説明

光学補償フィルム

光学的に透明なポリマーフィルム、特に水素化ビニル芳香族ブロック共重合体から二次加工されたフィルムであって、0.001〜0.05の複屈折性及び25ナノメートル〜500ナノメートルのレタデーションを有し、二次加工されたものであっても二次加工後に配向されたものであってもよい、例えば、光学補償フィルムとして、又はディスプレイ用の光学補償板としての多層フィルム中の一層として機能する、ポリマーフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行出願の相互参照
本願は、2007年11月20日出願の米国特許仮出願第60/989、154号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、ポリマーフィルム、特にブロック共重合体、例えばビニル芳香族モノマーとジエン(例えば1,3−ブタジエンなどの共役ジエン)の共重合体を含むポリマーフィルムに関する。本発明は、特に、水素化ブロック共重合体、好ましくは実質的に水素化されたブロック共重合体、さらにより好ましくは完全に水素化されたブロック共重合体を含むポリマーフィルムに関する。本発明は、より特に、それらが未延伸若しくは未配向状態であるか(例えば溶融流延物として)又は延伸(単軸若しくは二軸)状態であるかに関係なく、このようなフィルムに関する。延伸されている(配向されている)か又は未延伸(未配向)であるポリマーフィルムは、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)テレビ(TV)セットの視野角向上、4分の1波長板又はその他のディスプレイ装置の光学補償素子として有用性を有する。
【背景技術】
【0003】
光学異方性フィルムは、3つの主な直交する屈折率、nx、ny及びnzに関して説明され、この際、x及びyは一般にフィルム面をそれぞれ長さ及び幅に関して定義し、zは一般にフィルム厚さをさす。光学異方性は、nxがnyを上回るか又はnyがnxを上回る場合に、特に非常に薄いフィルム(例えば厚さが250マイクロメートル(μm)未満)について最もよく生じるが、nzがnx及びnyの一方又は両方を上回るか又はそれ未満である場合にも生じる。
【0004】
本明細書において、「複屈折性」とは、3つの主な直交する主屈折率の任意の2つの間の差をさす。nxがnyより大きく(nx>ny)、nyがnzに等しい(ny=nz)関係では、複屈折性、すなわちフィルム面におけるΔnはnx−nyであり、平面においてyおよびzで定義されるΔnは0である。
【0005】
光学異方性は、レタデーション又はレタデーション値に関して説明される場合もある。フィルム面内レタデーション(R)は、方程式R=(nx−ny)d(dはフィルム厚さに等しい)で表すことができる。フィルム面外(例えば厚さ方向)レタデーション、すなわちRthは、方程式Rth=(nx−nz)d又は(((nx+ny)/2)−nz)d、で表すことができる。
【0006】
カワハラらに対する米国特許出願公開(USPAP)2006/0257078号には、延伸ポリマーフィルムを含むレタデーションフィルムが開示されており、該フィルムはノルボルネン系樹脂を含む。カワハラらは、該延伸フィルムが「TNモード、VAモード、IPSモード、FFSモード又はOCBモードの液晶セルの視野角を補償するのに適している」ことを示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0257078号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、ポリマーフィルム、好ましくは、複屈折性が0.001〜0.05の範囲内であり、面内レタデーション(R)が波長633nm(ナノメートル)で25ナノメートル(nm)〜500nmの範囲内であり、且つ、その未延伸状態において、3つの相互に直交する屈折率、nx、ny及びnzを有するが、ただし、それらの屈折率のうちの1つが他の2つの屈折率を上回る大きさを有し、遅軸を構成し、その遅軸は、一つのフィルム領域からもう一つのフィルム領域まで標準偏差の10度以内で一貫している方向を有する、光学補償フィルムである。遅軸の一致性は、フィルムの実質的にゲルを含まない領域を用いて、又はそれを参照することにより決定する。
【0009】
本発明の第二の態様は延伸ポリマーフィルムであり、該フィルムは、全ポリマーの0.5重量%〜20重量%未満の範囲内の結晶化度を有するポリマーを含み、複屈折性が波長633nmで0.001〜0.05の範囲内であり、面内レタデーション(R)が25nm〜500nmの範囲内である。
【0010】
本発明の第一及び第二の態様のフィルムは、多様な最終使用用途、特に光学用途において有用性がある。典型的な光学用途としては、補償フィルム並びに偏光フィルム、アンチグレア・フィルム、4分の1波長板、反射防止フィルム、及び輝度向上フィルムが挙げられる。
【0011】
標題「Fundamentals of Liquid Crystal Devices」 John Wiley & Sons, Ltd. (2006) のモノグラフにおいて、Deng−Ke Yang及びShin−TsonWuは、光学複屈折フィルムの分類を考察している。かれらは、単軸フィルムを、ただ一つの光軸(「主光軸」としても公知)をもつ異方性複屈折フィルムとして分類している。該主光軸は、該単軸フィルムが、主光軸に垂直な方向に沿った実質的に均一な屈折率と異なる屈折率を有する軸に等しい。単軸フィルムは、一般に、「a−プレート」及び「c−プレート」という名称の2つの種類のうちの1つに分類される。a−プレートの主光軸はフィルムの表面に対して平行であるが(すなわちny=nz、ただしny及びnzはnxとは異なる)、c−プレートの主光軸は、フィルムの表面に対して垂直である(すなわちnx=ny、ただしnx及びnyはnzとは異なる)。a−プレート及びc−プレート単軸フィルムの両方は、異常光屈折率「ne」及び常光屈折率「no」の相対値によって、ポジティブ又はネガティブフィルムにさらに細かく分類することができる。ポジティブa−プレート及びc−プレートフィルムは、上記の3つの相互に直交する屈折率の最も大きいものに相当する、別名「遅軸」として知られている光軸を有する。ネガティブa−プレート及びc−プレートフィルムは、上記の3つの相互に直交する屈折率の最も小さいものに相当する、別名「速軸」として知られている光軸を有する。「O−プレート」フィルムという名称の、さらなる単軸フィルムのクラスは、フィルム表面に対して傾いた主光軸を有する。
【0012】
二軸光学フィルム又はプレートとは、3つの不等の相互に直交する屈折率を有する、複屈折光学素子をさす。言い換えれば、nx≠ny≠nzである。二軸光学フィルムを説明するために使用するパラメータには、面内レタデーション(R)及び面外レタデーション(Rth)が含まれる。Rがゼロに近づくにつれて、二軸フィルム又はプレートは、よりc−プレートのように挙動する。典型的な二軸光学フィルム又はプレートのRは、波長550nmで少なくとも5nmである。
