたシャッター7を蒸着源4の上方から移動させて、基板22の1層目(Ta膜)の上に、蒸着源4としてセットされた蒸着物質SiOからなる低屈折率酸化物材料21bの光学薄膜の成膜を開始する。このとき、ガス導入管9よりOガスを導入して圧力を2.0×10−2Paに設定して、イオンガン8よりArイオンビームを基板22へ成膜中の低屈折率酸化物材料21b上に所定時間照射する。
これにより、イオンガン8の上部に配置されたプレート10がエッチングされ、Cuの金属酸化物が低屈折率酸化物材料21b中に取り込まれながら成膜されていく。その後、SiOの膜厚が基準設計膜厚155nmに到達した時点でシャッター7を蒸着源4の上方へ移動させて覆い、2層目の成膜が終了した。ここでCuが取り込まれる比率は、主に蒸着レートとイオンガンパワーとに依存するが、今回はそれぞれ7Å/sec.と600Wとで成膜を行い、約2%のCu含有率を得た。
さらに上記成膜工程を、図3に示すような各層の基準設計膜厚に到達するように繰り返し成膜を実施することで、32層に積層された多層の光学薄膜21が得られた。
【0030】
ここで、本第1実施形態の比較として、基板22上へCuを約2%含む場合と含まない場合とのTa単層屈折率層をλ/4(λ=500nm)成膜したときの波長400nm〜900nmにおける分光透過率特性を分光光度計(U−4000日立製作所)で測定し、その結果を図5に示す。この図から分かるように、550nm付近より長波長側ではCu吸収により、Cuを含まないλ/4成膜した場合と比べ、透過率特性が600nmで1%、700nmで2%、減衰するようなCuの金属イオンを含むTa単層屈折率層の光学特性を得ることができた。
【0031】
さらに、本第1実施形態の比較として、基板22上へCuを約2%含む場合と含まない場合とのSiO単層屈折率層をλ/4(λ=500nm)成膜したときの波長400nm〜900nmにおける分光透過率特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図6に示す。この図から分かるように、550nm付近より長波長側ではCu吸収により、Cuを含まないλ/4成膜した場合と比べ、透過率特性が600nmで1.5%、700nmで3%、減衰するようなCuの金属イオンを含むSiO単層屈折率層の光学特性を得ることができた。
【0032】
また、本実施形態により形成された光学素子20の波長400nm〜900nmにおける分光透過率特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図7に示す。Cuを含まないTaとSiOとにより形成された光学素子と、図3に示すような膜厚に到達するように32層を成膜した光学素子20とを比べると、550nm付近から長波長側でCuの金属イオンの吸収により、550nm〜700nmで緩やかに減衰する透過率特性、具体的には600nmで58%、700nmで0.5%の透過率特性を持つ光学素子20を得ることができた。
【0033】
さらに、光学素子20の波長400nm〜900nmにおける入射角0度のときと、入射角30度のときとの透過率の波長特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図8に示す。この図から分かるように、入射角0度と入射角30度とのときでは550nm〜700nmで緩やかに減衰する透過率特性はほとんど変化せず、450nm付近で多少の透過率特性のリップルが発生している程度であり、入射角に対してほとんど変化はしない分光透過率特性を得ることができた。
【0034】
本実施形態に係る光学素子20によれば、基板22上へ成膜された光学薄膜21中に含まれる金属元素Cuの光を吸収する性質を利用することで、可視光等の必要な光を透過させ、赤外線等の不要な光を吸収することができる。また、この発明によれば、入射角が変化しても分光透過率特性が受ける影響を抑えることが可能になり、光の入射角に分光透過率特性等の光学特性が依存しないコーティングタイプのみの赤外線カットフィルタを成す光学素子を得ることができる。さらに、透過率特性が最も好ましいとされている人の目の感度特性に近い可視域から近赤外域にかけて緩やかに透過率が下降する特性で、かつ、近赤外線を吸収してカットする赤外線カットフィルタを成す光学素子を得ることができる。
また、高屈折率酸化物材料21aと低屈折率酸化物質材料21bとを積層させることで、金属による光の吸収のみだけではなく、光学薄膜の光の干渉を利用した反射により不要な光をカットして、不透過帯域を広げることにも可能になる。
