説明

光触媒体、その製造方法およびその用途

【課題】 蛍光灯等の実用光源の光に多く含まれる可視光線によって高い光触媒活性を示す光触媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の光触媒体は、可視光応答型光触媒酸化チタンと多孔質シリカとから形成された複合体であり、BET比表面積が200〜1000m2/g、細孔容積が0.10〜1.0cm3/g、細孔径が1〜10nmである。かかる光触媒体を得るための本発明の製造方法は、溶媒に可視光応答型光触媒酸化チタン粒子を分散させるとともに細孔付与剤を溶解させた後、加水分解性シリコン化合物を添加し、該加水分解性シリコン化合物を加水分解することにより得られた固形物を焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光灯等の実用光源の光に多く含まれる可視光線によって高い光触媒活性を示す光触媒体とその製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯に正孔、伝導帯に電子が生成する。これらはそれぞれ強い酸化力と還元力を有し、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。このような作用を光触媒作用と呼び、この光触媒作用を利用することによって、大気中の有機物などを分解除去することができる。光触媒作用を示す物質としては、これまでから酸化チタンが注目されており、各種媒体や担体などに酸化チタン粒子を分散もしくは担持させた光触媒体が実用化されている。
【0003】
近年では、さらに、酸化チタン光触媒体の機能を向上させる方法が種々検討されており、例えば、合成媒体中に酸化チタン粒子を分散させ、その中で多孔質シリカ等の多孔体の骨格を生成させることにより形成された、酸化チタンを多量に含んだ複合多孔体(特許文献1参照)や、多孔性を有するフッ素化合物膜内に酸化チタン粒子を分散させてなる膜状半導体光触媒素子(特許文献2参照)などが提案されている。
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の技術によれば、蛍光灯などの室内光の照射下では充分な光触媒活性を示さない場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開2005−314208号公報
【特許文献2】特開平9−276707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、蛍光灯等の実用光源の光に多く含まれる可視光線によって高い光触媒活性を示す光触媒体と、該光触媒体を簡便に得ることができる製造方法と、該光触媒体を用いた有機物の分解処理方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた。その結果、従来の光触媒酸化チタンが蛍光灯等の室内灯の照射下で充分な光触媒活性を発揮しなかった要因として、第一に、これまで一般に汎用されていた酸化チタンが、波長の短い紫外領域の光でないと触媒活性を発現しにくいものであり、室内光の大部分を占める可視光線を有効に利用できなかったこと、第二に、光触媒体と光触媒作用を生じさせようとする反応基質との接触率、換言すれば、光触媒体への反応基質の吸着量が不充分であったこと、が複合的に影響していると考えた。そして、可視光によって光触媒作用を発揮するようにした可視光応答型光触媒酸化チタンを用いるとともに、BET比表面積、細孔容積および細孔径が特定範囲になるように設計した、酸化チタンと多孔質シリカとの複合体であれば、可視光線によって高い光触媒活性を発現しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)可視光応答型光触媒酸化チタンと多孔質シリカとから形成された複合体であり、BET比表面積が200〜1000m2/g、細孔容積が0.10〜1.0cm3/g、細孔径が1〜10nmである、ことを特徴とする光触媒体。
(2)前記可視光応答型光触媒酸化チタンは、波長410nm以下の光をカットした光を照度5000ルクスで照射したときのアセトアルデヒドの分解反応において反応開始から初期の3時間での一次反応速度定数が0.008h-1以上となる酸化チタンである、前記(1)記載の光触媒体。
(3)前記(1)または(2)記載の光触媒体の製造方法であって、溶媒に可視光応答型光触媒酸化チタン粒子を分散させるとともに細孔付与剤を溶解させた後、加水分解性シリコン化合物を添加し、該加水分解性シリコン化合物を加水分解することにより得られた固形物を焼成する、ことを特徴とする光触媒体の製造方法。
