説明

光導波路の製造方法及び光導波路

【課題】ダイシングソーによってコアを形成して光導波路を製造するときに、下部クラッド層の完全切断やコアの形成不良を抑制し、厚みが薄い光導波路を高得率で製造する方法及び光導波路を提供する。
【解決手段】コア層16と、第1のクラッド層14と、該第1のクラッド層を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層12とを含む積層体10を用意する工程と、ダイシングソー20を用い、前記積層体の前記高屈曲材層側とは反対側の面から、前記ダイシングソーのブレード先端部が少なくとも前記第1のクラッド層の一部まで入り込むように設定して切削することにより前記積層体に切削溝18を形成するとともにコア部16aを形成する工程と、前記積層体の前記切削溝を形成した側にクラッド形成用硬化性材料22,24を供給して硬化させることにより前記コア部をクラッドで包囲する工程と、を含むことを特徴とする光導波路の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報機器内及び機器間の信号伝送を光によって行う光インターコネクションにおいて使用される光導波路の製造方法及び光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
光導波路を機器内及び機器間の光配線へ適用していく際の形態の一例として、直線状のコアを所望のピッチで配置した構造のマルチモード光導波路がある。このような直線状の光導波路を作製する方法としては、例えば、シリコン基板等の基板上に、それぞれ屈折率の異なる樹脂で形成したクラッド層とコア層の二層の積層体を設け、コア層をダイシングソーによって部分的に切削除去することにより光導波路コアを形成した後、クラッド層と同じ樹脂で光導波路コアを覆う。次いで、樹脂を硬化させた後、基板を除去することによりフレキシブルな高分子光導波路を製造する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、機器のヒンジ部やスライド部等の稼働部を経由した光伝送に適用するため、高分子光導波路については、その可撓性を活かして、曲げや捻りに追従し、モバイル機器等のヒンジ部に適用可能なフレキシブル性の高い光導波路が期待されている。
【0004】
高い柔軟性を有する光導波路を実現する方法の一つに、光導波路を弾性率の低い材料で構成する手法がある。例えば、光が伝播されるコアと、このコアの周囲に設けられるクラッドを、共にゲル状材などの引張曲げ弾性率が低く伸張性が高い材料で形成することで、全体的に柔軟性を有する光導波路を得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−286064公報
【特許文献2】特開2003−207659公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、弾性率の低い材料はダイシングソーでの切削性に乏しく、ダイシングソーによる光導波路の製造方法を適用することは困難である。
一方、屈曲時に光導波路フィルムに生じる曲げ応力は導波路厚みに依存するため、光導波路の薄膜化により高い柔軟性を実現する手法がある。光導波路コア部の大きさは接続される光部品との接合等の観点から下限が規定される為、光導波路の薄膜化は主にクラッド層の薄膜化に依存する。しかしながら、上記ダイシングソーによる光導波路の作製方法において、クラッド層の厚みを極端に薄くした場合、ダイシングソーの加工精度のバラツキにより下部クラッド層まで完全に切断してしまう製造トラブルが発生しやすくなる。また、積層体を完全に切断してしまうことを避けるため、下部クラッド層をできるだけ切削しないようにブレードの先端部の高さを設定して切削を行うと、図3(A)に示すようなコア断面の形状不良42や、図3(B)に示すようなコア層の除去不良44が生じやすい。
従って、薄膜化による柔軟性を図った光導波路を製造する際、ダイシングソーを用いてコアを形成する方法は、特に高い得率が要求される大規模な生産に適さないという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、ダイシングソーによってコアを形成して光導波路を製造するときに、下部クラッド層の完全切断やコアの形成不良を抑制し、厚みが薄い光導波路を高得率で製造する方法及び光導波路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。