【0035】
次に、本発明に係る第2実施形態について、図2及び図9から図11を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る光学薄膜成膜装置1及び光学素子20と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係る光学素子30を形成する光学薄膜成膜装置において、第1実施形態と異なる点は、第2実施形態では、イオンガン8とガス導入可能なガス導入管9の間に備えられたプレート10が金属元素Cu材料ではなく金属元素Fe材料を使用している点と、Cuの金属イオンを含む高屈折率酸化物質材料21a及び低屈折率酸化物質材料21bではなく、図2に示すように、Feの金属イオンを約2%含む高屈折率酸化物材料(高屈折率層)31a及び低屈折率酸化物質材料(低屈折率層)31bからなる物質を使用している点とである。
【0036】
次に、以上の構成からなる本実施形態の光学薄膜成膜装置1を用いて、Feを約2%含むTaで構成されている高屈折率酸化物材料からなる物質31aとFeを約2%含むSiOで構成されている低屈折率酸化物材料からなる物質31bとを、図3に示すような基準設計膜厚に基づいて交互に32層積層された多層の光学薄膜を形成する薄膜形成方法について説明する。
【0037】
まず、第1実施形態と同様にして、基板22の一方の面に予め反射防止膜23を成膜した基板22を用いて、一方の面と対向する面上に成膜される高屈折率酸化物材料31a上に向けて所定時間イオンビームを照射する。これにより、イオンガン8の上部に配置されたプレート10がエッチングされ、Feの金属酸化物が高屈折率酸化物材料31a中に取り込まれながら成膜されていく。その後、Taの膜厚が基準設計膜厚115nmに到達した時点でシャッター6を蒸着源3の上方へ移動させて覆い、1層目の成膜が終了した。ここでFeが取り込まれる比率は、主に蒸着レートとイオンガンパワーとに依存するが、今回はそれぞれ3Å/sec.と600Wとで成膜を行い、約2%のFe含有率を得た。
【0038】
さらに、第1実施形態と同様に、低屈折率酸化物材料31b上に向けて所定時間イオンビームを照射する。これにより、イオンガン8の上部に配置されたプレート10がエッチングされ、Feの金属酸化物が低屈折率酸化物材料31b中に取り込まれながら成膜されていく。その後、SiOの膜厚が基準設計膜厚155nmに到達した時点でシャッター7を蒸着源4の上方へ移動させて覆い、2層目の成膜が終了した。ここでFeが取り込まれる比率は、主に蒸着レートとイオンガンパワーとに依存するが、今回はそれぞれ7Å/sec.と600Wとで成膜を行い、約2%のFe含有率を得た。
さらに上記成膜工程を、図3に示すような各層の基準設計膜厚に到達するように繰り返し成膜を実施することで、32層に積層された多層の光学薄膜31が得られた。
【0039】
ここで、本第2実施形態の比較として、基板22上へFeを約2%含む場合と含まない場合とのTa単層屈折率層をλ/4(λ=500nm)成膜したときの波長400nm〜900nmにおける分光透過率特性を分光光度計(U−4000日立製作所)で測定し、その結果を図9に示す。この図から分かるように、580nm付近より長波長側ではFe吸収により、Feを含まないλ/4成膜した場合と比べ、透過率特性が630nmで1%、730nmで2%、減衰するようなFeの金属イオンを含むTa単層屈折率層の光学特性を得ることができた。
【0040】
さらに、本第2実施形態の比較として、基板22上へFeを約2%含む場合と含まない場合とのSiO単層屈折率層をλ/4(λ=500nm)成膜したときの波長400nm〜900nmにおける分光透過率特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図10に示す。この図から分かるように、580nm付近より長波長側ではFe吸収により、Feを含まないλ/4成膜した場合と比べ、透過率特性が630nmで1.5%、730nmで3%、減衰するようなFeの金属イオンを含むSiO単層屈折率層の光学特性を得ることができた。
【0041】
また、本実施形態により形成された光学素子の波長400nm〜900nmにおける分光透過率特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図11に示す。Feを含まないTaとSiOとにより形成された光学薄膜と、図3に示すような膜厚に到達するように32層を成膜した場合とを比べると、580nm付近から長波長側でFeの金属イオンの吸収により、580nm〜730nmで緩やかに減衰する透過率特性、具体的には630nmで58%、730nmで0.5%の透過率特性を持つ光学素子30を得ることができた。
