説明

光干渉繊維の溶融紡糸方法及びそれによって得られる光干渉繊維

【課題】少なくとも2種類の光学的屈折率が異なるポリマーを交互に積層してなる光干渉繊維を溶融紡糸する際に、口金要因の発色波長偏差を予見することにより、発色波長及び発色強度において品質安定を可能とする。
【解決手段】口金内部のポリマー流路の寸法形状を測定し、設計目標とした寸法形状と測定した寸法形状との間の偏差を「寸法偏差」として算出し、さらに、前記口金による溶融紡糸によって最終的に得られた光干渉繊維を分光分析して発色波長を求めて、前記発色波長と設計目標とする発色波長との間の偏差を「発色波長偏差」として算出すると共に、前記寸法偏差と前記発色波長偏差との間の相関関係を一次関数で近似して、ポリマー流路形状が変化した口金から得られる光干渉繊維の発色波長を前記近似一次関数から予測し、目標とする発色波長を溶融紡糸できるように紡糸条件を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維の内部に少なくとも2種類の薄膜ポリマーを交互に積層した交互積層体からなる光干渉繊維の品質を維持しながら安定して溶融紡糸する光干渉繊維の溶融紡糸方法とこれによって得られる光干渉繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自然光の反射作用と干渉作用によって可視光線領域に波長歩を有する干渉色を発色する光干渉繊維として、2種類のものが知られている。その内の一つは、互いに屈折率が異なる2種の透明なポリマーを交互に多層かつ薄膜に積層した多層交互積層体構造をフィラメント(単繊維)の内部に形成したものである。また、他の一つは、フィラメント基材の表面に透明な金属化合物を薄膜蒸着させた構造を持つものである。
【0003】
これらの中で特に、前者の光干渉繊維については、フィラメントを形成するポリマー自体の積層構造によって光干渉性をもたせるものである。したがって、その性質が互いに異なるポリマー(高分子重合体)と金属化合物との組み合わせを採用しないために、耐剥離性に優れており、長時間に渡って実用に供しても、耐剥離性において、金属化合物の蒸着構造を持つものに比べて格段に優れている。
【0004】
以上に説明した「少なくとも2種の透明なポリマーによって多層薄膜状に形成された交互積層体を内部に有する光干渉繊維」として、交互積層体部のみで形成された繊維構造と、交互積層体部の周りを保護ポリマーによって被覆した繊維構造がある。しかしながら、交互積層体のみの繊維構造では、積層貼合部が外部から直接アタックされて剥離しやすいため、品質上の問題が生じる。
【0005】
そこで、外部からのアタックによって積層貼合部が剥離することを保護することを目的として、交互積層体の周りを保護ポリマーによって被覆することの必要性は高い。したがって、交互積層体の周りを保護ポリマーで被覆した繊維構造を持つ光干渉繊維を採用することが望ましい。このとき使用する保護層ポリマーとしては、交互積層体を形成する2種類のAポリマーとBポリマーの中、どちらか一方を使用するか、若しくは、これらAポリマー及びBポリマー以外のポリマーCであっても構わない。
【0006】
しかしながら、交互積層体を形成するAポリマー及びBポリマーと、この交互積層体を保護するための保護層ポリマーCとが異なる種類のポリマーを採用しようとすると、現在、汎用設備として使われているコンジュゲート紡糸設備は2種類のポリマーを用いているものが大半であり、紡糸設備としては使用できない。したがって、保護層ポリマーCとして、交互積層体を形成するAポリマーあるいはBポリマーのどちらか一方を使用することが好ましい。また、そのようにすれば、現在、汎用設備として使われている2種類のポリマーを用いるコンジュゲート紡糸設備を流用使用することができる。
【0007】
このような利点を有することから、2種類のポリマーを複合紡糸する汎用設備を使用して光干渉繊維を溶融紡糸することを目的として、交互積層体を形成する各ポリマーの膜厚を狙い通りの寸法で形成するために、加工精度を向上させて製作した複雑な構造を有する紡糸口金(以下、この「紡糸口金」を単に「口金」とも称する)を使用することが試みられている。
【0008】
例えば、特許文献1(特開平11−1818号公報)あるいは特許文献2(特開2000−178825号公報)などにおいて、波長の揃った反射光による優れた光干渉効果を発現する光学干渉性複合高分子繊維を得ることができる溶融紡糸用口金が開示されている。そして、このような紡糸口金を使用することにより、薄膜Aポリマー及び薄膜Bポリマーからなる交互積層体を狙った通りに形成させることが提案されている。
