説明

光触媒ファイバーの製造方法

【課題】作業性が良く安定した生産に適し、溶液を塗布した光透過ファイバーをオンラインで巻き取ることができ、酸化チタン層の強度が強くなる光触媒ファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】チタンテトラアルコキシド又はテトラハロゲン化チタンとβ−ジケトンの混合メタノールまたはエタノール溶液を光透過ファイバーの表面に塗布し、そのままオンラインで巻き取り、そののち焼成する。
【効果】β−ジケトンの混合により加水分解が抑制され、ポットライフが長くなるため、作業性が良く、安定した生産に適する。メタノール又はエタノールは乾燥が速く、溶液を塗布した光透過ファイバーをそのままオンラインで巻き取ってもファイバー同士が癒着したり、膜の厚みが不均等になることがない。酸化チタン層が剥がれ難い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒ファイバーの製造方法に関する。さらに詳しくは、溶液のポットライフが長く、作業性が良く、安定した生産に適し、また、溶液を塗布した光透過ファイバーをそのままオンラインで巻き取ってもファイバー同士が癒着したり、相互の圧力で膜の厚みが不均等になることがなく、さらに、酸化チタン層の強度が強く、剥がれ難い光触媒ファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光の照射によって触媒活性を示すものであり、常温で反応可能という優れた触媒である。光触媒効果を発揮する物質としては、酸化チタンが最も性能がよく多用されている。
【0003】
また、光触媒は光が当たらないと触媒効果が出ないため、触媒にいかに効率よく光を当てるかが問題である。これについての1つの解決法としてガラス繊維のような内部に光が透過する光透過ファイバーの表面に酸化チタン層を形成する方法が実施されている。このような光触媒ファイバーを被処理液に多数導入して光触媒ファイバー内部に光を照射すれば、光によって励起した触媒によって有機物等が酸化または分解される。また、被処理液によって触媒への光の照射が妨げられることがないという利点がある(特許文献1参照。)。
【0004】
均質な酸化チタン層を形成する方法は、ゾルゲル法と呼ばれる方法が最も優れていると言われている。一般的なゾルゲル法では、チタンアルコキシドを加水分解して溶液をつくり、この溶液を被形成体の表面に塗布し、乾燥後、加熱焼成し、酸化チタン層を得ている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平9−299937号公報
【特許文献2】特開2004−292191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のゾルゲル法により光透過ファイバーの表面に酸化チタン層を形成した場合、触媒活性に関して問題はない。
しかし、溶液のポットライフが短いため、作業性が悪く、安定した生産に不利な問題があった。また、光透過ファイバー表面に塗布した溶液が長時間粘着性を持ち柔らかいため、溶液を塗布した光透過ファイバーをそのままオンラインで巻き取ると、ファイバー同士が癒着したり、相互の圧力で膜の厚みが不均等になる問題点があった。さらに、酸化チタン層の強度が弱く、剥がれ易い問題があった。
そこで、本発明の目的は、溶液のポットライフが長く、作業性が良く、安定した生産に適し、また、溶液を塗布した光透過ファイバーをそのままオンラインで巻き取ってもファイバー同士が癒着したり、相互の圧力で膜の厚みが不均等になることがなく、さらに、酸化チタン層の強度が強く、剥がれ難い光触媒ファイバーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点では、本発明は、光透過ファイバー(3)の表面にチタンテトラアルコキシドとβ−ジケトンの混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)を塗布し、オンラインで巻き取り、そののち焼成することを特徴とする光触媒ファイバーの製造方法を提供する。
【0007】
光透過ファイバー(3)は、内部に光が通るものであればよく、ガラス繊維、プラスチック繊維等であり、特に光ファイバーが好適である。なかでも、いわゆる漏光ファイバーがよい。これは、通常の光ファイバーでは内部に入った光は全反射して外部には出ず、内部を進行するが、この漏光ファイバーの場合には、外部に出て、表面の光触媒に光を照射する。
光透過ファイバー(3)の直径は自由であるが、柔軟性を持たせるためや触媒効率等から、0.05〜0.5mm程度が好適である。また、光透過ファイバー(3)は、複数の層から構成されていてもよい。
【0008】
