説明

光導波路

【課題】本発明の目的は、溝を形成したリッジ構造型光導波路において、高温高湿試験(85℃85%)でも、複屈折が変動せず、偏波依存周波数差(PDf)が長期間で変動しない、信頼性の高い光導波路を提供する。
【解決手段】本発明の光導波路は、基板上に作製された光導波路において、上記光導波路の一部に、上記光導波路の両脇に一対の溝が設けられ、上記溝が設けられた部分の上記光導波路の複屈折の値が極小となるような溝の間隔をWとしたとき上記溝の間隔がWであるか、または上記溝の深さの距離をHとしたとき、上記溝の間隔がHと等しいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複屈折の経時変化を抑制した光導波路およびそれを使用したマッハツェンダ干渉計に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に使用される光導波路部品において、マッハツェンダ干渉計回路(以下では、MZI)は、光減衰器やDPSK信号の受信回路に広く使用されており、重要な回路となっている。これは、2つの結合器とそれらを結ぶアーム導波路とアーム導波路の上に形成された薄膜ヒータからなる。図11は、結合器に多モード干渉計(MMI)を使用した場合の、マッハツェンダ干渉計回路1100を示している。図11において、マッハツェンダ干渉計回路1100は、光導波路1101と、多モード干渉計1102と、ヒータ1103とを備える。
【0003】
以下では、マッハツェンダ干渉計の動作原理とその偏波依存性について簡単に説明する。
入力I1→出力O1をスルーパス、入力I1→出力O2をクロスパスと定義した際、公知の干渉原理によって、それらの光出力(OTHROUGH、OCROSS)は、下式のように記述できる。(ここでは結合器の結合率は、50%とした。)
【0004】
【数1】

【0005】
【数2】

【0006】
尚、I0は入力光の光強度、nは実効屈折率、ΔLは2本のアーム導波路の長さの差、fは光周波数、cは光速を示す。
【0007】
例えば、DPSK受信回路の場合、前段の結合器で分離した後、一方のアーム導波路を伝播する光信号を他方の信号に比較して、1ビット遅延させた後、後段の結合器で干渉させ、位相検出を行う。その際、1ビット遅延を与えるために2本のアーム導波路に長さの差(ΔL)を設定する必要がある。また、ヒータ1103は遅延量のずれを補正するために利用される。
【0008】
このようなデバイスに使用される光導波路の作製方法としては、例えば次のようなものがある。
【0009】
シリコン基板上に火炎堆積法を使用して、石英ガラスを主体とした下部アンダークラッド層、および、石英ガラスにゲルマニウムを添加したコア層を堆積する。そして、コア層をフォトリソグラフィおよび反応性イオンエッチングによってパターン化し、再び火炎堆積法を使用して、オーバークラッド層を堆積して埋め込み型光導波路を作製する。
【0010】
通常、このような光導波路は、コアの形状や、基板とクラッドの熱膨張係数の違いにより、複屈折を有する。つまり、基板に垂直な電界方向を有するTM偏波と基板に平行な電界方向を有するTE偏波の実効屈折率(nTE、nTM)はそれぞれ異なっており、複屈折はB=nTE−nTMで表記できる。この複屈折と2本のアーム導波路の長さの差(ΔL)によって、偏波に依存した遅延量の差異が発生し、偏波依存性が発生する。ここで、この偏波依存性は、偏波に依存した光路長差Δ(BL)として次式で表記できる。
【0011】
【数3】

【0012】
尚、l1、l2は、それぞれ2本のアーム導波路に沿う線座標である。また、∫Bdl1と∫Bdl2は、複屈折値のアーム導波路に沿う線積分である。
【0013】
偏波に依存した光路長差Δ(BL)は、有限の値を有するため、偏波依存損失(PDL)や偏波依存周波数差(PDf)の発生要因となり、信号品質を大きく劣化させる。ここで、PDfとは、BΔL/λ・FSRで定義される量であり、同位相を有する光周波数の差異を示す。
【0014】
これらの偏波依存性を解消するため、導波路の両側に溝を作製し、複屈折制御を行ったDQPSK受信回路が提案されている(非特許文献1参照)。図12にその概略図を示す。これは、DQPSK受信回路ではあり、光信号を二分岐し、それぞれをFSR21.5GHzとしたMZIに接続した構成である。図12において、複屈折制御を行ったDQPSK受信回路1200は、光導波路1201と、多モード干渉計1202と、Y分岐1203と、ヒータ1204と、溝1205と、半波長板1206とを備える。
【0015】
次に提案されている、溝を使用した偏波依存性の解消手法を簡単に説明する。溝を有さない通常導波路の複屈折をB0、溝の長さをL1、溝を有する導波路(リッジ構造型光導波路)の複屈折をB1としたときに、Δ(BL)は次式で与えられる。
【0016】
【数4】

