説明

光学部材用粘着剤組成物およびその加工製品

【解決手段】本発明の光学部材用粘着剤組成物は、(a)炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーおよび/または芳香環含有アクリルモノマーで構成されるモノマー80〜98.7重量部と、(b)アミド基含有アクリルモノマー0.2〜1.5重量部と、(c)水酸基含有アクリルモノマー1〜5重量部と、を含むアクリル系ポリマー100重量部に対し、(d)硬化剤としてイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤を0.12〜1重量部配合してなり、金属キレート系硬化剤を実質的に含有しないことを特徴としている。
【効果】本発明によれば、耐熱性、耐湿熱性が優れており、特にエージング時間を短縮可能な粘着剤組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材、特に偏光板の貼付けに好適な光学用粘着剤組成物およびその加工製品に関するものである。より詳しくは、偏光板の貼付けに使用された際に優れた耐熱性、耐湿熱性、および光漏れ防止性を有し、なおかつ、粘着剤の貼付けに先立って必要とされるエージング期間を有意に短縮可能な粘着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイパネルに偏光板等の光学部材を貼り付ける際には、一般的に粘着剤が使用されている。当該光学部材用の粘着剤には、例えば、(1)耐熱性、すなわち高温条件下置かれた場合でも貼付け箇所に発泡、浮き、剥がれ等を生じないこと、(2)耐湿熱性、すなわち高温かつ高湿度条件下に置かれた場合でも貼付け箇所に発泡、浮き、剥がれ等を生じないこと、(3)光漏れ防止性、すなわち光学部材が高温環境下で収縮を生じ、当該光学部材に貼着された粘着剤が応力下に置かれた場合であっても、ディスプレイに予期せぬ光漏れを生じさせないこと、および(4)エージング性、すなわち粘着剤組成物に硬化剤を配合してから、硬化反応が収束して粘着剤の物性が安定するまでに要する日数が短いこと、などの諸特性が要求される。
【0003】
特に液晶ディスプレイなどに用いられる偏光板の生産においては、粘着剤のエージング期間がリードタイムに大きく影響するため、上記のうちでもエージング性は重要な特性の一つである。一般に偏光板用の粘着剤組成物は、硬化剤と混合され後にロール状の仕掛品(偏光板/粘着剤層/剥離フィルム、または、剥離フィルム/粘着剤層/剥離フィルムの三層構造など)に加工される。この仕掛品は、粘着剤の硬化反応を収束させて所定の要求特性を発現させるために、20〜50℃(通常は40℃)に設定したエージングルームに一週間程度保管される。その後、当該仕掛品を所望の大きさに断裁し、剥離フィルムを剥がして液晶セルに貼付する。このような加工プロセスのため、エージングルームでの保管期間が長ければそれだけ多くの仕掛品を保有する必要があり、エージングルームの温度管理やその他のランニングコストも嵩むことから、エージング期間が短く、さらにはエージングルーム中での保管を必要としない偏光板用粘着剤組成物に対するニーズが高まっている。
【0004】
昨今では、エージング期間を短縮する方法の一つとして、硬化剤に金属キレート系硬化剤を使用する方法や、重合前のモノマー混合物に硬化促進剤を添加することがある。しかしながら、金属キレート系硬化剤を使用して作製された粘着剤は一般に耐熱性に乏しいので、当該金属キレート系硬化剤の使用は過酷条件での耐久性の点で好ましい選択肢ではない。
【0005】
また、一般に硬化促進剤を添加する場合、粘着剤の経時増粘作用が早期に、かつ著しく強く発現してしまい、これにより塗布液の粘度上昇を招来し、粘着剤の塗布が困難になることが多い。このように早期にゲル化が進行して粘着剤の塗布液の粘度が過度に高くなってしまった場合には、多量の有機溶媒を用いた粘着剤塗布液を使用しなければ円滑に塗布することができず、さらに、粘着剤層を形成するには多量の有機溶媒を除去しなければならないという問題も生ずる。
【0006】
また、このような硬化促進剤としてアミン系化合物を使用する例もあるが、例えばポリヒドロキシアルキルアミン系の硬化促進剤を使用した粘着剤は経時変化による黄変を生じやすく、光学用の粘着剤への使用には不適当である。さらに、アミノ基含有モノマーを共重合させることにより得られるアクリル系ポリマーに硬化促進作用を持たせる例もあるが、このようなアミノ基含有モノマーを使用する系では硬化反応が過度に進行する結果、得られる粘着剤の粘着力の低下を招くことがある。
【0007】
有機金属化合物系の硬化促進剤を使用する例もあるが、例えば当該有機金属化合物系硬化促進剤として常用されている有機スズ化合物は毒性が高く、特にジブチルスズジラウレート中に含まれるトリブチルスズは内分泌攪乱物質としても懸念されているため、この点においても推奨されるものではない。
