説明

光導波路型センサチップ、光導波路型センサチップの製造方法、物質の測定方法、物質測定用キットおよび光導波路型センサ

【課題】より少量の被測定検体量で、より短時間において、被測定検体の測定対象物質を定量測定することが可能な光導波路型センサを提供する。
【解決手段】測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路;および前記光導波路表面に分散し、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子;を備えることを特徴とする光導波路型センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路型センサチップ、光導波路型センサチップの製造方法、物質の測定方法、物質測定用キットおよび光導波路型センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の抗原抗体反応を利用した免疫測定は、通常、被測定検体中のタンパク質等に対応する一次抗体をウエル状の基材表面に固定化する。ウエル内に各々所定量の被測定検体溶液、二次抗体液、発色試薬を順次滴下する。各溶液の滴下毎に所定の洗浄液をそれぞれ行なう。このような免疫測定は測定者が秤量しつつ加え、かつ排出するという複雑な手順で行われている。この免疫測定において、被測定検体の容量は少なくとも5μL〜25μL程度必要である。
【0003】
一方、本出願人が出願した特許文献1には必要最小の被測定検体の量が1μLである上、被測定検体の容量が不正確でも被測定検体の測定対象物質の濃度測定が可能な濃度測定方法、センサチップが開示されている。
【特許文献1】WO2005/022155
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の免疫測定システムにおいては一次抗体と被測定検体との反応、被測定検体と二次抗体との反応にそれぞれ一時間程度を要する上に、既述のような複雑な手順を踏む必要があるため被測定検体の採取から測定結果を得るまでに数時間を要する課題がある。また、必要とされる被測定検体の量が多いため、例えばラット等の小動物を用いた血液検査では数種類の検査項目を1回行うのに1検体が犠牲となる。その結果、同一検体での経時変化を検査することが困難である。
【0005】
本発明は、前述した特許文献1の発明をさらに改良し、より少量の被測定検体量で、より短時間において、被測定検体の測定対象物質を定量測定することが可能な光導波路型センサチップ、光導波路型センサチップの製造方法、物質の測定方法および物質測定用キット、光導波路型センサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路;および
前記光導波路上に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサチップが提供される。
【0007】
本発明の第2態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路;
前記光導波路と対向して配置された支持板;および
前記支持板の前記光導波路と対向する表面に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサチップが提供される。
【0008】
本発明の第3態様によると、光導波路表面に測定対象物質と特異的に反応する第1物質を固定化すること;
前記光導波路上に前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子を含むスラリを塗布すること;および
前記塗布後に乾燥して前記光導波路上に前記微粒子を分散すること;
を含むことを特徴とする光導波路型センサチップの製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第4態様によると、光導波路表面に測定対象物質と特異的に反応する第1物質を固定化すること;
支持板表面に前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子を含むスラリを塗布すること;
前記塗布後に乾燥して前記支持板上に前記微粒子を分散すること;および
前記光導波路に前記支持板をその微粒子分散面が対向するように一定の距離をあけて配置すること;
を含むことを特徴とする光導波路型センサチップの製造方法が提供される。
【0010】
本発明の第5態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、前記光導波路上に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させると共に、前記測定対象物質と前記光導波路上に分散された微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法が提供される。
【0011】
本発明の第6態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させること;
前記光導波路表面を洗浄すること;
前記光導波路表面に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を滴下して被測定検体溶液の測定対象物質と微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法が提供される。
【0012】
本発明の第7態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
被測定検体溶液、および被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子を予め混合し、微粒子の第2物質と被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させること;
前記混合液を前記センサチップの光導波路表面に滴下して前記光導波路表面の第1物質と微粒子の第2物質に反応した被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法が提供される。
【0013】
本発明の第8態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させること;
前記光導波路表面に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を滴下して前記測定対象物質と微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法が提供される。
【0014】
本発明の第9態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を滴下すること;
前記分散液が滴下された前記光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させると共に前記測定対象物質と前記分散液中の微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法が提供される。
【0015】
本発明の第10態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、前記光導波路と対向して配置された支持板と、前記支持板の前記光導波路と対向する表面に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路と前記支持板の間に被測定検体溶液を注入して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させると共に、前記測定対象物質と前記支持板に分散された微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法が提供される。
【0016】
本発明の第11態様によると、被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、この光導波路表面に配置され、前記光導波路表面との間で測定域を形成するための凹部を有し、かつこの測定域と連通する導入孔および排出孔が開口されたキャップとを備える光導波路型センサチップ;および
被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を収容した包装体;
を組み合わせたことを特徴とする物質測定用キットが提供される。
【0017】
本発明の第12態様によると、前記物質測定用キットの使用において、
被測定検体溶液を光導波路型センサチップのキャップの導入孔を通して測定域内の光導波路表面に滴下して光導波路表面に固定化された第1物質と被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させること;
微粒子の分散液を前記キャップの導入孔を通して測定域内の光導波路表面に導入すると共に、被測定検体溶液を排出孔を通して排出する間、特異的に反応された被測定検体溶液の測定対象物質と微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法が提供される。
【0018】
本発明の第13態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、前記光導波路上に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを有する光導波路型センサチップ;
前記光導波路に光を入射させる光源;および
前記光導波路から出射される光を受光する受光素子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサが提供される。
【0019】
