説明

光触媒フィルタおよびそれを用いた光触媒脱臭装置

【課題】 光触媒作用による脱臭性能に優れた光触媒フィルタ、さらに、この光触媒フィルタを用いて、効率的に、かつ、最大限の脱臭効果を発揮させることができる光触媒脱臭装置を提供する。
【解決手段】 セラミックス骨格の表層に、膜厚が1μm以下の酸化チタン膜が形成されており、表面積が5m2/cm3以上である板状の光触媒フィルタ1を用いて、紫外線ランプ2を挟み込むように構成した光触媒脱臭装置において、前記フィルタの紫外線ランプ2による受光面における波長365nmの光強度が0.5mW/cm2以上であり、該光強度の面内分布が最小値/最大値が0.5以上1.0以下の範囲内となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タバコ臭、トイレ臭、ペット臭、厨房における臭い等の様々な臭いを除去するための光触媒フィルタおよびそれを用いた光触媒脱臭装置、空気清浄機等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、福祉・医療施設、ホテル等の宿泊関連施設、レストラン等の比較的大型の商業・サービス施設等の不特定多数の者が利用し、臭いが気になるような場所においては、エアコンやダクト内等に脱臭装置等が用いられている。また、近年、家庭用のエアコンや空気清浄機等においても、脱臭フィルタが設けられているものが増えている。
【0003】
上記の家庭用の脱臭フィルタは、通常、紙や不織布等に活性炭やセラミックス等を吸着させたひだ折りシート状のものが一般的であった。
また、比較的大型の脱臭装置用の脱臭フィルタとしては、セラミックスフィルタが一般に使用されていた。例えば、特許文献1に開示されているような、セラミックス多孔体を骨格として、シリカ等の無機バインダを添加した酸化チタン膜を表層に形成して焼成したものが用いられていた。
【0004】
上記のような脱臭フィルタとしては、近年、光触媒機能を付与させたセラミックスを用いたものが多用されるようになり、さらに、このような光触媒フィルタの光触媒作用を発揮させるために、内部に光源を備えた光触媒脱臭装置も採用されるようになってきている。
【特許文献1】特開2001−246228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような光触媒フィルタは、臭い成分や粒子を吸着するだけでなく、光を照射することにより、有害成分を分解除去することもできるものであり、従来の活性炭等による吸着フィルタよりも優れた機能を有している。
【0006】
しかしながら、従来の紙や不織布等を骨格とするフィルタは、光源からの熱によって発火するおそれがあるため、フィルタと光源との距離を接近させることができず、光源能力を最大限に活用することができるものではなかった。
【0007】
また、上記のような酸化チタン膜を表層に形成した従来のセラミックフィルタは、その酸化チタン膜が、膜厚数十μmと厚く、表面積が2m2/cm3前後と低いものであったため、脱臭性能に優れているとは言い難いものであった。
さらに、光源を内蔵した従来の光触媒脱臭装置も、光触媒フィルタの光照射表面における光強度のばらつきが大きく、光触媒フィルタの脱臭性能を十分に引き出せるものではなかった。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、光触媒作用による脱臭性能に優れた光触媒フィルタ、さらに、この光触媒フィルタを用いて、効率的に、かつ、最大限の脱臭効果を発揮させることができる光触媒脱臭装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光触媒フィルタは、セラミックス骨格の表層に、膜厚が1μm以下の酸化チタン膜が形成されていることを特徴とする。
酸化チタン膜を薄くすることにより、フィルタ表面積を大きくすることができ、かつ、光触媒作用によるフィルタの脱臭性能の向上を図ることができ、また、骨格をセラミックスとすることにより、光源から受ける熱によってフィルタが発火するような事態を防止することができる。
【0010】
前記光触媒フィルタは、表面積が5m2/cm3以上であることが好ましい。
特に、セラミックス多孔体として構成されることが好ましく、光触媒フィルタの表面積は大きいほど、光触媒作用によるフィルタの脱臭効率を向上させることができる。
【0011】
本発明に係る光触媒脱臭装置は、板状の前記光触媒フィルタが、紫外線ランプを挟み込むように構成されていることを特徴とする。
このように、紫外線ランプの両面に、光触媒フィルタを配置することにより、フィルタの性能を最大限に引き出し、脱臭を効率的に行うことができる。
【0012】
前記光触媒脱臭装置においては、前記フィルタの紫外線ランプによる受光面における波長365nmの光強度が0.5mW/cm2以上であり、該光強度の面内分布は、最小値/最大値が0.5以上1.0以下の範囲内であることが好ましい。
光触媒フィルタの表面において、できるだけ光強度のばらつきを小さくし、かつ、効率的に光触媒作用を奏するようにする観点から、受光面における光強度およびその面内分布を規定したものである。
【0013】
また、前記フィルタの受光面と紫外線ランプとの距離が10mm以下であることが好ましい。
前記距離を接近させることにより、光源能力を最大限に活用し、受光面における光強度を大きくすることができ、前記光触媒フィルタによる脱臭効果を最大限に引き出すことができる。
【発明の効果】
【0014】
