説明

光導波路

【課題】導波路層に溝部を形成する際に、溝部の深さを制御できるようにした光導波路を提供する。
【解決手段】光導波路1は、第1の導波路層2aと第2の導波路層2bを積層して多層化した導波路層2と、導波路層2を支持する実装基板3を備える。第1の導波路層2aは、挿入溝7が形成され、波長選択フィルタ8が挿入されて接着固定される。第1の導波路層2aと第2の導波路層2bの間にはメタル層10が形成され、挿入溝7をエッチングにより形成する際の、エッチングストッパ層として利用される。また、メタル層10は、波長選択フィルタ8を光硬化型の接着剤で接着する際の光の反射層として利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとクラッドを有する導波路層を備え、導波路層に光学部品が挿入される溝部が形成された光導波路に関する。詳しくは、導波路層の下面にメタル層を備えることで、溝部をエッチングで形成する際に、エッチングがメタル層で止まるようにして、加工する溝部の深さを制御できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子機器内のボード間、チップ間等の情報伝達は電気信号により行われてきたが、更に超高速、大容量の情報伝送を実現するために、光配線技術が注目されており、光配線技術を利用して波長多重双方向光伝送を行えるようにした導波路型の光モジュールが提案されている。
【0003】
波長多重双方向光伝送を実現するためには、異なる波長の光信号を分離多重化する機能が必要であり、例えば、任意の波長領域における光を選択的に反射及び透過させる機能を有する波長選択フィルタを使用した光モジュールが提案されている。
【0004】
光導波路に波長選択フィルタ等の光学部品を実装する場合、従来は、光導波路にダイシングで溝を作製し、この溝に光学部品を挿入し、接着固定していた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−109149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、光導波路にダイシングで溝部を形成する場合、光導波路がフィルム状で薄いものであると、加工する溝部の深さを制御することが困難であるので、光導波路を支持する基板まで溝部が形成されるようにして、確実に溝部が形成されるようにしている。
【0007】
このため、例えば、導波路層を積層してコアを多層化した場合には、全ての層のコアに溝部が形成されて、光学部品が挿入されることになる。
【0008】
また、ダイシングで溝部を形成する場合は、光導波路の途中から切断を開始したり、切断を途中で停止することができないので、光導波路の一方の端部から他方の端部まで連続した溝部を形成する必要がある。従って、光導波路の形状の制約が多く、設計自由度が低いという問題がある。
【0009】
また、溝部をエッチングで形成することも考えられるが、やはり加工する溝部の深さを制御することが困難であるという問題がある。
【0010】
更に、光導波路に形成した溝部に波長選択フィルタ等の光学部品を挿入し、接着固定する場合は、熱の影響を与えないようにするため、光硬化型の接着剤を用いることが多い。しかし、光が基板等で遮蔽されることで、接着剤を均一に硬化させることができず、接着強度が不足するという問題がある。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、導波路層に溝部を形成する際に、溝部の深さを制御できるようにし、かつ、溝部に挿入された光学部品の接着固定を確実に行えるようにした光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明に係る光導波路は、コアとクラッドを有する導波路層を備え、導波路層に光学部品が挿入される溝部が形成された光導波路において、導波路層の下面に、溝部を形成するエッチングに対して非触刻で、かつ光を反射するメタル層を備えたものである。
【0013】
本発明に係る光導波路では、溝部をエッチングで形成する際に、エッチングはメタル層で止まるので、加工する溝部の深さが、メタル層の形成位置で制御される。
【0014】
また、溝部に挿入した光学部品を接着固定する際に、光硬化型の接着剤を用いると、照射した光の一部はメタル層で反射して接着箇所を照射する。これにより、接着剤が均一に硬化される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光導波路によれば、導波路層内にメタル層を備えて、導波路層に溝部を形成する際のエッチングストッパ層として利用することで、加工する溝部の深さを正確に制御することができる。
【0016】
これにより、コアが多層に形成された光導波路等においても、溝部を形成する層と、溝部を形成しない層を正確に分離して加工を行うことができ、導波路層を多層化する際の制約や、コアの配置の制約が緩和され、設計自由度が増加する。
【0017】
また、メタル層は、溝部に挿入された光学部品を接着固定する際に、光硬化型の接着剤を均一に硬化させるための光の反射層としても利用することが可能で、接着剤が均一に硬化することで、光学部品を確実に実装できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の光導波路の実施の形態について説明する。
【0019】
<光導波路の構成>
図1は本実施の形態の光導波路の構成の一例を示す斜視図、図2は光導波路の要部構成を示す挿入溝付近の断面図である。本実施の形態の光導波路1は、第1の導波路層2aと第2の導波路層2bを積層して多層化した導波路層2と、導波路層2を支持する実装基板3を備える。実装基板3は例えばシリコン(Si)基板であり、表面に導波路層2が実装される。
