説明

光学補償板とその製造方法及び液晶表示装置

【課題】金属酸化物(無機材料)の水分吸着をより十分に抑制した光学補償板とその製造方法、及びこの光学補償板を備えた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】基板11上に無機金属酸化物からなる光学補償層12を有し、光学補償層12の、基板11と反対の側に、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤による表面修飾層14が設けられている光学補償板10である。表面修飾層14は光学補償層12を直接修飾しており、光学補償層12上には反射防止層13が積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償板とその製造方法及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学補償板として、例えば液晶表示装置の光学補償を行うために使用される位相差補償板が知られている。従来、このような位相差補償板における位相差補償層(光学補償層)は、主に有機材料で形成されていた。ところが、位相差補償層を有機材料で形成した場合、この位相差補償層は使用環境や使用時間等によって劣化し易いといった問題がある。特に、この有機材料で形成された位相差補償層を有する液晶表示装置をプロジェクタのライトバルブとして用いた場合、ライトバルブには高い照度の光が照射されるため、位相差補償層はより劣化し易くなっている。
【0003】
そこで、近年では位相差補償層を無機材料で形成する試みがなされている。このように位相差補償層を金属酸化物等の無機材料で形成することで、耐熱性及び耐光性を向上することができる。
ところが、金属酸化物からなる無機材料は水分を吸着し易いため、例えば環境中の湿気(水分)を吸着したり、逆に熱的影響を受けて水分を脱着したりする。すると、このように吸着している水分の量が変動することで、光学特性(例えばリタデーション値)も変化してしまう。
【0004】
すなわち、吸着量(吸湿量)が多くなると位相差が小さくなり、吸着量(吸湿量)が少なくなると位相差が大きくなってしまう。その結果、このような位相差補償板(光学補償板)を用いた液晶表示装置では、周囲環境の湿度によって表示コントラストが変動してしまうおそれがある。
このような背景のもとに、金属酸化物(無機材料)の水分吸着(吸湿)を抑制するため、金属酸化物層をシランカップリング剤で表面処理した光学フィルムが知られている(例えば特許文献1参照)。また、帯電防止皮膜の金属酸化物系の導電材をシランカップリング剤で表面修飾した光学フィルムも知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−176025号公報
【特許文献2】特開2010−044417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単にシランカップリング剤で表面処理しただけでは、水分吸着が十分に抑制されたものとはならず、したがってこの光学フィルム(光学補償板)を用いた液晶表示装置の、周囲環境の湿度に起因する表示コントラストの変動を抑制するには未だ不十分である。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、金属酸化物(無機材料)の水分吸着をより十分に抑制した光学補償板とその製造方法、及びこの光学補償板を備えた液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学補償板は、基板上に無機金属酸化物からなる光学補償層を有し、
前記光学補償層の、前記基板と反対の側に、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤による表面修飾層が設けられていることを特徴としている。
また、本発明の光学補償板の製造方法は、基板上に無機金属酸化物を付着して光学補償層を形成する工程と、
前記光学補償層の、前記基板と反対の側を、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤によって表面修飾し、表面修飾層を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0009】
