説明

光導波路保持部材及び光トランシーバ

【課題】
光導波路に光ファイバを配設することにより、プリント基板側と光導波路保持部材側との光学中心同士の温度変化による位置ずれを抑制した光導波路保持部材及び光トランシーバを提供することを課題とする。
【解決手段】
光トランシーバ10は、プリント基板11の上に実装される光導波路保持部材12を備える。光導波路保持部材12の筐体12Aは、カーボンナノチューブをフィラーとして含むクラッド材料で素子側レンズ12E及びファイバ側レンズ12Fと一体成形される。光導波路保持部材12がプリント基板11に接着されると、素子側レンズ12Eはプリント基板11に形成されている光電変換素子13の受発光部13Aと対向する。筐体12Aの線膨張率は、カーボンナノチューブによって低下されているため、素子側レンズ12Eと受発光部13Aとの温度変化による位置ずれを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号と光信号との変換を行う光トランシーバのプリント基板に実装され
る光導波路保持部材と、この光導波路保持部材を用いた光トランシーバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高速、大容量の通信網や通信制御機器等の発達により光ファイバによる通信が主流となっている。例えばオフィスや家庭に設置された情報端末等にも光ファイバによりインターネット等の通信網を接続して信号の送受信が行われている。パソコンや周辺機器と光ファイバ(外部光ファイバ)の接続部には、電気信号と光信号を双方向に変換可能な光トランシーバが用いられている。このような光トランシーバは、外部光ファイバと光電変換素子との間に形成される光導波路を備える(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−051271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような光トランシーバは、光電変換素子が配設されるプリント基板の上に光導波路用の光導波路保持部材が実装される。通常、プリント基板はガラスエポキシ樹脂で構成され、一方、光導波路保持部材は、クラッド材料としての機能を確保するためにオレフィン系の樹脂で構成される。プリント基板側に配設される光電変換素子と光導波路保持部材側に配設される光導波路との間の光路の接続は、光電変換素子の受発光部と、光導波路の端部とを対向させ、それぞれの光学中心を一致させることによって実現される。光学中心同士の位置精度は、±数μmレベルが求められる。
【0004】
ところで、光トランシーバは使用中に約80〜90℃程度まで温度が上昇する。また、プリント基板と光導波路保持部材の熱膨張率は相違する。このため、プリント基板と光導波路保持部材の接合位置とそれぞれの光学中心との間の距離によっては、熱膨張により光学中心同士の位置ずれが生じる可能性があった。すなわち、プリント基板及び光導波路保持部材の接合位置とそれぞれの光学中心との間の距離が熱膨張によって数μm以上ずれると、光トランシーバの性能に大きな影響を与える可能性があった。
【0005】
そこで、本発明は、プリント基板側と光導波路保持部材側との光学中心同士の温度変化による位置ずれを抑制した光導波路保持部材及び光トランシーバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面の光導波路保持部材は、電気信号と光信号との変換を行う光トランシーバのプリント基板に実装され、外部光ファイバと前記プリント基板に実装又は形成される光電変換素子との間の光導波路を保持する光導波路保持部材であって、前記光導波路の第1端を前記光電変換素子の受発光部に光学的に接続する第1接続部と、前記光導波路の第2端を前記外部光ファイバに光学的に接続する第2接続部と、前記第1接続部及び前記第2接続部を保持するとともに、当該第1接続部及び当該第2接続部の間に形成される光導波路を保持する筐体とを含み、前記第1接続部、前記第2接続部、及び前記筐体は、カーボンナノチューブ又はカーボンフラーレンを含有するクラッド材料により一体成形される。
【0007】
また、前記第1接続部及び前記第2接続部に、当該第1接続部及び前記第2接続部と一体成形されるレンズを備えてもよい。
【0008】
また、前記カーボンナノチューブの長さは前記光信号の波長以下であってもよい。
【0009】
本発明の一局面の光トランシーバは、前記光電変換素子が実装又は形成されるプリント基板と、前記いずれかの光導波路保持部材とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プリント基板側と光導波路保持部材側との光学中心同士の温度変化による位置ずれを抑制した光導波路保持部材及び光トランシーバを提供できるという特有の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の光導波路保持部材及び光トランシーバを適用した実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態の光導波路保持部材及び光トランシーバを示す図であり、(a)は全体を示す斜視図、(b)はプリント基板のみを示す斜視図である。