チタンテトラアルコキシドは、チタンテトラメトキシド、チタンテトライソプロポキシド等であり、チタンテトライソプロポキシドが優れている。
【0009】
β−ジケトンとしては、アセチルアセトン、プロピオニルアセトン、ベンゾイルアセトン等があるが、アセチルアセトンが好適である。
【0010】
β−ジケトンは、1つの炭素原子に2つのケトン基が結合した骨格があり、その2つの酸素原子と金属原子が配位結合することが知られている。本発明では、チタン原子と配位することによって、チタンアルコキシドの加水分解反応を抑制する。このため、溶液のポットライフが長くなり、作業性が良く、安定した生産に適する。なお、この配位結合は、焼成時の脱水縮合のときには簡単に脱離分解して反応を阻害しない。
【0011】
混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)の濃度としては、1リットルのメタノールまたはエタノール中に、チタンテトラアルコキシドは0.05〜0.3mol、β−ジケトンは0.1〜1.0mol程度である。モル比ではβ−ジケトンを過剰にするのが好ましい。
【0012】
チタンアルコキシドとアセチルアセトンの混合は、それぞれ別々にメタノールまたはエタノールに溶解し、それを混合してもよい。このようにした方が均一な混合ができ反応がスムーズになる。
【0013】
混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)の塗布方法は、浸漬法が一般的であるが、噴霧その他の方法でもよい。
【0014】
本発明では、混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)を塗布した光透過ファイバー(3)をそのままオンラインで巻き取っている。これは、メタノールまたはエタノールは沸点が低いため、光透過ファイバー(3)に塗布した混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)が直ちに乾燥するため、オンラインで巻き取ることが出来るためである。これは非常に便利であり、作業面積的にも、作業工程についても大きなメリットである。これに対して、従来のゾルゲル法では、乾燥が遅いため、そのままオンラインで巻き取ることは出来なかった。
【0015】
焼成は、400℃〜600℃で行なうのがよい。時間的には、30分から1時間程度である。この焼成は、前記した巻き取ったロールのまま行なってもよいが、所定の寸法に裁断した後行なってもよい。
【0016】
酸化チタン層(11)の厚みは、0.3μm以上であり、好ましくは1μm以上である。これは、光触媒として十分な効果を発揮するには1μmは必要といわれているためである。
本発明の製造方法によって製造される酸化チタン層(11)は、ゾルゲル法により形成される酸化チタン層に比べて緻密で硬く、剥がれにくい。
【0017】
第2の観点では、本発明は、光透過ファイバー(3)の表面にテトラハロゲン化チタンとβ−ジケトンの混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)を塗布し、オンラインで巻き取り、そののち焼成することを特徴とする光触媒ファイバーの製造方法を提供する。
【0018】
上記第2の観点の光触媒ファイバーの製造方法では、前記第1の観点の光触媒ファイバーの製造方法におけるチタンテトラアルコキシドの替わりにテトラハロゲン化チタンを用いるものである。
【0019】
テトラハロゲン化チタンは、四塩化チタン、四臭化チタン、四フッ化チタン等であるが、四塩化チタンが優れている。
【0020】
本発明の製造方法は、前記混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)を光透過ファイバー(3)に塗布し巻き取る工程と、焼成する工程とが必須であるが、その他の工程、例えば予備混合工程、攪拌工程その他を含めることは自由である。
【0021】
本発明により製造される光触媒ファイバー(10)は、100本から数千本を束ねたバンドルとして使用してもよいし、織布として使用してもよい。用途は、フィルターや衣服、包装容器などとして、水処理、脱臭、抗菌等に使用できる。
【0022】
水処理分野では、上記バンドルを液体反応器に導入して光触媒ファイバー(10)の内部に紫外線や可視光を照射すればよい。また、被処理液のある池や貯水槽に直接バンドルを導入してもよい。
【0023】
次に水処理の好適な例について説明する。
水耕栽培の連作障害は植物自身が出すホルモン様物質によることが分かっており、従来水耕栽培のバットの壁面や底面に光触媒をコーティングしたものが提案されている。しかし、バットにコーティングした光触媒全体に光を照射する必要があり、装置が大型化し、コストアップになる。