【0042】
本実施形態に係る光学素子30によれば、基板22上へ成膜された光学薄膜31中に含まれる金属元素Feの光を吸収する性質を利用することで、可視光等の必要な光を透過させ、赤外線等の不要な光を吸収することができる。
【0043】
次に、本発明に係る第3実施形態について、図12を参照して説明する。
本実施形態では、光学素子20をデジタルカメラ(光学機器)40に使用した場合について説明する。
デジタルカメラ40は、撮像モジュール41と、処理回路42と、撮像モジュール41による画像データを記憶するメモリカード43と、これらを電気的に接続する電機基板44とを備えている。
撮像モジュール41は、撮像レンズ45と、光学素子20と、マイクロレンズアレイ46と、固体撮像素子47とを備えている。撮像レンズ45で集光された光学像は、必要な光を透過し、不要な光を吸収するための光学薄膜21が成膜された光学素子20を介してマイクロレンズアレイ46により固体撮像素子47の各画素にそれぞれ集光されるようになっている。
【0044】
次に、以上の構成からなる本実施形態のデジタルカメラ40の使用方法について説明する。
撮像レンズ45に入射した光学像は、撮像レンズ41により集光され、光学素子20に入射する。ここで、撮像レンズ45に入射した光のうち、光学素子20の光学薄膜21の不透過帯域における光は吸収され、透過帯域における光だけが透過し、マイクロレンズアレイ46に入射する。このとき、吸収による光をカットする方法として、従来では吸収ガラスを使用していたが、上記第1実施形態及び第2実施形態で示すような光学薄膜21,31を使用することで、この吸収ガラスは不要になる。
【0045】
そして、マイクロレンズアレイ46により入射した光は固体撮像素子47の各画素にそれぞれ集光され、光学像が電気信号に変換された画像データとなる。この画像データは処理回路42によりディスプレイなどの表示装置(図示略)に表示されたり、メモリーカード43に記憶されたりする。
【0046】
本実施形態に係るデジタルカメラ40によれば、光を吸収する金属元素を含む光学薄膜へ光を入射させた際の分光透過率特性は、ほとんど変化しないので、デジタルカメラや小型モジュール等を光学設計する際の入射角に対する自由度が広がり、幅広い光学機器への適用が可能になる。
【0047】
次に、本発明に係る第4実施形態について、図14から図19を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上記実施形態において説明した構成要素には同一符号を付けて、その説明を省略することにする。
第4の実施形態の光学素子50cと第2の実施形態の光学素子30との構成で異なる点は、第4の実施形態に係る光学素子50cは、水晶からなる水晶基板51を備えており、水晶基板51の一方の面上に近赤外線カットフィルタである光学薄膜52が設けられ、この光学薄膜52は水晶基板51から1層目の等屈折率層61の屈折率と水晶基板51の屈折率とが略等しくなっている点である。さらに、水晶基板51の他方の面上に紫外線カットフィルタである光学薄膜53が設けられている点である。
【0048】
次に、以上の構成からなる本実施形態の光学素子50cを用いて、水晶基板51上の一方の面に光学薄膜52を形成する薄膜形成方法と、水晶基板51上の他方の面に光学薄膜53を形成する薄膜形成方法、およびこれらの薄膜評価結果について説明する。
まず、図14(a)に示す光学素子50aのように、水晶基板51の一方の面上に、スパッタリング法により、波長500nm時の屈折率が2.33であるNbと波長500nm時の屈折率が1.46であるSiOを9:91の比で混合すると、水晶基板51の屈折率と略等しい酸化物層が得られる。この酸化物層が、上述の等屈折率層61となる。ここで、NbまたはSiのそれぞれの酸化物ターゲットは、予め、FeとNbまたはSiとをそれぞれ重量比で2:98に混合したターゲットである。この水晶基板51と屈折率が略等しい等屈折率層61を厚さ5μm形成した。この光学素子50aの波長500nm時の屈折率は1.55である。400nmから900nmにおいて、この光学素子50aの分光透過率特性を分光光度計U―4000(日立製作所)で測定し、その結果を図17に実線で示す。ここで、本第4の実施形態の比較として、NbとSiの両方の酸化物ターゲット中にFeの金属イオンを含まない場合について成膜した光学素子の分光透過率特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図17に点線で示した。