<1> コア層と、該コア層と重なるように積層された第1のクラッド層と、該第1のクラッド層と重なるように積層され、該第1のクラッド層を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層とを含む積層体を用意する工程と、
ダイシングソーを用い、前記積層体の前記高屈曲材層側とは反対側の面から、前記ダイシングソーのブレード先端部が少なくとも前記第1のクラッド層の一部まで入り込むように設定して切削することにより前記積層体に切削溝を形成するとともにコア部を形成する工程と、
前記積層体の前記切削溝を形成した側にクラッド形成用硬化性材料を供給して硬化させることにより前記コア部をクラッドで包囲する工程と、
を含むことを特徴とする光導波路の製造方法。
【0008】
<2> 前記積層体がさらに第2のクラッド層を含み、前記高屈曲材層と、前記第1のクラッド層と、前記コア層と、前記第2のクラッド層とが、この順に積層されていることを特徴とする<1>に記載の光導波路の製造方法。
【0009】
<3> コア層と、
第1のクラッド層と、
該第1のクラッド層を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層と、
がこの順に積層され、かつ少なくとも光を導く方向に沿って前記コア層の前記第1のクラッド層と接していない面が前記第1のクラッド層とは別に設けられたクラッド層によって覆われている、光導波路。
【発明の効果】
【0010】
<1>に記載の光導波路の製造方法によれば、ダイシングソーによってコアを形成して光導波路を製造するときに、下部クラッド層の完全切断及びコアの形成不良を抑制し、厚みが薄い光導波路を高得率で製造することが可能となる。
【0011】
<2>に記載の光導波路の製造方法によれば、予めコア層が下部クラッド層と上部クラッド層によって挟まれている積層フィルムを用いるため、ダイシングソーによる切削工程や埋め込みクラッドの形成工程において、光導波路コアの損傷が効果的に抑制され、製品の導光性能のバラツキがさらに抑制されるとともに不良率が一層低減される。
【0012】
<3>に記載の光導波路によれば、本発明に係る高屈曲材層を備えていない光導波路に比べて、厚さあたりの屈曲性が高い光導波路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。なお、実質的に同一の機能・作用を有する部材には、全図面を通じて同じ符合を付与し、重複する説明は適宜省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る光導波路の製造方法の各工程を示す図である。
本実施形態の光導波路の製造方法は、
コア層16と、該コア層16と重なるように積層された第1のクラッド層14と、該第1のクラッド層14と重なるように積層され、該第1のクラッド層14を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層12とを含む積層体10を用意する工程と(図1(A))、
ダイシングソー20を用い、前記積層体10の前記高屈曲材層12側とは反対側の面から、前記ダイシングソー20のブレード先端部が少なくとも前記第1のクラッド層14の一部まで入り込むように設定して切削することにより前記積層体10に切削溝18を形成するとともにコア部16aを形成する工程と(図1(B))、
前記積層体10の前記切削溝18を形成した側にクラッド形成用硬化性材料を供給して硬化させることにより前記コア部16aをクラッド14,22,24で包囲する工程と(図1(C))、
を含む。以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0015】
‐積層体を用意する工程‐
まず、図1(A)に示すように、コア層16と、該コア層16と重なるように積層された下部クラッド層(第1クラッド層)14と、該下部クラッド層14と重なるように積層され、該下部クラッド層14を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層12とを含む積層フィルム10(積層体)を用意する。ここで、「高屈曲材層」とは、この層と重なるように積層されているクラッド層14を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する材料で構成された層を意味する。
【0016】