【0017】
上式がゼロとなるように溝の間隔(リッジ幅)および断熱溝の長さを設計することにより偏波無依存化が可能となる。また、これらの溝との間にはヒータ1204が形成されており、ヒータ加熱時による発熱を効率的に導波路に伝達させるための、断熱溝としても使用されている。一般に、ヒータを加熱することによって熱光学効果を介して、位相制御を行った場合の消費電力は、例えば、πの位相を動かすのに数百mWが必要であり、ヒータ近傍に断熱溝を形成することにより、低消費電力化を実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】2009年電子情報通信学会総合大会C−3−46
【非特許文献2】「Integrated polarisation beam splitter using waveguide birefringencedependence on waveguide core width」、Electronics Letters, Volume 37, Issue 25, pp. 1517-1518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記のような溝を形成したリッジ構造型光導波路を有するMZIでは以下に述べる問題があった。
【0020】
DPSK受信回路においては、溝を形成したリッジ構造型光導波路では、高温高湿試験(85℃85%)を行うとその複屈折が変動してしまう。この結果、MZI型DPSK受信回路またはMZI型DQPSK受信回路などでは、偏波依存周波数差(PDf)が長期間で変動してしまうため、信頼性上に問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の光導波路は、基板上に作製された光導波路において、上記光導波路の一部に、上記光導波路の両脇に一対の溝が設けられ、上記溝が設けられた部分の上記光導波路の複屈折の値が極小となるような溝の間隔をWとしたとき、上記溝の間隔がWであることを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の光導波路は、基板上に作製された光導波路において、上記光導波路の一部に、上記光導波路の両脇に一対の溝が設けられ、上記溝の深さの距離をHとしたとき、上記溝の間隔がHと等しいことを特徴とする。
【0023】
また、上記光導波路のうち両脇に上記一対の溝が設けられた部分の上にヒータを備えることを特徴とする。
【0024】
また、上記課題を解決するために、本発明のマッハツェンダ干渉計回路は、入力光が入力され、2N個(N:自然数)の分岐出力光を出力する光分岐部分と、上記光分岐部分に接続され、N個の第1の分岐出力光がそれぞれ伝搬するN本の第1のアーム導波路と、上記光分岐部分に接続され、N個の第2の分岐出力光がそれぞれ伝搬するN本の第2のアーム導波路と、上記N本の第1のアーム導波路を伝搬する上記N個の第1の分岐出力光の1つと、上記N本の第2のアーム導波路を伝搬し、上記N個の第1の分岐出力光の上記1つに対応する上記N個の第2の分岐出力光の1つとをそれぞれ合成し、干渉させるN個の光合波回路とを備え、上記N個の光合波部分のそれぞれは、上記光分岐部分と、上記N本の第1のアーム導波路の1本と、上記第1のアーム導波路の1本に対応する上記第2のアーム導波路の1本と共にそれぞれ干渉計を構成し、請求項1乃至3に記載の光導波路が、上記N個のそれぞれの干渉計を構成する上記第1のアーム導波路と上記第2のアーム導波路の少なくとも一方に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、溝を形成したリッジ構造型光導波路において、高温高湿試験(85℃85%)でも、複屈折が変動せず、偏波依存周波数差(PDf)が長期間で変動しない、信頼性の高い光導波路を提供できる。また、プロセス誤差により発生したリッジ幅のずれに対して、複屈折変動が他のリッジ幅に比較して少なく、結果として、光回路の特性のリッジ幅トレランスが高い光導波路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施例としてDSPK受信回路の概略図である。
【図2】図1に示した線分A−A´における断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例の高温高湿試験(85℃85%)2000時間後のPDf変動を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例の複屈折とリッジ幅の関係を示す図である。
【図5】本発明のリッジ構造型光導波路の断面図例である。
【図6】本発明のリッジ構造型光導波路の断面図例である。
【図7】本発明の第2の実施例としてDPSK受信回路の上面概略図である。
【図8】本発明の第3の実施例として光減衰器の上面外略図である。
【図9】本発明の高温高湿(85℃85%)2000時間後のPDL変動を示す図である。
【図10】本発明の第4の実施例として減衰器の上面概略図である。
【図11】従来技術によるマッハツェンダ干渉計回路の概略図である。
【図12】従来技術による複屈折制御を行ったDQPSK受信回路の図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
[実施例1]
図1は、本発明の第1の実施例としてDPSK受信回路100の概略図である。また、図2は、図1の線分A−A´の断面図である。
【0029】
最初に、具体的な構成について説明する。
図1において、本DPSK受信回路100は、二つの多モード干渉計型結合器102と、多モード干渉計型結合器102間に挟まれた2本のアーム導波路101と、アーム導波路101を分断するようにして形成された溝106に挿入されたポリイミド波長板103とから構成されている。このポリイミド波長板103は、光学主軸が伝搬方向と直交し、かつ、基板の水平方向から45度傾いており、遅軸と速軸をそれぞれ伝搬する偏波が設計波長の半波長相当の位相差を与えられる。この半波長板103は、TM偏波(もしくはTE偏波)をTE偏波(もしくはTM偏波)に偏波変換する偏波回転器として機能する。本MZI100は、FSRを40GHzとするため、2本のアーム導波路101の長さの差(ΔL)は5.06mmとしている。また、2本のアーム導波路101のうち長い方の導波路101の一部には、両脇に溝105を形成している。溝105との間隔であるリッジ幅を40μmとした。また、溝105に挟まれた光導波路の上面には、薄膜ヒータ104が形成されている。この薄膜ヒータは熱光学効果を利用した位相シフタとしての機能を付予するためのものであり、位相調整に用いる。また、溝を形成することによって、加熱領域を制限し低消費電力を実現する構成となっている。次に、リッジ構造型光導波路101の最適な長さ(L1)について言及する。リッジ幅40μmの複屈折は−8×10-4(B1)、通常の埋め込み型光導波路101の複屈折は5.5×10-4(B0)、2本のアーム導波路101長の差は5.11mm(ΔL)である。ここで、偏波に依存した光路長差Δ(BL)は下式で表すことができる。
【0030】
【数5】