この図14(a)の光学素子50aによれば、デジタルカメラに使用されているガラスタイプの赤外線カットフィルタの代わりに使用することができる。また、光学素子50aの入射角30°に対する分光透過率特性は図17の実線と略重なり、入射角特性変化がほとんどみられなかった。
【0049】
また、図14(b)に示す光学素子50bのように、等屈折率層61の上に、スパッタリング法により、図15に示すような各層の基準設計膜厚に到達するように、ターゲット中にFeの金属イオンを含まないNbとSiOとを交互に繰り返し16層積層することによって、光学薄膜52が形成される。ここでは、等屈折率層61の上に、高屈折率酸化物層52aであるNbを形成した後、低屈折率酸化物層52bであるSiOの順で形成している。この時の光学素子50bの分光透過率特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図18に示す。
この図14(b)に示すような光学素子50bによれば、700nmから900nmにおいて、近赤外線を充分にカットされた透過率特性を得ることできた。さらに、この50%位置での透過率特性は入射角に対する波長シフトがほとんどみられなかった。また、膜層数を大幅に削減することができた。
【0050】
さらに、図14(c)に示す光学素子50cのように、水晶基板51の他方の面上に、スパッタリング法により、図16に示すような各層の基準設計膜厚に到達するように、SiOとNbとを繰り返し11層積層することによって、光学薄膜53が形成される。ここでは、水晶基板51の他方の面上に、低屈折率酸化物層53bであるSiOを形成した後、高屈折率酸化物層53aであるNbの順で形成し、最表上層は低屈折率酸化物層53bであるSiOとしている。また、ここで使用したNbまたはSiのそれぞれの酸化物ターゲットは、予め、CeとNbまたはSiとをそれぞれ重量比で5:95に混合したターゲットである。この時の光学素子50cの分光透過率特性を分光光度計U−4000(日立製作所)で測定し、その結果を図19に実線で示す。
【0051】
この図14(c)に示すような光学素子50cによれば、人間の目の感度特性に近い分光透過率特性を得ることができるので、デジタルカメラのCCDカラーバランス調整を簡略化することが可能となる。さらに、水晶基板51は複屈折性をもつので、赤外線カットフィルタである光学薄膜52がついた水晶基板と別の水晶基板を貼り合わせしたり、水晶基板へ反射防止層を形成したりして、デジタルカメラのキーパーツである光学ローパスフィルタとして使用することも可能である。
【0052】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、第1実施形態及び第2実施形態では、イオンガン8とガス導入管9との間にプレート10として金属元素Cu材料及び金属元素Fe材料を使用したが、これに限らず、吸収する波長が異なるAu,Ag,Cr,Mn,Co,Niの少なくとも1種類の元素を含む金属材料のプレートを使用しても良い。さらに、高屈折酸化物材料21a,31aと低屈折酸化物材料21b,31bとを成膜すると同時に、不図示の抵抗過熱や蒸着源でCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの金属酸化物を成膜して金属イオンを光学薄膜21,31中に含ませて作製しても良い。
【0053】
また、Cu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの金属イオンを高屈折率酸化物材料21a,31aや低屈折酸化物材料21b,31bの中にあらかじめ含ませた材料を使用しても良い。また、光学薄膜21,31を作製する際に、イオンアシスト蒸着法による成膜を行ったが、これに限定されるものではなく、スパッタリング法、イオンプレーティング法、通常蒸着法であっても構わない。また、イオンビームはArの他にNやOまたはこれらの混合ガスでも良い。さらに、光学薄膜21,31へ金属元素を約2%含ませたが、イオンガン8の成膜条件や蒸着レートを制御することにより金属元素の量を多くなるように調整して、膜層数を減らすことが可能である。
【0054】