【0013】
上記の「遅軸」の定義は、単軸ポジティブa−プレート、単軸ネガティブa−プレート、二軸フィルム及び単軸O−プレートに適用される。ポジティブc−プレートについて、遅軸は、主光軸方向(すなわちフィルム厚さ方向)に等しい。ネガティブc−プレートフィルムについて、nx=ny>nzであるので本当の遅軸はない。
【0014】
本明細書において、2〜10の範囲のような範囲が述べられている場合、その範囲の両端点(例えば2及び10)並びに各数値は、このような値が合理数であるか無理数であるかにかかわらず、特に具体的に除外されていない限り、その範囲内に含められる。
【0015】
本明細書において元素周期表への言及は、CRCプレス社(CRC Press,Inc)により2003年に出版され、著作権のある元素周期表(Periodic Table of the Elements)をさすものとする。また、1又は複数の族へのどの言及も、族に番号をつけるための国際純正応用化学連合(IUPAC)システムを用いるこの元素周期表に反映されている「族」についてであるものとする。
【0016】
反対に述べられている場合を除いて、文脈からの暗示又は当分野の慣習、当分野での全ての部及び百分率は、重量に基づく。米国特許の実務の目的において、あらゆる特許、特許出願、又は本明細書において参照される刊行物の内容は、特に、合成法、定義(本明細書に記載されるどの定義とも矛盾しない程度に)、及び当分野の一般知識の開示に関して、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0017】
用語「含む」及びその派生語は、それと同じ語が明細書に開示されていようといまいと、いかなる追加の成分、段階又は手順の存在も排除するものではない。いかなる疑念も避けるため、本明細書において特許請求される全ての組成物は、用語「含む」を用いて、あらゆる追加の添加剤、アジュバント、又は化合物を(ポリマーであろうとなかろうと)、それと反対の記述がない限り含みうる。その一方、用語「本質的になる」は、後続の詳述の範囲から、実現可能性に絶対必要でないものを除いて、任意のその他の成分、段階又は手順を排除する。用語「からなる」は、具体的に描写されないか又は列挙されない任意の成分、段階又は手順を排除する。用語「又は」は、特に明記されない限り、列挙されたメンバーを個別に意味し、同様に任意の組合せでも意味する。
【0018】
温度は、華氏温度(°F)をその相当する℃とともに表してもよいし、又は、より一般的に、単に℃で表してもよい。
【0019】
本発明のフィルム、特に光学補償フィルムは、好ましくはブロック共重合体、より好ましくはビニル芳香族ブロックとブタジエンブロックの両方が実質的に完全に水素化されている水素化ビニル芳香族/ブタジエンブロック共重合体、さらにより好ましくはビニル芳香族ブロックとブタジエンブロックの両方が実質的に完全に水素化されている水素化スチレン/ブタジエンブロック共重合体を含む。例示する好ましいスチレン/ブタジエンブロック共重合体としては、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)トリブロック共重合体及びスチレン/ブタジエン/スチレン/ブタジエン/スチレン(SBSBS)ペンタブロック共重合体が挙げられ、いずれの場合も該スチレン及びブタジエンブロックは実質的に完全に水素化されている。
【0020】
本明細書において、「実質的に完全に水素化された」とは、水素化より前にビニル芳香族ブロックに存在する少なくとも90%の二重結合が水素化又は飽和され、且つ、水素化より前にジエンブロックに存在する少なくとも95%の二重結合が水素化又は飽和されることを意味する。
【0021】
その該当する教示が参照により本明細書に組み込まれる、Batesらに対する米国特許(USP)第6,632,890号は、ビニル芳香族ブロックと共役ジエンポリマーブロックがその中に重合したブロック共重合体に基づく水素化ブロック共重合体、並びにこのような水素化ブロック共重合体の調製を開示している。このような水素化ブロック共重合体は、少なくとも2ブロックの水素化重合ビニル芳香族モノマー及び少なくとも1ブロックの水素化重合ジエンモノマーを含む。水素化トリブロック共重合体は、2ブロックの水素化重合ビニル芳香族モノマー、1ブロックの水素化重合ジエンモノマーを有し、且つ、30,000〜120,000の全数平均分子量を有する。水素化ペンタブロック共重合体は、3ブロックの水素化重合ビニル芳香族モノマー、2ブロックの水素化重合ジエンモノマーを有し、且つ、30,000〜200,000の全数平均分子量を有する。各水素化ビニル芳香族ポリマーブロックの水素化レベルは90%より大きく、各水素化共役ジエンポリマーブロックの水素化レベルは少なくとも90%である。シリカ担持水素化触媒に重点を置いた芳香族ポリマーの水素化に関するHuculらに対する米国特許第5,612,422号も参照されたい。
【0022】
Hahnfeldらに対する米国特許第6,350,820号には、全数平均分子量(Mn)が30,000〜150,000であり、水素化ジエンブロック長に対する要件が120モノマー単位以下である、類似する水素化ポリマーが開示されている。Hahnfeldらは、同水素化ポリマーを驚くほどごくわずかしか複屈折性がないと特徴づけている。
【0023】
ブロック共重合体は、水素化より前に、好ましくは水素化及びフィルムへの形成の前に、50重量パーセント(重量%)〜80重量%未満の範囲内のスチレン含量及び50重量%〜少なくとも20重量%の範囲内のブタジエン含量を有するスチレン/ブタジエンブロック共重合体である、各百分率は全ブロック共重合体重量に基づいており、合計すると100重量%に等しい。スチレン含量が50重量%より低くなるにつれ、特にそれが40重量%以下となるにつれ、そのようなポリマーから作製されるフィルムの寸法安定性は低くなり始める。スチレン含量の範囲は、より好ましくは55重量%〜80重量%未満、さらにより好ましくは60重量%〜80重量%未満である。逆に、ブタジエン含量の範囲は、より好ましくは45重量%〜少なくとも20重量%、さらにより好ましくは40重量%〜少なくとも20重量%である。ブロック共重合体は、40,000〜150,000の範囲内のMnを有することが好ましい。Mnの範囲は、より好ましくは40,000〜120,000、さらにより好ましくは40,000〜100,000、さらにより好ましくは50,000〜90,000である。40,000未満のMnをもつポリマーから作製されるフィルムは一般に望ましい程度より低い、「不十分」ともいう、物理的若しくは機械的特性を有する。150,000を上回るMnのポリマーからフィルム又は成形品を作製することは、40,000〜150,000の範囲内のMnのポリマーからそのようなフィルム又は成形品を作製するよりも一層困難である傾向がある。ブロック共重合体は、トリブロック共重合体又はペンタブロック共重合体であることが好ましく、ペンタブロック共重合体を使用すると特に良好な結果が得られる。例として、ビニル芳香族モノマーがスチレンであり(「S」と表される)、ジエンモノマーがブタジエンである(「B」と表される)場合、トリブロック共重合体は、SBSとして表すことができ、ペンタブロック共重合体はSBSBSと表すことができる。言い換えれば、ブロック共重合体は、重合したビニル芳香族モノマー(例えばポリスチレン)ブロックを、水素化より前にそのポリマーの両端に有する。2又はそれ以上のブロック共重合体のブレンド(例えば2又はそれ以上のトリブロック共重合体、2又はそれ以上のペンタブロック共重合体又は少なくとも1つのトリブロック共重合体と少なくとも1つのペンタブロック共重合体)を必要に応じて使用してもよい。
