説明

光波干渉計

【課題】ゼーマンレーザ等を使った2周波干渉計における,被測定物体の速度制限をなくすことを目的とする.
【解決手段】僅かな周波数差を持った互いに直交する2つの直線偏光の光f1とf2の両方を信号光,および,参照光として使う.ドップラーシフトを受けた信号光f1’とf2’に対して,信号光の2つの偏光成分f1 と f2 を分離・合成し,f1とf2’が混ざったビーム,及び,f1’とf2が混ざったビームを作る.これにより,2つのビートシグナル|f1-f2’|及び,|f1’-f2|を得る.これにより,f1-f2’及び,f1’-f2の符号(正負)に関わらず,被測定物のあらゆる速度Vについて,|f1-f2’|と|f1’-f2|の少なくとも1つから計算することが可能となる.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,光波干渉計に関し,より詳細には,2つの周波数のビームを用いた干渉計に関するものである.
【背景技術】
【0002】
従来のゼーマンレーザ等を使った2周波f1, f2干渉計では,測定対象物の移動速度に制限がある.例えば,f1>f2 とし,f1 が被測定物に入射するものとする.ドップラーシフトを受けたf1が小さくなり,f2に近づいていくと,ビート周波数が小さくなり,測定が困難になる.ドップラーシフトを受けたf1が小さくなり,f2と一致すると,ビートが出なくなる.さらに,f1が小さくなると,再び,ビート周波数が大きくなっていくが,それを許容すると,同じビート周波数に対応する,測定対象の速度が2つ出てくるという問題が発生する.そのため,従来の2周波干渉計では,被測定物の移動速度に制限を設けている.例えば,差周波数が2MHzであるゼーマンレーザを使った一般的な2周波干渉計の場合,ゼーマンレーザの差周波数2MHzの半分の1MHzのドップラーシフトに相当する,V=λf/2=0.3 [m/s]程度を速度の上限値としている.ここで,λはレーザービームの波長,fは1MHzである.
【0003】
高速で移動する対象を測定するためには,一般的には,差周波数が大きな光源を用意する.しかし,差周波数の大きな光源は,一般に,高価であるという問題点があった.
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3944558号
【特許文献2】特願2008-510844特許文献1,特許文献2は,2周波干渉計を使用した光波干渉計に関連したものである.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゼーマンレーザ等を使った2周波干渉計における,被測定物体の速度制限をなくすことを目的とする.
【課題を解決するための手段】
【0006】
図1に,本発明に基づく2周波干渉計を示す.
NPBSで,参照光,信号光として,ゼーマンレーザが発振する互いに直行する2つの直線偏光の光(周波数f1, f2)の両方を導入.信号光は,被測定物体の速度Vに比例したドップラーシフトfDopplerを受け,f1', f2'となる.
【0007】
すなわち,
f1'
= f1 + fDoppler
f2'
= f2 + fDoppler
【0008】
ここで,fDoppler = 2V/λ
PBSを使い,
|
f1’-f2 |
|
f1-f2’ |
のビートを得る.
【0009】
また,ドップラーシフトを受ける前の発振光の差周波数 | f1-f2 | も,PD0に現れるビート周波数として測定される.
【0010】
図2に,f1, f2, |f1-f2’|, |f1’-f2|の関係の関係を示す.(但し,f1-f2 = 1MHz とする.)
測定結果である|f1-f2’| と |f1’-f2| を用い,次のように,速度Vを求めることができる.
【0011】
[A]
|f1-f2’|を使っての計算手順
[A-i]
|f1-f2’| - |f1’-f2| > - 2(f1-f2) (= -2 MHz)のとき
V =
(λ/2)fDoppler = (λ/2) (| f1-f2’ | - (f1-f2))
[A-ii]
|f1-f2’| - |f1’-f2| = - 2(f1-f2) (= -2 MHz) のとき
V =
(λ/2)fDoppler = (λ/2) (-|f1-f2’| - (f1-f2))
【0012】
[B]
|f1’- f2|を使っての計算手順
[B-i]
|f1-f2’| - |f1’-f2| < 2(f1-f2) (= 2 MHz) のとき
V =
(λ/2)fDoppler = (λ/2) (| f1-f2’ | - (f1-f2))
[B-ii]
|f1-f2’| - |f1’-f2| = 2(f1-f2) (= 2 MHz) のとき
V =
(λ/2)fDoppler = (λ/2) (|f1-f2’| - (f1-f2))
【0013】
上記のように理論的には,速度Vは,|f1-f2’| と
|f1’-f2| の両方から独立に計算することができる.ただし,測定誤差を考慮すると,ゼロに近い場合の|f1-f2’|
