説明

光触媒体の製造方法

【課題】 光触媒粒子が均一に、かつ表層の深部にまで進入して基材と強固に結合している光触媒体を、安価にしかも容易に製造できる方法を提供すること。
【解決手段】 焼成することにより製造される無機多孔質基材の表層に光触媒粒子を固定してなる光触媒体の製造方法であって、該無機多孔質基材を焼成して製造する際、該焼成後の冷却過程において光触媒粒子を無機多孔質基材の表層に焼付け固定させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルの屋上、外壁等に施工し、ヒートアイランド現象を抑制するのに好適に使用できる光触媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止に向けた取り組みの中で、都市部のヒートアイランド現象の緩和が注目され、既に、屋上緑化等の方策が推進されている。
しかし、この屋上緑化は、木、草花等の生体を扱う都合上、そのメンテナンスに細心の注意が必要となり、容易に実施し得る方法ではなかった。
【0003】
また、保水性を有する材料、例えば多孔質の軽量骨材、レンガ、タイル等をビルの屋上、外壁等に施工し、その材料中に蓄えられた水分の気化潜熱によってヒートアイランド現象を抑制しようとする試みもあるが、この場合には、該保水性を有する材料の施工後、その表面にコケ等の生体が付着し繁殖すると、外観が不良となると共に、保水機能の低下によって潜熱吸収の機能が損なわれる等の問題があった。
【0004】
一方、酸化チタン等の光触媒粒子が有する光触媒作用、即ち、有害物質の除去作用、有機物、大気中のアンモニア、硫黄化合物等の分解作用、細菌類の殺菌作用等が注目され、さまざまな分野で応用されている。
【0005】
ここで、酸化チタン等の光触媒粒子それ自体は微粒子であり、そのまま光触媒として用いると、反応後の固気分離や固液分離が困難なため、光触媒粒子より大きな基材、例えば多孔質の軽量骨材等に光触媒粒子を固定させて利用することが成されており、この基材上に光触媒用粒子を固定させる方法としては、例えば、以下のものが提案されている。
【0006】
特許文献1には、結合剤としての水性無機物質及び水に光触媒粒子を分散させてその光触媒粒子濃度を5〜30wt%に調整した塗料に、人工軽量骨材を浸漬(ドブ漬け)することにより該人工軽量骨材の表面に前記塗料を常温で付着させた後、100〜900℃で加熱処理する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、多孔質セラミック体の表面に光触媒粉末の懸濁液を常温で付着させた後、該多孔質セラミック体を真空チャンバー内に入れて脱気することにより付着させた光触媒粉末を乾燥固定すると共に表層内部に浸透させ、その後、400〜850℃で焼成し、焼付けることによる光触媒粉末を多孔質セラミック体の表層内部にまで固定する技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−144939号公報
【特許文献2】特開2001−198475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した特許文献に開示された技術にあっては、以下の欠点があった。 先ず、上記両特許文献に記載された技術は、いずれも冷えた基材上に光触媒粒子を分散させた塗料或いは懸濁液を接触させるものであるため、定着するのに時間がかかると共に、乾燥過程で光触媒粒子が凝集し易く、均一に光触媒粒子を付着させることが困難であり、また必要以上の光触媒粒子を浪費する憂いがあった。更に、付着させた光触媒粒子を基材に固定するにあたって、別途独立した加熱工程(特許文献1にあっては100〜900℃での加熱処理、特許文献2にあっては400〜850℃での加熱処理)を設けているため、この加熱工程でも基材の変形などにより均一な光触媒粒子の付着が阻害されることが懸念されると共に、経済性において課題があった。
【0010】