【0020】
第1の導波路層2a及び第2の導波路層2bは、例えば高分子材料により構成され、コア4と、クラッド層5を構成する下部クラッド5a及び上部クラッド5bを備えてコア・クラッド構造を有する埋め込み型導波路である。コア4は、屈折率が下部クラッド5a及び上部クラッド5bより若干大きくなるように構成されて、光がコア4に閉じ込められて伝搬される。
【0021】
第1の導波路層2aのコア4は、例えば2本のコア4a,4bが交差した略Y字型のパターンを有し、第1の導波路層2aの一方の端部にコア4aの一方の端面が露出して、例えば入射ポート6aを構成する。
【0022】
また、第1の導波路層2aの一方の端部にコア4bの一方の端面が露出して、例えば出射ポート6bを構成する。更に、第1の導波路層2aの他方の端部にコア4aの他方の端面が露出して、例えば出射ポート6cを構成する。
【0023】
第2の導波路層2bのコア4は、例えば1本のコア4dが第2の導波路層2bの一方の端部から第2の導波路層2bの他方の端部まで直線状に延在し、第2の導波路層2bの一方の端部にコア4dの一方の端面が露出して、例えば入射ポート6dを構成する。また、第2の導波路層2bの他方の端部にコア4dの図示しない他方の端面が露出して、例えば出射ポートを構成する。
【0024】
第1の導波路層2aは、コア4aとコア4bとの交差部に挿入溝7を備える。挿入溝7は、第1の導波路層2aの上面に開口部を有し、例えばドライエッチング等で形成される。
【0025】
挿入溝7は、コア4aとコア4bの交差部を横切る方向に延びており、挿入溝7の対向する側壁面の一方に、挿入溝7で分割されたコア4aの端面が露出し、他方にコア4aとコア4bが交差した部分の端面が露出する。
【0026】
波長選択フィルタ8は、挿入溝7に挿入され、接着剤9により第1の導波路層2aに接着固定される。ここで、接着剤9は、コア4と同等の屈折率を有するものを利用する。
【0027】
波長選択フィルタ8は、光学部品を構成し、任意の波長領域における光を選択的に反射及び透過させる機能を有し、例えば波長λ1の光は透過し、波長λ2の光は反射するように構成される。
【0028】
導波路層2は、第1の導波路層2aと第2の導波路層2bの間にメタル層10を備える。メタル層10は、例えば、第1の導波路層2aと第2の導波路層2bの間の全面に形成される。
【0029】
<光導波路の製造工程>
図3及び図4は光導波路の製造工程を示す説明図で、次に、光導波路1の製造工程について説明する。
【0030】
まず、図3(a)に示すように、実装基板3を構成するシリコン基板3a上に屈折率の異なる高分子材料を順次積層し、下部クラッド5a及び上部クラッド5bと、所定のパターンのコア4を有する第2の導波路層2bを作製する。
【0031】
次に、第2の導波路層2b上にメタル層10を形成する。ここで、メタル層10は、例えば光導波路をシリコンウエハ上で作製する場合、ウエハ状のシリコン基板3aの全面に蒸着等により形成する。なお、パターンニングプロセスによりメタル層10を部分的に形成することも可能である。この場合のメタル層10の形成位置は、図1及び図2で説明した挿入溝7の形成位置に対応させる。
【0032】
メタル層10は、後述するエッチングプロセスで触刻されない材質で構成され、例えば、Au(金),Al(アルミニウム),Ti(チタン),Pt(白金),Ag(銀),Ni(ニッケル)、及びこれらの材質を含む混合金属である。
【0033】
次に、メタル層10上に屈折率の異なる高分子材料を順次積層し、下部クラッド5a及び上部クラッド5bと、所定のパターンのコア4を有する第1の導波路層2aを作製する。
【0034】
次に、図3(b)に示すように、第1の導波路層2aに挿入溝7を形成する。挿入溝7は、RIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング、もしくはウエットエッチングにより形成する。ここで、第1の導波路層2aと第2の導波路層2bの間にエッチングに対して非蝕刻のメタル層10が挿入されているので、このメタル層10がエッチングストッパ層として機能する。
【0035】
これにより、溝深さを正確に制御できる。具体的には、第1の導波路層2aの厚さと同じ深さで挿入溝7を形成することができる。そして、エッチングはメタル層10で止まることから、第2の導波路層2bには溝部が形成されない。よって、挿入溝7の直下に第2の導波路層2bのコア4が配置される構成とすることができる。
【0036】
さて、第1の導波路層2a及び第2の導波路層2bの厚さは、例えばそれぞれ100μm程度である。そして、挿入溝7は、第1の導波路層2aの厚さと同じ深さであるので、波長選択フィルタ8の実装時に、波長選択フィルタ8を垂直に保持するには不十分な深さである。
【0037】
そこで、図4(a)に示すように、波長選択フィルタ8を、垂直性を保持するフィルタ固定治具11で支持し、第1の導波路層2aと接着固定する。本例では、波長選択フィルタ8を挿入溝7に挿入し、フィルタ固定治具11で波長選択フィルタ8を垂直に保持した状態で、接着剤9を塗布する。接着剤9としては、例えば、紫外線(UV)硬化型の接着剤が使用され、図4(b)に示すように、フィルタ固定治具11を回避するように、斜め上方から紫外線を照射する。
【0038】
斜め上方から照射された紫外線は、一部は直接接着剤9を照射し、接着剤9を硬化させる。また、一部はメタル層10で反射することで、間接的に接着剤9を照射して、接着剤9を硬化させる。これにより、フィルタ固定治具11等で遮蔽された部分の接着剤9も硬化させることができる。
