説明

光学装置、その製造方法、および電子機器

【課題】液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成することができる光学装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】
この製造方法によれば、隔壁7の上面に撥水親油層31を形成した後、液滴吐出法を用いて、区画領域Pごとに正孔注入層の水性溶液を塗布し、正孔注入層81を形成する。撥水親油層31としては、フッ素などの撥液性物質を含有していないアクリル樹脂などの無垢な樹脂材料を用いるため、当該溶液中に撥液性物質が溶出することはない。正孔注入層81の形成後、撥水親油層31上にフッ素系の撥液性物質を含有した撥水撥油層32を形成し、当該層の撥油機能を利用して、区画領域Pごとに発光層の油性溶液を液滴吐出法により正孔注入層81上に塗布し、発光層83を形成する。従って、撥水親油層31と撥水撥油層32との機能を使い分けることにより、液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置、その製造方法、および当該光学装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)材料を含有した溶液をインクジェット法により隔壁(バンク)に囲まれた凹部に吐出、および乾燥させて有機機能層を形成する、いわゆる液滴吐出法が知られている。
液滴吐出法によって発光画素を形成する場合には、隔壁で区画された1つの凹部を区画領域としたときに、区画領域ごとに、有機材料を含有した溶液を塗布、および乾燥する工程を繰り返して、複数層からなる有機機能層を形成していた。また、隣り合う区画領域間における溶液の混入を防止するために、各区画領域を区画する隔壁の上面には、撥液性(撥水撥油性)を付与していた。
【0003】
例えば、特許文献1には、隔壁の上面に、フッ素系の撥液層(撥水撥油層)を転写して、撥液性を付与する方法が開示されている。詳しくは、格子状の隔壁の上面に、撥液層が形成されたフィルムをラミネートした後、当該フィルムのみを剥離することにより、隔壁の上面に選択的に撥液層(撥水撥油層)を転写形成するとしている。
また、当該文献には、隔壁の上部にCF4プラズマ処理を施す方法によっても、同様な撥液性(撥水撥油性)を付与することが可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−139378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者等の実験結果に基づく知見によれば、特許文献1の方法で撥液性を付与した場合、液滴吐出法により複数層の有機機能層における第2層を形成する際に、第2層の形成不良が発生してしまうという問題があった。詳しくは、液滴吐出法により第1層としての正孔注入層を形成した後、当該層の上に、第2層としての発光層の溶液を塗布すると、正孔注入層上、または隔壁に面した部分に撥液性を有する部分が形成されているため、当該部分で溶液がはじかれて、塗布ムラが生じてしまうという問題があった。
発明者等による解析の結果、正孔注入層上、または隔壁に撥液性部分が形成される原因は、第1層の形成工程において塗布された正孔注入層の溶液中に、撥液層の一部が溶け出した後、乾燥工程において、正孔注入層上、または隔壁の一部にフッ素成分が析出するためであると解った。また、CF4プラズマ処理を施した場合においても、正孔注入層の溶液中にフッ素成分が溶け出すため、同様な不具合が確認されている。なお、正孔注入層と、発光層の組み合せに限定するものではなく、液滴吐出法により連続して有機層を形成する場合には、同様な問題が内在している。
【0006】
つまり、従来の製造方法では、液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成することは困難であるという課題があった。
換言すれば、液滴吐出法により連続して有機機能層を形成する工程を含む従来の製造方法では、優れた表示品質を確保することは、困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例又は形態として実現することが可能である。
【0008】
(適用例)
複数層の有機機能層を有する発光画素を複数備えた光学装置の製造方法であって、基板上に、発光画素の開口部となる画素電極を形成する工程と、複数の画素電極を区画する隔壁を形成する工程と、画素電極、および隔壁を含む露出部分に親液化処理を施す工程と、隔壁の上面に、撥水親油層を形成する工程と、隔壁によって区画された複数の領域の各々を区画領域としたときに、区画領域に対して、有機機能層としての正孔注入層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、撥水親油層上に、撥水撥油層を形成する工程と、区画領域ごとに、正孔注入層上に、有機機能層としての発光層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、を含むことを特徴とする光学装置の製造方法。
【0009】
この製造方法によれば、隔壁の上面に、撥水親油層を形成した後、液滴吐出法を用いて、区画領域ごとに、水溶性の正孔注入層の溶液を塗布している。
ここで、撥水親油層としては、例えば、フッ素などの撥液性物質を含有していないアクリル樹脂などの無垢な樹脂部材を用いるため、正孔注入層の溶液中に、撥液性物質が溶出することはない。
そして、正孔注入層を形成した後に、撥水親油層上に、例えば、フッ素系の撥液性物質を含有した撥水撥油層を形成し、当該層の撥油機能を利用して、区画領域ごとに、油性の発光層の溶液を液滴吐出法により正孔注入層上に塗布する。
つまり、液滴吐出法が連続する工程において、下地となる有機機能層に撥液性物質が混入しないように、撥液性物質を含有していない撥水親油層を用いて、下地となる正孔注入層の水性溶液を各区画領域に塗布した後、撥水撥油層を形成して、油性の発光層の溶液を各区画領域に塗布している。換言すれば、撥水親油層、および撥水撥油層の機能を使い分けることによって、液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成している。