また、上記特許文献1に記載された技術においては、単に光触媒粒子を混合した塗料に冷えた基材を浸漬することにより該基材表面に塗料を付着させているのみであるため、基材に存在する孔に光触媒粒子が深く進入することはなく、表面のみに光触媒粒子が固定された光触媒体が得られるので、耐汚性や耐久性の面で十分とは言えず、持続性の高い光触媒作用を期待できるものではなかった。一方、特許文献2に記載された技術は、光触媒粉末の懸濁液を付着させた後に基材を真空チャンバー内に入れ、脱気することにより付着させた光触媒粉末を乾燥固定すると共に表層内部に浸透させることが成されているため、表面のみならず孔内にも深く光触媒粒子が進入した光触媒体が得られるものの、かかる技術においては、製造工程が複雑であり、また脱気のためのエネルギーも別途必要となるため、経済性において更なる課題を有するものであった。
【0011】
本発明は上述した背景技術が有する課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、光触媒粒子が均一に、かつ表層の深部にまで進入して基材と強固に結合している光触媒体を、安価にしかも容易に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するため、本発明に係る光触媒体の製造方法は、焼成することにより製造される無機多孔質基材の表層に光触媒粒子を固定してなる光触媒体の製造方法であって、該無機多孔質基材を焼成して製造する際、該焼成後の冷却過程において光触媒粒子を無機多孔質基材の表層に焼付け固定させることを特徴とする。
【0013】
ここで、上記本発明に係る光触媒体の製造方法において、上記光触媒粒子の焼付け固定は、光触媒粒子の懸濁液の無機多孔質基材への熱間吸水により行うことが好ましく、また、前記熱間吸水は、表層温度が800〜200℃にある無機多孔質基材に光触媒粒子の懸濁液を散布して行う、或いは表層温度が800〜200℃にある無機多孔質基材を光触媒粒子の懸濁液に浸漬(ドブ漬け)して行うことが好ましい。また、上記無機多孔質基材は、人工軽量骨材であることが好ましい。
なお、本発明において言う上記熱間吸水は、人工軽量骨材の製造などにおいて適宜行われているものであり、吸水率の高い人工軽量骨材の出荷後の水分変動を低く抑えるために、焼成後の冷却過程において水を散布、或いは水に浸漬することにより人工軽量骨材の孔の深部にまで水を浸透させる作用機構を有するものである。本発明の好ましい実施の形態は、かかる熱間吸水を光触媒粒子の焼付け固定に利用するものである。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明に係る光触媒体の製造方法によれば、無機多孔質基材を焼成して製造する際、該焼成後の冷却過程において光触媒粒子を無機多孔質基材の表層に焼付け固定させるものであるため、従来無機多孔質基材の製造のためだけに用いられていた無機多孔質基材の製造時の熱エネルギーの有効活用が図れ、経済的に無機多孔質基材の表層に光触媒粒子を強固に固定することができる。
また、上記光触媒粒子の焼付け固定を、光触媒粒子の懸濁液の無機多孔質基材への熱間吸水により行うこととすると、光触媒粒子が均一に、かつ表層の深部にまで進入して基材と強固に結合している光触媒体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、上記した本発明に係る光触媒体の製造方法の実施の形態を、詳細に説明する。
【0016】
−使用材料−
A.無機多孔質基材
本発明において用いられる無機多孔質基材としては、焼成することによって製造される、例えば人工軽量骨材、レンガ、タイル、陶器、人工軽石、多孔質セラミック等の無機多孔質体が挙げられ、人工軽量骨材には、造粒型と非造粒型の両者が含まれる。
【0017】
上記した無機多孔質基材の気孔は、その孔径が10〜100μm、更には30〜50μmであることが好ましく、またその気孔率は、5〜30%、更には10〜20%であることが好ましい。またその気孔は、連続気孔であることが好ましい。
このような気孔を有する無機多孔質基材は、気孔内に光触媒粒子を十分に担持することができ、また高い保水性を有するためにヒートアイランド現象を抑制するための建材として好適であり好ましい。
