説明

光触媒分散体の製造方法

【課題】可視光線ないし蛍光灯の照射においてより光触媒効果の優れた光触媒塗膜を形成するコーティング剤を与える光触媒分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】光触媒微粒子、モノないしポリリン酸塩及び水性媒体からなる光触媒含有液を製造する光触媒含有液製造工程及び前記光触媒含有液に鉄化合物を含有する水性液を混合して光触媒分散体とする鉄成分混合工程を有する光触媒分散体の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線ないし蛍光灯の照射によって優れた光触媒活性を示す光触媒分散体の製造方法に関するものである。本発明の光触媒分散体はそのままコーティング剤としても使用可能であり、必要に応じてバインダーを添加してコーティング剤としてもよい。
【背景技術】
【0002】
半導体に紫外線を照射すると強い還元作用を持つ電子と強い酸化作用を持つ正孔が生成し、半導体に接触した分子種を酸化還元作用により分解する。このような作用を光触媒作用と呼び、この光触媒作用を利用することによって、大気中の有機化合物を分解・無害化することができる。このような特性を有する光触媒は、近年、水処理、脱臭、排ガス処理、大気浄化、土壌処理、抗菌・抗カビ、防汚・防曇などの様々な用途に適用されるに至っている。このように広範な用途に使用可能な光触媒として、可視光線によって光触媒活性を示す表面に鉄酸化物を有するアナターゼ型酸化チタンが公知である(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−087818号公報
【特許文献2】特開2004−196626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光触媒は、その効果を充分に発揮させるためにコーティング剤として壁面などの基材に塗布されることが多い。係るコーティング剤は光触媒と必要に応じてバインダーを含有し、光触媒は、通常10μm以下の微粒子状にて分散されると共に分散性向上のために硝酸、硝酸塩、塩酸、塩酸塩、硫酸、硫酸塩、リン酸、リン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩など酸やその塩から選択される分散剤を使用して安定化が行われる。
【0005】
しかるに、特許文献1に開示された光触媒は酸化チタンの製造時の反応液に鉄化合物を添加することによって表面に鉄酸化物を有する光触媒が形成されているが、この分散液に上記から選択される少なくとも1種の安定化剤を添加して光触媒分散体として光触媒を微粒子化・分散し、この組成物をコーティング剤として基材に塗布すると、分散前の光触媒と比較して光触媒性能の向上は見られなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記の公知技術の問題点に鑑みて、可視光線ないし蛍光灯の照射においてより光触媒効果の優れた光触媒塗膜を形成するコーティング剤を与える光触媒分散体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光触媒分散体の製造方法は、光触媒微粒子、モノないしポリリン酸塩及び水性媒体からなる光触媒含有液を製造する光触媒含有液製造工程及び前記光触媒含有液に鉄化合物を含有する水性液を混合して光触媒分散体とする鉄成分混合工程を有することを特徴とする。
【0008】
係る構成の製造方法によれば、塗装後においても可視光線ないし蛍光灯の照射においてより光触媒効果の優れたコーティング剤を与える光触媒分散体を製造することができる。
【0009】
本発明の光触媒分散体においては、光触媒の含有量は、通常、0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上,また30重量%以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の光触媒分散体の製造方法は、上記のように光触媒微粒子、モノないしポリリン酸塩及び水性媒体からなる光触媒含有液を製造する光触媒含有液製造工程及び前記光触媒含有液に鉄化合物を含有する水性液を混合して光触媒分散体とする鉄成分混合工程を有する。
【0011】
光触媒微粒子は、焼成工程を有する公知の製造方法により製造した光触媒を粉砕・分散することにより製造する。光触媒微粒子の平均粒子径は10μm以下であることが好ましい。分散工程における光触媒含有液の光触媒含有量は、本発明の光触媒分散体の光触媒含有量より高くなるように設定してもよい。光触媒含有量を高くすることにより、分散、特に初期の分散・混合を効率的に行うことができる。光触媒含有量を高くしたときには、後工程にて希釈操作を行う。
【0012】
水性媒体は水又は水を主成分とし、過酸化水素ないし水溶性を有する有機溶剤を含有する溶媒を意味し、水溶性を有する有機溶剤としてはエチルアルコール、イソプロパノール、ブタノール、エチルセロソルブ、アセトン、2−ブタノン等の水溶性有機溶剤を例示することができる。水溶性を有する有機溶剤は、鉄化合物などの溶解に必要な程度に水に溶解すればよく、水に自由に溶解するものであることが好ましい。水性媒体としては、水又は水とエチルアルコール、イソプロパノール、ブタノールなどの低分子量アルコールの混合物であることが好ましい。
【0013】
モノないしポリリン酸塩としては、例えばリン酸2水素塩、リン酸水素塩、ポリリン酸塩等が使用可能であり、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウムの少なくとも1種であることが好ましい。モノないしポリリン酸塩の添加量は、酸化チタンに対して5mol%以下であることが好ましく、3mol%以下であることがより好ましい。
【0014】