【0010】
つまり、液滴吐出法を用いて、正孔注入層、および発光層を塗布ムラなく適切に形成することができる。換言すれば、本実施形態に係る製造方法によれば、液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成することができる。
よって、液滴吐出法を用いて、優れた表示品質の光学装置を製造することができる。
従って、優れた表示品質の光学装置を液滴吐出法により製造することができる製造方法を提供することができる。
【0011】
また、親液化処理は、大気雰囲気中で酸素を処理ガスとしたプラズマ処理であり、撥水親油層は、隔壁の上面に、撥水親油層が形成されたフィルムをラミネートした後、フィルムを剥離することにより、転写形成されたものであることが好ましい。
また、撥水親油層は、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリル共重合体、水添石油樹脂、ケトン樹脂、セルロース系樹脂のいずれかであることが好ましい。
また、撥水撥油層は、フッ素系化合物を含む撥液剤を含有し、隔壁の上面に、撥水撥油層が形成されたフィルムをラミネートした後、フィルムを剥離することにより、転写形成されたものであるか、または、隔壁の上部にCF4プラズマ処理を施したものであることが好ましい。
【0012】
また、正孔注入層を構成する材料は、PEDOT/PSSを含み、材料を含有した溶液は、水性溶液であり、発光層を構成する材料を含有した溶液は、油性溶液であることが好ましい。
また、蒸着法により、発光層を覆って、有機機能層としての電子注入層を形成する工程と、蒸着法により、電子注入層を覆って、共通陰極を形成する工程とを、さらに含むことが好ましい。
【0013】
複数層の有機機能層を有する発光画素を複数備えた光学装置の製造方法であって、基板上に、発光画素の開口部となる画素電極を形成する工程と、複数の画素電極を区画する隔壁を形成する工程と、画素電極、および隔壁を含む露出部分に親液化処理を施す工程と、隔壁の上面に、撥液剤が添加された撥水撥油層を形成する工程と、基板から撥水撥油層までの積層構造を加熱する加熱工程と、隔壁によって区画された複数の領域の各々を区画領域としたときに、区画領域に対して、有機機能層としての正孔注入層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、区画領域ごとに、正孔注入層上に、有機機能層としての発光層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、を含むことを特徴とする光学装置の製造方法。
また、撥液剤には、フッ素系化合物が添加されており、撥水撥油層は、隔壁の上面に、撥水撥油層が形成されたフィルムをラミネートした後、フィルムを剥離することにより、転写形成されたものであり、加熱工程における加熱により、撥水撥油層の表面に撥水撥油機能が付与されることが好ましい。
【0014】
複数層の有機機能層を有する発光画素を複数備えた光学装置であって、基板上に形成された発光画素の開口部となる画素電極と、複数の画素電極を区画する隔壁と、隔壁の上面に形成された撥水親油層と、隔壁によって区画された複数の領域の各々を区画領域としたときに、区画領域ごとに形成された有機機能層としての正孔注入層と、撥水親油層の上に形成された撥水撥油層と、区画領域ごとの正孔注入層上に形成された、有機機能層としての発光層と、を少なくとも有することを特徴とする光学装置。
【0015】
上記記載の光学装置を表示部に備えたことを特徴とする電子機器。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1に係る表示装置の一態様を示す斜視図。
【図2】素子基板の平面図。
【図3】図2のi−i断面における側断面図。
【図4】表示パネルの製造工程を示すフローチャート図。
【図5】(a)〜(c)製造工程における一態様を示す図。
【図6】(a)〜(c)製造工程における一態様を示す図。
【図7】実施形態2に係る表示パネルの製造工程を示すフローチャート図。
【図8】(a)〜(c)製造工程における一態様を示す図。
【図9】電子機器としての携帯電話を示す斜視図。
【図10】変形例2に係る素子基板の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならしめてある。
【0018】
(実施形態1)
「表示装置の概要」
図1は、本実施形態に係る表示装置の一態様を示す斜視図である。
まず、本発明の実施形態1に係る光学装置としての表示装置100の概要について説明する。
【0019】
表示装置100は、有機EL表示装置であり、表示パネル18、フレキシブル基板20などから構成されている。表示パネル18は、素子基板1と対向基板16との間に、発光層を含む機能層を挟持したボトムエミッション型の有機EL表示パネルであり、素子基板1側から表示光を出射する。
表示パネル18は、マトリックス状に配置された複数の画素からなる表示領域Vを備えている。図1の右上に拡大して示すように、表示領域Vには、青色(B)、緑色(G)、赤色(R)の各色画素が周期的に配置されており、各画素が出射する表示光によりフルカラーの画像が表示される。なお、各画素は発光画素であるが、画素と称する。また、カラー表示を行う表示パネルに限定するものではなく、モノクロ表示を行う表示パネルであっても良い。表示領域Vは、縦長の長方形をなしており、図1を含む各図においては、当該縦方向をY軸方向とし、縦方向よりも短い横方向をX軸方向と定義している。また、表示パネル18の厚さ方向をZ軸方向としている。また、Y軸(+)、(−)方向を上下方向とし、X軸(−)、(+)方向を左右方向としている。
【0020】
詳しくは後述するが、表示領域Vの各画素における発光層を含む複数の有機機能層は、液滴吐出法が連続する工程を経て形成されている。