【0024】
第一及び第二の態様のフィルムが一定量の非ブロック共重合体をさらに含むように、非ブロックポリマー又は共重合体をブロック共重合体(1又は複数)とブレンドしてもよい。例示する非ブロックポリマー及び共重合体としては、限定されるものではないが、水素化ビニル芳香族ホモポリマー、ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィン共重合体、アクリルポリマー、アクリル共重合体及びそれらの混合物が挙げられる。非ブロックポリマー又は共重合体は、ブロック共重合体とブレンドされると、ブロック共重合体の少なくとも1つの相に混和性であり、且つその相内に封鎖される。非ブロックポリマーの量は、ブロック共重合体と非ブロック共重合体の合計重量に基づいて0.5重量%〜50重量%の範囲内となることが好ましい。この範囲は、より好ましくは1重量%〜40重量%、さらにより好ましくは5重量%〜30重量%である。
【0025】
さらに例示する非ブロック共重合体としては、ビニル芳香族ホモポリマー及びビニル芳香族モノマーと共役ジエンの水素化ランダム共重合体からなる群より選択されるポリマー(例えばホモポリマー、ランダム共重合体又はインターポリマー)が挙げられる。
【0026】
本明細書において、「ホモポリマー」とは、単一のモノマーをその中に重合したポリマー(例えばポリスチレンホモポリマー中のスチレンモノマー)をさす。同様に、「共重合体」とは、2つの異なるモノマーをその中に重合したポリマー(例えばスチレンアクリロニトリル共重合体中のスチレンモノマー及びアクリロニトリルモノマー)をさし、「インターポリマー」とは、3又はそれ以上の異なるモノマーをその中に重合したポリマー(例えばエチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)インターポリマー中のエチレンモノマー、プロピレンモノマー及びジエンモノマー)をさす。
【0027】
一部のブタジエン含量は、1,2−ブタジエンを含む。この部分は好ましくは40重量%未満、より好ましくは30重量%以下、さらにより好ましくは20重量%以下、さらにより好ましくは15重量%以下、一層より好ましくは10重量%以下であり、いずれの場合にも全ブタジエン含量に基づく。1,2−ブタジエン含量が40重量%を上回ると、水素化ビニル芳香族/ジエンブロック共重合体、特に水素化スチレン/ブタジエンブロック共重合体、さらにより特に、水素化スチレン/ブタジエンペンタブロック(SBSBS)共重合体の結晶化度パーセントは、このようなポリマーの光学補償フィルム用途での使用を許容するには低すぎる。結晶化度を欠く水素化スチレン/ジエンブロック共重合体も、結晶化度が非常に低い(例えば、示差走査熱量測定(DSC)分析に基づいて<0.5重量%の結晶化度)水素化スチレン/ジエンブロック共重合体も、補償フィルムの業界標準に適合するために十分高いレタデーションを有するフィルムを、そのようなフィルムを溶融流延により作製するか、フィルム配向を誘導するプロセスにより作製するかに関係なく、生じない。
【0028】
本発明のポリマーフィルムは、光学補償フィルムとしての使用に適したフィルムであることが好ましい。フィルムは、ブロック共重合体、より好ましくは水素化ブロック共重合体、さらにより好ましくは実質的に完全に水素化されたブロック共重合体、さらにより好ましくは完全に水素化されたブロック共重合体を含むことが好ましい。水素化ブロック共重合体は、水素化より前にビニル芳香族ブロックに存在する二重結合の90%が、水素化又は飽和しており、且つ、水素化より前にジエンブロックに存在する二重結合の少なくとも95%が水素化又は飽和しているような水素化率を有することが好ましい。
【0029】
本発明のポリマーフィルムは、特定の物理的特性及び物理的パラメータを有する。例えば、ASTM E−1348法に従って分光光度計を用いて380nm〜780nmの波長範囲で測定される、本フィルムの平均分光透過率は、少なくとも80%である。平均分光透過率は、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも88%である。平均分光透過率が80%未満の場合、そのようなフィルムを補償フィルムとして含むディスプレイは、80%又はそれ以上の平均分光透過率で達成可能な輝度よりも低い輝度を有する傾向がある。
【0030】
また、本発明のポリマーフィルムは、60℃及び相対湿度90%(高湿度条件)又は80℃及び相対湿度59%(高温度条件)で24時間の間の耐久性試験に従って決定される、寸法変化をフィルム長及びフィルム幅の少なくとも一方の1%(パーセント)未満、より好ましくは0.5%以下に制限するために十分な寸法安定性を有する。本フィルムはさらに、15nm以下、好ましくは12nm以下、より好ましくは10nm以下、さらにより好ましくは5nm以下の標準偏差のRに基づくレタデーション均一性を有する。R又は面内レタデーションに対する標準偏差が、非常に高い、例えば15nmを上回る場合、そのようなフィルムを補償フィルムとして組み込んでいる装置の視野角性能は、許容されないレベルまで低下する傾向がある。
【0031】
本発明のフィルム(単層フィルムであっても多層フィルムの少なくとも1つの層であってもよい)の厚さは、10マイクロメートル(μm)〜300μmの範囲内にあることが好ましい。この範囲は、より好ましくは25μm〜250μm、さらにより好ましくは30μm〜150μmである。厚さが10μm未満のフィルムは、特に積層において、取り扱い及び後処理を困難にし、そのためあまり望ましくない。厚さが300μmを超えるフィルムは、厚さが10μm〜300μmのフィルムと比較して、コストを増大させ、また、補償フィルムとして使用するには高すぎるレタデーションを有する可能性がある。
【0032】