この積層フィルム10は、高屈曲材層12と下部クラッド層(第1クラッド層)14とコア層16とが、この順に積層されている。このような積層フィルム10を作製する方法は特に限定されず、スピンコート法、ラミネート法等の公知の方法を適用することができ、例えば、ラミネート法などの方法により各層に相当するシートを順次積層することで作製される。この作製では、各シートのアライメントを行う必要が無いため、簡易且つ低コストで積層フィルム10が得られる。
【0017】
クラッド層14とコア層16の材質は、製造後の光導波路26の使用波長に対して透明であり、クラッド層14の屈折率がコア層16の屈折率よりも小さく、かつ、所望の屈折率差が設定され得る材質を選択する。例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂等が用いられる。
コア層16の厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよいが、光学性能、フレキシブル性能、切削加工性、強度などの観点から、20μm以上120μm以下であることが望ましく、より望ましくは30μm以上90μm以下である。
【0018】
また、下部クラッド層14の厚みも特に限定されるものではないが、切削工程におけるブレード20の磨耗による切削断面形状の矩形からのズレと、ダイシングソー20の切削高さ精度のバラツキを吸収して正常なコア形成を可能とし、且つ、柔軟性を確保する為に、その厚さは望ましくは5μm以上50μm以下、より望ましくは10μm以上30μm以下である。
【0019】
一方、高屈曲材層12の材質は、クラッド層と接合し、少なくともクラッド層と比較して曲げ弾性率が低くなる材料が選択され、例えば、脂環式オレフィンフィルム、アクリル系フィルム、エポキシ系フィルム、ポリイミド系フィルム、シリコーン樹脂系フィルム等の樹脂フィルムが使用される。なお、高屈曲材層12を構成する材料として、曲げ弾性率が1GPa以下の高屈曲材を用いることで、光導波路の総厚増加に伴う光導波路の屈曲性能の低下が抑制される。
【0020】
ただし、高屈曲材層12の厚みについては、後の切削工程において、ダイシングソー20の加工台と被切削物(コア層16および下部クラッド層14)との間に柔軟な材料が厚く介在する系では、被切削物の固定が不十分となって切削異常を生じるおそれがある。そのため、安定した切削と、下部クラッド層14の完全切断による製造不良の抑制を両立するためには、高屈曲材層12を構成する材料の曲げ弾性率を100MPa以上とし、高屈曲材層12の厚さは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上30μm以下とすることが望ましい。なお、高屈曲材層12を構成する材料の曲げ弾性率は、2点で支持した試験片の中央に荷重を加えて測定される応力―ひずみ曲線の勾配として定義され、ASTM D790に従って得られる値である。
【0021】
‐コア部を形成する工程‐
次に、図1(B)に示すように、ダイシングソー20を用い、積層フィルム10の高屈曲材層12側とは反対側の面から、すなわち、コア層16側から切削してコア16aを形成する。このとき、ダイシングソー20のブレード先端部が下部クラッド層14の一部まで入り込むように設定して切削することにより積層フィルム10に切削溝18を形成するとともにコア部16aを形成する。
【0022】
例えば、積層フィルム10の高屈曲材層側をダイシングテープ(不図示)に貼り付けて、ダイシングソー20により、積層フィルム10の長手方向に沿って行う切削を、積層フィルム10の幅方向に所定の間隔(この間隔が光導波路コアの幅となる)で実施することで行われる。即ち、積層フィルム10の長手方向に沿って形成された切削溝18が、フィルム10の幅方向に所定の間隔で並列するように積層フィルム10を切削する。
【0023】
上記のようにダイシングソー20によりコア層16を切削してコア部16aを形成する際、即ち、ダイシングソー20によりコア層16に切削溝18を形成する際、ダイシングソー20のブレード先端部が下部クラッド層14の一部まで入り込むように設定して下部クラッド層14の一部も切削する。言い換えれば、ダイシングソー20のブレード先端により下部クラッド層14に切り込みが入るように切削して切削溝18を形成する。このようにダイシングブレード20が下部クラッド層14の所定の深さまで入り込むように設定して切削を行うことで、ダイシングブレード20の磨耗による切削断面形状の矩形からのずれや(図3(B))、ダイシングソー20の切削高さ精度のバラツキ(図3(C))に起因するコア部形状の形成異常が回避される。
