説明

光学装置及び光学設計方法

【課題】視野が広く大きな開口径の望遠鏡でとらえた光を、ノイズの影響を無視できる程度の小さな有効直径の検出器に集光させる光学系を構成する。
【解決手段】一次結像光学系に入射して一次結像面を生成した光が、複数の小径レンズをもつレンズアレイからなる二次光学系に通過し、二次光学系はリレー光学系であって一次結像面の少なくとも横倍率を所定の値になるように拡大することから小径レンズの各々の視野が拡がるとともに小さな傾角の射出光となって二次結像面を生成し、この二次結像面から出る光が前記レンズアレイを形成する各小径レンズの共通の射出瞳となるように配置された検出器に集光されるので、一次結像光学系の開口径全体の視野が多数の離散的な小径レンズの小さな視野に変換される。これにより、一次結像光学系の大開口径を実質的に確保しながら背景光の影響を軽減させることが可能となり、ノイズの無い長距離レーザレーダに適した光学系を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望遠鏡、すなわち光学装置とその望遠鏡の光学設計方法に関し、特に、レーザ距離計をはじめとして光量検出に使用する光学システムにおける視野走査に係る技術である。
【背景技術】
【0002】
物体からの光を受光部でとらえて検出器に導く場合、受光部の開口直径が大きいことが望ましいが、検出器の感度(S/N比)を大きくするには有効直径の小さな検出器の方が有利である。有効直径の小さな検出器への集光という条件は、光束の光軸に対する傾角へ大きな制約となってあらわれる。これを、従来の視野走査を伴う光学システムで用いられるレーザレーダの場合で説明する。
【0003】
図9は、レーザレーダの基本構成を示すブロック図の一例である。レーザレーダは、大別すると、レーザ送信部100と、受信部110と、信号処理部とから構成され、レーザ送信部100がレーザを発射すると、そのレーザ光(送信光)が照射対象の表面で散乱されて送信方向に戻ってくるので、受信部110は口径の大きなカセグレンアンテナを用いて受信し、検出器に集光させて検出する。信号処理部は、送信光のパルスを検出した時点でデジタルカウンターをスタートし、そして受信光のパルスを検出した時点でそのデジタルカウンターのカウントアップをストップして往復時間を測定し、照射対象までの距離を計測する。ところで、測定対象の表面で散乱する光の強さは、レーザ送信部100からの距離の2乗に反比例して減衰していくことが知られている。そのため、長距離測定を行う場合は、レーザの送信出力を上げるとともに受信望遠鏡の開口面積を大きくして、検出器に集光される受信光の光量を一定程度以上に維持する必要がある。
一方で、背景光(余分な光)をできるだけ取り込まないようにすることがノイズの低減につながる。そこで、受信望遠鏡の視野は、送信レーザのスポットが入るのに十分な視野のみを確保するだけに留めて、不必要に広げないようにしておくことが望ましく、受信望遠鏡の視野を適正に絞っておく必要がある。
【0004】
次に、このような特徴をもつレーザレーダを用いた走査光学系がどのような機構になっているのかを説明する。コピー機などで使用されている光走査機構には、回転式のポリゴンミラーや振動型ミラーのガルバノミラーなどがあるが、それらの摺動箇所は経時的な性能の低下や寿命の短縮化を引き起こす可能性がある。また、2次元走査を考えた場合、従来の光走査機構では少なくとも2つのデバイスが必要となるため、重量・体積ともに増大してしまうという問題があった。さらに、走査速度に関しても、いわゆるマイクロマシンと称される、電気回路と機械的構造が一体化したMEMS(Micro Electro Mechanical System)を用いた走査機構に比べ遅くなってしまう問題もあった。
【0005】
そこで、MEMS技術を用いて走査機構を実現すれば、小型化が可能であることはもちろん、バネ構造による支持のために素材の変形抵抗のみで摩擦を発生させず、しかも小型なことから軽量化が可能であって走査速度を向上することができる。また、1つのデバイスで2次元走査が可能なために、デバイス増加に伴う重量・体積の増大がない。さらに、機械的特性(バネ定数、比重)や熱特性に優れているシリコンが主な材料であることからために宇宙空間のような厳しい環境にも適する。