従来、液滴吐出法が連続する工程を含んだ製造方法では、下地側の有機機能層に撥液性物質が混入してしまい、その上に形成される有機機能層に形成不良が生じてしまうという問題があった。
これに対して、表示装置100によれば、本実施形態に係る特徴ある製造方法によって、液滴吐出法が連続する工程を含んでいても、各有機機能層を適切に形成することができるため、優れた表示品質を確保することができる。
【0021】
また、表示パネル18において、素子基板1が対向基板16から張出した張出し領域には、フレキシブル基板20が接続されている。なお、フレキシブル基板とは、例えば、ポリイミドフィルムの基材に鉄箔の配線などが形成された柔軟性を有するフレキシブルプリント回路基板の略称である。また、フレキシブル基板20には、駆動用IC(Integrated Circuit)21が実装され、その端部には、専用のコントローラーや、外部機器(いずれも図示せず)と接続するための複数の端子が形成されている。
表示パネル18は、フレキシブル基板20を介して、外部機器から電力や画像信号を含む制御信号の供給を受けることにより、表示領域Vに画像や文字などを表示する。
【0022】
「表示パネルの詳細な構成」
図2は素子基板の平面図である。図3は、図2のi−i断面における表示パネルの側断面図である。
続いて、表示パネルの詳細な構成について、図2および図3を用いて説明する。
図2は、図1において素子基板1をZ軸(+)方向から見たときの平面図である。このため、図1と比べてX軸方向が反転している。また、完成状態の素子基板1をこの方向から観察した場合、一様な共通電極(陰極)が観察されることになるが、ここでは、説明の都合上、有機層を形成する前段階における平面態様を示している。
素子基板1上には、格子状の隔壁7が形成されている。詳しくは、隔壁7は、行列をなして配置された画素電極(陽極)5の開口部5eを1つずつ区画するように形成されている。また、隔壁7によって区画された複数の領域のことを区画領域Pという。複数の区画領域Pは、全てが略同じ大きさの縦長の長方形に形成されている。なお、長方形に限定するものではなく、トラック形状や、楕円などであっても良い。また、開口部5eについても楕円形状としているが、トラック形状や、円、長方形などであっても良い。
【0023】
また、表示領域Vの左端(X軸(−)側)における区画領域Pの列には赤色の有機EL層が形成され、その右隣(X軸(+)側)の区画領域Pの列には緑色の有機EL層が形成され、その右隣の区画領域Pの列には青色の有機EL層が形成される。以降、区画領域P列ごとに、この順番で、周期的に各色の有機EL層が形成されることになる。
【0024】
続いて、図3を用いて、素子基板1の断面構成について説明する。図3は、図2の区画領域Pが形成された素子基板1に、有機層、共通電極、および電極保護層までを取り付けた、素子基板1の完成状態における側断面図である。なお、素子基板1という表現は、単品の素子基板1という意味と、本実施形態における素子基板1上に形成された複数層の積層構造体を指す意味との2つの意味を持っている。
素子基板1上には、素子層2、平坦化層4、画素電極5、隔壁7、有機EL層8、共通電極9、電極保護層10などが積層されている。
素子基板1は、透明な無機ガラスから構成されている。本実施形態では、好適例として、無アルカリガラスを用いている。なお、ガラスに限定するものではなく、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)などの透明基板を用いても良い。
素子層2には、各画素をアクティブ駆動するための画素回路が形成されている。画素回路には、TFT(Thin Film Transistor)からなる画素を選択するための選択トランジスターや、有機EL層8に電流を流すための駆動トランジスター3などが含まれており、画素ごとに対応して形成されている。なお、画素回路は、好適例として、活性層に低温ポリシリコンを用いているが、アモルファスシリコンを活性層として用いた構成であっても良い。
【0025】
素子層2の上層(Z軸(+)方向)には、例えば、アクリル樹脂などからなる絶縁層である平坦化層4が形成されている。
平坦化層4の上層には、画素ごとに区画されて、第1電極としての画素電極5が形成されている。画素電極5は、ITO(Indium Tin Oxide)や、ZnOなどの透明電極から構成されており、画素ごとに素子層2の駆動トランジスター3のドレイン端子と平坦化層4を貫通するコンタクトホールにより接続されている。
また、画素電極5の上層には、例えば、SiO2からなる絶縁層6が形成されており、画素電極5と有機EL層8とが接触する開口部5eを区画している。つまり、画素電極5が絶縁層6から露出した部分を開口部5eとしている。
隔壁7は、前述した格子状の隔壁であり、断面形状は、画素電極5側が広い台形状になっている。なお、断面形状は、矩形や、半円状であっても良い。好適例における材料としては、光硬化性のアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などを用いる。
ここで、隔壁7の上面には、本実施形態における特徴ある構成の一つである、撥水親油層31と、撥水撥油層32とが形成されている。なお、これらの詳細については後述する。
また、本実施形態では、好適例として無機材料から構成された絶縁層6と、有機材料から構成された隔壁7とで開口部5eを区画する、いわゆるダブルバンク構成を採用しているが、この構成に限定するものではない。例えば、絶縁層6は省略しても良く、隔壁7のみによるシングルバンク構成であっても良い。
【0026】
複数層の有機機能層としての有機EL層8は、正孔注入層や、発光層などを含む複数の有機機能層から形成されている。
好適例における有機EL層8は、正孔注入層81と、各色発光層83と、電子注入層84とを、区画領域Pごとに、この順番に積層した3層構成となっている。なお、この積層構成に限定するものではなく、例えば、正孔注入層81と、各色発光層83との間に、正孔輸送層を形成しても良い。または、各色発光層83と、電子注入層84との間に、正孔阻害層を形成しても良い。
