説明

光強度測定装置

【課題】人間の網膜における集光性の差別、即ち単一光源、アレイ光源、波長分布に依存している視角の大きさに基づき光源放射の安全等級を細分化でき、危険過大評価を避けることにより、人体への安全性を守りながら光エネルギーの有効的利用の実現を図ることのできる、光強度測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】測定系が人間の眼の構造である角膜に対応したコリメートレンズLc、瞳孔に対応した虹彩絞りAP、水晶体に対応したフォーカスレンズLΦ、網膜に対応した光学センサSENを有しており、コリメートレンズの焦点距離fcおよび虹彩絞りの限界開口Daが網膜障害の最悪露光状態である最小調節近点100mmおよび直径7mmとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インコヒーレントな単一光源及びアレイ光源の放射パワー測定及び人眼安全性評価に有用な、光強度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空間を伝播する光のエネルギーを利用して情報伝送や照明表示などを行う場合、使用者の眼に対する安全性は重要な課題である。現在、眼に対する光照射パワーの安全基準及び測定方法は、レーザーダイオードLD、発光ダイオードLEDともに、日本工業標準JIS C 6802(国際規格IEC 60825と対応)に定められるレーザーの安全規格を使用している(非特許文献1,2参照)。
【非特許文献1】レーザー安全ガイドブック(第3版)、ISBN4-915851-22-2、新技術コミュニケーション(2003年)
【非特許文献2】猿渡正俊、“光ワイヤレス通信における眼に対する安全基準”、OITDA「オプトニューズ」 No.1 2004 通巻 139号
【非特許文献3】野村元宏、“LEDの安全対策”、0 plus E、Vol.23 No.7、pp.838-842 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、LEDとレーザーは異なる発光メカニズム及びコヒーレンズ性を持つので、レーザー安全規格における両者の区別、特に網膜に対するインパクトにも差がある(図5参照)。
【0004】
さらに、JISとIECに定めた安全基準は、単一光源から得られた最も厳しい条件であるため、このようなコヒーレントな単一レーザー光源に準じる安全規格をそのまま利用すれば、インコヒーレントな光源、特にアレイ光源に対して、安全面の信頼性が高いことの一方、危険を過大評価することによって、光放射パワーを充分に利用することができないといった懸念が生じる。
【0005】
特に、光のエネルギーに強く依存している空間光通信を行う場合、いかにして人間の眼の安全性を守りながら最大限の光エネルギーを出力するかということは非常に重要である。
【0006】
また、従来のLEDの安全対策に関する研究では、利用可能な測定装置及びアレイ光源に関する直接的な検討は行われていない(非特許文献3参照)。
【0007】
そこで、以上のとおりの事情に鑑み、本発明は、人間の網膜における集光性の差別、即ち、単一光源、アレイ光源、波長分布に依存している視角の大きさに基づき、光源放射の安全等級を細分化することができ、危険過大評価を避けることにより、人体への安全性を守りながら光エネルギーの有効的利用の実現を図ることのできる、光強度測定装置および光強度測定方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明の光強度測定装置は、測定系の光学素子が、人間の眼の構造である角膜、瞳孔、水晶体、網膜に対応させて、且つ網膜障害の最悪露光状態を模擬するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、この測定装置は、光源からの光が入射する、角膜に対応するコリメートレンズと、コリメートレンズの後ろ側に位置する、瞳孔に対応する虹彩絞りにと、虹彩絞りの後ろ側に位置する、水晶体に対応するフォーカスレンズと、フォーカスレンズの後ろ側に位置する、網膜に対応する光学センサとを有しており、コリメートレンズの焦点距離が最小調節近点100mmであり、虹彩絞りの限界開口が直径7mmである、ことを特徴とする。
【0010】
さらにまた、この測定装置は、光源波長分布に依存している視角の大きさに基づいて光源測定位置が調節されていることや、アレイ光源に対して、安全等級に基づいて測定系の開口範囲内の発光素子を適切な組に分けて、平均放射パワーを検出することを特徴とする。
【0011】
