説明

光学部材とその製造方法

【課題】重量の増加がなく、被覆材料による悪影響もない光学部材とその製造方法を提供する。
【解決手段】透光性のある材料の表面を、プラズマエッチングして改質して成る光学部材である。透光性のある材料の表面をプラズマエッチングして改質し、光の反射特性または透光性を調整する光学部材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス等の光学部材の光の透過率や反射率をエッチングにより調整した光学部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品の透過率や反射率を制御する方法として、ガラス等の光学材料の表面に薄膜等の被覆を施す事が一般的に行われている。この表面被覆に用いられる材料には種々のものがあり、蒸着等による薄膜のコーティングや、顔料等の塗布、フィルムを貼付するもの等がある。
【0003】
その他、特許文献1に開示されているように、高赤外線反射コーティングとして、1または2層の赤外線反射フィルムと、2層以上の透明誘電体フィルムとを備えたものがある。赤外線反射フィルムには、銀、金または銅等の導電性金属が用いられ、誘電体フィルムは、赤外反射フィルムの可視光の反射を防止し、色や耐久性等のコーティング特性を調整するのに使用される。誘電材料としては、亜鉛、錫、インジウム、ビスマスおよびチタンの酸化物等がある。
【0004】
また、特許文献2には、主成分がSiOのガラスに、5%〜20%のPおよび/またはBを含有させ、紫外光の透過率を85%以上に調整して、プラズマエッチング装置を用いたときのエッチングレートを石英ガラスの場合の1.2〜4倍にすることができるようにした部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−106668号公報
【特許文献2】特開2002−116181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記一般的なコーティングは、その部材の重量増加の問題や、コーティング剤、顔料、接着剤に含まれる有害物が環境や人体に悪影響を与えるという問題がある。また、特許文献1に開示されたものも、薄いフィルムを複数層に亘り貼り合わせるので、上記と同様の問題があり、フィルムの積層を繰り返すので、製造が難しいという問題もある。また、特許文献2に開示されているように、光学部材のガラス自体に他の元素を混ぜることは、製造工程の管理が難しく、コストが掛かり用途も限られてしまうものである。
【0007】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みて成されたもので、重量の増加がなく、被覆材料による環境や人への悪影響もない光学部材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、透光性のある材料の表面をプラズマエッチングして改質して成る光学部材である。さらに、プラズマエッチングして改質した表面に、ニッケル薄膜を形成しても良い。
【0009】
またこの発明は、透光性のある材料の表面をプラズマエッチングして改質し、光の反射特性または透過性を調整する光学部材の製造方法である。特に、前記プラズマエッチング処理により、赤外線や紫外線の透過性を調整する光学部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、部材の重量の増加がなく、被覆材料による環境や人への悪影響もない光学部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施例の光学部材である石英ガラスについて、プラズマエッチング処理した透明石英ガラスと、処理していない石英ガラスについて得られた透過率を示すグラフである。
【図2】この発明の一実施例の光学部材である石英ガラスについて、プラズマエッチング処理した透明石英ガラスと、処理していない石英ガラスについて得られた赤外線領域における反射率を示すグラフである。
【図3】この発明の一実施例の光学部材である石英ガラスについて、プラズマエッチング処理した透明石英ガラスと、処理していない石英ガラスに同等な膜厚のニッケル薄膜を蒸着した試料について得られた透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について説明する。この実施形態の光学部材は、光学ガラスや光学プラスチックスであり、それらの表面にプラズマを放射する処理を施して、表面の微細エッチングにより表面性状を変化させたものである。そして、この表面改質により、その光学部材の紫外、可視、赤外波長域の光の透過率または反射率を変化させるものである。
【0013】
プラズマエッチング処理としては、一般的なドライエッチング方法を用いることができる。例えば、石英ガラスについてプラズマエッチングする場合、エッチングガスとしてCFガスを用い、所定の交流または直流電圧を印加する。このときのプラズマ処理の反応は、下記のように表される。
Si0+CF=SiF↑+COX
【0014】