この光学補償板及びその製造方法によれば、無機金属酸化物からなる光学補償層に対して、疎水性の強いフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤による表面修飾層を設けているので、フルオロアルキル基の撥水機能により、金属酸化物(無機材料)の水分吸着をより十分に抑制することができる。したがって、光学補償板の位相差の変動を抑制することができる。
【0010】
また、前記光学補償板において、前記表面修飾層は、前記光学補償層を直接修飾しているのが好ましい。
さらに、前記光学補償板の製造方法において、前記表面修飾層を形成する工程は、前記光学補償層を直接修飾するのが好ましい。
このようにすれば、光学補償層を形成する無機金属酸化物の水分吸着がより確実に抑制される。
【0011】
また、前記光学補償板においては、前記光学補償層上に反射防止層が積層されているのが好ましい。
さらに、前記光学補償板の製造方法においては、前記光学補償層上に反射防止層を積層する工程を、含んでいるのが好ましい。
このようにすれば、光学補償板の光学特性が高まる。
【0012】
また、前記光学補償板においては、前記光学補償層上に反射防止層が積層されており、
前記表面修飾層は、前記反射防止層を修飾することで、前記光学補償層を間接的に修飾していてもよい。
さらに、前記光学補償板の製造方法においては、前記光学補償層上に反射防止層を積層する工程を含み、
前記表面修飾層を形成する工程は、前記反射防止層を修飾することで、前記光学補償層を間接的に修飾するようにしてもよい。
このようにすれば、シランカップリング剤は反射防止層の内部にまで浸透しにくいので、光学補償層の位相差に影響を与えることなく、光学補償層での水分吸着が抑制される。
【0013】
また、前記光学補償板においては、前記表面修飾層に、ヘキサメチルジシラザンからなる第2の表面修飾層が混在しているのが好ましい。
さらに、前記光学補償板の製造方法においては、前記表面修飾層上を、ヘキサメチルジシラザンで処理して前記表面修飾層にヘキサメチルジシラザンからなる第2の表面修飾層を混在させる工程を、含んでいるのが好ましい。
光学補償層の、前記基板と反対の側が、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤による表面修飾層によって十分に表面修飾されることなく、部分的に非修飾箇所が残っても、反応性が高く、しかもアルキル基の炭素数が少なく立体障害の影響を受けにくいヘキサメチルジシラザンで表面修飾されることにより、前記の非修飾箇所が表面修飾され、これによって金属酸化物(無機材料)の水分吸着がより十分に抑制される。
【0014】
本発明の液晶表示装置は、液晶層を挟持する一対の基板を備える液晶表示装置であって、前記光学補償板を備えてなることを特徴としている。
このようにすれば、金属酸化物(無機材料)の水分吸着がより十分に抑制され、したがって位相差の変動が抑制された光学補償板を備えてなるので、周囲環境の湿度に起因して表示コントラストの変動するのが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る液晶表示装置の一例を示す側断面図である。
【図2】本発明の光学補償板の一実施形態の要部側断面図である。
【図3】真空成膜装置(蒸着装置)の概略構成図である。
【図4】(a)は光学補償層の模式図、(b)はOプレートの光学異方性の説明図である。
【図5】(a)、(b)は表面修飾層を説明するための模式図である。
【図6】本発明の光学補償板の他の実施形態の要部側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0017】
図1は、本発明に係る液晶表示装置の一例を示す側断面図であり、図1中符号1は液晶表示装置である。この液晶表示装置1は、素子基板2と、素子基板2と対向して配置された対向基板(カラーフィルタ基板)3と、素子基板2と対向基板3との間に配置された液晶層4と、素子基板2に設けられた第1配向膜5と、素子基板2に設けられた第1偏光膜6と、対向基板3に設けられた第2配向膜7と、対向基板3に設けられた第2偏光膜8とを備えて構成されている。また、この液晶表示装置1は、素子基板2に設けられた光学補償板9と、対向基板3に設けられた光学補償板10とを備えている。なお、この液晶表示装置1は透過型であり、対向基板3側が光の入射側、素子基板2側が光の出射側となっている。なお、反射型の場合は出射側の光学補償板9が削除される。
【0018】