本発明のフィルムは、より望ましくは、多くの場合好ましくは、一定量のレタデーション上昇剤をさらに含む。本明細書において、「レタデーション上昇剤」とは、光学ポリマーフィルムの面内レタデーションR又は面外レタデーションRthを、レタデーション上昇剤を用いない同じ光学ポリマーフィルムと比較して、少なくとも20nm変えることができる添加剤を意味する。この量は、いずれの場合にもポリマー(ブロック共重合体及び、存在する場合には、非ブロックポリマー)及びレタデーション上昇剤の総重量に基づいて、好ましくは0.01重量%〜30重量%、より好ましくは0.1重量%〜15重量%、さらにより好ましくは0.5重量%〜10重量%の範囲内である。
【0033】
例示するレタデーション上昇剤としては、ロッド形状又はディスク形状を有する化合物が挙げられる。これらの薬剤は一般に少なくとも2つの芳香環を有する。ロッド形状の化合物は、線状の分子構造を有することが好ましい。ロッド形状の化合物はまた、液晶特性を、特に加熱した場合に(すなわちサーモトロピック液晶)を示すことが好ましい。液晶特性は、例えば、液晶相で、好ましくはネマチック相又はスメクチック相で現れる。多数の参照文献がロッド形状の化合物を考察している。例えば、Journal of the American Chemical Society (J. Amer. Chem. Soc), volume (vol.) 118, page 5346 (1996); J. Amer. Chem. Soc, vol. 92, page 1582 (1970); Molecular Crystals Liquid Crystals (Mol. Cryst. Liq. Cryst.), vol. 53, page 229 (1979); Mol. Cryst. Liq. Cryst., vol. 89, page 93 (1982); Mol. Cryst. Liq. Cryst., vol. 145, page 11 1 (1987); Mol. Cryst. Liq. Cryst., vol. 170, page 43 (1989); 及び Quarterly Review of Chemistry by The Chemical Society of Japan, No 22, 1994を参照のこと。
【0034】
ディスク形状のレタデーション化合物は、芳香族複素環基を芳香族炭化水素環に加えて有することが好ましい。適したレタデーション上昇剤の例としては:C.DestradeらによりMolecular Crystallography (Mol. Cryst.), vol. 71, page 111 (1981) において開示されるベンゼン誘導体;C.DestradeらによりMol. Cryst., vol. 122, page 141 (1985) において開示されるトルキセン誘導体;B.Kohneらにより Angew. Chem., vol. 96, page 70 (1984) において開示されるシクロヘキサン誘導体;並びにJ.ZhangらによりJ. Am. Chem. Soc, vol. 1 16, page 2655 (1994) において開示されるアザクラウン系及びフェニルアセチレン系大環状分子が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の第一の態様のフィルムは、その未延伸状態で、3つの屈折率、縦方向屈折率(nx)、横方向屈折率(ny)及び厚さ方向屈折率(nz)を有する。屈折率nx、ny及びnzのうち1つは、他の2つの屈折率を上回る大きさを有し、遅軸を構成するはずである。1つの屈折率が他の2つの屈折率を上回る大きさは、好ましくは 少なくとも8×10−5(「最小量」としても公知)、より好ましくは少なくとも0.0001、さらにより好ましくは少なくとも0.001、さらにより好ましくは少なくとも0.002である。0.0001(例えば8×10−5)未満の最小量は、厚さが250μmのフィルムについて25nmの最大レタデーションに等しい。補償フィルムに対する現行の仕様は、25nmを上回るレタデーションを必要とする。
【0036】
本発明の第二の態様の延伸フィルムの結晶化度は、全フィルム重量に基づいて、0.5重量パーセント(重量%)〜20重量%未満である。この結晶化度は少なくとも1重量%であることが好ましい。
【0037】
本発明のフィルムは、第一の態様のフィルムであれ第二の態様のフィルムであれ、波長633nmで25nm〜500nmの範囲内の面内レタデーション(R)を有する。これらのフィルムは、波長633nmで15nm以下の標準偏差Rに基づく面内レタデーション(R)均一性を有することが好ましい。これらのフィルムは、それが未延伸フィルムであるか延伸フィルムであるかに関わらず、単軸か又は二軸の異方性複屈折特性を示し得る。
【0038】
本発明のフィルムは、溶融押出又は溶融流延手順、例えば Plastics Engineering Handbook of the Society of Plastics Industry, Inc., Fourth Edition, pages 156, 174, 180 and 183 (1976)に教示される手順の結果生じることが好ましい。典型的な溶融流延手順としては、ポリマー又はポリマーのブレンドを、固体(例えば粒状又はペレット)状態から溶融状態又は溶融ポリマーに変換するのに十分な、設定点温度、押出機スクリュー速度、押出機ダイギャップ設定及び押出機背圧で動作する、溶融押出機、例えばKillion Extriders,Inc.製造のミニキャストフィルムラインの使用が挙げられる。従来のフィルム形成ダイ、例えば米国特許第6,965,003号(Soneら)に開示される「T−ダイ」又はModem Plastics Handbook, Edited by Modern Plastics; Charles A Harper. (McGraw-Hill, 2000), Chapter 5, Processing of Thermoplastics,64-66頁に開示される「コートハンガーダイ」の使用により、本明細書上記の物理的特性及び性能パラメータに適合するフィルムが得られる。当業者は、単一のフィルム加工パラメータが、結果として生じるフィルム特性を決定するものではないことを容易に理解する。むしろ、望ましいフィルムを得るために複数のパラメータを調節する必要のある、複数のフィルム加工パラメータ(例えば融解温度、流延ロール温度、ダイギャップ、引落比、チルロール温度及びライン速度)並びにフィルム組成(例えばポリマー組成及び存在する場合には添加剤)が十分な相互関係を有する。それらの調節は当業者に十分理解できるものであり、必要以上の実験を設定しない。
【0039】