【0008】
他方、先行技術文献によれば、特許文献1では、水酸基含有ポリマー、特に(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート系硬化剤の混合物に特定量のカルボキシル基含有ポリマーを含有させることにより、エージングを必要とせずに塗工乾燥工程で硬化反応による硬化を十分行うことが可能な偏光板用粘着剤組成物を開示している。しかしながら、当該特許文献1では、当該粘着剤の耐久性やエージング性が考慮されているが、偏光板用の粘着剤に必須の評価項目である光漏れに関する検討が全くなされていない。
【0009】
特許文献2では、水酸基を含有する単量体と、カルボキシル基を含有する単量体を含有するアクリル系共重合体に対して、脂肪族系イソシアネート及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物、ケト−エノール互変異性をおこす化合物を添加することによって、ポットライフが長く、適度な粘着力と経時的粘着力変化の少ない、さらに加熱処理時の耐久性が良好な粘着剤組成物を開示している。しかしながら、当該特許文献2では、イソシアヌレート骨格を持つ硬化剤が使用されているが、得られる粘着剤の用途として保護フィルムを想定しているため、偏光板用粘着剤に求められる耐久性、光漏れに関する検討がされていない。
【0010】
特許文献3では、水酸基を有するモノマーを有してなるアクリル系ポリマーに、アミノ基を有するシラン化合物と、イソシアネート系硬化剤とを配合することによって、硬化処理におけるエージング時間の短縮によって加工性を向上でき、耐久性、リワーク性を備えた光学部材用粘着剤組成物を開示している。また、偏光板用粘着剤としての耐久性やリワーク性の検討もされており、エージング期間短縮のためアミノ基含有物を使用している。しかしながら、特許文献3においても、光漏れに関する検討はなされておらず、偏光板用粘着剤として不十分である。
【0011】
特許文献4では、炭素数1〜16のアルキル基を有するモノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとを少なくとも含み、任意でアクリルアミドを含むモノマー混合物を共重合されてなるアクリル系ポリマーに対して、金属キレート系硬化剤と、イソシアネート系硬化剤とを配合した光学部材用粘着剤組成物を開示している。しかしながら、上述したように金属キレート系硬化剤は粘着剤のエージング期間短縮に効果があるものも、得られる粘着剤は耐熱性に乏しく、偏光板用粘着剤として不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−156513号公報
【特許文献2】特開2005−247909号公報
【特許文献3】特開2009−173772号公報
【特許文献4】特開2009−132752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる背景技術に基づいてなされたものであり、偏光板等の光学部材の貼付けに使用された場合に、優れた耐熱性、耐湿熱性、光漏れ防止性を有するとともに、エージング期間を有意に短縮可能な粘着剤組成物、およびこれを用いた粘着剤組成物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の光学部材用粘着剤組成物は、(a)炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーおよび/または芳香環含有アクリルモノマーで構成されるモノマー80〜98.7重量部と、(b)アミド基含有アクリルモノマー0.2〜1.5重量部と、(c)水酸基含有アクリルモノマー1〜5重量部と、を含むアクリル系ポリマー100重量部に対し、(d)硬化剤としてイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤を0.12〜1重量部配合してなり、金属キレート系硬化剤を実質的に含有しないことを特徴とする光学部材用粘着剤組成物ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学部材用粘着剤組成物は、アミド基含有モノマーから誘導される繰り返し単位を含有するアクリル系ポリマーを含有しており、このアクリル系ポリマーにイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤で架橋構造を形成することにより、耐久性に優れ、かつ必要とされるエージング期間を有意に短縮することができる。
【0016】
イソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤の中でも、特に正の複屈折性を有するトリレンジイソシアネート系の硬化剤を用いると、偏光板の収縮に伴う粘着剤の変形により生ずる光学的歪を補償する結果、光漏れ防止効果が顕著に表れる。またアクリル系ポリマーの構成成分として芳香環含有アクリルモノマーを用いることによっても上述した光学的歪が補償され得るので、光漏れ防止性にさらに優れた粘着剤組成物を得ることができる。