素子基板2は、透明基板(図示せず)を基体としたアクティブマトリクス型のものである。この素子基板2の内面側(液晶層4側)には、薄膜トランジスター(TFT)等のスイッチング素子や、データ線、走査線等の各種配線等を有してなる素子形成層(図示せず)が設けられている。TFTは、データ線を介して画像信号の供給源と電気的に接続されており、走査線を介して制御信号の供給源と電気的に接続されている。また、前記の素子形成層上には、ITOからなる島状の画素電極(図示せず)が多数形成されている。これら画素電極は、前記TFTと電気的に接続されている。なお、反射型の場合、画素電極はITOの代わりにAlやAgなどの反射材料が使われる。
【0019】
第1配向膜5は、素子基板2の液晶層側4の面に、前記画素電極を覆って形成配置されたもので、例えばSiOx(SiO、SiOなど)等の珪素酸化物、Al、ZnO、MgO、及びITO等の金属酸化物等を含む無機材料で形成されたものである。
光学補償板9は、素子基板2の、第1配向膜5が形成された面とは反対側の面、すなわち外面(液晶層4と反対側の面)に設けられたもので、基材(基板)上に無機材料の酸化物(金属酸化物)からなる位相差層(光学補償層)を形成したものであり、Oプレートとして機能するものである。無機材料としては、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、及びハフニウム(Hf)等が上げられる。すなわち、位相差層は、例えばSiO、Al、Ta、TiO、HfOの金属酸化物からなっている。
第1偏光膜6は、光学補償板9の外面に配置されたもので、例えばポリビニルアルコール(PVA)等によって形成されたものである。
【0020】
対向基板3は、透明基板(図示せず)を基体としたもので、その内面側(液晶層4側)に着色パターン(カラーフィルタ)、ブラックマトリクス、及び保護膜等を形成したものである。また、さらにその内面側には、ITOからなる共通電極(図示せず)が形成されており、共通電極上には第2配向膜7が設けられている。
【0021】
第2配向膜7は、共通電極を覆って形成配置されたもので、前記第1配向膜5と同様に、例えばSiOx(SiO、SiOなど)等の珪素酸化物、Al、ZnO、MgO、及びITO等の金属酸化物等を含む無機材料で形成されたものである。
光学補償板10は、本発明の一実施形態となるもので、対向基板3における、第2配向膜7が配置された面と反対側の面、すなわち外面(液晶層4と反対側の面)に設けられたものである。
【0022】
この光学補償板10は、要部側断面図である図2に示すように、ガラス等からなる透明な(透光性の)基板11上に光学補償層12を形成し、さらに光学補償層12上に反射防止層13を形成したものである。光学補償層12は、前記光学補償板9と同様にOプレートからなる位相差層として機能するもので、SiO、Al、Ta、TiO、HfO等の無機金属酸化物によって形成されたものであり、これによって特にOプレートとして機能するようになっている。
【0023】
また、本実施形態では、この光学補償層12の表面に、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤による表面修飾層14が設けられている。なお、これら光学補償層12及び表面修飾層14については、後述する製造方法において詳しく説明する。
図1に示した第2偏光膜8は、光学補償板10の外面に配置されたもので、第1偏光膜6と同様に、例えばポリビニルアルコール(PVA)等によって形成されたものである。
【0024】
前記画素電極及び共通電極は、透明電極であって、例えばインジウム錫オキサイド(ITO)によって形成されている。なお、ITOに代えて、インジウムオキサイド(IO)や酸化スズ(SnO)等で形成することもできる。
液晶層4は、液晶分子を含んで形成されたものである。液晶分子としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶など、配向可能なものであればいかなる液晶分子でも使用可能である。
【0025】
次に、前記構成からなる液晶表示装置1の製造方法に関して、特に光学補償板10の製造方法について説明する。
まず、図2に示したように基板11を用意し、これの一方の側の面に光学補償層12を形成する。光学補償層12の形成については、真空成膜装置を用いた真空プロセスで基板11上に前記の無機金属酸化物、例えばSiOの成膜を行い、光学補償層12を形成する。
【0026】
