説明

光導波路デバイスおよびそのオーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物

【課題】太陽光のような外乱光の照度が高い環境で使用しても、受光素子(光電変換素子)の誤作動を防止することができる光導波路デバイスおよびそのオーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】光導波路Aの一端部に受光素子Bが光結合されている光導波路デバイスにおいて、光導波路Aのオーバークラッド層3の表面が外乱光の入射面となっている。オーバークラッド層3は、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、外乱光を吸収する色素を含有する樹脂組成物の硬化体からなっているとともに、コア2の頂面からオーバークラッド層3の表面までの厚みが100μm以上に設定されている。上記樹脂組成物として、光信号透過率T850と外乱光透過率T500と紫外線透過率T365とが、T500<T365<T850の関係を満たしているものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路と光電変換素子とが光結合されている光導波路デバイスおよびそのオーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、光を媒体とした情報通信が普及している。例えば、光導波路と、この光導波路の端部に光結合された受光素子(光電変換素子)とを備えた光導波路デバイスにより、情報通信が行われる。すなわち、光導波路のコア内を伝播してきた光信号が、上記受光素子で受信され、その受光素子により、電気信号に変換される。
【0003】
しかしながら、上記光導波路デバイスが、例えば、太陽光の下で使用されると、太陽光は、照度が高いため、光導波路のオーバークラッド層を透過してコア内に入射する。上記受光素子が受信する波長領域は、通常、波長400〜1000nmと広く、可視光線の波長領域(およそ400〜800nmの範囲)を含んでいるため、上記のように太陽光の下で光導波路デバイスを使用すると、光信号が伝播されていない状態でも、上記受光素子が、上記オーバークラッド層を透過してコア内に入射した太陽光の一部を受光し、誤作動を起こす。
【0004】
そこで、オーバークラッド層の表面に、有機色素液を塗布して有機着色層を形成し、その有機着色層により、外乱光(受光素子の誤作動の原因となる光)の透過を阻止し、受光素子の誤作動を防止する光導波路デバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−39804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記有機着色層の厚みは、用いる有機色素液の粘度等により制限され、通常、50μm以下である。そのため、太陽光のような外乱光の照度が高い環境(例えば、10万ルクス)では、その外乱光の一部が上記有機着色層を透過し、さらにオーバークラッド層も透過し、受光素子が誤作動することがある。上記有機着色層がオーバークラッド層の表面に形成された光導波路デバイスは、その点で、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、太陽光のような外乱光の照度が高い環境で使用しても、受光素子(光電変換素子)の誤作動を防止することができる光導波路デバイスおよびそのオーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、アンダークラッド層と,このアンダークラッド層の表面に形成され光信号を伝播するコアと,このコアを被覆した状態で上記アンダークラッド層の表面に形成されているオーバークラッド層とを有し,上記オーバークラッド層の表面が外乱光の入射面になっている光導波路と、この光導波路に光結合され,受信した光信号を電気信号に変換する光電変換素子とを備え、この光電変換素子の受信可能な波長領域と上記外乱光の波長領域とが重なっている光導波路デバイスであって、上記オーバークラッド層が、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記外乱光を吸収する色素を含有する樹脂組成物の硬化体からなり、上記コアの頂面からオーバークラッド層の表面までの厚みが100μm以上に設定されている光導波路デバイスを第1の要旨とする。
【0009】