(4)光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより反応基質中の有機物を分解する方法であって、前記光触媒体として前記(1)または(2)記載の光触媒体を用いるとともに、波長410nmを超える可視光を含む光を照射する、ことを特徴とする有機物の分解処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蛍光灯等の実用光源の光に多く含まれる可視光線によって高い光触媒活性を発揮させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の光触媒体は、可視光応答型光触媒酸化チタンと多孔質シリカとから形成された複合体である。ここで言う複合体は、後述する本発明の光触媒体の製造方法によって容易に形成されるメソポーラス構造を有するものである。当該複合体における複合の態様は、特に制限されるものではなく、例えば、多孔質シリカが酸化チタン粒子の一部または全体を被覆している態様であってもよいし、多孔質シリカと酸化チタン粒子が物理的に接触しているだけである態様であってもよい。勿論、本発明の光触媒体は、複数の複合態様が混在した複合体であってもよい。
【0010】
本発明の光触媒体を構成する可視光応答型光触媒酸化チタンは、波長410nmを超える可視光線の照射によって活性を示す酸化チタンであればよい。具体的には、本発明にかかる可視光応答型光触媒酸化チタンは、波長410nm以下の光をカットした光を照度5000ルクスで照射したときのアセトアルデヒドの分解反応において反応開始から初期の3時間での一次反応速度定数が0.008h-1以上となる酸化チタンであることが好ましい。
【0011】
上記のような好ましい可視光応答型光触媒酸化チタン(アセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数が0.008h-1以上である酸化チタン)であるか否かを見極めるための方法(アセトアルデヒドの分解反応の詳細や具体的手法、一次反応速度定数の求め方等)に関しては、後述する実施例における光触媒活性の評価方法に準じるものとする。ただし、後述する実施例の光触媒活性の評価方法は、酸化チタンと多孔質シリカとの複合体を対象(光触媒体)としたものであり、当該評価方法を好ましい可視光応答型光触媒酸化チタンを見極めるために適用する場合には、酸化チタン単独(すなわち、複合化していない形態の酸化チタン)を対象とすることは言うまでもない。
【0012】
前記可視光応答型光触媒酸化チタンとしては、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、WO01/10552パンフレット、特開2001−212457号公報、特開2002−239395号公報、WO03/080244パンフレット、WO02/053501パンフレット、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, No.2, P.196-197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.4, P.364-365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.8, P.772-773(2003)、Angewandte Chemie, Internationaol Edition, 42, P.4908-4911(2003)、Chemistry of materials, 17, P.1548-1552(2005) 等に記載の酸化チタンを用いてもよい。さらに、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法によって得られた酸化チタンも、前記可視光応答型光触媒酸化チタンとして用いることができる。
【0013】
前記可視光応答型光触媒酸化チタンとして用いることのできる市販品を具体的に挙げると、例えば、粉末状の酸化チタンである住友化学(株)製「TP−S201」、酸化チタン光触媒粒子の分散液である住友化学(株)製「TS−S4110」や「TS−S4440」等がある。
【0014】
本発明の光触媒体中に含まれる前記可視光応答型酸化チタンの含有量は、複合体に対して、10〜90重量%であることが好ましく、より好ましくは40〜80重量%である。可視光応答型酸化チタンの含有量が10重量%未満であると、充分に高い光触媒活性が得られないおそれがあり、一方、90重量%を超えると、多孔質シリカの占める割合が減少するため反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性が得られないおそれがある。