具体的には、図3に示す真空成膜装置(蒸着装置)50内において、SiOを斜方蒸着し、光学補償層12を形成する。その場合に、まず、基板11をその成膜面と該被成膜面に対する成膜材料の入射方向とのなす角度(入射角度)が90度未満の所定角度となるように設定する。そして、被成膜面に成膜材料(SiO)の斜方結晶を成長させ、所望の斜方柱状構造(カラム)を有する膜を形成する。
【0027】
ここで、図3に示す蒸着装置50は、成膜材料を基板11に供給する蒸着源51と、基板11を保持しつつ、蒸着源51からの蒸気が供給可能な位置を含む所定領域内で基板11を移動させる基板保持部材52と、蒸着装置50全体の動作を制御する制御装置53とを備えて構成されている。また、蒸着装置50はチャンバー(成膜室)54を備えており、このチャンバー54内で基板11上に蒸着を行うようになっている。チャンバー54には、その内部の圧力や温度等の環境条件を調整する空調ユニット55が設けられている。
【0028】
蒸着源51は、蒸着用材料56を収容する容器(図示せず)と、この容器内を加熱する加熱装置(図示せず)とを有して構成されたものである。このような構成のもとに蒸着源51は、加熱装置によって蒸着用材料56を加熱することにより、生成した蒸気を容器の開口(図示せず)から外側に放出し、基板11の表面に斜め蒸着させるようになっている。なお、蒸着用材料56としては二酸化珪素(SiO)が用いられる。
【0029】
基板保持部材52は、蒸着用材料56の蒸気が供給可能な位置に基板10を位置させるとともに、蒸着処理後、次に処理を行う基板10と入れ代えるため基板10を所定方向に移動させるよう構成されている。
このような構成からなる蒸着装置50にあっては、前述したように蒸着源51の蒸着用材料56を加熱してその蒸気を生成し、該蒸気を基板11の表面(被成膜面)に供給することにより、図4(a)に示すように微視的に見て、基板11上に斜方柱状構造(カラム)12aを有する膜構造の光学補償層12を形成することができる。
【0030】
このようにして形成された光学補償層12は、Oプレートとなり、斜方柱状構造からなる微細構造によって位相差を生じるようになる。したがって、位相差層として機能するようになる。図4(b)は、Oプレート(光学補償層12)の光学異方性を説明するための模式図であり、この図に示すようにOプレートは、nx<ny<nzである2軸の位相差補償板となる。
【0031】
このようにして光学補償層12を形成したら、必要に応じて、基板11とこれに形成した光学補償層12とを洗浄処理する。
洗浄処理としては、例えば純水洗浄、イソプロピルアルコール(IPA)洗浄、Oプラズマ洗浄等のうちから一種以上を選択し、行う。
例えば、光学補償層12に対してOプラズマ洗浄を行う場合、酸素ガスを含む気体中でプラズマを発生させ、そのエネルギーによって、光学補償層12を洗浄する。これにより、光学補償層12の表面に付着した有機物質を除去することができる。
【0032】
また、このようなOプラズマ洗浄の後、光学補償層12を形成した基板11を純水中に浸漬することにより、純水洗浄を行うのが好ましい。このように純水洗浄を行うことにより、SiOからなる光学補償層12の表面には、分極したヒドロキシ基(−OH)、すなわちシラノール基(Si−OH)が均一に生成する。
【0033】
ここで、光学補償層12を形成した直後では、光学補償層12の表面にヒドロキシ基とそれ以外の基又は分子(例えば酸素分子)とが混在している可能性がある。ヒドロキシ基とそれ以外の基又は分子とが混在していると、後述するシランカップリング処理後において、光学補償層12の表面の撥液性(撥水性)が不均一になる可能性がある。そこで、純水洗浄を含む洗浄処理を行い、ヒドロキシ基以外の基又は分子を、ヒドロキシ基に変換する。これにより、光学補償層12の表面にヒドロキシ基(シラノール基)を均一に形成することができる。
続いて、光学補償層12に対して加熱処理を含む乾燥処理を行い、残留している水分、主に物理吸着水を除去する。
【0034】
その後、光学補償層12の表面を、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で表面処理し、表面修飾層14を形成する。
表面修飾層14を形成するには、まず、光学補償層12を形成した基板11を、フルオロアルキル基を有する第1のシランカップリング剤によって処理する。ここで、シランカップリング剤とは、一分子中に有機官能基と加水分解基とを有したもので、これによって無機物と有機物を結び付け、材料の物理的強度や耐久性、接着性などの向上を可能にするものである。そして、前記第1のシランカップリング剤としては、珪素原子(Si)に一つの有機官能基と、無機物と反応する官能基(加水分解基)とを有したもので、以下の式1によって表されるものが用いられる。