このような多くの有利性をもつMEMS技術ではあるが、レーザ距離計の2次元走査機構としてMEMSミラーを使用した場合は光の減衰を補うための受光(開口)面が小さいという点が大きなネックとなる。つまり、上述したようにレーザ距離計では、光の大きさが距離の2乗に反比例して減衰してしまう特性があるので、発射したレーザが照射対象で散乱した僅かな光を検出しなければならないが、MEMSミラーならではの小さな開口面積では受光面積が十分に確保できず、測定距離を長くとることができない。例えば、日本信号社の距離画像センサーは5mm角程度のMEMSミラーを使用しており、レーザ出力が低いこともあって測定距離は十m程度に過ぎない。
【0006】
したがって、従来、レーザレーダを用いた走査光学系において、長距離の測定を行う場合は、距離に伴う信号の大幅減衰の影響を可及的に避けるために受光面積すなわち、受信望遠鏡の開口面積を増やし、大きなミラーを受信望遠鏡の前に取り付けて視野走査を行うのが一般的なアプローチであった。例えば、Jena-Optronik GmbHのランデブーセンサーは長距離スキャン型のレーザレーダであるが、2方向の大きなミラーを回転させて視野走査を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術に対する問題点をあらためて要約すれば次のようになる。
(1)ミラーの使用について:
長距離走査型のレーザレーダを実現しようとすると受信望遠鏡の開口径をできるだけ大きくさせなければならない。そのため、大きなミラーをこの受信望遠鏡の前に取り付けて視野走査を行っているのが従来の手法であったが、ミラーを使用すると上述したような様々な不都合を考慮しなければならず、測定距離を短くして小さなミラーで対応していた。このため、ミラーを使わないレーザレーダの実現が望まれていた。
【0008】
(2)有効直径の小さな検出器への集光について:
受信望遠鏡が大きな開口直径の場合、小さな有効直径の検出器上に集光させようとすると実際には難しくなることは計算上から明白である。入射角θenと入射瞳径Den、出射角θexと出射瞳径Dexは式(1)の関係にある。
θen・Den = θex・Dex (1)
したがって、単純に、開口径Den=100mmの望遠鏡に、入射角θen=5°で入った光を有効直径Den=1.5mmの検出器に集光させようとすると出射角θex=80°となって、検出器のほぼ真上・真下(又は真横)に光を導かなければならない計算となり、現実にはこのような大開口径の望遠鏡からの光を小さな検出器で捉えることが極めて困難である。したがって、大開口径の受信望遠鏡の場合でも、現実的な光の傾角で有効直径の小さな検出器への集光を図りたいという要望があった。
【0009】
(3)視野範囲の増大に伴うノイズの増加について:
大開口径の望遠鏡に対応するために視野の広い光学系を構成し、例えば走査しようとする視野を全て含む光学系にすることも考えられるが、視野が広くなるほど多くの背景光が取り込まれ、受信回路の信号対ノイズ比が悪化する。このため従来は、ノイズを許容できる視野の大きさから定まる近距離用として使用するか、長距離用に対応したければレーザスポット径に近い絞った小さな視野を大きな開口径に対してスキャン動作して対応せざるをえなかった。しかし、小型・軽量化の観点や走査速度を考慮すれば、大きな開口径の望遠鏡で走査しなくても長距離レーザレーダを構成できるのが望ましい。つまり、大開口径でありながら小さな視野の望遠鏡をミラー等を用いた視野走査を伴わずに構成したいという要望があった。
【0010】
そこで本発明は、広い視野の物体(特に、暗い物体)を見ようとすれば受光部を大きくすることが要求され、一方で大きな受光部で受信した光を有効直径の小さな検出器で集めようとすれば検出器に向かう光の光軸に対する傾角が極端に大きくなって集光できないという問題を克服する光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために本発明は、一次結像光学系とリレー光学系と射出瞳生成光学系とを備えた光学装置において、一次結像光学系によってリレー光学系の物点を形成するように一次結像面を生成し、次に、一次結像光学系の全体視野を離散的な部分視野の集合にする複数のレンズを有した複数のレンズアレイからなるリレー光学系によって前記一次結像面を1倍よりも大きな任意の横倍率で二次結像面に転写し、次に、射出瞳生成光学系によって前記二次結像面からの光を受光して前記各レンズからの射出光に正の屈折力を与えて共通の射出瞳を形成するように構成することを特徴とする。