【0009】
しかしながら、このようにして注意深く形成した多層薄膜の交互積層体構造を有する光干渉繊維であっても、各ポリマーの積層厚さが数nm違うだけで人間が視認できるほどの色の違いを呈してしまう。しかも、このような光干渉繊維を布帛や光輝材として使用するために、大量生産するようにすると、どうしても製造上の品質バラツキを避けることができない。
【0010】
したがって、これを布帛や光輝材として実際に使用した際に、発色のバラツキが大きくなるという問題がある。そこで、このような問題を解決するための対策として、ポリマー積層厚さを数nmオーダーで制御が可能な口金設計と、その加工が必要であるが、これを具現化しようとすると、口金の加工に膨大な時間と途方もない費用が要求されるという問題がある。
【0011】
しかも、労力と時間を要して精密に製作した紡糸口金を使用して、口金の製作誤差や個体バラツキを解消したとしても、溶融紡糸を重ねるにつれて、口金の局所的な減耗や、口金交換作業時などにおいて生じた傷により、その特性が大きく変化して、高品質な繊維製品を安定して得ることが困難である。また、このような経時的な紡糸口金の磨耗や傷などを修正しようとすると、多大なコストと時間がかかる。
【0012】
【特許文献1】特開平11−1818号公報
【特許文献2】特開2000−178825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者等は、以上に説明した従来技術に係わる問題について鋭意検討を行った。すなわち、本発明者等は、紡糸口金個々の個体差を把握して、目的の発色波長を得る必要を認めて、口金の個体差を把握することにより紡糸条件を調整することを行った。
【0014】
しかしながら、労力と時間を要して把握した口金個体差に係る要因も溶融紡糸を重ねるにつれて、口金の局所的な減耗や、口金交換作業時などにおいて生じた傷により、その特性が大きく変化して、高品質な繊維製品を得ることが困難であることが分かった。また、良好な発色波長を維持するには、前述の口金の磨耗や傷などを修正するために、多大なコストがかかるのを解消することが必要となることも分かった。
【0015】
そこで、本発明が目的とするところは、以上に述べた従来技術が有する諸問題を解決することにあり、具体的には、「紡糸口金の設計や加工に係る口金自体が有する個体差(製作寸法のバラツキ)に係る要因と、光干渉繊維の溶融紡糸を長期間に渡って進めていく際に発生する経時的な要因(流動ポリマーによる口金の磨耗あるいは摩滅)を解消して、特定色を安定に発色できるピーク波長が一定に維持され、更にはその発色強度においても低下がなく、それ故に、品質に優れた光干渉繊維を安定に溶融紡糸すする方法とこれによって得られる光干渉繊維を提供する」ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここに、以上に説明した課題を解決するために、下記(1)〜(6)に係る発明が提供される。
【0017】
(1) 少なくとも2種類の光学的屈折率が異なるポリマーを複合紡糸して、交互に薄膜状に積層した交互積層体を内部構造として有する光干渉繊維を紡出する紡糸口金を使用して溶融紡糸を行うに際して、前記口金内部のポリマー流路の寸法形状を測定し、設計目標とした寸法形状と測定した寸法形状との間の偏差を「寸法偏差」として算出し、さらに、前記口金による溶融紡糸によって最終的に得られた光干渉繊維を分光分析して発色波長を求めて、前記発色波長と設計目標とする発色波長との間の偏差を「発色波長偏差」として算出すると共に、前記寸法偏差と前記発色波長偏差との間の相関関係を一次関数で近似して、ポリマー流路形状が変化した口金から得られる光干渉繊維の発色波長を前記近似一次関数から予測し、目標とする発色波長を溶融紡糸できるように溶融紡糸条件を調整することを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸方法。
(2) 前記溶融紡糸条件の調整が、口金へそれぞれ独立に導入する複数種の前記ポリマーの容積比を計量供給手段によって微調整することである(1)に記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