好適例における正孔注入層の材料としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)を用いる。また、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体を用いてもよい。
【0027】
発光層の材料としては、有機EL層8R,8G,8Bごとに、赤色、緑色、青色の蛍光、または燐光を発光する発光材料を用いることが好ましい。
好適例としては、赤色、緑色、青色に対応したポリオレフィン系ポリマー蛍光材料を用いる。または、ポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)等のポリチオフェニレン誘導体、ポリメチルフェニレンシラン(PMPS)などを用いても良い。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素等の高分子材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクドリン等低分子材料をドープしてもよい。
【0028】
電子注入層84の材料としては、仕事関数が小さい材料が好ましく、好適例では、例えば、カルシウムを用いる。
共通陰極としての共通電極9は、反射性に優れた金属材料から構成された反射電極であり、各色有機EL層8、および隔壁7を覆って形成されている。好適例では、例えば、アルミニウムを用いる。
陰極保護層としての電極保護層10は、SiO2や、Si34、SiOxNyなどの高密度で、かつ、透明性の高い材質から構成されており、共通電極9を覆って形成することにより、有機EL層8へ水分などが浸入することを防止している。
【0029】
「表示パネルの製造方法」
図4は、表示パネルの製造工程を示すフローチャート図である。図5(a)〜(c)は、製造工程における一態様を示す図である。図6(a)〜(c)は、製造工程における一態様を示す図である。
ここでは、表示パネル18の製造方法について、有機EL層8の工程を中心に説明する。
【0030】
まず、ステップS1では、フォトリソ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの周知の製造方法を用いて、開口部5eまでが作り込まれた素子基板1を形成する。換言すれば、開口部5eまでが形成された素子基板1を準備する。
ステップS2では、フォトリソ法を用いて、格子状の隔壁7を形成する。詳しくは、前述した光硬化性の樹脂を素子基板1の全面にスピンコート法などにより塗布した後、格子状のマスクを用いて露光し、現像することによって格子状の隔壁7を形成する。なお、好適例では、黒色の光硬化性樹脂を用いている。
これにより、図2(a)に示すように、複数の開口部5eを1つずつに区画する隔壁7が形成される。換言すれば、表示領域Vを複数の区画領域Pに区画する隔壁7が形成される。
ステップS3では、開口部5e、絶縁層6、および隔壁7を含む表示領域Vの露出面に親液化処理を施す。詳しくは、大気雰囲気中で酸素を処理ガスとするプラズマ処理(O2プラズマ処理)を行う。この処理により、開口部5e、絶縁層6、および隔壁7を含む表示領域Vの露出面に水酸基が導入されて親液性が付与される。この状態が、図5(a)に示されている。
【0031】
ステップS4では、図5(b)に示すように、素子基板1上に、転写フィルム130を重ねた状態(準備体)とし、転写法を用いて、隔壁7の上面に撥水親油膜を形成する。
ここで、転写フィルム130は、基材となる樹脂フィルム上の一面に、撥水親油膜131を形成(塗布)したフィルム部材である。樹脂フィルムとしては、ポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ナイロン系フィルム、フッ素樹脂フィルムなどを用いることができる。また、撥水親油膜131としては、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリル共重合体、水添石油樹脂、ケトン樹脂、セルロース系樹脂のいずれかを用いることができる。
本実施形態では、好適例として、樹脂フィルムとして、厚さ約20μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムを用い、当該フィルム上に、撥水親油膜131を約80nmの厚さで形成したものを転写フィルム130としている。
【0032】
そして、当該図に示すように、隔壁7面を上にした状態の素子基板1上に、撥水親油膜131側を下にして転写フィルム130を重ねて準備体としている。
本実施形態では、好適例として、この準備体をラミネート装置でラミネートすることにより、隔壁7の上面に撥液層を選択的に形成する。なお、図5(b)では、ラミネート装置における伝熱性のあるシリコンゴムなどのエラストマーから構成された加圧ローラー61,62のみを図示している。また、ラミネートは転写法の一種である。具体的なラミネート条件としては、加圧ローラー61,62の温度を約130℃とし、準備体の搬送速度(ラミネート速度)を0.5m/minとした。
なお、ローラーを用いたラミネート法に限定するものではなく、隔壁7の上面に撥液層を選択的に形成することが可能な転写法であれば良い。例えば、準備体の上方から加熱した平板を押し当てて、隔壁7の上面に撥液層を選択的に形成する方法であっても良い。
これにより、図5(c)に示すように、隔壁7の上面に選択的に撥水親油層31が形成されることになる。なお、この撥水親油層31は、撥水親油膜131の一部が転写されたものである。
また、隔壁7の上面とは、下底が長く、上底が短い略台形状をなした隔壁7の断面形状における上底のことを指しており、実際は、曲面を含んだ凸状となっている。
【0033】
ステップS5では、液滴吐出法(インクジェット法)を用いて、各区画領域P内に、正孔注入層81を形成する。なお、正孔注入層81の形成工程は、溶液の塗布工程と、乾燥工程とを含んでいる。
まず、溶液の塗布工程では、液滴吐出装置を用いて、区画領域Pごとに、正孔注入層81を構成する材料を含有した水性溶液を吐出する。なお、インクジェット法に限定するものではなく、所定の位置に溶液を吐出可能な塗布方法であれば良い。例えば、ジェットディスペンサー法や、ニードルディスペンサー法などのディスペンサー法を用いても良い。