一方、本発明に係る光触媒ファイバー(10)をバンドル化したものを使用すると、反応器が極めてコンパクトとなり、紫外線LEDを利用すればランニングコストを抑えた浄化装置ができる。無機養分(窒素、リン酸、カリ)を含んだ水溶液中の有機物のみを選択的に分解除去できるので、肥料のコストも抑制できる。無菌植物生産工場、高地、宇宙などの特殊環境で狭いエリアでの水耕栽培には最適である。
【0024】
飲料水等の水の浄化装置にも使用できる。オンデマンド浄化、消毒設備等にも好適である。
【0025】
家畜の糞尿の肥料化、燃料化で生じた一次排水は高濃度の有機物を含むため、そのまま廃棄は困難である。本発明に係る光触媒ファイバー(10)のバンドルを用いた処理装置では効率的に処理できる。そうすると、灌漑、畜舎の洗浄、空気冷却機などの中間水利用が可能となる。
【0026】
染色廃液は、色素を高濃度で含むため、通常は沈殿剤を添加して沈降分離している。汚泥が廃棄物として残るため、環境負荷と処理コストが大きな問題であった。本発明に係る光触媒ファイバー(10)を使用した液処理装置を用いれば、容液の光透過性が不要なため、高濃度の排水を原液のまま処理できる。
【0027】
本発明に係る光触媒ファイバー(10)は、有機物の分解浄化だけでなく、制御した光化学反応をさせるためのマイクロチャネルリアクターとしても使用できる。通常のマイクロリアクターは、ガラス基板に作製した細管に反応液を通し、細管壁面に導入した触媒層、活性層を溶液中の物質と反応させるものである。これは反応器の製造コストが高いという大きな欠点があった。
しかし、本発明に係る光触媒ファイバー(10)は、酸化チタン層(11)が剥がれにくく、束ねるだけで最密充填された光触媒ファイバー(10)の隙間にマイクロチャンネルが形成されるため、大幅なコストダウン、スケールアップが容易に可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明には、次のような効果がある。
・チタンテトラアルコキシドのアルコール溶液は、空気中の水分によって加水分解が進行してしまい、短時間で使用できなくなる。これに対して、本発明では、β−ジケトンで加水分解の進行を抑制しているため、メタノールまたはエタノールの蒸発に注意すれば、半年程度は使用可能である。すなわち、混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)のポットライフが長く、作業性が良くなり、安定した生産に有利になる。。
・乾燥の速いメタノールまたはエタノールを用いるため、混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)の塗布後、速やかに乾燥し、そのままオンラインで巻き取れる。これは、作業面積上および作業時間上、非常に有利である。
・形成された酸化チタン層(11)の強度が大きく、剥がれにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
図1に示す塗布・巻取装置1において、塗布槽4には、チタンテトライソプロポキシド0.71gをエタノール25mlに溶解させ、ここにアセチルアセトンのエタノール溶液(0.5mol/l)25mlを添加し、12時間攪拌した混合エタノール溶液5を入れている。
光透過ファイバー・ロール2から光透過ファイバー(例えば、石英ガラスファイバー:直径0.125mm)3を引き出し、塗布槽4で混合エタノール溶液5に浸漬し、引き上げ後、ダイス6で膜厚を調整して塗布ファイバー7とし、10秒間程度空気中を走行させた後、塗布ファイバー・ロール8に巻き取る。
【0031】
そののち、図2に示す電気炉9に、所定の長さ(例えば、15cm)に切断した塗布ファイバー7を入れ、600℃で約1時間加熱焼成し、図3に示す光触媒ファイバー10を製造した。なお、塗布ファイバー7は、既に表面が乾燥しているので、相互に密着させて入れることが出来る。この意味でも製造効率を向上できる。
【0032】
図3に、製造された光触媒ファイバー10を示す。
酸化チタン層11の鉛筆硬度は、6H以上であった。
【0033】
混合エタノール溶液5は、半年程度は使用できた。
【実施例2】
【0034】
図1に示す塗布・巻取装置1において、塗布槽4には、四塩化チタン1.0gをメタノール10mlに溶解させ、ここにアセチルアセトンのメタノール溶液(0.18g/10ml)を添加し、さらにメタノール10mlを加えて12時間攪拌した混合メタノール溶液5を入れている。
光透過ファイバー・ロール2から光透過ファイバー(例えば、石英ガラスファイバー:直径0.125mm)3を引き出し、塗布槽4で混合メタノール溶液5に浸漬し、引き上げ後、ダイス6で膜厚を調整して塗布ファイバー7とし、10秒間程度空気中を走行させた後、塗布ファイバー・ロール8に巻き取る。
【0035】
