説明

光検知器およびその製造方法

【課題】暗電流を抑制させるとともに素子温度の変化に対してシステムの動作を安定させることができる。
【解決手段】障壁層12a上に形成された量子ドット11と、量子ドット11の上面を覆うように形成された障壁層12bとを有する量子ドット層13と、動作時に、量子ドット層13に対して垂直方向に流れる電流の量子ドット層13下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層16と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層15と、第2の導電型と同型であって、低濃度不純物層15よりも高濃度の不純物がドープされた導電層14と、を順に有する導電構造17と、で構成されて、導電層14と障壁層12bとの電位障壁の高さが温度に依存するようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光検知器およびその製造方法に関し、特に、量子ドットを利用した光検知器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光吸収構造に量子ドットを用いた赤外線などを検知する光検知器は、量子ドットをその光感知部として利用している。以下に、その原理について図を用いて説明する。
図6は、量子ドットおよびそれを用いた光検出原理の模式図である。図6(A)では、量子ドット100を、図6(B)では、量子ドット100が光101を検知する原理を模式的に示している。
【0003】
光を検知するために、図6(A)に示すように、量子ドット100に光101を入射させる。
この時、量子ドット100のエネルギーポテンシャルは、図6(B)に示すように、例えば、量子井戸100bの量子閉じ込め準位100cに存在する電子100aが、光101からエネルギーを受けて、励起し、ポテンシャル100dを飛び越えて、流れ出し、電流が発生する。この励起した電子100aによる電流を計ることによって、光を検知することができる。
【0004】
なお、上記説明では、キャリアとして電子を用いたが、キャリアが正孔であっても同様の原理によって同様の効果が得られる。したがって、以下、キャリアとして電子を例に挙げて説明を行う。
【0005】
このような、入射光による電子の励起を利用した光検知器の感知部分に、上記のような量子ドットの他、量子井戸、量子細線などを利用したものでも同様の効果を得ることができる。しかし、特に、感知部分に量子ドットを利用すると、素子面に垂直に入射する光に対しても感度が高く、光励起された電子などのキャリアが再び量子ドットに捕獲される確率が少ないために光電流利得が高いなどの利点を有することから、大きな光電流が得られ、高感度の光検知器として期待されている。
【0006】
ところが、量子ドットの電子は、検出した光によって励起されるだけでなく、量子ドットを備えた素子の動作温度によっても励起される。すなわち、励起した電子による電流が得られたとしても、光だけでなく温度に起因した励起であれば、正確に光の検知ができない。したがって、量子ドットを利用した光検知器は、雑音源となる温度による励起電子に起因した電流(暗電流)をできる限り抑える必要がある。
【0007】
次に、その暗電流を低減させるために一般的に行われている光検知器の原理について、図を用いて説明する。
図7は、暗電流を低減させる一般的な量子ドットを利用した光検知器の模式図であって、図8は、暗電流を低減させる一般的な量子ドットを利用した光検知器の原理図および暗電流の温度依存性を示すグラフである。
【0008】
光検知器200は、図7に示すように、量子ドット202は障壁層203a,203bで覆われ、電子を供給するための導電層201とともに構成されている。
この光検知器200の電位分布について模式的に示したものが図8(A)である。左から、導電層の電位201a、障壁層の電位203ba、量子ドットの電位202aおよび障壁層の電位203aaを示している。さらに、導電層の電位201aおよび量子ドットの量子閉じ込め準位205aには電子204b,204aがそれぞれ存在しており、電子204aは、光励起されるとポテンシャルを飛び越えて流れた電流が測定されて光の検出が行われ、電子204bは、温度によって励起されて暗電流の原因となる。
【0009】
光検知器200では、量子ドット202を障壁層203a,203bで覆っているために、導電層201と障壁層203bとの間に電位障壁が生じる。この時の電位障壁をEaとすると、一般的に暗電流Idは次の式(1)で表すことができる。なお、kをボルツマン定数、Tを動作温度とする。
【0010】
d∝exp(−Ea/kT)・・・式(1)
さらに、暗電流Idと温度T[K]との関係を示したものが図8(B)である。ただし、図8(B)では、x軸を1/Tとし、y軸をLog[Id]として示している。
【0011】
そして、図8(B)にて、素子の動作温度が高温になるほど、つまり、x軸で0に近づくほど、暗電流Idが増加することが分かる。すなわち、温度の増加によって多くのエネルギーを得た電子204bが励起されて暗電流Idの増加に寄与していることが示唆される。一方、低温になるほど、つまり、x軸で増加方向に進むと、暗電流Idが減少することが分かる。
【0012】
また、この傾きの大きさは、式(1)から|Ea/k|として導かれ、電位障壁Eaに依存している。図8(B)のグラフでは、電位障壁Eaによる傾きα1,α2(ただし、|α1|<|α2|とする。)の場合について示しており、電位障壁Eaが大きい方、つまり、傾きα2の場合の方が、素子温度の変化に対する暗電流Idの変化量も大きいことから、電位障壁Eaを大きくすると、素子温度の低下量が小さくても、暗電流Idを大きく減少させることが可能となる。