【0039】
そして、最後にフィルタ固定治具11を外せば、図1及び図2に示すように、波長選択フィルタ8を実装した光導波路1が完成する。上述したように、波長選択フィルタ8はフィルタ固定治具11を利用して実装することで、垂直性を保持して固定される。
【0040】
また、接着剤9を硬化させる光の照射時に、メタル層10で光を反射して接着箇所を間接的に照射できるので、フィルタ固定治具11等に遮蔽されて直接的に光を照射できない位置にも光を照射して、接着剤9を硬化させることができる。これにより、波長選択フィルタ8を確実に固定することができる。
【0041】
なお、以上の例では、導波路層が2層の例で説明したが、3層以上でもよい。また、導波路層が1層でも、本発明の効果を得ることができる。更に、光導波路1に溝部を形成して接着固定する光学部品としては、波長選択フィルタ以外に、光ファイバ等でも良い。
【0042】
すなわち、光導波路1のコア4が露出する端面に溝部を形成し、この溝部に光ファイバを挿入して固定することで、コア4と光ファイバを光学的に結合して、接続することができる。
【0043】
このような光ファイバを挿入して固定する溝部を形成する際にも、メタル層10を備えることで、所定の深さの溝を形成することができると共に、メタル層10での反射を利用して、接着剤を均一に硬化させることができる。
【0044】
<光導波路の動作>
次に、光導波路1の動作について説明する。例えば、第1の導波路層2aの入射ポート6aから入射した波長λ1の光はコア4aを伝搬され、波長選択フィルタ8に入射する。波長選択フィルタ8は、本例では波長λ1の光は透過するので、入射ポート6aから入射した波長λ1の光は波長選択フィルタ8を透過して、挿入溝7の先のコア4aに入射して、更にコア4aを伝搬される。そして、コア4aを伝搬された光は出射ポート6cから出射する。
【0045】
これに対して、入射ポート6aから入射した波長λ2の光はコア4aを伝搬され、波長選択フィルタ8に入射する。波長選択フィルタ8は、本例では波長λ2の光は反射するので、入射ポート6aから入射した波長λ2の光は波長選択フィルタ8で反射してコア4bに入射して、コア4bを伝搬される。そして、コア4bを伝搬された光は出射ポート6bから出射する。
【0046】
また、第2の導波路層2bの入射ポート6dから入射した光はコア4dを伝搬される。第2の導波路層2bのコア4dと、第1の導波路層2aのコア4a,4bは独立しており、挿入溝7は第2の導波路層2bには到達していないので、第2の導波路層2bのコア4dを伝搬される光は、波長選択フィルタ8で反射あるいは透過することなく、図示しない出射ポートから出射する。
【0047】
上述したように、波長選択フィルタ8はコア4a,4bに対する垂直性が良く保持されているので、波長選択フィルタ8とコア4との光結合部分での損失を抑えることができる。これにより、光導波路1は、低損失波長合分波器として機能する。
【0048】
また、第2の導波路層2bのコア4dと、第1の導波路層2aのコア4a,4bは独立しているので、光導波路1は、3種類の信号を送受信できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、電子機器のボード間やチップ間の光通信モジュールや、光ファイバを利用した通信ケーブルのコネクタ等に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施の形態の光導波路の構成の一例を示す斜視図である。
【図2】光導波路の要部構成を示す挿入溝付近の断面図である。
【図3】光導波路の製造工程を示す説明図である。
【図4】光導波路の製造工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・光導波路、2・・・導波路層、3・・・実装基板、4・・・コア、5・・・クラッド層、6a・・・入射ポート、6b・・・出射ポート、6c・・・出射ポート、7・・・挿入溝、8・・・波長選択フィルタ、9・・・接着剤、10・・・メタル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとクラッドを有する導波路層を備え、前記導波路層に光学部品が挿入される溝部が形成された光導波路において、
前記導波路層の下面に、前記溝部を形成するエッチングに対して非触刻で、かつ光を反射するメタル層を備えた
ことを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記導波路層は、前記コアが2層以上の多層に構成され、少なくとも1層の前記メタル層が、前記導波路層の間に形成される
ことを特徴とする請求項1記載の光導波路。
【請求項3】
前記メタル層は、少なくとも前記溝部の底面となる位置にパターン形成される
ことを特徴とする請求項1記載の光導波路。
【請求項4】
前記溝部に挿入される光学部品は、光硬化型の接着剤で接着固定される
ことを特徴とする請求項1記載の光導波路。
【請求項5】
前記メタル層は、Au,Al,Ti,Pt,Ag,Ni、及びこれらの材質を含む混合金属である
ことを特徴とする請求項1記載の光導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−184756(P2006−184756A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380397(P2004−380397)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】