【0018】
また、本発明の光触媒体を土木建築資材として用いる場合、無機多孔質基材は、実用上十分な強度を有するものである必要があり、その圧壊強度は0.1kN以上、更には0.5kN以上であることが好ましい。また、大きさは、その使用用途によって大きく異なり、特に限定するものではないが、塊状或いは粒状の光触媒体とし、屋上等にばら蒔いて使用する場合には、その平均粒径は10〜30mm程度が適当であり、直方体形状或いは板形状の光触媒体とし、ビルの外壁材等として貼り付けて使用する場合には、施工性等の観点から、縦・横の長さは5〜10cm程度のものであることが好ましい。
【0019】
上記した基材としての条件を満たす無機多孔質体の中でも、人工軽量骨材、特に、膨張頁岩を粗砕し、粒度を調整した後、焼成炉において1100〜1300℃で加熱発泡させて製造される非造粒型の人工軽量骨材が好ましい。これは、かかる人工軽量骨材は、比較的孔径の大きな連続気孔を有すると共に、圧壊強度も実用的に十分であり、かつ本願発明の方法を製造工程に容易に組み込め安価に製造できるために好ましい。
【0020】
B.光触媒粒子
本発明において用いられる光触媒粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化モリブデン、及び酸化インジウムの少なくとも1種を用いることができ、中でも酸化チタン、酸化亜鉛及びチタン酸ストロンチウムが好ましく、特には、酸化チタンが、光触媒作用に優れ、化学的に安定であり、かつ無害であることから好ましい。
【0021】
光触媒粒子が酸化チタンの場合は、アナタ−ゼ型が好ましく、その比表面積は100〜300m2 /gが好ましく、特には200〜300m2 /gが好ましい。また、酸化チタンの粒子径は、5〜30nmが好ましく、さらに好ましくは5〜10nmである。
【0022】
上記酸化チタン同様に、他の光触媒粒子においても純度は特に規定されず、必要によってはバンドギャップの調整を目的に、適当な不純物を添加して用いることができる。
【0023】
−製造方法−
本発明に係る光触媒体の製造方法は、上記した無機多孔質基材を焼成して製造する際、該焼成後の冷却過程において上記した光触媒粒子を無機多孔質基材の表層に焼付け固定させるものである。
【0024】
具体的には、図1に示したフローのように、例えば非造粒型の人工軽量骨材は、膨張頁岩等の原料をジョークラッシャ、ハンマークラシャ等で粉砕し、粒度を調整した後に、ロータリーキルン等の焼成炉において1100〜1300℃で焼成され、その後、冷却過程に送られる。また、造粒型の人工軽量骨材は、焼却灰類、石炭灰、砕石粉等に、バインダーとして作用する粘土鉱物類を添加し、混練後、押出し成形機等で粒状に成型した後、同じく焼成炉において1100〜1300℃で焼成され、その後、冷却過程に送られる。また、図示は省略したが、レンガ或いはタイル等も、粘土に砂、更には石炭灰、下水汚泥、都市ゴミ溶融スラグ等を練り混ぜ、直方体形状或いは板形状に成型した後、焼成炉において1200℃以上で焼成され、その後、冷却過程に送られる。なお、冷却過程は、焼成炉出口(ロータリーキルンの場合は、キルン落口)からクーラーでの強制冷却や自然冷却の過程を指す。
【0025】
上記焼成後の冷却過程に送られた人工軽量骨材等の無機多孔質基材は、まだかなり高温であるため、かかる焼成後の冷却過程における無機多孔質基材が有する熱エネルギーを利用し、図1のフローに示したように、光触媒粒子をその表層に焼付け固定させる。
【0026】
上記光触媒粒子の焼付け固定は、図1のフローに示したように、光触媒粒子を秤量し、水と混合した懸濁液を作成し、該光触媒粒子の懸濁液の無機多孔質基材への熱間吸水により行うことが好ましい。この熱間吸水は、吸水率の高い人工軽量骨材の出荷後の水分変動を低く抑えるために、冷却過程において水を散布、或いは水に浸漬することにより人工軽量骨材の孔の深部にまで水を浸透させる作用機構を有するものであるが、この熱間吸水を光触媒粒子の焼付け固定に利用することにより、光触媒粒子を均一に、かつ孔の表層深部にまで進入させた状態で基材に強固に固定させることができる。