【0015】
本発明の光触媒体を構成する多孔質シリカは、後述する加水分解性シリコン化合物を加水分解することにより形成された多孔体である。通常、この多孔体の形成と同時に酸化チタンとの複合化が進み、本発明の光触媒体が形成される。なお、加水分解による形成方法については後述する本発明の光触媒体の製造方法に記載の通りである。
【0016】
本発明の光触媒体のBET比表面積は、200〜1000m2/gである。BET比表面積が200m2/g未満であると、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性が得られないことになり、一方、1000m2/gを超える場合、製造時に複合体中の酸化チタン粒子の含有量が極めて少なくなるように設計する必要があり、反応基質の吸着量が増加しても高い光触媒活性が得られない。好ましくは、BET比表面積の下限は350m2/g以上であり、上限は600m2/g以下であるのがよい。
【0017】
本発明の光触媒体の細孔容積は、0.10〜1.0cm3/gである。細孔容積が0.10cm3/g未満であると、反応基質の吸着量が少なくなり、高い光触媒活性を得られないことになり、一方、1.0cm3/gを超える場合、製造時に一般に高価である高分子量の細孔付与剤を用いる必要があり、コストに見合うだけの効果が得られない。好ましくは、細孔容積の下限は0.25cm3/g以上であり、上限は0.70cm3/g以下であるのがよい。
【0018】
本発明の光触媒体の細孔径(直径)は、BJH法に基づく細孔径分布が極大となる値を指し、1〜10nmである。細孔径が1nm未満であると、反応基質によっては細孔内に入れない場合があり、高い光触媒活性を得られないことになり、一方、10nmを超えると、単位表面積当たりの細孔の数が少なくなり、反応基質の吸着量が低下して高い光触媒活性が得られない。好ましくは、細孔径の下限は2.8nm以上であり、上限は7nm以下であるのがよい。
なお、本発明における光触媒体のBET比表面積、細孔容積および細孔径は、例えば、実施例で後述する窒素吸着法により測定することができる。
【0019】
本発明の光触媒体は、酸化チタンと多孔質シリカを主成分とするものであるが、さらに光触媒活性や吸着性を向上させるために、例えばAl、Ti、Zr等の金属成分を含有させることもできる。これら金属成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定すればよい。
以上のような本発明の光触媒体は、後述する本発明の光触媒体の製造方法により容易に得られる。
【0020】
本発明の光触媒体の製造方法は、溶媒に可視光応答型光触媒酸化チタン粒子を分散させるとともに細孔付与剤を溶解させた後、加水分解性シリコン化合物を添加し、該加水分解性シリコン化合物を加水分解することにより得られた固形物を焼成するものである。この方法によれば、加水分解性シリコン化合物が加水分解されて多孔質シリカの骨格が形成される際に細孔付与剤が鋳型として存在するので、上述した特定寸法を満足する細孔を形成することができ、しかも、このようにして多孔質シリカの骨格が形成される際に、可視光応答型光触媒酸化チタン粒子が溶媒に分散した状態で存在するので、形成された多孔質シリカに可視光応答型光触媒酸化チタンを複合化させることができるのである。
【0021】
本発明の光触媒体の製造方法に用いられる溶媒は、細孔付与剤を溶解し、かつ細孔付与剤を光触媒体の細孔の鋳型として機能させうるものであれば、特に制限はないが、水を用いるのが好ましい。なお、溶媒は、細孔付与剤の溶解性を高めるために予め加温しておくこともできる。
【0022】
本発明の光触媒体の製造方法に用いられる可視光応答型光触媒酸化チタン粒子は、上述した可視光応答型光触媒酸化チタンからなる粒子であればよい。この可視光応答型光触媒酸化チタン粒子の一次粒子径は、特に制限されないが、好ましくは、6〜30nmである。また、可視光応答型光触媒酸化チタン粒子のBET比表面積も、特に制限されないが、好ましくは、60〜150m2/gである。
前記可視光応答型光触媒酸化チタン粒子の使用量は、最終的に得られる光触媒体における可視光応答型光触媒酸化チタンの含有量が前記範囲になるように適宜設定すればよい。
【0023】
本発明の光触媒体の製造方法に用いられる細孔付与剤としては、例えば、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等のアルキルアンモニウム塩、ポリエチレン−ポリプロピレン−ポリエチレン共重合体等のブロック共重体、ポリオキシエチレン−アルキル基を骨格に持つ非イオン性界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも、コスト面や抑泡性など製造工程上の観点から、ポリエチレン−ポリプロピレン−ポリエチレン共重合体等のブロック共重体が好ましく用いられる。