上記のように、本発明のフィルムは、単層であってもよいし、共押出多層フィルムの1層であってもよい。望ましい場合、本発明のフィルムは、それが単層であるか多層であるかにかかわらず、他の光学フィルムにさらに積層して、延伸ポリマーフィルムでは容易に実現することのできない特有の異方性複屈折特性をもつフィルム構造を形成してもよい。それらの補償フィルム構造の特定の例としては、限定されるものではないが、ポジティブ及びネガティブ二軸プレート、ポジティブ及びネガティブC−プレート、ネガティブ波長分散プレートが挙げられる。ネガティブ波長分散フィルム又はプレートに関して、レタデーションは、短い波長よりも長い波長でのほうがより大きい(例えば、450nmのR<550nmのR<650nmのR)。
【0040】
補償フィルムとして機能するために作製後に延伸する必要のないフィルム(「アズ流延フィルム」としても公知)のための典型的な溶融押出条件としては、TODT−20℃(摂氏温度)〜TODT+35℃、好ましくはTODT−10℃〜TODT+30℃、より好ましくはTODT−10℃〜TODT+28℃の範囲内の温度での、水素化ブロック共重合体樹脂のポリマー溶融物への変換が挙げられる。延伸する予定のフィルムを作製する際には、水素化ブロック共重合体樹脂が熱分解を受ける温度(但しそれ以下)まで温度上限を上げればよい。本明細書において、TODTとは、ブロック共重合体が、別個の周期的な形態的秩序を失い、実質的に均質な溶融物の連鎖(substantially hogeneous melt of chains)に移行する温度を意味する。水素化ブロック共重合体の秩序状態の小角X線散乱(SAXS)画像は高度に異方性である。逆に、水素化ブロック共重合体の無秩序状態のSAXS画像は、個々のポリマー鎖がランダムコイル配置を取り始めるので、検出できる量の異方性を示さない。ポリマー融解温度が、ポリマーのTODTを上回る場合、そのようなポリマー溶融物からの流延フィルムは、非常に透明であり曇り度が非常に低い傾向がある。ポリマー融解温度がポリマーのTODTよりも十分低くなる(例えばTODTを30℃以上下回る)場合、流延フィルムの光透過性は、二次加工(fabrication)条件の影響を受ける可能性がある。一部の例では、そのようなフィルムは、おそらくフィルム表面のマイクロスケールの凹凸に起因して、わずかに曇っているように見える可能性がある。後者の場合、それに続くフィルム配向/延伸工程(二軸か又は単軸)を、そのポリマーのガラス転移温度(Tg)よりも高い温度で用いてこのようなフィルムの透明度を改良してもよい。このようなマイクロスケールの凹凸は、それらのフィルム加工条件での高いポリマー溶融物弾性の結果として生じる可能性があり、ブロック共重合体のマクロ相分離に起因するものではないと思われる。
【0041】
Ian Hamleyは、The Physics of Block Copolymers, pages 29-32, Oxford University Press, 1998においてTODT測定を考察しており、その教示は法的に認められている最大限度まで本明細書に組み込まれる。手短には、秩序無秩序転移は、流動学的手法によるか又は小角X線散乱により、特定することができる。動的流動学的特性により、加熱の際のランプアップの間の低周波弾性率における不連続性を見出すことが可能となる。無秩序化プロセスは非晶質ポリマー溶融物に見出されるので、この現象は融解又はガラス転移とは明らかに区別することができる。あるいは(Alternately)、予期されるTODT前後の温度で周波数掃引を行い、剪断貯蔵弾性率(G’)及び剪断損失弾性率(G”)を周波数に関してプロットすることができる。周波数に対するG’及びG”の傾きは、TODTにて、それぞれ2及び1で融合する。秩序無秩序転移はまた、小角X線ピークのピーク強度とピーク幅の両方における有意な変化としても現れる。この有意な変化が始まる温度はTODTに等しい。当業者は、これら2つの技法(流動学的技法と小角X線散乱技法)の間に、TODTにいくらかの小さな違いが起こりうることを認識する、これは、TODT決定が進むにつれて、ポリマーの内部に起こる変化を評価するために使用する物理的方法が異なってくることに起因する可能性が非常に高い。一連の又はグループ化した全てのポリマーに単一の技法を用いさえすれば、ポリマーをそのTODTによって区別することができる。
【0042】
「未延伸の」(又は「未配向の」)フィルムとは、押出流延(又はカレンダリング)により製造され、そのまま使用されるフィルムを意味する。このようなフィルムの作製は、熱を加えて(例えば、そのフィルムを製造するために用いるポリマーのガラス転移温度又はそれより高い温度で)延伸することによりフィルムを配向する、別個の処理工程を含まない。当業者は、フィルム流延自体とさらなる処理のために流延フィルムをロールに巻き取ることの一方又は両方の間に、流延フィルムにおいてある程度の配向が必然的に生じることを理解する。本発明は、このような避けられない程度の配向を「配向」又は「配向された」の定義から除く。
【0043】
逆に、「延伸された」(又は「配向された」)フィルムの作製は、押出流延(又はカレンダリング)により製造されるフィルムの作製の後に続く別個の処理工程を含まない。この別個の処理工程は、フィルムを、単軸又は二軸で、そのフィルムを製造するために用いるポリマーのガラス転移温度又はそれより高い温度で配向又は延伸することを伴う。フィルム配向又はフィルム延伸の周知の方法についてのさらなる情報に関しては、例えば、John H.Bristonによる標題「Plastic Films」のモノグラフ、 Chapter 8, page 87-89, Longman Scientific & Technical (1988)を参照のこと。
【0044】
溶融押出は本発明のフィルムを二次加工(fabricating)する好ましい手段及びプロセスであるが、必要に応じてそれほど好ましくない技法を使用してもよい。例えば、溶媒の取り扱い及び溶媒の除去は、環境保護的な課題を含めて、さらなる課題であることを認める一方、溶媒流延を用いてもよい。また、圧縮されたフィルムの中の少なくともある程度の不均一な光学を許容する場合、プレスドフィルム(pressed film)手順によってフィルムを作製してもよい。本明細書において、「不均一な光学(non-uniform optics)」とは、光学的レタデーションの大きさに対する15nmを上回る標準偏差か、又は、一つのフィルム領域からもう一つのフィルム領域変化までの遅軸の方向における10度を上回る標準偏差を意味する。
【0045】
本発明のフィルムは、その未延伸(未配向としても公知)状態での使用が見出されることが好ましいとはいえ、このようなフィルムをフィルム縦方向又はフィルム横方向の少なくとも一方に延伸してもよい。当業者は一般に縦方向の配向を押出方向の配向と呼び、横方向の配向を押出方向に対して垂直の配向と呼ぶ。単一方向(例えば縦方向)の配向は、単軸配向フィルムをもたらす。同様に、二方向(例えば縦方向及び横方向)の配向は、同時に行われても又は2つの別個の段階として行われても、2軸配向フィルムをもたらす。当業者は、標準的な配向手順及び配向フィルムと未配向フィルムの両方を取り扱うためのプロセスを容易に理解する。