【0017】
またアクリル系ポリマーにアミノ基或いはアミド基等の塩基性官能基を含有させることにより、製造されたアクリル系ポリマーと特定の硬化剤間の架橋反応が促進され、その結果としてエージング期間を有意に短縮することができる。
【0018】
本発明において、アミノ基含有モノマーのみを用いたのでは架橋促進作用は示すものの、架橋反応が過度に進行する結果(シート老化)、得られる粘着剤の粘着力低下を招く上に耐湿熱安定性を低下させるため、光学部材用粘着剤組成物としては不適である。ただし、架橋性の基としてアミド基を多量に共存させ、かつアミノ基の割合が低い場合は上記のような問題が発生することがない。
【0019】
なお、本発明の粘着剤組成物は金属キレート系の硬化剤を実質的に含有しない。即ち、金属キレート系の硬化剤を用いることにより、エージング期間の短い粘着剤組成物を得ることができるが、このようにして得られた粘着剤は耐久性、特に耐熱性が著しく低下するからである。ちなみに、金属キレート系硬化剤が、不純物として通常含まれるレベルで(痕跡量で)粘着剤組成物中に存在したとしても、本発明では「実質的に含有しない」という場合に当てはまる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の光学部材用粘着剤組成物について詳細に説明する。
本発明の光学部材用粘着剤組成物は、光学部材、特に偏光板、位相差板、防傷フィルムなど、特に液晶素子の表面に貼着使用して使用するフィルムあるいは板を貼着するために好適な粘着剤組成物である。
【0021】
本発明の光学部材用粘着剤組成物は、フィルム状であっても板状であってもよいが、通常は5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内にあり、通常は粘着剤層の両面に剥離性フィルムが貼着した構成を有している。なお、上記は支持体を用いない例であるが、支持体があってもよく、支持体の両面に粘着剤層が形成されていてもよい。ここで使用される支持体は、ポリ(メタ)アルキルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートのような透明性の高い樹脂フィルムを使用することが好ましい。この場合の支持体の厚さは通常は10〜500μm、好ましくは50〜200μmの範囲内にあり、また、支持体を有する場合、それぞれの粘着剤層の厚さは5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内にある。
【0022】
本発明の光学部材用粘着剤組成物は、アクリル系ポリマーと、イソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤とを含んでなるものである。
【0023】
[アクリル系ポリマー]
本発明のアクリル系ポリマーは、(a)炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーおよび/または芳香環含有アクリルモノマーで構成されるモノマーと、(b)アミド基含有アクリルモノマーと、(c)水酸基含有アクリルモノマーとを含むものである。
【0024】
[モノマー(a)]
モノマー(a)は、炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーおよび/または芳香環含有アクリルモノマーで構成される。すなわち、モノマー(a)は、炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーのみで構成されてもよく、あるいは芳香環含有アクリルモノマーのみで構成されてもよく、あるいは両者の組合せで構成されてもよい。
【0025】
炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは単独であるいは組合わせて使用することができる。なお、モノマー(a)が炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマー、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートまたはプロピル(メタ)アクリレートを構成要素の一つとして含む場合、得られる粘着剤組成物に光漏れ防止性を発現させ得る。
【0026】