【0034】
図5(c)には、液滴吐出装置のノズル510から溶液d1が吐出されて、区画領域P内に着弾し、凸状(水玉状)の溶液溜りu1となった状態が示されている。
溶液溜りu1が凸状となるのは、区画領域Pの底部を形成する開口部5eなどが親液性を有するとともに、撥水親油層31が水性の溶液に対して撥液性を有しているからであり、充填された溶液は、その表面張力によって水玉状の膨らみを持って区画領域Pに溜まることになる。
ここで、撥水親油層31には、フッ素などの撥液性物質が含有されていないため、溶液溜りu1が当該層に接触していても、溶液内に、撥液性物質が溶け出すことはない。
【0035】
乾燥工程では、真空乾燥と熱処理を行う。まず、溶液が塗布された状態の素子基板1を真空チャンバーに移して、真空乾燥を行う。これにより、溶液中の溶媒の沸点が下がり、当該溶媒が低温で蒸発することになるため、溶質が析出して正孔注入層が形成される。さらに、残存する溶媒を除去するために熱処理を行う。好適例では、窒素ガス雰囲気下において、約200℃で約10分間の熱処理を行う。
なお、乾燥工程において、素子基板1を加熱しても良い。例えば、当該基板をホットプレート上に載せて加熱する方法や、表示領域Vの上方から赤外線ランプを照射する方法などを採用することができる。また、これらの方法を組み合せても良い。このような方法によれば、より効率的に乾燥を行うことができる。
乾燥工程が終了すると、溶液中の溶媒が飛ばされて、図5(c)において点線で示すように、区画領域Pの底部に、開口部5eを覆う正孔注入層81が形成される。
【0036】
ステップS6では、素子基板1上に、転写フィルムを重ねた状態とし、転写法を用いて、隔壁7の上面に撥水撥油層32を形成する。転写フィルムは、基材となる樹脂フィルム上の一面に、撥水撥油膜を形成(塗布)したフィルム部材である。
なお、具体的には、図5(b)で説明したラミネート法を用いて、図6(a)に示すように、隔壁7の上面における撥水親油層31上に、撥水撥油層32を重ねて形成する。樹脂フィルムの材質や、ラミネート条件については、ステップS4での説明と同様である。
また、撥水撥油膜としては、フッ素系化合物、またはケイ素系化合物を含有した撥液剤を用いることができる。本実施形態では、好適例として、住友スリーエム社製のノベック(登録商標)EGC-1720を用いている。
【0037】
ステップS7では、液滴吐出法(インクジェット法)を用いて、各区画領域P内に、各色発光層83を形成する。なお、発光層83の形成工程は、溶液の塗布工程と、乾燥工程とを含んでいる。
溶液の塗布工程では、液滴吐出装置を用いて、区画領域Pごとに、発光層83を構成する材料を含有した油性溶液を吐出する。詳しくは、図2に示すように、画素列ごとにRGBの各色に対応した溶液を塗布する。なお、インクジェット法に限定するものではなく、所定の位置に溶液を吐出可能な塗布方法であれば良いことは、ステップS5での説明と同様である。
図6(b)には、液滴吐出装置のノズル520から溶液d2が吐出されて、区画領域P内に着弾し、凸状(水玉状)の溶液溜りu2となった状態が示されている。
ここで、溶液溜りu2が凸状となるのは、撥水撥油層32が油性の溶液に対して撥液性を有しているからであり、充填された溶液は、その表面張力によって水玉状の膨らみを持って区画領域Pに溜まることになる。
また、乾燥工程については、ステップS5での説明と同様である。
乾燥工程が終了すると、溶液中の溶媒が飛ばされて、図6(b)において点線で示すように、区画領域Pの底部側における正孔注入層81の上に、発光層83が形成される。
【0038】
ステップS8では、真空蒸着法を用いて、発光層83、および隔壁7を覆って、カルシウムからなる電子注入層84を形成する。
ステップS9では、真空蒸着法を用いて、電子注入層84を覆って、アルミニウムからなる共通電極9を形成する。
ステップS10では、CVD法を用いて、共通電極9を覆って、SiO2からなる電極保護層10を形成する。この状態が図6(c)に示されている。
【0039】
また、ステップS10に続けて、スピンコート法や、CVD法などを用いて、熱硬化性のエポキシ樹脂からなる緩衝層や、SiO2からなるガスバリア層などを形成しても良い。そして、このような積層構造が完成した素子基板1と別途製造された対向基板16とを充填剤や、シール剤を用いて貼り合せて、表示パネル18が完成する。
【0040】
「好適例における寸法」
上述した好適例による各部の寸法について、図3を用いて紹介しておく。
まず、区画領域の「長さ(Y軸方向)×幅(X軸方向)」を「約300μm×約150μm」とした。
また、開口部5eの長さを約200μmとし、幅を約100μmとした。
また、隔壁7の高さ(厚さ)を約3μmとした。
また、撥水親油層31の厚さを約80nmとした。
【0041】
上述した通り、本実施形態に係る表示装置100、および製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
この製造方法によれば、隔壁7の上面に、撥水親油層31を形成した後、液滴吐出法を用いて、区画領域Pごとに、水溶性の正孔注入層の溶液を塗布している。
ここで、撥水親油層31としては、例えば、フッ素などの撥液性物質を含有していないアクリル樹脂などの無垢な樹脂部材を用いるため、正孔注入層の溶液中に、撥液性物質が溶出することはない。
そして、正孔注入層81を形成した後に、撥水親油層31上に、フッ素系の撥液性物質を含有した撥水撥油層32を形成し、当該層の撥油機能を利用して、区画領域Pごとに、油性の発光層の溶液を液滴吐出法により正孔注入層81上に塗布する。
つまり、液滴吐出法が連続する工程において、下地となる有機機能層に撥液性物質が混入しないように、撥液性物質を含有していない撥水親油層31を用いて、下地となる正孔注入層の水性溶液を各区画領域に塗布した後、撥水撥油層32を形成して、油性の発光層の溶液を各区画領域に塗布している。換言すれば、撥水親油層31、および撥水撥油層32の機能を使い分けることによって、液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成している。