また、本発明は、上記光導波路デバイスのオーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物であって、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記オーバークラッド層の表面から入射する外乱光を吸収する色素を含有し、上記コアを伝播する光信号の波長を代表する波長850nmの光信号透過率T850と、上記外乱光の波長を代表する波長500nmの外乱光透過率T500と、紫外線の波長を代表する波長365nmの紫外線透過率T365とが、T500<T365<T850の関係を満たしている樹脂組成物を第2の要旨とする。
【0010】
本発明者らは、太陽光のような外乱光の照度が高い環境でも、光電変換素子が誤作動しないようにするため、型成形等により厚く形成できるオーバークラッド層自体に外乱光を吸収させることを着想し、そのオーバークラッド層の形成材料および厚み等について、研究を重ねた。その結果、オーバークラッド層を、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記外乱光を吸収する色素を含有する樹脂組成物の硬化体からなるものとし、さらに、オーバークラッド層の厚み(コアの頂面からの厚み)を100μm以上に設定すると、オーバークラッド層自体に外乱光を吸収させることができ、光電変換素子の誤作動を防止できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
また、本発明者らは、上記オーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物について、研究を重ねた。その結果、その樹脂組成物として、光信号透過率T850と外乱光透過率T500と紫外線透過率T365とが、T500<T365<T850の関係を満たしているものが適正であることを見出した。
【0012】
すなわち、上記オーバークラッド層形成用の樹脂組成物が、上記T500<T365<T850の関係を満たしていることにより、オーバークラッド層を形成する際に上記樹脂組成物に照射される紫外線は、その樹脂組成物内に入射した後、色素に吸収されることなく、紫外線硬化性樹脂に適正に吸収される。このため、上記樹脂組成物は、紫外線照射による硬化性に優れ、適正にオーバークラッド層に形成される。しかも、そのように形成されたオーバークラッド層は、色素が含有されていても、脆くならず、機械的強度にも優れている。
【0013】
また、上記T500<T365<T850の関係は、上記樹脂組成物が硬化してオーバークラッド層に形成された後も満たされる。すなわち、オーバークラッド層における外乱光透過率T500は、小さく設定される。そのため、上記オーバークラッド層の厚み(コアの頂面から100μm以上)と相俟って、外乱光がオーバークラッド層の表面から入射しても、その外乱光は、オーバークラッド層内の色素で充分に吸収される。その結果、外乱光による光電変換素子の誤作動を防止することができる。
【0014】
さらに、光導波路と光電変換素子との光結合部分では、通常、光導波路のコアの先端面と光電変換素子との間に、僅かな厚みのオーバークラッド層部分が形成される。その理由は、コアの先端部分が突出して露出していると、その突出部分から光が散乱し、光伝播損失が大きくなるからである。このようにコアの先端面がオーバークラッド層部分で被覆されている状態において、上記T500<T365<T850の関係のように光信号透過率T850が大きく設定されると、コアの先端面から出射した光信号は、その前方のオーバークラッド層部分を透過し易く、光電変換素子に効率よく達することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光導波路デバイスでは、オーバークラッド層が、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、外乱光を吸収する色素を含有する樹脂組成物の硬化体からなり、コアの頂面からオーバークラッド層の表面までの厚みが100μm以上に設定されている。そのため、外乱光がオーバークラッド層の表面から入射しても、その外乱光は、オーバークラッド層内の色素で充分に吸収される。その結果、外乱光による光電変換素子の誤作動を防止することができる。さらに、本発明の光導波路デバイスでは、オーバークラッド層の表面に、従来のような有機着色層等の新たな層を形成する必要がなく、光導波路の厚みが厚くならないという利点を有する。
【0016】