また、光学薄膜21,31の成膜中は、Oガスを導入しながらイオンガン8を用いてArイオンビームを基板22上の光学薄膜21,31へ照射して行ったが、プラズマガンを用いて行っても良い。さらに、光学薄膜21,31は、Ta及びSiOを用いたが、これに限らず、Nb、TiO、ZrO、Al、WO、SiO、HfO、CeOを使用しても良い。または、これら2種類以上の物質を混合させても良い。さらに、高屈折率酸化物材料21a,31aはすべて酸化物を含む構成としたが、高屈折率酸化物材料21a,31aのうち、少なくとも1層が酸化物を主成分とした材料からなるとともに低屈折率層よりも屈折率が高ければ良い。
【0055】
また、第3実施形態においては、光学素子20上へ光学薄膜21を成膜したが、この光学薄膜21の分光透過率特性は入射角変化に対してほとんど影響を受けないので、入射角が変化する撮像レンズ45上へ光学薄膜21を成膜することができるため、光学素子20を不要にすることも可能になる。また、デジタルカメラ40に光学素子20を用いて説明したが、Feの金属イオンを含む光学素子30であっても同様の効果が得られる。
【0056】
また、基板22としてレンズを使用し、1層目にCuO層を設け、その上にTiOとSiOとを交互に26層積層した光学薄膜としても良い。この場合、製造装置としては、膜原料となるターゲットとして3式設置したスパッタリング装置を使用した。スパッタリングターゲットとして、Cu,Ti,Siの3種類を設置した。第1層目を形成するにあたっては、Cuターゲットを用いて、ArガスとOガスを導入し、反応性スパッタリング法によりCuO膜を形成した。続いて、Tiターゲットを用いて同様に反応性スパッタリングを行い、TiO膜を形成した。さらに、その上にSiターゲットを用いて同様に反応性スパッタリングを行い、SiO膜を形成した。TiO膜とSiO膜とを交互に形成することにより、本発明の光学薄膜を得ることができる。この光学薄膜が形成されたレンズの分光透過率特性は、図7に示す値とほぼ同等であった。また、このレンズを光学素子として光学機器に組み込んで使用した場合に、レンズ面に対して入射角度が0度〜25度程度の光線が含まれるが、実使用上なんら問題は発生せずに、赤外線カットフィルタとして十分機能することが確認できた。
【0057】
また、基板22として平板ガラスを使用し、奇数層目にCuOとWOとの混合層(第2の層)を設け、MgF層(第1の層)と交互に32層積層した光学薄膜としても良い。この場合、膜原料となるターゲットとして2式設置したスパッタリング装置を使用した。スパッタリングターゲットとして、CuとWとを重量比で5:95に混合したターゲットとMgFとの2種類を設置した。第1層目を形成するにあたっては、CuとWとの混合酸化物ターゲットを用いて、ArガスとOガスを導入し、WとCuとOとからなる層を形成した。続いて、MgFターゲットを用いてMgF膜を形成した。そして、これらの層を交互に形成することにより、本発明の光学薄膜を得ることができる。この光学薄膜を形成したレンズの分光透過率特性は、図7に示す値とほぼ同等であった。また、入射角30度程度まではほとんど分光透過率特性は変化しなかった。なお、第2の層として、Wに代えて、Ta,Nb,Ti,Zr,Hf,Ce,Laの少なくとも1種類とCuとOとからなっていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光学薄膜成膜装置を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る光学素子を示す平面図である。
【図3】図2の光学素子の光学薄膜の基準設計膜厚値である。
【図4】図2の光学素子の反射防止膜の分光透過率特性である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る光学素子のCuを含む場合と含まない場合とのTa膜の分光透過率特性である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る光学素子のCuを含む場合と含まない場合とのSiO膜の分光透過率特性である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る光学素子のCuを含む場合と含まない場合との分光透過率特性である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る光学素子の入射角度変化による分光透過率特性である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る光学素子のCuを含む場合と含まない場合とのTa膜の分光透過率特性である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る光学素子のCuを含む場合と含まない場合とのSiO膜の分光透過率特性である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る光学素子のCuを含む場合と含まない場合との分光透過率特性である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る光学機器を示す平面図である。