これは、光触媒粒子を懸濁液の状態で高温の無機多孔質基材に接触させると、その懸濁液中の水分が蒸散し、この蒸散エネルギーによって光触媒粒子が効率よく分散されると共に、無機多孔質基材の温度が急激に低下し、該基材内部が負の圧力状態となるために光触媒粒子が孔の表層深部にまで吸引されるためである。なお、表層深部とは、表面から2mm程度をいう。
【0027】
上記熱間吸水は、表層温度が800〜200℃にある無機多孔質基材に光触媒粒子の懸濁液を散布して行う、或いは表層温度が800〜200℃にある無機多孔質基材を光触媒粒子の懸濁液に浸漬(ドブ漬け)して行うことが好ましい。より好ましくは800〜450℃である。
これは、200℃より低い温度の無機多孔質基材に光触媒粒子を接触させても、焼付けによる無機多孔質基材への接合強度は弱く、剥離、脱落してしまう憂いがあるためであり、逆に800℃を超える温度の無機多孔質基材に光触媒粒子を接触させると、光触媒粒子の結晶成長により比表面積が低下したり、ルチル型に転移するなどして、光触媒機能が低下してしまうために好ましくない。
なお、無機多孔質基材に光触媒粒子の懸濁液を散布する設備、或いは無機多孔質基材を光触媒粒子の懸濁液に浸漬(ドブ漬け)する設備は、従来の人工軽量骨材の出荷後の水分変動を抑えるために行われている熱間吸水の設備や、セメント製造における散水設備を利用することができる。また、表層温度の確認は、光高温計などにより行えばよい。
【0028】
また、上記光触媒粒子の懸濁液の濃度は、流動性、分散性、更には施工性等の観点から、5〜20wt%が好ましく、さらには5〜10wt%が好ましい。また、無機多孔質基材の表層に焼付け固定させる光触媒粒子の量については、特に制限はないが、上限としては、該無機多孔質基材の保水性、即ち、水の気孔内への進入を阻害しない程度の量であることが好ましく、焼付けた光触媒粒子の層厚は、1〜3μm程度が望ましい。
なお、この光触媒粒子の固定量についての調整は、浸漬(ドブ漬け)による場合には、光触媒粒子の懸濁液の濃度や浸漬時間を適宜調整することにより行なうことができ、また、散布による場合には、光触媒粒子の懸濁液の濃度、散布時間、更には散布量を適宜調整することにより行なうことができる。
【0029】
上記した光触媒粒子の焼付け固定をへた無機多孔質基材は、図1のフローに示したように、その後、自然乾燥され、光触媒体として出荷される。
【0030】
上記のようにして製造された光触媒体は、無機多孔質基材の製造時の熱、即ち、無機多孔質基材の焼成後の排熱・余熱を利用して、該無機多孔質基材の表層に光触媒粒子が焼付け固定されているため、光触媒粒子の有する活性を低下させることなく、該光触媒粒子の基材への強固な固定が実現されている。
また、無機多孔質基材の表層に光触媒粒子が焼付け固定されているため、紫外線を受けると、光触媒作用、即ち大気浄化作用や有機物分解作用等が発揮される。そして、その作用は、光触媒粒子が、無機多孔質基材の表層の深部にまで進入しているため、無機多孔質基材の表面部が侵食したり摩耗したりしたとしても、新たにその表層内部に進入していた光触媒粒子が表面に表れることとなり、光触媒作用が、長期間に渡って発揮されるものとなる。
【0031】
−使用用途−
上記のようにして製造された本発明の光触媒体は、保水性能(吸放水性能)と光触媒性能を併せ持つので、日光のあたる部位に施工され、適当な時期に散水されることによって、ヒートアイランド現象を抑制するのに好適に使用される。
【0032】
例えば、光触媒体を施工する部位としては、基材が人工軽量骨材であり、光触媒体が不定形状の塊状、粒状を呈するものである場合には、都心のビルの屋上、歩道、公園等に該塊状、粒状の光触媒体をばら蒔き、石の庭園、砂利道等を形成することが好ましく、また、基材がレンガ、或いはタイルであり、光触媒体が定形の直方体形状、或いは板形状を呈するものである場合には、都心のビルの外壁材等として、該直方体形状、或いは板形状の光触媒体を貼り付け、外壁面を形成することも好ましい。
【0033】