この場合、レンズアレイ内の複数のレンズを通った光が射出瞳生成光学系に入射することで複数の射出瞳を形成するようにしてもよい。また、射出瞳生成光学系により生成される共通の射出瞳が光検出器の有効径に対応するように光検出器を射出瞳生成光学系の後方に配置して、前記一次結像光学系に入射した光を検出してもよい。
【0012】
また、レンズアレイ内の隣接するレンズを通過する光の行路が互いに分離し重なり合わない領域に、複数のレンズの全部又は一部に対するシャッター系を設け、当該シャッター系の開閉動作により前記一次結像光学系を通過し前記射出瞳に到達する光路を選択的に遮断するように構成してもよい。これにより、任意の部分視野からの光束のみを選択可能となる。また、一次結像光学系をテレセントリック光学系として構成してもよい。
【0013】
また、前記目的を達成するために本発明は、一次結像光学系へ入射する平行光束をコリメート光学系から平行光束で出射するアフォーカル光学系を備えた光学装置において、一次結像光学系によって入射された平行光束を一次結像面で物点として形成させ、コリメート光学系によって受光した光の進行方向を所定範囲内の正の屈折角で曲げて平行光束として射出瞳を形成し、更に、一次結像光学系とコリメート光学系の間に配置したリレー光学系によって前記一次結像光学系により形成された一次結像面からの光が、コリメート光学系に対する入射光になることを特徴とする。また、本構成のリレー光学系は、一次結像光学系の全体視野を離散的な部分視野の集合にする複数のレンズを有した複数のレンズアレイからなり、前記一次結像面を1倍よりも大きな任意の横倍率で二次結像面に転写することを特徴とする。この場合、コリメート光学系により形成された射出瞳位置に光検出器を配置してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一次結像光学系の開口径全体で受信した光を、複数の小径レンズをもつレンズアレイからなる二次光学系に通過させ、前記二次光学系はリレー光学系であって前記一次結像光学系により生成される一次結像面の少なくとも横倍率を所定の値になるように拡大することから前記小径レンズのそれぞれの視野が拡がるとともに小さな傾角の射出光となって二次結像面を生成し、この二次結像面から出る光が前記レンズアレイを形成する各小径レンズの共通の射出瞳となるように配置された検出器に集光される構成にしたので、前記一次結像光学系の開口径全体の視野を少なくとも物体の認識を可能にする多数の離散的な小径レンズの小さな視野に分散し、それぞれの小視野を通過した光を再び集めることが可能となる。これにより、前記一次結像光学系の大開口径を実質的に確保しながら、背景光の影響を軽減させ、ノイズの無い長距離レーザレーダに適した光学系を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に図面を参照しながら、本発明の光学装置の一実施形態について説明する。本発明は、従来のミラーによる視野走査という発想を捨て去り、大きな開口径全体から得られる各光束を複数の離散的な小径レンズを用いて構成したリレー光学系に通すことで光の傾角及び視野範囲を変化させ、有効径の小さな検出器で受光するという手法に基づいている。なお、本実施形態では、レンズの焦点に小さな絞り(テレセントリック絞り)を置き、光軸と主光線が平行とみなせるテレセントリック光学系によって一次結像光学系を構成する例を示す。
図1は、本発明の光学装置を説明するための基本概念図である。なお、実際の光学装置を構成するには、光発信部、ゲインコントロール、全体制御部等の他の様々な機構を含むことになるが本発明の特徴とは直接関係しないのでここでは省略する。
【0016】
図1に、左側に物体が存在し、光発信部から発射された光が物体に照射され検出器6へ入射するまでの光路を示す。図中の線矢印によって光の進行方向が理解されるように、物体側からの光は、まず、一次結像光学系であるテレセントリック光学系3に入射して一次結像面を生成した後、小径のレンズ(本実施形態では、「マイクロレンズ」と称する。)が複数配置されたレンズアレイ1,2から成るリレー光学系4を通過し、集光レンズ5を通って最終的には検出器6で検出される。以下に本光学装置の光学構成を詳述する。
【0017】
物体側からある入射角度θでテレセントリック光学系3に入ってきた光束は、図1に示すように(位置)像高dに変換される。入射角度と像高の変換式は式(2)で示される。
d=f・tanθ (2)
