説明

光学素子

【課題】
部品点数を減少し、製造コストの増加や集光トレランスの悪化を抑制すると共に、光学部品の調整を簡素化した光学素子を提供すること。
【解決手段】
少なくとも2つの入力光(A,B)を偏波分離素子10に入力し、各入力光に対応した直交する偏波光からなる複数の出力光(a1,a2,b1,b2)を出力し、該出力光を、ビーム径を小さくすると共に、ビーム間隔を狭めた状態で受光素子40に入射させる光学素子において、該偏波分離素子10と受光素子40との間に、前記複数の出力光が略一点(E)で交差するよう光路変換する光路変換手段51と、各出力光のビーム径を絞る集光手段31とを一つの光学部品50に形成又は固定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子に関し、特に、複数の入力光を複屈折材料等の偏波分離素子に入射し、常光及び異常光等の直交した偏波光からなる出力光を受光素子に入射させるよう構成された光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
偏波直交多重多値変調方式(Dual Polarization
Differential Quadrature Phase Shift Keying,DP-QPSK)などのように、100Gbit/sを超える高速通信手段が提案されている。これらの光通信に使用される光受信器では、偏波分離した複数の出力光を、フォトダイオードなどの受光素子に入射させ、光信号を電気信号に変換(O/E変換)することが行われている。
【0003】
非特許文献1に示すように、従来のO/E変換部における光学結合系は、図1の平面光回路(Planar
Lightwave Circuit,PLC)1から出力された光波(点線)を2つのレンズアレイ2,4と90°に折り返すミラー(プリズム)3で、受光素子5に導入するよう構成されている。
【0004】
図1のような光学結合系では、部品点数が多く、光学部品の調整が煩雑化するため、製造コストの増加する原因となっていた。また、レンズアレイのピッチや交差の影響により、受光素子に集光するための集光トレランスも厳しい構成となっていた。
【0005】
これに対し、本出願人は、特許文献1において、図2に示すような空間光学系を有する新たな光学素子を提案した。具体的には、2つの入力光(A,B)を偏波分離素子である複屈折材料10に入力し、各入力光に対応する常光(a1,b1)及び異常光(a2,b2)からなる4つの出力光を出力し、該出力光を、ビーム径を小さくすると共に、ビーム間隔を狭めた状態で受光素子40に入射させる光学素子において、該複屈折材料10の出力端に、前記4つの出力光(a1,a2,b1,b2)が略一点(一点鎖線D)で交差するよう光路変換する光路変換手段20を配置し、前記交差した点と該受光素子40との間に、各出力光のビーム径を絞る集光手段30を設けることを特徴とする。
【0006】
光路変換手段20としては、図3に示すように、入射面21が複屈折材料の出射面と平行な面を有し、出射面が多面体22〜25で構成された一つの光学部品で構成されている。また、光路変換手段を構成する多面体22〜25の各面の角度θ1〜θ4を調整することで、受光素子40に入射するビーム間隔(ピッチ)を変更することが可能である。
【0007】
このような光学素子により、光学部品は、光路変換手段と集光手段の2つのみとなるため、部品点数を削減でき、光学部品の調整も簡素化できるため、製造コストの増加を抑制することが可能となる。また、受光素子に入射する4つの出力光を1つの集光手段で集光するため、従来のレンズアレイと異なり、集光トレランスを高めることも可能となる。
【0008】
しかしながら、図2の光学素子では、複屈折材料と光路変換手段20、集光手段30、及び受光素子40を精度良く位置決め・固定することが不可欠であるが、各光学部品を個別に位置決め調整する必要があるため、調整が複雑化するという問題を生じる。また、偏波分離素子として偏光ビームスプリッターを用いた空間光学系においても、同様の問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2011−70240号(2011年3月28日出願)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.Ohyama et al.,"All-in-one100-Gbit/s DP-QPSK Coherent Receiver using Novel PLC-based IntegrationStructure with Low-loss and Wide-tolerance Multi-channel Optical Coupling",15thOptoElectronics and Communications Conference(OECC2010)Technical Digest, July2010, Sapporo Convention Center, Japan