本発明の第14態様によると、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と前記光導波路と対向して配置された支持板と、前記支持板の前記光導波路と対向する表面に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを有する光導波路型センサチップ;
前記光導波路に光を入射させる光源;および
前記光導波路から出射される光を受光する受光素子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より少量の被測定検体量で、より短時間において、被測定検体の測定対象物質を定量測定することが可能な光導波路型センサチップ、光導波路型センサチップの製造方法および光導波路型センサを提供することができる。
【0021】
また本発明によれば、より少量の被測定検体量で、より短時間において、被測定検体の測定対処物質を定量することが可能な物質の測定方法を提供することができる。
【0022】
さらに本発明によれば、より少量の被測定検体量で、より短時間において、被測定検体の測定対処物質を定量測定することが可能な物質測定用キットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態として、光導波路型センサ、光導波路型センサチップの製造方法、物質の測定方法、物質測定用キットおよび光導波路型センサを詳細に説明する。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る光導波路型センサチップは、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、この光導波路上に分散し、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを備えている。
【0025】
ここで測定対象物質は、例えば血液、血清、血漿、生体試料、食品等の中に含まれる蛋白質、ペプチド、遺伝子等が挙げられる。具体的には、インスリン、カゼイン、β―ラクトグロブリン、オボアルブミン、カルシトニン、C−ペプチド、レプチン、β−2−ミクログロブリン、レチノール結合タンパク、α−1−ミクログロブリン、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原、トロポニン−I、クルカゴン様ペプチド、インスリン様ペプチド、腫瘍増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、血小板成長因子、上皮増殖因子、コルチゾール、トリヨードサイロニン、サイロキシン等のハプテンホルモン、ジゴキシン、テオフィリン等の薬物、細菌、ウイルス等の感染性物質、肝炎抗体、IgEの他、そばの主要タンパク質複合体、落花生のArah2を含む可溶性タンパク質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、以下の第2実施形態から第5実施形態における測定対象物質も同様なものが用いられる。
【0026】
光導波路は、例えば平面光導波路を用いることができる。この平面光導波路は、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂または無アルカリガラスから形成することができる。詳細には、ここで用いる材料とは、所定の光の透過性を有する材料であって、特に、ポリスチレンを主たる構造とするエポキシ樹脂等であることが好ましい。平面光導波路への被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質の固定化は、例えばシランカップリング剤等により疎水化処理した表面上に前記物質の疎水性相互作用により固定化する。第1物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0027】
ここで「光導波路上に微粒子が分散される」とは、微粒子が光導波路表面に直接的または間接的に分散されることを意味する。「微粒子が光導波路表面に間接的に分散される」形態は、例えば微粒子が光導波路表面にブロッキング層を介して分散される形態が挙げられる。ブロッキング層は、例えばポリビニルアルコール、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリエチレングリコール、リン脂質ポリマー、ゼラチン、糖類(例えばスクロース、トレハロース)のような水溶性物質を含む。ブロッキング層は、さらにプロテーインヒビタを含んでもよい。
【0028】
微粒子は、例えばポリスチレン製のラテックスビーズ(商品名)のような樹脂ビーズもしくは金コロイドのような金属コロイド、または酸化チタン粒子のような無機酸化物粒子を用いることができる。微粒子は、アルブミンのようなタンパク質、アガロースのような多糖類、シリカ粒子、カーボン粒子のような非金属粒子も用いることができる。特に、ラテックスビーズ、金属コロイドが好ましい。ラテックスビーズの中で、後述する光導波路を伝播させる光が赤色レーザの場合、青色ラテックスビーズが好ましい。
【0029】
微粒子は、50nm〜10μmの径を有することが好ましい。
【0030】
第2物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0031】
次に、第1実施形態に係る光導波路型センサチップの製造方法を説明する。
【0032】
まず、光導波路表面に測定対象物質と特異的に反応する第1物質を固定化する。つづいて、微粒子に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質を例えば物理吸着、あるいはカルボキシル基やアミノ基等を介した化学結合により固定化する。ひきつづき、第2物質が固定化された微粒子を水溶性物質を含む生理食塩水に分散させてスラリを調製する。このスラリを光導波路上に塗布した後、乾燥して前記光導波路上に前記微粒子を分散させて光導波路型センサチップを製造する。
【0033】
このような製造方法において、水溶性物質は例えばポリビニルアルコール、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリエチレングリコール、リン脂質ポリマー、ゼラチン、糖類(例えばスクロース、トレハロース)を用いることができる。また、乾燥は微粒子の分散性を向上するために凍結乾燥が好ましい。
【0034】
第1実施形態に係る光導波路型センサチップを図1を参照して具体的に説明する。図1は、第1実施形態に係る光導波路型センサチップを示す断面図である。
【0035】
ガラス基板1の主面の両端部には、入射側グレーティング2aおよび出射側グレーティング2bが設けられている。これらのグレーティング2a,2bは、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリイミド等から形成される。例えば熱硬化性樹脂からなる平面光導波路3は、グレーティング2a,2bを含む基板1主面に形成されている。低屈折率樹脂膜4は、平面光導波路3上に被覆されている。低屈折率樹脂は、例えば、市販されている旭硝子株式会社製のサイトップ(登録商標)のポリ(パーフルオロブテニルビニルエーテル)等を用いることができる。低屈折率樹脂膜4には、グレーティング2a,2b間に位置する平面光導波路3の一部が露出するよう開口して例えば矩形状の反応ホール5を形成している。枠状のセル壁6は、平面光導波路3を露出させる反応ホール5を囲むように低屈折率樹脂膜4上に形成されている。
【0036】
被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質11は、反応ホール(測定域)5から露出する平面光導波路3表面に例えばシランカップリング剤により疎水化処理により固定化されている。被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質12が固定化された微粒子13は、前記物質11が固定化された平面光導波路3表面に分散されている。この微粒子13の分散は、例えば微粒子および水溶性物質を含むスラリを平面光導波路3に塗布、凍結乾燥することによりを形成される。
【0037】
第1実施形態に係る光導波路型センサは、前述した光導波路型センサチップの入射側グレーティング2aから平面光導波路3に光を入射させるための光源(例えば赤色レーザダイオード)21と、出射側グレーティング2bから出射される光を受光する受光素子(例えばフォトダイオード)22を備えている。
【0038】
次に、前述した光導波路型センサを用いて物質の測定方法を図2の(A)〜(C)を参照して説明する。
【0039】
まず、図2の(A)に示す光導波路型センサチップを用意する。このセンサチップは、グレーティング2a,2bを有する基板1を備えている。平面光導波路3はグレーティング2a,2bを含む基板1主面に形成されている。低屈折率樹脂膜4は、平面光導波路3上に被覆され、グレーティング2a,2b間に位置する平面光導波路3の一部が露出するよう開口して例えば矩形状の反応ホール5が形成されている。被測定検体の測定対象物質(例えば抗原)と特異的に反応する第1物質(例えば第1抗体)11は反応ホール5に露出される平面光導波路3表面に固定化されている。被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質(例えば第2抗体)12が固定化された複数の微粒子13は、平面光導波路3上に分散されている。
【0040】