【0024】
正常なコア形状は上記のように下部クラッド層14の一部までダイシングブレード20の先端部を入り込ませて切削することで達成される。一方、ダイシングブレード20の高さ方向(積層フィルム10の厚み方向)の加工精度のバラツキによって、ダイシングブレード20が下部クラッド層14を完全に切断してしまうことが懸念される。また、ダイシングソー20は、一般に、高屈曲な材料の加工には適さない為、例えば、クラッド層14及びコア層16を高屈曲材で構成して上記光導波路の作製工程を適用することは困難である。
【0025】
一方、本実施形態で用いる積層フィルム10は、下部クラッド層14と接し、完全に切断されることを防止する為の予備層となる高屈曲材層12が設けられている。この高屈曲材層12により下部クラッド層14の見かけの層厚が確保されることで、積層フィルム10が完全に切断されることが抑制され、製造不良が効果的に防止される。仮に、ダイシングブレード20が下部クラッド層14を完全に切断してブレード先端部が高屈曲材層12に届いたとしても、高屈曲材層12は下部クラッド層14よりも柔軟性が高いため、ブレード20は貫通し難く、加工性が低下することはない。従って、例えば、本実施形態に係る高屈曲材層12と下部クラッド14の合計の厚みと、このような高屈曲材層が存在しない積層フィルムの下部クラッド層の厚みが同じであっても、本実施形態では高屈曲材層12を有することで、積層フィルム全体としては高い柔軟性が確保されるとともに下部クラッド層14の一部まで切削されてコア部16aが確実に形成されることとなる。
【0026】
‐コア部をクラッドで包囲する工程‐
次に、図1(C)に示すように、前記積層フィルム10の前記切削溝18を形成した側にクラッド形成用硬化性材料を供給して硬化させることにより前記コア部16aをクラッドで包囲する。すなわち、本実施形態では、積層フィルム10の切削溝18にクラッド形成用硬化性樹脂を充填して埋め込みクラッド層22を形成すると共に、コア層16の表面(露出面)には上部クラッド層24を形成する。これにより、少なくとも光を導く方向に沿ってコア層16(コア部16a)の下部クラッド層14と接していない面が下部クラッド層14とは別に設けられたクラッド層22,24によって覆われる。
【0027】
ここで、埋め込みクラッド層22及び上部クラッド層24を形成するための硬化性樹脂は、積層フィルム10への供給時に液状であり、供給後に硬化してクラッドとしての屈折率を有する材料、例えば、放射線硬化性、電子線硬化性、熱硬化性等の樹脂が用いられる。中でも、紫外線硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂が望ましく用いられ、特に、紫外線硬化性樹脂を選択することが望ましい。
紫外線硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、紫外線硬化性又は熱硬化性のモノマー、オリゴマー、あるいはモノマーとオリゴマーの混合物が望ましく用いられる。紫外線硬化性樹脂としては、エポキシ系、ポリイミド系、アクリル系の紫外線硬化性樹脂が望ましく用いられる。
【0028】
積層フィルム10に硬化性樹脂を供給する方法としては、スピンコート、スプレー、スクリーン印刷、インクジェット印刷など、公知の方法が採用される。例えば、コア層16側に、液状のクラッド用硬化性樹脂を滴下するとともに、スピンコート法による遠心力により広げることで、各切削溝18の内部がクラッド用硬化性樹脂によって満たされるとともに、コア層16(コア部16a)上にクラッド用硬化性樹脂の膜が形成される。その後、紫外線ランプ、紫外線LED、UV照射装置等を用いて紫外線照射により硬化させることで、埋め込みクラッド層22及び上部クラッド層24が形成される。
【0029】
なお、コア16aを包囲するクラッド、すなわち、下部クラッド層14、埋め込みクラッド層22、及び上部クラッド層24は、いずれもコアよりも屈折率が低い材料で構成される必要があり、特に光導波路コアとの屈折率差を確保するため、比屈折率差は0.5%以上、望ましくは1%以上である。また、各クラッド層14,22,24の屈折率差は小さい方が望ましく、その差は0.05以内、望ましくは0.001以内、更に望ましくは差がないことが光の閉じ込めの点からみて望ましい。
【0030】