具体的には、図1において、テレセントリックレンズ(焦点距離f)に対してある入射角(θ°)で入ってきた光(実線表示)は、a点で焦点を結ぶのに対して、正面(θ=0°)から入ってきた光(破線表示)は光軸上にあるb点が焦点となる。いずれにしても、テレセントリック光学系3からのすべての光は、テレセントリック像側主面から距離fで一次結像面を生成する。これは、テレセントリック光学系3によって、受信望遠鏡の視野角度が距離fでは位置(像高)に変換されることを意味している。
【0018】
テレセントリック光学系3の後方にはレンズアレイ1及びレンズアレイ2によって構成されたリレー光学系4を配置する。レンズアレイ1は複数のマイクロレンズ1を含み、各マイクロレンズ1が所定のピッチ間隔で離散的に配置される。レンズアレイ2も同様の構成である。図1に示すように、ある入傾角でテレセントリック光学系3に入った各光束は、一次結像面上において各々その入傾角に対して決まる位置(像高)に集光してからレンズアレイ1におけるマイクロレンズ1に入射し得る。つまり、大口径のテレセントリック光学系3からの射出光が、レンズアレイ1への入射光になる。ここで、レンズアレイ1の各マイクロレンズ1は所定のピッチ間隔で離散的に配列されているので、必ずしもテレセントリック光学系3に入った光のすべてが必ずマイクロレンズ1の何れかに入射するとは限らないが、ピッチ間隔を充分に小さくしたレンズアレイ1であれば、テレセントリック光学系3からの実質的にすべての光がレンズアレイ1側を通ることになることは明らかである。つまり、対象物の大きさよりもピッチ間隔が小さければ、原理的にはそのようなレンズアレイ1を通過した光によって対象物を認識できる。例えば、本光学装置によって人間を認識しようとする場合、人の幅よりも狭い幅のピッチ間隔で配置されたレンズアレイ1を使用すれば人の存在を検出することができる。視野の観点からみれば、レンズアレイ1に複数のマイクロレンズ1を配置することで、テレセントリック光学系側の広い口径における視野の全体が小さなマイクロレンズの視野の集合に置き換わったことを意味する。
【0019】
なお、上述したように、各マイクロレンズ1のピッチ間隔領域に入射する光は検出器6で最終的に集光されない光となり、ピッチ間隔が大きくなるほどレンズアレイ1全体での視野、即ち、各マイクロレンズ1の視野の総計は小さくなり、テレセントリック光学系3の大開口径全体としての視野に対応しなくなる。一方、マイクロレンズ1の径が大きすぎると大開口径の全体視野が分割されたことにならず、小さなマイクロレンズによる小さな視野分割という本発明の原理が充分に生かされない。したがって、小径のマイクロレンズ1をピッチ間隔を充分に小さくして配置したレンズアレイ1が、本発明の効果を大きく奏することになろう。
また、本実施形態では、リレー光学系4を2つのレンズアレイ1,2によって構成した場合を示したが必ずしもこれに限定するものではなく、3以上のレンズアレイを用いてもよい。また、各レンズアレイにおける各マイクロレンズが必ずしも同一のサイズ、同一の焦点距離、同一のピッチ間隔である必要はなく、本実施形態の光学装置が視野に入れる対象に応じてマイクロレンズの大きさや焦点距離が異なったり、ピッチ間隔に広狭が生じるなどレンズ属性が異なっていてもよい。レンズアレイ2のマイクロレンズ2についても同様である。
また、テレセントリック光学系3を出射した光束のうちマイクロレンズ1に入射する光束を明確に制限するために、テレセントリック光学系3が生成する1次結像面上にマイクロレンズ1の各々と対になり、かつマイクロレンズ1よりも小さな開口を有したマスクを配置してもよい。この場合には、マイクロレンズアレイは連続的に配置されていてもよい。
【0020】
図1に戻れば、ここでは各レンズアレイ1,2上の4つのマイクロレンズの断面、及びそのうち2つのマイクロレンズに対する光の進行(実線と破線)を示している。テレセントリック光学系3の視野と、マイクロレンズアレイ1の視野の関係を示したのが図2(a)で、リレー光学系4を構成するレンズアレイ1とレンズアレイ2間の視野の関係を示したのが図2(b)である。図2(a)に示すように、マイクロレンズ1のピッチ間隔で離散的に並ぶ格子の網掛け部分がマイクロレンズ1の1つ当たりの視野とすると、格子外側の寸法がテレセントリック光学系3の口径全体としての視野に相当する。なお、便宜上、図2において、テレセントリック光学系3の視野の総和が9つの視野の集合とし、これに対するマイクロレンズの各視野の関係を示したものだが、この数に限定されないことは言うまでもない。
【0021】
