説明

光触媒コーティング剤用バインダー及びその製造方法、光触媒コーティング剤及びその製造方法

【課題】酸化チタン系光触媒コーティング剤の光触媒活性を低下させることなく、塗工性を向上させることか可能である、ペルオキソチタン酸を含有するバインダー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化チタン系光触媒コーティング剤に用いられる、ペルオキソチタン酸を含有するバインダーの製造方法。可溶性チタン化合物(四塩化チタン等)の水溶液に塩基性物質(アンモニア水等)を添加して中和、加水分解することにより水酸化チタン微粒子の懸濁液を得、該水酸化チタン懸濁液に過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸分散液を得、該水酸化チタン懸濁液生成工程及び/又は該ペルオキソチタン酸分散液生成工程の後に、脱イオン処理を行い、該脱イオン処理後の液中のアンモニウムイオン濃度を200ppm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化チタン系光触媒コーティング剤に用いられる、ペルオキソチタン酸を含有するバインダー及びその製造方法に係わり、特に、別途増粘剤やチキソトロピー性付与剤を添加することなく酸化チタン系光触媒コーティング剤の塗工性を向上させることが可能なバインダー及びその製造方法に関する。また、本発明は、この光触媒コーティング剤用バインダーを含有する光触媒コーティング剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陶磁器、金属、プラスチック等の各種基材表面に酸化チタン等の光触媒のコーティング膜を形成することが行われている。光触媒コーティング膜を形成することにより、基材に防汚、消臭、抗菌等の機能を付与することができる。光触媒としては、酸化チタンの他、酸化亜鉛、酸化タングステン、硫化カドミウム、酸化第二鉄、チタン酸ストロンチウム等の金属酸化物があるが、これらのうち、特に、酸化チタンのコーティング膜は誘電体膜、半導体膜、紫外線カット膜、着色膜、その他各種の保護膜としても広く用いられている。
【0003】
酸化チタンにはアナターゼ、ルチル、ブルッカイト型の三つの結晶相が知られているが、光触媒として利用されているのは、活性の高さと製造の容易さから、殆どがアナターゼ型である。
【0004】
従来、酸化チタン系コーティング剤の合成方法として、ペルオキソチタン酸を水熱処理する方法が公知である(例えば、特開2000−335919号)。この方法では、チタン含有水溶液(塩化チタン水溶液等)と塩基性物質(アンモニア水等)とを反応させて水酸化チタン微粒子の懸濁液とし、次いで、この懸濁液と過酸化水素等の酸化剤を反応させてペルオキソチタン酸(過酸化チタン)分散液を得る。このペルオキソチタン酸分散液を水熱処理(例えば、80℃以上)することにより、酸化チタン微粒子の分散液が得られる。この酸化チタン微粒子が、酸化チタン系光触媒コーティング剤として用いられる。
【0005】
このようにして得られた酸化チタン系光触媒コーティング剤は、被塗布物へのバインダー機能が弱いため、バインダーとして上記のペルオキソチタン酸分散液を混合することが知られている。しかしながら、このペルオキソチタン酸分散液よりなるバインダーを混合した酸化チタン系光触媒コーティング剤は、ニュートン流動性が高く粘度が低いため、被塗布物に塗布する際、液垂れが生じる、厚塗りが困難である等の問題がある。これらの問題を解決するために、一般的に次のような方法が考えられるが、欠点が多く、満足できるものではない。
【0006】
(1) 無機系増粘剤
無機系増粘剤としては、マイカやシリカなどの酸化物の微粒子などがある。しかし、マイカのようにナトリウムを含む無機系増粘剤は、ナトリウムが酸化チタン粒子と反応してチタン酸ナトリウムが生成し、その結果、光触媒活性が低下するという欠点がある。また、特にコーティング剤が水系である場合、無機塩系増粘剤は、せん断によって2次構造が破壊されたときに、水素結合を形成する官能基(Si-OH)が強く水和されるため、新たに2次構造を形成するのに時間がかかり(チキソトロピー性が大きい)、粘度回復が遅いという欠点がある。
【0007】
(2) 有機系増粘剤
有機系増粘剤としては、セルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、シクロデキストリン、ゼラチンなどがある。しかし、これらは有機物であり、酸化チタンの光触媒作用によって分解されてしまうため、コーティング剤を塗布してなる塗膜が劣化しやすいという欠点がある。また、光触媒の光触媒活性が有機系増粘剤中の有機物の分解に発揮される分、本来の光触媒活性機能が低下するという問題がある。さらに、有機系増粘剤にもナトリウム塩を含有するものが多く、この場合、無機系増粘剤と同様の欠点がある。