YSiX …(式1)
X:珪素原子に結合している加水分解基で、−OR、−Cl、−NR、など(ただし、Rはアルキル基あるいは水素を示す)
Y:有機マトリックスなどと結合する有機官能基で、アルキル基(−R)など
【0035】
使用する第1のシランカップリング剤としては、有機官能基が良好な疎水性(撥水性)を有するフルオロアルキル基であればよく、例えばトリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシランなどが用いられる。
このようなフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で光学補償層12を表面処理すると、図5(a)に示す表面のヒドロキシ基(−OH)に対してシランカップリング剤が置換し、図5(b)に示すように前記シランカップリング剤由来の1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチル基が金属酸化物(−M−O−)の表面に(例えば−Si−O−)を介して結合し、該表面を修飾して表面修飾層14を形成する。
なお、光学補償層12が多孔質である場合には、外界と接する内部の空孔を通して、光学補償層12の内部にまで表面修飾層14を形成することができる。
【0036】
したがって、このような疎水性の強いフルオロアルキル基(1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチル基)で表面を修飾するため、光学補償層12は表面のヒドロキシ基(−OH)、すなわちシラノール基(Si−OH)が少なくなり、これによって水分の吸着やその脱離が抑制されるようになる。その結果、この光学補償層12における位相差の変動が抑制される。なお、フルオロアルキル基は表面エネルギーを下げる作用があり、したがって光学補償層12上に異物が付着してしまうのを防止する、防塵効果も得られる。
【0037】
このような第1のシランカップリング剤による表面処理としては、気相法、液相法のいずれも採用可能である。
気相法としては、例えば光学補償層12を形成した基板11と、第1のシランカップリング剤を入れた容器とをチャンバーに入れ、チャンバー内を閉空間とする。そして、チャンバー内を加熱し、第1のシランカップリング剤の蒸発を促進することにより、この第1のシランカップリング剤の蒸気を光学補償層12表面に接触させ、反応させる。
気相法を採用すれば、特に溶剤を排除した清浄な状態で表面修飾層14を形成できる。また、光学補償層12の側端面からも表面修飾層14を形成することができ、したがって側端面からの水分吸着(吸湿)も抑制されるようになる。
【0038】
また、液相法としては、スピンコート法やフレキソ印刷法、浸漬法(ディッピング法)等が採用可能である。スピンコート法を採用すれば、光学補償層12表面により均一に表面修飾層14を形成することができる。
また、液相法や浸漬法(液相法)を採用すれば、光学補償層12の側端面からも表面修飾層14を形成することができ、したがって側端面からの水分吸着(吸湿)も抑制されるようになる。
【0039】
このようにして表面修飾層14を形成したら、図2に示したように、該表面修飾層14上に例えば誘電体多層膜からなる反射防止層13を形成する。これにより、本発明の一実施形態となる光学補償板10が得られる。
【0040】
このようにして形成された光学補償板10にあっては、無機金属酸化物からなる光学補償層12に対して、疎水性の強いフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤による表面修飾層14を設けているので、フルオロアルキル基の撥水(疎水)機能により、金属酸化物(無機材料)の水分吸着をより十分に抑制することができる。したがって、光学補償板10の位相差の変動を抑制することができる。
【0041】
また、光学補償層12を直接表面処理することで該光学補償層12を直接修飾し、表面修飾層14を形成しているので、光学補償層12を形成する無機金属酸化物の水分吸着をより確実に抑制し、これによって光学補償板10の位相差の変動をより確実に抑制することができる。