すなわち、テレセントリック光学系3の視野全てがリレー光学系4に入るのではなく、テレセントリック光学系3の視野の総和からみると各マイクロレンズ1の視野以外の領域をかなり含んでいる。上述したように、ピッチ間隔が大きくなるほどその割合は増加し、点在するマイクロレンズ1つ1つの視野は微小な(狭い)範囲にすぎない。そこで、本発明は、リレー光学系4の各マイクロレンズ1の視野を、図2(b)に示すように分割された格子枠いっぱいにまで拡げて各マイクロレンズ2の視野にする。マイクロレンズ1及びマイクロレンズ2というリレー光学系4によって、マイクロレンズ1上の小さな像を検出器6の有効直径等との関係で決定される分割格子枠という所定の範囲にまで拡大するには、マイクロレンズ2の焦点距離をマイクロレンズ1の焦点距離よりも長くしてFNO(Fナンバー)を暗く変換させればよい。これは、同時に、レンズアレイ2の各マイクロレンズ2から出て行く光の射出角を小さくさせることでもあるのは上記式(2)から明らかである。
【0022】
今、マイクロレンズ1の焦点距離をfm1、マイクロレンズ2の焦点距離をfm2とすると、リレー光学系4での倍率mは、
m=fm2/fm1 (3)
である。上記式(3)は、微小領域(マイクロレンズ1つ当たりの視野)ごとに合成焦点距離を長くして、FNO(Fナンバー)を1/mに暗く変換していることになる。このようにして、FNO変換によって、式(1)における出射角度θexの、瞳倍率から生じる拘束を緩和することができる。
【0023】
最後に、リレー光学系4から出ていく光を有効直径の小さな検出器6へ集光させる。図1に示すように、リレー光学系4によって小さな射出角に変換された各マイクロレンズ2からの光は二次結像面を生成するが、次に、光束は集光レンズ5に向かう。集光レンズ5はテレセントリック光学系3の入射瞳(開口絞り)の実像に対応する射出瞳を形成する光学系であり、受光した光を屈折させて検出器6に導く。つまり、射出瞳位置に検出器6を配置することによって、レンズアレイ2の各マイクロレンズ2から出た光が検出器6で共通の射出瞳として形成され、検出器6は入射瞳を通った光を受光する。なお、本光学系全体は、アフォーカル光学系として構成されているので、平行光束が検出器6に到達するようになっているが、検出器6が本光学系全体の射出瞳に配置されている限り、検出器6に到達する光束が発散性または収束性を呈していてもかまわない。 なお、集光レンズ5によって特許請求の範囲の「射出瞳生成光学系」が構成される。
【0024】
以上説明してきたように、本実施形態の光学装置によれば、テレセントリック光学系3の大きな開口径に対して大きな入射角で入った光を、多数のマイクロレンズ1,2を有する複数のレンズアレイ1,2で構成されたリレー光学系4で受光する。これは、離散的に存在する多数の微小(狭い)視野の集合をもって大きな開口径に対応させるという本発明独特の発想であり、厳密な意味ではテレセントリック光学系3の開口径全体における視野の総和と完全に一致するものではない。しかしながら、視野の一部が欠けていても物体の検出に支障がない程度の欠落である限り、完全な開口径に代わってこのような離散的な視野の集合で置き換えたことの不都合は生じない。それどころか、マイクロレンズ1,2による離散視野によって、視野走査を伴わずに小さな視野で大開口径のテレセントリック光学系3と実質的に同一の開口径に対応するという従来では成し得なかった効果を生じさせるものである。言い換えれば、本発明は、受信望遠鏡の開口径における視野の一部を放棄することで、広い視野全体を完全無欠にとらえることを追求すれば有効直径の小さな検出器に集光できないというこれまでの長距離レーザレーダが抱えていた問題を解決できるのである。
【0025】
次に、上述した本実施形態において、マイクロレンズ1,2からの光が検出器6に入射しないようにするためのシャッター機構(シャッター系)を設定する例を説明する。図3は、図1においてテレセントリック像側主面から距離fの一次結像面にシャッター機構を配置したときを示している。なお、シャッターの開閉を制御するためのモータ駆動系については省略している。シャッターは各マイクロレンズ1,2の一部又は全部に対応して存在するので、本実施形態では「シャッターアレイ7」と称する。例えば、背景光を取り込み過ぎてノイズ比が大きいときは、多くのマイクロレンズ1に対応するシャッターを閉じることができるシャッターアレイ7にすればよい。これに対して、例えば、各マイクロレンズ1,2のピッチ間隔及びレンズ径との関係で背景光が十分にカットされている場合は、これ以上に光を遮る必要はない。このようなときはすべてのシャッターを開けて、実質的にはシャッター機構の無い図1と同じ光進路にすればよい。