(3) マルチフィラメントを溶融紡糸するためにフラメント数だけそれぞれ独立に形成されたポリマー流路の各寸法偏差とその平均値を求め、求めた平均値から得られるマルチフィラメント糸の発色強度を予測して、前記溶融紡糸条件の調整をする(1)又は(2)に記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
(4) 前記ポリマー流路の寸法形状の変化を複数種のポリマーが合流して交互積層体流を形成する合流流路である(1)〜(3)の何れかに記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
(5) 前記ポリマー流路が流動するポリマーの研磨作用によって磨耗する部位である(1)〜(4)の何れかに記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
(6) (1)〜(5)に記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法を用いて溶融紡糸した光干渉繊維。
【発明の効果】
【0018】
目的とする発色波長を呈する光干渉繊維を溶融紡糸するための複合紡糸口金を設計して製作した口金を使用して溶融紡糸しても目的とする発色波長を有する光干渉繊維を安定して得ることは困難である。これは、新たに製作した口金が狙った通りの加工精度で仕上がらなかったことに起因する。なお、狙った通りの加工精度で口金を製造しようとすると、膨大な費用と時間を要する。
【0019】
しかしながら、本発明を用いることによって、ある程度の加工精度のバラツキを有する口金であっても、製作した口金の寸法形状を正確に測定すれば、この口金から得られる光干渉繊維の発色波長を容易に予測できる。したがって、予測した発色波長を持つ光干渉繊維を溶融紡糸する紡糸条件を微調整して、目的とする発色波長を持つ光干渉繊維を溶融紡糸できる紡糸条件に変更することで、常に一定の発色波長を有する光干渉繊維を安定して溶融紡糸で切る。
【0020】
このようにして、新たに製作する口金の加工精度を極めて高精度に上げることなしに、ある程度の製作コストの低減と製作時間が短縮できる加工精度で製作した口金であっても、狙った通りの発色波長を有する光干渉繊維を安定して溶融紡糸することができる。
【0021】
しかも、光干渉繊維の溶融紡糸を長期間に渡って進めていく際に、内部を流動するポリマーの研磨作用によって口金が磨耗又は摩滅してその寸法計上が変化するようなことがあった場合であっても、このような経時的な要因を解消して、狙った発色波長を一定に維持し、かつその発色品質が優れた光干渉繊維を安定に溶融紡糸できる。
【0022】
さらには、マルチフィラメント糸を溶融紡糸する場合に、フィラメント間で発色にバラツキが生じ、その結果として発色強度の低下が生じているような場合でも、各フィラメントを溶融紡糸するためのフィラメント数だけ設けられたポリマー流路群の寸法変化を測定し、その平均値を算出して、設計時の寸法形状からの寸法偏差を監視すれば、発色強度の低下を画しできるという効果も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者等は、従来技術に係わる前述の諸問題について鋭意検討を行った。その結果、光干渉繊維の発色斑が生じる要因を大別すると、経時的な要因と紡糸口金の個体差に係る要因があることを究明した。そこで、発色斑を解消するために、先ず、口金個々の個体差に起因する発色差を解明することによって、目的とする発色波長(より具体的には「目的とするピーク波長」)を得ることを試みた。そして、本発明者等は。先ず口金個体差を究明することを目的として、紡糸条件等を調整して、これらが発色性に及ぼす影響を解明することを試みた。
【0024】
当然のことながら、紡糸口金の個体差は、一回の溶融紡糸だけで簡単にその発色差が生じる傾向を把握できないことは明らかである。そこで、本発明者等は、目的とする発色波長を得るために、紡糸条件を種々調整しながら経時的な検討を続けることにより、発色波長差が生じる原因の究明を行った。
【0025】
その結果、口金に個体差があったり、長期間に渡る溶融紡糸によって磨耗が生じたりしていても、紡糸条件を調整することにより、これらの要因ある程度解消できることを知見した。そして、この知見を基にして、目的とする発色波長を有するマルチフィラメントヤーンを安定的に発色性を維持しながら得られることを究明し、本発明を完成するに至ったものである。