また、光学補償層12上に反射防止層13を積層しているので、光学補償板10の光学特性をより高めることができる。
【0042】
また、このような光学補償板10を備えた液晶表示装置1にあっては、金属酸化物(無機材料)からなる光学補償層12の水分吸着がより十分に抑制され、したがって位相差の変動が抑制された光学補償板10を備えてなるので、周囲環境の湿度に起因して表示コントラストの変動するのが抑制され、これによって表示の信頼性が高い優れたものとなる。
【0043】
なお、前記実施形態では、本発明の光学補償板10を、図2に示したように光学補償層12と反射防止層13とを共に含んだ構成として定義したが、本発明の光学補償板とその製造方法はこれに限定されることなく、基板11と表面修飾層14を形成した光学補償層12とからのみ、構成されていてもよい。
【0044】
図6は、本発明の光学補償板の他の実施形態を示す図である。図6に示した光学補償板20が図2に示した光学補償板10と異なるところは、光学補償層12の表面に直接表面修飾層14を形成するのに代えて、反射防止層13の表面を前記第1のシランカップリング剤で表面処理することで、反射防止層13の表面に表面修飾層14を形成している点である。
【0045】
すなわち、本実施形態では、誘電体多層膜からなる反射防止層13の表面に表面修飾層14を形成することで、この表面修飾層14によって光学補償層12を間接的に修飾している。反射防止層13に対する表面処理の方法については、反射防止層13を形成する誘電体多層膜の表面にもヒドロキシ基(−OH)が存在するため、先の実施形態において光学補償層12表面に対して行ったのと同様の手法を採用することができる。その際、反射防止層13や光学補償層12の側端面からも表面修飾層14を形成することができる。したがって、反射防止層13や光学補償層12の側端面からの水分吸着(吸湿)や、反射防止層13と光学補償層12との間の界面からの水分吸着(吸湿)も抑制されるようになる。
【0046】
このような構成の光学補償板20にあっても、光学補償層12に対して表面修飾層14を間接的に設けているので、フルオロアルキル基の撥水(疎水)機能により、金属酸化物(無機材料)の水分吸着をより十分に抑制することができ、したがって、光学補償板10の位相差の変動を抑制することができる。また、シランカップリング剤は緻密な反射防止層13の内部にまで浸透しにくいので、光学補償層12の位相差に影響を与えることなく、光学補償層12での水分吸着を抑制することができる。
【0047】
また、このような光学補償板20を備えた液晶表示装置にあっても、位相差の変動が抑制された光学補償板20を備えてなるので、表示コントラストの変動するのが抑制され、これによって表示の信頼性が高い優れたものとなる。
【0048】
なお、前記実施形態では、光学補償層12に対する表面処理、あるいは反射防止層13に対する表面処理として、第1のシランカップリング剤による処理のみを行い、光学補償層12上、あるいは反射防止層13上に表面修飾層14を形成したが、第1のシランカップリング剤による処理の後、形成した表面修飾層14に対してヘキサメチルジシラザンからなる表面処理を行うようにしてもよい。
【0049】
ヘキサメチルジシラザン[HN(Si(CH]は、第2のシランカップリング剤となるもので、(−Si(CH)基が前記ヒドロキシ基(−OH)中の水素と置換することにより、第2の表面修飾層を形成するようになる。
すなわち、前記の第1のシランカップリング剤は、分子が大きいことなどから立体障害を起こし、図2に示した光学補償層12や図6に示した反射防止層13の表面を十分に修飾できずに、部分的に非修飾箇所を残してしまうおそれがある。また、第1のシランカップリング剤の加水分解基の反応性の低さに起因して、このように部分的に非修飾箇所を残してしまうおそれがある。
【0050】
これに対し、ヘキサメチルジシラザンは反応性が高く、しかもアルキル基の炭素数が少なく立体障害の影響を受けにくいため、これで表面修飾層14を再度表面処理することにより、前記の非修飾箇所を良好に表面修飾することができる。すなわち、前記表面修飾層14中に、ヘキサメチルジシラザンからなる第2の表面修飾層を混在させることができる。
このように表面修飾層14中に第2の表面修飾層を混在させることで、図2に示した光学補償層12や図6に示した反射防止層13の表面を十分に修飾することができ、したがって金属酸化物からなる光学補償層12の水分吸着を十分に抑制し、光学補償板10の位相差の変動をより良好に抑制することができる。
【0051】
