説明

光散乱機能および反射抑制機能を有する光入射面を備えたガラス板

【課題】光散乱機能および反射抑制機能の双方の向上に適した凹凸を有するガラス面を備えたガラス板を提供する。
【解決手段】光入射面となるガラス面11を備えたガラス板1であって、このガラス面11が、径が20nm〜250nmである微小凸部31を有するとともに、0.08μm〜0.8μmの算術平均粗さRa、0.3μm〜7.0μmの最大高さRy、および0.3μm〜10.0μmの平均間隔Smにより示される凹凸20を有する、ガラス板1を提供する。このガラス板の表面凹凸20,30は、フッ酸とフッ化カリウムなどのフッ化物塩とを含むエッチング液を用いたエッチング処理により形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱機能および反射抑制機能を有する光入射面を備えたガラス板に関する。本発明は、より詳しくは、薄膜型太陽電池の光入射側に配置されるガラス板、結晶系太陽電池の光入射側に配置されるカバーガラス、反射型液晶表示装置の前面ガラス、建造物や移動体の窓、パーティションなどとしての使用に適したガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
光入射面となるガラス板の表面には、その表面への入射光を散乱させることとともに、入射光の反射を抑制することが求められる場合がある。例えば、薄膜型太陽電池の前面ガラス板には、入射光を散乱させて光電変換層における光路を長くし、入射光の反射を抑えて光電変換層に到達する光量を増加させることが望まれている。結晶系太陽電池の光入射側に配置されるカバーガラスにも、反射光が周囲の建築物の居住者に眩しさを感じさせないように光を散乱させ、入射光の反射を抑えて光電変換層に到達する光量を増加させることが望まれている。
【0003】
上記を考慮して、ガラス板の光入射面にシリカ微粒子とバインダーとからなる膜を形成することが提案されている(例えば特許文献1)。この膜により、ガラス板の光入射面には光散乱機能および反射抑制機能が付与される。シリカ微粒子とバインダーとからなる膜はゾルゲル法により成膜される。なお、特許文献1の実施例の欄において測定されているとおり、光散乱機能はヘイズ率に基づいて、反射抑制機能は入射光の反射率または透過率に基づいて、それぞれ評価することができる。
【0004】
シリカ微粒子とバインダーとからなる膜は、シリカ微粒子の粒径の適切な選択によって表面凹凸による入射光への影響を制御できる点において優れている。しかし、シリカ微粒子を用いる技術は、光散乱に適した表面凹凸と反射抑制に適した表面凹凸とをガラス板の表面の同一領域に共存させることには適していない。光散乱に適した粒径が相対的に大きい微粒子と、反射抑制に適した粒径が相対的に小さい微粒子とを同一領域に配置すると、粒径の大きい微粒子の間に粒径が小さい微粒子が埋没するためである。シリカ微粒子とバインダーとからなる膜を用いてガラス板に光散乱機能および反射抑制機能を付与し、これらの機能をともに高めることには限界がある。
【0005】
現在、光散乱機能を有する太陽電池のカバーガラスとしては、主として、型板ガラスが使用されている。型板ガラスはいわゆるロールアウト法により量産されている。型板ガラスの表面のようにガラスそれ自体によって構成された表面凹凸は、基本的に、製造コストの面では膜によって構成された表面凹凸よりも有利である。しかし、ガラス自体によって構成されていながら、光散乱機能および反射抑制機能をともに有し、これらの機能をともに高めることに適した表面凹凸を備えたガラス板は、これまでのところ知られていない。
【0006】
ところで、ガラス板の表面に凹凸を付与する手法としては、フッ酸系のエッチング液(エッチャント)を用いて表面を浸食するエッチング法が知られている。例えば、装飾用ガラスの分野においては、サンドブラスト法と組み合わせたエッチング法により、ガラス板の表面に凹凸を付与する技法が多用されている。通常のエッチャントを用いたエッチングのみによる加工では光散乱の程度を高くできないため、この技法ではエッチングが適用されるガラス面がサンドブラストによって予め粗面化される。また、磁気ディスクの分野においては、フッ酸とフッ化カリウムとを用いたエッチング法により、ディスク基板とするガラス板の表面に微小凸部を形成する技術が知られている(例えば特許文献2)。微小凸部は、磁気ディスク装置の起動時における磁気ヘッドと磁気ディスクとの摩擦を低下させるために形成される。しかし、この目的のために形成される微小凸部は、その高さが100nm程度未満であり(特許文献2特許請求の範囲では高さ5nm〜70nm)、ガラス板の表面に十分な光散乱をもたらすものではない。
【0007】
なお、特許文献3には、フッ酸とともに、リン酸二水素アンモニウム、フッ化アルミニウムおよび塩化アルミニウムを含む特殊なエッチング液を用いたエッチング処理により、ガラス板の透過率が、限定的な範囲(0.12〜0.28%)ではあるものの、向上したことが開示されている(表1および表2参照)。しかし、このエッチング処理を受けたガラス面の表面凹凸はごく小さく(平均表面粗さRaにより表示して0.6nm以下程度)、十分な光散乱をもたらすものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−278637号公報
【特許文献2】特開昭63−225919号公報
【特許文献3】特開2005−179132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の事情を鑑み、本発明は、ガラス自体によって構成されているとともに光散乱機能および反射抑制機能の双方の向上に適した表面凹凸を有するガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、光入射面となるガラス面を備えたガラス板であって、
