光学部品の光学特性評価方法および装置
【課題】波長フィルタ等の光学部品の従来よりも詳細な評価を可能とする光学特性評価方法および装置を提供することにある。
【解決手段】単一波長で発振する半導体レーザ71からの光がアイソレータ72を介してFBG73に入射され、FBG73からの透過光の光強度を光検出器74にて測定する。ここで、FBG73には温度調節器75が取り付けられ、温度を一定に保持することができる。また、温度調節器75は、温度制御器76によって設定温度を自由に変化することができる。温度調節器75の設定を15℃から35℃まで0.1℃刻みで変化させ、各温度において光検出器74により検出される光強度を、温度係数を用いて各離調における光強度に換算する。反射ピーク波長近傍を除いた周辺波長ではFBG73の影響がないため、周辺波長の光強度を近似的に平均化して、当該平均値によって測定範囲の光強度を規格化することにより、光強度を透過率に換算できる。
【解決手段】単一波長で発振する半導体レーザ71からの光がアイソレータ72を介してFBG73に入射され、FBG73からの透過光の光強度を光検出器74にて測定する。ここで、FBG73には温度調節器75が取り付けられ、温度を一定に保持することができる。また、温度調節器75は、温度制御器76によって設定温度を自由に変化することができる。温度調節器75の設定を15℃から35℃まで0.1℃刻みで変化させ、各温度において光検出器74により検出される光強度を、温度係数を用いて各離調における光強度に換算する。反射ピーク波長近傍を除いた周辺波長ではFBG73の影響がないため、周辺波長の光強度を近似的に平均化して、当該平均値によって測定範囲の光強度を規格化することにより、光強度を透過率に換算できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品の光学特性評価方法および装置に関し、より詳細には、狭帯域な波長特性を有する波長フィルタ等の光学部品の詳細な評価を可能とする光学特性評価方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長変換素子として、非線形光学結晶中で生じる第二高調波発生、和周波発生や差周波発生といった疑似位相整合を用いて信号光の波長を別の波長に変換するものが知られている(特許文献1参照)。図1に、このような従来の擬似位相整合型の波長変換素子を用いた可視光レーザ光源の構成を示す。可視光レーザ光源100は、波長λAの励起光Aを出力する半導体レーザ11と、波長λBの信号光Bを出力する半導体レーザ12と、励起光Aと信号光Bとを合波して出力する光カプラ14と、合波された励起光A及び信号光Bが入力され、波長λCの変換光Cを出力する非線形光学結晶で構成された波長変換素子15とを備える。半導体レーザ11、12には、それぞれ駆動回路16、18及び温度制御回路17、19が接続されている。さらに、半導体レーザ11と光カプラ14との間には、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(以下「FBG」という。)13が挿入されている。例えば、励起光Aを波長λA=0.98μmとし、波長λB=1.307μmの信号光Bを入力した場合は、変換光Cとして波長λC=0.559μmの可視光を和周波発生によって得ることができる。このように、信号光Bを出力する半導体レーザ12に、励起光Aを出力する半導体レーザ11及び波長変換素子15を組み合わせて可視光レーザ光源とすることにより、蛍光顕微鏡等に用いることができる。
【0003】
励起光Aの光源として用いる半導体レーザ11は、DBRレーザ、DFBレーザ等の単一モード発振しているものであることが望ましい。中心波長0.98μmの半導体レーザとして、100mWを超えるような高出力のDBRレーザ又はDFBレーザを安価に入手することができないので、狭帯域な波長特性を有する波長フィルタとして機能するFBG13を用いて波長安定化する。
【0004】
波長変換素子15の位相整合帯域幅が狭いので、FBG13による波長安定化は、波長変換素子15における波長変換を効率良くするための必須の要件である。図2に、波長0.559μmの黄緑色光を和周波発生によって得るための位相整合条件を説明するためのグラフを示す。このグラフは、中心波長0.98μmの半導体レーザ11の発振波長をスキャンしたものであり、横軸に最大出力となるピーク波長をゼロとした離調(detuning)、縦軸に出力(power)を示している。図2によると、疑似位相整合の帯域幅は0.2nm程度であることが分かる。したがって、中心波長0.98μmの半導体レーザの発振波長は、約0.2nmのスペクトル幅内に安定化されている必要がある。
【0005】
FBG13は、ファイバ中に回折格子が描き込まれたものであり、その作製は、紫外線の干渉縞を光ファイバに照射して、紫外線誘起屈折率変化により周期的な屈折率変化を光ファイバ中に形成することで行うことができる。FBG13はファイバと同材料であることから、ファイバと整合性が良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−140214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
変換光Cとして得られる波長0.559μmの出力が大きいことが望まれるため、FBG13を用いて波長安定化された半導体レーザ11が高出力であることが必要である。そのため、FBG13としては、透過率が高く、かつ狭帯域な光学特性が望まれる。換言すれば、反射率が低く、かつ狭帯域な光学特性が必要である。
【0008】
この条件は、反射光を用いて反射率の波長依存性を測定した場合、光量が少ないため測定が困難である。また、透過光を利用して波長依存性を測定した場合、反射が生じる波長での透過光強度とそれ以外の波長での透過光強度を比較すると差分が小さく正確に測定することが困難である。図3に、従来のFBGの光学特性評価装置を示す。10nm以上の半値幅を有する広帯域なスーパー・ルミネッセント・ダイオード(以下「SLD」という。)光源31からの光が、アイソレータ32を介してFBG33に入射され、FBG33からの透過光が光スペクトルを測定する光スペクトルアナライザ34に入射される。ここでは、光学部品は全て光ファイバによってコネクタを介して接続している。FBG33透過後の光スペクトルをSLD光源31自体の光スペクトルによって規格化することで、FBG33の透過スペクトル又は反射スペクトルを求めることが出来る。
【0009】
図4に、波長0.976μmにおいて半値幅60pm、反射率25%と設計されたFBGを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す。横軸は反射ピークとなる波長をゼロとした離調、縦軸は透過率を示す。ここで用いた光スペクトルアナライザ34は、波長分解能が50pm(0.05nm)のものである。離調0pmで透過率が73.3%であることから分かるように、反射ピーク波長975.40nmにおいて半値全幅(図示した曲線と、当該曲線における最大変化量の半値を表す赤線との交点間の幅)64pm、反射率26.7%であり、ほぼ設計通りの特性が得られていることが確認できる。