次いで、反応ホール5内の前記微粒子13の分散領域を含む平面光導波路3表面に被測定検体溶液を滴下する。このとき、滴下した被測定検体溶液中に平面光導波路3表面の第1抗体11と微粒子13の第2抗体12と特異的に反応する抗原が存在しないと、図2の(B)に示すように微粒子13の第2抗体12は平面光導波路3表面の第1抗体11と結合することなく被測定検体溶液14に分散する。この状態で、赤色レーザダイオード21から赤色レーザ光を入射側グレーティング2aから平面光導波路3に入射させ、その平面光導波路3を伝播させて表面(反応ホール5での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させても、反応ホール5内の被測定検体溶液14中の微粒子13が分散しているため、微粒子13がエバネッセント光領域に殆ど存在しなくなる。すなわち、微粒子13がエバネッセント光の吸収や散乱に殆ど関与しないため、エバネッセント光の強度の減衰が殆ど起きない。その結果、出射側グレーティング2bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオード22で受光した際、そのレーザ光強度が殆ど変化しない。
【0041】
一方、滴下した被測定検体溶液14中に抗原が存在すると、図2の(C)に示すように抗原15は平面光導波路3表面の第1抗体11と抗原抗体反応を生じて結合し、さらに微粒子13の第2抗体12は抗原15と抗原抗体反応を生じて結合する。つまり、平面光導波路3表面の第1抗体11と微粒子13の第2抗体12の間で抗原15を介して抗原抗体反応を生じるために、微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化される。
【0042】
前記被測定検体溶液の滴下直後に赤色レーザダイオード21から赤色レーザ光を入射側グレーティング2aから平面光導波路3に入射させ、その平面光導波路3を伝播させて表面(反応ホール5での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させると、微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化されているため、微粒子13がエバネッセント光領域に存在することになる。すなわち、微粒子13がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、エバネッセント光の強度の減衰が起きる。その結果、出射側グレーティング2bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオード22で受光した際、そのレーザ光強度が固定化された微粒子13の影響によって時間の経過に伴って低下する。
【0043】
フォトダイオード22で受光したレーザ光強度の低下率は、平面光導波路3表面に対して固定化される微粒子13の量、つまり抗原抗体反応に関与する被測定検体溶液14中の抗原濃度に比例する。したがって、抗原濃度が既知の被測定検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、抗原濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。前記方法で測定した時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、被測定検体溶液中の抗原濃度を測定できる。
【0044】
なお、前記濃度測定において微粒子を平面光導波路上に水溶性物質と共に分散させることによって、微粒子の分散性が向上する。また、被測定検体溶液を平面光導波路に滴下した時に微粒子と共存する水溶性物質が溶解して微粒子の移動を可能にし、被測定検体溶液中の測定対象物質と微粒子の第2物質との円滑な反応を達成できる。
【0045】
以上、第1実施形態によれば、必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)で、被測定検体を測定域に滴下する1回の操作で被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することが可能な光導波路型センサチップ、その製造方法および光導波路型センサを提供することができる。
【0046】
また、第1実施形態によれば、必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)で、被測定検体を測定域に滴下する1回の操作で被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することが可能な物質の測定方法を提供できる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る光導波路型センサチップは、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、この光導波路と対向して配置された支持板と、この支持板の前記光導波路と対向する表面に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを備える。
【0048】
光導波路は、例えば平面光導波路を用いることができる。この平面光導波路は、第1実施形態で説明したのと同様、熱硬化性樹脂または無アルカリガラスから形成することができる。
【0049】
平面光導波路への被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質は、第1実施形態で説明したのと同様な方法で固定化される。第1物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0050】
微粒子は、第1実施形態で説明したのと同様、例えばラテックスビーズのような樹脂ビーズもしくは金コロイドのような金属コロイド、または酸化チタン粒子のような無機酸化物粒子等を用いることができる。微粒子は、アルブミンのようなタンパク質、アガロースのような多糖類、シリカ粒子、カーボン粒子のような非金属粒子も用いることができる。特にラテックスビーズ、金属コロイドが好ましい。微粒子は、50nm〜10μmの径を有することが好ましい。
【0051】
第2物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0052】
次に、第2実施形態に係る光導波路型センサチップの製造方法を説明する。
【0053】
まず、光導波路表面に測定対象物質と特異的に反応する第1物質を固定化する。つづいて、微粒子に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質を例えば物理吸着、あるいはカルボキシル基やアミノ基等を介した化学結合により固定化する。ひきつづき、第2物質が固定化された微粒子を水溶性物質を含む生理食塩水に分散させてスラリを調製する。このスラリを支持板表面に塗布した後、乾燥して前記支持板上に前記微粒子を分散させる。その後、光導波路に支持板をその微粒子分散面が対向するように一定の距離をあけて配置することにより光導波路型センサチップを製造する。
【0054】
このような製造方法において、水溶性物質は例えばポリビニルアルコール、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリエチレングリコール、リン脂質ポリマー、ゼラチン、糖類(例えばスクロース、トレハロース)を用いることができる。また、乾燥は微粒子の分散性を向上するために凍結乾燥が好ましい。
【0055】
第2実施形態に係る光導波路型センサを図3を参照して具体的に説明する。図3は、第2実施形態に係る光導波路型センサチップを示す断面図である。
【0056】
ガラス基板1の主面の両端部には、例えば酸化チタンからなる入射側グレーティング2aおよび出射側グレーティング2bが設けられている。例えば熱硬化性樹脂からなる平面光導波路3は、グレーティング2a,2bを含む基板1主面に形成されている。低屈折率樹脂膜4は、平面光導波路3上に被覆されている。低屈折率樹脂膜4には、グレーティング2a,2b間に位置する平面光導波路3の一部が露出するよう開口して例えば矩形状の反応ホール5を形成している。例えば合成樹脂からなる支持板7は、低屈折率樹脂膜4上に反応ホール5を覆うように形成されている。被測定検体溶液の滴下用穴(図示せず)は、支持板7表面から反応ホール5に向けて穿設されている。
【0057】
被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質11は、反応ホール(測定域)5に露出される平面光導波路3表面に例えばシランカップリング剤により疎水化処理により固定化されている。被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質12が固定化された微粒子13は、反応ホール5に露出され、平面光導波路3と対向する支持板7表面(下面)に分散されている。この微粒子13の分散は、例えば微粒子および水溶性物質を含むスラリを前記支持板表面に塗布し、凍結乾燥することによりを形成される。
【0058】
第2実施形態に係る光導波路型センサは、前述した光導波路型センサチップの入射側グレーティング2aから平面光導波路3に光を入射させるための光源(例えば赤色レーザダイオード)21と、出射側グレーティング2bから出射される光を受光する受光素子(例えばフォトダイオード)22を備えている。
【0059】
次に、前述した光導波路型センサを用いて物質の測定方法を図4の(A)〜(C)を参照して説明する。
【0060】
まず、図4の(A)に示す光導波路型センサチップを用意する。このセンサチップは、グレーティング2a,2bを有する基板1を備えている。平面光導波路3はグレーティング2a,2bを含む基板1主面に形成されている。低屈折率樹脂膜4は、平面光導波路3上に被覆され、グレーティング2a,2b間に位置する平面光導波路3の一部が露出するよう開口して例えば矩形状の反応ホール5が形成されている。被測定検体の測定対象物質(例えば抗原)と特異的に反応する第1物質(例えば第1抗体)11は反応ホール5に露出される平面光導波路3表面に固定化されている。支持板7は、低屈折率樹脂膜4上に反応ホール5を覆うように形成されている。被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質(例えば第2抗体)12が固定化された複数の微粒子13は、反応ホール5に露出される支持板7下面に分散されている。