【0013】
したがって以上のように、量子ドットを障壁層で覆うことによって、導電層と障壁層との間に電位障壁が導入されて、暗電流を抑制させることが可能となった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上記の方法では、全体的に暗電流が抑制することはできるが、光検知器を用いたシステムの動作の不安定性が増大してしまうという問題点があった。すなわち、暗電流抑制の機構が電位障壁によるものであるため、電位障壁の増大は、素子温度の変化に対する暗電流の活性化エネルギーが増大し、そして、このことは素子温度の変化に対する暗電流の変動の程度が大きくなることを意味している。したがって、暗電流の素子温度変動が大きいと、光検知器の動作点が、動作に最良な動作点からずれてしまい、動作の安定性が低下してしまう。
【0015】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、暗電流を抑制させるとともに素子温度の変化に対してシステムの動作を安定させることができる光検知器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では上記課題を解決するために、量子ドット11を利用した光検知器10において、図1に示すように、障壁層12aと、障壁層12a上に形成された量子ドット11と、量子ドット11の上面を覆うように形成された障壁層12bとを有する量子ドット層13と、動作時に、量子ドット層13に対して垂直方向に流れる電流の量子ドット層13下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層16と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層15と、第2の導電型と同型であって、低濃度不純物層15よりも高濃度の不純物がドープされた導電層14と、を順に有する導電構造17と、を有することを特徴とする光検知器10が提供される。
【0017】
このような光検知器によれば、障壁層上に形成された量子ドットと、量子ドットの上面を覆うように形成された障壁層とを有する量子ドット層と、動作時に、量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、第2の導電型と同型であって、低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造と、で構成されて、導電層と障壁層との電位障壁の高さが温度に依存するようになる。
【0018】
また、本発明では上記課題を解決するために、量子ドットを利用した光検知器の製造方法において、第1の障壁層を形成する工程と、前記第1の障壁層上に形成された前記量子ドットと、前記量子ドットの上面を覆うように形成された第2の障壁層とを有する量子ドット層を形成する工程と、動作時に、前記量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の前記量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、前記第2の導電型と同型であって、前記低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造を形成する工程と、を有することを特徴とする光検知器の製造方法が提供される。
【0019】
このような光検知装置の製造方法によれば、第1の障壁層が形成され、第1の障壁層上に形成された量子ドットと、量子ドットの上面を覆うように形成された第2の障壁層とを有する量子ドット層が形成され、動作時に、量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、第2の導電型と同型であって、低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造が形成されるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、障壁層上に形成された量子ドットと、量子ドットの上面を覆うように形成された障壁層とを有する量子ドット層と、動作時に、量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、第2の導電型と同型であって、低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造と、で構成される光検知器は、導電層と障壁層との電位障壁の高さが温度に依存するようにした。これにより、温度変化による暗電流の増減を補償させることによって、光検知器の暗電流の温度変化に対する安定性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されない。
まず、本発明の概要について説明し、その後に、本発明を用いた実施の形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明の概要図であって、図2は、本発明における電位障壁およびエネルギーバンドを示した模式図である。
図1に示す光検知器は、入射した光によって量子ドットの電子を励起させることにより電流を発生させて、光を検知するものである。また、図2(A)は、この光検知器の電位分布、図2(B)は、光検知器の導電層と低濃度不純物層とにおけるエネルギーバンドの模式図をそれぞれ示している。
【0023】