【0010】
次に、図5に、波長0.976μmにおいて半値幅20pm、反射率25%と設計されたFBG(以下、この特定のFBGを「FBG−A」という。)を図3の光学特性測定装置により評価した結果を示す。光スペクトルアナライザ34の波長分解能として性能上限である10pmのものを用いたところ、反射ピーク波長975.61nmにおいて半値幅20pmであるが反射率33%という結果となり、設計値から大きくずれていることが分かった。
【0011】
さらに、図6に、波長0.976μmにおいて半値幅10pm、反射率5%と設計されたFBG(以下、この特定のFBGを「FBG−B」という。)を図3の光学特性測定装置により測定した結果を示す。光スペクトルアナライザ34の波長分解能は10pmであり、976.63nmを離調ゼロとしてその近傍において測定を行った。5%の反射は光量の変動量にして0.2dBであり、SLD光源31のスペクトル上にリップルと呼ばれる強度変動が同程度の大きさで生じているため、誤差が大きい。また、反射ピーク波長は作製のロットごとに変わるため一定でない。したがって、FBG−Bによる反射ピーク波長および反射量を特定するのは難しく、反射率の決定は困難である。
【0012】
波長変換素子における波長変換を効率良くするために、反射率が低く、かつ狭帯域な光学特性を有するFBGが望ましいが、そのようなFBGを作製するに当たり、反射ピーク波長、半値幅、反射率等の光学特性を正確に評価できる手法がなかったため、作製に大きなバラツキが生じていた。そのため出来上がったFBGを半導体レーザと組み合わせて、その中から特性の良好なものを使用するしか術がなく、大変歩留まりが悪かった。
【0013】
上述の説明は、FBGを例に行ったが、誘電体光フィルタ(誘電体多層膜フィルタ等)、半導体光フィルタその他の狭帯域な波長特性を有する波長フィルタについても同様である。
【0014】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、波長フィルタ等の光学部品の従来よりも詳細な評価を可能とする光学特性評価方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価方法であって、前記光学部品に、光源からの出力光を入射して、前記出力光の前記光学部品透過後の光強度を第1の複数の温度のそれぞれについて測定する透過光強度測定ステップと、温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係から、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出ステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記透過光強度測定ステップの前に、前記出力光の前記光学部品反射後の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて測定する反射光強度測定ステップと、測定した反射光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定ステップとを含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記光源が、波長可変光源であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様において、前記光学部品が、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第5の態様は、光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価装置であって、光源と、前記光源からの出力光が入射される前記光学部品を取り付けるための温度調節器と、前記温度調節器の設定温度を制御する温度制御器と、前記温度調節器に取り付けられる前記光学部品からの透過光の光強度を、前記温度調節器が設定する第1の複数の温度のそれぞれについて測定する光検出器と、温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係として、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記光源と前記光学部品との間に挿入された光分岐回路と、前記光分岐回路に接続され、前記光学部品からの反射光の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて検出する光検出器と、検出した前記反射光の前記光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第7の態様は、第5又は第6の態様において、前記光源が、波長可変光源であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の第8の態様は、第5から第7のいずれかの態様において、前記光学部品が、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、温度変化により光学部品の反射ピーク波長が変化する際の温度係数を用いて、当該光学部品の光学特性を評価することにより、従来よりも詳細な評価が可能となる。本発明による方法および装置によって特性が保証された狭帯域波長フィルタ等の光学部品を用いることで、狭帯域に波長安定化された半導体レーザを歩留まりよく作製でき、バイオ分野等で測定ツールとして用いられる蛍光顕微鏡の小型化や低価格化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来の擬似位相整合型の波長変換素子を用いた可視光レーザ光源の構成を示す図である。
【図2】波長0.559μmの黄緑色光を和周波発生によって得るための位相整合条件を説明するためのグラフである。
【図3】従来のFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図4】波長0.976μmにおいて半値幅60pm、反射率25%と設計されたFBGを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図5】FBG−Aを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図6】FBG−Bを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図7】第1の実施形態によるFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図8】各温度におけるFBG反射後の光スペクトル測定結果を示す図である。
【図9】温度変化に対するFBGのブラッグ波長の変化を示す図である。