【0042】
つまり、液滴吐出法を用いて、正孔注入層81、および発光層83を塗布ムラなく適切に形成することができる。換言すれば、本実施形態に係る製造方法によれば、液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成することができる。
よって、液滴吐出法を用いて、優れた表示品質の表示装置100を製造することができる。
従って、優れた表示品質の表示装置100を液滴吐出法により製造することができる製造方法を提供することができる。
【0043】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る表示パネルの製造工程を示すフローチャート図であり、図4に対応している。図8(a)〜(c)は、製造工程における一態様を示す図であり、図5,6に対応している。
以下、本発明の実施形態2に係る表示装置について説明する。なお、実施形態1と同一の構成部位については、同一の番号を附し、重複する説明は省略する。
【0044】
本実施形態の表示装置は、実施形態1の素子基板1とは、異なる構成の素子基板1bを備えている。詳しくは、隔壁7の上面に、撥水親油層と撥水撥油層との2層の機能層を形成するのではなく、特徴的な機能を持つ撥水撥油層の1層構成となっている点が、実施形態1の素子基板1とは異なる。
また、当該構成の変更に伴い製造方法の一部も異なっている。それ以外は、実施形態1での説明と略同様である。なお、素子基板1bとは、本実施形態における素子基板1上に形成された複数層の積層構造体の全体を指している。
まず、本実施形態に係る素子基板1bの平面態様は、図2の実施形態1の平面態様と同様である。
また、図8(c)は、図6(c)と同一部分の断面図であり、両図を比較すると解るように、実施形態2に係る素子基板1bでは、隔壁7の上面に撥水撥油層33が単層で形成されている点が、図6(c)の素子基板1と異なる。
ここで、詳細は後述するが、撥水撥油層33は、その表面のみに撥水撥油作用が生じる特徴的な機能を持つ撥水撥油層である。
また、有機EL層8は、実施形態1と同様に、正孔注入層81、発光層83、電子注入層84の3層構成となっている。
【0045】
続いて、図7を用いて、本実施形態の素子基板1bの製造方法について、撥水撥油層33の製造工程を中心に説明する。なお、図4の工程と同一の工程については、重複する説明は省略する。
まず、ステップS11の画素電極形成工程から、ステップS13の親液化処理工程までは、図4のステップS1〜ステップS3までの各工程と同一である。
【0046】
ステップS14では、素子基板1上に、転写フィルムを重ねた状態とし、転写法を用いて、隔壁7の上面に撥水撥油層33を形成する。転写フィルムは、基材となる樹脂フィルム上の一面に、撥水撥油膜を形成(塗布)したフィルム部材である。なお、具体的には、図5(b)で説明したラミネート法を用いて、隔壁7の上面に、撥水撥油層33を形成する。樹脂フィルムの材質や、ラミネート条件については、ステップS4での説明と同様である。
ここで、撥水撥油膜としては、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリル共重合体、水添石油樹脂、ケトン樹脂、セルロース系樹脂のいずれかに、撥液剤を添加したものを用いる。
好適例では、アクリル樹脂に、フッ素系化合物(ポリマー)を含有した撥液剤を添加したものを撥水撥油膜としている。そして、当該撥水撥油膜を基材となるPET製の樹脂フィルムの一面に形成したものを転写フィルムとしている。
【0047】
ステップS15では、素子基板1bを加熱処理する。詳しくは、素子基板1bをオーブンに入れて、約130℃×5分間の加熱条件で素子基板1b全体を加熱する。
この加熱後の状態が図8(a)に示されており、当該図に示すように、撥水撥油層33の上面(Z軸(+)側)に、撥液剤による撥水撥油機能が付与されることになる。加熱工程により撥水撥油機能が付与される原理は、完全に把握できていないが、加熱により撥液剤成分が撥水撥油層33の表面側に移動することによるものと推察している。
また、撥水撥油層33は、撥液剤を添加した撥水親油性の樹脂を撥水撥油層として用いているため、撥液剤(層)が剥き出しになっていた従来の撥液層と異なり、溶液に接触した場合であっても、溶液中への撥液成分の溶け出しが殆ど発生しない。
【0048】
ステップS16では、液滴吐出法を用いて、各区画領域P内に、正孔注入層81を形成する。なお、正孔注入層81の形成工程は、実施形態1(ステップS5)での説明と同様であり、溶液の塗布工程と、乾燥工程とを含んでいる。
また、液滴吐出装置から吐出された溶液は、図5(c)と同様に、その周囲が撥水撥油層33にピニングされた状態で、凸状(水玉状)の溶液溜りとなる。つまり、撥水撥油層33の撥水機能により、正孔注入層の水性溶液が周縁部ではじかれて、凸状(水玉状)の溶液溜りとなる。
ここで、前述したように、撥水撥油層33からは撥液成分が殆ど溶出しないため、溶液内への撥液性物質の混入を防ぐことができる。
【0049】
ステップS17では、液滴吐出法を用いて、各区画領域P内の正孔注入層81上に、発光層83を形成する。なお、発光層83の形成工程は、実施形態1(ステップS7)での説明と同様であり、溶液の塗布工程と、乾燥工程とを含んでいる。
図8(b)には、液滴吐出装置のノズル520から溶液d2が吐出されて、区画領域P内に着弾し、凸状(水玉状)の溶液溜りu2となった状態が示されている。
ここで、溶液溜りu2が凸状となるのは、撥水撥油層33の發油機能によるものであり、区画領域P内に充填された油性の溶液は、その周囲が当該撥水撥油層にピニングされた状態で、面張力によって水玉状の膨らみを持って区画領域Pに溜まることになる。
乾燥工程が終了すると、溶液中の溶媒が飛ばされて、図8(b)において点線で示すように、区画領域Pの底部側における正孔注入層81の上に、発光層83が形成される。