前記細孔付与剤の使用量は、最終的に得られる光触媒体の細孔が所望の寸法となるように適宜設定すればよいが、例えば、前記加水分解性シリコン化合物の酸化物換算(SiO2)重量に対して、重量比で0.2〜3倍とするのがよい。
【0024】
前記加水分解性シリコン化合物としては、例えば、珪酸エチル、珪酸メチル、珪酸ナトリウム、水ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、コストの面から、珪酸ナトリウムや水ガラスが好ましく用いられる。
前記加水分解性シリコン化合物の使用量は、最終的に得られる光触媒体における可視光応答型光触媒酸化チタンの含有量が前記範囲になるように適宜設定すればよい。
【0025】
前記可視光応答型光触媒酸化チタン粒子を分散させ、かつ前記細孔付与剤を溶解させた前記溶媒には、前記加水分解性シリコン化合物を添加する前に、加水分解反応等を促進または制御する目的で、適宜、酸や塩基を添加することができる。ここで用いる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、蓚酸、酢酸、蟻酸等が挙げられ、塩基としては、例えば、アンモニア、尿素、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。
【0026】
加水分解反応は、加水分解性シリコン化合物を添加して室温で攪拌することによっても進行させることができるが、必要に応じて、加熱することが好ましい。加熱することにより、シリカ骨格の形成を促進することができ、多孔質シリカを得やすくなる。加熱する場合には、通常、40℃〜超臨界状態となる温度の範囲で行えばよいが、コストの点からは、溶媒の沸点以下で行うのが好ましい。
【0027】
前記加水分解反応により得られた反応生成物中には固形物が存在するので、該固形物を反応生成物から固液分離した後に、焼成に付すことによって、本発明の光触媒体が得られる。
前記加水分解反応により得られた反応生成物から固形物を固液分離する方法については、特に制限はなく、公知の手法を適宜採用すればよい。
前記加水分解反応により得られた固形物を焼成する際の条件等については、特に制限はなく、例えば、焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは450℃以上で、かつ通常700℃以下、好ましくは600℃以下の範囲内で適宜設定すればよい。また、焼成時間は、通常、1〜24時間の範囲内で適宜設定すればよい。
【0028】
前記加水分解反応により得られた固形物には、必要に応じて、焼成の前後で粉砕を施してもよい。ここで行う粉砕は、水などの液体を加えることなく乾燥状態で粉砕する乾式粉砕であってもよいし、水などの液体を加えて湿潤状態で粉砕する湿式粉砕であってもよい。乾式粉砕により粉砕するには、例えば、転動ミル、振動ボールミル、遊星ミルなどのボールミル、ピンミルなどの高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル、ジェットミル等の粉砕装置を用いることができる。湿式粉砕により粉砕するには、例えば上記と同様のボールミル、高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル等の粉砕装置を用いることができる。
【0029】
なお、本発明の光触媒体の製造方法においては、必要に応じて、細孔付与剤を除去する処理を行うことができる。具体的には、細孔付与剤の除去は、前記加水分解反応後、適当な溶媒を用いて細孔付与剤を抽出して取り除くようにしてもよいし、固形物を分離して洗浄し、室温〜150℃の範囲で乾燥を行うことにより溶媒を除去した後、後述する焼成を行うようにしてもよい。このとき、乾燥と焼成を連続して行っても勿論よい。
【0030】
本発明の光触媒体には、上述したように、主成分とする酸化チタンおよび多孔質シリカ以外に金属成分を含有させることもできるが、その場合、金属成分は本発明の光触媒体の製造方法の中のどの段階で添加してもよい。例えば、可視光応答型光触媒酸化チタン粒子に予め所望の金属成分を担持させておいてもよいし、焼成して光触媒体を得た後に、引き続き、所望の金属成分を溶解させた水溶液中に含浸して担持させ、室温〜300℃、好ましくは60〜150℃で乾燥するようにしてもよい。
【0031】
