説明

光触媒体及びその製造方法

【課題】
ベースとなるチタンに光触媒となる酸化チタン粒子をより安定的に担持できるようにする。
【解決手段】
ベース(2)となるチタンに、光触媒層(3)となるアナターゼ型酸化チタン粒子(4…)が担持された光触媒体において、ベース(2)の表面に酸化チタン粒子(4…)を担持させる表面処理層(5)が形成されると共に、当該表面処理層(5)として、ベース(2)の表面にプラズマ処理を施した表面改質層(6)を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線環境下で空気や水に含まれる汚染物質を分解する光触媒体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アナターゼ型酸化チタンは光触媒として優れた機能を有することが知られているが、金属との親和性に乏しく、金属製のベースに安定的に担持させることが難しい。
同種金属のチタンをベースとする場合であっても、その表面に焼成などにより担持されたアナターゼ型酸化チタンは、その表面から脱落しやすいという問題があった。
【0003】
そこで従来より、図6に示すように、ベース61となるチタンの表面を陽極酸化処理することにより、その表面に同種物質である酸化チタンからなる陽極酸化皮膜62を形成し、光触媒層63となるアナターゼ型酸化チタン粒子64との親和性を向上させることにより光触媒を安定的に担持させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
この場合、光触媒として担持される酸化チタン粒子64の結着性は、ベース61となるチタンと陽極酸化皮膜62の結着性と、陽極酸化皮膜62と酸化チタン粒子63の結着性に依存するが、双方とも結着性は高く、ベース61となるチタンに光触媒となる酸化チタン粒子を直接担持させる場合に比べれば、はるかに安定的に光触媒を担持させることができる。
【0005】
しかしながら、ベース61の表面と光触媒層63の間に二つの結着要素が存在するため、何らかの原因で一方の結着性が弱くなれば、光触媒の結着性が低下するという問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−312829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、ベースとなるチタンに光触媒となる酸化チタン粒子をより安定的に担持できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、ベースとなるチタンに、光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子が担持された光触媒体において、前記ベースの表面に前記酸化チタン粒子を担持させる表面処理層が形成されると共に、当該表面処理層として、ベースとなるチタン表面にプラズマ処理を施した表面改質層が形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ベースとなるチタンの表面に、酸化チタン粒子を担持させる表面処理層が形成され、その表面処理層はベースとなるチタン表面にプラズマ処理を施して表面改質したものであり、表面に何かを付着させて形成したものではないので、ベースと完全に一体化されており、表面処理層とベースが剥離を起こすことがない。
【0010】
そして、プラズマ処理された表面に、光触媒となるアナターゼ型酸化チタン粒子が焼成されているが、その結着性は、ベースとなるチタンの表面に形成された陽極酸化皮膜との結着性に比して十分に高かった。
これは、ベースの表面をプラズマ処理することにより、イオンが衝突して表面に付着している不純物を除去することができるため結着性が向上するだけでなく、表面に微細な凹凸が形成されてこの凹凸に酸化チタン粒子が引っかかるため結着性が向上しているものと考えることができる。
【0011】
また、表面処理層として、ベースとなるチタン表面に大気圧プラズマ処理を施すだけでなく、さらにその表面に陽極酸化処理を施した場合でも、ベースとなるチタンの表面に陽極酸化皮膜を直接形成する場合に比して、光触媒の結着性は十分に高かった。
これは、プラズマ処理されていないベースの表面と陽極酸化皮膜との結着性よりも、プラズマ処理されたベースの表面と陽極酸化皮膜との結着性の方が高いためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る光触媒体を示す模式断面図。
【図2】その製造方法を示す説明図。
【図3】本発明に係る光触媒体の他の実施例を示す模式断面図。
【図4】その製造方法を示す説明図。
【図5】本発明に係る光触媒体をファンとして用いた空気清浄機を示す説明図。
【図6】従来の光触媒体を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ベースとなるチタンに光触媒となる酸化チタン粒子をより安定的に担持するという目的を達成するために、ベースとなるチタンに、光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子が担持された光触媒体において、前記ベースの表面に前記酸化チタン粒子を担持させる表面処理層が形成されると共に、当該表面処理層として、ベースとなるチタン表面にプラズマ処理を施して表面改質層を形成した。
【実施例1】
【0014】
本例の光触媒体1は、図1に示すように、ベース2となる板状純チタンに、光触媒層3となるアナターゼ型酸化チタン粒子4…が担持されている。
ベース2の表面には、酸化チタン粒子4…を担持させる表面処理層5が形成されており、その表面処理層5として、本例では、ベース2の表面にプラズマ処理を施した表面改質層6が形成されている。
【0015】