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、部品点数を減少し、製造コストの増加や集光トレランスの悪化を抑制すると共に、光学部品の調整を簡素化した光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、少なくとも2つの入力光を偏波分離素子に入力し、各入力光に対応した直交する偏波光からなる複数の出力光を出力し、該出力光を、ビーム径を小さくすると共に、ビーム間隔を狭めた状態で受光素子に入射させる光学素子において、該偏波分離素子と受光素子との間に、前記複数の出力光が略一点で交差するよう光路変換する光路変換手段と、各出力光のビーム径を絞る集光手段とを一つの光学部品に形成又は固定したことを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光学素子において、該光学部品は、該出力光が入射する面が、該光路変換手段を兼ねていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光学素子において、該光学部品に設けられた該光路変換手段と該集光手段との間には、該出力光を反射する反射手段が形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光学素子において、該集光手段は、一つのレンズであることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の光学素子において、筐体のベース面に、該偏波分離素子、該光学部品、及び該受光素子を配置固定することを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の光学素子において、該偏波分離素子は、複屈折材料又は偏光ビームスプリッターのいずれかを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明により、少なくとも2つの入力光を偏波分離素子に入力し、各入力光に対応した直交する偏波光からなる複数の出力光を出力し、該出力光を、ビーム径を小さくすると共に、ビーム間隔を狭めた状態で受光素子に入射させる光学素子において、該偏波分離素子と受光素子との間に、前記複数の出力光が略一点で交差するよう光路変換する光路変換手段と、各出力光のビーム径を絞る集光手段とを一つの光学部品に形成又は固定したため、光路変換手段と集光手段とを一つの光学部品として一体化できるため、光路変換手段と集光手段との位置調整も簡素化できる。これにより、製造コストの増加も抑制することが可能となる。また、受光素子に入射する複数の出力光を1つの集光手段で集光するため、従来のレンズアレイと異なり、特許文献1と同様に、集光トレランスを高めることも可能となる。
【0019】
請求項2に係る発明により、光学部品は、出力光が入射する面が、光路変換手段を兼ねているため、光路変換手段として別途光学部品を用意する必要が無く、光学部品の点数を削減でき、位置調整もより簡素化することが可能となる。
【0020】
請求項3に係る発明により、光学部品に設けられた光路変換手段と集光手段との間には、出力光を反射する反射手段が形成されているため、光路変換手段と集光手段と同様に、反射手段も同じ光学部品の中に一体的に組み込むことが可能となる。
【0021】
請求項4に係る発明により、集光手段は一つのレンズであるため、複数の出力光を1つの光学部品で集光することが可能となり、製造コストの増加を抑制し、光学素子全体の小型化にも寄与する。
【0022】
請求項5に係る発明により、筐体のベース面に、偏波分離素子、光学部品、及び受光素子を配置固定するため、これらの各光学部品を配置調整するだけで、簡単に光学素子を構成することが可能となる。
【0023】
請求項6に係る発明により、偏波分離素子は、複屈折材料又は偏光ビームスプリッターのいずれかを含むことができ、DP−QPSK方式等の受光素子のように、複屈折材料や偏光ビームスプリッターを用いた空間光学系、特に、偏波面が直交する複数の偏波光を平行に出射する光学系を有する光学素子には、本発明の構成を好適に適用することができ、その効果も高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】非特許文献1に開示された、従来の光学素子の概略を説明する図である。
【図2】特許文献1に開示された、光学素子の概略を説明する図である。(a)は平面図、(b)は側面図を示す。
【図3】図2の光学素子に使用される光路変換手段の概略を説明する図である。
【図4】本発明の光学素子の概略を説明する図である。(a)は平面図、(b)は側面図を示す。
【図5】本発明の光学素子の一つの複屈折材料を用いた例を説明する図である。