【0031】
つぎに、上式を零とすることにより偏波依存性を抑制できる。言い換えれば、式(6)を満たすL1を設計することにより、式(3)で表される偏波に依存した光路長差Δ(BL)を解消できる。
【0032】
【数6】

【0033】
上記より、設計パラメータをまとめると、B1=−8e−4、ΔL=5.11mm、B=5.5e−4、L1=2.08mmとした。
【0034】
次に、リッジ幅を40μmとした理由について説明する。
本実施例で使用している埋め込み型光導波路101は、シリコン基板上201に、火炎堆積法を使用してSiO2を主体としたアンダークラッド層501およびSiO2にGeO2を添加したコア層203を堆積した後、コアを所望の形状に加工した後、オーバークラッド層502を堆積している。コア203とクラッド202との比屈折率差は1.5%である。また、アンダークラッド501、コア203、オーバークラッド502からなるクラッド202の厚さは40μmである。これに、リッジ構造を形成するための溝105を、シリコン基板が露出するまで形成している。つまり、溝105の深さはクラッド202厚さと同じ40μmである。また、クラッド202の厚さと同じく、リッジ幅は40μmとした。ここで、複屈折のリッジ幅依存性は図4に示され、複屈折のリッジ幅に対する微分値は、リッジ幅40μmのときゼロとなり極小となる。この時、複屈折変動はリッジ幅変動に対して極めて鈍感となる。
【0035】
複屈折のリッジ幅依存性に関する挙動についてそのメカニズムを簡単に説明する。
複屈折には、応力が強く関与している。複屈折の発生は、コア203への応力が光弾性効果を介してTE偏光とTM偏光に異なる屈折率を与えていること(応力複屈折)に起因している。その際、応力の主要因は、シリコン基板とガラスの熱膨張係数差による横方向の圧縮応力と、オーバークラッド502とコア203との熱膨張係数差による縦方向の圧縮応力である。本発明のシリコン基板上の石英導波路においては、横方向の圧縮応力が縦方向の圧縮応力より大きく、複屈折および偏波依存性が発生する。一方、これらの光導波路の近傍に溝105を設けたリッジ構造型光導波路101の場合、縦方向・横方向の応力がリッジ幅によって増減し、複屈折はあるリッジ幅で極小値を獲得する。
【0036】
次に、高温高湿変動と複屈折変動の関連について簡単に説明する。
リッジ構造型光導波路を高温高湿試験など、湿度耐性に関する試験を行った際、リッジ構造の壁面などのエッチング面は、ガラスが変質し、応力が開放される状態となる。言い換えれば、壁面のガラスのみが変質し、あたかも、リッジ幅が細くなったかのような複屈折変動を示す。この複屈折の増減の向きは、図4に示す特性から推測でき、複屈折のリッジ幅に対する微分値の正負を入れ替えたものに符号が等しい。つまり、複屈折のリッジ幅に対する微分値がゼロとなるリッジ幅が40μmのリッジ構造は、ある試験時間では、試験による複屈折変動がゼロとなり、非常に安定な状態と言える。
【0037】
また、この安定な状態は、構造的には、リッジ幅と溝105の深さが等しいときに相当する。