【0026】
以下、逐次本発明の実施の形態を声明するが、先ず本発明が溶融紡糸しようとする光干渉繊維は、特開平11−1817号公報、特開平11−1819号公報などで提案されている複合紡糸口金によって得ることができる。しかし、当然のことながら、本発明はこのような例に限定されることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で各種の変形が可能であることは言うまでも無い。以下、このような本発明に係る口金の実施形態の一実施例について、図1を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、光干渉繊維を溶融紡糸するための本発明に係る紡糸口金の一実施形態例を説明するために例示した斜視面であって、説明の理解を容易にするために必要と考えられる要部には断面を施してある。また、図2は、図1に例示した口金から溶融紡糸された前記発色長単繊維(フィラメント)をその長手方向(繊維軸方向)に対して直角方向に切断した様子を模式的に例示した横断面図である。この場合、AポリマーとBポリマーとが交互に積層されて形成された交互積層体Lの全周を保護Aポリマーで囲繞することによって保護層を形成した例である。
【0028】
ただし、前記図1に例示した口金の一実施形態例では、図面上で各ポリマーが流れる流路が交錯して本発明の理解が困難となることを回避し、説明がより分かり易くなるように配慮した。すなわち、光の屈折率が異なる2種のAポリマーとBポリマーとが交互に積層された交互積層層体Lを形成するためのポリマー流(以下、「交互積層体流」という)が流れる一方の経路を図の右側に記載した。また、前記交互積層体流の周りを囲繞して保護層を形成させる保護ポリマー流(図1では、保護ポリマーCとしてAポリマーを使用している)が流れる他方の経路を図の左側に便宜上分離して記載した。しかしながら、実際の口金においては、「保護ポリマー流」が流れる経路と、「交互積層体流」が流れる経路は隣接して設けられることが好ましい。
【0029】
次に、図1の実施例に記載した各参照符号について簡単に説明すると、1は第1口金板(ポリマー導入板)、2は第2口金板(上部ポリマー分配板)、3は第3口金板(下部ポリマー分配板)、4は第4口金板(ポリマー吐出板)、5はAポリマーの導入孔、6はBポリマーの導入孔、7は交互積層体LのAポリマー層形成孔群、8はポリマーの合流流路、9は漏斗状縮小流路、10は保護ポリマーの分配流路、11は保護ポリマー流と交互積層体ポリマー流との合流流路、そして、12はポリマー吐出孔をそれぞれ示している
以上のように構成される実施例では、本発明に係る光干渉繊維の紡糸口金は、基本的に4つの口金板1、2、3及び4から形成されており、2種類の光学的屈折率が互いに異なるAポリマー及びBポリマーが、第1口金板(ポリマー導入板)1に穿設されたAポリマーの導入孔5及びBポリマーの導入孔6からそれぞれ導入される。
【0030】
ここで、先ず第1口金板1に穿設されたAポリマーの導入孔5から導入されたAポリマーが形成するAポリマー流の経路から説明する。このAポリマー流は、第2口金板(上部分配板)2の上部に設けられた分岐流路(分岐溝)において、図1に便宜的に図示したように、「交互積層体LのAポリマー層を形成する部分のAポリマー流」と「保護ポリマー流」とに左右に分岐する。
【0031】
このとき、後者の「保護ポリマー流」は、図1に例示したように、その流れが分岐して保護ポリマーの分配流路を流下する。また、前者の「交互積層体LのAポリマー層を形成する部分のAポリマー流」も分岐して、図1に例示したように図の右側方工へと流れる。そして、第2口金板2に一列に穿設された交互積層体LのAポリマー層を形成するAポリマー層形成孔群7へ導かれて、第3口金板(下部ポリマー分配板)3へ吐出される。
【0032】
以上に説明したように、Aポリマーに関しては、口金内を流れるが、Bポリマーに関しては、以下に説明するように流れる。すなわち、第1口金板1に穿設されたBポリマーの導入孔6から導入されたBポリマーは、そのまま第2口金板2を流下する。
【0033】
そして、第3口金板(下部分配板)3の上部に形成されたポリマーの合流流路8へ導入されと共に、Aポリマー層形成孔群7からもこの合流流路8へAポリマーが導入され、ここで、AポリマーとBポリマーが交互にサンドイッチされた交互積層体流が形成される。このように、合流流路8において交互積層体が初めて形成されるため、この合流流路8の形状変化(寸法変化)は、得られる光干渉繊維の発色性(発色波長の変化)に大きな影響を及ぼす。