【図6】本発明の光学素子の偏光ビームスプリッターを用いた例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の光学素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、図4に示すように、少なくとも2つの入力光(A,B)を偏波分離素子10に入力し、各入力光に対応した直交する偏波光からなる複数の出力光(a1,a2,b1,b2)を出力し、該出力光を、ビーム径を小さくすると共に、ビーム間隔を狭めた状態で受光素子40に入射させる光学素子において、該偏波分離素子10と受光素子40との間に、前記複数の出力光が略一点(E)で交差するよう光路変換する光路変換手段51と、各出力光のビーム径を絞る集光手段31とを一つの光学部品50に形成又は固定したことを特徴とする。以下の説明では、偏波分離素子として複屈折材料を中心に説明する。
【0026】
本発明における「略一点で交差する」とは、本発明の技術的範囲が「一点で交差する」ことに限定されるのではなく、受光効率などの光学特性を満足していれば本発明の効果を奏する範囲において当該一点から若干ずれても良いことを意味している。
【0027】
偏波分離素子としては、複屈折材料や偏光ビームスプリッターなどの光学部品を用いた光学系が好適に利用可能であり、特に、直交する偏波面を持つ複数の偏波光を平行に出射する光学系は、本発明の光学素子により好ましく用いることができる。
【0028】
複屈折材料としては、イットリウム・バナデート(YVO4)を使用できる。2つの複屈折率材料の中間に45°半波長板を介在させ、常光及び異常光の分離状態や伝搬方向を調整することが可能である。複屈折材料では結晶中を通過する光線の偏光方向によって屈折率が異なるため、結晶を通過する光線の光学距離(屈折率×材料中の伝搬距離)が偏光方向毎に異なる。このため、図4に示すように、複屈折材料の結晶10を前半部と後半部の2つに分け、前半部の結晶軸と後半部の結晶軸を入力光の光軸に対して180度異なるように配置し、それぞれの光線の偏光方向を前半部と後半部を90°回転することで結晶を通過する光線全ての光学距離を等しく分離している。また、光線の偏光方向を結晶前半部と後半部で90°回転させるために、結晶間に半波長板11を挿入する。
【0029】
図4においては、上述の理由から2つの複屈折率材料10の中間に45°半波長板11を介在させる構成としているが、本発明はこれに限定されることはなく、図5に示すように、一つ目の複屈折率材料10の直後にガラス板等の光路長調整板12を配置し、二つ目の複屈折率材料を省略することも可能である。
【0030】
複屈折率材料10で複数の出力光(a1,a2,b1,b2)に分離された後、光路変換手段51で、各出力光の光路を調整し、複数の出力光が一点鎖線Eで示す位置で交差するよう設定される。光路変換手段51としては、図3に示すような、多面体で構成された光学部品を用いることができる。多面体22〜25の側は、複屈折材料10に対向し、出力光が入射する入射面として使用される。
【0031】
光路変換手段51は、光学部品50の一面を多面体状に切断・研磨することで、光学部品50の一部として構成することが可能である。また、図5のように、図3のような光学部品を直方体状の光学部品50に貼り付けることで構成することも可能である。
【0032】
光路変換手段を構成する多面体(図3の22〜25に相当)の各面の角度(θ1〜θ4)を調整することで、受光素子40に入射するビーム間隔(ピッチ)を変更することが可能である。なお、本実施例では複数の出力光が点Eで示す位置で交差するようにしているが、該出力光の交差点の位置はこの後に入射される受光素子におけるビーム径やビーム位置が光学特性に影響しない範囲であれば許容される。つまり複数の出力光は略一点で交差すれば良い。
【0033】
集光手段31は、ボールレンズ等の球状レンズの一部に平面部を設けた半球状のレンズである。出力光が交差する点Eと球レンズの曲面との位置関係を予め所望の位置関係に調整しておくことで、光学部品50の位置と角度を調整するだけで出力光のビーム径を小さく集光させることが可能となる。しかも、一つのレンズで集光するため、集光トレランスを向上させることが可能となる。
【0034】
また、前記半球状レンズのレンズ面は非球面にするとより好適である。非球面にすることでビーム間隔とビーム径をより高精度に変換することが可能となる。また、前記半球状のレンズは球状レンズとすることも可能である。球状レンズは安価に入手できるため部材費を削減することができる。
【0035】
なお、球状レンズを使用する場合、球状レンズは光学部品50に直接固定することはできないため、球状レンズを平面部を有した筒状の部材に固定し該平面部を光学部品50に固定するなど、別の部材を介して光学部品50に固定する必要がある。
【0036】