【0008】
(3) コーティング剤の高濃度化
コーティング剤を高濃度化する方法は、コスト高である。また、高濃度化したコーティング剤を厚塗りした場合、剥離するなどの不具合が生じる。
【特許文献1】特開2000−335919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、ペルオキソチタン酸のpHとアンモニウムイオン濃度を調整することにより、新たに増粘剤やチキソトロピー性付与剤を添加することなくコーティング液のレオロジー特性をコントロールし、塗工性に優れた光触媒コーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の光触媒コーティング剤用バインダーの製造方法は、酸化チタン系光触媒コーティング剤に用いられる、ペルオキソチタン酸を含有するバインダーの製造方法において、可溶性チタン化合物の水溶液に塩基性物質を添加して中和、加水分解することにより得られる水酸化チタン微粒子の懸濁液に過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸分散液を得るペルオキソチタン酸分散液生成工程を有し、該水酸化チタン懸濁液生成工程及び/又は該ペルオキソチタン酸分散液生成工程の後に、脱イオン処理を行い、該脱イオン処理後の液中のアンモニウムイオン濃度を200ppm以下とする脱イオン処理工程を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2の光触媒コーティング剤用バインダーの製造方法は、請求項1において、前記脱イオン処理工程において、イオン交換樹脂により脱イオン処理することを特徴とする。
【0012】
請求項3の光触媒コーティング剤用バインダーの製造方法は、請求項2において、前記脱イオン処理後の液中のアンモニウムイオン濃度を100ppm以下、pHを4〜7とすることを特徴とする。
【0013】
請求項4の光触媒コーティング剤の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光触媒コーティング剤用バインダーの製造方法により得られた光触媒コーティング剤用バインダーにおいて、固形分濃度が0.5〜5%であることを特徴とする。
【0014】
請求項5の光触媒コーティング剤の製造方法は、請求項4において、光触媒用バインダーにおいて、バインダーの固形分濃度をA(%)、バインダーに含まれるアンモニウムイオン濃度をB(%)としたとき、A/Bの値が100以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項6の光触媒コーティング剤の製造方法は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光触媒コーティング剤用バインダーにおいて、チキソトロピー指数(Pa/s)が2000以下、かつ、せん断速度400(1/s)での粘度が5〜30(mPa・s)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光触媒用バインダーを用いることで、新たに増粘剤やチキソトロピー性付与剤を添加せずに、塗工性に優れた光触媒コーティング液を提供することができる。
【0017】
また、本発明のバインダー及び/又は光触媒コーティング剤によれば、ペルオキソチタン酸分散液に含まれる光触媒機能を阻害する陽イオン成分の濃度を低く抑えるため、塗膜の光触媒活性が向上する効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の光触媒用バインダーの製造方法及び光触媒コーティング剤の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明の光触媒用バインダーの製造方法は、酸化チタン系光触媒コーティング剤に用いられるペルオキソチタン酸を含有するバインダーの製造方法において、可溶性チタン化合物の水溶液に塩基性物質を添加して中和、加水分解することにより得られる水酸化チタン微粒子の懸濁液に過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸分散液を得るペルオキソチタン酸分散液生成工程を有し、該水酸化チタン懸濁液生成工程及び/又は該ペルオキソチタン酸分散液生成工程の後に、脱イオン処理を行い、該脱イオン処理後の液中のアンモニウムイオン濃度を200ppm以下とする脱イオン処理工程を有することを特徴とするものである。