特に、上記コアを伝播する光信号が、波長領域700〜1000nmの範囲内にある近赤外線であり、上記外乱光が、波長領域400〜700nmの範囲を含む太陽光であり、上記光電変換素子の受信可能な波長領域が、400〜1000nmの範囲内である場合には、上記波長領域400〜700nmの範囲は太陽光エネルギーが強い領域であるものの、本発明の光導波路デバイスを、太陽光の下で、誤作動を起こすことなく使用することができる。
【0017】
また、上記色素が、下記の(a)〜(c)のいずれかからなる場合には、色素の色(種類)によって吸収できる光の波長領域が異なることから、色素の色(種類)を複数とすることにより、吸収できる外乱光の波長領域を所定の領域に設定することができ、外乱光をより効率よく吸収することができる。
(a)赤色色素および緑色色素の2種類。
(b)赤色色素,緑色色素および黄色色素の3種類。
(c)赤色色素,緑色色素および青色色素の3種類。
【0018】
そして、本発明の光導波路デバイスのオーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物は、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記オーバークラッド層の表面から入射する外乱光を吸収する色素を含有し、それにより、光信号透過率T850と外乱光透過率T500と紫外線透過率T365とが、T500<T365<T850の関係を満たしている。そのため、本発明の樹脂組成物に紫外線を照射してオーバークラッド層を形成する際には、その紫外線は、本発明の樹脂組成物に入射した後、色素に吸収されることなく、紫外線硬化性樹脂に適正に吸収される。このため、本発明の樹脂組成物は、紫外線照射による硬化性に優れ、適正にオーバークラッド層に形成される。しかも、そのように形成されたオーバークラッド層は、色素を含有していても、脆くならず、機械的強度にも優れる。さらに、上記T500<T365<T850の関係は、上記樹脂組成物が硬化してオーバークラッド層に形成された後も満たされる。そのため、本発明の樹脂組成物を用いることにより、外乱光の透過量を少なくすることができるオーバークラッド層を形成することができる。また、コアの先端面がオーバークラッド層部分で被覆されている状態であっても、コアの先端面から出射した光信号が透過し易くなるオーバークラッド層部分を形成することができる。
【0019】
特に、上記外乱光透過率T500が10%以下であり、上記紫外線透過率T365が3〜50%の範囲内であり、上記光信号透過率T850が80%以上である場合には、オーバークラッド層の形成性がより向上する。また、機械的強度がより向上したオーバークラッド層を形成することができる。さらに、外乱光の透過量をより少なくできるオーバークラッド層を形成することができるとともに、コアの先端面から出射した光信号がより透過し易くなるオーバークラッド層部分を形成することができる。
【0020】
また、上記紫外線硬化性樹脂が、樹脂組成物の総重量に対して80〜99重量%の範囲内であり、上記色素が、樹脂組成物の総重量に対して0.05〜0.75重量%の範囲内である場合には、オーバークラッド層の形成性がより一層向上する。また、機械的強度がより一層向上したオーバークラッド層を形成することができる。さらに、外乱光の透過量をより一層少なくできるオーバークラッド層を形成することができるとともに、コアの先端面から出射した光信号がより一層透過し易くなるオーバークラッド層部分を形成することができる。
【0021】
さらに、上記色素が、下記の(a)〜(c)のいずれかからなる場合には、色素の種類(色)によって吸収できる光の波長領域が異なることから、色素の種類(色)を複数とすることにより、吸収できる外乱光の波長領域を所定の領域に設定でき、外乱光をより効率よく吸収できるオーバークラッド層を形成することができる。
(a)赤色色素および緑色色素の2種類。
(b)赤色色素,緑色色素および黄色色素の3種類。
(c)赤色色素,緑色色素および青色色素の3種類。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光導波路デバイスの一実施の形態を模式的に示し、(a)は、その縦断面図であり、(b)は、その横断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、上記光導波路デバイスの光導波路の製法を模式的に示す説明図である。
【図3】実施例および比較例のオーバークラッド層の吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0024】