芳香環含有アクリルモノマーは、例えば、フェニルアクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル化β-ナフトールアクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは単独であるいは組合わせて使用することができる。なお、モノマー(a)が芳香環含有アクリルモノマーを構成要素の一つとして含む場合、得られる粘着剤組成物に優れた光漏れ防止性を発現させ得る。モノマー(a)の配合量は、アクリル系ポリマーの80〜98.7重量%、好ましくは85〜97.35重量%である。
【0027】
[アミド基含有アクリルモノマー(b)]
本発明のアクリル系ポリマーを構成するアミド基含有アクリルモノマー(b)は、分子内にアミド基またはN置換アミド基を有するアクリルモノマーである。(b)の具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。これらのモノマーは単独であるいは組合わせて使用することができる。アミド基含有アクリルモノマー(b)の配合量は、アクリル系ポリマーの0.2〜1.5重量%、好ましくは0.5〜1重量%である。これらのモノマーは単独であるいは組合わせて使用することができる。
【0028】
[水酸基含有アクリルモノマー(c)]
本発明のアクリル系ポリマーを構成する水酸基含有アクリルモノマー(c)は、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロシキブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートおよび8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。水酸基含有アクリルモノマー(c)の配合量は、アクリル系ポリマーの1〜5重量%、好ましくは2〜4重量%である。これらのモノマーは単独であるいは組合わせて使用することができる。
【0029】
[その他のモノマー]
本発明のアクリル系ポリマーは、上記(a)〜(c)の他に、要求される特性を損なわない範囲でその他のモノマーを配合してもよく、具体的には分子内にカルボキシル基を有するモノマーが挙げられる。分子内にカルボキシル基を有するモノマーの具体例は、例えば(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、3-カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、4-カルボキシブチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸及び無水マレイン酸などである。その他のモノマーの配合量は、アクリル系ポリマーの0.1〜13.5重量%、好ましくは0.15〜10重量%である。これらのモノマーは単独であるいは組合わせて使用することができる。
【0030】
[イソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系架橋剤(d)]
本発明に用いる成分(d)のイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤は、イソシアネート基が3量体化して形成されるイソシアヌレート基を分子内に含む化合物であり、種々の誘導体を有する。成分(d)はイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系のものならば特に限定されないが、例えば特開平8-193114号公報、国際公開第2006/137307号に記載された方法により得ることができ、例えばコロネート342、およびコロネート2030(いずれも日本ポリウレタン社製)等が上市されている。
成分(d)の中でも、トリレンジイソシアネート系のものは正の複屈折性を有するために、光漏れ防止性が高いため特に好ましい。
【0031】
本発明において、アクリル系ポリマー100重量部に対して硬化剤としてイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤を0.12〜1重量部の範囲内の量、好ましくは0.14〜0.5重量部の範囲内の量で使用する。このような量でイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤を反応させることにより、例えば光漏れなど液晶素子に好ましくない現象を防止することができる。
【0032】
また、このようなイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤は、おそらくはアクリル系ポリマーに植設されたアミド基が触媒作用を発現し、同じくアクリル系ポリマー中に植設された水酸基との反応を促進する結果、短時間で架橋構造が形成される。このようにして耐熱性、耐湿熱性に優れた粘着剤を形成するものと推定される。従って、本発明の光学部材用粘着剤組成物は、短時間のエージング工程で加工することができる。
【0033】
[シランカップリング剤]