図2は、光触媒体1の製造方法を示し、ベース2の表面に酸化チタン粒子4…を担持させるための表面処理層5を形成する表面処理工程P1と、その表面処理層5に光触媒層3となるアナターゼ型酸化チタン粒子4…を担持させる焼成工程P2からなる。
【0016】
表面処理工程P1では、ベース2となる板状純チタンの片面あるいは両面(光触媒層3を形成しようとする面)にプラズマ処理を施す。
未処理の板状純チタンは、図2(a)に示すように、その表面2aが平滑であり、そのままでは光触媒が担持されにくいので、この点を改質する。
【0017】
プラズマ処理を行う大気圧プラズマ処理装置11は、例えば図2(b)に示すように、ガス流路12の両側にプラズマ生成用平行電極13A,13Bが配されたプラズマトーチ14を備えており、前記電極13A,13B間で生成されたプラズマをその直下を通る被処理物(ベース2)に噴き付けることができるようになっており、プラズマが噴き付けられた被処理物の表面はプラズマイオンの衝突により浄化され、活性化されると共に、表面改質が行われる。
【0018】
改質された表面2bは、図2(c)に示すように、ナノメートルオーダーの微細な先鋭棘状山型突起15…が多数形成されており、これが表面改質層6となって前記表面処理層5を形成している。
【0019】
次いで、その表面処理層5にアナターゼ型酸化チタン粒子4…を担持させる焼成工程P2を行う。
焼成工程P2では、図2(d)に示すように、表面処理工程P1を終了したベース2の表面処理層5に、アナターゼ型酸化チタン粒子4…が分散されたスラリー16を塗布し、あるいは、ベース2をスラリー16中にディッピングした後、図2(e)に示すように焼成炉17で550℃で焼き付けると、図2(f)に示すように、スラリー16の分散剤が蒸発し、表面処理層5の上にアナターゼ型酸化チタン粒子4…が焼き付けられて担持され、これにより光触媒層3が形成されて光触媒体1が完成する。
【0020】
このとき、表面処理層5の表面はプラズマ処理されて浄化され、その表面に付着していた不純物が除去されて結着性が向上するだけでなく、その表面が活性化され、さらに、その表面にナノメートルオーダーの微細な先鋭棘状山型突起が多数形成されるため、その凹部に酸化チタン粒子4…が引っかかりやすく、光触媒層3が表面処理層5に強固に結着されることとなる。
したがって、光触媒層3を形成する酸化チタン粒子4…が脱落しにくい。
【0021】
このように形成された板状の光触媒体1を、例えば空気清浄機や浄水器の送風送水ファンなどに用いれば、別途光触媒フィルタなどを装着することなく、光触媒による空気清浄効果、浄水効果が期待できる。
例えば、図3に示す空気清浄機21は、空気処理室22にモータ23で駆動される送風ファン24が配されており、空気流入口25から未処理空気を吸い込んで、空気流出口26から処理済空気を流出する。
送風ファン24のブレード27は、板状の光触媒体1により形成されており、送付ファン24の周囲には、その光触媒体1に担持された光触媒層3を紫外線励起するLEDなどの紫外線光源28…が配されている。
これによれば、紫外線光源28…を点灯させた状態で送風ファン24を回転することにより、空気流入口25から吸い込まれた未処理空気が、紫外線励起された光触媒層3にあたって拡販されるので、別途光触媒フィルタなどを設けるまでもなく、空気浄化が可能となる。
なお、浄水器として使用する場合は、モータ23及び光源26…を防水処理をして配すればよい。
【実施例2】
【0022】
図4は本発明の他の実施形態を示す。なお、実施例1と共通する部分は同一符号を付して説明する。
本例の光触媒体31は、図4に示すように、ベース2となる板状純チタンに、光触媒層3となるアナターゼ型酸化チタン粒子4…が担持されている。
ベース2の表面には、酸化チタン粒子4…を担持させる表面処理層5が形成されており、その表面処理層5として、ベース2の表面にプラズマ処理を施した表面改質層6と、さらにその表面に陽極酸化処理を施した陽極酸化皮膜層32が形成されている。
【0023】
図5は、光触媒体31の製造方法を示し、ベース2の表面に酸化チタン粒子4…を担持させるための表面処理層5を形成する表面処理工程P1と、その表面処理層5に光触媒層3となるアナターゼ型酸化チタン粒子4…を担持させる焼成工程P2からなり、表面処理工程P1は、ベース2となるチタンの表面改質を行うプラズマ処理工程P11と、さらにその表面に陽極酸化皮膜層32を形成する陽極酸化処理工程P12とからなる。
【0024】
プラズマ処理工程P11では、ベース2となる板状純チタンの片面あるいは両面(光触媒層3を形成しようとする面)にプラズマ処理を施す。
未処理の板状純チタンは、図5(a)に示すように、その表面が平滑であるため、後処理される陽極酸化皮膜32の密着性を向上させるため、プラズマ処理を行う。
【0025】
プラズマ処理を行う大気圧プラズマ処理装置11は、例えば図5(b)に示すように、ガス流路12の両側にプラズマ生成用平行電極13A,13Bが配されたプラズマトーチ14を備えており、前記電極13A,13B間で生成されたプラズマをその直下を通る被処理物(ベース2)に噴き付けることができるようになっており、プラズマが噴き付けられた被処理物の表面はプラズマイオンの衝突により浄化され、活性化されると共に、表面改質が行われる。
【0026】
改質された表面は、図5(c)に示すように、ナノメートルオーダーの微細な先鋭棘状山型突起15…が多数形成されており、これが表面改質層6となる。
【0027】
次いで、その表面に陽極酸化皮膜層32を形成する陽極酸化処理P12を行う。
陽極酸化処理工程P12は、図5(d)に示すように、リン酸浴(例えばリン酸3%水溶液)中で、陽極となる板状純チタン(ベース2)と陰極との間に所定電圧を印加して行われ、その結果、図5(e)に示すように、ベース2の表面が酸化されて酸化チタンからなる陽極酸化皮膜層32が形成される。