そして、本発明の光強度測定方法は、上記の光強度測定装置を用いて光強度を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記の通りの特徴を有する本発明によれば、網膜における集光性の差別、即ち、単一光源、アレイ光源、波長分布に依存している視角の大きさにより、光源放射の安全等級を細分することができ、危険過大評価を避けることにより、人体への安全性を守りながら光エネルギーの有効的利用を実現することができる。
【0013】
また、本発明による模擬眼の光学モジュールは、非専業者にとっても、直接的に利用することが可能になる。
【0014】
このような本発明は、たとえば、LEDのようなインコヒーレンス光を情報媒体として利用する室内光無線通信や、LEDのようなインコヒーレンス光を利用する場合に安全性を確保しながらより高い放射パワーが必要である分野に、特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図4は本発明について説明するための図である。
【0016】
図1では、測定系にある各光学素子が、人間の眼の構造である角膜、瞳孔、水晶体、網膜(たとえば図3参照)に対応させて、且つ網膜障害の最悪露光状態を模擬するように構成されている。
【0017】
より具体的には、LEDなどのインコヒーレンス光源SOから放射された光が入射するコリメートレンズLcが角膜に対応し、コリメートレンズLcの後ろ側に位置した虹彩絞りAPが瞳孔に対応し、虹彩絞りAPの後ろ側に位置するフォーカスレンズ(又は結像レンズとも呼べる)LΦが水晶体に対応し、フォーカスレンズLΦの後ろ側に位置する光学センサSENが網膜に対応しており、これにより人間の眼の構造に相当する測定系が構築されている。
【0018】
さらに、コリメートレンズLcの焦点距離fcは最小調節近点r=100mmに調節され、虹彩絞りAPの限界開口Daは直径7mmとなっている。このr=100mmおよび直径7mmは、人間の網膜が光(この場合平行光)を受けるときの一番危ない状況つまり最悪露光状態であると考えられており(JIS C 6802及び非特許文献2参照)、それぞれ網膜障害の最悪露光距離および最悪露光径ということになる。
【0019】
まとめると、コリメートレンズLCは、焦点距離fc100mmを持ち、フォーカスレンズLΦは、開口Daの各点に入射する受入れ角Φ制限で、且つ焦点距離fΦを持ち、虹彩絞りAPは、限界開口Da直径7mmを持つ。
【0020】
光学センサSENの前側には、フォーカスレンズLΦの焦点位置にある結像絞りAPが設けられている。この絞りAPは、開口Db=fΦΦ、つまりΦ角以外の光をカットする開口Dbを持つ。
【0021】
そして、網膜に相当する光学センサSENがこの絞りAPを通過した光を検出し、それに接続されているパワーメータPMによって光強度が測定される。
【0022】
したがって、上述したとおりの測定系は人間の眼の構造に対応し且つ網膜障害の最悪露光状態を模擬したものであり、この測定系を用いることで、インコヒーレンス光源の光強度を人間の眼に対する安全性の観点からより適切に測定することができる。
【0023】
なお、インコヒーレンス光源SOの発散角度は波長分布に依存しているので、視角αも波長分布に依存することになる。よって、視角αの大きさに基づいて光源測定位置が調節されていることが好ましい。
【0024】
たとえば図1に例示したように、ある視角α1を持つ光源SOの場合では図示した光源測定位置1、α1よりも狭い視角α2を持つ光源SOの場合では図示した光源測定位置1よりも後ろ側つまりよりコリメータレンズLcに近い光源測定位置2となる。
【0025】
一例として、JISの安全閾値がPoである場合、視角α1の光源SOからの光は、図示したようにコリメートレンズLCの全前面に到達するが、平行光となって虹彩絞りAPを通り抜けるのはそのうちの何パーセントかである。したがって、その光源SOの全パワーが閾値Poを超えているとしても、本測定装置によれば閾値Po以下の値が測定されることになる。一方で、視角α2の光源SOからの光は、図示したようにコリメートレンズLCにより平行光とされてその全てが虹彩絞りAPを通り抜けることになる。したがって、その光源SOの全パワーが視角α1の光源よりも低いとしても、結果として閾値Po以上の光強度が測定されることになる。
【0026】
すなわち、従来のように単に光源MAXパワーとJIS閾値との比較によれば両光源が不適格になるところ、本測定装置によれば、α2の光源よりもMAXパワーで勝るα1の光源の方が実は人間の網膜にとってはより安全であることを的確に判別することができる。
【0027】
ところで、情報伝送等で用いられる光源SOとしては、アレイ光源、たとえば複数のLEDを備えたLEDアレイなど、も想定される。