本発明の光学部材用粘着剤組成物は、上記要素の他に、シランカップリング剤を配合することができる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ構造を有するケイ素化合物が好ましい。シランカップリング剤の配合量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して0.05〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.6重量部とすることが好ましい。これらの化合物は単独であるいは組合わせて使用することができる。
【0034】
本発明の光学部材用粘着剤組成物の製造に際しては公知の製造方法を採用することができる。例えば、溶液重合、塊重合、乳化重合、シード重合などの方法を採用することができる。特に溶液重合は、反応溶媒を用いて触媒の存在下に重合を行った後、反応溶媒を除去することなく塗布溶媒として使用することができる。また、塊重合は実質的に溶媒を使用せずに重合を行うことができるので好ましい。なお、本発明で使用するモノマーは反応性が非常によいので、仕込み量が即ちポリマーの組成比となる。
【0035】
本発明において溶液重合で重合を行う際に使用することができる溶媒としては、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトンなどを挙げることができ、また、使用する触媒もアクリル系ポリマーの製造に使用される通常の触媒を使用することができる。
【0036】
重合反応は、通常は窒素ガスなどの不活性ガスで反応容器内をパージして行う。反応温度は、使用する溶媒によって異なるが、通常50〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲内の温度で行われる。
【0037】
光学部材用粘着剤組成物は、通常はフィルム状、板状の基材上に塗工されて加工される。すなわち本発明の光学部材用粘着剤組成物は、剥離処理された剥離性フィルム上に塗布され、さらにこの塗布面に剥離性フィルムを貼着されて加工される。また、本発明の光学部材用粘着剤組成物は、適当な支持体の両面に粘着剤層を形成するためにも使用され得る。
【0038】
特に本発明の光学部品用粘着剤組成物は、液晶素子を形成する際に用いる偏光板、位相差板、偏光板、表面保護フィルムなどを貼着するのに好適である。このような液晶関連のフィルムを貼着する際に本発明の光学部品用粘着剤組成物の厚さは、通常は5〜50μmの範囲内、好ましくは10〜30μmの範囲内にある。
【0039】
なお、本発明の粘着剤のFOXの式により求めたガラス転移温度は通常は-60〜-20℃、好ましくは-55〜-30℃の範囲内にある。また、180°剥離試験の結果は通常は2〜20N/25mm、好ましくは3〜10N/25mmの範囲内にあり、リワーク性にも優れている。
【0040】
[光学部材]
本発明の光学部材は特に限定されないが、例えば偏光板、位相差板、楕円偏光板、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、光拡散フィルム、ガラス飛散防止フィルムおよび表面保護フィルムなど、特に液晶素子の表面に貼着される板、シートまたはフィルム等の形状の部材である。
【実施例】
【0041】
次に本発明の光学部材用粘着性組成物について具体的例を示して説明するが、本発明は本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0042】
(製造例1:アクリル系ポリマー(1)の製造)
攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、ブチルアクリレート86.3重量部と、フェノキシエチルアクリレート10重量部と、アクリル酸0.2重量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート3重量部と、アクリルアミド0.5重量部と、酢酸エチル160重量部とを仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコの内容物を68℃に加熱した。次いで、十分に窒素ガス置換したフラスコ内に、攪拌下で0.1重量部のAIBNを添加した。フラスコ内の内容物の温度が68〜69℃に維持しながら6時間反応させた。6時間経過後の反応混合物に酢酸エチル130部を添加した。このアクリル系ポリマー(1)について、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を下記GPC測定条件に従って測定し、分散度(Mw/Mn)を求めた。また、不揮発分(nV)および粘度についても下記方法により測定した。測定結果をモノマー組成と併せて表1に示す。
【0043】
<GPC測定装置>
測定装置:HLC-8120GPC(東ソー社製)
GPCカラム構成:以下の5連カラム(すべて東ソー社製)