光検知器10は、量子ドット11および量子ドット11を覆う障壁層12a,12bを備える量子ドット層13と、導電層14、低濃度不純物層15および不純物層16を備える導電構造17とを有する。なお、動作時に、量子ドット層13の垂直方向に流れる電子の量子ドット層13から上流側に向かって、不純物層16、低濃度不純物層15および導電層14の順に導電構造17が構成される。さらに、不純物層16の導電型は、導電層14および低濃度不純物層15と異なる。
【0024】
また、電位障壁模式図20は、図2(A)に示すように、上述の各層によって構成される光検知器10の電位分布を模式的に示したものであって、左から、導電層の電位14a、低濃度不純物層の電位15a、障壁層の電位12ba、量子ドットの電位11aおよび障壁層の電位12aaを示している。なお、図2(A)に示すように、低濃度不純物層の電位15aと障壁層の電位12baとの界面領域21において、伝導帯の電位を押し上げるために、低濃度不純物層15と反対の導電型(反導電型)の不純物がドープされた不純物層16を導入するために、反導電型の電荷がドープされている。
【0025】
そして、エネルギーバンド模式図22は、同様に光検知器10の導電層14および低濃度不純物層15のエネルギーバンドを模式的に示したものであって、導電層のエネルギーバンド14bおよび低濃度不純物層のエネルギーバンド15bを示している。なお、図2(B)に示すように、光検知器10を構成することで、フェルミ準位が等しくなるように、導電層14と低濃度不純物層15とのエネルギーバンドが結合される。なお、図2については後ほど再度説明に用いる。
【0026】
次に、光検知器10をこのような構成にした理由について説明する。
既述の通り、暗電流を低減させる一般的な量子ドットを利用した光検知器では、電位障壁の差を大きくすることによって、全体としての暗電流を低減させることは可能となったが、一方で、動作温度の変化にしたがって動作点も変化してしまい、システム全体が不安定となったことが課題であった。
【0027】
このような課題を解決するために、まず、図7に示した一般的な光検知器のように、導電層に、よりバンドギャップ幅の大きな障壁層を形成すると、既述の通り、その界面に電位障壁が形成されて電位分布が形成される。さらにこの場合、導電層と障壁層との中でのフェルミ準位が均一になるように(=熱平衡状態)全体の電位分布が決定される。
【0028】
ここで、このような導電層と障壁層との間にもう一層、導電層と同導電型の不純物を低濃度ドープした半導体である低濃度不純物層を挿入することを考える。
この場合、図2(B)に示すように、不純物濃度Ndの低濃度不純物層におけるフェルミ準位Efの伝導帯Ec2からの深さEc2−Efは、その領域での電荷中性条件から、次の式(2)で与えられる。なお、kをボルツマン定数、Tを素子温度、Ncを材料の有効状態濃度とする。
【0029】
c−Ef=kTln(Nc/Nd)・・・式(2)
式(2)から分かるように、低濃度不純物層の濃度が十分に低い(Nd<<Nc)場合、低濃度不純物層でのフェルミ準位は、温度が上昇するに従って深くなる。これは言い換えると、このような低濃度不純物層を導電層と障壁層との間に挟みこむように形成すると、導電層からみて障壁層に向かって、低濃度不純物層の伝導帯の電位を押し上げようとすることを意味している。
【0030】
一方、このままでは低濃度不純物層と障壁層との界面近傍で、電界の境界条件を満たさない。隣接する2層間での境界条件は、ガウスの法則より、[低濃度不純物層と障壁層との界面の領域内部に含まれる電荷]=[低濃度不純物層と障壁層との界面の領域に出入りする電界の総和]×[誘電率]、を満たすことが要求される。界面の両側での電界が反符号であるため、この界面近傍に、ガウスの法則を満足する電荷がなければならない。そこで、例えば、電子に対して「反発」の電位分布として負電荷をドープする。従って、この界面近傍に、空間電荷として負電荷を持つ不純物、つまりアクセプタとなる不純物をドープすることによって、図2(A)のような電位分布を実現することが可能となる。
【0031】
この電位分布の電位障壁の差Eaはおおむね、次の式(3)で表すことができる。
a∝[材料の組合せによる電位障壁]+kTln(Nc/Nd)・・・式(3)
したがって、例えば、温度上昇に対しては電位障壁の差Eaを大きくする方向、つまり電流の増加を抑える方向に作用することとなる。
【0032】
次に、本発明による光検知器と一般的な量子ドットを利用した光検知器とにおける暗電流について説明する。
図3は、本発明および一般的な量子ドットを利用した光検知器における暗電流の素子温度依存性を示したグラフである。
【0033】
暗電流が界面での電位障壁の差で決定されるとした場合、素子温度=200Kで、暗電流密度が1×10-5A/cm2になるように初期動作点を設定したとして、それぞれの素子構造での暗電流の素子温度に対する変化を示している。なお、低濃度不純物層は、例えば、ガリウム砒素(GaAs)と仮定し、低濃度不純物層の不純物濃度は1×1017cm-3としている。
【0034】
このグラフによれば、従来技術である一般的な光検知器では、温度の増加につれて暗電流密度も増加している。一方、本発明の光検知器では、同様に温度の増加につれて暗電流密度が増加しているものの、一般的な光検知器よりも暗電流密度の増加は小さい。
【0035】
したがって、本発明のように光検知器を構成させて、電位障壁の高さの差を素子の動作温度変化に追随させて、温度変化による暗電流の増減を補償させることによって、光検知器の暗電流の温度変化に対する安定性を改善させることができる。
【0036】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図4は、本実施の形態における製造途中の光検知器を示した断面模式図、図5は、本実施の形態における光検知器を示した断面模式図である。