図1(a)は、本発明の光導波路デバイスの一実施の形態を模式的に示す縦断面図であり、図1(b)は、その横断面図である。この光導波路デバイスは、光導波路Aと、この光導波路Aの一端部(図では左端部)に光結合された受光素子(光電変換素子)Bとを備えている。そして、上記光導波路デバイスは、太陽光のような外乱光の照度が高い環境で使用される。そのため、上記光導波路Aのオーバークラッド層3の表面は、上記外乱光の入射面となる。そこで、その外乱光をオーバークラッド層3で吸収し、受光素子Bの誤作動を防止するよう、上記オーバークラッド層3は、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記外乱光を吸収する色素を含有する樹脂組成物の硬化体からなっているとともに、上記コア2の頂面からオーバークラッド層3の表面までの厚みが100μm以上に設定されている。このようなオーバークラッド層3の形成材料および厚みが、本発明の特徴の一つである。
【0025】
上記光導波路Aは、図1(a),(b)に示すように、アンダークラッド層1と、このアンダークラッド層1の表面に形成され光信号を伝播するコア2と、このコア2を被覆した状態で上記アンダークラッド層1の表面に形成されている上記オーバークラッド層3とにより構成されている。また、この実施の形態では、上記コア2の先端面がオーバークラッド層3の一部分で被覆されており、このオーバークラッド層3の一部分を介して、コア2の先端面と受光素子Bとが光結合されている。
【0026】
上記コア2を伝播する光信号は、通常、波長領域700〜1000nmの範囲内にある近赤外線が用いられ、なかでも、波長850nmの近赤外線が好適に用いられている。
【0027】
上記受光素子Bは、コア2を伝播してきた光信号を受信し、その光信号を電気信号に変換するものである。その受光素子Bとしては、通常、受信可能な波長領域を400〜1000nmの範囲内とするものが用いられる。そのような受光素子Bとしては、例えば、CMOS(相補正金属酸化膜半導体)イメージセンサ,CCD(Charge Coupled Dedice )イメージセンサ等が好適に用いられる。
【0028】
上記オーバークラッド層3の表面から入射する外乱光は、通常、太陽光である。太陽光は、赤外線,可視光線および紫外線を含む、広い波長領域を有する光であり、なかでも、波長領域400〜700nmの範囲がエネルギーの強い領域となっている。そのため、外乱光が太陽光である場合、上記色素としては、上記太陽光エネルギーの強い波長領域を含む400〜780nmの波長領域の光を吸収するものが用いられる。
【0029】
つぎに、上記光導波路Aの製法について詳しく説明する。
【0030】
まず、アンダークラッド層1を形成する際に用いる平板状の基台10〔図2(a)参照〕を準備する。この基台10の形成材料としては、例えば、樹脂,ガラス,石英,シリコン,金属等があげられる。基台10の厚みは、例えば、20μm(フィルム状)〜5mm(板状)の範囲内に設定される。
【0031】
ついで、図2(a)に示すように、上記基台10の表面の所定領域に、アンダークラッド層1を形成する。このアンダークラッド層1の形成材料としては、熱硬化性樹脂または感光性樹脂があげられる。上記熱硬化性樹脂を用いる場合は、その熱硬化性樹脂が溶媒に溶解しているワニスを塗布した後、それを加熱することにより、アンダークラッド層1に形成する。一方、上記感光性樹脂を用いる場合は、その感光性樹脂が溶媒に溶解しているワニスを塗布した後、それを紫外線等の照射線で露光することにより、アンダークラッド層1に形成する。アンダークラッド層1の厚みは、好ましくは5〜50μmの範囲内に設定される。
【0032】
つぎに、図2(b)に示すように、上記アンダークラッド層1の表面に、所定パターンのコア2を形成する。そのコア2の形成方法としては、例えば、プラズマを用いたドライエッチング法,転写法,露光・現像法,フォトブリーチ法等があげられる。このコア2の形成材料としては、好ましくは、パターニング性に優れた感光性樹脂が用いられる。その感光性樹脂としては、例えば、アクリル系紫外線硬化性樹脂,エポキシ系紫外線硬化性樹脂,シロキサン系紫外線硬化性樹脂,ノルボルネン系紫外線硬化性樹脂,ポリイミド系紫外線硬化性樹脂等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、コア2の断面形状は、例えば、パターニング性に優れた台形または長方形である。コア2の幅は、好ましくは10〜500μmの範囲内に設定される。コア2の厚み(高さ)は、好ましくは10〜100μmの範囲内に設定される。