【0034】
その後、以上に述べたようにして形成された交互積層体流は、第3口金板3に設けられ漏斗状縮小流路9を流下するにしたがって、Aポリマー層群とBポリマー層群が交互に積層されることによって形成される各交互層の厚みが次第に薄くなって行く。そして、最終的に第4口金板(ポリマー吐出板)4に穿設されたポリマー吐出孔12の中心部へ流入する。
【0035】
その際、既に述べたように分配流路10を流下してきた保護ポリマー(Aポリマー)は、第4口金板4の上端部に形成された合流流路11から前述の交互積層体ポリマー流の周りを囲繞するように合流流路11に流入する。そして、流入した保護ポリマー(Aポリマー)によって、交互積層体流の周囲に保護ポリマー層が形成される。このようにして、交互積層体流の周りに保護ポリマー流による保護層が形成されたポリマーは、ポリマー吐出孔12より紡出されて繊維化される。ついで、このようにして溶融紡糸によって繊維化した光干渉繊維は、その後、所定の延伸倍率で延伸され、糸条パッケージとして巻き取られて光干渉繊維製品とされる。
【0036】
なお、以上に述べたような工程を経て得られた本発明に係る光干渉繊維では、その内部に形成された交互積層体として、図2に示したように、光屈折率が互いに異なる2種類のポリマーを交互に薄膜状に積層したものに限定されず、3種類以上の異なる種類のポリマーを使用することもできる。また、保護層を形成するポリマーとして、図2に示した例のように、前記AポリマーやBポリマーと異なる種類のポリマーCを使用しても良い。
【0037】
本発明においては、前記交互積層体を構成する互に屈折率の異なるAポリマーとBポリマーとに関し、その組み合わせとして、高屈折率側のポリマーをAポリマー、低屈折率側のポリマーをBポリマーとした場合に、下記のような組み合わせが好ましい。
【0038】
すなわち、(前記Aポリマー)/(前記Bポリマー)が、(スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分が全二塩基酸成分当たり0.3〜10モル%共重合しているポリエチレンテレフタレート)/(酸価が3以上を有するポリメチルメタクリレート)、(スルホン酸金属塩を有する二塩基酸成分をポリエステルを形成している全二塩基酸成分あたり0.3〜5モル%共重合しているポリエチレンナフタレート)/(脂肪族ポリアミド)、(側鎖にアルキル基を少なくとも1個有する二塩基酸成分および/またはグリコール成分を共重合する共重合成分を全繰り返し単位当たり5〜30モル%共重合している共重合芳香族ポリエステル)/(ポリメチルメタクリレート)、(4,4’−ヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンを二価フェノール成分とするポリカーボネート)/(ポリメチルメタクリレート)、(4,4’−ヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンを二価フェノール成分とするポリカーボネート)/(ポリ4−メチルペンテン)、及び、(ポリエチレンテレフタレート)/(脂肪族ポリアミド)からなる群から選ばれる何れか一つの組み合わせである。
【0039】
本発明では、以上に説明したようにして光学干渉機能を有する光干渉繊維を製造する際に、製造する光干渉繊維の口金自体に起因する要因を解析して、これを解消することにある。そのため、本発明では、解析した要因により発色波長がどのように変化するかを事前予測する。そして、これによって、安定した発色波長を有する光干渉繊維を得ることを可能とするものである。
【0040】
これを具現化するために、本発明では、複雑な形状を有する口金を製作した際に、良好な寸法精度が得られ難い部位、高コスト・長時間加工でしか高寸法精度が得られない部位、あるいは経時的にどうしても寸法変化が起こることが回避できない部位などについて、その寸法を予め精密に測定する。ここで、このような部位の例として、前述のポリマーの合流流路8を形成する溝の深さ、ポリマー吐出孔12のエッジ部の磨耗度などに係る形状バラツキや形状変化を挙げることができる。
【0041】