【0013】
本実施の形態の光トランシーバ10は、プリント基板11の上に実装される光導波路保持部材12を備える。この光導波路保持部材12はプリント基板11に接着される。
【0014】
プリント基板11は、ガラスエポキシ樹脂製の基板に図示しない銅配線を形成したものである。このプリント基板11には、図1(b)に示すように、光電変換素子13が形成される。光電変換素子13は、図示しない銅配線を介してプリント基板11上に形成されるIC等と接続される。なお、光電変換素子13は受発光部13Aがプリント基板11の上面と略同一面上に位置するように形成されるが、説明の便宜上、その輪郭を図1(b)では実線で示す。
【0015】
図2は、本実施の形態の光導波路保持部材の筐体を示す図であり、(a)は正面、平面、及び右側面を示す斜視図、(b)は底面、背面、及び左側面を示す斜視図である。
【0016】
光導波路保持部材12は、カーボンナノチューブを含有するクラッド材料で構成される筐体12Aを有する。このクラッド材料は、オレフィン系の樹脂で構成される。
【0017】
筐体12Aは、背面側の接続部12Bに接続される外部光ファイバ(図示せず)と、底面側に配設される光電変換素子13との間で光信号を伝送するための光導波路を保持する部材である。光導波路は、光導波路形成面12Cに形成される。この光導波路形成面12Cは、筐体12Aの上面側から正面側にかけて略90度湾曲しており、円柱体の外周面の略1/4分に相当する3次元的な形状を有する。なお、接続部12Bには、外部光ファイバのフェルールを位置決めするためのピン穴が両側に設けられている。
【0018】
図2(a)に示すように光導波路形成面12Cには、溝12Dが形成されており、この溝12D内にコア部材14(図1参照)が注入される。このコア部材14の上面には、クラッド材料性のフィルム(図示せず)が形成される。このようにして、光導波路形成面12Cに光ファイバが形成されることになる。図1にはコア部材14が8本形成されている状態を示す。
【0019】
筐体12Aの底部(底面側の部分)には、光電変換素子13の受発光部13Aとの間で光信号を授受するための素子側レンズ12Eが一体成形され、筐体12Aの背面(の接続部12B内)には、外部光ファイバとの間で光信号を授受するためのファイバ側レンズ12Fが一体成形される。素子側レンズ12E及びファイバ側レンズ12Fが形成される位置は、コア部材14の両端に向き合う位置である。
【0020】
素子側レンズ12Eは、例えば、直径が0.2mm程度であり、導波路保持部材12がプリント基板11に接着された状態において、光電変換素子13の受発光部13Aとコア部材14との間を光学的に接続するレンズである。
【0021】
コア部材14と光電変換素子13の受発光部13Aとの間には、例えば500μm程度の空隙があるが、コア部材14から放出される光信号は、素子側レンズ12Eで集光され、光電変換素子13の受発光部13Aに入射する。また、逆方向についても同様である。
【0022】
なお、ここでは、受発光部13Aとして記載するが、実際には、図1(b)に示す一対の光電変換素子13のうちの一方が光信号を受信して電気信号に変換するための光電変換素子であり、こちらの光電変換素子には受光部が形成される。また、図1(b)に示す一対の光電変換素子13のうちの他方は電気信号を光信号に変換して発信するための光電変換素子であり、こちらの光電変換素子には発光部が形成される。ここでは、特に両者を区別せず、光電変換素子13及び受発光部13Aと示す。
【0023】
また、ファイバ側レンズ12Fは、直径が0.2mm程度であり、導波路保持部材12がプリント基板11に接着された状態において、図示しない外部光ファイバとコア部材14との間を光学的に接続するレンズである。
【0024】
このファイバ側レンズ12Fは、筐体12の接続部12Bに形成される。コア部材14とファイバ側レンズ12Fとの間、及び、ファイバ側レンズ12Fと外部光ファイバとの間には、それぞれ、例えば500μm程度の空隙があるが、コア部材14から放出される光信号は、ファイバ側レンズ12Fで集光され、外部光ファイバに入射する。また、逆方向についても同様である。
【0025】
ここで、筐体12Aは、オレフィン系の樹脂にカーボンナノチューブを含有するクラッド材料で構成される。このカーボンナノチューブとしては、長さが約800nm、直径が1nmのものを用いる。長さを800nmとする理由は、筐体12Aは素子側レンズ12E及びファイバ側レンズ12Fと一体成型されるため、素子側レンズ12E及びファイバ側レンズ12Fを透過する光信号の損失を抑えるためであり、そのために光信号(レーザ光)の波長(800nm〜1600nm)よりも短くするためである。
【0026】
また、オレフィン系の樹脂の線膨張率は約70ppm/℃であり、一方、カーボンナノチューブの線膨張率は約7ppm/℃である。
【0027】
このため、カーボンナノチューブを含有させることによって筐体12Aの線膨張率を低下させることができ、その含有率(重量比)を最適化することにより、光トランシーバ10の温度が使用中に上昇しても、素子側レンズ12Eと受発光部13Aの位置ずれの発生を抑制することができる。
【0028】