あるいは |f1’-f2|は使わないことが無難である.ゼロに近い場合の|f1-f2’| あるいは |f1’-f2|は使わないとしても,あらゆる速度範囲の被測定物に対して,|f1-f2’| と |f1’-f2|の少なくとも,どちらか一方を使って,速度Vを測定できる.
【0014】
本手法により,| f1-f2’ |, | f1’-f2 |のどちらかがゼロになる近傍以外は,両方の信号から,独立に,速度Vを求めることができる.その場合,2つの信号を使うことにより,測定誤差の低減効果が期待できる.
【0015】
なお,| f1-f2’ |, | f1’-f2 |のどちらかがゼロになる近傍においては,ゼロから遠い信号を用いて速度Vを求めることができる.光源としてはゼーマンレーザが一般的であるが,1周発振のレーザー光源からの光を2分し,一方に対して変調をかける操作をすることにより,2周波光源を作ってもよい.
【発明の効果】
【0016】
今回の発明は,2周波干渉計における被測定物の速度制限を撤廃することを可能とする方法である.この発明により,安価な光源を用いて,高速度で動く物体の測定を可能とする干渉計を実現することが可能となる.
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は,本発明に基づく実施例である.
【図2】図2は,f1, f2, |f1-f2’|, |f1’-f2|の関係を説明するための図である.
【図3】図3は,本発明に基づく実施例である.
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
図1に,本発明の第一の実施例を示す.ゼーマンレーザから出たビームは,無偏光ビームスプリッタ(NPBS)で2分される.2つの偏光f1 とf2 の両方が,信号光と参照光になる.非測定物であるコーナーキューブプリズム(CC)には,2つの偏光f1 とf2 の両方が,入射する.入射した2つの偏光f1 とf2は,CCのビーム方向の速度成分Vに比例したドップラーシフトを受け,f1’とf2’となり,偏光ビームスプリッタ(PBS)に入射する.
【0019】
一方,無偏光ビームスプリッタ(NPBS)で2分された,もう一方のビームは,ドップラーシフトを受けないまま,偏光ビームスプリッター(PBS)に入射する.偏光ビームスプリッタ(PBS)により,お互いに直行する2つの偏光を組み合わせたビームである,f1’とf2のビーム,及び,f1とf2’のビームが生成される.それらを,グラントムソンプリズム(GTP1とGTP2)で45度の角度の成分同士を合成することにより,2つのビートシグナル|f1’-f2|及び,|f1-f2’|が,フォトダイオード(PD1とPD2)で観測される.
【0020】
この実施例では,フォトダイオード(PD0)から,|f1-f2|の周波数のビート信号が検出される.|f1-f2|が既知でない場合や,安定性が悪い場合は,|f1-f2|を,|f1’-f2|及び,|f1-f2’|と同時測定することが測定精度を上げる上で有効である.
【実施例2】
【0021】
図3に,本発明の第二の実施例を示す.この例では,マイケルソン型の干渉計となっている.この例でも,2つの周波数の両方(f1とf2)が,信号光,及び,参照光として使われている.この例では,参照光の互いに直交する2つの偏光(f1とf2)は,λ/4板(1/4波長板)を2回通ることにより,偏光の角度が入れ替わる.
【0022】
その後,偏光ビームスプリッターにより,互いに同じ偏光角を持った直線偏光の光が混ざったf1とf2’のビーム,及び,f1’とf2のビームが生成される.2つのビートシグナル|f1-f2’|及び,|f1’-f2|が,フォトダイオード(PD1とPD2)で観測される.
実施例では空間光学系を用いた干渉計を示したが,光ファイバーで干渉計を構成してもよい.また,光導波路回路を用いることで,小型で,振動等の外部環境変化に対して耐性のある干渉計を作ることができる.
【産業上の利用可能性】
【0023】
今回の発明は,2周波干渉計における被測定物の速度制限を撤廃することを可能とする方法である.この発明により,安価な光源を用いて,高速度で動く物体の測定を可能とする干渉計を実現することが可能となる.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの周波数の両方を信号光として使うことを特徴とする2周波光波干渉計.
【請求項2】
光源としてゼーマンレーザを用いることを特徴とする請求項1に記載の光波干渉計.


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−127660(P2012−127660A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276577(P2010−276577)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(709003492)特定非営利活動法人e自警ネットワーク研究会 (6)
【Fターム(参考)】