前記ガラス面が、径が20nm〜250nmである微小凸部を有するとともに、0.08μm〜0.8μmの算術平均粗さRa、0.3μm〜7.0μmの最大高さRy、および0.3μm〜10.0μmの平均間隔Smにより示される凹凸を有する、ガラス板、を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光散乱機能および反射抑制機能の双方の向上に適した構造を備えたガラス板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のガラス板の一形態をその主表面であるガラス面の部分拡大図とともに示す斜視図である。
【図2】ガラス面の表面粗さ曲線の一例を示す図である。
【図3】本発明のガラス板の別の一形態を示す断面図である。
【図4A】実施例2により作製したガラス板のガラス面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した状態を示す図である。
【図4B】実施例2により作製したガラス板のガラス面を、SEMを用いて観察した状態を示す別の図である。
【図4C】実施例2により作製したガラス板のガラス面を、SEMを用いて観察した状態を示すまた別の図である。
【図4D】実施例2により作製したガラス板のガラス面を、SEMを用いて観察した状態を示すさらに別の図である。
【図5】実施例17により作製したガラス板のガラス面を、SEMを用いて観察した状態を示す図である。
【図6】実施例42により作製したガラス板のガラス面を、SEMを用いて観察した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
光散乱機能および反射抑制機能が、主として、可視域から近赤外域にかけての波長域、典型的には380nm〜1100nmの波長域において求められていることに鑑み、本明細書における「光」は、基本的に、上記波長域内の光を対象とする。
【0014】
図1に、本発明のガラス板の一形態およびその表面凹凸の形状を示す。ガラス板1は、その主表面として光入射面となるガラス面11を備えており、ガラス面11には凹凸20が形成されている。後述する周期が短い微細な凹凸30と区別するために、以降、周期が相対的に大きい凹凸20を「長周期凹凸」と呼ぶことがある。
【0015】
長周期凹凸20は、エッチング処理によりガラス面11を後退させることにより形成することができる表面テクスチャーであり、凸部21と、凸部21の間の空間である凹部22とから構成されている。長周期凹凸20を構成する凸部21は、ガラス板1を構成するガラスと異なる材料を付加して形成されたものではない。ガラス面11は、エッチング処理、さらには必要に応じて実施される化学強化処理の適用による変性を受け、その組成がやや変化している可能性はあるものの(ガラス面11の表層のアルカリイオンが溶出して減少したり別種のイオンに入れ替わったりすることがある)、基本的には、ガラス板を構成するガラスそのものが露出して形成されたガラス面により構成されている。長周期凹凸20は、光入射面として機能するガラス面11の全域に形成することができる。
【0016】
後述するとおり、周期が短い微細凹凸(短周期凹凸)30は光を散乱させるためには小さすぎることから、ガラス面11における光の散乱は、実質的に、長周期凹凸20によってもたらされている。他方、長周期凹凸20が疑似光学層を形成するためには大きすぎることから、ガラス面11における光の反射抑制は、実質的に、短周期凹凸30によってもたらされていると考えられる。ただし、長周期凹凸20も、その形状などによっては、光の多重散乱、ガラス面の表面積の拡大その他を通じて入射光の反射抑制に貢献している可能性がある。
【0017】
ガラス面11に入射した光は、長周期凹凸20により光路の変更を受けながらガラス板1の内部へと入射し、あるいは反射する。表面の凹凸による光の散乱の程度は、一般に、ヘイズ率に基づいて評価される。よく知られているように、ヘイズ率は、全光線透過率に対する拡散光透過率の比率である。ガラス面11における長周期凹凸20により、ガラス面11に入射する光のヘイズ率Hzを、例えば10%以上、好ましくは30%以上にまで高くすることができる。ヘイズ率Hzは、32%以上、さらには35%以上、特に40%以上、場合によっては50%以上、必要であれば60%以上とすることもできる。ヘイズ率の上限を制限するべき理由は特にないが、ヘイズ率Hzは、例えば95%以下、さらには90%以下、特に80%以下である。
【0018】
ただし、用途によってはヘイズ率Hzが高すぎないガラス板が求められることもある。本発明者の検討によると、例えば太陽電池のカバーガラスでは、ヘイズ率Hzが30%を超えるガラス板よりも、ヘイズ率が10〜30%のガラス板が、太陽電池の特性に望ましい影響を及ぼす場合がある。また、外観上の観点からヘイズ率が10〜30%程度の範囲にあるガラス板が望まれることもある。
【0019】
長周期凹凸20を構成する凸部21の平均高さHavは、0.1μm〜5.0μm、好ましくは0.2μm〜3.0μm、さらに好ましくは0.3μm〜2.5μmである。また、凸部21の平均底部長さLavは、0.2μm〜10.0μm、好ましくは0.3μm〜7.0μm、さらに好ましくは0.4μm〜5.0μmである。
【0020】