【0046】
本発明のフィルムは、当業者が容易に理解するように、2つの間隔の置かれた、実質的に平行な主表面を有する。これらの表面は、フラットフィルムに関して、両方とも実質的に平行であり、且つ平面である。本発明の実施形態において、このような主表面の一方又は両方は、その上にコーティングが被着している。このようなコーティングには、例えば、レタデーション上昇剤、偏光変更剤(polarization-modifying agents)及び染料分子からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤が含まれてもよい。本発明のもう一つの実施形態では、本発明のフィルムは、前記添加剤の少なくとも1種をその中に添合している。本発明のさらにもう一つの実施形態では、本発明の被覆フィルムのフィルムはまた、コーティングより前に前記添加剤の少なくとも1種をフィルムの中に添合している。前記添加剤に加えて、フィルムの中に、さらに、一部の例ではフィルムコーティングの中に、1種以上の従来の添加剤、例えば酸化防止剤、紫外(UV)光安定剤、可塑剤、剥離剤又はポリマーフィルムを二次加工する際に使用される任意のその他の従来の添加剤を添合してもよい。
【0047】
本発明のフィルムは、単層フィルムであっても多層フィルムの1以上の層であっても、多様な最終用途適用に有用性を有する。その一つは、液晶ディスプレイであり、フィルムの光学的透明性並びに本明細書に記載されるその他の物理的特性及び性能特性を有利に使用する適用である。液晶ディスプレイとして使用される場合、ディスプレイはVAモードディスプレイか又はIPSモードディスプレイのいずれかである。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は、本発明を例証するものであるが、制限するものではない。全ての部及び百分率は、特に指定のない限り、重量による。全ての温度は℃で表される。本発明の実施例(Ex)はアラビア数字により命名され、比較例(Comp Ex又はCEx)は、大文字のアルファベット文字で命名される。特に指定のない限り、本明細書において「室温」及び「周囲温度」は公称25℃である。
【0049】
230℃の温度で、共重合体のアリコートを最初に圧縮成形して直径25ミリメートル(mm)及び厚さ1.5mmの円形の円盤状試験片とすることによる、水素化スチレンブロック共重合体のTODTの測定。この試験片を動的流動学的特性決定に供して、ひずみ振幅平行平板型レオメータ(ARESレオメータ、TA Instruments,New Castle,DE)を用いる、160℃〜300℃の温度範囲にわたる1分あたり0.5℃の速度での加熱におけるランプアップの間の、低周波弾性率における不連続性を見出す。このような方法で行われるTODT測定の精度は±5℃である。この試験により、160℃〜300℃の温度範囲にわたって低周波弾性率において不連続性のないことが明らかになれば、それはこのポリマーがTODTを欠くというよりはむしろこの温度範囲の外にTODTを有することを意味する。
【0050】
フィルムサンプル表面の中央部分に位置する正方形のフィルム切片(6センチメートル(cm)×6cm)を選択し、複屈折性及び光学レタデーションの少なくとも100の独立した光学レタデーション測定を行うことにより、EXICOR(商標)150ATS(Hinds Instrument)装置及び波長633nmを用いてフィルムサンプルの光学レタデーションを測定する。面内レタデーション(R)の平均及び遅軸の方向を報告し、そのフィルム切片で行った全ての独立した測定値に基づいてRの標準偏差を計算する。
【0051】
DSC分析及びQ1000型示差走査熱量測定計(TA Instruments,Inc.)を使用して、水素化スチレンブロック共重合体又はフィルムサンプルの総重量に対する結晶化度の重量%(X%)を決定する。DSC測定の一般的原理及び半結晶性ポリマーを研究することへのDSCの適用は、標準的なテキストに記載されている(例えば、E. A. Turi, ed., Thermal Characterization of Polymeric Materials, Academic Press, 1981)。
【0052】
Q1000型示差走査熱量測定計は、最初にインジウムを用いて、次に水を用いて、Q1000に推奨される標準的手順に従って較正して、インジウムについての融解熱(Hf)及び融解温度の始まりが、確実にそれぞれ所定の基準(28.71J/g及び156.6℃)の0.5ジュール/グラム(J/g)及び0.5℃以内であり、水についての融解温度の始まりが0℃の0.5℃以内であるようにする。
【0053】
ポリマーサンプルを230℃の温度でプレスして薄膜とする。重量5ミリグラム(mg)〜8mgの一片の薄膜を、示差走査熱量測定計のサンプルパンの中に入れる。パンの蓋をクリンプして密閉雰囲気を確保する。
【0054】
サンプルパンを示差走査熱量測定計のセルの中に入れ、パンの内容物を約100℃/分の割合で230℃の温度まで加熱する。パンの内容物をその温度でおよそ3分間維持し、次にパンの内容物を10℃/分の割合で−60℃の温度まで冷却する。パンの内容物を等温的に−60℃で3分間保持し、次に、「二次加熱」と表される段階で、内容物を10℃/分の割合で230℃まで加熱する。
【0055】
上記のポリマーフィルムサンプルの二次加熱の結果生じるエンタルピー曲線を、ピーク融解温度、開始及びピーク結晶化温度、及びHf(融解熱としても公知)について分析する。ジュール/グラム(J/g)の単位で表されるHfを、直線状のベースラインを使用することにより、融解の始まりから融解の終わりまでの融解吸熱下面積を積分することにより測定する。
【0056】
100%結晶性ポリエチレンは、当分野で認識されるHfである292J/gを有する。水素化スチレンブロックコポリマー又はフィルムサンプルの総重量に対する結晶化度の重量%(X%)を、次の方程式を用いて計算する。
X%=(Hf/292)×100%
【0057】
水素化より前に水素化スチレンブロック共重合体の1,2−ブタジエン(1,2−ビニルとしても公知)含量を、核磁気共鳴(NMR)分光学、及び10秒のパルス遅延で動作するVarian INOVA(商標)300NMRスペクトロメーターを用いて測定して、定量的組込み、及び1ミリリットルの重水素化クロロホルム(CDCl3)溶媒中およそ40ミリグラムのポリマーサンプルのための、プロトンの完全な緩和を確実にする。1,4−二重結合領域の化学シフトが100万分の5.2〜6.0部(ppm)の間に収まり、1,2−二重結合領域の化学シフトが4.8ppm〜5.1ppmの間に収まる、テトラメチルシラン(TMS)標準と比較した化学シフトを報告する。1,2−二重結合領域のピークを積分して値を決定し、その値を2で除算し、それを「A」と命名する。1,4−二重結合領域のピークを積分して第2の値を決定し、その第2の値とAとの差を決定した後、その差を2で除算し、それを「B」と命名する。1,2−ビニル又は1,2−ブタジエン含有率(%1,2)を、次式に従って計算する。