【図10】FBG−Aを図7の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図11】図10で得られた結果を15点ごとに平均化し、その値をグラフ化した図である。
【図12】第2の実施形態によるFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図13】温度調整器125の設定温度を15℃から35℃まで0.1℃刻みで変化させたときの反射光強度の測定結果を、図9の温度係数を用いて反射光スペクトルに変換した図である。
【図14】FBG−Bを図12の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図15】第3の実施形態によるFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図16】FBG−Aを980nm帯で発振する半導体レーザに接続した場合の測定結果を示す図である。
【図17】FBG−Bを980nm帯で発振する半導体レーザに接続した場合の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。具体的な数値に言及しつつ説明するが、本発明をこれらの例に限定する意図はない。
【0026】
(第1の実施形態)
図7に、第1の実施形態によるFBGの光学特性測定装置を示す。単一波長で発振する半導体レーザ(「光源」に相当)71からの光がアイソレータ72を介してFBG73に入射され、FBG73からの透過光の光強度を光検出器74にて測定する。半導体レーザ71としては、半値幅がFBG73の半値幅(10pm等)未満のものが好ましく、DFBレーザ等の半値幅が1pm未満のものがより好ましい。ここで、FBG73には温度調節器75が取り付けられ、温度を一定に保持することができる。また、温度調節器75は、温度制御器76によって設定温度を自由に変化することができる。
【0027】
FBGの反射ピーク波長の温度依存性を調べるため、図7の測定系の光源71の代わりに広帯域なSLDを用い、温度制御器76によってFBGの設定温度を変化させ、光検出器74の代わりに光スペクトルアナライザを用いた。温度調節器75を15℃から35℃まで5℃刻み(「第3の複数の温度」に相当)で変化させた時のFBG73反射後の光スペクトル測定結果を並べたものが図8である。各光スペクトルの反射ピーク波長(ブラッグ波長)の温度をグラフ化したのが図9であり、これより、温度変化に対するブラッグ波長の変化の温度係数が6.6pm/℃であることが分かる。したがって、温度調節器75を0.1℃刻みで変化させることによりブラッグ波長を0.66pmだけ変化させることができ、この値を測定分解能としたFBG73の光学特性の測定が可能となる。この温度係数の値は材料によって固有であり、測定波長(ここでは0.976μm)により決まるので一度測っておけばそのまま一定の値として用いることができる。
【0028】
この手法により、中心波長975.61nmの単一波長で発振する半導体レーザ71を用い、波長0.976μmにおいて半値幅20pm、反射率25%と設計された前述のFBG−Aを評価した。温度調節器75の設定を15℃から35℃まで0.1℃刻み(「第1の複数の温度」に相当)で変化させて得られた波長特性を図10に示す。各温度において光検出器74により検出される光強度を、図9の温度係数を用いて各離調における光強度に換算する。「離調」とは、反射ピーク波長をゼロとしてそこからの波長ずれをいう。反射ピーク波長近傍を除いた周辺波長ではFBG73の影響がないため、周辺波長の光強度を近似的に平均化して、当該平均値によって測定範囲の光強度を規格化することにより、光強度を透過率に換算できる。図10では、透過率が最小になる波長を反射ピーク波長として横軸の原点に取っている。
【0029】
半値幅18.0pm、反射率45.9%であることが分かり、波長分解能10pmの光スペクトルアナライザで得られた図5の測定値以上に、設計値である半値幅20pm、反射率25%から大きくずれている。この原因は、図5では波長分解能10pmの間隔におけるデータが1点で表され、その範囲の値を平均化するためである。実際に図10で得られた結果を15点ごとに平均化し、その値をグラフ化したものが図11である。15点をどう選ぶかによって値は若干変わってくるが、図11はその中で反射率が最も小さくなる選び方をした例である。実線は、プロットに対してスムージングを行なった曲線であり、この結果は図5の結果とよく一致している。すなわち、光スペクトルアナライザの最高波長分解能と同程度の波長特性を詳細に測定するには、波長分解能を1桁以上小さくできる本手法が非常に有効である。
【0030】
なお、図7には図示していないが、図10の光学特性の算出は、CPU及びメモリを有するコンピュータ等の光学特性算出手段により行うことができる。図9の温度係数は、当該光学特性算出手段に予め記憶しておくことができる。
【0031】
また、上述の説明では、FBGのブラッグ波長に言及して説明したが、FBG以外の波長フィルタの場合には、その反射ピーク波長がFBGのブラッグ波長に相当する。
【0032】
また、本発明において温度係数を反射ピーク波長の温度変化を測定した値を用いたが、温度係数の値は波長フィルタ等の光学部品を構成する材料によって固有である。既知のデータまたはそれらデータを用いた換算によって使用波長における温度係数が分かれば、図8のような測定を行うことなく、その値を用いてもよい。
【0033】
(第2の実施形態)
図12に、第2の実施形態によるFBGの光学特性測定装置を示す。単一波長で発振する半導体レーザ121からの光がアイソレータ122を介して光カプラ127に接続されている。光カプラ127の透過ポートはFBG123に入射され、FBG123からの透過光の光強度が光検出器124にて測定される。ここで、FBG123には温度調節器125が取り付けられ、温度を一定に保持することができる。また、温度調節器125は温度制御器126によって設定温度を自由に変化することができる。さらに、FBG123からの反射光は、光カプラ127の反射ポートを通って光検出器128にてその光強度が測定できる。
【0034】
この手法により中心波長976.63nmの単一波長で発振する半導体レーザ121を用い、半値幅10pm、反射率5%と設計されたFBG−Bを評価した。FBG−Bの反射量が小さいため、まず反射ピーク波長が半導体レーザ121の波長と同じになる温度を見つけることが重要となる。図13は、温度調整器125の設定温度を15℃から35℃まで0.1℃刻み(「第2の複数の温度」に相当)で変化させたときの反射光強度の測定結果を、図9の温度係数を用いて反射光スペクトルに変換した図である。このグラフも反射ピーク波長をゼロとしてそこからの波長ずれを離調として示している。離調がゼロとなる温度を含むように温度の掃引範囲を決め、透過光スペクトルを測定した結果が図14である。半値幅11.6pm、反射率4.6%であることが測定できた。すなわち、本手法により、測定の難しい狭帯域で低反射率なFBGの波長特性を測定できる。たとえば、半導体レーザ121の電流や温度を調整して、反射ピーク波長が25℃近傍で半導体レーザ121の波長と同じになるように設定し、温度調節器125の温度掃引範囲を0.1℃刻みで変化する15℃から35℃までの範囲とすればよい。