本発明の有機物の分解処理方法は、光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより反応基質中の有機物を分解する方法であって、前記光触媒体として前記本発明の光触媒体を用いるとともに、波長410nmを超える可視光を含む光を照射するものである。これによれば、蛍光灯や太陽光に多く含まれる波長410nmを超える可視光を光触媒作用に有効に利用できるので、反応基質に対して優れた光触媒作用を与え、その結果、反応基質に含まれる有害な有機物を分解除去すること(例えば、排水処理、除菌・消臭処理等)が可能になる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例で得られた光触媒体の各物性の測定およびその光触媒活性の評価については、以下の方法で行った。
【0033】
<BET比表面積、細孔容積、細孔径>
自動比表面積/細孔分布測定装置(日本BEL製「BELSORP−mini」)を用いて窒素吸着法により窒素による吸着等温線を測定し、BET多点法にてBET比表面積を算出し、BJH法にて吸着等温線の吸着側の細孔容積を算出するとともに、細孔径分布が極大となる値を細孔径(直径)として算出した。吸着脱離等温線の測定は、得られた光触媒体に150℃で3時間真空脱気する前処理を施した後に、吸着質として窒素を用い、吸着温度77K、吸着質断面積0.162nm2の条件下で定容法を用いて行った。
【0034】
<結晶構造および一次粒子径>
X線回折装置(理学電機製「RAD−IIA」)を用い、所定の条件(X線管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:35mA、発散スリット:1度、散乱スリット:1度、受光スリット:0.30mm、サンプリング幅:0.020度、走査速度:2.00度/分、測定積算回数:1回)にてX線回折を行い、そのスペクトルから主成分の結晶構造を求めた。また、酸化チタンの最強干渉線(面指数101)のピークの半価幅β(ラジアン)とピーク位置2θ(ラジアン)を求め、Scherrerの式(I)により結晶子の大きさE(一次粒子径)を算出した。
E(nm)=K・λ/(βcosθ) (I)
ただし、式(I)中、Kは定数0.94、λ(nm)は測定X線波長(Cukα線:0.154056nm)を表す。
【0035】
<光触媒活性の評価>
光触媒活性は、可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。
まず、光触媒活性測定用の試料を作製した。すなわち、内径60mmのガラス製シャーレに光触媒体0.1gを入れ、水を少量加えてペースト状にした後、得られたペーストをシャーレ全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機で1時間乾燥させ、光触媒活性測定用試料を作製した。得られた試料は、ブラックライト(紫外線強度2mW/cm2:トプコン製紫外線強度計「UD−36」で測定))を16時間照射することにより初期化しておいた。
次に、この初期化した光触媒活性測定用試料をシャーレごと5Lガスバッグ内に密閉し、ガスバッグ内を真空にした後、酸素/窒素混合ガス(酸素/窒素=1:4(体積比)、相対湿度約50%)3000mLを封入し、さらに、1%アセトアルデヒドを含む窒素ガス180mLを封入した。このとき、ガスバック内のアセトアルデヒドの濃度は600ppmであった。その後、ガスバックを暗所で16時間静置して安定化させた後、光照射してアセトアルデヒドの分解反応を行った。
【0036】
光照射に際しては、光源に、紫外線カットフィルム(富士フィルム製「UV−Guard」)を装着した市販の白色蛍光灯(NECライティング製「FL20SSW/18」)を2本用いた。この紫外線カットフィルムを装着した白色蛍光灯から放射される光のスペクトルを、スペクトロラディオメーター(ウシオ電機製「USR−40D」)にて測定したところ、波長410nm以下の紫外線はカットされ、可視光線のみが照射されていることが確認できた。なお、試料表面付近の光の強度は、波長400nm付近の光が260μW/cm2(トプコン製紫外線強度計「UD−40」で測定)であり、波長360nm付近の光が0μW/cm2(トプコン製紫外線強度計「UD−36」で測定)であった。また、試料表面付近の照度は、5000ルクス(ミノルタ製照度計「T−10」で測定)であった。
【0037】