また、施工した光触媒体に対する散水は、該光触媒体に保水された水が蒸発しきった時点で成されることが好ましく、散水する水として貯留した雨水を使用すると共に、該雨水を散水する電力として太陽電池に蓄えられた電力を使用し、日射の強さに応じて散水する仕組みとすれば、効率的、かつ経済的なシステムを構築できる。
【0034】
上記のように本発明の製造方法で得られる光触媒体を用いたヒートアイランド現象の抑制方法では、散水により無機多孔質基材中に蓄えられた水分が徐々に気化し、その際の潜熱吸収によって周囲の熱が奪われ、ヒートアイランド現象が効果的に抑制できると共に、該無機多孔質基材の表層に固定された光触媒粒子に日光があたり、光触媒作用によって有機物、例えば無機多孔質基材の表面に付着したコケ等が分解されるため、外観および保水機能を損なうコケ等の繁殖の憂いがなく、メンテナンスが容易で、普及し易いヒートアイランド現象の抑制方法となる。
【0035】
以下に実施例を挙げて、本発明の内容をより詳細に説明するが、これら実施例はあくまでも例示であり、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
−光触媒体の製造−
【0037】
実施例1
膨張頁岩(淡路島産)を粗砕し、粒径5〜15mmに粒度を調整した後、該原料粗砕物をロータリーキルンに投入し、焼成温度1200℃、焼成時間30分で加熱発泡させた。 続いて、ロータリーキルンより排出されたクーラー内の焼成物に対し、該焼成物の表面温度が600℃になった時点において、酸化チタン(石原産業社製、ST−01、アナターゼ型、比表面積300m2 /g、平均粒子径7μm)濃度が5wt%の懸濁液をクーラーに設置した複数のノズルから散布し、焼成物の表層に酸化チタンが固定化された光触媒体を得た。
【0038】
実施例2
ロータリーキルンより排出されたクーラー出口の焼成物(表面温度を光高温計で測定したところ、200℃であった。)に対して、酸化チタンの懸濁液を上記実施例1と同様の方法で散布し、焼成物の表層に酸化チタンが固定化された光触媒体を得た。
【0039】
実施例3
焼却灰類(RDF発電流動床炉飛灰)20wt%、石炭灰(火力発電所のフライアッシュ)35wt%、砕石粉(真珠岩破砕ダスト)20wt%、粘土鉱物類(ベントナイト)5wt%、水20wt%を混練し、該混練物を70×70×5mmのタイルに成形し、該成形物を乾燥後、焼成炉(電気炉)において焼成温度1230℃、焼成時間60分で焼成した。
続いて、焼成炉より出した焼成物の表面温度が500℃になった時点において、該焼成物を酸化チタンの懸濁液(実施例1と同じ)を満たした容器に5秒間浸漬し、焼成物の表層に酸化チタンが固定化された光触媒体を得た。
【0040】
比較例1
ロータリーキルンより排出されたキルン落口の焼成物(表面温度を光高温計で測定したところ、1000℃であった。)に対して、酸化チタンの懸濁液(実施例1と同じ)を複数のノズルから散布し、焼成物の表層に酸化チタンが固定化された光触媒体を得た。
【0041】
比較例2
焼成炉より出した焼成物の表面温度が150℃になった時点において、該焼成物を、酸化チタンの懸濁液(実施例1と同じ)を満たした容器に10秒間浸漬した以外は、上記実施例3と同様の方法によって、焼成物の表層に酸化チタンが固定化された光触媒体を得た。
【0042】
−光触媒体の性能試験−
【0043】
酸化チタンの基材への固定化確認試験
走査型電子顕微鏡を用い、製造した各光触媒体に超音波振動(周波数30KHz、出力600W)を加える前と、加えた後の酸化チタン粒子の基材への固定状況を観察したところ、実施例1〜3の光触媒体、及び比較例1の光触媒体においては、その前後における酸化チタン粒子の剥離、脱落は認められず、その基材の表層の細孔深部にまで酸化チタン粒子が進入し、基材と強固に固定していることが確認された。一方、比較例2の光触媒体は、超音波振動によって酸化チタン粒子の剥離、脱落が顕著に認められ、基材への固定化が不十分であることが確認された。
【0044】
光触媒作用の確認試験
