説明

光触媒・活性炭複合シートおよびその製造方法

【課題】 従来の方法では、活性炭の全周囲にわたって光触媒の皮膜が形成される。実際の使用形態では、光は通常1方向からのみ到達するので、活性炭粒子の裏面では光触媒は機能しないことが判る。それにも拘わらず裏面でも皮膜が存在するために活性炭の吸着能力が阻害されるという欠点がある。
また、通常光触媒粒子径が10nm〜100nm程度と小さいため、皮膜厚さの中にほぼ埋もれたような状況となり、光触媒として機能できる部分(空気または液体に接触できる部分)がわずかになっている。
【解決手段】基材にシリコン系バインダーを均一に塗布し、粒子状活性炭を散布して圧着固定した後に、アナターゼ型酸化チタンの過酸化水素水溶液を噴霧・乾燥させる工程を複数回行なう光触媒活性炭複合シートおよびその製造方法であり、光触媒粒子は平均粒子径0.5マイクロメートル以上であり、かつ粒子状活性炭は平均粒子径0.5mm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒効果の優れた光触媒・活性炭複合シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脱臭やVOC(揮発性有機化合物)吸着除去などに従来から活性炭がよく利用されているが、欠点として時間とともに吸着性能が低下してくることが挙げられる。この欠点を補うために活性炭表面に光触媒粒子を皮膜状に担持した複合体が提案されている。
【特許文献1】特開平6−170220
【特許文献2】特開平8−196903
【特許文献3】特開2005−162554
【0003】
このような複合体を作る方法として、活性炭粒子に対して光触媒の溶液をコーティング、塗布、スプレー等により皮膜形成する方法が一般に行なわれている。あるいは、活性炭と光触媒にバインダーを加えてよく混合して塗料として基材に塗布するなどの方法がある。
【0004】
しかしながら、多孔質である活性炭の表面に光触媒を主成分とする皮膜を形成することにより活性炭の有効表面のかなりの部分が閉塞状態となり、吸着能力が阻害されることになる。
【特許文献2】においては、ポリエチレングリコールまたはポリエチレンオキサイドを添加することで、皮膜を多孔質化する方法が提案されている。
【0005】
通常使用される光触媒粒子は10nm〜100nm程度とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の方法では、図2に示すように、活性炭の全周囲にわたって光触媒の皮膜4が形成される。実際の使用形態は、同図に示すように光は通常1方向からのみ到達するので、活性炭粒子の光到達側の裏面6では光触媒は機能しないことが判る。それにも拘わらず裏面でも光触媒皮膜4が存在するために活性炭の吸着能力が阻害されるという欠点があるのが大きな課題である。
【0007】
通常、光触媒粒子径が10nm〜100nm程度と小さいため、皮膜の厚さ(数マイクロメートル)に対して図3のように皮膜厚さの中に光触媒粒子がほぼ埋もれたような状況となり、光触媒として機能できる部分(空気または液体に接触できる部分)がわずかになっている。
【0008】
本発明は、このような従来の方式における課題を解決しようとするものであり、活性炭の性能低下を低減して長期間使用できる光触媒・活性炭複合シートおよびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の製造方法は、基材にシリコン系バインダーを均一に塗布し、粒子状活性炭を散布して圧着固定した後に、アナターゼ型酸化チタンの過酸化水素水溶液を噴霧・乾燥させる工程を複数回行なう光触媒・活性炭複合シートの製造方法。
【0010】
請求項2の製造方法は、請求項1において光触媒粒子は平均粒子径0.5マイクロメートル以上であり、かつ粒子状活性炭は平均粒子径0.5mm以上である光触媒・活性炭複合シートの製造方法。
【0011】
請求項3の製造方法は、基材はPET(ポリエチレンテレフタレート)である請求項2の光触媒・活性炭複合シートの製造方法。
【0012】
請求項4の装置は、本発明による光触媒・活性炭複合シート(請求項1〜3の内のいずれか)を(担持した面を内側にして)円筒状に彎曲配置し、その中央部に棒状の光触媒励起用光源を配し、円筒空間部の上流側もしくは下流側に空気送出用ファンまたは液体送出ポンプを配置した浄化装置。

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光触媒と粒子状活性炭との複合効果により空気または液体中の有害成分の吸着・分解性にすぐれた光触媒・活性炭複合シートおよびその製造方法を得ることができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