光照射を継続して行いながらガスバッグ内のガスを1.5時間毎にサンプリングし、アセトアルデヒドの残存濃度をガスクロマトグラフィー(島津製作所製「GC−2014」)にて測定した。なお、ガスバック内のガスのサンプリングは、ガスクロマトグラフィーの付属装置であるマルチポートサンプルラインセレクター(島津製作所製「SLS−V10」)で行い、この装置からテドラーバックまではステンレス鋼管(外径3mm、内径1.5mm、長さ2.2mm)で接続した。照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度減少量を対数軸にプロットし、得られた直線の傾きから、反応開始から初期の3時間での一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能(換言すれば、光触媒活性)が高いと言える。
【0038】
(実施例1)
水110gに、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)(Aldrich製;数平均分子量:約5800)4gを溶解させ、6モル%塩酸水溶液(和光純薬製)40gを添加した後、さらに、可視光応答型酸化チタン(住友化学製「TP−S201」;アナターゼ結晶相、一次粒子径:12nm、BET比表面積:92m2/g、黄色)3.68gを添加して、室温で3時間攪拌した。次いで、高純度正珪酸エチル(多摩化学工業製)8.5gを添加し、室温で一晩(18時間)攪拌した後、40℃で10時間加熱し、引き続き80℃で20時間加熱した。その後、生じた固形物を濾過、水洗した後、室温にて乾燥し、空気中で500℃にて6時間焼成して有機物を除去し、光触媒体を得た。
得られた光触媒体は、細孔径が4.9nm、細孔容積が0.29cm3/g、BET比表面積が398m2/gのメソポーラス構造を有するものであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.105h-1であり、良好な光触媒活性を有していることがわかった。
なお、上記の可視光応答型酸化チタン(住友化学製「TP−S201」)を単独で用いて上述した光触媒活性の評価方法と同様の操作を行ない、アセトアルデヒドの分解反応(波長410nm以下の光をカットした光を照度5000ルクスで照射したときのアセトアルデヒドの分解反応)における反応開始から初期の3時間での一次反応速度定数を測定したところ、0.013h-1であった。
【0039】
(実施例2)
水73.3gに、非イオン性界面活性剤(Aldrich製「Brij56」) 4gを溶解させ、6モル%塩酸水溶液(和光純薬製)26.7gを添加した後、さらに、実施例1と同じ可視光応答型酸化チタン(住友化学製「TP−S201」)3.81gを添加して、室温で3時間攪拌した。次いで、高純度正珪酸エチル(多摩化学工業製)8.8gを添加し、室温で20時間攪拌した。その後、生じた固形物を濾過、水洗した後、室温にて乾燥し、空気中で500℃にて6時間焼成して有機物を除去し、光触媒体を得た。
得られた光触媒体は、細孔径が2.2nm、細孔容積が0.18cm3/g、BET比表面積が429m2/gのメソポーラス構造を有するものであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.073h-1であり、良好な光触媒活性を有していることがわかった。
【0040】
(実施例3)
温水115gに、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド (和光純薬製) 2.2gを溶解させ、28%アンモニア水溶液(和光純薬製)10.6gを添加した後、さらに、実施例1と同じ可視光応答型酸化チタン(住友化学製「TP−S201」)3.65gを添加して、室温で3時間攪拌した。次いで、高純度正珪酸エチル(多摩化学工業製)8.5gを添加し、室温で1時間攪拌した後、さらに1時間室温にて静置した。その後、生じた固形物を濾過、水洗した後、80℃にて一晩乾燥し、空気中で540℃にて6時間焼成して有機物を除去し、光触媒体を得た。
得られた光触媒体は、細孔径が2.5nm、細孔容積が0.32cm3/g、BET比表面積が417m2/gのメソポーラス構造を有するものであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.072h-1であり、良好な光触媒活性を有していることがわかった。
【0041】
(実施例4)
水110gに、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)(Aldrich製;数平均分子量:約5800)4gを溶解させ、実施例1と同じ可視光応答型酸化チタン(住友化学製「TP−S201」)3.83gを添加した後、さらに、メタけい酸ナトリウム九水和物(和光純薬製)12gを添加して溶解させた。次いで、室温で一晩(18時間)攪拌した後、6モル%塩酸水溶液(和光純薬製)40gを添加し、室温で一晩(18時間)攪拌した後、80℃で20時間加熱した。その後、生じた固形物を濾過、水洗した後、室温にて乾燥し、空気中で500℃にて6時間焼成して有機物を除去し、光触媒体を得た。