ここで、図2を参照して、凸部21の高さHおよび底部長さLの測定方法を説明する。図2は、ガラス板1の断面方向からガラス面11を観察したときに当該断面に現れるガラス面のプロファイルである。このプロファイルは、例えば、所定方向に沿ってガラス表面を走査することによって得られる表面粗さ曲線として測定することができる。図2において、中心線40は面積基準により設定される。すなわち、中心線40は、当該中心線40より上方に突出する山部41と下方に突出する谷部とが等面積となるように設定される。より詳しく述べると、中心線40は、当該中心線40の上下において曲線と当該中心線40とにより区画される領域の合計面積が等しくなるように設定される。そして、中心線40よりも上方に頂点を有するとともに中心線40よりも下方に底部を有する山部41に関し、底部の間を結ぶ線分の長さを底部長さLとし、山部41の頂点とその線分との間の距離(最短距離)を高さHとする。平均高さHavおよび平均底部長さLavは、高さHおよび底部長さLの平均値(個数平均値)により定まる。
【0021】
中心線40よりも頂部が下方にある山部42は、凸部21の裾野の下部近傍におけるプロファイルである場合が多く、当該凸部21の高さを適切に反映していない可能性が高い。このため、上記では、高さHおよび底部長さLを定めるに際し、中心線40よりも上方に頂部が存在する山部41のみを凸部として取り扱っている。
【0022】
高さHおよび底部長さLを定めるに際しては、ガラス面11の任意の部位において測定した測定長さ50μm(中心線40の長さが50μm)の表面粗さ曲線に基づくこととする。この長さの範囲に存在する山部41の個数(凸部個数N)は、3〜15個、特に5〜10個が存在することが好ましい。表面粗さ曲線は、例えば、Z軸の高さ測定用のレーザオートフォーカス顕微鏡と高精度XYZステージとを備えたステージ走査型レーザプローブ方式の非接触三次元測定装置(例えば、三鷹光器社製NHシリーズ)を用いて得ることができる。
【0023】
ガラス面11に形成される凹凸は、以下の特徴を有することが好ましい。なお、以下のパラメータは、いずれも、JIS B0601:2001に規定されており、例えば上述の非接触三次元測定装置を用い、ガラス面11を測定することにより得ることができる。
【0024】
・算術平均粗さRa:0.08μm〜0.8μm、好ましくは0.09μm〜0.5μm、より好ましくは0.1μm〜0.4μm
【0025】
・最大高さRy:0.3μm〜7.0μm、好ましくは0.5μm〜5.0μm、より好ましくは0.6μm〜3.0μm
【0026】
・平均間隔Sm:0.3μm〜10.0μm、好ましくは0.8μm〜10.0μm、より好ましくは1.0μm〜10.0μm、場合によっては3.0μm〜10.0μm、例えば4.3μm〜9.0μm、また例えば4.3μm〜8.0μm
【0027】
長周期凹凸20を構成する個々の凸部21には、後述するエッチング処理に由来すると考えられる特徴的な形状が現れることがある(図1参照)。凸部21は、個数基準で、その50%以上、さらには70%以上、場合によっては80%以上が、頂部25から場合によっては分岐しながら下方へと延びる複数の直線状の峰部24と、峰部24を上辺として下方へ広がる平面状の山腹部(斜面)23とを有する。
【0028】
長周期凹凸20を構成するガラス面には、より微細な短周期凹凸30が形成されている。図1では、領域Dのみに短周期凹凸30を描いたが、この凹凸30は、領域D以外の領域にも形成されている。短周期凹凸30は、ガラス面11に、部分的に、またはその全域に形成することが可能である。図1に示したように、ガラス面11は、長周期凹凸20と短周期凹凸30とを、異なる領域に別々に有しているのではなく、同一領域に重畳的に有することができる。
【0029】
短周期凹凸30も、長周期凹凸20と同様、エッチング処理によりガラス面11を後退させることにより形成することができる。短周期凹凸30もまた、ガラス自体によって構成された表面テクスチャーである。短周期凹凸30を形成するためのエッチング処理は、長周期凹凸20を形成するためのエッチング処理と別に実施する必要はない。すなわち、後述するように、長周期凹凸20および短周期凹凸30は、単一のエッチング処理によりガラス面11に形成することが可能である。
【0030】
短周期凹凸30の高さおよび周期が本明細書で問題とする光の波長(上述の波長域参照)よりも十分に小さいため、短周期凹凸30が形成されたガラス面11は、ガラス板1のバルク部分よりも見かけの屈折率が小さい疑似光学層として機能しうる。疑似光学層は、当該層内におけるガラスとガラスに接する物質(通常は空気)との界面の微小な揺らぎにより、揺らぎの程度よりも十分に大きい波長を有する光に対し、ガラスの屈折率(典型的には1.52)と当該物質の屈折率(空気の場合は1)との間の屈折率を有する低屈折率層として機能する。そして、この層の存在によってガラス面11に入射する光の反射が抑制されると考えられる。
【0031】
主として短周期凹凸30に由来する反射抑制機能により、ガラス面11へと入射する光の透過率を向上させることが可能となる。透過率の向上ΔTは、0.1%以上、さらには0.3%以上、特に0.5%以上、とりわけ0.7%以上、場合によっては1.0%以上、とすることができる。透過率の向上効果は、直接的には短周期凹凸30により得られるものであるが、上述したとおり、長周期凹凸20による表面積の拡大などがその増大に寄与している可能性はある。透過率の向上は、ガラス面11が平滑面であることを除いてガラス板1と同様のガラス板、具体的にはガラス面が凹凸を有しない平滑面であって厚みおよび組成が同一であるガラス板、を基準として評価することができる。ガラス板が化学強化処理を受けている場合、組成の同一は化学強化処理の影響を受けていないガラス板の内部のガラス組成に基づいて判断することとする。また、本明細書において、「平滑面」は、具体的には、フロート法、オーバーフローダウンドロー法などの製法により製造されるいわゆる火造り面を指し、エッチング処理、化学強化処理などの処理を受けていないガラス面を意味する。