【0035】
なお、図13の反射特性から、FBG−Bのブラッグ波長が半導体レーザ121の出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように温度の掃引範囲を決定する処理は、CPU及びメモリを有するコンピュータ等の温度掃引範囲決定手段により行うことができる。
【0036】
また、図13では、横軸を離調としているが、FBG−Bの反射ピーク波長が半導体レーザ121の出力光の波長となる温度を特定するためには、図9の温度係数を用いた温度から離調への変換は必ずしも必要ではない。
【0037】
(第3の実施形態)
第1の実施形態の図7における単一波長で発振する半導体レーザ71の代わりに、波長可変光源151を用いたものが、図15に示す第3の実施形態に係る光学特性測定装置である。結果としては第1の実施形態と同様であるが、FBG73の反射ピーク波長に合うような半導体レーザ71を選ぶ必要がなくなるため、測定時間の短縮を図ることができる。第2の実施形態の図12における単一波長で発振する半導体レーザ121の代わりに波長可変光源を用いた場合も同様の効果が得られるのは言うまでもない。
【0038】
(第4の実施形態)
図16に、FBG−Aを980nm帯で発振する半導体レーザに接続した場合の測定結果を示す。(a)が電流―光出力特性(以下「I−L特性」という。)、(b)が電流―発振ピーク波長特性(以下「I−λp特性」という。)の図である。半導体レーザは端面反射率を0.1%以下に抑え、半導体レーザ・FBG間の距離は2mにしてある。FBG−Aは反射率が高いために、I−L特性が電流とともに単調増加せず何箇所かで光出力が跳ぶ(減少する)キンクと呼ばれる現象が見られている。それに伴い、I−λp特性も周期的な変動を示した。この時、微分効率と呼ばれるI−L特性の傾き(光出力を電流で微分したもの)を図中に併記しているが、キンクの生じる電流で大きく変動している。このような大きなキンクが生じる半導体レーザを波長変換用の励起用レーザとして使用すると、波長変換光の強度を一定に保つAPC動作を行なうには不都合である。
【0039】
一方、所望の特性が得られていたFBG−Bを上記の半導体レーザに接続した場合の測定結果を図17に示す。図16と同様に、(a)がI−L特性、(b)がI−λp特性の図である。FBG−Bは反射率が低めに抑えられているため、I−L特性で何箇所かキンクは見られるがその跳び量は十分小さく抑えられており、電流とともにほぼ単調増加する好ましい特性が得られた。この場合、微分効率にも大きな変動は表れず緩やかな変化である。またI−λp特性を見ると、発振ピーク波長は電流によって変動せず安定な特性であることがわかった。このような特性を持つ半導体レーザは、波長変換光をAPC動作させて使用することができる。このように本発明の測定方法および装置を用いてFBG―Bのタイプを作製および選別することにより、狭帯域に波長安定化された半導体レーザを歩留まりよく作製することができる。
【0040】
なお、本明細書においては温度調節器を0.1℃刻みで変化させているが、温度調節器を0.1℃よりも小さな刻みで行なう機器を利用すれば、その測定分解能をさらに良くすることができることは言うまでもない。
【0041】
また、本発明で用いる波長可変光源が絶対波長により校正されていれば、その波長を用いてFBGの反射ピーク波長の絶対値が定まることは言うまでもない。
【0042】
また、本発明が波長に関しては任意に使用可能であり、光学部品の接続がレンズ等を介して空間的に行なわれている場合も同様であることは言うまでもない。
【0043】
また、本明細書ではFBGを取り上げて説明を行なったが、誘電体多層膜や半導体、違う材料によるファイバなどによって作製された狭帯域な波長特性を持つ光学部品の特性評価に対しても本発明が有効であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
71、121 半導体レーザ(「光源」に相当)
72、122 アイソレータ
73、123 FBG(「光学部品」に相当)
74、124 光検出器
75、125 温度調節器
76、126 温度制御器
127 光カプラ
128 光検出器
151 波長可変光源(「光源」に相当)
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品の光学特性評価方法および装置に関し、より詳細には、狭帯域な波長特性を有する波長フィルタ等の光学部品の詳細な評価を可能とする光学特性評価方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長変換素子として、非線形光学結晶中で生じる第二高調波発生、和周波発生や差周波発生といった疑似位相整合を用いて信号光の波長を別の波長に変換するものが知られている(特許文献1参照)。図1に、このような従来の擬似位相整合型の波長変換素子を用いた可視光レーザ光源の構成を示す。可視光レーザ光源100は、波長λAの励起光Aを出力する半導体レーザ11と、波長λBの信号光Bを出力する半導体レーザ12と、励起光Aと信号光Bとを合波して出力する光カプラ14と、合波された励起光A及び信号光Bが入力され、波長λCの変換光Cを出力する非線形光学結晶で構成された波長変換素子15とを備える。半導体レーザ11、12には、それぞれ駆動回路16、18及び温度制御回路17、19が接続されている。さらに、半導体レーザ11と光カプラ14との間には、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(以下「FBG」という。)13が挿入されている。例えば、励起光Aを波長λA=0.98μmとし、波長λB=1.307μmの信号光Bを入力した場合は、変換光Cとして波長λC=0.559μmの可視光を和周波発生によって得ることができる。このように、信号光Bを出力する半導体レーザ12に、励起光Aを出力する半導体レーザ11及び波長変換素子15を組み合わせて可視光レーザ光源とすることにより、蛍光顕微鏡等に用いることができる。
【0003】
励起光Aの光源として用いる半導体レーザ11は、DBRレーザ、DFBレーザ等の単一モード発振しているものであることが望ましい。中心波長0.98μmの半導体レーザとして、100mWを超えるような高出力のDBRレーザ又はDFBレーザを安価に入手することができないので、狭帯域な波長特性を有する波長フィルタとして機能するFBG13を用いて波長安定化する。
【0004】