【0033】
なお、上記コア2の形成材料としては、上記アンダークラッド層1および下記オーバークラッド層3〔図2(d)参照〕の形成材料よりも屈折率が高く、伝播する光信号の波長で透明性が高い材料が用いられる。上記屈折率の調整は、上記アンダークラッド層1,コア2,オーバークラッド層3の各形成材料である樹脂に導入する有機基の種類および含有量の少なくとも一方を変化させることにより、適宜、増加ないし減少させることができる。例えば、環状芳香族性の基(フェニル基等)を樹脂分子中に導入するか、あるいはその芳香族性基の樹脂分子中の含有量を増加させることにより、屈折率を大きくすることができる。他方、直鎖または環状脂肪族性の基(メチル基,ノルボルネン基等)を樹脂分子中に導入するか、あるいはその脂肪族性基の樹脂分子中の含有量を増加させることにより、屈折率を小さくすることができる。
【0034】
つぎに、オーバークラッド層3〔図2(d)参照〕の形成材料を準備する。この形成材料は、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記外乱光を吸収する色素を含有する樹脂組成物3A〔図2(c)参照〕である。そして、この樹脂組成物3Aは、光信号透過率T850と外乱光透過率T500と紫外線透過率T365とが、T500<T365<T850の関係を満たしている。ここで、T850は、上記コア2を伝播する光信号(波長領域700〜1000nmの範囲内にある近赤外線)の波長を代表する波長850nmの光信号透過率である。T500は、上記外乱光(波長領域400〜700nmの範囲内にある太陽光)の波長を代表する波長500nmの外乱光透過率である。T365は、紫外線の波長を代表する波長365nmの紫外線透過率である。このようなオーバークラッド層3の形成材料である樹脂組成物3Aが、本発明の特徴の一つである。
【0035】
上記各透過率は、上記関係を満たす範囲において、上記外乱光透過率T500が10%以下であり、上記紫外線透過率T365が3〜50%の範囲内であり、上記光信号透過率T850が80%以上であることが好ましい。
【0036】
上記樹脂組成物3Aにおける紫外線硬化性樹脂としては、上記コア2の形成材料と同様の紫外線硬化性樹脂(アクリル系紫外線硬化性樹脂等)があげられる。そして、上記樹脂組成物3Aにおける紫外線硬化性樹脂の割合は、樹脂組成物3Aの総重量に対して80〜99重量%の範囲内であることが好ましい。
【0037】
上記色素としては、先に述べたように、外乱光が太陽光である場合、波長400〜780nmの光を吸収するものが用いられる。また、上記色素は、その種類(色)によって吸収できる光の波長領域が異なることから、2種類の色素からなることが好ましく、より好ましくは3種類の色素からなることである。2種類の色素を用いる場合、その組み合わせは、赤色色素および緑色色素の2種類であることが好ましい。3種類の色素を用いる場合、その組み合わせは、赤色色素,緑色色素および黄色色素の3種類、または赤色色素,緑色色素および青色色素の3種類であることが好ましい。このように、色素の種類(色)を複数とすることにより、吸収できる外乱光の波長領域を所定の領域に設定でき、外乱光をより効率よく吸収できるオーバークラッド層3を形成することができる。そして、上記樹脂組成物3Aにおける色素の割合は、樹脂組成物3Aの総重量に対して0.05〜0.75重量%の範囲内であることが好ましい。
【0038】
なお、上記樹脂組成物3Aにおいて、上記紫外線硬化性樹脂および色素以外に含有される物質は、光酸発生剤等の添加剤である。
【0039】
つぎに、図2(c)に示すように、オーバークラッド層形成用の成形型20を準備する。この成形型20の下面には、上記オーバークラッド層3〔図2(d)参照〕の形状に対応する型面を有する凹部21が形成されている。この実施の形態では、上記凹部21の一端部分(図の右端部分)が、レンズ曲面21aに形成されている。また、上記成形型20には、オーバークラッド層3の形成材料を注入するための注入孔(図示せず)が、上記凹部21に連通した状態で形成されている。さらに、上記成形型20としては、その成形型20を透して、上記樹脂組成物3Aを、紫外線により露光する必要があるため、紫外線を透過する材料からなるもの(例えば石英製のもの)が用いられる。
【0040】