【0061】
次いで、反応ホール5内に被測定検体溶液を被測定検体溶液の滴下用穴(図示せず)を通して滴下する。このとき、滴下した被測定検体溶液中に平面光導波路3表面の第1抗体11と微粒子13の第2抗体12と特異的に反応する抗原が存在しないと、図4の(B)に示すように微粒子13の第2抗体12は平面光導波路3表面の第1抗体11と結合することなく、被測定検体溶液14中に分散する。この状態で、赤色レーザダイオード21から赤色レーザ光を入射側グレーティング2aから平面光導波路3に入射させ、その平面光導波路3を伝播させて表面(反応ホール5での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させても、被測定検体溶液14中に微粒子13が分散するため、微粒子13がエバネッセント光領域に殆ど存在しなくなる。すなわち、微粒子13がエバネッセント光の吸収や散乱に殆ど関与しないため、エバネッセント光の強度の減衰が殆ど起きない。その結果、出射側グレーティング2bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオード22で受光した際、そのレーザ光強度が殆ど変化しない。
【0062】
一方、滴下した被測定検体溶液14中に抗原が存在すると、図4の(C)に示すように抗原15は平面光導波路3表面の第1抗体11と抗原抗体反応を生じて結合し、さらに微粒子13の第2抗体12は抗原15と抗原抗体反応を生じて結合する。つまり、平面光導波路3表面の第1抗体11と微粒子13の第2抗体12の間で抗原15を介して抗原抗体反応を生じるために、微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化される。
【0063】
前記被測定検体溶液の滴下直後に赤色レーザダイオード21から赤色レーザ光を入射側グレーティング2aから平面光導波路3に入射させ、その平面光導波路3を伝播させて表面(反応ホール5での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させると、微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化されているため、微粒子13がエバネッセント光領域に存在することになる。すなわち、微粒子13がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、エバネッセント光の強度の減衰が起きる。その結果、出射側グレーティング2bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオード22で受光した際、そのレーザ光強度が固定化された微粒子13の影響によって時間の経過に伴って低下する。
【0064】
フォトダイオード22で受光したレーザ光強度の低下率は、平面光導波路3表面に対して固定化される微粒子13の量、つまり抗原抗体反応に関与する被測定検体溶液14中の抗原濃度に比例する。したがって、抗原濃度が既知の被測定検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、抗原濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。前記方法で測定した時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、被測定検体溶液中の抗原濃度を測定できる。
【0065】
なお、前記濃度測定において微粒子を平面光導波路上に水溶性物質と共に分散させることによって、微粒子の分散性が向上する。また、被測定検体溶液を平面光導波路に滴下した時に微粒子と共存する水溶性物質が溶解して微粒子の移動を可能にし、被測定検体溶液中の測定対象物質と微粒子の第2物質との円滑な反応を達成できる。
【0066】
以上、第2実施形態によれば、必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)で、被測定検体を測定域に滴下する1回の操作で被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することが可能な光導波路型センサチップ、その製造方法および光導波路型センサを提供することができる。
【0067】
また、第2実施形態によれば、必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)で、被測定検体を測定域に滴下する1回の操作で被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することが可能な物質の測定方法を提供できる。
【0068】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る物質の測定方法を以下に説明する。
【0069】
最初に、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意する。つづいて、光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させる。ひきつづき、光導波路表面を洗浄する。次いで、光導波路表面に前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を滴下して被測定検体溶液の測定対象物質と微粒子の第2物質との間で特異的に反応させる。その後、光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出することにより被測定検体溶液中の測定対象物質の濃度を測定する。
【0070】
光導波路は、例えば平面光導波路を用いることができる。この平面光導波路は、第1実施形態で説明したのと同様、熱硬化性樹脂または無アルカリガラスから形成することができる。平面光導波路への被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質は、第1実施形態で説明したのと同様な方法で固定化される。第1物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0071】
洗浄は、例えば緩衝液と界面活性剤等を組み合わせた溶液、界面活性剤を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris−塩酸緩衝生理食塩水、グッドバッファー緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液等からなる洗浄液が用いて行うことができる。
【0072】
微粒子は、第1実施形態で説明したのと同様、例えばラテックスビーズのような樹脂ビーズもしくは金コロイドのような金属コロイド、または酸化チタン粒子のような無機酸化物粒子等を用いることができる。微粒子は、アルブミンのようなタンパク質、アガロースのような多糖類、シリカ粒子、カーボン粒子のような非金属粒子も用いることができる。特に、ラテックスビーズ、金属コロイドが好ましい。微粒子は、50nm〜10μmの径を有することが好ましい。
【0073】
第2物質は、第1実施形態で説明したのと同様な方法で微粒子に固定化される。第2物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0074】
微粒子の分散液は、例えばリン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸、酢酸、クエン酸、炭酸等を含む緩衝液あるいはグッドバッファーに、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ポリエチレングリコール等の安定化剤、Tween、Triton−X等の非イオン界面活性剤を添加したもの、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等を含む。
【0075】
第3実施形態に係る物質の測定方法を図5に示す光導波路型センサチップおよび図6の(A)〜(C)を参照して具体的に説明する。
【0076】
まず、図5および図6の(A)に示す光導波路型センサチップを用意する。このセンサチップは、第1実施形態で説明した図1の微粒子の分散層を持たない以外、同様な構造を有する。すなわち、グレーティング2a,2bを有する基板1を備えている。平面光導波路3はグレーティング2a,2bを含む基板1主面に形成されている。低屈折率樹脂膜4は、平面光導波路3上に被覆され、グレーティング2a,2b間に位置する平面光導波路3の一部が露出するよう開口して例えば矩形状の反応ホール5が形成されている。被測定検体の測定対象物質(例えば抗原)と特異的に反応する第1物質(例えば第1抗体)11は反応ホール5に露出される平面光導波路3表面に固定化されている。図5において、反応ホール5に位置する平面光導波路3でのエバネッセント光の変化を測定するために入射側グレーティング2aに光を入射させるレーザ発振器(例えば赤色レーザダイオード)21を設置し、出射側グレーティング2bから出射される光を受光する光電変換素子(フォトダイオード)22を設置する。
【0077】
次いで、反応ホール5内に被測定検体溶液を滴下する。このとき、図6の(B)に示すように滴下した被測定検体溶液中の抗原15は、平面光導波路3表面の第1抗体11と抗原抗体反応を生じて結合する。
【0078】
次いで、洗浄処理して平面光導波路3表面の第1抗体11と反応しない抗原15を洗い流す。つづいて、測定対象物質である抗原と特異的に反応する第2物質(例えば第2抗体)が固定化された微粒子の分散液を反応ホール5内に滴下する。このとき、図6の(C)に示すように分散液16中で平面光導波路3表面の第1抗体11と抗原抗体反応した測定対象物質である抗原15と微粒子13の第2抗体12とが抗原抗体反応して結合される。すなわち、平面光導波路3表面の第1抗体11と微粒子13の第2抗体12の間で抗原15を介して抗原抗体反応を生じるために、微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化される。