波長変換素子15の位相整合帯域幅が狭いので、FBG13による波長安定化は、波長変換素子15における波長変換を効率良くするための必須の要件である。図2に、波長0.559μmの黄緑色光を和周波発生によって得るための位相整合条件を説明するためのグラフを示す。このグラフは、中心波長0.98μmの半導体レーザ11の発振波長をスキャンしたものであり、横軸に最大出力となるピーク波長をゼロとした離調(detuning)、縦軸に出力(power)を示している。図2によると、疑似位相整合の帯域幅は0.2nm程度であることが分かる。したがって、中心波長0.98μmの半導体レーザの発振波長は、約0.2nmのスペクトル幅内に安定化されている必要がある。
【0005】
FBG13は、ファイバ中に回折格子が描き込まれたものであり、その作製は、紫外線の干渉縞を光ファイバに照射して、紫外線誘起屈折率変化により周期的な屈折率変化を光ファイバ中に形成することで行うことができる。FBG13はファイバと同材料であることから、ファイバと整合性が良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−140214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
変換光Cとして得られる波長0.559μmの出力が大きいことが望まれるため、FBG13を用いて波長安定化された半導体レーザ11が高出力であることが必要である。そのため、FBG13としては、透過率が高く、かつ狭帯域な光学特性が望まれる。換言すれば、反射率が低く、かつ狭帯域な光学特性が必要である。
【0008】
この条件は、反射光を用いて反射率の波長依存性を測定した場合、光量が少ないため測定が困難である。また、透過光を利用して波長依存性を測定した場合、反射が生じる波長での透過光強度とそれ以外の波長での透過光強度を比較すると差分が小さく正確に測定することが困難である。図3に、従来のFBGの光学特性評価装置を示す。10nm以上の半値幅を有する広帯域なスーパー・ルミネッセント・ダイオード(以下「SLD」という。)光源31からの光が、アイソレータ32を介してFBG33に入射され、FBG33からの透過光が光スペクトルを測定する光スペクトルアナライザ34に入射される。ここでは、光学部品は全て光ファイバによってコネクタを介して接続している。FBG33透過後の光スペクトルをSLD光源31自体の光スペクトルによって規格化することで、FBG33の透過スペクトル又は反射スペクトルを求めることが出来る。
【0009】
図4に、波長0.976μmにおいて半値幅60pm、反射率25%と設計されたFBGを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す。横軸は反射ピークとなる波長をゼロとした離調、縦軸は透過率を示す。ここで用いた光スペクトルアナライザ34は、波長分解能が50pm(0.05nm)のものである。離調0pmで透過率が73.3%であることから分かるように、反射ピーク波長975.40nmにおいて半値全幅(図示した曲線と、当該曲線における最大変化量の半値を表す赤線との交点間の幅)64pm、反射率26.7%であり、ほぼ設計通りの特性が得られていることが確認できる。
【0010】
次に、図5に、波長0.976μmにおいて半値幅20pm、反射率25%と設計されたFBG(以下、この特定のFBGを「FBG−A」という。)を図3の光学特性測定装置により評価した結果を示す。光スペクトルアナライザ34の波長分解能として性能上限である10pmのものを用いたところ、反射ピーク波長975.61nmにおいて半値幅20pmであるが反射率33%という結果となり、設計値から大きくずれていることが分かった。
【0011】
さらに、図6に、波長0.976μmにおいて半値幅10pm、反射率5%と設計されたFBG(以下、この特定のFBGを「FBG−B」という。)を図3の光学特性測定装置により測定した結果を示す。光スペクトルアナライザ34の波長分解能は10pmであり、976.63nmを離調ゼロとしてその近傍において測定を行った。5%の反射は光量の変動量にして0.2dBであり、SLD光源31のスペクトル上にリップルと呼ばれる強度変動が同程度の大きさで生じているため、誤差が大きい。また、反射ピーク波長は作製のロットごとに変わるため一定でない。したがって、FBG−Bによる反射ピーク波長および反射量を特定するのは難しく、反射率の決定は困難である。
【0012】
波長変換素子における波長変換を効率良くするために、反射率が低く、かつ狭帯域な光学特性を有するFBGが望ましいが、そのようなFBGを作製するに当たり、反射ピーク波長、半値幅、反射率等の光学特性を正確に評価できる手法がなかったため、作製に大きなバラツキが生じていた。そのため出来上がったFBGを半導体レーザと組み合わせて、その中から特性の良好なものを使用するしか術がなく、大変歩留まりが悪かった。
【0013】
上述の説明は、FBGを例に行ったが、誘電体光フィルタ(誘電体多層膜フィルタ等)、半導体光フィルタその他の狭帯域な波長特性を有する波長フィルタについても同様である。
【0014】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、波長フィルタ等の光学部品の従来よりも詳細な評価を可能とする光学特性評価方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価方法であって、前記光学部品に、光源からの出力光を入射して、前記出力光の前記光学部品透過後の光強度を第1の複数の温度のそれぞれについて測定する透過光強度測定ステップと、温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係から、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出ステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記透過光強度測定ステップの前に、前記出力光の前記光学部品反射後の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて測定する反射光強度測定ステップと、測定した反射光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定ステップとを含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記光源が、波長可変光源であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様において、前記光学部品が、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第5の態様は、光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価装置であって、光源と、前記光源からの出力光が入射される前記光学部品を取り付けるための温度調節器と、前記温度調節器の設定温度を制御する温度制御器と、前記温度調節器に取り付けられる前記光学部品からの透過光の光強度を、前記温度調節器が設定する第1の複数の温度のそれぞれについて測定する光検出器と、温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