そして、上記成形型20の凹部21内に上記コア2が配置されるよう、その成形型20の下面をアンダークラッド層1の表面に密着させる。そして、上記凹部21の型面とアンダークラッド層1の表面とコア2の表面で囲まれた成形空間に、オーバークラッド層3の形成材料である上記樹脂組成物3Aを、上記成形型20に形成された注入孔から注入し、上記成形空間を上記樹脂組成物3Aで満たす。つぎに、上記成形型20を透して紫外線を露光し、その後、必要に応じて加熱処理を行う。これにより、上記樹脂組成物3Aが硬化し、一端部分がレンズ部3aに形成されたオーバークラッド層3が形成される。このオーバークラッド層3の、コア2の頂面からの厚みは、100μm以上に設定され、好ましくは500μm以上であり、より好ましくは800〜1500μmの範囲内である。
【0041】
このオーバークラッド層3の形成工程において、上記樹脂組成物3Aが上記T500<T365<T850の関係を満たしていることにより、照射される紫外線は、上記樹脂組成物3Aに入射した後、色素に吸収されることなく、紫外線硬化性樹脂に適正に吸収される。このため、上記樹脂組成物3Aは、紫外線照射による硬化性に優れ、適正にオーバークラッド層3に形成される。しかも、そのように形成されたオーバークラッド層3は、色素を含有していても、脆くならず、機械的強度にも優れている。
【0042】
つぎに、図2(d)に示すように、脱型し、その後、アンダークラッド層1から基台10〔図2(c)参照〕を剥離し、アンダークラッド層1、コア2およびオーバークラッド層3からなる光導波路Aを得る。
【0043】
そして、その光導波路Aの一端部(図では左端部)に、受光素子Bを光結合することにより、図1(a),(b)に示す光導波路デバイスを得る。
【0044】
上記光導波路デバイスは、例えば、光導波路をL字板状に形成することにより、タッチパネルにおける指等の触れ位置の検知手段として用いることができる。すなわち、上記L字板状の光導波路において、複数のコア2を、上記L字板状の角部から内側端縁部に、等間隔に並列状態で延びたパターンに形成する。そして、上記光導波路の角部の外側に、受光素子を光結合し、光導波路デバイスを作製する。そして、その光導波路デバイスを、タッチパネルの四角形のディスプレイの画面周縁部に沿って設置すると、太陽光のような外乱光の照度が高い環境でも、タッチパネルにおける指等の触れ位置の検知手段として用いることができる。
【0045】
なお、上記実施の形態では、オーバークラッド層3にのみ色素を含有させたが、アンダークラッド層1にも、同様に、色素を含有させてもよい。
【0046】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるわけではない。
【実施例】
【0047】
〔アンダークラッド層の形成材料〕
脂環骨格を有するエポキシ系紫外線硬化性樹脂(ADEKA社製、EP4080E)100重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200X)2重量部を混合することにより、アンダークラッド層の形成材料を調製した。
【0048】
〔コアおよび突起部の形成材料〕
フルオレン骨格を含むエポキシ系紫外線硬化性樹脂(大阪ガスケミカル社製、オグソールEG)40重量部、フルオレン骨格を含むエポキシ系紫外線硬化性樹脂(ナガセケムテックス社製、EX−1040)30重量部、1,3,3−トリス{4−〔2−(3−オキセタニル)〕ブトキシフェニル}ブタン30重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200X)1重量部、乳酸エチル41重量部を混合することにより、コアの形成材料を調製した。
【0049】
〔オーバークラッド層の形成材料:樹脂組成物A〕
脂環骨格を有するエポキシ系紫外線硬化性樹脂(ADEKA社製、EP4080E)100重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200X)2重量部、赤色色素(有本化学工業社製、Plast Red 8335)0.05重量部、緑色色素(有本化学工業社製、Plast Green 8620)0.05重量部、黄色色素(有本化学工業社製、Plast Yellow 8070)0.05重量部を混合することにより、オーバークラッド層の形成材料を調製した。
【0050】
この樹脂組成物Aを、石英製の有底筒状のセル(壁厚1mm)に入れ、それを分光光度計(JASCO社製、V−670)にセットして測定した結果、上記樹脂組成物Aは、外乱光透過率T500=3.6%、紫外線透過率T365=18.6%、光信号透過率T850=99.5%を示し、T500<T365<T850の関係を満たしていた。
【0051】