【0079】
微粒子の分散液の滴下直後に赤色レーザダイオード21から赤色レーザ光を入射側グレーティング2aから平面光導波路3に入射させ、その平面光導波路3を伝播させて表面(反応ホール5での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させると、微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化されているため、エバネッセント光領域に微粒子13が存在することになる。すなわち、微粒子13がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、エバネッセント光の強度の減衰が起きる。その結果、出射側グレーティング2bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオード22で受光した際、そのレーザ光強度が固定化された微粒子13の影響によって時間の経過に伴って低下する。
【0080】
フォトダイオード22で受光したレーザ光強度の低下率は、平面光導波路3表面に対して固定化される微粒子13の量、つまり抗原抗体反応に関与する被測定検体溶液14中の抗原濃度に比例する。したがって、抗原濃度が既知の被測定検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、抗原濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。前記方法で測定した時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、被測定検体溶液中の抗原濃度を測定できる。
【0081】
以上、第3実施形態によれば必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)で、被測定検体溶液の測定域への滴下、洗浄および微粒子分散液の測定域への滴下の3回の操作で被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することが可能な被測定検体の測定対象物の測定方法を提供することができる。
【0082】
特に、第3実施形態では被測定検体溶液の測定域への滴下後に洗浄を行うため、被測定検体溶液の測定対象物質(例えば抗原)の濃度が高い場合に有効である。
【0083】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る物質の測定方法を以下に説明する。
【0084】
最初に、測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意する。予め、被測定検体溶液および被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子を例えばマイクロチューブのような容器内で混合し、微粒子の第2物質と被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させる。つづいて、前記混合液を前記センサチップの光導波路表面に滴下して光導波路表面の第1物質と微粒子の第2物質に反応した被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させる。次いで、光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子、つまり光導波路表面に固定化された微粒子、による光学的変化を検出することにより被測定検体溶液中の測定対象物質の濃度を測定する。
【0085】
光導波路は、例えば平面光導波路を用いることができる。この平面光導波路は、第1実施形態で説明したのと同様、熱硬化性樹脂または無アルカリガラスから形成することができる。平面光導波路への被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質は、第1実施形態で説明したのと同様な方法で固定化される。第1物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0086】
微粒子は、第1実施形態で説明したのと同様、例えばラテックスビーズのような樹脂ビーズもしくは金コロイドのような金属コロイド、または酸化チタン粒子のような無機酸化物粒子等を用いることができ、特にラテックスビーズ、金属コロイドが好ましい。
【0087】
微粒子は、50nm〜10μmの径を有することが好ましい。
【0088】
第2物質は、第1実施形態で説明したのと同様な方法で微粒子に固定化される。第2物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0089】
微粒子は、例えばリン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸、酢酸、クエン酸、炭酸等を含む緩衝液あるいはグッドバッファーに、ウシ血清アルプミン(BSA)、カゼイン、ポリエチレングリコール等の安定化剤、Tween、Triton−X等の非イオン界面活性剤を添加したもの、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等に分散して微粒子の分散液を調製することができる。
【0090】
被測定検体溶液および被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の混合において、微粒子は分散液の状態であっても、固体(例えば乾固物、凍結物または粉末)の状態であってもよい。具体的には、予め微粒子の分散液を調製して、この分散液と被測定検体溶液を例えばマイクロチューブのような容器内で混合してもよい。また、被測定検体溶液および第2物質が固定化された微粒子を例えばマイクロチューブのような容器内で混合するにあたり、容器内に水溶性物質を含む微粒子の分散液を先に入れ、乾燥、例えば凍結乾燥させて容器内面に微粒子を水溶性物質を介在して分散させ、その後容器内に被測定検体溶液を入れて混合してもよい。水溶性物質は例えばポリビニルアルコール、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリエチレングリコール、リン脂質ポリマー、ゼラチン、糖類(例えばスクロース、トレハロース)を用いることができる。
【0091】
第4実施形態に係る測定方法を前述した図5に示す光導波路型センサチップおよび図7の(A),(B)を参照して具体的に説明する。
【0092】
まず、図5および図7の(A)に示すように反応ホール5に露出した平面光導波路3表面に被測定検体の測定対象物質(例えば抗原)と特異的に反応する第1物質(例えば第1抗体)11を固定化した光導波路型センサを用意する。
【0093】
予め、被測定検体溶液および測定対象物質である抗原と特異的に反応する第2物質(例えば第2抗体)が固定化された微粒子の分散液を例えばマイクロチューブ内で混合し、被測定検体溶液の光源と微粒子の第2抗体とを抗原抗体反応を生じさせる。
【0094】
次いで、反応ホール5内に前記混合液を滴下する。このとき、図7の(B)に示すよう混合液の既に第2抗体と抗原抗体反応した被測定検体溶液中の抗原15は、平面光導波路3表面の第1抗体11と抗原抗体反応を生じて結合する。すなわち、微粒子13の第2抗体12が予め結合された抗原15は平面光導波路3表面の第1抗体11に抗原抗体反応を生じる結合し、結果として微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化される。
【0095】
前記被測定検体溶液および微粒子の分散液の滴下直後に赤色レーザダイオード21から赤色レーザ光を入射側グレーティング2aから平面光導波路3に入射させ、その平面光導波路3を伝播させて表面(反応ホール5での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させると、微粒子13が平面光導波路3表面に対して固定化されているため、エバネッセント光領域に微粒子13が存在することになる。すなわち、微粒子13がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、エバネッセント光の強度の減衰が起きる。その結果、出射側グレーティング2bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオード22で受光した際、そのレーザ光強度が固定化された微粒子13の影響によって時間の経過に伴って低下する。
【0096】
フォトダイオード22で受光したレーザ光強度の低下率は、平面光導波路3表面に対して固定化される微粒子13の量、つまり抗原抗体反応に関与する被測定検体溶液14中の抗原濃度に比例する。したがって、抗原濃度が既知の被測定検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、抗原濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。前記方法で測定した時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、被測定検体溶液中の抗原濃度を測定できる。
【0097】
以上、第4実施形態によれば必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)で、被測定検体溶液および微粒子分散液を測定域に滴下の1回の操作で被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することが可能な被測定検体の測定対象物の測定方法を提供することができる。
【0098】
なお、前述した第4実施形態において光導波路表面に滴下される被測定検体溶液および微粒子の分散液は予め混合する代わりに、被測定検体溶液および微粒子の分散液を光導波路表面に同時に滴下してもよい。