【0050】
そして、ステップS18の電子注入層形成工程から、ステップS20の電極保護層形成工程までは、図4のステップS8〜ステップS10までの各工程と同一である。図8(c)は、ステップS20が終了し、電極保護層10までが形成された素子基板1bの状態を示している。
また、ステップS20に続けて、緩衝層や、ガスバリア層などを形成しても良いこと、および別途製造された対向基板16を充填剤や、シール剤を用いて貼り合せて、図1の表示パネル18が完成することなども、実施形態1での説明と同様である。
【0051】
上述した通り、本実施形態に係る光学装置、および製造方法によれば、実施形態1の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
この製造方法によれば、隔壁7の上面に、撥液剤を添加した撥水親油性の樹脂からなる撥水撥油層33を形成したことにより、正孔注入層81と発光層83とを、液滴吐出法により連続形成しても、各層を適切に形成することができる。
これは、撥水撥油層33が、撥液剤(層)が剥き出しになっていた従来の撥液層と異なり、溶液に接触した場合であっても、溶液中への撥液成分の溶け出しが殆ど発生しないという特性を有しているからである。
【0052】
つまり、液滴吐出法を用いて、正孔注入層81、および発光層83を塗布ムラなく適切に形成することができる。換言すれば、本実施形態に係る製造方法によれば、液滴吐出法を用いて、複数層の有機機能層を適切に形成することができる。
よって、液滴吐出法を用いて、優れた表示品質の表示装置100を製造することができる。
従って、優れた表示品質の表示装置100を液滴吐出法により製造することができる製造方法を提供することができる。
【0053】
また、1層の撥水撥油層33により、液滴吐出法を用いた有機機能層の続形形成を行うことができるため、製造効率が優れている。
さらに、素子基板1b全体を加熱する(ステップS15)という簡単な工程によって、撥水撥油層33に撥水撥油性を付与することができるため、製造効率が良い。
従って、製造効率が良い表示装置100の製造方法を提供することができる。
【0054】
(電子機器)
図9は、上述の表示装置を搭載した携帯電話を示す斜視図である。
上述した表示装置100は、例えば、電子機器としての携帯電話200に搭載して用いることができる。
携帯電話200は、本体部350と、当該本体部に対して開閉自在に設けられた表示部370とを備えるとともに、実施形態1に係る表示装置100を内蔵している。詳しくは、表示装置100は、表示部370に組み込まれており、表示パネル18が表示画面となっている。また、本体部350には、複数の操作ボタンを有する操作部365が設けられている。
つまり、携帯電話200は、優れた表示品質の表示装置100を搭載している。従って、鮮明な表示画面を備えた携帯電話200を提供することができる。
なお、表示パネル18の素子基板には、実施形態2に係る素子基板1bを用いても良く、この場合であっても、同様な作用効果を得ることができる。
【0055】
また、携帯電話の態様は、図9に示した折畳み式に限定するものではなく、表示パネルを備えた携帯電話であれば良い。
例えば、本体部350に対して表示部370が折畳み、および旋回可能に設けられた携帯電話であっても良い。または、一体型の携帯電話や、一体型の本体部に操作部が収納されているスライド式の携帯電話であっても良い。
また、電子機器としては、携帯電話に限定するものではなく、液晶パネルを備えた電子機器であれば良い。
例えば、カーナビゲーションシステム用の表示装置や、PDA(Personal Digital Assistants)、モバイルコンピューター、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、車載機器、オーディオ機器などの各種電子機器に用いることができる。
これらの電子機器によれば、高品位の表示を得ることができる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0057】
(変形例1)
図3を用いて説明する。
上記各実施形態では、表示パネル18をボトムエミッション型の有機ELパネルとして説明したが、トップエミッション型の有機ELパネルであっても良く、複数層の有機機能層を液滴吐出法により連続形成する表示装置であれば良い。
詳しくは、表示パネル18をトップエミッション型とする場合、画素電極5の素子基板1側に全反射層を形成する。また、共通電極9を薄くしてハーフミラー層とする。これにより、共通電極9側から、表示光が出射されることになる。
これらの構成であっても、上記各実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0058】
(変形例2)
図10は、変形例2に係る素子基板の平面図であり、図2に対応している。
上記各実施形態では、隔壁7によって、1つの開口部5eごとに、1つの区画領域Pが形成されるものとして説明したが、この構成に限定するものではない。例えば、図10に示すように、複数の開口部5eに対して、1つの区画領域Pが形成される隔壁77構成であっても良い。
変形例2の素子基板51は、実施形態1の隔壁7(図2)とは異なる隔壁77を備えている。詳しくは、Y軸方向に隣り合う2つの開口部5eに対して、1つの区画領域P(共通バンク)が形成される隔壁77構成となっている。このため、区画領域Pの縦方向(Y軸方向)の長さが、図2の区画領域Pに比べて長くなっている。この点以外は、実施形態1での説明と同様である。
【0059】
この構成であっても、上記各実施形態における製造方法を適用可能であることから、上記各実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
なお、2つの開口部5eに対して1つの区画領域Pが形成される構成に限定するものではなく、3つ以上の開口部5eに対して1つの区画領域Pが形成されることであっても良い。または、表示領域Vの周縁部では複数の開口部5eに対して1つの区画領域Pを形成し、中央部では1つの開口部5eに対して1つの区画領域Pを形成するというように、変化させても良い。これらの構成であっても、上記各実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