【0020】
この酸化剤としては、過酸化水素が好適に用いられる。脱イオン処理により、最終的に得られるペルオキソチタン酸のpHを4〜7、かつ、アンモニウムイオン濃度を200ppm以下好ましくは150ppm以下に調整することにより合成を可能とするものである。脱イオン処理は、水酸化チタン懸濁液生成工程やペルオキソチタン酸生成工程或いは、その両方の工程において、イオン交換樹脂を用いて脱イオン処理を行うことができる。
【0021】
本発明において、原料チタン化合物として使用される可溶性チタン化合物としては、四塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、アルコキシチタンなどを挙げることができる。これらの可溶性チタン化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。また、可溶性チタン化合物の水溶液の濃度は、過度に低いと生産性が悪く、過度に高いと反応の制御が困難になることから、可溶性チタン化合物の濃度はチタン分として0.01〜5重量%程度とすることが好ましい。
【0022】
この可溶性チタン化合物の水溶液に添加するアルカリ剤としては、通常アンモニウムが、濃度1〜30重量%のアンモニア水として用いられる。アンモニアは、可溶性チタン化合物の中和・加水分解後のpHが6.5〜8になるように添加することが好ましい。アンモニアの添加で水酸化チタンの沈殿が生成されるため、これを常法に従って、加水及びデカンテーション等により洗浄した後、過酸化水素を添加してペルオキソ化する。
【0023】
ペルオキソ化に当たり、添加する過酸化水素の量は、少なすぎるとペルオキソ化が完了せず、多すぎるとペルオキソ化に関与しない過酸化水素が多くなりコストがかかるため、過酸化水素/水酸化チタン(モル比)は1〜15程度となるように過酸化水素を添加することが好ましい。ペルオキソ化反応は、過酸化水素を添加して0℃〜室温で1〜50時間程度撹拌することにより終了ささせることができる。
【0024】
本発明においては、塗工性に優れたレオロジー特性を有するバインダーとするために、脱イオン処理を行う。脱イオン処理は、ペルオキソ化工程の前後、即ち、過酸化水素の添加の前後のいずれで行っても良く、両方で行っても良い。
【0025】
過酸化水素添加前、即ち、水酸化チタン懸濁液の状態で脱イオン処理を行う場合は、上澄み液のアンモニウムイオン濃度が200ppm以下になるよう調整する。
【0026】
過酸化水素添加後、即ち、水酸化チタン懸濁液をペルオキソ化し得られる黄色透明のペルオキソチタン酸分散液の状態で脱イオン処理を行う場合は、ペルオキソチタン酸分散液のアンモニウムイオン濃度が200ppm以下、好ましくは150ppm以下になるように調整する。この、脱アンモニウムイオン処理は、最終的に得られるバインダーのpHが4〜7、特に4〜6となるように行われるのが好ましい。
【0027】
脱イオン処理の手法としては特に制限はなく、電気透析による方法やイオン交換樹脂を用いる方法、或いはこれらの組み合わせによる方法が挙げられるが、イオン交換樹脂を用いる方法であれば、簡便に実施することができる。
【0028】
イオン交換樹脂による脱イオン処理は、被脱イオン処理液を、イオン交換樹脂を充填したカラムに通液して行っても良く、また、被脱イオン処理液にイオン交換樹脂を懸濁させて脱イオン処理した後、これを濾別することにより行っても良い。なお、水酸化チタンの沈殿を脱イオン処理する場合には、イオン交換樹脂を懸濁させ脱イオン処理した後、適当なメッシュによりイオン交換樹脂を濾別すれば良い。
【0029】
このイオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換タイプや塩基性陰イオン交換タイプが好適に用いられ、また、それらを混合して用いても良い。更に、イオン交換樹脂は物理的構造から大きく三種類、ポーラス型、ハイポーラス型、ゲル型に分類されるが、本発明に用いられるイオン交換樹脂としては特に限定されない。
【0030】
この脱イオン処理において、被脱イオン処理液の固形分濃度は、目的に応じて濃縮しても、水で希釈してもよい。ペルオキソ化後にアンモニウムイオン濃度200ppm以下かつpH4〜7以下に調整した処理液がゲル化する場合もあるが、ゲル化した場合であってもそのまま使用することが可能であり、また、水で希釈したり、従来からあるペルオキソチタン酸と混合したりして任意に調整可能であるが、最終的に光触媒用バインダーとして用いるペルオキソチタン酸分散液は、固形分濃度をA(%)、アンモニウムイオン濃度をB(%)としたときに、A/Bの値が100以上、好ましくは200以上に調整する。