【0028】
このようなアレイ光源SOの場合では、たとえば図2に例示したように、安全等級に基づいて測定系の開口範囲内の発光素子を適切な組に分けて、平均放射パワーを検出することが好ましい。
【0029】
より具体的には、図2において、測定系の構成は図1と同じであるが、これに加えて、安全等級の要求に従い、測定系の開口範囲内の発光素子を適切な組に分けて、パワーを平均化させている。
【0030】
この場合、たとえば、
ケース1:最厳格安全等級にすれば、測定系開口範囲にある全ての発光素子(例16個)が1組となる。この場合、安全評価用のパワー値は、パワーメータPMから出力されたものである。
【0031】
ケース2:中間安全等級にすれば、測定系開口範囲にあるn個発光素子(例n=4)が1組となる。例のような4素子は、全開口範囲内16個素子で構成されるアレイの1/4であるので、安全評価用のパワー値は、ケース1の1/4になる。
【0032】
ケース3:最緩和等級にすれば、測定系開口範囲の中のただ1個発光素子が1組となる。この場合、安全評価用のパワー値は、ケース1の1/16になる。
【0033】
さらに詳細には、光源測定位置は、アレイ光源SOの二次元面を考えたときにX軸に拡がる視角αxおよびY軸に拡がる視角αyを用いて算出される視角α=(αx+αy)/2、に基づいて調節されている。
【0034】
このように調節された測定装置によれば、たとえば、単一光源として検討した上述のα1の光源およびα2の光源は、アレイ光源として用いると全体のα=(αx+αy)/2により強度が緩和されて、いずれも閾値を超えないことになる場合もある。すなわちたとえば、α1の光源は単一光源/アレイ光源のいずれにも使うことができ、α2の光源はアレイ光源であれば使うことができる、という判断も本発明によれば可能になる。
【0035】
図4は、以上のとおりの原理に従い実際に構築した測定光学モジュールの一例を示しており、LEDアレイ光源1からの光をコリメートレンズ2で受けて平行光にし、採光絞り3を通った光をフォーカスレンズ4で光学センサ5に結像するもので、やはりコリメートレンズ2の焦点距離fcは最小調節近点r=100mm、虹彩絞り3の限界開口Daは直径7mmとしている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態について説明するための図。
【図2】本発明の別の一実施形態について説明するための図。
【図3】眼の断面構造を示した模式図。
【図4】模擬眼の光学モジュールの一例を示した図。
【図5】レーザー安全基準における発光ダイオードLEDとレーザーダイオードLDの区別について説明するための図。
【符号の説明】
【0037】
1 LEDアレイ光源
2 コリメートレンズ
3 虹彩絞り
4 フォーカスレンズ
5 光学センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定系の光学素子が、人間の眼の構造である角膜、瞳孔、水晶体、網膜に対応させて、
且つ網膜障害の最悪露光状態を模擬するように構成されていることを特徴とする光強度測定装置。
【請求項2】
光源からの光が入射する、角膜に対応するコリメートレンズと、
コリメートレンズの後ろ側に位置する、瞳孔に対応する虹彩絞りにと、
虹彩絞りの後ろ側に位置する、水晶体に対応するフォーカスレンズと、
フォーカスレンズの後ろ側に位置する、網膜に対応する光学センサと
を有しており、
コリメートレンズの焦点距離が最小調節近点100mmであり、
虹彩絞りの限界開口が直径7mmである、
ことを特徴とする請求項1記載の光強度測定装置。
【請求項3】
光源波長分布に依存している視角の大きさに基づいて光源測定位置が調節されていることを特徴とする請求項1または2記載の光強度測定装置。
【請求項4】
アレイ光源に対して、安全等級に基づいて測定系の開口範囲内の発光素子を適切な組に分けて、平均放射パワーを検出することを特徴とする請求項1または2記載の光強度測定
装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の光強度測定装置を用いて光強度を測定することを特徴とする光強度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−139057(P2008−139057A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323164(P2006−323164)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】