【0037】
本実施の形態では、本発明の概要において、量子ドット構造が複数回積層されている光検知器を例に挙げており、その製造方法について以下に図を用いて説明する。
まず、基板として形成したGaAs基板31上に、周知の結晶成長技術、例えば、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法によって、GaAs緩衝層32、GaAs下部電極層33を順に積層させる。なお、GaAs緩衝層32、GaAs下部電極層33の膜厚はそれぞれ100nmおよび500nmとする。また、GaAs下部電極層33は、不純物として、例えば、シリコン(Si)(濃度1×1018cm-3)がドープされている。
【0038】
SiがドープされたGaAs下部電極層33上に、GaAs層を積層するとともに、低濃度(濃度1×1015cm-3)の不純物としてSiをドープして、GaAs低濃度不純物層34(膜厚50nm)を形成する。
【0039】
GaAs低濃度不純物層34上に、再びGaAs層を積層するとともに、P型の不純物(濃度1×1017cm-3)である、ベリリウム(Be)をドープして、P−GaAs不純物層35(膜厚5nm)を形成する。
【0040】
P−GaAs不純物層35上に、後に形成する量子ドットの障壁層として、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)によって、AlGaAs障壁層36a(膜厚50nm、Al組成15%)を積層する。
【0041】
AlGaAs障壁層36a上に、光検知器の受光活性部となる量子ドットとして、インジウム砒素(InAs)によって、InAs量子ドット37aを形成する。なお、InAs量子ドット37aは、供給速度0.2分子層毎秒、総供給量2.3分子層相当を、温度470度で供給して形成される。
【0042】
AlGaAs障壁層36a上に形成されたInAs量子ドット37aを埋め込むようにして、障壁層としてAlGaAs障壁層36b(膜厚50nm、Al組成15%)を積層する。
【0043】
なお、InAs量子ドット37aと、InAs量子ドット37aを埋め込むように形成されたAlGaAs障壁層36bとで構成される量子ドット層37を所望の回数、例えば、10回繰り返して所望の量子ドット構造を形成する。
【0044】
10層目の量子ドット層37上に、GaAs上部電極層38を積層する。なお、GaAs下部電極層33と同様に、不純物として、例えば、Si(濃度1×1018cm-3)がドープされている。
【0045】
以上の形成工程によって、光検知器30の形成が終了する(以上、図4)。
そして、最後に、この光検知器30に周知の半導体プロセス技術を用いて必要な電極39a,39bなどを形成することにより、図5に示す、光検知器30aが形成される。
【0046】
なお、本実施の形態において、MBE法を例にとって説明したが、他の結晶成長方法として、例えば有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法であってもかまわない。
【0047】
また、本実施の形態では、光検知器の吸収層に量子ドットを用いた光検知器の場合を例に挙げて説明したが、本発明は導電層から吸収層への電流の輸送過程に関するものであるため、この過程を共通して用いる量子井戸や量子細線を用いた光検知器でも同様の効果が得られる。
【0048】
また、本実施例における低濃度不純物層の不純物としてSiをドープする場合を例に挙げて説明したが、所望の不純物濃度をドープする代わりに、あらかじめ所望の導電型ならびに不純物濃度が得られることが分かっている、意図的に不純物をドープしない層などを用いても同様の効果が得られる。
【0049】
また、量子ドットとして、InAsを用いたが、この代わりに、インジウムガリウム砒素(InGaAs)を用いても同様の効果を得ることができる。
また、障壁層として、AlGaAsを用いたが、この代わりに、GaAsを用いても同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、導電層として、GaAsを用いたが、この代わりに、AlGaAsを用いても同様の効果を得ることができる。
以上のように、導電層と障壁層との間に、導電層と同じ導電型で低濃度の不純物がドープされた低濃度不純物層と、低濃度不純物層と異なる導電型の不純物層とを導入することによって、導電層と障壁層との電位障壁の高さを素子の動作温度変化に追随させて、温度変化による暗電流の増減を補償させて、光検知器の暗電流の温度変化に対する安定性を改善させることができる。
【0051】
今回示した実施例は、光検知器を構成する材料として、上記に挙げた材料を実施例としたが、その他、本発明の光検知器を構成可能な材料系の組み合わせにしても同様の効果が得られる。
【0052】
(付記1) 量子ドットを利用した光検知器において、
第1の障壁層と、
前記第1の障壁層上に形成された前記量子ドットと、前記量子ドットの上面を覆うように形成された第2の障壁層とを有する量子ドット層と、
動作時に、前記量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の前記量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、前記第2の導電型と同型であって、前記低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造と、
を有することを特徴とする光検知器。
【0053】
(付記2) 前記量子ドット、前記第1および前記第2の障壁層、前記不純物層、前記低濃度不純物層および前記導電層は、3−5族化合物半導体によって構成されていることを特徴とする付記1記載の光検知器。