以上の工程により光導波路26が得られる。なお、本実施形態で製造される光導波路26の厚さは限定されないが、本実施形態に係る光導波路の製造方法によれば、下部クラッド層14と接する高屈曲材層12を有する積層フィルム10を用いることで、ダイシングソー20によってコア16aが高精度に形成され、また、積層フィルム10が完全に切断されてしまうことが効果的に抑制される。従って、本実施形態に係る光導波路の製造方法は、厚みの薄い光導波路を製造する場合に特に好ましく適用され、製造する光導波路26は、厚さが30μm以上500μm以下であることが望ましく、より望ましくは50μm以上200μm以下である。また、本実施形態で製造される光導波路26は、その幅が0.5mm以上10mm以下であることが望ましく、より望ましくは1mm以上5mm以下である。光導波路26の厚さ及び幅を上記範囲とすることで、ヒンジ部の捻れや曲げに追従する柔軟性を確保させつつ、高い位置精度制御が必要とされる光学実装に必要な強度が得やすくなる。
【0031】
また、以上説明した光導波路の製造方法は、コア層16と、下部クラッド層14と、高屈曲材層12とがこの順に積層された積層フィルム10を用い、ダイシングソー20により下部クラッド層14の一部まで切削してコア部16aを形成することで、積層フィルム10の柔軟性を維持したまま下部クラッド層14の完全切断による製造不良やコア形成不良が効果的に抑制され、量産性に優れた製法となる。
【0032】
<第2実施形態>
図2は、第2実施形態に係る光導波路の製造方法の各工程を示す図である。
本実施形態に係る光導波路の製造方法では、図2(A)に示すように、高屈曲材層12と、下部クラッド層(第1クラッド層)14と、コア層16と、上部クラッド層(第2クラッド層)24とが、この順に積層された積層フィルム(積層体)30を用意する。高屈曲材層12と、下部クラッド層14と、コア層16のそれぞれの材質及び厚みは、第1実施形態に係る積層フィルム10と同様である。また、上部クラッド層24の材質及び厚みは、例えば下部クラッド層14と同様とするが、クラッドとしての機能を有していれば必ずしも下部クラッド層14と同じ材質及び厚さである必要はない。例えば、下部クラッド層14の切り残し量を考慮し、上部クラッド層24の厚みを下部クラッド層14よりも薄くすることで、積層フィルム30の総厚を小さく抑えることも可能である。
【0033】
次に、図2(B)に示すように、積層フィルム30の高屈曲材層側をダイシングテープ(不図示)に貼り付け、ダイシングソー20を用い、積層フィルム30の高屈曲材層12側とは反対側の面から、すなわち、上部クラッド層24が形成されている側から、ダイシングソー20のブレード先端部が下部クラッド層(第1クラッド層)14の一部まで所定量入り込むように設定して切削する。このようにしてダイシングソー20によりコア部16aを形成する際、即ち、ダイシングソー20により切削溝18を形成する際、ダイシングソー20のブレード部先端を下部クラッド層14に所定量入り込ませて下部クラッド層14の一部も切削する。言い換えれば、ダイシングソー20のブレード先端部により下部クラッド層14に切り込みが入るように切削し、切削溝18を形成する。
【0034】
このようにして上部クラッド層24、コア層16、及び下部クラッド層14の一部を切削することにより積層フィルム30に切削溝18を形成し、この切削による切削溝18に挟まれたコア層16の領域がコア部16aとなる。当該切削を積層フィルム30の長さ方向に沿って行い、さらに幅方向に所定のピッチで同様の切削を行うことにより、同一平面で伝播光が並進するように複数のコア部16aが積層フィルム30の幅方向に並列して形成される。
【0035】
上記のように本実施形態に係る積層フィルム30を切削して溝18を形成する場合も、下部クラッド層14と重なるように設けられた高屈曲材層12の存在により、下部クラッド層14の見かけの層厚が確保されることで、積層フィルム30が完全に切断されることが抑制される。また、高屈曲材層12をダイシングブレード20が貫通することは生じ難く、高屈曲材層12が存在しない積層フィルムを用いる場合よりも加工性が低下することはない。
【0036】