基材としては、金属板、ガラス板、セラミック板、プラスチック板、プラスチックフィルムなどがあるがここではPETフィルムを最良の形態として採用する。
【0015】
まず、図5のようにPETフィルムにシリコンバインダーを薄く塗布し、乾燥しないうちに比較的大粒の粒子状活性炭3をすき間無く散布する。散布が完了したら、薄紙7等を載せて軽く圧着・固定し、温風にて乾燥・固着させる。
【0016】
次に光触媒(アナターゼ型酸化チタン)の過酸化水素水溶液を図6のPETフィルムの垂直面から少量スプレーし温風で乾燥する。この操作を複数回繰返し行なう。光触媒シートの完成状態を図1に示す。
【0017】
上記により製造した光触媒・活性炭複合シートを(担持した面を内側にして)円筒状に彎曲配置し、その中央部に棒状の光触媒励起用光源12を配し、円筒空間部の上流側もしくは下流側に空気送出用ファン9または液体送出ポンプを配置した浄化装置。
【実施例】
【0018】
以下、図1より図10の図面に基づき本発明の第1の実施形態について具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例としての光触媒・活性炭複合シートの構造を模式化した図面である。
【0020】
本発明者は、前記の課題を解決するために思考を重ねた結果、活性炭の光触媒皮膜を光照射側のみに限定して付加すればよいとの考えに至った。
シート状の光触媒部材を製造する場合、図1のように通常光触媒の担持側面の正面・垂直位置から光が照射されるので、活性炭の光照射面のみに光触媒を付加すればよい。
【0021】
以下、光触媒・活性炭複合シートの製造手順について説明する。
まず、基材となるPETフィルム1(板圧0.3mm)にシリコーンバインダー2を20〜50マイクロメートル程度塗布し、乾燥しないうちに平均粒子径1mm前後の活性炭3をすき間無く散布する。散布が完了したら、図5のように薄紙7等を載せて軽く圧着・固定した後、約100度の温風にて乾燥・固着させる。
【0022】
次にアモルファス型酸化チタン微粒子0.5gに対し、31%過酸化水素水溶液70mlの割合で調整した溶液をPH4に調整した後、温度90度以上の水浴に10時間保つことにより、酸化チタンをアナターゼ型へと結晶化させる方法で、平均粒子径0.5マイクロメートル以上の水溶液を製造した。詳細は
【特許文献3】に紹介された方法である。
【0023】
次にこの光触媒水溶液を基材1の垂直方向から少量スプレーし温度100度で30分乾燥する。この操作を4回繰返し行なう。光触媒シートの完成状態を図1に示す。
【0024】
一般的な光触媒粒子径は10nm〜100nm程度と小さいため光触媒皮膜を拡大すると図3のように、光触媒粒子の大部分が皮膜の中に埋もれた状況になっている。一方、本実施例においては、活性炭3の表面側に付与された光触媒皮膜4は平均粒子径0.5マイクロメートル以上の光触媒を使用したため、皮膜の拡大図は図4のようになり、皮膜表面部が凹凸状態で光触媒粒子が表面に多数露出した状態であり、気体中の有害成分との接触面積が大きくなっている。
【0025】
また、活性炭の裏面側では図1の6のように光触媒の皮膜はほとんど付加されていないため、本来の活性炭の多孔質部が損なわれないため、吸着作用が阻害されずに機能している。
【0026】
次にこの光触媒・活性炭複合シートを組み込んだ液体用浄化装置ユニットを図7に示す。円筒状ガラス容器14の内側に、円筒状に加工した上述の光触媒・活性炭複合シート10を配置してあり、円筒の中心部には光触媒励起用の光源12を、また、その外側には筒状の石英ガラス管11を設置している。石英ガラス管11の役割は、光源12を循環液体から隔離するとともに、光は効率よく透過させることである。9は円筒内の液体を循環させるためのポンプである。
【0027】
光源12は、近紫外線(波長352nm)のブラックライトであり、光触媒を励起させるための光源である。また、液体循環用ポンプ9は石英ガラス管11と光触媒・活性炭複合シートとの空間の液体を高速で循環させる役割である。
【0028】
試験試料水15は、500mlの水中に2,4ジニトロフェノールを初濃度10mg/lに調整したものである。
【0029】
図9は、図7の装置を使用して、2,4ジニトロフェノールの吸着・分解性能を試験したデータである。
この試験データには、本発明による光触媒・活性炭複合シートaのデータをTiO2.ACで表し、また対比試験のために,光触媒のみのシートbをTiO2、活性炭のみのシートcをACで表示している。