このようにして、目的とする口金の部位を測定して得られた寸法値のバラツキや変化値と、光干渉繊維が所定の発色を呈する発色波長との間で相関を求める。このとき求める相関関係は、複数種のポリマー(図1の例では、AポリマーとBポリマーの2種類)が口金内流路を流動する際の各ポリマーの圧力損失バランスと各ポリマー流量が、寸法値のバラツキに対応してどのように変化するかを知ることである。
【0042】
ところが、このような相関関係を計算によって求めようとすると、複雑なポリマー流路形状やポリマーの溶融粘度などを考慮したポリマーの流動状態を非線形の高次多元連立方程式として求め、これらを数値解析によって解かなければならない。しかしながら、これを正確に解くことは事実上きわめて困難であり、時間も要するという問題があり、このような方法は実用的ではない。
【0043】
このような状況下で、本発明者等は、このような相関関係を高速計算が可能なコンピュータによって多大の計算時間と労力を費やして直接求める必要はなく、実験により簡易に求めることができることを見出した。すなわち、本発明者等が実験により寸法のバラツキ値と発色波長との間の関係を求めてみた。
【0044】
そうすると、実用的な寸法バラツキの範囲として、寸法変化がばらつく範囲を大きな製作コストアップとならない程度に狭く絞ってみると、寸法バラツキや寸法変化に対応する発色波長の変化量との関係は、1次関数あるいは2次関数などの低次関数(特に、一次関数が好ましい)で充分近似できることを究明した。
【0045】
ここで、問題部位の寸法値の偏差をa、理想の寸法形状であるときの発色波長をλとした場合に、理想寸法とは異なる寸法変化が起きた個々の口金の発色波長λは、例えば「λ=C×a+λ」という式によって算出することができることが分かった。ここで、前記式においてCは定数であり、その値は口金の構造、及び各部位の寸法等によって異なるが、実験式もしくは計算式によって求めることができる。また、「理想の寸法形状」とは、口金を製作するために「当初に設計した通りの目標とする寸法形状を指し、製作誤差や寸法バラツキを含まない正確な寸法形状」である。
【0046】
この時の理想の寸法形状からの偏差であるa値は、新規に製作した口金では製作時の加工精度の影響を大きく受けることは勿論である。また、溶融紡糸を連続して行ってその使用回数を重ねると、流動するポリマーの研磨効果により、口金内部に存在する角部や吐出孔のエッジ部が摩耗あるいは摩滅するので、これによってもa値が変わってくる。
【0047】
通常、光干渉繊維を溶融紡糸するに当って、一つの口金でモノフィラメント(単繊維)糸として溶融紡糸されるのではなく、マルチフィラメント糸として溶融紡糸される。このような口金からマルチフィラメントを溶融紡糸した際には、各々のフィラメントに係る発色波長のバラツキが大きくなると、例えば発色強度の低下といった現象が起こる。
【0048】
このようなマルチフィラメント糸の溶融紡糸は、通常、モノフィラメント(単繊維)を溶融紡糸するための単繊維形成流路を一単位として、複数単位の前記単繊維形成流路群を一つの口金に形成してマルチフィラメント糸を溶融紡糸する。
【0049】
したがって、このような場合には、複数の単繊維形成流路群の寸法形状をそれぞれ測定し、これらの平均値を算出する。そして、このようにして算出した平均値をもとにして、理想寸法値からの発色波長の偏差aを計算する。そうすると、一つの口金からマルチフィラメント糸を溶融紡糸した際に、各々のフィラメントに係る発色波長のバラツキが大きくなって発色強度が低下しても、各々の流路形状の偏差からその発色強度の低下を予測することが可能となる。
【0050】
そうすると、製作当初の口金寸法のバラツキや長期間に渡って溶融紡糸を行った場合に流動ポリマーの研磨作用による磨耗や摩滅などによる寸法変化が生じても、その寸法変化を測定してこれを常に監視しておくことで、寸法バラツキや寸法変化に伴う発色波長の変化、マルチフィラメントを溶融紡糸した場合の発色強度の低下を測定した寸法値から予測することができる。
【0051】
なお、寸法バラツキや寸法変化の測定は、口金の製作時に測定することは勿論であるが、この他に一定の期間毎に紡糸を中断して定期的に行なうようにしても良いし、紡糸口金パック内に組み込んだ濾過フィルターの圧力損失の上昇などに起因するパック内圧力の上昇などを検知して行うパック交換時期などの非定常作業に合わせて、その都度行うようにしてもよい。
【0052】