【0038】
構造としては、図2に示すように、熱膨張係数が異なる基板上にクラッド202およびコア203が形成されており、クラッド202およびコア203の縦横比が1:1である構造となる。本構造を作製するには、クラッド202の厚さと溝105の深さとリッジ幅が全て一致する必要がある。しかしながら、図5や図6に示すように、溝の深さがクラッド202の厚さに対してずれたとしても、リッジ幅と溝105の深さが等しければ、本特許の効果は獲得される。また、リッジ幅が溝105の深さに対して1割程度のずれであれば、同様に効果は獲得される。これに関して、さらに説明を加えると、本特許は、リッジ幅と溝105の深さが等しい構造を形成することにより、複屈折のリッジ幅に対する変動が極小となるリッジ幅を使用することを目的としている。つまり、リッジ幅と溝105の深さが等しくなくとも、リッジ幅等の構造パラメータを変化させた結果、複屈折が微小値が獲得されるパラメータを使用することにより、同様な効果が獲得されることは明らかである。
【0039】
本実施例において、クラッド202はアンダークラッド501、コア103、オーバークラッド502から構成されているが、オーバークラッド502の上面にオーバークラッド502と同様な組成のガラスを別途、堆積した場合には、それらを含めた溝105の深さとリッジ幅が等しいことが重要である。
【0040】
本実施例のDPSK受信回路100を、85℃85%の恒温槽に2000時間だけ放置した後の、偏波依存周波数差(PDf)の経時変化を図3に示す。リッジ幅が40μmの回路は、PDfの変動量が50MHz程度であった。一方、リッジ幅が80μmの回路では、PDf変動は、500MHzであり、40μmにおいてPDf変動が抑制されていることが確認できる。
【0041】
本特許の別な効果として、プロセス誤差により発生したリッジ幅のずれに対して、複屈折変動が他のリッジ幅に比較して、少ないことが挙げられる。その結果として、光回路の特性のリッジ幅トレランスが高いと言える。
【0042】
[実施例2]
図7は、本発明で第2の実施例としてDPSK受信回路700の概略図である。
構成は実施例1と類似しているため、相違点のみ説明する。
相違点は、リッジ構造型光導波路701が2種類の異なるリッジ幅から構成されている点である。一方のリッジ幅は20μm、他方のリッジ幅は80μmとなっている。クラッド202の厚さは40μmであり、溝705、706の深さも40μmである。一方のリッジ幅は溝705、706の深さより短く、他方のリッジ幅は溝705、706の深さより長くなっている。また、複屈折は、リッジ幅20μmと80μmで、ともに−5.7×10-4である。ここで、リッジ幅20μmおよび80μmの複屈折をBnおよびBw、リッジ幅20μmおよび80μmの導波路長をLnおよびLwとする。次に、二つのアーム701間の長さの差をΔL、リッジ構造ではない通常導波路の複屈折をB0としたとき、式(7)を満たすことにより、偏波に依存した光路長差(Δ(BL))を解消できる。
【0043】
【数7】