【0032】
短周期凹凸30を構成する微小凸部31の径DTは、好ましくは20nm〜250nm、より好ましくは50nm〜200nmの範囲内にある。微小凸部31の高さPVは、好ましくは30nm〜150nm、より好ましくは50nm〜100nmの範囲内にある。微小凸部31の個数TNは、主表面であるガラス面1μm2当たり、好ましくは50個〜2000個、より好ましくは100〜1000個である。
【0033】
上記径DT、高さPVおよび個数TNは、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果に基づいて定めることができる。なお、微小凸部31の径DTは、当該凸部の外縁を等面積の円とみなしたときの直径により定めることとする。また、高さPVは、SEMによるガラス面の断面観察から得られたプロファイルに基づき、図2を参照して説明した方法により定めることとする。このプロファイルは、ガラス面に沿って合計0.5μmの長さにわたって測定したものを用いることとする。
【0034】
なお、短周期凹凸30を微小凸部31とともに構成する微小凹部32には、後述するエッチング処理に由来すると考えられる特徴的な形状が現れることがある。すなわち、微小凹部32は、典型的には、ガラス面に現れた孔の外縁がほぼ円形となるクレーター状の陥没孔である。
【0035】
長周期凹凸20および短周期凹凸30を区別している「周期」は、厳密には、表面粗さ曲線における山部41の頂点の間隔W(図2参照)の平均値により特定することができる。山部41としては、上述と同様、等面積線である中心線40よりも頂部が上方に位置するとともに底部が下方に位置するもののみを選択する。なお、短周期凹凸30についての表面粗さ曲線は、SEMを用いたガラス面の断面観察により得た測定長さ0.5μmの曲線を用いることとする。
【0036】
長周期凹凸20の周期は、ミクロンオーダーであり、例えば0.5μm〜8.0μmである。これに対し、短周期凹凸30の周期は、サブミクロンオーダーであり、例えば50nm〜500nm、また例えば50nm〜200nmである。両凹凸20,30の周期は、上記程度に大きく異なるため、両凹凸20,30は明瞭に区別することができる。
【0037】
光の入射面となるガラス面11の反対側のガラス面12は、通常、光の出射面となる。このガラス面12は、長周期凹凸20および短周期凹凸30のような表面凹凸を有さない平滑面であってもよいし、ガラス面11と同様、長周期凹凸20および短周期凹凸30を有する面であってもよい。なお、ガラス板のガラス面11,12は、ガラス板の面の中で最大の面積を有する一対の主表面であり、その間の距離によりガラス板の厚みが定まることになる。
【0038】
以下、長周期凹凸20および短周期凹凸30を重畳的に有するガラス面11を備えたガラス板1の製造方法の一形態を説明する。上述したように、この形態ではエッチング処理が利用される。
【0039】
まず、ガラス板を準備する。ガラス板としては、量産されている汎用組成のガラス板、典型的にはフロート法により製造されたソーダライムシリカガラスからなるガラス板を用いれば足りる。ただし、ガラス板は、これに限らず、各種製法、例えばオーバーフローダウンドロー法などにより得たガラス板を用いてもよい。ガラス板の種類も上記に限らず、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラスなど各種組成を有するガラス板を用いることもできる。ガラス板は、後述する化学反応の進行に必要な珪素を供給するために、二酸化ケイ素が網目形成成分の主成分、特に全成分の主成分であるガラス組成を有することが好ましい。本明細書において、「主成分」は、慣用に従い、50質量%以上を占める成分を意味する。
【0040】
ガラス板の厚みは、用途に応じて適切に選択すればよく、その範囲に特段の制限はない。例えば太陽電池の前面ガラス基板として用いる場合の適切な厚みは2mm〜6mm、特に3mm〜5mmである。太陽電池のカバーガラスとして用いる場合の適切な厚みは0.1mm〜6mm、特に0.1mm〜1.5mmである。
【0041】
ガラス板に適したガラス組成の例としてソーダライムシリカガラスの組成を以下に示す。以下において各成分の含有率は質量%により表示されている。SiO2:65〜80%、Al23:0〜5%、MgO:0〜10%、CaO:5〜15%、MgO+CaO:5〜15%、Na2O:10〜18%、K2O:0〜5%、Na2O+K2O:10〜20%、B23:0〜5%、その他微量成分:0〜1%。ここで、「その他微量成分」としては、Fe23に代表される着色成分、SO3に代表される清澄成分などが挙げられる。
【0042】
ガラス板とともに準備するべきエッチング液(エッチャント)は、フッ酸(フッ化水素酸)とフッ化物塩とを含むものを準備する。フッ化物塩は、フッ化カリウム、フッ化アンモニウムおよびフッ化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種が好ましい。このエッチング液は、例えば、フッ酸とフッ化物塩水溶液とを混合して調製することができる。
【0043】
エッチング工程においては、珪フッ化物塩を析出させながらガラス板の表面の浸食が行われる。例えば、フッ酸およびフッ化カリウムを含むエッチング液をガラス板の表面と接触させると、ガラス板からエッチング液へと溶出した酸化珪素が関与する式(1)の反応が進行し、生成した珪フッ化カリウムが沈殿する。フッ酸およびフッ化アンモニウムを含むエッチング液とガラス板とを接触させると、式(2)の反応が進行し、生成した珪フッ化アンモニウムが沈殿する。同様に、フッ化ナトリウムを用いると、式(3)の反応が進行し、生成した珪フッ化ナトリウムが沈殿する。