例えば、ECRプラズマを利用してドライエッチング処理を行う場合、真空容器にガス導入口よりCFまたはOなどの反応性ガスを導入し、10―1Pa程度に排気ポンプにより排気しつつ、圧力制御する。その後、マイクロ波導入部のアンテナから、例えば2.45GHzのマイクロ波を導入し、真空容器内に放射する。さらに、高周波電源から電極に1〜10数MHzの高周波電力を印加する。そして、アンテナから放射されたマイクロ波によりプラズマが発生し、磁石の作る磁場にプラズマが閉じ込められ、ECR条件を満たす領域で効率的に高密度プラズマが形成される。プラズマ中のイオンは、電極の高周波によるDCバイアスにより加速され、電極上の石英ガラスである光学部材を衝撃し、物理化学的に表面をエッチングする。
【0015】
このプラズマエッチングによる表面改質を行った光学部材は、従来のコーティング等による処理と比較して、光学部材表面に何らかの材料を付加するものではなく、微細エッチングによる表面改質であるため、重量増加がない。さらに、プラズマ処理は、光学部材表面をプラズマによりドライエッチングするもので、僅かに表面を削る程度のエッチングであり、環境負荷がきわめて小さいものである。
【実施例1】
【0016】
次に、この発明の実施例について説明する。先ず、実施例1として、プラズマエッチング処理した透明石英ガラスと、処理していない石英ガラスについて、分光光度計を用いて光の透過率計測を行った。図1に透過率の測定結果を示す。
【0017】
図1によれば、全体の波長領域にわたって、プラズマエッチング処理した石英ガラスの透過率が、処理していないものと比較して低いことがわかる。また、紫外光から可視光領域に波長が長くなるに従い、透過率の減少が著しくなっていることから、光の透過率が波長依存性を示していることが分かる。
【0018】
さらに、実施例1で示した透過率データは、プラズマエッチング処理をした石英ガラスについて、波長が長くなるに従い、相対的な透過率の減少が著しくなる傾向を示し、このことは、長波長で顕著な透過率抑制効果があることを示しており、赤外線を大幅にカットできる可能性を有する。
【0019】
次に、赤外線領域における分光特性を評価するために、赤外分光測定を行った。図2に、反射率の波長依存性を示す。波長5000μmあたりまで、プラズマ処理を施した石英ガラスの反射率が、処理していないものと比較して有意に高い値を示した。反射率が高いほど透過率が低いことになるため、得られた傾向は紫外、可視光領域で得られた分光光度計のデータと整合する。
【0020】
即ち、上で述べた紫外から可視光領域にわたって、プラズマ処理を施した石英ガラスの透過率が低いという傾向は、図2に示す赤外線領域でも同様に認められた。この透過率波長依存性は、遠赤外線領域の5000μmまで続き、その後減少した。5000μm以上では、プラズマエッチング処理を施した石英ガラスと施していない石英ガラスの分光特性に差が無くなった。
【実施例2】
【0021】
実施例1では、プラズマエッチング処理した石英ガラスの透過率が減少すると共に波長依存性が見出された。これにより、プラズマエッチング処理を行うことにより、紫外光と可視光は相対的にカットされる割合少なく、赤外光を大幅にカット可能な光学部材を形成することができる。そこで、実施例2においては、紫外光の透過率を制御する方法を示す。
【0022】
この実施例では、プラズマエッチング処理した透明石英ガラスと、処理していない石英ガラスについて、同等な膜厚のニッケル薄膜を蒸着した。そして、それぞれについて、透過率計測を行った。図3に透過率の波長依存性を示す。実施例1と同様に、プラズマエッチング処理した石英ガラスの透過率が、処理していないものと比較して低いことが分かる。
【0023】
また、紫外光から可視光領域に波長が長くなるに従い、透過率の減少が著しくなる波長依存性も実施例1と同様である。さらに、図3に示すように、紫外光領域で透過率が明らかに減少していることが分かる。これにより、プラズマエッチング処理した石英ガラスにニッケル蒸着処理を施すと、紫外線がカットされるとともに、可視光をカットすることなく赤外光もカットされ、赤外線と紫外線の両方をカットできるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明の光学部材は、可視光をカットせずに赤外線を遮蔽することによる暑さ対策や、エネルギー消費の抑制に寄与することができる。さらに、オゾン層破壊をはじめとし様々な地球科学的要因で、我々の身の周りに降り注ぐ紫外線は年々増加傾向にあるが、可視光をカットせずに紫外線をカットすることにより、効果的に紫外線による悪影響を抑える部材を構成することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性のある材料の表面をプラズマエッチングして改質して成ることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
プラズマエッチングして改質した表面に、ニッケル薄膜を形成して成る請求項1記載の光学部材。
【請求項3】
透光性のある材料の表面をプラズマエッチングして改質し、光の反射特性または透過性を調整することを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記プラズマエッチング処理により、赤外線の透過性を調整する請求項3記載の光学部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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