上述のとおり、本発明に係る光触媒フィルタによれば、光触媒作用によって、タバコ臭、トイレ臭、ペット臭、厨房における臭い等の様々な臭いを除去することができる優れた脱臭性能が得られる。
また、上記のような本発明に係る光触媒フィルタを用いた光触媒脱臭装置によれば、効率的に、かつ、最大限の脱臭効果が発揮される。
このため、本発明に係る光触媒脱臭装置は、家庭用のエアコンや空気清浄機等のみならず、大型施設等の脱臭装置にも好適に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る光触媒フィルタは、セラミックス骨格の表層に、膜厚が1μm以下の酸化チタン膜が形成されていることを特徴とするものである。
本発明における酸化チタン膜としては、本出願人による特願2004−68673に記載されているような酸化チタンを用いることが好ましい。具体的には、OH基を有し、窒素がドープされた酸化チタンを用いることが好ましい。
このような酸化チタン粒子は、セラミックス表面への付着性に優れているため、バインダを用いることなく、上記のような膜厚1μm以下の薄い酸化チタン膜を形成することができる。
また、骨格をセラミックスで構成することにより、耐熱性、耐火性を付与することができ、光源から受ける熱によってフィルタが発火したり、光触媒作用で劣化するような事態を防止することができる。
【0016】
上記のように、膜厚1μm以下の薄い酸化チタン膜が形成されることにより、表面積が5m2/cm3以上の光触媒フィルタを容易に得ることができる。
このような表面積の大きいフィルタは、セラミックス多孔体として構成することが好ましい。
光触媒フィルタの表面積は大きいほど、光触媒作用によるフィルタの脱臭効率を向上させることができる。前記フィルタの表面積が5m2/cm3未満の場合は、フィルタの光触媒効果を十分に発揮させることができない。
【0017】
上記のように、セラミックス多孔体を骨格として、その表層に酸化チタン膜が形成された光触媒フィルタは、以下のようにして得ることができる。代表として、アルミナからなる多孔体をセラミックス骨格とする場合を例として説明する。
まず、アルミナからなる多孔体を製造するが、該多孔体の製造には、一般的なセラミックス多孔体の製造方法を適用することができる。
例えば、アルミナ原料粉末を溶媒に分散させてスラリーを調製し、該スラリーをウレタンフォームに浸透させて、骨格表面に前記スラリー層を形成させた後、焼成してウレタンを焼き抜くことにより、前記多孔体が得られる。
あるいはまた、前記スラリーに架橋重合性樹脂を混合撹拌し、泡状として架橋させた後、焼成する方法等によっても、前記多孔体が得られる。
【0018】
そして、上記のようにして得られたアルミナからなる多孔体を、例えば、アナターゼ型酸化チタンと、炭素、水素、窒素、硫黄から選ばれた少なくとも2種類がドープされているアナターゼ型酸化チタンとの混合物からなる酸化チタン微粒子が含まれるスラリーに浸漬等して、前記多孔体表面に前記酸化チタン微粒子を配置し、熱処理することにより、アルミナ多孔体を骨格とする本発明に係る光触媒フィルタを得ることができる。
【0019】
図1に、上述したような本発明に係る板状の光触媒フィルタを用いた本発明に係る光触媒脱臭装置の一例の概略図を示す。
図1に示す光触媒脱臭装置は、2枚の板状の光触媒フィルタ1が、10本の紫外線ランプ2を両面から挟み込むように配置され、金属製の固定フレーム3によりそれぞれ固定されているものである。
【0020】
前記紫外線ランプ2には、冷陰極管の管壁の蛍光体を外したものを用いることが好ましい。
冷陰極管は、10000時間と長寿命であり、しかも、直径6mm前後と細径のものもあるため、冷陰極管を用いた紫外線ランプによれば、装置全体をコンパクトな構成とすることができ、しかも、フィルタの性能を最大限に引き出し、かつ、装置の長寿命化を図ることができる。
【0021】
前記光触媒脱臭装置においては、脱臭を効率的に行う観点から、前記フィルタ1の紫外線ランプ2による受光面における波長365nmの光強度が0.5mW/cm2以上であることが好ましい。
また、前記光強度の面内分布は、最小値/最大値が0.5以上1.0以下の範囲内であることが好ましい。
光強度は光源からの距離の2乗に反比例するという原理に基づいて、光触媒フィルタ1の表面において、できるだけ光強度のばらつきが小さくなるようにし、かつ、効率的に光触媒作用を奏するように、受光面における光強度の面内分布の最適化を図ったものである。
【0022】
また、前記フィルタ1の受光面と紫外線ランプ2との距離は10mm以下であることが好ましい。
紫外線ランプ2を複数配置する場合においても、光触媒フィルタ1と紫外線ランプ2との距離は、できる限り接近させることにより、フィルタ1の受光面における光強度を大きくすることができる。すなわち、光源能力を最大限活用することができるため、光触媒作用による脱臭効果をより大きくする観点から、前記距離は10mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、4mm以下である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
アルミナセラミックフォームからなる基材に、OH基300ppm、窒素3000ppmを含有する粒径30nmの酸化チタン粒子からなる光触媒粒子15gを水100リットルに分散させ、市販のアナターゼ型TiO2水溶液と混合してスラリー状としたものを含浸させた。
これを乾燥させて、セラミックス骨格の表層に酸化チタン膜を形成した。
この酸化チタン膜についてのFE‐SEM観察により膜厚を測定したところ、膜厚は0.3〜0.9μmであった。その写真を図2に示す。