%1,2=(A/(A+B))×100%
【0058】
下の表1は、次の実施例及び比較例で用いられる水素化スチレンブロック共重合体材料を要約したものである。表1に示される材料に加えて、Hと表される材料は、ZEONOR(商標)1060Rの商標名で日本ゼオン社より市販されている環状オレフィンポリマーである。表1において、1,2−ビニル含量(1,2−ブタジエン含量としても公知)は、水素化より前にポリマー中に存在する全ブタジエン含量に対する百分率として示される。
【表1】

【0059】
実施例1
下の表2に示されるような押出機運転条件及び溶融流延パラメータを用いて、材料Aを、同様に表2に示される50マイクロメートル(μm)又は2ミル(0.002インチ)の目標厚さの未延伸単層ポリマーフィルムに変換する。加えて、表2には、R(単位はnm)、R標準偏差(単位はnm)、デルタ(n)(×10−3)、遅光軸(θ)(単位は度)、及びθの標準偏差(単位は度、フィルム押出方向に対して測定)のデータが示される。デルタ(n)(×10−3)=R/d(式中、d=フィルム厚さ(単位はμm))。デルタ(n)は、フィルム面の複屈折の大きさを表す。
【0060】
実施例2〜23及び比較例A〜E
実施例1を下の表2に示される変化を加えて反復する。
【表2】

【0061】
表2に表されるデータは、適当な組成のスチレンブロック共重合体(すなわちMn、スチレン含有率)及び微小構造(例えば、1,2−ビニル含量率)を選択することにより、さらなる配向若しくは延伸段階を使わずに、25nm〜約250nm(例えば35.5nm(実施例14)〜240nm(実施例6))の範囲内に収まるR値をもつ溶融流延フィルムを作製することができることを実証する。さらに、フィルムレタデーション(R)値は実質的に均一であり(Rの標準偏差は2.9nm(実施例4)〜13.5(実施例7)であり、14例のうち11例が10nm未満のRvの標準偏差を示す)。加えて、遅軸(面内)(θ)は、フィルム全域にわたりフィルム押出条件とほぼ同一直線上(co-linear with)(すなわち縦方向)である。実施例1〜実施例23のフィルムは、液晶ディスプレイの視野角向上のための補償フィルムとして、又はその他のディスプレイ装置のための光学補償板としての使用に適している。
【0062】
実施例1〜23とは対照的に、水素化スチレンブロック共重合体中のスチレンの百分率が80重量%より大きい場合(比較例C)又は水素化スチレンブロックコポリマー中の1,2−ビニル含有率が40重量%以上である場合(比較例D)、結果として生じるフィルムは、低すぎる光学レタデーション値(それぞれ1.6nm及び0.7nm)を有し、ランダム又は実質的に不均一な遅軸方向を示す。このようなフィルムは、さらなる加工、例えば配向などを行わずに補償フィルムとしての使用が示唆されるほど十分な特性を有さない。
【0063】
環状オレフィンポリマー樹脂(比較例E)も、補償フィルム用途において流延フィルムとしての使用を可能にするために十分な特性、特にR及びθ、を有する溶融流延フィルムを生じることができない。情報及び信念に基づいて、このような環状オレフィンポリマーフィルムは、それらを補償フィルム用途での使用に適したものにするために、さらなる処理工程(主に延伸又は配向)を必要とする。本明細書において、「環状オレフィンポリマー」とは、1以上のモノマー単位(例えばホモポリマー又は共重合体)を含むポリマーをさす。例えば、Masahiro Yamazaki, 「Industrialization and Application Development of Cyclo Olefin Polymer」, Journal of Molecular Catalysis A: Chemical, Volume 213, pages 81-87 (2004)を参照のこと。
【0064】
また、表2中のデータは、水素化スチレンブロック共重合体フィルムがそのフィルムを補償フィルムとしての使用に適したものにする光学レタデーションを有するかどうかを決定するのに溶融加工条件が役立つことも実証する。実施例2〜実施例4と比較して比較例A〜Bに示されるように(それらは全て同じ樹脂を使用する)、TODTに対して高すぎる溶融若しくは押出温度(比較例Aについて+36℃、比較例Bについて+45℃)でフィルムを溶融流延することは、補償フィルム用途において有用となるには低すぎる未延伸フィルムレタデーション(R)をもたらし、一方、低い温度(補償フィルム用途において有用であるには低すぎる実施例2の+11℃、実施例3の+20℃、実施例4の+28℃)で溶融流延することにより、補償フィルム用途に有用な未延伸Rがもたらされる。当業者は、比較例A及び比較例Bのフィルムの配向又は延伸が、それらを補償フィルム用途において有用とするために十分にR値を増加させる可能性のあることを理解する。当業者はまた、配向又は延伸が製造コストを増加させることも理解する。
【0065】
実施例24〜33及び比較例F
実施例1を下の表3に示される変化を加えて反復し、272℃の押出温度(TODT−23℃、流延ロール温度50℃)を用いて樹脂Eから一連の延伸フィルム(実施例24−33)を作製する。各々のフィルムの延伸の前の厚さは100μmである。比較例Fは、同じ樹脂、押出温度及び流延ロール温度を用いて厚さ100μmの未延伸フィルムを作製する。表3中、延伸は、縦方向(M)、横方向(T)又は二軸(B)で表される。実施例24〜33の目的のために、Mは、直交する軸Xを表し、屈折率nxに対応するのに対し、Tは、直交する軸Yを表し、屈折率nyに対応する。
【表3】

【0066】
表3に示されるデータは4つの知見を支持する。第一に、配向又は延伸により、均一な(ランダムでない)光学異方性(実施例24−実施例33)をフィルムに付与することができ、そうでない場合にはフィルムはランダムな光学異方性を有する(比較例F)。比較例Fの不均一な光学異方性は、樹脂EのTODTよりも20℃を上回って低い温度で押出した結果であると思われる。当業者は、均一方向の光学異方性が補償フィルム用途に重要な要件であることを理解する。第二に、配向によりR値は増加する。第三に、実施例24及び実施例24と比較して実施例26に示されるように、単に延伸比の大きさを変えることにより、異なる面内光学異方性を生成することができる。上記の情報及び信念を踏まえると、この延伸比の大きさを変えることにより面内光学異方性を変える能力は、水素化ビニル芳香族ブロック共重合体に特有のものであると思われる。第四に、実施例27及び実施例28は、意外にも、二軸異方性が、単軸配向又は延伸並びに実施例29で使用した二軸配向から得られることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーフィルムであって、前記フィルムが、複屈折性が0.001〜0.05の範囲内であり、面内レタデーション(R)が波長633ナノメートルで25ナノメートル〜500ナノメートルの範囲内であり、且つ、その未延伸状態において、3つの相互に直交する屈折率、nx、ny及びnzを有し、ただし、それらの屈折率のうちの1つが他の2つの屈折率を上回る大きさを有し、遅軸を構成し、その遅軸は、一つのフィルム領域からもう一つのフィルム領域まで標準偏差の10度以内で一貫している方向を有する、ポリマーフィルム。