係として、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記光源と前記光学部品との間に挿入された光分岐回路と、前記光分岐回路に接続され、前記光学部品からの反射光の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて検出する光検出器と、検出した前記反射光の前記光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第7の態様は、第5又は第6の態様において、前記光源が、波長可変光源であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の第8の態様は、第5から第7のいずれかの態様において、前記光学部品が、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、温度変化により光学部品の反射ピーク波長が変化する際の温度係数を用いて、当該光学部品の光学特性を評価することにより、従来よりも詳細な評価が可能となる。本発明による方法および装置によって特性が保証された狭帯域波長フィルタ等の光学部品を用いることで、狭帯域に波長安定化された半導体レーザを歩留まりよく作製でき、バイオ分野等で測定ツールとして用いられる蛍光顕微鏡の小型化や低価格化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来の擬似位相整合型の波長変換素子を用いた可視光レーザ光源の構成を示す図である。
【図2】波長0.559μmの黄緑色光を和周波発生によって得るための位相整合条件を説明するためのグラフである。
【図3】従来のFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図4】波長0.976μmにおいて半値幅60pm、反射率25%と設計されたFBGを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図5】FBG−Aを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図6】FBG−Bを図3の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図7】第1の実施形態によるFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図8】各温度におけるFBG反射後の光スペクトル測定結果を示す図である。
【図9】温度変化に対するFBGのブラッグ波長の変化を示す図である。
【図10】FBG−Aを図7の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図11】図10で得られた結果を15点ごとに平均化し、その値をグラフ化した図である。
【図12】第2の実施形態によるFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図13】温度調整器125の設定温度を15℃から35℃まで0.1℃刻みで変化させたときの反射光強度の測定結果を、図9の温度係数を用いて反射光スペクトルに変換した図である。
【図14】FBG−Bを図12の光学特性評価装置により評価した結果を示す図である。
【図15】第3の実施形態によるFBGの光学特性評価装置を示す図である。
【図16】FBG−Aを980nm帯で発振する半導体レーザに接続した場合の測定結果を示す図である。
【図17】FBG−Bを980nm帯で発振する半導体レーザに接続した場合の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。具体的な数値に言及しつつ説明するが、本発明をこれらの例に限定する意図はない。
【0026】
(第1の実施形態)
図7に、第1の実施形態によるFBGの光学特性測定装置を示す。単一波長で発振する半導体レーザ(「光源」に相当)71からの光がアイソレータ72を介してFBG73に入射され、FBG73からの透過光の光強度を光検出器74にて測定する。半導体レーザ71としては、半値幅がFBG73の半値幅(10pm等)未満のものが好ましく、DFBレーザ等の半値幅が1pm未満のものがより好ましい。ここで、FBG73には温度調節器75が取り付けられ、温度を一定に保持することができる。また、温度調節器75は、温度制御器76によって設定温度を自由に変化することができる。
【0027】
FBGの反射ピーク波長の温度依存性を調べるため、図7の測定系の光源71の代わりに広帯域なSLDを用い、温度制御器76によってFBGの設定温度を変化させ、光検出器74の代わりに光スペクトルアナライザを用いた。温度調節器75を15℃から35℃まで5℃刻み(「第3の複数の温度」に相当)で変化させた時のFBG73反射後の光スペクトル測定結果を並べたものが図8である。各光スペクトルの反射ピーク波長(ブラッグ波長)の温度をグラフ化したのが図9であり、これより、温度変化に対するブラッグ波長の変化の温度係数が6.6pm/℃であることが分かる。したがって、温度調節器75を0.1℃刻みで変化させることによりブラッグ波長を0.66pmだけ変化させることができ、この値を測定分解能としたFBG73の光学特性の測定が可能となる。この温度係数の値は材料によって固有であり、測定波長(ここでは0.976μm)により決まるので一度測っておけばそのまま一定の値として用いることができる。
【0028】
この手法により、中心波長975.61nmの単一波長で発振する半導体レーザ71を用い、波長0.976μmにおいて半値幅20pm、反射率25%と設計された前述のFBG−Aを評価した。温度調節器75の設定を15℃から35℃まで0.1℃刻み(「第1の複数の温度」に相当)で変化させて得られた波長特性を図10に示す。各温度において光検出器74により検出される光強度を、図9の温度係数を用いて各離調における光強度に換算する。「離調」とは、反射ピーク波長をゼロとしてそこからの波長ずれをいう。反射ピーク波長近傍を除いた周辺波長ではFBG73の影響がないため、周辺波長の光強度を近似的に平均化して、当該平均値によって測定範囲の光強度を規格化することにより、光強度を透過率に換算できる。図10では、透過率が最小になる波長を反射ピーク波長として横軸の原点に取っている。
【0029】
半値幅18.0pm、反射率45.9%であることが分かり、波長分解能10pmの光スペクトルアナライザで得られた図5の測定値以上に、設計値である半値幅20pm、反射率25%から大きくずれている。この原因は、図5では波長分解能10pmの間隔におけるデータが1点で表され、その範囲の値を平均化するためである。実際に図10で得られた結果を15点ごとに平均化し、その値をグラフ化したものが図11である。15点をどう選ぶかによって値は若干変わってくるが、図11はその中で反射率が最も小さくなる選び方をした例である。実線は、プロットに対してスムージングを行なった曲線であり、この結果は図5の結果とよく一致している。すなわち、光スペクトルアナライザの最高波長分解能と同程度の波長特性を詳細に測定するには、波長分解能を1桁以上小さくできる本手法が非常に有効である。