【0044】
高温高湿試験(85℃85%)2000時間後の複屈折変動は、リッジ幅が20μmのとき5×10-5(ΔBn)、リッジ幅が80μmのとき−1×10-5(ΔBw)であるため、下式を満たすように、それぞれの長さを決定することにより、複屈折変動の抑制が期待できる。つまり、一方の複屈折変動を他方の複屈折変動で相殺することによって、全体として複屈折変動を解消できる。
【0045】
【数8】

【0046】
式(8)は、試験後の複屈折変動を、導波路の伝搬方向に積分した値と言い換えることができ、それがゼロとなることが重要である。
【0047】
前述の式(7)、(8)より、リッジ幅20μmの長さを0.42mm、リッジ幅80μmの長さを2.09mmとした。この長さを選択することにより、初期のPDfが抑制され、かつ、PDf変動も同時に抑制されることとなる。
【0048】
本実施例のDPSK受信回路700を、85℃85%の恒温槽に2000時間だけ放置した後の、偏波依存周波数差(PDf)の変動量は55MHz程度であった。例えば、リッジ幅が80μmのものでは、PDf変動は500MHzであり、それに比較して、本実施例はPDf変動が抑制されていることが確認できる。
【0049】
本構成の特徴を以下に示す。本構成は、一方のリッジ幅を極端に狭くできることである。狭くしたリッジ幅にヒータ704を形成し、位相シフタとして機能させることにより、実施例1で使用したようなリッジ幅が40μmの位相シフタに比較して、はるかに低消費電力化が可能となる。
【0050】
本特許の別な効果として、プロセス誤差により発生したリッジ幅のずれに対して、複屈折変動が少ないことが上げられる。具体的には、リッジ構造を形成するエッチング工程において、その溝の幅にはプロセス誤差が発生する。本特許では、リッジ幅に対する複屈折変動の正負が逆となる、リッジ幅20μmと80μmを使用しており、溝幅シフトによる複屈折を相殺しあう効果がある。
【0051】
以上の実施例1および2では、FSRが40GHzのMZIを使用した。その他、20GHz、100GHzなど他のFSRであっても同様な効果が期待できる事は明白である。
【0052】
[実施例3]
図8は、本発明の第3の実施例として作製した可変光減衰器800の概略図である。
最初に、具体的な構成について説明する。
図8において、本可変光減衰器800は、二つの方向性結合器802と、方向性結合器802間に挟まれた2本のアーム導波路801と、アーム導波路801の上に形成された薄膜ヒータ803と、アーム導波路801の両脇に形成された溝804からなる。なお、本可変光減衰器800は、光路長で信号波長の半分に相当する、0.52μmのアーム間光路長差(ΔL)で設計している。薄膜ヒータ803は熱光学効果を利用した位相シフタとしての機能を付予している。また、溝を形成することによって、加熱領域を制限し低消費電力を実現する構成となっている。
【0053】
次に、これに形成された溝からなるリッジ型光導波路の構造を説明する。
本実施例で使用している、埋め込み型光導波路は、実施例1と同様に、シリコンを基板201として、アンダークラッド501、コア203、オーバークラッド502からなる。クラッド202の厚さは40μmであり、リッジ幅も40μmとした。
【0054】
本実施例の可変光減衰器800を、85℃85%の恒温槽に2000時間だけ放置した後の、25dB減衰時の偏波依存損失(PDL)の経時変化を図9に示す。2000時間後でもPDL変動は0.1dB以下であった。一方、リッジ幅が20μmのものでは、PDL変動は、0.45dBであり、リッジ幅40μmではPDL変動が抑制されていることが確認できる。
【0055】
これは、複屈折変動が抑制されたことに起因している。簡単にメカニズムを説明する。
方向性結合器802で偏波結合が発生しており、方向性結合器802間の複屈折の導波路積分値によって、PDLは変化する。つまり、両脇に溝804を形成したリッジ型光導波路の複屈折が変化すると、前述の複屈折の導波路積分値が変動し、PDL変動となって現われる。さらに、実施例1と同じメカニズムによって、リッジ幅を溝804の深さと同じとすることによって、複屈折変動が抑制され、PDL変動が抑制される。
【0056】
[実施例4]
図10は、本発明の第4の実施例として可変光減衰器1000の概略図である。
構成は、実施例3とほぼ同じであるが、異なる点は、リッジ構造型光導波路1001が2種類の異なるリッジ幅から構成されている点である。クラッド202の厚さは40μmであり、溝804の深さは40μmである。一方のリッジ幅は20μm、他方のリッジ幅は80μmとなっており、溝804の深さである40μmより一方は短く、他方は長くなっている。また、複屈折は、リッジ幅20μmと80μmでともに−5.7e−4である。また、高温高湿試験(85℃85%)2000時間後の複屈折変動は、リッジ幅が20μmのとき、5e−5(ΔBn)であり、リッジ幅が80μmのとき−1e−5(ΔBw)であるので、それぞれのリッジ構造型光導波路の長さを、リッジ幅20μmでLnとし、リッジ幅80μmでLwとした時、式(9)を満たすように設定した。これにより、一方の複屈折変動を他方の複屈折変動で相殺することにより、全体として複屈折変動を解消できる。
【0057】
【数9】