得られた光触媒体は、細孔径が5.6nm、細孔容積が0.34cm3/g、BET比表面積が379m2/gのメソポーラス構造を有するものであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.112h-1であり、良好な光触媒活性を有していることがわかった。
【0042】
(実施例5)
水110gに、非イオン性界面活性剤(Aldrich製「Brij56」)4gを溶解させ、実施例1と同じ可視光応答型酸化チタン(住友化学製「TP−S201」)3.83gを添加した後、さらに、メタけい酸ナトリウム九水和物(和光純薬製)12gを添加して溶解させた。次いで、室温で一晩(18時間)攪拌した後、6モル%塩酸水溶液(和光純薬製)40gを添加し、室温で一晩(18時間)攪拌した後、80℃で20時間加熱した。その後、生じた固形物を濾過、水洗した後、室温にて乾燥し、空気中で500℃にて6時間焼成して有機物を除去し、光触媒体を得た。
得られた光触媒体は、細孔径が3.0nm、細孔容積が0.40cm3/g、BET比表面積が482m2/gのメソポーラス構造を有するものであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.116h-1であり、良好な光触媒活性を有していることがわかった。
【0043】
(比較例1)
実施例1と同じ可視光応答型酸化チタン(住友化学製「TP−S201」)を多孔質シリカの複合体とせずに、そのまま用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.013h-1であった。
【0044】
(比較例2)
実施例3においてヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを用いないこと以外は、実施例3と同じ方法で、光触媒体を作製した。
得られた光触媒体は、実施例1〜5のようなメソポーラス構造を有しておらず、BET比表面積は22m2/gであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.019h-1であった。
【0045】
実施例1〜5と比較例1とを比較すると、可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応では、実施例1〜5の光触媒体は、多孔質シリカを含む分だけ酸化チタンの占める割合が少ないにも関わらず、格段に高い光触媒活性を示すことが明らかである。また、実施例3と比較例2を比較すると、細孔付与剤を用いずに作製した比較例2の光触媒体では、BET表面積が小さくなるため、充分な光触媒活性を示さないことが明らかである。
【0046】
(比較例3)
実施例1において用いた可視光応答型酸化チタンの代わりに、紫外応答型の酸化チタン(日本アエロジル製「P−25」;アナターゼ結晶相およびルチル結晶相、一次粒子径:21nm、BET比表面積:50m2/g、白色)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、光触媒体を作製した。
得られた光触媒体は、細孔径が5.6nm、細孔容積が0.58cm3/g、BET比表面積が398m2/gのメソポーラス構造を有するものであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.002h-1であった。
なお、上記の紫外応答型酸化チタン(日本アエロジル製「P−25」)を単独で用いて上述した光触媒活性の評価方法と同様の操作を行ない、アセトアルデヒドの分解反応(波長410nm以下の光をカットした光を照度5000ルクスで照射したときのアセトアルデヒドの分解反応)における反応開始から初期の3時間での一次反応速度定数を測定したところ、0.004h-1であった。
【0047】
(比較例4)
実施例3において用いた可視光応答型酸化チタンの代わりに、比較例3と同じ紫外応答型の酸化チタン(日本アエロジル製「P−25」)を用いたこと以外は、実施例3と同じ方法で、光触媒体を作製した。
得られた光触媒体は、細孔径が3.0nm、細孔容積が0.48cm3/g、BET比表面積が441m2/gのメソポーラス構造を有するものであった。また、この光触媒体を用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.003h-1であった。
【0048】
(比較例5)