【0054】
(付記3) 前記量子ドットは、インジウム砒素またはインジウムガリウム砒素によって形成されていることを特徴とする付記2記載の光検知器。
(付記4) 前記第1および前記第2の障壁層、前記導電層は、アルミニウムガリウム砒素またはガリウム砒素によって形成されていることを特徴とする付記2または3に記載の光検知器。
【0055】
(付記5) 前記不純物層および前記低濃度不純物層は、ガリウム砒素によって形成されていることを特徴とする付記2乃至4に記載の光検知器。
(付記6) 前記第1の導電型の不純物はベリリウムであることを特徴とする付記1乃至5に記載の光検知器。
【0056】
(付記7) 前記第2の導電型の不純物はシリコンであることを特徴とする付記1乃至6に記載の光検知器。
(付記8) 前記低濃度不純物層に代わって、新たに、前記第2の導電型の不純物種によって形成されていることを特徴とする付記1乃至7に記載の光検知器。
【0057】
(付記9) 前記量子ドット層が複数回積層されていることを特徴とする付記1乃至8に記載の光検知器。
(付記10) 前記量子ドットに代わって、新たに、量子井戸または量子細線が利用されていることを特徴とする付記1乃至9に記載の光検知器。
【0058】
(付記11) 量子ドットを利用した光検知器の製造方法において、
第1の障壁層を形成する工程と、
前記第1の障壁層上に形成された前記量子ドットと、前記量子ドットの上面を覆うように形成された第2の障壁層とを有する量子ドット層を形成する工程と、
動作時に、前記量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の前記量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、前記第2の導電型と同型であって、前記低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造を形成する工程と、
を有することを特徴とする光検知器の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の概要図である。
【図2】本発明における電位障壁およびエネルギーバンドを示した模式図である。
【図3】本発明および一般的な量子ドットを利用した光検知器における暗電流の素子温度依存性を示したグラフである。
【図4】本実施の形態における製造途中の光検知器を示した断面模式図である。
【図5】本実施の形態における光検知器を示した断面模式図である。
【図6】量子ドットおよびそれを用いた光検出原理の模式図である。
【図7】暗電流を低減させる一般的な量子ドットを利用した光検知器の模式図である。
【図8】暗電流を低減させる一般的な量子ドットを利用した光検知器の原理図および暗電流の温度依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
10 光検知器
11 量子ドット
12a,12b 障壁層
13 量子ドット層
14 導電層
15 低濃度不純物層
16 不純物層
17 導電構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを利用した光検知器において、
第1の障壁層と、
前記第1の障壁層上に形成された前記量子ドットと、前記量子ドットの上面を覆うように形成された第2の障壁層とを有する量子ドット層と、
動作時に、前記量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の前記量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、前記第2の導電型と同型であって、前記低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造と、
を有することを特徴とする光検知器。
【請求項2】
前記量子ドット、前記第1および前記第2の障壁層、前記不純物層、前記低濃度不純物層および前記導電層は、3−5族化合物半導体によって構成されていることを特徴とする請求項1記載の光検知器。
【請求項3】
前記量子ドット層が複数回積層されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光検知器。
【請求項4】
前記量子ドットに代わって、新たに、量子井戸または量子細線が利用されていることを特徴とする請求項1乃至3に記載の光検知器。
【請求項5】
量子ドットを利用した光検知器の製造方法において、
第1の障壁層を形成する工程と、
前記第1の障壁層上に形成された前記量子ドットと、前記量子ドットの上面を覆うように形成された第2の障壁層とを有する量子ドット層を形成する工程と、
動作時に、前記量子ドット層に対して垂直方向に流れる電流の前記量子ドット層下流側に向かって、第1の導電型の不純物がドープされた不純物層と、アンドープまたは第2の導電型の不純物がドープされた低濃度不純物層と、前記第2の導電型と同型であって、前記低濃度不純物層よりも高濃度の不純物がドープされた導電層と、を順に有する導電構造を形成する工程と、
を有することを特徴とする光検知器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−227323(P2008−227323A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66004(P2007−66004)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】