【0044】
SiO2+4HF+2KF→K2SiF6↓+2H2O (1)
SiO2+4HF+2NH4F→(NH42SiF6↓+2H2O (2)
SiO2+4HF+2NaF→Na2SiF6↓+2H2O (3)
【0045】
珪フッ化カリウム、珪フッ化アンモニウムなどである珪フッ化物塩がガラス表面に析出した状態でエッチングを進行させると、ガラス板の表面に微細な凹凸が現れる。この微細な表面凹凸は珪フッ化物塩が付着した領域においても形成される。この事実から見ると、微細な表面凹凸は、多孔体としてガラス板の表面に付着した珪フッ化物塩がエッチングによる浸食を不均一に進行させることによって形成されたと考えられる。
【0046】
従来、フッ酸とフッ化カリウムなどのフッ化物塩とを含むエッチング液の使用によりガラス板上に形成される微小な凸部は、主として、磁気ディスク用基板の製造に利用されてきた。この用途では、5nm〜70nm程度の高さを有する微小な凸部が、磁気ヘッドが基板に付着することを防止するための突起として利用される。磁気ディスク用基板としてのガラス板に要求されるのは基本的には平滑な表面であるため、磁気ディスクの技術分野では、上記エッチング液を用いたエッチング処理は、上記程度の微小凸部を超える凸部が形成されないような条件において実施するのが適切とされてきた。
【0047】
珪フッ化カリウムなどの珪フッ化物塩がガラス板の表面に析出した状態でエッチングをさらに進行させると、珪フッ化物塩の析出量の局所的な相違に応じてエッチングによる浸食が不均一に進行し、上述の微細な表面凹凸よりも大きな凹凸が現れる。こうして、相対的に大きく周期が長い表面凹凸(長周期凹凸20)が、相対的に小さく周期が短い表面凹凸(短周期凹凸30)とともに形成される。析出した珪フッ化物塩が付着したガラス面においてエッチングによる浸食が十分かつ適切に進行する条件を適用することが、両表面凹凸20,30をともに有するガラス面を備えたガラス板を得る上では重要である。エッチングによる浸食は、エッチング液の温度、エッチング処理の時間、エッチング液におけるフッ酸およびフッ化物塩の濃度、ガラス板の組成などを、相互の影響を考慮しながら総合的に調整することにより、十分かつ適切に進行させることができる。
【0048】
エッチング処理の際のエッチング液の温度は、常温(20〜25℃)よりもやや高い温度、例えば28℃以上、さらには30〜35℃が好ましい。エッチング処理の時間は、適用する温度にもよるが、例えば10秒以上、さらには30〜600秒が適切である。エッチング液におけるフッ酸の濃度は1〜10質量%が好ましい。また、フッ化カリウムなどのフッ化物塩の濃度は、1〜25質量%、場合によっては10〜20質量%が好ましい。ただし、フッ酸およびフッ化物塩の濃度は、適用する温度および時間に応じて適宜調整するべきである。
【0049】
エッチング処理により、ガラス面には珪フッ化カリウムなどの珪フッ化物塩が付着し、場合によってはガラス面の全面を珪フッ化物塩が被覆する。この珪フッ化物塩は、エッチング処理を実施するエッチング工程に引き続いて実施される洗浄工程(付着物除去工程)において洗い流される。洗浄工程において用いる洗浄液としては、各種の酸、例えば塩酸、硝酸、硫酸を用いることができる。洗浄工程を経て露出したガラス面には表面凹凸20,30が形成されている。酸を用いた洗浄の後、ガラス面は、付着した酸を洗い流すために適宜水洗するとよい。必要に応じてさらに実施されるガラス板の乾燥工程を経て、表面凹凸20,30がガラス面11に形成されたガラス板1が得られる。なお、水を洗浄液とすると、物理的な力を印加しながら長時間洗浄しなければ付着物を完全に除去することはできないため、洗浄液としては上記に例示した酸が適している。
【0050】
なお、エッチング処理は、ガラス板1の両ガラス面11,12に適用してもよく、一方のガラス面11のみに適用してもよい。後者の場合、ガラス面11には表面凹凸20,30が付与され、ガラス面12は平滑面として保持されることになる。
【0051】
以降、必要に応じ、ガラス板には、成膜工程、化学強化工程などが施される。成膜工程においては、例えば、表面凹凸20,30が形成されたガラス面11と反対側のガラス面面12上に、透明導電膜、オーバーコート膜、保護膜などが形成される。下地膜を形成してからこれらの膜を形成することとしても構わない。図3に示すように、一方のガラス面11が長周期凹凸20および短周期凹凸30を有するガラス面により構成され、他方のガラス面12上に、必要に応じて形成される下地膜52を介し、透明導電膜51が形成されたガラス板2は、薄膜型太陽電池の前面ガラス板としての使用に特に適している。すなわち、本発明は、その好ましい形態において、ガラス面11において短周期凹凸30を有するガラス面が長周期凹凸20を形成しているとともに、ガラス面12に透明導電膜51が形成されている薄膜型太陽電池の前面ガラス板を提供する。
【0052】
下地膜52は、ガラス板2の光学的特性の調整、さらにはガラス板2からのアルカリ成分の拡散防止のために、必要に応じて形成される。下地膜52は、単一の層から構成されていてもよいが、2以上の層から構成されていてもよく、好ましくは第1下地層および第2下地層から構成される。ガラス板2に接して形成される第1下地層は、酸化錫、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛または酸炭化珪素を主成分とすることが好ましく、特に酸化錫を主成分とすることが好ましい。第2下地層は、酸化珪素または酸化アルミニウムを主成分とすることが好ましく、特に酸化珪素を主成分とすることが好ましい。第1下地層の好ましい膜厚は、10nm〜100nm、特に20nm〜70nmである。第2下地層の好ましい膜厚は、5nm〜80nm、特に10nm〜40nmである。