なお、第1のシランカップリング剤に対する第2のシランカップリング剤としては、ヘキサメチルジシラザン以外にも、例えば第1のシランカップリング剤より反応性が高いものや、アルキル基の炭素数が少なく立体障害の影響を受けにくいものであれば、種々のものが使用可能である。
【0052】
また、前記実施形態では本発明を透過型の液晶表示装置に適用したが、本発明はこれに限定されることなく、反射型や半透過型の液晶表示装置(液晶表示素子)とその製造方法にも適用可能である。
さらに、本発明に係る光学補償板は、例えばプロジェクタのような投射型の表示装置に用いることもできる。その場合には、図1に示したように液晶表示装置に一体に貼設して用いる構成以外にも、ライトバルブとなる液晶装置から分離して配置される、光学部材としての光学補償板(Oプレート)として用いることもできる。
【0053】
また、前記実施形態では光学補償層12を蒸着法で形成したが、他に例えば、スパッタ法などで光学補償層12を形成することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1…液晶表示装置、2…素子基板、3…対向基板、4…液晶層、9…光学補償板、10…光学補償板、11…基板、12…光学補償層、13…反射防止層、14…表面修飾層、20…対向基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に無機金属酸化物からなる光学補償層を有し、
前記光学補償層の、前記基板と反対の側に、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤による表面修飾層が設けられていることを特徴とする光学補償板。
【請求項2】
前記表面修飾層は、前記光学補償層を直接修飾していることを特徴とする請求項1記載の光学補償板。
【請求項3】
前記光学補償層上に反射防止層が積層されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償板。
【請求項4】
前記光学補償層上に反射防止層が積層されており、
前記表面修飾層は、前記反射防止層を修飾することで、前記光学補償層を間接的に修飾していることを特徴とする請求項1記載の光学補償板。
【請求項5】
前記表面修飾層には、ヘキサメチルジシラザンからなる第2の表面修飾層が混在していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学補償板。
【請求項6】
基板上に無機金属酸化物を付着して光学補償層を形成する工程と、
前記光学補償層の、前記基板と反対の側を、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤によって表面修飾し、表面修飾層を形成する工程と、を含むことを特徴とする光学補償板の製造方法。
【請求項7】
前記表面修飾層を形成する工程は、前記光学補償層を直接修飾することを特徴とする請求項6記載の光学補償板の製造方法。
【請求項8】
前記光学補償層上に反射防止層を積層する工程を、含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の光学補償板の製造方法。
【請求項9】
前記光学補償層上に反射防止層を積層する工程を含み、
前記表面修飾層を形成する工程は、前記反射防止層を修飾することで、前記光学補償層を間接的に修飾することを特徴とする請求項6記載の光学補償板の製造方法。
【請求項10】
前記表面修飾層上を、ヘキサメチルジシラザンで処理して前記表面修飾層にヘキサメチルジシラザンからなる第2の表面修飾層を混在させる工程を、含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学補償板の製造方法。
【請求項11】
液晶層を挟持する一対の基板を備える液晶表示装置であって、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学補償板を備えてなることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−103577(P2012−103577A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253539(P2010−253539)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】