【0026】
図3はテレセントリック光学系3によって生成される一次結像面にシャッターアレイ7を配置した例で、つまりリレー光学系4の前方で光を遮断する構成であるが、シャッターアレイ7の位置は必ずしもこれに限定されない。例えば、図4は、レンズアレイ1とレンズアレイ2の間にシャッターアレイ7を配置し、レンズアレイ1には光を通すがレンズアレイ2の前方で遮光するときの例を示している。これらの例に限らず、テレセントリック光学系3から出た光が検出器6に入るまでの間で、レンズアレイ1,2上のそれぞれに隣合うマイクロレンズ1,2への又はマイクロレンズ1,2からの光が重ならない任意の位置にシャッターアレイ7があればよく、任意のマイクロレンズに対するシャッターを選択的に開閉させて光を遮断できることが望ましい。
なお、上記シャッターアレイ7はMEMS機構によるものに限定されない。例えば液晶シャッターのようにアレイ状に光遮蔽機能を有するものであればどんなであってもよい。また、透過型のシャッタ構造に限定されるものではなく、DMD素子のようにアレイ状の反射デバイスであっても良い。それらシャッタデバイス制御は、電気的、機械的又はその他のあらゆる方式を含むものである。
【0027】
次に、図5は、多数の微小なマイクロレンズの視野で大きな開口径をカバーする配列の一例を、画角180mrad(象面での実寸法が15mm)での5°の円形視野(θen=5°)の場合で示した実施例である。各黒丸は各マイクロレンズの視野(1.5mrad)である。また、1200μm角のシャッターが各マイクロレンズに対応して1.3mmの周期で配置される場合の例を示している。
【0028】
なお、本実施形態では、一次結像光学系をテレセントリック光学系で構成される場合を説明してきた。その理由は、テレセントリック光学系では光軸と主光線が平行になることから一次結像面の各点が光軸上に存在するかのように扱うことができ、光軸に対する傾斜角分の像高のズレを考慮する必要がなくなるからである。したがって、本発明は、テレセントリック光学系によらずに一次結像光学系が構成される場合を含むものであり、その際は上記像高のズレを補正する処理を加えればよい。
さらに、上述した本実施形態とは異なりリレー光学系を構成せずに、積分球などの拡散光を扱う光学系を用いて本発明を実施することも可能である。拡散光を扱う光学系の場合、リレー光学系に較べて時間分解能は多少劣るものの、リレー光学系において離散的に表される視野が連続的になるというメリットがある。ただし、この場合の視野はシャッター寸法によって形成されることになる。
【0029】
本実施形態で説明した光学装置(光学系)の技術はレーザ距離計等に応用可能で、自動車や航空機等の各種製品に組み込むことで広範囲な実現が期待されるものである。
また、本実施形態の光学装置によれば、大きな開口径を有する受信望遠鏡の視野全体を微小な視野の集合としてとらえるので、受信望遠鏡の開口面積を維持しつつ且つ背景光に起因する信号ノイズの発生を格段に抑えることができるようになる。また、従来の長距離の走査型レーザ距離計が大きなミラーを望遠鏡の前に取り付けて視野走査しなければならなかったのとは異なり、本実施形態の光学系構成はミラー機構を使用することなく光を検出することができるので摺動箇所を含まず、経時に伴う各種部品の性能・寿命の低下に起因した故障原因をもたらすこともない。また、光学装置の小型化・軽従量を図ることができる。
さらに、リレー光学系のマイクロレンズに対応したシャッターを設けて選択的に開閉できる構成にしているため、物体に応じて、或いはノイズ比との関係で視野範囲を適切に調整しながら光検出できる。
したがって、光学装置の信頼性を向上させることにつながり、一般の機械部品は勿論のこと、例えば衛星搭載機器のような高信頼性が要求される環境で使用する場合に本発明の優位性が顕著になるであろう。
【0030】
最後に、本発明を具体的に実施する際の詳細設計例を以下に示す。
・波長 :1064nm
・視野直径 :10°円周視野(または7°矩形視野)
・瞬時視野直径:5.3分 (1.5mrad)
・瞬時視野間隔:50分角 (50arcmin , 14.54mrad)
・集光光学系について
有効径 :φ100mm (入射瞳径に相当)
焦点距離:82mm
口径比 :F0.82