【0053】
透明導電膜51は、例えば、フッ素をドープした酸化錫(FTO)、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどをドープした酸化亜鉛からなる膜とするとよい。透明導電膜51の好ましい膜厚は、その膜を構成する材料などにもよるが、例えば400nm〜900nm、好ましくは500nm〜800nmである。透明導電膜51の導電性は、シート抵抗値により表示して、例えば30Ω/□以下、特に5〜20Ω/□以下が好適である。これらの膜は、CVD(化学蒸着)法、スパッタリング法に代表される公知の薄膜形成法により成膜することができる。
【0054】
化学強化工程は、特に用いるガラス板が薄い場合には、必要な強度を確保するために実施することが好ましい。化学強化処理は、一般に、アルカリ金属イオンの交換、例えばガラス板の表面近傍に含まれるリチウムイオン(Li+)をナトリウムイオン(Na+)に置換することにより、あるいはガラス板の表面近傍に含まれるナトリウムイオンをカリウムイオン(K+)に置換することにより行われ、典型的には、ガラス板に含まれるナトリウムイオンと処理液に含まれるカリウムイオンとのイオン交換により実施される。このイオン交換を実施するための処理液としては、硝酸カリウムに代表されるカリウム塩の熔融塩を例示できる。すなわち、化学強化処理は、好ましくはカリウムイオンを含む熔融塩にガラス板を浸漬してカリウムイオンとガラス板に含まれるナトリウムイオンとのイオン交換により実施することができる。化学強化処理の条件、例えば熔融塩の温度およびガラス板の浸漬時間は、公知の条件から適宜選択すればよいが、例えば熔融塩の温度は380〜480℃、特に380〜460℃、ガラス板の浸漬時間は30分〜1440分である。化学強化処理は、薄いガラス板が用いられる太陽電池用カバーガラスに実用的な強度を付与するための処理として適している。
【0055】
こうして、上述したエッチング処理によって実現された特徴的な表面凹凸20,30を有するとともに、化学強化処理におけるイオン交換により圧縮応力が導入されたガラス面を有するガラス板が得られる。短周期凹凸30の形状は、化学強化処理により、そのピッチが広がる傾向がある。透過率の上昇幅は、化学強化処理により、やや低下することがあるため、エッチング処理はこの低下を見込んで実施することが好ましい。ヘイズ率は、化学強化処理により、やや上昇する場合が多い。
【0056】
なお、成膜工程を予め実施してからエッチング工程を実施してもよい。この場合は、一方のガラス面11のみに対し、エッチング処理による表面凹凸20,30の形成が行われる。また、化学強化工程を予め実施してからエッチング工程を実施してもよい。ただし、化学強化工程を先に実施すると、化学強化により形成された圧縮応力層が除去されることがあるため、エッチング工程を先に実施することが好ましい。
【0057】
太陽電池の軽量化のために、カバーガラスの薄板化の要請が高まっている。薄いガラス板は、もともと強度が低く、風冷強化もできないため、カバーガラスとしての実用的な強度を付与するためには化学強化するより他はない。しかし、ガラス板の表面に形成したシリカ微粒子とバインダーとからなる膜により表面凹凸を付与すると、この膜が障害となるためにガラス板の表面におけるイオン交換を実施できない。予め化学強化処理を施したガラス板の表面に膜を形成することも考えられる。しかし、ゾルゲル法を用い、バインダーによりシリカ微粒子を固定するためには、高温で加熱することが必要となる。例えば、特許文献1の実施例で適用されている加熱温度(焼成温度)は610℃である。この程度の高温にまで加熱すると、ガラス板の表面のイオンは拡散により移動し、化学強化処理によって向上した強度が大幅に低下する。化学強化処理とゾルゲル法による成膜との双方を適用することが難しいため、表面に適切な凹凸を有する板厚が薄いカバーガラスは、その量産技術が確立されていなかった。
【0058】
上述したエッチング処理を適用すれば、光散乱機能および反射抑制機能を有するガラス面を備え、かつ実用上必要な強度を有するガラス板を量産できる。両機能をガラス面により実現したガラス板には、化学強化に支障をきたす膜を形成する必要がないためである。上記エッチング処理に引き続き、化学強化されたガラス板は、太陽電池のカバーガラスとして特に適した特性を備えている。本発明の好ましい実施形態によれば、10%以上、好ましくは30%以上のヘイズ率と、ガラス面が平滑面である点では異なるが厚さおよび組成においては同一であるガラス板と比較したときに、透過率が0.1%以上、好ましくは0.3%以上相対的に高い透過率と、を兼ね備え、厚みが、例えば0.1mm〜1.5mm、好ましくは0.3mm〜1.1mmであり、化学強化処理を受けたガラス板、特に太陽電池のカバーガラスに適したガラス板を提供できる。ヘイズ率および透過率は、ここでも380nm〜1100nmの波長域における測定値を採用する。
【0059】
エッチング処理は、透過率およびヘイズ率の上昇の程度が最終的に得られるガラス板において所望の範囲となるように、具体的にはエッチング処理に伴って析出した付着物を除去した後において透過率およびヘイズ率の上昇の程度が上記範囲となるようにエッチング時間などのエッチング条件を適宜調整して実施することが好ましい。この場合において、透過率の上昇幅の算出基準とするガラス板は、エッチング処理の対象とするガラス板とすることができる。
【0060】
以上の製造方法についての記述から明らかなように、本発明は、その別の側面から、