その際、光干渉繊維が呈する発色波長は、2種類の交互積層体の光干渉作用によって得ようとする場合に、口金に供給するAポリマーとBポリマーの流量比を調整することによって変更することができることが分かっている。すなわち、口金へ供給するAポリマーとBポリマーの流量比を精密に制御して、それぞれのポリマーを連続的に計量供給する独立したギアポンプなどの計量供給手段を用いて微調整する。
【0053】
なお、交互積層体Lを構成するAポリマーの層厚とBポリマーの層厚をミクロンオーダーで変化させることができることが分かっている。したがって、これら各ポリマーが形成する各薄膜層で屈折したり反射したりして生じる干渉光を十分に制御することができ、その結果として光干渉繊維が呈する発色波長を調整するのが可能となるのである。
【0054】
以上に説明した知見を利用した本発明によれば、口金製作時の寸法バラツキや溶融紡糸を続行することによる経時的な寸法変化が生じても、その寸法変化を監視することによって、これら口金の個体差に起因する発色波長を十分に把握できるのである。
【0055】
しかも、本発明では、溶融紡糸中において発色波長の補正をギアポンプなどを利用して計量供給する各ポリマーの複合容積比を微調整するなどの方法によって、簡易に発色波長の調整を行うことができ、その結果、安定した発色波長を有する品質に優れた光干渉繊維の溶融紡糸を可能とするものである。
【実施例】
【0056】
交互積層体を形成する屈折率が異なる2種のポリマーとして、A成分ポリマーが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が0.9モル%共重合された、固有粘度0.57のポリエチレンテレフタレート系ポリエステルと、B成分ポリマーが、固有粘度1.20のナイロン6とを用い、これらを複合容積比4:1で2台のギアポンプを使用してそれぞれ独立に溶融紡糸装置に装着された口金へ連続的に定量計量しながら供給した。
【0057】
このとき、図1に例示したものと同じ形状を有する複合紡糸口金を8組製作して、これら8組の口金を使用して、口金温度を280℃に加熱し、引取速度1000m/分で12本の単繊維で構成されるマルチフィラメント糸をそれぞれの口金に対して溶融紡糸した。
【0058】
ついで、前記溶融紡糸において紡糸したマルチフィラメントヤーンを、一旦巻き取ることなく引き続いて、延伸倍率:3.4倍、延伸温度(供給ローラの表面温度):90度、セット温度(延伸ローラの表面温度):180度の条件下で直接紡糸を行い、120デシテックス、12フィラメントの交互積層数が30層である積層断面を有する光干渉繊維を糸条パッケージとして巻き取った。なお、得られたフィラメントの断面形態は、扁平率(単繊維断面の長径と短径との比)が3.0であった。
【0059】
なお、この口金において、AポリマーとBポリマーとが合流する合流流路8は、溝幅が20mm、溝長さが5mm、溝深さが0.2mmの矩形状の浅溝とした。その際、この溝形状において溝深さの加工精度は、0.2±0.015mmの範囲に収まるよう指定した。また、一つの口金から12本のフィラメントを紡糸するために形成した12個の前記浅溝の溝深さをそれぞれ測定して平均値を算出し、8組の口金について、それぞれ理想溝深さである0.2mmから前記平均値の偏差を算出した。さらに、これと共に、8組の各々の口金で溶融紡糸した光干渉繊維からなるマルチフィラメント糸を40ターン/cmのピッチで黒板にそれぞれ巻き付けたものを、マクベス社製分光測色計Color-Eye3100を用いて測色して得られた12個の発色波長値から平均値を求め、この平均値と基準となる理想発色波長との偏差を算出した。
【0060】
以上に述べたようにして、新たに製作した8組の口金に対して、前述のようにして算出した寸法偏差値(mm)を横軸に採り、これに対応する発色波長偏差値(μm)を縦軸に採ったときの相関関係を図2に示すようにグラフ化した。このグラフから明らかなように、ある程度のバラツキはあるものの、寸法偏差値と発色波長偏差値との間に略一次関数で近似できる相関関係があることが分かる。なお、これらの相関関係を最小自乗法を用いて一次関数で近似したものが、図2中に示した直線であり、この直線の傾きは1351(μm/mm)であった。
【0061】