【図13】従来例の光学素子の入射角度変化による分光透過率特性である。
【図14】本発明の第4実施形態に係る光学素子を示す図であって、(a)は水晶基板の一方の面上に1層目の層を設けた様子を示す平面図、(b)はその一層目の層に近赤外線カットフィルタである光学薄膜を設けた様子を示す平面図、(c)は一層目の層に近赤外線カットフィルタである光学薄膜を設け、水晶基板の他方の面上に紫外線カットフィルタである光学薄膜を設けた様子を示す平面図である。
【図15】図14の基板の一方の面に設けられた光学薄膜の基準設計膜厚値である。
【図16】図14の基板の他方の面に設けられた光学薄膜の基準設計膜厚値である。
【図17】図14(a)の光学素子のFeを含む場合と含まない場合との分光透過率特性である。
【図18】図14(b)の光学素子の分光透過率特性である。
【図19】図14(c)の光学素子の分光透過率特性である。
【符号の説明】
【0059】
20,30 光学素子 21,31 光学薄膜 21a,31a 高屈折率酸化物材料からなる物質(高屈折率層) 21b,31b 低屈折率酸化物材料からなる物質(低屈折率層) 22 基板 40 デジタルカメラ(光学機器) 61 等屈折率層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と該基板の面上に複数の層が形成された光学薄膜とを有する光学素子であって、
前記光学薄膜が、前記基板よりも屈折率が低い材料からなる低屈折率層と、
少なくとも1層が酸化物を主成分とした材料からなるとともに前記低屈折率層よりも屈折率が高い高屈折率層とを備え、
前記低屈折率層と前記高屈折率層とからなる前記光学薄膜の少なくとも1層にCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの少なくとも1種類の金属イオンを含むことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
基板と該基板の面上に形成された光学薄膜とを有する光学素子であって、
前記光学薄膜がSiOまたはMgFを主成分とする材料からなる第1の層と、
Ta,Nb,Ti,W,Zr,Hf,Ce,La,Biの少なくとも1種類とCuとOとからなる第2の層とを備え、
前記光学薄膜を構成する層のうち前記基板から最も離間した位置に形成された層が第1の層であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記光学薄膜が、可視光を透過させるとともに、近赤外線の一部を吸収し、前記吸収された前記近赤外線以外の近赤外線を反射する近赤外線カットフィルタであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記光学薄膜が、紫外線の一部を吸収し、前記吸収された前記紫外線以外の紫外線を反射する紫外線カットフィルタの機能を有する透過率特性をもつことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記光学薄膜が、前記基板側からの前記光学薄膜の1層目に前記基板と略等しい屈折率を有する等屈折率層を備え、
少なくとも前記等屈折率層にCu,Fe,Au,Ag,Cr,Mn,Co,Niの少なくとも1種類の金属イオンが含まれることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記基板が水晶であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の光学素子を備えていることを特徴とする光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−11408(P2006−11408A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146686(P2005−146686)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】