グラフの縦軸は2,4ジニトロフェノール濃度であり、横軸は経過時間(分)である。
【0030】
図9左図は、光源をOFF状態にしたときのデータであるが、bにおいては当然ながら時間経過にかかわらず、2,4ジニトロフェノールの濃度変化は出ていない。aとcにおいては、いずれもほぼ同一の曲線でcがわずかに良い特性を示している。本来なら、図1のように光触媒皮膜がある分だけaの性能が低下するはずであるが、その差がわずかであることは特筆に価する。特に図2のような光触媒皮膜であれば、明らかに大きな性能差がでるのは当然である。
【0031】
このようにaとcの差が少ない原因として、二つの要因が考えられる。その1は、図1において活性炭の裏側にはほとんど光触媒皮膜が形成されていないため、活性炭粒子のスキマから裏側に回り込んだ2,4ジニトロフェノールが吸着されたものと考えられる。その2は、図4のように光触媒粒子が大きいために光触媒皮膜部にも凹凸とともに多くの亀裂によるスキマがあり、そこからも2,4ジニトロフェノールが内部に浸透しているものと想定する。
【0032】
図9右図は、光源をONにしたときの濃度変化を示す。bにおいては、光触媒が活性化するために、2,4ジニトロフェノールの濃度低減が観測された。また、aとcとの比較においては、aの性能が高くなり、cとの差が拡大していることが読み取れる。
【0033】
図9も図8と同様に縦軸は2,4ジニトロフェノール濃度であり、横軸は経過時間(分)である。
図9は、図8の実験を繰り返し行なったときの経過的な性能変化を表している。
経過時間が長くなるに従って、活性炭のみのシートcは性能が低下しているが、本発明による光触媒・活性炭複合シートaにおいては、性能低下が少ないことが読み取れる。
【0034】
(0026)〜(0033)における実施例は液体の浄化ユニットの事例である。空気の浄化においても例示していないがまったく同様の効果となることを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の光触媒・活性炭複合シートの完成状態および光源の照射状況、空気の流れについて模式化した概略図。
【図2】一般的な光触媒担持活性炭の担持状況および光源との関係を説明した図。
【図3】図2における光触媒皮膜部の拡大説明図。
【図4】図1における光触媒皮膜部の拡大説明図。
【図5】本発明の光触媒・活性炭複合シートを製造する第1段階の説明図。
【図6】本発明の光触媒・活性炭複合シートを製造する第2段階の説明図。
【図7】本発明の光触媒・活性炭複合シートを組み込んだ液体浄化ユニット図。
【図8】実験データをグラフで示した図。
【図9】活性炭のみのシートと本発明のシートとの吸着・分解性能比較図。
【符号の説明】
【0036】
1 基材(PETフィルム)
2 シリコンバインダー
3 粒子状活性炭
4 光触媒皮膜
5 光触媒粒子
6 活性炭裏面
7 薄紙
8 スプレー
9 液体循環用ポンプ
10 湾曲加工した光触媒・活性炭複合シート
11 石英ガラス管
12 ブラックライト(光触媒励起用光源)
13 液体循環部
14 円筒状ガラス容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にシリコン系バインダーを均一に塗布し、粒子状活性炭を散布して圧着固定した後に、アナターゼ型酸化チタンの過酸化水素水溶液を噴霧・乾燥させる工程を複数回行なう光触媒・活性炭複合シートおよびその製造方法。
【請求項2】
請求項1において、光触媒粒子は平均粒子径0.5マイクロメートル以上であり、かつ粒子状活性炭は平均粒子径0.5mm以上である光触媒・活性炭複合シートおよびその製造方法。
【請求項3】
基材はPET(ポリエチレンテレフタレート)である請求項2の光触媒活性炭複合シートおよびその製造方法。
【請求項4】
本発明による光触媒・活性炭複合シート(請求項1〜3の内のいずれか)を(担持した面を内側にして)円筒状に彎曲配置し、その中央部に棒状の光触媒励起用光源を配し、円筒空間部の上流側もしくは下流側に空気送出用ファンまたは液体送出ポンプを配置した浄化装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−430(P2010−430A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160264(P2008−160264)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(305009371)アイクォーク株式会社 (3)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】