【0031】
このようにして調整されたペルオキソチタン酸分散液は、非ニュートン流動性が高く、しかも、相対的にチキソトロピー性が低い。即ち、塗工時は粘度が小さく塗布し易くなり、塗工後は速やかに増粘するため、垂れ防止やレベリング効果が高くコーティング剤として塗工性に優れており、ディッピング、刷毛塗り、ローラー塗り、スプレー塗装など、様々な塗工方法に大して好適である。
【0032】
また、それらのバインダーと光触媒活性な酸化チタンを混合した光触媒コーティング剤は、バインダーに含まれる光触媒活性を低下させる陽イオンを低濃度にできることから、光触媒機能の向上も可能となる。
【0033】
光触媒活性な酸化チタンとしては、アナターゼ型やブルッカイト型あるいはその混合物が用いられ、形態としては、粉末や分散液など一般に市販されているものが利用でき、好ましくは、ペルオキソチタン酸を水熱処理して得られるアナターゼ型酸化チタンゾルやブルッカイト型酸化チタンゾル、或いはその混合物が用いられる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0035】
実施例1
四塩化チタンの50重量%水溶液(住友シチックス(株)製)を蒸留水で100倍に希釈した後、この水溶液に、3重量%アンモニア水を徐々に添加して中和・加水分解することにより水酸化チタンの沈殿を得た。このときの上澄み液のpHは7.05であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を加水及びデカンテーションにより繰り返し洗浄した後、イオン交換樹脂(三菱化学(株)製「ダイヤイオンSMNUP」)を加え、攪拌した後、メッシュによりイオン交換樹脂のみ濾別することにより脱イオン処理を行い、アンモニウムイオン濃度を400ppmに調整した。この脱イオン処理後の液に、過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が6相当の35重量%過酸化水素水を添加し、室温で20時間攪拌して十分に反応を行った後、イオン交換水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明液体のペルオキソチタン酸水溶液を得た。
【0036】
得られたペルオキソチタン酸水溶液は固形分濃度1.32重量%、pH6.1、アンモニウムイオン濃度145ppm、(固形分%)/(アンモニウムイオン濃度%)は151であった。
【0037】
このペルオキソチタン酸分散液50gに対し、ペルオキソチタン酸より得られるアナターゼゾル(固形分1.54重量%)100gを加え、光触媒コーティング液とした。
【0038】
光触媒コーティング液のレオロジー特性及びThermo Fisher Scientific社製レオメーター、レオストレスRS150にダブルコーン型センサーを使用して評価した。ダブルコーン型センサーに被試験液を充填し、せん断速度0〜2000(1/s)まで120秒で回転数を上昇させたときのせん断速度400(1/s)と1600(1/s)の粘度(mPa・s)の値を比較した。
【0039】
また、ダブルコーン型センサーに被試験液を充填し、120秒でせん断速度0〜2000(1/s)まで上昇させたときのせん断速度(1/s)に対するせん断応力(Pa)の曲線と、120秒でせん断速度2000〜0(1/s)まで下降させたときのせん断速度(1/s)に対するせん断応力(Pa)の曲線とで囲まれる面積をチキソトロピー指数(Pa/s)として、チキソトロピー性の指標とした。
【0040】
光触媒コーティング液の光触媒活性の評価は、白色タイル上に光触媒コーティング液を塗布した光触媒皮膜の光触媒活性の評価より比較した。評価は、光触媒製品協議会にて制定された、セルフクリーニング性能評価試験法I(反射物体色測定法)2001年度版に則して試験を行った。
【0041】
実施例1で得られた光触媒コーティング液のレオロジー特性は、表1の通りであった。この光触媒コーティング剤は擬塑性流動を示し、チキソトロピー指数は430Pa/sと小さく、塗工性は良好であった。また、塗膜の光触媒活性を示す分解係数は142×10−3であった。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2