〔オーバークラッド層の形成材料:樹脂組成物B〕
脂環骨格を有するエポキシ系紫外線硬化性樹脂(ADEKA社製、EP4080E)100重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200X)2重量部、赤色色素(有本化学工業社製、Oll Scarlet 5206)0.03重量部、緑色色素(有本化学工業社製、Plast Green 8620)0.03重量部、青色色素(有本化学工業社製、Plast Blue 8590)0.03重量部を混合することにより、オーバークラッド層の形成材料を調製した。
【0052】
この樹脂組成物Bは、上記分光光度計を用いて測定した結果、外乱光透過率T500=0.8%、紫外線透過率T365=17.1%、光信号透過率T850=100%を示し、T500<T365<T850の関係を満たしていた。
【0053】
〔オーバークラッド層の形成材料:樹脂組成物C〕
脂環骨格を有するエポキシ系紫外線硬化性樹脂(ADEKA社製、EP4080E)100重量部、光酸発生剤(サンアプロ社製、CPI−200X)2重量部を混合することにより、オーバークラッド層の形成材料を調製した。
【0054】
この樹脂組成物Cは、上記分光光度計を用いて測定した結果、外乱光透過率T500=99.9%、紫外線透過率T365=75.7%、光信号透過率T850=99.9%を示した。
【0055】
〔実施例1〕
〔光導波路の作製〕
まず、厚み188μmのポリエチレンナフタレート製フィルム(基台)の表面に、上記アンダークラッド層の形成材料をアプリケーターにより塗布した。つづいて、1000mJ/cm2 の紫外線照射による露光を行った後、80℃×5分間の加熱処理を行うことにより、アンダークラッド層(厚み20μm)を形成した。
【0056】
ついで、上記アンダークラッド層の表面に、上記コアの形成材料をアプリケーターにより塗布した後、100℃×5分間の加熱処理を行い、コア形成用の感光性樹脂層を形成した。つぎに、コアのパターンと同形状の開口パターンが形成されたフォトマスクを介して、上記感光性樹脂層を紫外線照射により露光した後、加熱処理を行った。そして、現像液を用いて現像することにより、未露光部分を溶解除去し、その後、加熱処理を行うことにより、幅20μm、高さ50μmの断面長方形のコアを形成した。
【0057】
つぎに、オーバークラッド層を型成形する石英製の成形型を、コアを覆った状態でセットした。そして、上記オーバークラッド層の形成材料である樹脂組成物Aを、成形空間に注入した後、その成形型を透して1000mJ/cm2 の紫外線照射による露光を行った。その後、脱型し、オーバークラッド層(コアの頂面からの厚み950μm)を得た。このようにして、光導波路を作製した。
【0058】
〔光導波路デバイスの作製〕
受光素子(Optwell社製、CMOSリニアセンサアレイ)を準備し、上記コアを伝播する光信号が上記受光素子の受光部に受信されるよう、上記受光素子を位置決めし、その状態で、上記光導波路に接着剤で固定し、両者を光結合した。このようにして、光導波路デバイスを作製した。
【0059】
〔実施例2〕
上記実施例1において、オーバークラッド層の形成材料として樹脂組成物Bを用い、それに対する紫外線照射による露光を3000mJ/cm2 とした。それ以外は、上記実施例1と同様にして、光導波路デバイスを作製した。
【0060】
〔比較例〕
上記実施例1において、オーバークラッド層の形成材料として樹脂組成物Cを用いた。それ以外は、上記実施例1と同様にして、光導波路デバイスを作製した。
【0061】
〔オーバークラッド層の光透過率(吸収スペクトル)〕
上記実施例1,2および比較例の光導波路におけるオーバークラッド層から小片を切り出し、石英製の有底筒状のセル(壁厚1mm)に予め充填していた流動パラフィン内に入れ、それを分光光度計(JASCO社製、V−670)にセットして測定した結果、上記実施例1,2および比較例の光導波路におけるオーバークラッド層の光透過率(吸収スペクトル)は、図3に示すようになった。なお、上記オーバークラッド層から切り出した小片の表面は、粗面となっており、その粗面による光の表面散乱を防止するために、上記流動パラフィンを用いた。
【0062】
〔評価:受光素子の受光強度〕
上記実施例1,2および比較例の光導波路デバイスのオーバークラッド層の表面に、照度10万ルクスの光(直射日光に相当)を照射した。そのときの受光素子の受光強度を測定した結果、実施例1,2では0.3V、比較例では3.0Vであった。
【0063】