【0028】
このとき、陽極酸化皮膜層32が形成される表面改質層6の表面は、プラズマ処理により浄化され、その表面に付着していた不純物が除去されて結着性が向上するだけでなく、その表面が活性化され、さらに、その表面にナノメートルオーダーの微細な先鋭棘状山型突起が多数形成されるため、濡れ性が向上され、その表面に均一で強固に結着された陽極酸化皮膜層32を形成することができる。
【0029】
次いで、プラズマ処理による表面改質層6及び陽極酸化皮膜層32からななる表面処理層5にアナターゼ型酸化チタン粒子4…を担持させる焼成工程P2を行う。
焼成工程P2では、図5(f)に示すように、表面処理工程P1を終了したベース2の表面処理層5に、アナターゼ型酸化チタン粒子4…が分散されたスラリー16を塗布し、あるいは、ベース2をスラリー16中にディッピングした後、図5(g)に示すように焼成炉17で550℃で焼き付けると、図2(h)に示すように、スラリー16の分散剤が蒸発し、表面処理層5の上にアナターゼ型酸化チタン粒子4…が焼き付けられて担持され、これにより光触媒層3が形成されて光触媒体31が完成する。
【0030】
このとき、表面処理層5の陽極酸化皮膜層32は酸化チタンで形成されているため、触媒層を形成するアナターゼ型酸化チタン粒子4…との結着性が高く、また、その表面2cにはナノメートルオーダーの微細な膨れ33…が多数形成されるため、隣接する膨れ33の間の凹部に酸化チタン粒子4…が引っかかり、形状的にも光触媒層3が表面処理層5に強固に結着されることとなる。
そして、光触媒層3を形成する酸化チタン粒子4…を直接担持する陽極酸化皮膜層32は、ベース2の表面をプラズマ処理した表面改質層6に強固に結着されているため、光触媒層3の酸化チタン粒子4…は脱落しにくい。
【0031】
なお、このように形成された板状の光触媒体31を、図3に示すような空気清浄機や浄水器の送風送水ファンなどに用いれば、別途光触媒フィルタなどを装着することなく、光触媒による空気清浄効果、浄水効果が期待できる点は、実施例1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、紫外線環境下で空気や水に含まれる汚染物質を分解する光触媒体に用いて好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 光触媒体
2 ベース
3 光触媒層
4 アナターゼ型酸化チタン粒子
5 表面処理層
6 表面改質層
P1 表面処理工程
P2 焼成工程
21 空気清浄機
24 送風ファン
27 ブレード
31 光触媒体
32 陽極酸化皮膜層
33 膨れ
P11 プラズマ処理工程
P12 陽極酸化処理工程



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースとなるチタンに、光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子が担持された光触媒体において、
前記ベースの表面に前記酸化チタン粒子を担持させる表面処理層が形成されると共に、当該表面処理層として、ベースとなるチタン表面にプラズマ処理を施した表面改質層が形成されたことを特徴とする光色媒体。
【請求項2】
ベースとなるチタンに、光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子が担持された光触媒体において、
前記ベースの表面に前記酸化チタン粒子を担持させる表面処理層が形成されると共に、当該表面処理層として、ベースとなるチタン表面にプラズマ処理を施した表面改質層と、さらにその表面に陽極酸化処理を施した陽極酸化皮膜層が形成されたことを特徴とする光色媒体。
【請求項3】
前記請求項1又は2の光触媒体を板状に形成し、その板状の光色媒体でブレードが形成された空気清浄機用又は浄水機用の送風送水ファン。
【請求項4】
ベースとなるチタンに、光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子が担持された光触媒体の製造方法において、
前記ベースの表面に前記酸化チタン粒子を担持させる表面処理層を形成する表面処理工程と、その表面処理層に光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子を担持させる焼成工程を有し、
前記表面処理工程が、ベースとなるチタンの表面改質を行うプラズマ処理工程であることを特徴とする光色媒体の製造方法。
【請求項5】
ベースとなるチタンに、光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子が担持された光触媒体の製造方法において、
前記ベースの表面に、前記酸化チタン粒子を担持させる表面処理層を形成する表面処理工程と、その表面処理層に光触媒層となるアナターゼ型酸化チタン粒子を担持させる焼成工程を有し、
前記表面処理工程が、ベースとなるチタンの表面改質を行うプラズマ処理工程と、さらにその表面に陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化処理工程とからなることを特徴とする光色媒体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−161711(P2012−161711A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21891(P2011−21891)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(506308633)ユーヴィックス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】