四塩化チタンの50重量%水溶液(住友シチックス(株)製)を蒸留水で100倍に希釈した後、この水溶液に、3重量%アンモニア水を徐々に添加して中和・加水分解することにより水酸化チタンの沈殿を得た。このときの上澄み液のpHは7.05であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を加水及びデカンテーションにより繰り返し洗浄した後、イオン交換樹脂(三菱化学(株)製「ダイヤイオンSMNUP」)を加え、攪拌した後、メッシュによりイオン交換樹脂のみ濾別することにより脱イオン処理を行い、アンモニウムイオン濃度を150ppmに調整した。この脱イオン処理後の液に、過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が6相当の35重量%過酸化水素水を添加し、室温で20時間攪拌して十分に反応を行った後、イオン交換水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明液体のペルオキソチタン酸水溶液を得た。
【0044】
得られたペルオキソチタン酸水溶液(固形分濃度1.3重量%、pH8.1、アンモニウムイオン濃度300ppm)100gに対し、イオン交換樹脂(三菱化学(株)製「ダイヤイオンSMNUP」)20gを加え、3時間攪拌した後、イオン交換樹脂を濾別した。得られた濾液は固形分濃度1.32%、pH5.5、アンモニウムイオン濃度47ppm、(固形分%)/(アンモニウムイオン濃度%)は470であった。このペルオキソチタン酸分散液50gに対し、ペルオキソチタン酸より得られるアナターゼゾル(固形分1.54%)100gを加え、光触媒コーティング液とした。
【0045】
光触媒コーティング液のレオロジー特性及び光触媒活性の評価は、実施例1と同様な方法にて評価した。
【0046】
実施例2で得られた光触媒コーティング液のレオロジー特性は、表1及び図1の通りであった。この光触媒コーティング剤は擬塑性流動を示し、せん断速度400s−1の粘度が20Pa・sと高いにもかかわらず、チキソトロピー指数は1300Pa/sと比較的小さく、塗工性は良好であった。また、塗膜の光触媒活性は高く、分解係数は160×10−3であった。
【0047】
比較例1
四塩化チタンの50重量%水溶液(住友シチックス(株)製)を蒸留水で100倍に希釈した後、この水溶液に、3重量%アンモニア水を徐々に添加して中和・加水分解することにより水酸化チタンの沈殿を得た。このときの上澄み液のpHは7.10であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を加水及びデカンテーションにより繰り返し洗浄した後、イオン交換樹脂(三菱化学(株)製「ダイヤイオンSMNUP」)を加え、攪拌した後、メッシュによりイオン交換樹脂のみ濾別することにより脱イオン処理を行い、アンモニウムイオン濃度を500ppmに調整した。この脱イオン処理後の液に、過酸化水素/水酸化チタン(モル比)が6相当の35重量%過酸化水素水を添加し、室温で20時間攪拌して十分に反応を行った後、イオン交換水を添加して濃度調整を行うことにより、黄色透明液体のペルオキソチタン酸水溶液を得た。
【0048】
得られたペルオキソチタン酸水溶液(固形分濃度1.3重量%、pH8.1、アンモニウムイオン濃度400ppm、(固形分%)/(アンモニウムイオン濃度%)は55)50gに対し、ペルオキソチタン酸より得られるアナターゼゾル(固形分1.54%)100gを加え、光触媒コーティング液とした。
【0049】
光触媒コーティング液のレオロジー特性及び光触媒活性の評価は、実施例1と同様な方法にて評価した。
【0050】
比較例1で得られた光触媒コーティング液のレオロジー特性は、表1及び図1の通りであった。この光触媒コーティング剤はニュートン流動を示し粘度が低いため、塗工時に垂れが生じた。塗膜の光触媒活性を示す分解係数は110×10−3であった。
【0051】
比較例2
比較例1で得られたペルオキソチタン酸水溶液(固形分濃度1.3重量%、pH8.1、アンモニウムイオン濃度400ppm)45gに対し、マイカ(S482、ズードケミ社製)の1.3重量%水溶液5g混合し、更に、ペルオキソチタン酸より得られるアナターゼゾル(固形分1.54%)100gを加え、光触媒コーティング液とした。光触媒コーティング液のレオロジー特性及び光触媒活性の評価は、実施例1と同様な方法にて評価した。
【0052】
比較例2で得られた光触媒コーティング液のレオロジー特性は、表1の通りであった。この光触媒コーティング剤はニュートン流動性を示し、マイカによる増粘効果は見られず、塗工性も改善されなかった。また、塗膜の光触媒活性を示す分解係数は低く、42×10−3であった。