次に、図2(C)に示すように、積層フィルム30の切削溝18を形成した側、すなわち上部クラッド層24側にクラッド形成用硬化性材料を供給して硬化させることによりコア部16aをクラッド14,22,24で包囲する。本実施形態では、積層フィルム30の切削溝18にクラッド形成用硬化性樹脂を流し込んで充填し、これを硬化させて埋め込みクラッド層22を形成する。使用するクラッド形成用硬化性樹脂と、その供給方法及び硬化方法は第1実施形態と同様である。これにより、コア層16(コア部16a)と、下部クラッド層14と、下部クラッド層14を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層12とがこの順に積層され、かつ光を導く方向に沿ってコア層16(コア部16a)の下部クラッド層14と接していない面が下部クラッド層14とはそれぞれ別に設けられたクラッド層22,24によって覆われた光導波路32が得られる。なお、本実施形態では予め上部クラッド層24を有する積層フィルム30を用いるため、上部クラッド層24上にはさらにクラッド層を形成する必要はないが、切削溝18内にクラッド材料を供給して硬化させる際、上部クラッド層24上にクラッド層が形成されても光学特性には特に問題はない。ただし、第2実施形態で製造される光導波路32の望ましい総厚は、第1実施形態で製造される光導波路26と同様である。
【0037】
以上説明した第2実施形態に係る光導波路の製造方法は、下部クラッド層14と重なる高屈曲材層12を設けた積層フィルム30を切削してコアを形成するため、光導波路の柔軟性を維持したまま下部クラッド層14の完全切断による製造不良やコア形成不良を抑制し、量産性に優れた製法となる。
また、本実施形態で使用する積層フィルム30は、コア層16が下部クラッド層14と上部クラッド層24によって挟まれているため、ダイシングソー20による切削工程や埋め込みクラッド22の形成工程において、光導波路コア16aの損傷が効果的に抑制され、製品の導光性能のバラツキが抑制されるとともに、不良率が一層低減される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0039】
<実施例1>
上記第2実施形態に係る光導波路フィルムの製造方法に従って、以下のように光導波路フィルムを作製した。
厚さ10μmのエポキシ系樹脂層(高屈曲材層:曲げ弾性率500MPa)と、厚さ15μmのエポキシ系樹脂層(下部クラッド層:屈折率1.55)と、厚さ50μmのエポキシ系樹脂層(コア層:屈折率1.60)と、厚さ5μmのエポキシ系樹脂層(上部クラッド層:屈折率1.55)とがこの順に積層された長さ120mm幅110mmの4層高分子フィルム(積層フィルム)を準備した。
【0040】
次に、高屈曲材層を設置面(下面)にしてダイシングテープに貼り付け、積層フィルムをダイシングソーに設置し、厚さ120μmのブレード20を取り付けたダイシングソーを用いて積層フィルムの最下面(設置面)より上方15μmの位置を切削深さの基準として上部クラッド層側から積層フィルムを切削して切削溝を形成した。このような切削により、幅50μmの光導波路コアが積層フィルムの幅方向に500μmピッチで整列するように厚さ50μmのコア層を切削して光導波路コアを形成した。
【0041】
次に、積層フィルムに形成された切削溝に、光導波路コアを覆うようにエポキシ系紫外線硬化樹脂(屈折率1.55)を塗布し、紫外線露光により硬化させた。
次に、ダイシングソーによって外形を整形し、長さ110mm、幅0.9mm、厚さ85μmの2チャンネル光導波路フィルムを100本作製した。
作製した光導波路フィルムについて総合倍率50倍の実体顕微鏡を用いて外観検査を行ったところ、全ての光導波路フィルムについて異常は発見されなかった。
【0042】
次に、上記のようにして作製した光導波路フィルムから20本を無作為に抜き出し、IPC屈曲試験(IPC規格TM−650)を屈曲半径R=1.5mm、屈曲速度:120cpm、ストローク:30mmの条件で実施したところ、10万回の屈曲後に未破断であり、また、試験前後の挿入損失の変化量は0.1dB以下であり、良好な屈曲耐性を示した。
以上のように良好な屈曲耐性を有する光導波路を高い得率で作製できた。
【0043】
<比較例1>
高屈曲材層を除いた他は比較例1と同様の構成の3層高分子フィルム(積層フィルム)を用意した。
次に、厚さ15μmの下部クラッド層を設置面(下面)にしてダイシングテープに貼り付け、積層フィルムをダイシングソーに設置し、厚さ120μmのブレード20を取り付けたダイシングソーを用いて積層フィルムの最下面(設置面)より上方5μmの位置を切削深さの基準とし、上部クラッド層側から積層フィルムを切削して切削溝を形成した。このような切削により、幅50μmの光導波路コアが積層フィルムの幅方向に500μmピッチで整列するように厚さ50μmのコア層を切削して光導波路コアを形成した。
【0044】