素子側レンズ12Eの光学中心と受発光部13Aとの光学中心との位置精度は、例えば、±0.5〜20μm程度のレベルが要求される。このため、カーボンナノチューブの含有率は、例えば、光導波路保持部材12のプリント基板11に対する固定位置から素子側レンズ12Eまでの長さ等を考慮して、温度上昇による位置ずれが上述の位置精度以下(すなわち許容限度内)となるように設定されればよい。
【0029】
なお、プリント基板11の線膨張率は約14ppm/℃、コア部材14の線膨張率は約70ppm/℃、光導波路保持部材12をプリント基板11に接着するための接着剤の線膨張率は約70ppm/℃である。このため、これらの部材の線膨張率を考慮してカーボンナノチューブの含有率を決定してもよい。
【0030】
オレフィン系の樹脂のようなポリマー材料の線膨張率を低下させるために、従来はガラス繊維又はガラスビーズ等がフィラーとして用いられていた。しかし、ガラス繊維やガラスビーズ等とポリマー材料との屈折率の相違により、光信号の乱反射が生じるため、本実施の形態のように素子側レンズ12E及びファイバ側レンズ12Fが一体成形される筐体12Aの材料には不向きであった。
【0031】
これに対して本実施の形態では、カーボンナノチューブをフィラーとして用いることにより、光学的特性の劣化を防止しつつ、温度変化による性能低下を抑制した光導波路保持部材12及び光トランシーバ10を提供することができる。
【0032】
なお、以上では、一例として光信号の波長が800nm〜1600nmである場合について説明したが、波長がさらに短い場合には、その波長以下のカーボンナノチューブを用いればよい。
【0033】
また、以上では、カーボンナノチューブを含有するクラッド材料で一体成形する光導波路保持部材について説明したが、カーボンナノチューブの代わりに、又は、カーボンナノチューブに加えて、クラッド材料にカーボンフラーレンを含有させて光導波路保持部材を一体成形してもよい。カーボンフラーレンは、直径が約0.7nm程度であり、また、線膨張率はカーボンナノチューブと略同一であるため、カーボンナノチューブの代わりにクラッド材料に含有させれば、上述のようにカーボンナノチューブを含有させる場合と同様の結果を得ることができる。
【0034】
また、以上では、プリント基板11に光電変換素子13が形成されている形態について説明したが、プリント基板11とは別に作成された光電変換素子13を実装するように構成してもよい。
【0035】
以上、本発明の例示的な実施の形態の光導波路保持部材及び光トランシーバについて説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施の形態の光導波路保持部材及び光トランシーバを示す図であり、(a)は全体を示す斜視図、(b)はプリント基板のみを示す斜視図である。
【図2】本実施の形態の光導波路保持部材の筐体を示す図であり、(a)は正面、平面及び右側面を示す斜視図、(b)は底面、背面、及び左側面を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
10 光トランシーバ
11 プリント基板
12 光導波路保持部材
12A 筐体
12B 接続部
12C 光導波路形成面
12D 溝
12E 素子側レンズ
12F ファイバ側レンズ
13 光電変換素子
13A 受発光部
14 コア部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号と光信号との変換を行う光トランシーバのプリント基板に実装され、外部光ファイバと前記プリント基板に実装又は形成される光電変換素子との間の光導波路を保持する光導波路保持部材であって、
前記光導波路の第1端を前記光電変換素子の受発光部に光学的に接続する第1接続部と、
前記光導波路の第2端を前記外部光ファイバに光学的に接続する第2接続部と、
前記第1接続部及び前記第2接続部を保持するとともに、当該第1接続部及び当該第2接続部の間に形成される光導波路を保持する筐体と
を含み、前記第1接続部、前記第2接続部、及び前記筐体は、カーボンナノチューブ又はカーボンフラーレンを含有するクラッド材料により一体成形される、光導波路保持部材。
【請求項2】
前記第1接続部及び前記第2接続部に、当該第1接続部及び前記第2接続部と一体成形されるレンズを備える、請求項1に記載の光導波路保持部材。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの長さは前記光信号の波長以下である、請求項1又は2に記載の光導波路保持部材。
【請求項4】
前記光電変換素子が実装又は形成されるプリント基板と、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光導波路保持部材と
を備える光トランシーバ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−20425(P2009−20425A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184447(P2007−184447)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【Fターム(参考)】