・リレー光学系について
リレー倍率 :7倍
射出主光線傾角:60°
射出瞳径 :φ1mm (検出器径)
【0031】
本光学装置は、全体としてアフォーカル光学系として構成される。つまり、平行束として入射する光束を平行束として出射する光学系である。本光学系は、(1)集光光学系、(2)リレー光学系、(3)射出瞳生成レンズとからなる。
(1)集光光学系(一次光学系)を、非球面を多用した4群4枚の出射側テレセントリック光学系として構成する。集光光学系の入射側レンズ位置に開口絞りを配置する。したがって、開口絞りがそのまま入射瞳となる。つまり、「開口絞りの位置と径」は、「入射瞳の位置と径」に一致する。
(2)リレー光学系は集光光学系の像面から離散的に切り出した微小領域の像を拡大転写し、離散ピッチと同サイズまで拡大する機能を持つ。
(3)射出瞳生成レンズはリレー光学系の像面を物体面とする光学系であり、このレンズの後方に射出瞳を生成する。この射出瞳が集光光学系の開口絞りの実像に相当する。したがって、この位置に光検出器を配置すれば、入射瞳(開口絞り)を通過したすべての光束が検出器に到達することになる。
【0032】
集光光学系は、所望の受光エネルギを得るために入射瞳径を100mmに設定する。また、射出瞳径(検出器径)をφ1mmに設定したので、本光学装置全体(以下、単に「本光学系」と称する。)の瞳倍率Mp(pupil magnification)は、1/100になる。
本光学系の瞳倍率と、角倍率(入射主光線傾角と射出主光線傾角の比に相当する)Ma(angular magnification)と、瞳倍率Mpの間には、Ma×Mp=1の保存則がある(Helmholtz-Lagrange の法則)。したがって、本レンズの場合、Ma=1/Mp=100となる。
したがって、視野(半角)が5°であれば、射出主光線傾角はMp×5°=100×5°=500°となり、つまり全角で1000°となる。しかしながら、実際にはこのような配置は存在し得ない。
【0033】
そこで、本光学系を射出して検出器に向かう光束の光軸に対する傾角の最大値を60°と規定すると、実現可能な視野は、高々60°/Ma=60°/100=0.6°にしかすぎないことが分かる。そこで、半角5°の範囲に合計0.6°の領域を離散的に配置することとすれば、各離散領域(瞬時視野)の直径を5.3分角(0.088°, 1.5mrad)と定めれば、6.88となり、視野半角あたり6〜7個の離散領域を確保できる。いま、集光光学系の入射瞳径を100mm,視野半角θを5°とし、これに対応する像サイズyを7.2mmとすると、本光学系が有するべき焦点距離fをy=f×tanθの関係から求めると、7.2mm=f×tan(5°)より、f=82mmとなる。このとき集光光学系の口径比率Fは、0.82である。
(シャッターの有効径:矩形形状の内接円は、7.2mm×2=φ14.4mm相当)
上記像サイズは、MEMSシャッタの全有効領域サイズに相当する。
(シャッタの有効径:矩形形状の内接円のサイズに換算して、7.2mm×2=φ14.4mm相当)
【0034】
図5と同様にして視野及びシャッターを配列する。また、集光光学系の像面には、各瞬時視野に対応するマスクを配置する。マスクの後方には、横倍率Mを7倍にしたリレー系を配置すると、各瞬時視野サイズは7倍に拡大される。つまり集光光学系とリレー系とからなる合成光学系の焦点距離が7倍に拡大されることになる。したがって、合成光学系の焦点距離が574mmに拡大される。このことは、合成口径比がF5.74まで暗くなることを意味する。また、リレーレンズは、非球面レンズアレイを2枚対向配置することにより構成する。上記仕様をすべての瞬時視野に全く同等に適用するために、集光光学系を射出側テレセントリックとして設計する。
【0035】
上述したとおり、MEMSシャッタは、離散的に配置した各瞬時視野に対するそれぞれのリレー系の内部に1開口ずつ配置する。リレー系が作る像面からはF5.74相当の広がり角で光線が出射する。これをφ1mmの射出瞳径をもつ平行光束として出射させるには、焦点距離5.74mmの瞳生成レンズを配置すればよい。なお、瞳生成レンズは、フレネルレンズを想定しているが必ずしもこれに限定することはない。
以上の原理を使い、実光線追跡をベースに実装設計した結果、すなわち、レンズデータを図6、その断面図を図7及び図8に示す。
【0036】