【0058】
つまり、リッジ幅20μmで0.3mm、リッジ幅が80μmで1.7mmとした。
本実施例の可変光減衰器を、85℃85%の恒温槽に2000時間だけ放置した後の、偏波依存損失差(PDL)の変動量は0.1dB以下であった。例えば、リッジ幅が20μmのものでは、PDL変動は0.45dBであり、それに比較して、本実施例のPDL変動が抑制されていることが確認できる。
【0059】
本構成の特徴は、一方のリッジ幅を極端に狭くできることである。狭くしたリッジ幅のリッジ構造型導波路にヒータ1003を形成し、位相シフタとして機能させることにより、実施例4で使用したようなリッジ幅が40μmの位相シフタに比較して、はるかに低消費電力化が可能となる。
【0060】
その他の適用回路として、非特許文献2に示されるような偏波分離/合成回路(PBS/PBC)が考えられる。これは、マッハツェンダ干渉計1002のアーム導波路1001の複屈折を所望の値に設計することにより、偏波分離/合成回路(PBS/PBC)としての機能を実現したものである。リッジ構造型光導波路においても複屈折を所望の値にすることが可能であるため、同様な回路が実現可能である。さらに、これに本特許を適用することによって、複屈折の高温高湿時(85℃85%)の変動を抑制もしくは解消できるため、PBS/PBCの偏波消光比の長期変動を抑制もしくは解消できることは容易に類推できる。
【符号の説明】
【0061】
101,701,801,1001 光導波路
102,702,802,1002 多モード干渉計
103,703 半波長板
104,704,803,1003 ヒータ
105,705,706,804,1004,1005 溝
201 シリコン基板
202 グラッド
203 コア
501 アンダークラッド
502 オーバークラッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に作製された光導波路において、
前記光導波路の一部に、前記光導波路の両脇に一対の溝が設けられ、
前記溝が設けられた部分の前記光導波路の複屈折の値が極小となるような溝の間隔をWとしたとき、
前記溝の間隔がWであることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
基板上に作製された光導波路において、
前記光導波路の一部に、前記光導波路の両脇に一対の溝が設けられ、
前記溝の深さの距離をHとしたとき、
前記溝の間隔がHと等しいことを特徴とする光導波路。
【請求項3】
前記光導波路のうち両脇に前記一対の溝が設けられた部分の上にヒータを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波路。
【請求項4】
入力光が入力され、2N個(N:自然数)の分岐出力光を出力する光分岐部分と、
前記光分岐部分に接続され、N個の第1の分岐出力光がそれぞれ伝搬するN本の第1のアーム導波路と、
前記光分岐部分に接続され、N個の第2の分岐出力光がそれぞれ伝搬するN本の第2のアーム導波路と、
前記N本の第1のアーム導波路を伝搬する前記N個の第1の分岐出力光の1つと、前記N本の第2のアーム導波路を伝搬し、前記N個の第1の分岐出力光の前記1つに対応する前記N個の第2の分岐出力光の1つとをそれぞれ合成し、干渉させるN個の光合波回路とを備え、
前記N個の光合波部分のそれぞれは、前記光分岐部分と、前記N本の第1のアーム導波路の1本と、前記第1のアーム導波路の1本に対応する前記第2のアーム導波路の1本と共にそれぞれ干渉計を構成し、
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路が、前記N個のそれぞれの干渉計を構成する前記第1のアーム導波路と前記第2のアーム導波路の少なくとも一方に配置されていることを特徴とするマッハツェンダ干渉計回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−59588(P2011−59588A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211954(P2009−211954)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】