1,51…基板としての素子基板、5…画素電極、5e…開口部、7,77…隔壁、8…複数層の有機機能層としての有機EL層、9…共通陰極としての共通電極、18…表示パネル、31…撥水親油層、32,33…撥水撥油層、81…正孔注入層、83…発光層、84…電子注入層、100…光学装置としての表示装置、200…電子機器としての携帯電話、d1,d2…液滴、u1,u2…溶液溜り、P…区画領域、V…表示領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層の有機機能層を有する発光画素を複数備えた光学装置の製造方法であって、
基板上に、前記発光画素の開口部となる画素電極を形成する工程と、
複数の前記画素電極を区画する隔壁を形成する工程と、
前記画素電極、および前記隔壁を含む露出部分に親液化処理を施す工程と、
前記隔壁の上面に、撥水親油層を形成する工程と、
前記隔壁によって区画された複数の領域の各々を区画領域としたときに、前記区画領域に対して、前記有機機能層としての正孔注入層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、
前記撥水親油層上に、撥水撥油層を形成する工程と、
前記区画領域ごとに、前記正孔注入層上に、前記有機機能層としての発光層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、を含むことを特徴とする光学装置の製造方法。
【請求項2】
前記親液化処理は、大気雰囲気中で酸素を処理ガスとしたプラズマ処理であり、
前記撥水親油層は、前記隔壁の上面に、前記撥水親油層が形成されたフィルムをラミネートした後、前記フィルムを剥離することにより、転写形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の光学装置の製造方法。
【請求項3】
前記撥水親油層は、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリスチレン、スチレン/アクリル共重合体、水添石油樹脂、ケトン樹脂、セルロース系樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学装置の製造方法。
【請求項4】
前記撥水撥油層は、フッ素系化合物を含む撥液剤を含有し、前記隔壁の上面に、前記撥水撥油層が形成されたフィルムをラミネートした後、前記フィルムを剥離することにより、転写形成されたものであるか、または、前記隔壁の上部にCF4プラズマ処理を施したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学装置の製造方法。
【請求項5】
前記正孔注入層を構成する材料は、PEDOT/PSSを含み、前記材料を含有した前記溶液は、水性溶液であり、
前記発光層を構成する材料を含有した前記溶液は、油性溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学装置の製造方法。
【請求項6】
蒸着法により、前記発光層を覆って、前記有機機能層としての電子注入層を形成する工程と、
蒸着法により、前記電子注入層を覆って、共通陰極を形成する工程とを、さらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学装置の製造方法。
【請求項7】
複数層の有機機能層を有する発光画素を複数備えた光学装置の製造方法であって、
基板上に、前記発光画素の開口部となる画素電極を形成する工程と、
複数の前記画素電極を区画する隔壁を形成する工程と、
前記画素電極、および前記隔壁を含む露出部分に親液化処理を施す工程と、
前記隔壁の上面に、撥液剤が添加された撥水撥油層を形成する工程と、
前記基板から前記撥水撥油層までの積層構造を加熱する加熱工程と、
前記隔壁によって区画された複数の領域の各々を区画領域としたときに、前記区画領域に対して、前記有機機能層としての正孔注入層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、
前記区画領域ごとに、前記正孔注入層上に、前記有機機能層としての発光層を構成する材料を含有した溶液を液滴吐出法により塗布する工程と、を含むことを特徴とする光学装置の製造方法。
【請求項8】
前記撥液剤には、フッ素系化合物が添加されており、
前記撥水撥油層は、前記隔壁の上面に、前記撥水撥油層が形成されたフィルムをラミネートした後、前記フィルムを剥離することにより、転写形成されたものであり、
前記加熱工程における加熱により、前記撥水撥油層の表面に撥水撥油機能が付与されることを特徴とする請求項7に記載の光学装置の製造方法。
【請求項9】
複数層の有機機能層を有する発光画素を複数備えた光学装置であって、
基板上に形成された前記発光画素の開口部となる画素電極と、
複数の前記画素電極を区画する隔壁と、
前記隔壁の上面に形成された撥水親油層と、
前記隔壁によって区画された複数の領域の各々を区画領域としたときに、前記区画領域ごとに形成された前記有機機能層としての正孔注入層と、
前記撥水親油層の上に形成された撥水撥油層と、
前記区画領域ごとの前記正孔注入層上に形成された、前記有機機能層としての発光層と、を少なくとも有することを特徴とする光学装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光学装置を表示部に備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−96376(P2011−96376A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246217(P2009−246217)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】