【請求項2】
延伸ポリマーフィルムであって、前記フィルムが、全フィルム重量に基づいて、0.5重量%〜20重量%未満の結晶化度を有するポリマーを含み、複屈折性が波長633ナノメートルで0.001〜0.05の範囲内であり、面内レタデーション(R)が波長633ナノメートルで25ナノメートル〜500ナノメートルの範囲内である、延伸ポリマーフィルム。
【請求項3】
前記フィルムが、波長633nmで15ナノメートル以下の標準偏差Rに基づく面内レタデーション(R)均一性を有する、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記結晶化度が少なくとも1パーセントである、請求項2に記載のフィルム。
【請求項5】
前記フィルムがブロック共重合体を含む、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
前記ポリマーがブロック共重合体である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項7】
前記ブロック共重合体が、ビニル芳香族ブロックとブタジエンブロックの両方が実質的に完全に水素化されている水素化ビニル芳香族/ブタジエンブロック共重合体である、請求項5又は6に記載のフィルム。
【請求項8】
前記ビニル芳香族/ブタジエンブロック共重合体が、スチレン/ブタジエンブロック共重合体である、請求項7に記載のフィルム。
【請求項9】
前記スチレン/ブタジエンブロック共重合体が、スチレン/ブタジエン/スチレンのトリブロック共重合体及びスチレン/ブタジエン/スチレン/ブタジエン/スチレンのペンタブロック共重合体の少なくとも1つである、請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
前記フィルムが、その未延伸状態で、屈折率nx、ny及びnzの少なくとも1つが、その他の屈折率のうちの少なくとも1つと少なくとも8×10−5異なっている、請求項1に記載のフィルム。
【請求項11】
前記ブロック共重合体のスチレン含量が、水素化より前に、50重量%〜80重量%未満までの範囲内であり、ブタジエン含量が50重量%〜20重量%の範囲内であって、各百分率は全ブロック共重合体重量に基づき、合計すると100重量%に等しい、請求項8に記載のフィルム。
【請求項12】
前記ブロック共重合体の数平均分子量が、40,000〜150,000の範囲内である、請求項8に記載のフィルム。
【請求項13】
前記フィルムの平均分光透過率が、ASTM 方法E−1348に従って、分光光度計及び380ナノメートル〜780ナノメートルの波長範囲を用いて、少なくとも80%である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項14】
60℃及び相対湿度90%、又は80℃及び相対湿度5%で24時間の期間の耐久性試験に従って決定される前記フィルムの寸法安定性が、寸法変化を、フィルム長さ方向及びフィルム幅方向の少なくとも一方で1%パーセント未満に制限するために十分である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項15】
前記フィルムが、単層フィルム又は多層フィルムの少なくとも1つの層である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項16】
前記フィルムが、一定量の非ブロック共重合体をさらに含む、請求項5又は6に記載のフィルム。
【請求項17】
前記量が、ブロック共重合体及び非ブロック共重合体の合計重量に基づいて、0.5重量%〜50重量%の範囲内である、請求項16に記載のフィルム。
【請求項18】
前記面内レタデーション(R)が、波長633nmで25ナノメートル〜250ナノメートルの範囲内である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項19】
前記屈折率の差が、少なくとも1×10−4である、請求項10に記載のフィルム。
【請求項20】
前記非ブロック共重合体が、水素化ビニル芳香族ホモポリマー、ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィン共重合体、アクリルポリマー、アクリル共重合体及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項16に記載のフィルム。
【請求項21】
レタデーション上昇剤、偏光変更剤(polarization-modifying agents)、及び染料分子からなる群より選択される一定量の添加剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項22】
前記フィルムの少なくとも1つの主平面のコーティングをさらに含む、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項23】
前記コーティングが、レタデーション上昇剤、偏光変更剤、及び染料分子からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含む、請求項22に記載のフィルム。
【請求項24】
請求項1又は2に記載の前記フィルムを含む液晶ディスプレイ。
【請求項25】
前記ディスプレイが、VAモードディスプレイか又はIPSモードディスプレイである、請求項24に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項26】
請求項1から23のいずれか一項に記載の前記フィルムを含む画像表示装置。
【請求項27】
請求項1から23のいずれか一項に記載の前記フィルムを含む偏光子組立体。

【公表番号】特表2011−503342(P2011−503342A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534987(P2010−534987)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/076582
【国際公開番号】WO2009/067290
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】