比較例3と同じ紫外応答型の酸化チタン(日本アエロジル製「P−25」)を多孔質シリカの複合体とせずに、そのまま用いて可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、その光触媒活性を評価したところ、反応速度定数は0.004h-1であった。
【0049】
実施例1、3と比較例3〜5とを比較すると、可視光応答型酸化チタンを用いることにより、光触媒活性が著しく向上することが明らかである。
【0050】
(参考例1〜3)
比較例3〜5で得られた光触媒体もしくは光触媒(酸化チタンそのもの)を用いて、紫外光を含む蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行い、該アセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定した。すなわち、実施例および比較例で行った上述の光触媒活性の評価において、光照射の際の光源として紫外線カットフィルムを装着しない白色蛍光灯を用いたこと以外は上記評価方法と同様にして、紫外光を含む蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの分解反応を行った。
その結果、比較例3で得られた光触媒体を用いた場合(参考例1)の反応速度定数は0.425h-1であり、比較例4で得られた光触媒体を用いた場合(参考例2)の反応速度定数は0.474h-1であり、比較例5で得られた光触媒を用いた場合(参考例3)の反応速度定数は0.095h-1であった。
【0051】
参考例1〜2と参考例3とを比較すると、紫外応答型酸化チタンを用い、紫外光を含む蛍光灯の光を照射する場合であっても、多孔質シリカの複合体とすることにより光触媒活性は向上することがわかる。しかしながら、その光触媒活性の向上効果(向上倍率)は、可視光応答型酸化チタンを用いて、可視光照射下で、多孔質シリカとの複合化の有無を比較した場合よりも小さい。すなわち、紫外応答型酸化チタンを用いたこと以外は実施例1または実施例3と同様に多孔質シリカとの複合体とした参考例1または参考例2と、複合化していない参考例3とを比べると、光触媒活性(反応速度定数)は参考例1で4.5倍、参考例2で5.0倍向上している。これに対して、上述のように、可視光応答型酸化チタンを用いて可視光を照射した場合において、多孔質シリカとの複合体とした実施例1または実施例3と、複合化していない比較例1とを比べると、光触媒活性(反応速度定数)は実施例1で8.1倍、実施例3で5.5倍向上した。
ところで、参考例1および参考例2の光触媒体と、実施例1および実施例3の光触媒体との細孔寸法を比較すると、細孔径、細孔容積およびBET比表面積は参考例1および参考例2の方が、同等かそれ以上に大きい。したがって、光触媒活性の観点では参考例1および参考例2の方が明らかに有利である。このことに鑑みると、上述したように、実施例1および実施例3の方が光触媒活性の向上効果(向上倍率)が大きいことは、予想に反した結果であり、格段に優れた効果と言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光応答型光触媒酸化チタンと多孔質シリカとから形成された複合体であり、BET比表面積が200〜1000m2/g、細孔容積が0.10〜1.0cm3/g、細孔径が1〜10nmである、ことを特徴とする光触媒体。
【請求項2】
前記可視光応答型光触媒酸化チタンは、波長410nm以下の光をカットした光を照度5000ルクスで照射したときのアセトアルデヒドの分解反応において反応開始から初期の3時間での一次反応速度定数が0.008h-1以上となる酸化チタンである、請求項1記載の光触媒体。
【請求項3】
請求項1または2記載の光触媒体の製造方法であって、溶媒に可視光応答型光触媒酸化チタン粒子を分散させるとともに細孔付与剤を溶解させた後、加水分解性シリコン化合物を添加し、該加水分解性シリコン化合物を加水分解することにより得られた固形物を焼成する、ことを特徴とする光触媒体の製造方法。
【請求項4】
光触媒体と接触させた状態で光を照射することにより反応基質中の有機物を分解する方法であって、前記光触媒体として請求項1または2記載の光触媒体を用いるとともに、波長410nmを超える可視光を含む光を照射する、ことを特徴とする有機物の分解処理方法。

【公開番号】特開2009−131760(P2009−131760A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309338(P2007−309338)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】