【0099】
前述した第4実施形態において、被測定検体溶液および微粒子の分散液は光導波路表面に混合後に滴下したが、被測定検体溶液を滴下後に微粒子の分散液を滴下する順序、微粒子の分散液を滴下後に被測定検体溶液を滴下する順序、にしてもよい。このような順序での物質の測定方法でも、第4実施形態と同様、必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)でも被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することができる。
【0100】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る物質測定用キットを以下に説明する。
【0101】
物質測定用キットは、光導波路型センサチップと、被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を収容した包装体とを組み合わせて構成される。光導波路型センサチップは、被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、この光導波路上に配置され、光導波路に対向して測定域を形成するための凹部を有し、かつこの測定域と連通する導入孔および排出孔が開口されたキャップとを備える。
【0102】
平面光導波路への被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質は、第1実施形態で説明したのと同様な方法で固定化される。第1物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0103】
包装体に収容される微粒子は、第1実施形態で説明したのと同様、例えばスチレン製のラテックスビーズのような樹脂ビーズもしくは金コロイドのような金属コロイド、または酸化チタン粒子のような無機酸化物粒子等を用いることができる。微粒子は、アルブミンのようなタンパク質、アガロースのような多糖類、シリカ粒子、カーボン粒子のような非金属粒子も用いることができる。特に、ラテックスビーズ、金属コロイドが好ましい。微粒子は、50nm〜10μmの径を有することが好ましい。
【0104】
第2物質は、第1実施形態で説明したのと同様な方法で微粒子に固定化される。第2物質は、例えば被測定検体の測定対象物質が抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0105】
微粒子の分散液は、例えばリン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸、酢酸、クエン酸、炭酸等を含む緩衝液あるいはグッドバッファーに、ウシ血清アルプミン(BSA)、カゼイン、ポリエチレングリコール等の安定化剤、Tween、Triton−X等の非イオン界面活性剤を添加したもの、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等を含む。
【0106】
包装体は、例えばポリエチレン膜またはポリエチレンとポリエチレンテレフタレートの積層膜から作ることができる。また、包装体はマイクロチューブ、プラスチックボトル、ガラス瓶を用いることができる。
【0107】
第5実施形態に係る物質測定用キットを図8の(a),(b)を参照して具体的に説明する。図8の(a)は、光導波路型センサチップを示す平面図、同図(b)は同図(a)の断面図である。
【0108】
ガラス基板31の主面の両端部には、例えば酸化チタンからなる入射側グレーティング32aおよび出射側グレーティング32bが設けられている。例えば熱硬化性樹脂からなる平面光導波路33は、グレーティング32a,32bを含む基板31主面に形成されている。例えばアクリル樹脂のような樹脂から作られるキャップ34は、平面光導波路33の主面および側面を覆うように配置されている。なお、ここでは、キャップ34の材料に、所定の低屈折率を有する他の樹脂等を代用することも可能である。キャップ34には、平面光導波路33表面との間で例えば矩形状の測定域35を形成するための矩形凹部36を有する。また、キャップ34にはその表面から測定域35に至る導入孔37および排出孔38が開口されている。被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質11は、測定域35に露出される平面光導波路33表面に例えばシランカップリング剤により疎水化処理により固定化されている。このような平面光導波路33、キャップ34等により光導波路型センサチップを構成している。
【0109】
被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液は、例えばポリエチレン製の包装体(図示せず)に収容されて、前述の光導波路型センサチップと組み合わされて測定用のキットを構成している。
【0110】
次に、前述したキットを使用して物質の測定方法を図9の(A)〜(C)を参照して説明する。なお、測定域に露出する平面光導波路でのエバネッセント光の変化を測定するために入射側グレーティング32aに光を入射させるレーザ発振器(例えば赤色レーザダイオード)21を設置し、出射側グレーティング32bから出射される光を受光する光電変換素子(フォトダイオード)22を設置する。
【0111】
まず、図8および図9の(A)に示すように測定域35に露出される平面光導波路33表面に被測定検体の測定対象物質(例えば抗原)と特異的に反応する第1物質(例えば第1抗体)11を固定化した光導波路型センサチップを用意する。
【0112】
次いで、測定域35内に被測定検体溶液を導入孔37を通して滴下する。このとき、図9の(B)に示すように滴下した被測定検体溶液14中の抗原15は、平面光導波路33表面の第1抗体11と抗原抗体反応を生じて結合する。
【0113】
次いで、包装体中の微粒子の分散液をキャップ34の導入孔37を通して測定域35内の平面光導波路33表面に導入すると共に、被測定検体溶液を排出孔38を通して外部に排出する。この間、被測定検体液中の未反応の抗原は分散液とともに洗い流される。同時に、図9の(C)に示すように分散液16中の微粒子13の第2抗体12が平面光導波路33表面の第1抗体11と抗原抗体反応した測定対象物質である抗原15と抗原抗体反応して結合される。すなわち、平面光導波路33表面の第1抗体11と微粒子13の第2抗体12の間で抗原15を介して抗原抗体反応を生じるために、微粒子13が平面光導波路33表面に対して固定化される。
【0114】
前記微粒子の分散液の導入直後に赤色レーザダイオード21から赤色レーザ光を入射側グレーティング32aから平面光導波路33に入射させ、その平面光導波路33を伝播させて表面(測定域35での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させた場合、分散液16中で微粒子13が平面光導波路33表面に対して固定化されるため、エバネッセント光領域に微粒子13が存在することになる。すなわち、微粒子13がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、エバネッセント光の強度の減衰が起きる。その結果、出射側グレーティング32bから出射される赤色レーザ光をフォトダイオード22で受光した際、そのレーザ光強度が固定化された微粒子13の影響によって時間の経過に伴って低下する。
【0115】
フォトダイオード22で受光したレーザ光強度の低下率は、平面光導波路33表面に対して固定化される微粒子13の量、つまり抗原抗体反応に関与する被測定検体溶液14中の抗原濃度に比例する。したがって、抗原濃度が既知の被測定検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、抗原濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。前記方法で測定した時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、被測定検体溶液中の抗原濃度を測定できる。
【0116】
以上、第5実施形態の物質測定用キットによれば、光導波路と測定域への被測定検体溶液の滴下および微粒子の分散液の導入・排出が可能な構造の光導波路型センサチップ並びに微粒子の分散液を収容した包装体を組み合わせて構成するため、必要最小の被測定検体量が少量(例えば10μL以下)で、被測定検体溶液の測定域への滴下および微粒子の分散液の測定域への導入・排出の2回の操作で被測定検体の測定対処物質の濃度を定量することができる。
【0117】
特に、物質測定用キットの使用による被測定検体の測定対象物の測定方法おいて、被測定検体溶液の測定域への滴下後に微粒子の分散液の測定域への導入・排出を行うため、被測定検体溶液の測定対象物質(例えば抗原)の濃度が高い場合にも有効である。
【0118】
以下、本発明の実施例を前述した図面を参照して詳細に説明する。
【0119】
(実施例1)
屈折率1.52の無アルカリガラス基板1に屈折率が2.2〜2.4の酸化チタンをスパッタリングして厚さ50nmの酸化チタン膜を成膜した後、リソグラフィーとドライエッチングによりガラス基板1上にグレーティング2a,2bを形成した。つづいて、グレーティング2a,2bを含むガラス基板1上にエポキシ樹脂溶液をスピンコートした後、焼成することにより厚さ約30μmの平面光導波路3を形成した。焼成後の平面光導波路3の屈折率は1.56であった。ひきつづき、平面光導波路3上に低屈折率樹脂で、市販されている旭硝子株式会社製のサイトップ(登録商標)のポリ(パーフルオロブテニルビニルエーテル)をスクリーン印刷することにより矩形状の反応ホール(測定域)5が開口された低屈折率樹脂4を形成した。
【0120】
次いで、反応ホール5から露出する平面光導波路3表面をシランカップリング剤により疎水化し、そこへ抗インスリン抗体11を疎水性相互作用により固定化した。その後、低屈折率樹脂4上に枠状のセル壁6を反応ホール5を囲うように形成した。