上記受光素子の受光強度は、理想的には0Vであるが、実用的には2V以下であれば、誤作動しないことがわかっている。したがって、上記結果から、実施例1,2の光導波路デバイスは、直射日光の下でも、誤作動を起こすことなく使用することができ、比較例の光導波路デバイスは、直射日光の下では、誤作動を起こし、適正に使用することができないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の光導波路デバイスは、太陽光のような外乱光の照度が高い環境において、タッチパネルにおける指等の触れ位置の検知手段、または音声や画像等のデジタル信号を高速で伝送,処理する情報通信機器,信号処理装置等に用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
A 光導波路
B 受光素子
2 コア
3 オーバークラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンダークラッド層と,このアンダークラッド層の表面に形成され光信号を伝播するコアと,このコアを被覆した状態で上記アンダークラッド層の表面に形成されているオーバークラッド層とを有し,上記オーバークラッド層の表面が外乱光の入射面になっている光導波路と、この光導波路に光結合され,受信した光信号を電気信号に変換する光電変換素子とを備え、この光電変換素子の受信可能な波長領域と上記外乱光の波長領域とが重なっている光導波路デバイスであって、上記オーバークラッド層が、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記外乱光を吸収する色素を含有する樹脂組成物の硬化体からなり、上記コアの頂面からオーバークラッド層の表面までの厚みが100μm以上に設定されていることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
上記コアを伝播する光信号が、波長領域700〜1000nmの範囲内にある近赤外線であり、上記外乱光が、波長領域400〜700nmの範囲を含む太陽光であり、上記光電変換素子の受信可能な波長領域が、400〜1000nmの範囲内である請求項1記載の光導波路デバイス。
【請求項3】
上記色素が、下記の(a)〜(c)のいずれかからなる請求項1または2記載の光導波路デバイス。
(a)赤色色素および緑色色素の2種類。
(b)赤色色素,緑色色素および黄色色素の3種類。
(c)赤色色素,緑色色素および青色色素の3種類。
【請求項4】
請求項1または2記載の光導波路デバイスのオーバークラッド層の形成に用いられる樹脂組成物であって、紫外線硬化性樹脂を主成分とし、上記オーバークラッド層の表面から入射する外乱光を吸収する色素を含有し、上記コアを伝播する光信号の波長を代表する波長850nmの光信号透過率T850と、上記外乱光の波長を代表する波長500nmの外乱光透過率T500と、紫外線の波長を代表する波長365nmの紫外線透過率T365とが、T500<T365<T850の関係を満たしていることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
上記外乱光透過率T500が10%以下であり、上記紫外線透過率T365が3〜50%の範囲内であり、上記光信号透過率T850が80%以上である請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
上記紫外線硬化性樹脂が、樹脂組成物の総重量に対して80〜99重量%の範囲内であり、上記色素が、樹脂組成物の総重量に対して0.05〜0.75重量%の範囲内である請求項4または5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
上記色素が、下記の(a)〜(c)のいずれかからなる請求項4〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
(a)赤色色素および緑色色素の2種類。
(b)赤色色素,緑色色素および黄色色素の3種類。
(c)赤色色素,緑色色素および青色色素の3種類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−247946(P2011−247946A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118514(P2010−118514)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】