酸化ケイ素を含むガラス板、好ましくは厚みが0.1mm〜6mm、より好ましくは厚みが0.1mm〜1.5mmであるガラス板、の表面に、フッ酸とフッ化物塩とを含むエッチング液を接触させることにより、珪フッ化物塩を前記表面に析出させながら、前記表面を浸食して前記表面に凹凸を付与するエッチング工程と、
前記ガラス板の表面に付着した前記珪フッ化物塩を除去する付着物除去工程(例えば酸を用いた前記表面の洗浄工程)と、を具備し、
前記エッチング工程において、前記付着物除去工程後に得られるガラス板における前記表面に入射する波長域380nm〜1100nmの入射光についてのヘイズ率が10%以上、好ましくは30%以上に達するとともに、前記入射光についての透過率が、前記エッチング工程および前記付着物除去工程を実施する前の前記表面に入射する前記波長域の入射光についての透過率よりも0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上、高くなるまで、前記表面に前記凹凸を発達させる、
ガラス板の製造方法、特に太陽電池のカバーガラスに適したガラス板の製造方法、を提供する。
【0061】
上述の製造方法は、前記エッチング工程および前記付着物除去工程に加えて、前記付着物除去工程の後に実施される、前記ガラス板を化学強化処理する強化工程をさらに具備していてもよい。
【0062】
以上のように、本発明の好ましい実施形態によれば、光入射面となるガラス面において、入射光の反射率を低下させる微細凹凸を有するガラス面が、この微細凹凸よりも周期が長い凹凸であって、入射光の散乱に寄与する大きさを有する凸部により構成された凹凸を形成している、ガラス板を提供できる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。特性の評価方法は以下のとおりとした。
【0064】
[ヘイズ率Hz、透過率T]
測定波長域を380〜1100nmとして、島津製作所社製分光光度計「UV3100」を用いて測定した。
【0065】
[算術平均粗さRa、最大高さRy、平均間隔Sm]
三鷹光器社製非接触三次元測定装置「NH−3N」を用いて測定及び解析を行い特定した。
【0066】
[(長周期凹凸の)凸部の平均高さHav、平均底部長さLav、凸部個数N]
上記で得た表面粗さ曲線に基づいて、上述の算出方法に従って特定した。表面粗さ曲線は、ガラス面を長さ50μmにわたって走査して得たものである。
【0067】
[(短周期凹凸の)凸部の径DT、凸部高さPV、凸部個数TN]
SEMを用いた観察結果から、上述の算出方法に従って特定した。ここで、径DTおよび個数TNは、ガラス面上の1.2μm×0.9μmの領域を倍率10万倍で観察した結果に基づいて定めた。高さPVは、ガラス面近傍を倍率10万倍で断面観察して得たプロファイルから定めた。このプロファイルは、測定長さを0.5μmとして得たものである。
【0068】
(実施例1)
エッチングするガラス板としてフロート法により製造した厚み1.1mmのソーダライムシリカガラス板を、エッチング液として5質量%のフッ酸(フッ化水素酸)および20質量%のフッ化カリウムを含む水溶液をそれぞれ準備した。エッチング液を30℃に保持し、このエッチング液にガラス板を30秒間浸漬して、エッチング処理を実施した。エッチング処理の間、ガラス板は静置し、エッチング液の撹拌も実施しなかった。次いで、エッチング液から取り出したガラス板を5質量%の硫酸に浸漬し、付着した珪フッ化カリウムを除去する洗浄処理をした。洗浄処理の間、ガラス板は硫酸中で揺動させた。さらに、硫酸から取り出したガラス板を水洗し、両ガラス面に表面凹凸が形成されたガラス板を得た。
【0069】
(実施例2)
エッチング処理の時間を2分間とした以外は実施例1と同様にして、表面凹凸が形成されたガラス板を得た。
【0070】
(実施例3)
エッチング液におけるフッ酸の濃度を1.2質量%、フッ化カリウムの濃度を11.6質量%とした以外は実施例2と同様にして、表面凹凸が形成されたガラス板を得た。
【0071】
(比較例1)
エッチング液におけるフッ化カリウムの濃度を40質量%とした以外は実施例2と同様にして、表面凹凸が形成されたガラス板を得た。
【0072】
(実施例4〜21、比較例2〜3)
エッチング処理の時間、ならびにエッチング液におけるフッ酸およびフッ化カリウムの濃度を表1に示した値とした以外は実施例1と同様にして、表面凹凸が形成されたガラス板を得た。
【0073】
(実施例41〜43、比較例4)
実施例1〜3および比較例1により得たガラス板に化学強化処理を適用した。この処理は、ガラス板を460℃に保持した硝酸カリウム熔融塩に30分間浸漬することにより実施した。硝酸カリウム熔融塩から取り出したガラス板を水洗し、表面凹凸が形成され、かつ化学強化されたガラス板を得た。
【0074】
(参照例1)
エッチング処理を実施する前の厚み1.1mmのソーダライムシリカガラス板をそのまま測定対象とした。参照例1についての透過率Tは89.1%であった。
【0075】
(参照例2)
エッチング処理を実施せず上述の条件により化学強化処理を適用した厚み1.1mmのソーダライムシリカガラス板を測定対象とした。参照例2についての透過率Tは88.9%であった。
【0076】
各実施例および各比較例により得たガラス板についての測定結果を表1〜表3に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
各実施例および比較例で適用したエッチング条件であればガラス板の厚みの減少はごく限定された範囲(2μm以下程度)に止まる。各実施例および比較例における透過率の変化が厚みの減少によるものでないことは明らかである。1.1mm程度の厚みのガラス板の光吸収は極めて少なくほぼ0に等しいため、厚みの減少による透過率の変化も無視できる程度の値になるためである。
【0081】