【0121】
また、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にブロッキングワン(ナカライテスク株式会社製)を2.5倍に希釈されるように添加して溶液を調製した。つづいて、この溶液に抗インスリン抗体が固定化された平均粒径760nmの青色ラテックスビーズを分散してビーズ分散濃度が4重量%のビーズ分散液を調製した。なお、ブロッキングワンは、非特異吸着を抑制するためのブロッキング剤で、4〜8重量%のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、1〜2重量%のアルブミン、2〜6重量%のカゼイン、10重量%以下の高分子化合物、1重量%以下の防腐剤および約重量3%の4M−水酸化ナトリウム溶液を含む水溶液である。
【0122】
この抗インスリン抗体が固定化されたビーズ分散液を前記反応ホール5に10μL滴下し、−80℃で予備凍結した後、約1日凍結乾燥することによりビーズが予め配された図1に示す光導波路型センサチップを製造した。この凍結乾燥時には、前記組成のビーズ分散液に二糖類であるトレハロースを3重量%、界面活性剤であるTweenを0.1重量%添加した。これらの成分は、ビーズ分散液の再分散性の向上を目的として添加した。
【0123】
得られたセンサチップの反応ホール内に被測定検体溶液である濃度1.6ng/mLおよび6.4ng/mLのインスリン溶液をそれぞれ10μL滴下し抗原抗体反応を行った。被測定検体溶液の滴下直後に赤色LED21から波長655nmの赤色光を入射側グレーティング2aを通して平面光導波路3に入射させ、その平面光導波路3を伝播させて表面(反応ホール5での露出表面)付近にエバネッセント光を発生させ、出射側グレーティング2bから出射される赤色光をフォトダイオード22で受光し、その光強度を測定した。すなわち、時間経過に伴う光強度の変化を測定した。
【0124】
6.4ng/mLのインスリン溶液については、同様な操作を3回(合計4回)行って、時間経過に伴う光強度の変化を測定した。これらの結果を図10に示す。
【0125】
図10において被測定検体溶液の滴下直後の光強度を100%とし、その時間経過での光強度の変化を示す。図10には、濃度1.6ng/mLのインスリン溶液の結果をS1、濃度6.4ng/mLの4つのインスリン溶液の結果をS2−1,S2−2,S2−3,S2−4、として示す。また、被測定検体溶液としてインスリンの希釈溶媒のみ(ブランク)を用いて同様な操作を行って、時間経過に伴うレーザ光強度の変化を測定した結果を図10にBとして示す。
【0126】
図10から明らかなように所定時間におけるレーザ光強度の低下率が被測定検体溶液中のインスリン濃度と相関することがわかる。また、インスリン濃度が同一(6.4ng/mL)の4つの被測定検体溶液において、所定時間におけるレーザ光強度の低下率が近似し、再現性のよい濃度測定が可能であることがわかる。
【0127】
(実施例2)
屈折率1.52の無アルカリガラス基板1に屈折率が2.2〜2.4の酸化チタンをスパッタリングして厚さ50nmの酸化チタン膜を成膜した後、リソグラフィーとドライエッチングによりガラス基板1上にグレーティング2a,2bを形成した。つづいて、グレーティング2a,2bを含むガラス基板1上にエポキシ樹脂溶液をスピンコートした後、焼成することにより厚さ約30μmの平面光導波路3を形成した。焼成後の平面光導波路3の屈折率は1.56であった。ひきつづき、平面光導波路3上に低屈折率樹脂で、市販されている旭硝子株式会社製のサイトップ(登録商標)のポリ(パーフルオロブテニルビニルエーテル)をスクリーン印刷することにより矩形状の反応ホール(測定域)5が開口された低屈折率樹脂4を形成して図5に示す光導波路型センサチップを製造した。
【0128】
得られた光導波路型センサチップの反応ホールに被測定検体溶液である濃度1.6および6.4ng/mLのインスリン溶液をそれぞれ10μL滴下し、37℃で10分間抗原抗体反応を行った。つづいて、トリス緩衝生理食塩水(TBS)からなる洗浄バッファ液で、反応ホール内の余剰のインスリンを洗浄した。洗浄後の反応ホールに実施例1と同様なビーズ分散液を20μL滴下した。ビーズ分散液滴下直後から実施例1と同様に赤色LED21およびフォトダイオード22を用いて光強度の変化を測定した。
【0129】
6.4ng/mLのインスリン溶液については、同様な操作を3回(合計4回)行って、時間経過に伴う光強度の変化を測定した。被測定検体溶液の滴下直後の光強度を100%とし、その時間経過での光強度の変化を図11に示す。図11には、濃度1.6ng/mLのインスリン溶液の結果をS1、濃度6.4ng/mLの4つのインスリン溶液の結果をS2−1,S2−2,S2−3,S2−4、として示す。また、被測定検体溶液としてインスリンの希釈溶媒のみ(ブランク)を用いて同様な操作を行って、時間経過に伴うレーザ光強度の変化を測定した結果を図11にBとして示す。
【0130】
図11から明らかなように所定時間におけるレーザ光強度の低下率が被測定検体溶液中のインスリン濃度と相関することがわかる。また、インスリン濃度が同一(6.4ng/mL)の4つの被測定検体溶液において、所定時間におけるレーザ光強度の低下率が近似し、再現性のよい濃度測定が可能であることがわかる。
【0131】
(実施例3)
実施例2と同様な光導波路型センサチップの反応ホールに実施例1と同様なビーズ分散液を10μL滴下し、その直後に被測定検体溶液である濃度1.6ng/mLおよび6.4ng/mLのインスリン溶液をそれぞれ10μL滴下してピペッティングにより攪拌した。攪拌直後から実施例1と同様に赤色LED21およびフォトダイオード22を用いて光強度の変化を測定した。
【0132】
6.4ng/mLのインスリン溶液については、同様な操作を3回(合計4回)行って、時間経過に伴う光強度の変化を測定した。被測定検体溶液の滴下直後の光強度を100%とし、その時間経過での光強度の変化を図12に示す。図12には、濃度1.6ng/mLのインスリン溶液の結果をS1、濃度6.4ng/mLの4つのインスリン溶液の結果をS2−1,S2−2,S2−3,S2−4、として示す。また、被測定検体溶液としてインスリンの希釈溶媒のみ(ブランク)を用いて同様な操作を行って、時間経過に伴うレーザ光強度の変化を測定した結果を図12にBとして示す。
【0133】
図12から明らかなように所定時間におけるレーザ光強度の低下率が被測定検体溶液中のインスリン濃度と相関することがわかる。また、インスリン濃度が同一(6.4ng/mL)の4つの被測定検体溶液において、所定時間におけるレーザ光強度の低下率が近似し、再現性のよい濃度測定が可能であることがわかる。
【0134】
なお、実施例3においてビーズ分散液とインスリン溶液の滴下の順番を逆にても、同時に滴下しても、実施例3と同様にレーザ光強度の低下率が被測定検体溶液中のインスリン濃度と相関することを確認した。
【0135】
(実施例4)
予め、実施例1と同様なビーズ分散液をマイクロチューブに50μL入れて凍結乾燥させた。この凍結乾燥時には、実施例1と同様に前記ビーズ分散液に二糖類であるトレハロースを3重量%、界面活性剤であるTweenを0.1重量%添加した。つついて、マイクロチューブに被測定検体溶液である濃度1.6ng/mLおよび6.4ng/mLのインスリン溶液をそれぞれ50μL滴下、混合して抗原抗体反応を行った。次いで、マイクロチューブ内の混合液20μLを実施例2と同様な図5に示す光導波路型センサチップの反応ホールに滴下し、滴下直後から実施例1と同様に赤色LED21およびフォトダイオード22を用いて光強度の変化を測定した。
【0136】
6.4ng/mLのインスリン溶液については、同様な操作を3回(合計4回)行って、時間経過に伴う光強度の変化を測定した。被測定検体溶液の滴下直後の光強度を100%とし、その時間経過での光強度の変化を図13に示す。図13には、濃度1.6ng/mLのインスリン溶液の結果をS1、濃度6.4ng/mLの4つのインスリン溶液の結果をS2−1,S2−2,S2−3,S2−4、として示す。また、被測定検体溶液としてインスリンの希釈溶媒のみ(ブランク)を用いて同様な操作を行って、時間経過に伴うレーザ光強度の変化を測定した結果を図13にBとして示す。
【0137】
図13から明らかなように所定時間におけるレーザ光強度の低下率が被測定検体溶液中のインスリン濃度と相関することがわかる。また、インスリン濃度が同一(6.4ng/mL)の4つの被測定検体溶液において、所定時間におけるレーザ光強度の低下率が近似し、再現性のよい濃度測定が可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】第1実施形態に係る光導波路型センサチップを有する光導波路型センサを示す断面図。
【図2】第1実施形態における被測定検体の測定対象物質の測定工程を示す概略図。
【図3】第2実施形態に係る光導波路型センサチップを有する光導波路型センサを示す断面図。
【図4】第2実施形態における物質の測定工程を示す概略図。
【図5】第3実施形態に係る物質の測定方法に用いられる光導波路型センサチップを示す断面図。
【図6】第3実施形態における物質の測定工程を示す概略図。
【図7】第4実施形態における物質の測定工程を示す概略図。
【図8】第5実施形態に係る物質測定用キットの光導波路型センサチップを示す断面図。
【図9】第5実施形態における物質の測定工程を示す概略図。
【図10】実施例1のインスリンの濃度測定における時間経過に伴うレーザ光強度の変化を示す特性図。
【図11】実施例2のインスリンの濃度測定における時間経過に伴うレーザ光強度の変化を示す特性図。
【図12】実施例3のインスリンの濃度測定における時間経過に伴うレーザ光強度の変化を示す特性図。
【図13】実施例4のインスリンの濃度測定における時間経過に伴うレーザ光強度の変化を示す特性図。
【符号の説明】
【0139】