(1)TSK-GEL HXL-H(ガードカラム)
(2)TSK-GEL G7000HXL
(3)TSK-GEL GMHXL
(4)TSK-GEL GMHXL
(5)TSK-GEL G2500HXL
サンプル濃度:1.0mg/cmとなるように、テトラヒドロフランで希釈
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流量: 1mL/min
カラム温度:40℃
【0044】
<不揮発分の測定方法>
精秤したブリキシャーレ(n1)にアクリル系ポリマーを1g程度入れ、合計重量(n2)を精秤した後、105℃で3時間加熱した。その後、このブリキシャーレを室温のデシケータ内に1時間静置し、次いで再度精秤し加熱後の合計重量(n3)を測定した。得られた重量測定値(n1〜n3)を用いて下記式から不揮発分を算出した。
不揮発分(%)=100×[加熱後重量(n3−n1)/加熱前重量(n2−n1)]
【0045】
<粘度測定>
アクリル系ポリマーについて、B型粘度計を使用して室温にて測定した。
(製造例2〜14:アクリル系重合体(2)〜(14)の製造)
表1に示すモノマー組成に代えた以外は製造例1と同様にしてアクリル系ポリマー(2)〜(14)を得た。これらのアクリル系ポリマーのMw、Mn、不揮発分、粘度を製造例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例1]
(粘着剤組成物の調製)
製造例1により得られたアクリル系ポリマー(1) 100重量部に対して、イソシアヌレート骨格を有するトリレンジイソシアネート系硬化剤であるコロネート342(日本ポリウレタン社製)0.15重量部と、シランカップリング剤としてA-50(綜研化学社製)0.2重量部とを添加し、これらを十分に混合して粘着剤組成物を得た。
【0048】
[実施例2〜15]
アクリル系ポリマー、架橋剤、シランカップリング剤を下記表2のように代えた以外は、実施例1と同様にして粘着剤組成物を得た。
【0049】
[比較例1〜11]
アクリル系ポリマー、架橋剤、シランカップリング剤を下記表3のように代えた以外は、実施例1と同様にして粘着剤組成物を得た。
【0050】
[試験例1]
<エージング試験>
実施例1〜15および比較例1〜11で得られた粘着剤組成物を塗工、乾燥後、当該粘着剤のゲル分率変化が安定するまでに要した日数でもって評価した。結果を表2および表3に示す。なお、ゲル分率の測定方法は以下のようにして行なった。
【0051】
<ゲル分率の測定方法>
得られた粘着剤組成物を、乾燥後の厚みが20μmになるように、剥離処理の施されたPETフィルムの表面に塗布、乾燥させた。その後、塗布された粘着剤組成物のもう一方の面に、同じく剥離処理が施されたPETフィルムを貼り合わせ、試験片とした。試験片を23℃、50%RHで保管し、保管開始直後(0日)から1日毎に、試験片から粘着剤約0.1gをサンプル瓶に採取し、酢酸エチル30ccを加えて24時間浸透させた後、該サンプル瓶の内容物を200メッシュのステンレス製金網で濾別し、金網上で100℃にて2時間乾燥させた後の残留物重量を乾燥重量とした。これらの値を元に、以下の式によりゲル分率を測定した。
ゲル分率(%)=(乾燥重量/採取した粘着剤重量)×100
なお、表2および表3中のゲル分率は、エージングが完了して安定化した後のゲル分率測定値を示す。
【0052】
[試験例2]
実施例1〜15、比較例1〜11で得られた粘着剤組成物を用いて粘着剤付き偏光板を作製し、それぞれについて耐熱性、耐湿熱性、光漏れ防止性、シート老化性を以下の方法により評価した。これらの結果を表2および3にまとめて示す。
【0053】
(粘着剤付き偏光板の作製)
泡抜け後、上記粘着剤組成物を、剥離処理が施されたPETフィルム上にドクターブレードを用いて塗工し、すぐに90℃で3分間乾燥させ、これを偏光板に貼り合わせた。偏光板上の粘着剤のゲル分率変動を十分に安定させるために23℃、50%RHの条件下で5日間静置し、これを試験片とした。
【0054】
<耐熱/耐湿熱試験>
上記試験片をそれぞれ60mm×120mmに裁断し、PETフィルムを剥離後、ガラス基板上に貼り付け、これを85℃、ドライ条件で500時間放置(耐熱試験)、および60℃、95%RHで500時間放置し(耐湿熱試験)、試験片に発生する発泡、浮き、剥がれの状態を目視で観察し、耐熱性、耐湿熱性を評価した。
○:発泡、浮き、剥がれ等の外観不良が認められなかった
△:発泡、浮き、剥がれ等の外観不良がわずかに認められた
×:発泡、浮き、剥がれ等の外観不良が明らかに認められた
【0055】
<光漏れ試験>