実施例2により得たガラス板のSEMによる観察結果を図4A〜図4Dとして示す。実施例17により得たガラス板のSEMによる観察結果を図5として示す。ガラス板の表面には、上述した特徴を有する多数の凸部21が形成され、各凸部21の表面に微細凸部31が形成されていた。なお、実施例2において上述の方法に従って定めた長周期凹凸の周期は3.2μm、短周期凹凸の周期は70nmであった。また、SEMを用いた観察により、表3に記載した以外の各実施例により得たガラス板の表面にも、表3に記載した実施例と同程度の寸法を有する凸部21および微小凸部31が形成されていることが確認できた。
【0082】
実施例42により得たガラス板のSEMによる観察結果を図6として示す。ガラス板の表面の凹凸は化学強化処理により影響を受けてやや変形する。しかし、化学強化処理後においても、ガラス面のRa、RyおよびSmの値は、上述した好ましい範囲内に存在していた。化学強化処理を施すと、化学強化処理前と比較して、ヘイズ率Hzが約1%上昇し、透過率Tが0.3%〜0.5%程度減少することが確認された。しかし、エッチング処理の条件を適切に設定すれば、透過率Tの低下を補う程度に透過率Tを向上させることは可能である。
【0083】
フッ化カリウムの濃度が高すぎると、ガラス面の浸食が十分に進行せず、ヘイズ率Hzが大きくならない(各比較例)。なお、フッ化カリウムに代えてフッ化アンモニウムを用いた以外は実施例1と同様のエッチング処理を実施したところ、さらにはフッ化カリウムに代えてフッ化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様のエッチング処理を実施したところ、ともに、実施例1と同様、長周期表面凹凸および短周期表面凹凸が形成されることが確認できた。
【0084】
(実施例51)
試作した太陽電池のカバーガラスを参照例1のガラス板に置き換えた太陽電池Rと、上記太陽電池のカバーガラスを実施例11により得たガラス板(ヘイズ率15.0%、透過率上昇幅0.3%)に置き換えた太陽電池A1とについて、短絡電流Iscを測定した。太陽電池A1のIscは太陽電池RのIscよりも0.51%大きくなることが確認された。
【0085】
(実施例52)
上記太陽電池のカバーガラスを実施例17により得たガラス板(ヘイズ率40.2%、透過率上昇幅0.3%)に置き換えた太陽電池A2について短絡電流Iscを測定した。太陽電池A2のIscは太陽電池RのIscよりも0.12%大きくなることが確認された。
【0086】
(実施例53)
エッチング処理の時間を20秒、エッチング液におけるフッ酸およびフッ化カリウムの濃度をそれぞれ3%および24%としたことを除いては実施例1と同様にして、表面凹凸が形成されたガラス板を得た。このガラス板のヘイズ率Hzは20.0%、透過率Tの上昇幅ΔTは0.1%であった。上記太陽電池のカバーガラスを実施例17により得たガラス板に置き換えた太陽電池A3について短絡電流Iscを測定した。太陽電池A3のIscは太陽電池RのIscよりも0.89%大きくなることが確認された。
【0087】
なお、上記実施例は試作品であるが、市販の太陽電池であっても、本発明によるガラス板をカバーガラスとして用いることによって特性が改善されることは明らかである。
【符号の説明】
【0088】
1,2 ガラス板
11,12 ガラス面(主表面)
20 長周期凹凸
21 凸部
22 凹部
23 山腹部
24 峰部
25 頂部
30 短周期凹凸
31 微小凸部
32 微小凹部
40 中心線
41,42 山部
51 透明導電膜
52 下地膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射面となるガラス面を備えたガラス板であって、
前記ガラス面が、径が20nm〜250nmである微小凸部を有するとともに、0.08μm〜0.8μmの算術平均粗さRa、0.3μm〜7.0μmの最大高さRy、および0.3μm〜10.0μmの平均間隔Smにより示される凹凸を有する、ガラス板。
【請求項2】
前記ガラス面に入射する波長域380nm〜1100nmの入射光のヘイズ率が10%以上である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記ヘイズ率が30%以上である、請求項2に記載のガラス板。
【請求項4】
ガラス面が凹凸を有しない平滑面であって厚みおよび組成が同一であるガラス板と比較して、波長域380nm〜1100nmの入射光の透過率が0.1%以上高い、請求項2または3に記載のガラス板。
【請求項5】
前記透過率が0.3%以上高い、請求項4に記載のガラス板。
【請求項6】
前記微小凸部および前記凹凸がエッチングにより形成されたものである、請求項1〜5のいずれかに記載のガラス板。
【請求項7】
前記微小凸部の高さが30nm〜150nmである、請求項1〜6のいずれかに記載のガラス板。
【請求項8】
厚みが0.1mm〜6mmである、請求項1〜7のいずれかに記載のガラス板。
【請求項9】
厚みが0.1mm〜1.5mmである、請求項8に記載のガラス板。
【請求項10】
化学強化処理が施された、請求項1〜9のいずれかに記載のガラス板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のガラス板を備えた太陽電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40091(P2013−40091A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−156285(P2012−156285)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】