【0053】
比較例3
比較例1で得られたペルオキソチタン酸水溶液(固形分濃度1.3重量%、pH8.1、アンモニウムイオン濃度400ppm)25gに対し、マイカ(S482、ズードケミ社製)の1.3重量%水溶液25gを混合し、更に、ペルオキソチタン酸より得られるアナターゼゾル(固形分1.54%)100gを加え、光触媒コーティング液とした。光触媒コーティング液のレオロジー特性及び光触媒活性の評価は、実施例1と同様な方法にて評価した。
【0054】
比較例3で得られた光触媒コーティング液のレオロジー特性は、表1の通りであった。この光触媒コーティング剤はほぼ、ニュートン流動性を示し、マイカによる増粘効果は見られず、塗工性も改善されなかった。また、塗膜の光触媒活性を示す分解係数はさらに悪化し、18×10−3であった。
【0055】
比較例4
比較例1で得られたペルオキソチタン酸水溶液(固形分濃度1.3重量%、pH8.1、アンモニウムイオン濃度400ppm)50gに対し、マイカ(S482、ズードケミ社製)1.7g溶解させた。この溶液については、実施例1と同様な方法にてレオロジー特性の評価のみ行った。
【0056】
比較例4で得られた液体のレオロジー特性は、表1の通りであった。この液体は増粘効果が大きく、せん断速度400s−1の粘度が22mPPa・sと実施例2に近いが、チキソトロピー指数が3000Pa/sと大きく、垂れ防止機能は比較的小さかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例2及び比較例1の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン系光触媒コーティング剤に用いられるペルオキソチタン酸を含有するバインダーの製造方法において、可溶性チタン化合物の水溶液に塩基性物質を添加して中和、加水分解することにより得られる水酸化チタン微粒子の懸濁液に過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸分散液を得るペルオキソチタン酸分散液生成工程を有し、該水酸化チタン懸濁液生成工程及び/又は該ペルオキソチタン酸分散液生成工程の後に、脱イオン処理を行い、該脱イオン処理後の液中のアンモニウムイオン濃度を200ppm以下とする脱イオン処理工程を有することを特徴とする光触媒コーティング剤用バインダーの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記脱イオン処理工程において、イオン交換樹脂により脱イオン処理することを特徴とする光触媒コーティング液用バインダーの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記脱イオン処理後の液中のアンモニウムイオン濃度を150ppm以下、pHを4〜7とすることを特徴とする光触媒コーティング液用バインダーの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光触媒コーティング剤用バインダーの製造方法により得られた光触媒コーティング剤用バインダーにおいて、固形分濃度が0.5%〜5%である光触媒用バインダー。
【請求項5】
請求項4において、バインダーの固形分濃度をA(%)、バインダーに含まれるアンモニウムイオン濃度をB(%)としたとき、A/Bの値が100以上である光触媒用バインダー。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、チキソトロピー指数が2000以下、かつ、せん断速度400(1/s)での粘度が5〜30(mPa・s)であることを特徴とする光触媒用バインダー。
【請求項7】
請求項6の光触媒用バインダーと光触媒活性な酸化チタンとを混合してなる光触媒コーティング剤。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光触媒コーティング剤用バインダーの製造方法により得られた光触媒コーティング剤用バインダーと、光触媒活性な酸化チタンを混合することを特徴とする光触媒コーティング剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114030(P2009−114030A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289788(P2007−289788)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】