なお、レンズデータ中の非球面係数Kは円錐係数であり、A,B,C,D,Eはそれぞれ、4から12次の偶数次非球面係数であって、各面の頂点(レンズ面と光軸の交点)における接する平面からの面深さ(いわゆるサグ量)Zに対して、次式のように定義されている。 ただし、rは面頂点における曲率半径、hは光軸からの面高さである。

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の光学装置の基本概念を説明するための図である。
【図2】テレセントリック光学系と、リレー光学系と、マイクロレンズのそれぞれの視野の関係を示す図である。
【図3】本発明の光学装置にシャッター機構を配置したときの例を示す図である。
【図4】図3の例と異なる位置にシャッター機構を配置したときの例を示す図である。
【図5】多数の微小なマイクロレンズの視野で大きな開口径をカバーする配列の一例を示した図である。
【図6】本発明の具体的な実施例におけて使用されるレンズデータである。
【図7】本発明の具体的な実施例において使用される光学系構成図である。
【図8】本発明の具体的な実施例において使用される光学系構成図である。
【図9】従来の視野走査を伴う光学システムで用いられているレーザレーダの基本構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次結像光学系へ入射した光をリレー光学系及び射出瞳生成光学系へと通す光学装置であって、
前記一次結像光学系は前記リレー光学系の物点を形成するように一次結像面を生成し、
前記リレー光学系は前記一次結像光学系の全体視野を離散的な部分視野の集合にする複数のレンズを有した複数のレンズアレイからなり、前記一次結像面を1倍よりも大きな任意の横倍率で二次結像面に転写し、
前記射出瞳生成光学系は前記二次結像面からの光を受光して前記各レンズからの射出光に正の屈折力を与えて共通の射出瞳を形成する、光学装置。
【請求項2】
前記レンズアレイ内の複数のレンズを通った光が前記射出瞳生成光学系に入射することで複数の射出瞳が形成されることを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記射出瞳生成光学系により生成される共通の射出瞳が光検出器の有効径に対応するように当該光検出器を前記射出瞳生成光学系の後方に配置して、前記一次結像光学系に入射した光を検出する請求項1又は2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記レンズアレイ内の隣接するレンズを通過する光の行路が互いに分離し重なり合わない領域に、前記複数のレンズの全部又は一部に対するシャッター系を設け、当該シャッター系の開閉動作により前記一次結像光学系を通過し前記射出瞳に到達する光路を選択的に遮断することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光学装置。
【請求項5】
前記一次結像光学系がテレセントリック光学系であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の光学装置。
【請求項6】
一次結像光学系へ入射する平行光束をコリメート光学系から平行光束で出射するアフォーカル光学系の光学装置であって、
入射された平行光束を一次結像面で物点として形成させる一次結像光学系と、
受光した光の進行方向を所定範囲内の正の屈折角で曲げて平行光束として射出瞳を形成するコリメート光学系と、
前記一次結像光学系により形成された一次結像面からの光が、前記コリメート光学系に対する入射光になるように橋渡しをするリレー光学系とを含み、
前記リレー光学系は、前記一次結像光学系の全体視野を離散的な部分視野の集合にする複数のレンズを有した複数のレンズアレイからなり、前記一次結像面を1倍よりも大きな任意の横倍率で二次結像面に転写することを特徴とする光学装置。
【請求項7】
前記コリメート光学系により形成された射出瞳位置に光検出器を配置した請求項6に記載の光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−139199(P2008−139199A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327085(P2006−327085)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(598071002)株式会社ジェネシア (3)
【Fターム(参考)】