本発明の光学素子では、さらに、光学部品50に集光手段31に向かう出力光を得るため、反射手段52を設けている。これは、受光素子40を図4(b)のように筐体のベース面60に沿って配置する場合のように、受光素子40の受光面の法線が出力光の延長線(図面の横方向)からずれている場合には、反射手段52によって、出力光の方向を変更することが必要となる。
【0037】
通常、受光素子40は光学部品50と同じ面に設置されるため受光面の法線は出力光の延長線と直角を成すことが多いが、反射手段52を設けることで出力光が受光面に効率よく受光されるため、光学部品50の調整は位置と角度のみ行うことで所望の受光効率を得ることが可能となる。
【0038】
反射手段52は、光路変換手段51と同様に、光学部品50の一部を切断・研磨することで構成することも可能であるが、図5のように、光学部品50と反射手段53とを別部品とし、出力光の光路を90°折り曲げる場合には、プリズム等の三角柱状の光学部品53を直方体状の光学部品50に貼り付けることで構成することも可能である。
【0039】
集光手段31は、図4(b)に示すように、反射手段52の下方で、光学部品50に配置固定される。これにより、光路変換手段51と集光手段31とを一つの光学部品として一体化することが可能となり、各光学部品の位置調整等を簡素化することが可能となる。
【0040】
図4(b)に示すように、複屈折率材料10、光路変換手段や集光手段を含む光学部品50、及び受光素子40を、筐体のベース面60に配置固定するだけで、出力光の光軸(一点鎖線)を容易に調整することができ、極めて容易にこれらの光学部品を組み立てることが出来る。
【0041】
また、図6に示すように、偏波分離素子を、偏光ビームスプリッター(PBS)13と直角プリズム14とを用いて構成することも可能である。符号12は光路長調整板であり、直角プリズム14を経由する偏波光(a1,b1)に合せて、偏波光(a2,b2)の光路長を調整している。
【0042】
偏光ビームスプリッターは複屈折材料とは異なり入射光を直角に分離することができるため短い距離で出力光のビーム間隔を大きく取ることができる。このため偏波分離素子に偏光ビームスプリッターを用いた場合、複屈折材料を用いた場合と比べ、偏波分離素子の長さを短くすることができ、光学素子全体の小型化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、部品点数を減少し、製造コストの増加や集光トレランスの悪化を抑制すると共に、光学部品の調整を簡素化した光学素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
10 複屈折材料
11 45°半波長板
12 光路長調整板
13 偏光ビームスプリッター
14 直角プリズム
20,51 光路変換手段
30,31 集光手段
40 受光素子
52 反射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの入力光を偏波分離素子に入力し、各入力光に対応した直交する偏波光からなる複数の出力光を出力し、該出力光を、ビーム径を小さくすると共に、ビーム間隔を狭めた状態で受光素子に入射させる光学素子において、
該偏波分離素子と受光素子との間に、前記複数の出力光が略一点で交差するよう光路変換する光路変換手段と、各出力光のビーム径を絞る集光手段とを一つの光学部品に形成又は固定したことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、該光学部品は、該出力光が入射する面が、該光路変換手段を兼ねていることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子において、該光学部品に設けられた該光路変換手段と該集光手段との間には、該出力光を反射する反射手段が形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光学素子において、該集光手段は、一つのレンズであることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光学素子において、筐体のベース面に、該偏波分離素子、該光学部品、及び該受光素子を配置固定することを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光学素子において、該偏波分離素子は、複屈折材料又は偏光ビームスプリッターのいずれかを含むことを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−216599(P2012−216599A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79597(P2011−79597)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】