【0030】
なお、図7には図示していないが、図10の光学特性の算出は、CPU及びメモリを有するコンピュータ等の光学特性算出手段により行うことができる。図9の温度係数は、当該光学特性算出手段に予め記憶しておくことができる。
【0031】
また、上述の説明では、FBGのブラッグ波長に言及して説明したが、FBG以外の波長フィルタの場合には、その反射ピーク波長がFBGのブラッグ波長に相当する。
【0032】
また、本発明において温度係数を反射ピーク波長の温度変化を測定した値を用いたが、温度係数の値は波長フィルタ等の光学部品を構成する材料によって固有である。既知のデータまたはそれらデータを用いた換算によって使用波長における温度係数が分かれば、図8のような測定を行うことなく、その値を用いてもよい。
【0033】
(第2の実施形態)
図12に、第2の実施形態によるFBGの光学特性測定装置を示す。単一波長で発振する半導体レーザ121からの光がアイソレータ122を介して光カプラ127に接続されている。光カプラ127の透過ポートはFBG123に入射され、FBG123からの透過光の光強度が光検出器124にて測定される。ここで、FBG123には温度調節器125が取り付けられ、温度を一定に保持することができる。また、温度調節器125は温度制御器126によって設定温度を自由に変化することができる。さらに、FBG123からの反射光は、光カプラ127の反射ポートを通って光検出器128にてその光強度が測定できる。
【0034】
この手法により中心波長976.63nmの単一波長で発振する半導体レーザ121を用い、半値幅10pm、反射率5%と設計されたFBG−Bを評価した。FBG−Bの反射量が小さいため、まず反射ピーク波長が半導体レーザ121の波長と同じになる温度を見つけることが重要となる。図13は、温度調整器125の設定温度を15℃から35℃まで0.1℃刻み(「第2の複数の温度」に相当)で変化させたときの反射光強度の測定結果を、図9の温度係数を用いて反射光スペクトルに変換した図である。このグラフも反射ピーク波長をゼロとしてそこからの波長ずれを離調として示している。離調がゼロとなる温度を含むように温度の掃引範囲を決め、透過光スペクトルを測定した結果が図14である。半値幅11.6pm、反射率4.6%であることが測定できた。すなわち、本手法により、測定の難しい狭帯域で低反射率なFBGの波長特性を測定できる。たとえば、半導体レーザ121の電流や温度を調整して、反射ピーク波長が25℃近傍で半導体レーザ121の波長と同じになるように設定し、温度調節器125の温度掃引範囲を0.1℃刻みで変化する15℃から35℃までの範囲とすればよい。
【0035】
なお、図13の反射特性から、FBG−Bのブラッグ波長が半導体レーザ121の出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように温度の掃引範囲を決定する処理は、CPU及びメモリを有するコンピュータ等の温度掃引範囲決定手段により行うことができる。
【0036】
また、図13では、横軸を離調としているが、FBG−Bの反射ピーク波長が半導体レーザ121の出力光の波長となる温度を特定するためには、図9の温度係数を用いた温度から離調への変換は必ずしも必要ではない。
【0037】
(第3の実施形態)
第1の実施形態の図7における単一波長で発振する半導体レーザ71の代わりに、波長可変光源151を用いたものが、図15に示す第3の実施形態に係る光学特性測定装置である。結果としては第1の実施形態と同様であるが、FBG73の反射ピーク波長に合うような半導体レーザ71を選ぶ必要がなくなるため、測定時間の短縮を図ることができる。第2の実施形態の図12における単一波長で発振する半導体レーザ121の代わりに波長可変光源を用いた場合も同様の効果が得られるのは言うまでもない。
【0038】
(第4の実施形態)
図16に、FBG−Aを980nm帯で発振する半導体レーザに接続した場合の測定結果を示す。(a)が電流―光出力特性(以下「I−L特性」という。)、(b)が電流―発振ピーク波長特性(以下「I−λp特性」という。)の図である。半導体レーザは端面反射率を0.1%以下に抑え、半導体レーザ・FBG間の距離は2mにしてある。FBG−Aは反射率が高いために、I−L特性が電流とともに単調増加せず何箇所かで光出力が跳ぶ(減少する)キンクと呼ばれる現象が見られている。それに伴い、I−λp特性も周期的な変動を示した。この時、微分効率と呼ばれるI−L特性の傾き(光出力を電流で微分したもの)を図中に併記しているが、キンクの生じる電流で大きく変動している。このような大きなキンクが生じる半導体レーザを波長変換用の励起用レーザとして使用すると、波長変換光の強度を一定に保つAPC動作を行なうには不都合である。
【0039】
一方、所望の特性が得られていたFBG−Bを上記の半導体レーザに接続した場合の測定結果を図17に示す。図16と同様に、(a)がI−L特性、(b)がI−λp特性の図である。FBG−Bは反射率が低めに抑えられているため、I−L特性で何箇所かキンクは見られるがその跳び量は十分小さく抑えられており、電流とともにほぼ単調増加する好ましい特性が得られた。この場合、微分効率にも大きな変動は表れず緩やかな変化である。またI−λp特性を見ると、発振ピーク波長は電流によって変動せず安定な特性であることがわかった。このような特性を持つ半導体レーザは、波長変換光をAPC動作させて使用することができる。このように本発明の測定方法および装置を用いてFBG―Bのタイプを作製および選別することにより、狭帯域に波長安定化された半導体レーザを歩留まりよく作製することができる。
【0040】
なお、本明細書においては温度調節器を0.1℃刻みで変化させているが、温度調節器を0.1℃よりも小さな刻みで行なう機器を利用すれば、その測定分解能をさらに良くすることができることは言うまでもない。
【0041】
また、本発明で用いる波長可変光源が絶対波長により校正されていれば、その波長を用いてFBGの反射ピーク波長の絶対値が定まることは言うまでもない。
【0042】
また、本発明が波長に関しては任意に使用可能であり、光学部品の接続がレンズ等を介して空間的に行なわれている場合も同様であることは言うまでもない。
【0043】
また、本明細書ではFBGを取り上げて説明を行なったが、誘電体多層膜や半導体、違う材料によるファイバなどによって作製された狭帯域な波長特性を持つ光学部品の特性評価に対しても本発明が有効であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
71、121 半導体レーザ(「光源」に相当)
72、122 アイソレータ
73、123 FBG(「光学部品」に相当)
74、124 光検出器
75、125 温度調節器
76、126 温度制御器
127 光カプラ