そののち、図2に示す電気炉9に、所定の長さ(例えば、15cm)に切断した塗布ファイバー7を入れ、600℃で約1時間加熱焼成し、図3に示す光触媒ファイバー10を製造した。なお、塗布ファイバー7は、既に表面が乾燥しているので、相互に密着させて入れることが出来る。この意味でも製造効率を向上できる。
【0036】
図3に、製造された光触媒ファイバー10を示す。
酸化チタン層11の鉛筆硬度は、6H以上であった。
【0037】
混合メタノール溶液5は、半年程度は使用できた。
【実施例3】
【0038】
図4は、本発明に係る光触媒ファイバー10を用いた光触媒液処理装置100を示す断面図である。
この光触媒液処理装置100は、本発明に係る光触媒ファイバー10を15cmに裁断し、光入射面12a側の端面を光学処理して1000本取りまとめて内径約5mmのバンドル筒13に入れたものを隔壁14,15に固定したものである。隔壁14,15の間に位置するバンドル筒13の部分には、開口13aがある。
【0039】
例えば500W高圧水銀灯および紫外バンドパスフィルターを含む光源16から紫外線Lを光入射面12aに入射させ、バンドル筒13の原液流入面12bから原液Aを流入させ、開口13aから処理液Bを流出させる。
【0040】
図5は、光入射面12a側から見た光触媒液処理装置100である。
なお、図5では、光触媒ファイバー10を省略して描いている。
【0041】
この光触媒液処理装置100に、原液Aとしてメチレンブルーの水溶液(250μmol/l、pH3)を、3.5ml/分の流速で流した。バンドル筒13は内径約5mmであることからバンドル筒13を1回通過させるために要する時間は約20秒となる。
メチレンブルーに特徴的な670nmの吸光度変化を島津製作所UV−2400PCにて測定し、分解率を測定した。
光触媒液処理装置100を5回通過させた結果、分解率60%を示した。
【0042】
−比較例1−
チタンテトライソプロポキシド0.71gをエタノール50mlに溶解させ、12時間攪拌し、エタノール溶液を作成した。
このエタノール溶液は、1日で使用できなくなった。
【0043】
−比較例2−
窒素気流下で、テトラ−n−ブトキシチタン(12.5mmol)とジエチレングリコール(加水分解抑制剤、24mmol)とを、溶媒(n−ブタノール、7.36ml)に添加して、混合した。これと並行して、イオン交換水(反応開始剤、25mmol)とヒドラジン−塩酸塩(塩触媒、0.125mmol)とを、溶媒(n−ブタノール、10ml)に添加して、混合した。次に、これらの2種類の混合溶液を合わせ、25℃に調整したインキュベーター内で2時間攪拌混合して混合物ゾルを得た。
このゾルを所定長に予め切断した石英ガラスファイバーの表面に浸漬法で塗布した。そのままでは表面がべたつくため、400℃で10秒仮焼成した。その後、600℃で約1時間焼成した。
製造された光触媒ファイバーの酸化チタン層の鉛筆硬度は、F〜HBであった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の光触媒ファイバーの製造方法における塗布・巻取工程を示す説明図である。
【図2】本発明の光触媒ファイバーの製造方法における焼成工程の説明図である。
【図3】本発明の光触媒ファイバーの製造方法により製造された光触媒ファイバーを示す斜視図である。
【図4】本発明に係る光触媒ファイバーのバンドルを用いた光触媒液処理装置を示す断面図である。
【図5】図4の光入射面側から見た模式図である。
【符号の説明】
【0045】
3 光透過ファイバー
5 混合メタノール溶液または混合エタノール溶液
7 塗布ファイバー
8 塗布ファイバー・ロール
9 電気炉
10 光触媒ファイバー
11 酸化チタン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過ファイバー(3)の表面にチタンテトラアルコキシドとβ−ジケトンの混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)を塗布し、オンラインで巻き取り、そののち焼成することを特徴とする光触媒ファイバーの製造方法。
【請求項2】
光透過ファイバー(3)の表面にテトラハロゲン化チタンとβ−ジケトンの混合メタノール溶液または混合エタノール溶液(5)を塗布し、オンラインで巻き取り、そののち焼成することを特徴とする光触媒ファイバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−63979(P2010−63979A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231318(P2008−231318)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】