上記のように作製された試験片2枚のPETフィルムを剥離し、これらをガラス基板の表裏面それぞれに、相互に直交ニコルになるようにラミネーターロールを用いて貼着し、次いで50℃、5気圧に調整されたオートクレーブ中で20分間保持した。続いて、これらの試験片を85℃の条件下で500時間放置し、光漏れ防止性を目視で観察した。光漏れ試験の値については、画面の中央の輝度をAとし、角部から1cm離れた位置をBとして、中央部Aと角部Bの輝度の比、すなわちX=B/Aの式をもって光漏れ防止性を評価した。すなわちXの値が小さいほど光漏れ防止性に優れるものとなる。
【0056】
<シート老化性試験>
上記試験片のPETフィルムを剥離してガラス基板上に貼り付け、これを23℃、50%RHで一ヶ月間保管した。
保管開始時の粘着力の値をA、一ヶ月経過後の粘着力の値をBとして、Y=B/A×100の式をもって変化率を定義し、Yの値をもってシート老化性を評価した(表2中、“変化無し”の表記は、Yの値が95〜105%の範囲に収まることを示す)。なお、粘着力の測定方法は以下のようにして行なった。
【0057】
<粘着力の測定方法>
上記ガラス基板に貼着された偏光板試験片を、ガラス基板に対して180°方向に300mm/minの速度で引張った際の剥離強度をもって粘着力を評価した。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
<考察>
上記試験結果より、アミド基含有アクリルモノマーを構成要素として含むアクリル系ポリマーに対してイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤を配合してなる本発明の粘着剤組成物は、イソシアヌレート型でないイソシアネート系硬化剤を配合して作製された粘着剤組成物と比較して、エージング日数を有意に短縮できることが示された。
【0061】
さらに、アミノ基含有アクリルモノマーを構成要素として含むアクリル系ポリマーに対してイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤を配合して作製された粘着剤組成物は、本発明の粘着剤組成物と比較して耐湿熱性に劣る上、シート老化性が顕著に発現し、大幅な粘着力の低下を招くことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の粘着剤組成物は、必要とされるエージング期間を有意に短縮できる結果、長期のエージングに係る種々のコストを削減することができる。さらに、本発明の粘着剤組成物は優れた光漏れ防止性を発揮し、耐熱、耐湿熱性に優れる上、シート老化を生じないため、光学部材、特に偏光板に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーおよび/または芳香環含有アクリルモノマーで構成されるモノマー80〜98.7重量部と、(b)アミド基含有アクリルモノマー0.2〜1.5重量部と、(c)水酸基含有アクリルモノマー1〜5重量部と、を含むアクリル系ポリマー100重量部に対し、(d)硬化剤としてイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤を0.12〜1重量部配合してなり、金属キレート系硬化剤を実質的に含有しないことを特徴とする光学部材用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記(d)のイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート系硬化剤が、トリレンジイソシアネート系硬化剤であることを特徴とする請求項1項記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(a)のモノマーが前記炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーを少なくとも含み、前記炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーと、炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートモノマーとからなることを特徴とする請求項1または2記載の光学部材用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記(a)のモノマーが、少なくとも芳香環含有アクリルモノマーを含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項5】
フィルム状、シート状または板状の光学部材であって、請求項1〜4いずれか1項記載の光学部材用粘着剤組成物を少なくとも一方の面上に有することを特徴とする光学部材。

【公開番号】特開2012−242473(P2012−242473A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110187(P2011−110187)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】