128 光検出器
151 波長可変光源(「光源」に相当)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価方法であって、
前記光学部品に、光源からの出力光を入射して、前記出力光の前記光学部品透過後の光強度を第1の複数の温度のそれぞれについて測定する透過光強度測定ステップと、
温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係から、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出ステップと
を含むことを特徴とする光学特性評価方法。
【請求項2】
前記透過光強度測定ステップの前に、
前記出力光の前記光学部品反射後の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて測定する反射光強度測定ステップと、
測定した反射光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定ステップと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学特性評価方法。
【請求項3】
前記光源は、波長可変光源であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学特性評価方法。
【請求項4】
前記光学部品は、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学特性評価方法。
【請求項5】
光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価装置であって、
光源と、
前記光源からの出力光が入射される前記光学部品を取り付けるための温度調節器と、
前記温度調節器の設定温度を制御する温度制御器と、
前記温度調節器に取り付けられる前記光学部品からの透過光の光強度を、前記温度調節器が設定する第1の複数の温度のそれぞれについて測定する光検出器と、
温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係として、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出手段と
を備えることを特徴とする光学特性評価装置。
【請求項6】
前記光源と前記光学部品との間に挿入された光分岐回路と、
前記光分岐回路に接続され、前記光学部品からの反射光の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて検出する光検出器と、
検出した前記反射光の前記光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の光学特性評価装置。
【請求項7】
前記光源は、波長可変光源であることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学特性測定装置。
【請求項8】
前記光学部品は、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の光学特性評価装置。
【請求項1】
光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価方法であって、
前記光学部品に、光源からの出力光を入射して、前記出力光の前記光学部品透過後の光強度を第1の複数の温度のそれぞれについて測定する透過光強度測定ステップと、
温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係から、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出ステップと
を含むことを特徴とする光学特性評価方法。
【請求項2】
前記透過光強度測定ステップの前に、
前記出力光の前記光学部品反射後の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて測定する反射光強度測定ステップと、
測定した反射光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定ステップと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学特性評価方法。
【請求項3】
前記光源は、波長可変光源であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学特性評価方法。
【請求項4】
前記光学部品は、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学特性評価方法。
【請求項5】
光学部品の光学特性を評価するための光学特性評価装置であって、
光源と、
前記光源からの出力光が入射される前記光学部品を取り付けるための温度調節器と、
前記温度調節器の設定温度を制御する温度制御器と、
前記温度調節器に取り付けられる前記光学部品からの透過光の光強度を、前記温度調節器が設定する第1の複数の温度のそれぞれについて測定する光検出器と、
温度変化に対する前記光学部品の反射ピーク波長の変化の温度係数を用いて前記第1の複数の温度を複数の離調に変換し、光強度と離調の関係として、前記光学部品の前記光学特性を算出する光学特性算出手段と
を備えることを特徴とする光学特性評価装置。
【請求項6】
前記光源と前記光学部品との間に挿入された光分岐回路と、
前記光分岐回路に接続され、前記光学部品からの反射光の光強度を第2の複数の温度のそれぞれについて検出する光検出器と、
検出した前記反射光の前記光強度から、前記光学部品の反射ピーク波長が前記光源の前記出力光の波長となる温度を特定して、当該温度を含むように前記第1の複数の温度の範囲を決定する温度掃引範囲決定手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の光学特性評価装置。
【請求項7】
前記光源は、波長可変光源であることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学特性測定装置。
【請求項8】
前記光学部品は、半値幅20pm以下の光学特性を有する波長フィルタであることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の光学特性評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−247595(P2011−247595A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117675(P2010−117675)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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