1,31…ガラス基板、2a,2b,32a,32b…グレーティング、3,33…平面光導波路、5…反応ホール、11…第1物質、12…第2物質、13…微粒子、15…測定対象物質、34…キャップ、35…測定域、37…導入孔、38…排出孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路;および
前記光導波路上に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサチップ。
【請求項2】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路;
前記光導波路と対向して配置された支持板;および
前記支持板の前記光導波路と対向する表面に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサチップ。
【請求項3】
前記光導波路は、板状のガラスであることを特徴とする請求項1または2記載の光導波路型センサチップ。
【請求項4】
前記光導波路は、厚さ3〜300μmの有機系樹脂膜であることを特徴とする請求項1または2記載の光導波路型センサチップ。
【請求項5】
前記微粒子は、樹脂ビーズであることを特徴とする請求項1または2記載の光導波路型センサチップ。
【請求項6】
前記微粒子は、金属コロイドであることを特徴とする請求項1または2記載の光導波路型センサチップ。
【請求項7】
前記測定対象物質が抗原で、前記光導波路表面および前記微粒子に固定化された前記測定対象物質と特異的に反応する第1、第2物質がそれぞれ抗体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光導波路型センサチップ。
【請求項8】
前記微粒子は、前記光導波路表面にブロッキング層を介して分散されることを特徴とする請求項1記載の光導波路型センサチップ。
【請求項9】
光導波路表面に測定対象物質と特異的に反応する第1物質を固定化すること;
前記光導波路上に前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子を含むスラリを塗布すること;および
前記塗布後に乾燥して前記光導波路上に前記微粒子を分散すること;
を含むことを特徴とする光導波路型センサチップの製造方法。
【請求項10】
光導波路表面に測定対象物質と特異的に反応する第1物質を固定化すること;
支持板表面に前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子を含むスラリを塗布すること;
前記塗布後に乾燥して前記支持板上に前記微粒子を分散すること;および
前記光導波路に前記支持板をその微粒子分散面が対向するように一定の距離をあけて配置すること;
を含むことを特徴とする光導波路型センサチップの製造方法。
【請求項11】
前記スラリは、水溶性物質を含むことを特徴とする請求項9または10記載の光導波路型チップの製造方法。
【請求項12】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、前記光導波路上に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させると共に、前記測定対象物質と前記光導波路上に分散された微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法。
【請求項13】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させること;
前記光導波路表面を洗浄すること;
前記光導波路表面に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を滴下して被測定検体溶液の測定対象物質と微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法。
【請求項14】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
被測定検体溶液、および被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子を予め混合し、微粒子の第2物質と被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させること;
前記混合液を前記センサチップの光導波路表面に滴下して前記光導波路表面の第1物質と微粒子の第2物質に反応した被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法。
【請求項15】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させること;
前記光導波路表面に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を滴下して前記測定対象物質と微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法。
【請求項16】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路を備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路表面に被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を滴下すること;
前記分散液が滴下された前記光導波路表面に被測定検体溶液を滴下して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させると共に前記測定対象物質と前記分散液中の微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法。
【請求項17】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、前記光導波路と対向して配置された支持板と、前記支持板の前記光導波路と対向する表面に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを備える光導波路型センサチップを用意すること;
前記センサチップの光導波路と前記支持板の間に被測定検体溶液を注入して光導波路表面の第1物質と被測定検体溶液中の測定対象物質との間で特異的に反応させると共に、前記測定対象物質と前記支持板に分散された微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
前記光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法。
【請求項18】
被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、この光導波路表面に配置され、前記光導波路表面との間で測定域を形成するための凹部を有し、かつこの測定域と連通する導入孔および排出孔が開口されたキャップとを備える光導波路型センサチップ;および
被測定検体の測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子の分散液を収容した包装体;
を組み合わせたことを特徴とする物質測定用キット。
【請求項19】
請求項18記載の物質測定用キットの使用において、
被測定検体溶液を光導波路型センサチップのキャップの導入孔を通して測定域内の光導波路表面に滴下して光導波路表面に固定化された第1物質と被測定検体溶液の測定対象物質とを特異的に反応させること;
包装体内の微粒子の分散液を前記キャップの導入孔を通して測定域内の光導波路表面に導入すると共に、被測定検体溶液を排出孔を通して排出する間、特異的に反応された被測定検体溶液の測定対象物質と微粒子の第2物質との間で特異的に反応させること;および
光導波路表面に第1物質および測定対象物質を介して固定化された微粒子による光学的変化を検出すること;
を含むことを特徴とする物質の測定方法。
【請求項20】
前記被測定検体溶液の測定対象物質が抗原で、この測定対象物質と特異的に反応する前記第1、第2の物質が抗体であることを特徴とする請求項12〜17または19のいずれか1項に記載の物質の測定方法。
【請求項21】
前記被測定検体溶液の測定対象物質が抗原で、この測定対象物質と特異的に反応する前記第1、第2の物質が抗体であることを特徴とする請求項18記載の物質測定用キット。
【請求項22】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と、前記光導波路上に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを有する光導波路型センサチップ;
前記光導波路に光を入射させる光源;および
前記光導波路から出射される光を受光する受光素子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサ。
【請求項23】
測定対象物質と特異的に反応する第1物質が表面に固定化された光導波路と前記光導波路と対向して配置された支持板と、前記支持板の前記光導波路と対向する表面に分散され、前記測定対象物質と特異的に反応する第2物質が固定化された微粒子とを有する光導波路型センサチップ;
前記光導波路に光を入射させる光源;および
前記光導波路から出射される光を受光する受光素子;
を備えることを特徴とする光導波路型センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−133842(P2009−133842A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274708(P2008−274708)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】