また、BET法により比表面積(m2/g)を測定し、かさ密度(g/cm3)から、表面積(m2/cm3)を求めたところ、6m2/cm3であった。
【0024】
[比較例1]
市販のセラミックスフィルタについて、実施例1と同様にして、酸化チタン膜のFE−SEM観察を行い、膜厚を測定したところ、膜厚は約50μmであった。その写真を図3に示す。
また、実施例1と同様にして、表面積を求めたところ、2.5m2/cm3であった。
【0025】
[実施例2]
実施例1と同様にして、280mm×250mmの板状のセラミックスフィルタを作製した。
そして、紫外線ランプとして4Wの冷陰極管10本を用い、20mm間隔で配置し、かつ、紫外線ランプからの距離が6mmの位置に前記セラミックフィルタを配置した図1に示すような光触媒脱臭装置を作製した。
【0026】
この光触媒脱臭装置について、フィルタの受光面における光強度を測定したところ、光強度が最大となる箇所は、ランプから最短距離の位置であり、その光強度は約1.2mW/cm2であった。
また、フィルタ端部を除いて、光強度が最小となる箇所は、フィルタの中心であり、その光強度は約0.6mW/cm2であり、フィルタ受光面における光強度の最大値/最小値は0.5であった。
【0027】
また、この光触媒脱臭装置を用いて、以下に示す方法により、タバコ臭の脱臭評価を行った。
まず、1m3のボックス内でタバコ5本に火をつけて消火するまで、煙によるタバコ臭を充満させた。
そして、ファンを設置して光触媒脱臭装置のフィルタ面における風速が約0.3m/sとなるようにした。
タバコ臭の主成分であるアンモニアの濃度をマルチガスモニタで測定し、アンモニアを90%除去するまでに要する時間を測定した。
この結果を表1に示す。
【0028】
[比較例2]
比較例1の市販のセラミックスフィルタを用いて、それ以外については、実施例2と同様にして、光触媒脱臭装置を作製した。
この光触媒装置について、実施例2と同様にして、タバコ臭の脱臭評価を行った。この結果を表1に示す。
【0029】
[比較例3]
市販の光触媒脱臭装置について、実施例2と同様にして、光強度を測定した。
この光触媒脱臭装置に用いられているフィルタは、紙からなる骨格の表面に酸化チタンを固定させたものであり、寸法は実施例2と同様であった。
また、紫外線ランプは、4Wの冷陰極管2本が用いられており、間隔は150mm、フィルタとの距離が30mmであった。
【0030】
フィルタの受光面において、光強度が最大となる箇所は、ランプから最短距離の位置であり、その光強度は約0.3mW/cm2であった。
また、フィルタ端部を除いて、光強度が最小となる箇所は、フィルタの中心であり、その光強度は約0.09mW/cm2であり、フィルタ受光面における光強度の最大値/最小値は0.3であった。
【0031】
この光触媒脱臭装置についても、実施例2と同様にして、タバコ臭の脱臭評価を行った。この結果を表1に示す。
【0032】
[比較例4]
比較例2の光触媒脱臭装置において、フィルタのみを実施例2で用いたセラミックフィルタに交換し、実施例2と同様にして、タバコ臭の脱臭評価を行った。この結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示したように、本発明に係る光触媒脱臭装置(実施例2)は、従来のセラミックスフィルタ(比較例2)および光触媒脱臭装置(比較例3,4)よりも、短時間でアンモニア臭を除去することができることが認められた。
このように、本発明に係る光触媒脱臭装置(実施例2)は、光触媒フィルタの優れた脱臭能力を効率よく発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る光触媒脱臭装置の一例の概略を示した斜視図である。
【図2】実施例1に係る酸化チタン膜のFE‐SEM観察写真であり、その膜厚を示したものである。
【図3】比較例1に係る酸化チタン膜のFE‐SEM観察写真であり、その膜厚を示したものである。
【符号の説明】
【0036】
1 光触媒フィルタ
2 紫外線ランプ
3 固定フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス骨格の表層に、膜厚が1μm以下の酸化チタン膜が形成されていることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項2】
表面積が5m2/cm3以上であることを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された板状の光触媒フィルタが、紫外線ランプを挟み込むように構成されていることを特徴とする光触媒脱臭装置。
【請求項4】
前記フィルタの紫外線ランプによる受光面における波長365nmの光強度が0.5mW/cm2以上であり、該光強度の面内分布は、最小値/最大値が0.5以上1.0以下の範囲内であることを特徴とする請求項3記載の光触媒脱臭装置。
【請求項5】
前記フィルタの受光面と紫外線ランプとの距離が10mm以下であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の光触媒脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−26507(P2006−26507A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207999(P2004−207999)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】