次に、エポキシ系樹脂層に形成された切削溝に、光導波路コアを覆うようにエポキシ系紫外線硬化樹脂(屈折率1.55)を塗布し、紫外線露光により硬化させた。
次に、ダイシングソーによって外形を整形し、長さ110mm、幅0.9mm、厚さ75μmの2チャンネル光導波路フィルムを100本作製した。
作製した全ての光導波路フィルムについて総合倍率50倍の実体顕微鏡を用いて外観検査を行ったところ、25本の光導波路フィルムでダイシングソーの切削溝に対応した位置のフィルム表面に長さ5mm以上の凸筋状の欠陥が確認された。
【0045】
次に上記欠陥部がIPC屈曲試験機に設置した際の屈曲部に位置する光導波路フィルムを6本抜き出し、IPC屈曲試験(IPC規格TM−650)を屈曲半径R=1.5mm、屈曲速度:120cpm、ストローク:30mmの条件で実施したところ、2千〜1万回の屈曲で破断した。
以上のように、25%の確率で外観異常が発生し、異常部は屈曲耐性が著しく低下する製造不良が発生した。
【0046】
本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されず、適宜変更を加えることができる。
例えば、積層フィルムのコア層とクラッド層の数は限定されず、光導波路の厚さ方向に複数のコア層とクラッド層が交互に積層されており、最も外側に積層されているクラッド層と重なるように高屈曲材層が積層されている積層フィルムを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態に係る光導波路の製造方法における工程を示す図である。(A)積層体を用意する工程 (B)コア部を形成する工程 (C)コア部をクラッドで包囲する工程
【図2】第2実施形態に係る光導波路の製造方法における工程を示す図である。(A)積層体を用意する工程 (B)コア部を形成する工程 (C)コア部をクラッドで包囲する工程
【図3】ダイシングソーを用いてコア部を形成する場合に発生し易い製造不良を示す図である。(A)コア断面形状不良を示す図 (B)コア層除去不良を示す図
【符号の説明】
【0048】
10・・・積層フィルム(積層体)
12・・・高屈曲材層
14・・・下部クラッド層(第1クラッド層)
16・・・コア層
16a・・・コア部
18・・・切削溝
20・・・ダイシングソー(ブレード)
22・・・埋め込みクラッド層
24・・・上部クラッド層
26・・・光導波路
30・・・積層フィルム(積層体)
32・・・光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層と、該コア層と重なるように積層された第1のクラッド層と、該第1のクラッド層と重なるように積層され、該第1のクラッド層を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層とを含む積層体を用意する工程と、
ダイシングソーを用い、前記積層体の前記高屈曲材層側とは反対側の面から、前記ダイシングソーのブレード先端部が少なくとも前記第1のクラッド層の一部まで入り込むように設定して切削することにより前記積層体に切削溝を形成するとともにコア部を形成する工程と、
前記積層体の前記切削溝を形成した側にクラッド形成用硬化性材料を供給して硬化させることにより前記コア部をクラッドで包囲する工程と、
を含むことを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項2】
前記積層体がさらに第2のクラッド層を含み、前記高屈曲材層と、前記第1のクラッド層と、前記コア層と、前記第2のクラッド層とが、この順に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の光導波路の製造方法。
【請求項3】
コア層と、
第1のクラッド層と、
該第1のクラッド層を構成する材料よりも低い曲げ弾性率を有する高屈曲材層と、
がこの順に積層され、かつ少なくとも光を導く方向に沿って前記コア層の前記第1のクラッド層と接していない面が前記第1のクラッド層とは別に設けられたクラッド層によって覆われている、光導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−103903(P2009−103903A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275285(P2007−275285)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】