以上に述べたような一次近似関数を予め求めておくことにより、新たな口金を製作した場合に、その必要な部位(本例では「合流流路8を形成する浅溝の溝深さ」が相当する)の寸法を精確に測定したり、あるいは流動するポリマーの研磨作用によって磨耗や摩滅が生じたりしても、この口金から溶融紡糸によって得られた光干渉繊維が有する発色波長を極めて容易に推定することができる。したがって、AポリマーとBポリマーの容積比をギアポンプによって微調整したり、紡出された光干渉繊維の冷却条件を調整したりするなどの溶融紡糸条件の調整によって、容易に目的とする発色波長を有する光干渉繊維を溶融紡糸できることとなる。
【0062】
なお、本実施例では、「合流流路8の溝深さ」に係る寸法変化についてのみ説明したが、その他の部位においても、「合流流路8の溝深さ」のケースと同様の効果を得ることができることを付言しておく。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る光干渉繊維用複合紡糸口金の一実施形態を模式的に例示した一部破断した斜視図である。
【図2】発色長単繊維(フィラメント)をその長手方向(繊維軸方向)に対して直角方向に切断した様子を模式的に例示した横断面図である。
【図3】光干渉繊維における本発明の一致性を示した特定部位の寸法偏差と発色波長の偏差の関係。
【符号の説明】
【0064】
1:第1口金板(ポリマー導入板)
2:第2口金板(上部ポリマー分配板)
3:第3口金板(下部ポリマー分配板)
4:第4口金板(ポリマー吐出板)
5:Aポリマーの導入孔
6:Bポリマーの導入孔
7:交互積層体のAポリマー層形成孔群
8:ポリマーの合流流路
9:漏斗状縮小流路
10:保護ポリマーの分配流路
11:保護ポリマー流と交互積層体ポリマー流との合流流路
12:ポリマー吐出孔
A:交互積層体を形成する一方のポリマー
B:交互積層体を形成する他方のポリマー
C:保護ポリマー
L:交互積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の光学的屈折率が異なるポリマーを、交互に薄膜状に積層した交互積層体を内部構造として有する光干渉繊維を紡出する紡糸口金を使用して溶融紡糸を行うに際して、前記口金内部のポリマー流路の寸法形状を測定し、設計目標とした寸法形状と測定した寸法形状との間の偏差を「寸法偏差」として算出し、さらに、前記口金による溶融紡糸によって最終的に得られた光干渉繊維を分光分析して発色波長を求めて、前記発色波長と設計目標とする発色波長との間の偏差を「発色波長偏差」として算出すると共に、前記寸法偏差と前記発色波長偏差との間の相関関係を一次関数で近似して、ポリマー流路形状が変化した口金から得られる光干渉繊維の発色波長を前記近似一次関数から予測し、目標とする発色波長を溶融紡糸できるように溶融紡糸条件を調整することを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸方法。
【請求項2】
前記溶融紡糸条件の調整が、口金へそれぞれ独立に導入する複数種の前記ポリマーの容積比を計量供給手段によって微調整することである請求項1に記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
【請求項3】
マルチフィラメントを溶融紡糸するためにフラメント数だけそれぞれ独立に形成されたポリマー流路の各寸法偏差とその平均値を求め、求めた平均値から得られるマルチフィラメント糸の発色強度を予測して、前記溶融紡糸条件の調整をする請求項1又は請求項2に記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
【請求項4】
前記ポリマー流路の寸法形状の変化を複数種のポリマーが合流して交互積層体流を形成する合流流路である請求項1〜3の何れかに記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
【請求項5】
前記ポリマー流路が流動するポリマーの研磨作用によって磨耗する部位である請求項1〜4の何れかに記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の光干渉繊維の溶融紡糸方法を用いて溶融紡糸した光干渉繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−332496(P2007−332496A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165883(P2006−165883)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】