塊状、粒状を呈する光触媒体については、攪拌混合器を用いて光触媒体同士を弱い力で擦り合わせることにより、また、板状を呈する光触媒体については、手で2枚の板状光触媒体同士を擦り合わせることにより、各々その表面を若干(100μm程度)削り取った光触媒体とし、その各光触媒体について、抗菌性の試験を行った。
抗菌性の試験は、リン酸緩衝液に大腸菌溶液を加え、菌数が105程度になるように各光触媒体の表面に接種し、これに紫外線(ブラックライト38〜40Wm-2)を3時間照射した後、生存菌数を洗い出し、混釈平板培養法により生存菌数を測定することにより行った。
上記試験を行なったところ、実施例1〜3の光触媒体においては、顕著な光触媒作用が認められたが、比較例1及び2の光触媒体においては、光触媒作用が認められなかった。これは、比較例1の製造方法にあっては、酸化チタンを接触させた焼成物の表面温度が1000℃と高く、懸濁液の状態で接触させた場合においても、酸化チタンが熱転移を起こし、ルチル型の酸化チタンが多くなり、活性が低下したためと考えられる。また、比較例2の製造方法にあっては、酸化チタンを接触させた焼成物の温度が150℃と低く、熱間吸水による作用が表れず、表面のみに酸化チタンが固定された状態となり、しかもその固定状態も十分ではなく、擦り合わせによって多くの酸化チタンが剥離、脱落してしまったためと考えられる。
これに対し実施例1〜3の製造方法にあっては、熱間吸水により酸化チタンが基材の表層深部にまで進入し、基材と強固に結合している光触媒体が得られ、これによって、表面を削り取った場合においても、表層深部に固定された酸化チタンが表面に現れ、顕著な光触媒作用を発揮し得たものと考えられる。
【0045】
−結 論−
上記した実施例及び比較例から、光触媒粒子の懸濁液を、焼成後の無機多孔質基材の表面温度、即ち、焼成炉における焼成が終了し、焼成炉から排出されて冷却過程に入った無機多孔質基材の表面温度が、800〜200℃、更には800〜450℃に冷却された時点において該無機多孔質基材に接触させることによって、無機多孔質基材の表層の深部にまで光触媒粒子が強固に固定された、光触媒作用に優れた光触媒体が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る光触媒体の製造方法の好ましい実施の形態を示したフローである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成することにより製造される無機多孔質基材の表層に光触媒粒子を固定してなる光触媒体の製造方法であって、該無機多孔質基材を焼成して製造する際、該焼成後の冷却過程において光触媒粒子を無機多孔質基材の表層に焼付け固定させることを特徴とする、光触媒体の製造方法。
【請求項2】
上記焼付け固定が、光触媒粒子の懸濁液の無機多孔質基材への熱間吸水により行われることを特徴とする、請求項1に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項3】
上記熱間吸水が、無機多孔質基材の表層温度が800〜200℃にある時点において、該無機多孔質基材に光触媒粒子の懸濁液を散布することにより行われることを特徴とする、請求項2に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項4】
上記熱間吸水が、無機多孔質基材の表層温度が800〜200℃にある時点において、該無機多孔質基材を光触媒粒子の懸濁液に浸漬(ドブ漬け)することにより行われることを特徴とする、請求項2に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項5】
上記無機多孔質基材が、人工軽量骨材であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−83195(P2007−83195A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277135(P2005−277135)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】