鉄化合物としては、水性媒体に溶解する鉄化合物を限定なく使用することができるが、硝酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトネートから選択される少なくとも1種であることが好ましい。鉄化合物は、水、水性媒体もしくは上記の水溶性を有する有機溶剤に溶解して鉄成分混合工程にて使用することが好ましい。鉄化合物の添加量は、光触媒を構成する金属(光触媒が酸化チタンの場合にはTi)に対するFeの量にて1mol%以下であることが好ましく、0.5mol%以下であることがより好ましく、0.3mol%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
上述の光触媒の微粒子化には公知の分散装置を使用することができ、具体的には媒体撹拌式分散機、転動ボールミル、振動ボールミル、ジェットミルのような装置を使用することができる。これらのなかでも媒体撹拌式分散機の適用が、光触媒の微粒子化を容易に行うことができ、好ましい。媒体撹拌式分散機に使用する媒体としては、一般的には材質がジルコニア、アルミナ又はガラスであり、直径0.65mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下のビーズなどが用いられる。
【0016】
光触媒微粒子、モノないしポリリン酸塩及び水性媒体からなる光触媒含有液を製造する光触媒含有液製造工程は、モノないしポリリン酸塩を溶解した水性媒体中で光触媒粒子を微粒子化して分散する。
【0017】
上記の分散装置を使用した光触媒粒子の分散は、1段階で行ってもよく、また2段階以上に分けて行ってもよい。2段階以上に分けて行う場合には、例えば、1段目では、直径が相対的に大きい媒体を入れた装置を用い、2段目以降では、直径が順次小さい媒体を入れた装置を用いて行うことが好ましい。混合を多段階で行うことにより、効率的に光触媒微粒子が均一に分散した光触媒微粒子の含有液を得ることができる。光触媒含有液の製造における分散工程の液の温度は、50℃未満、好ましくは40℃以下、また10℃以上、好ましくは20℃以上である。光触媒とモノないしポリリン酸塩と水性媒体の混合物である光触媒含有液については、必要に応じて、粗大粒子の除去、光触媒含有量の調整又はpHの調整のような操作を行うことが好ましい。
【0018】
光触媒としては、可視光線により光触媒作用を奏する化合物は特に限定なく使用可能であり、例えばTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh,Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceのような金属元素の1種又は2種以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが例示される。これらの中でもアナターゼ型又はルチル型の酸化チタンが好ましく、可視光線ないし蛍光灯の照射で触媒活性を示すものとしてアナターゼ型酸化チタンが好ましい。係るアナターゼ型酸化チタンとしては、例えば特開2004‐196626に開示された酸化チタンが使用可能である。アナターゼ型酸化チタンの場合、そのアナターゼ化率は40%以上、さらには60%以上、とりわけ80%以上であることが好ましい。なお、このときのアナターゼ化率は、X線回折法により回折スペクトルを測定し、このスペクトルにある酸化チタンの最強干渉線(面指数101)のピーク面積を求めることにより算出できる。
【0019】
光触媒作用を有する酸化チタンは例えば、チタン化合物と塩基を反応させ、反応生成物にアンモニアを添加し、熟成した後固液分離し、次いで分離した固形分を焼成する方法などで調製することができる。この方法において使用するチタン化合物としては、例えば三塩化チタン〔TiCl)、四塩化チタン〔TiCl〕,硫酸チタン〔Ti(SO・mHO;0≦m≦20〕、オキシ硫酸チタン〔TiOSO・nHO;0≦n≦20〕、オキシ塩化チタン〔TiOCl〕を例示することができる。チタン化合物と反応させる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、モノエタノールアミン、非環式アミン化合物、環式脂肪族アミン化合物を例示することができる。チタン化合物と塩基の反応は、pH2以上、好ましくはpH3以上、またpH7以下、好ましくはpH5以下で行われ、その反応温度は、通常90℃以下、好ましくは70℃以下、さらに好ましくは55℃以下である。
【0020】
チタン化合物と塩基の反応は、過酸化水素水存在下で行うこともできる。熟成は、例えば、アンモニアが添加された生成物を、撹拌しながら、0℃以上、好ましくは10℃以上,また110℃以下、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは55℃以下の温度に、1分以上、好ましくは10分以上、また10時間以内、好ましくは2時間以内保持する方法で行うことができる。
【0021】
上記の反応と前述の熟成に用いるアンモニアの合計量は、水存在下でチタン化合物を水酸化チタンに変えるのに必要な塩基の化学量論量を超える量であることが好ましく、例えばこの化学量論量を基準に1.1モル倍以上さらには1.5モル倍以上用いることが好ましい。塩基の量は、過剰に使用しても、その使用量に見合った効果が得られないので、20モル倍以下、さらには10モル倍以下であることが好ましい。
【0022】
熟成された生成物の固液分離は、加圧ろ過、減圧ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの公知の方法で行うことができる。また固液分離に際しては、得られる固形分を洗浄する操作をあわせて行うことが好ましい。固液分離された固形分又は任意の洗浄を行った固形分の焼成は、気流焼成炉、トンネル炉、回転炉などを用いて、通常300℃以上、好ましくは350℃以上、また600℃以下、好ましくは500℃以下、さらに好ましくは400℃以下の温度で行う。焼成時間は、焼成温度や焼成装置の種類により異なり一義的ではないが、通常10分以上、好ましくは30分以上、また30時間以内、好ましくは5時間以内である。焼成して得られる酸化チタンは、必要に応じて,タングステン酸化物、ニオブ酸化物、鉄酸化物、ニッケル酸化物のような固体酸性を示す化合物またはランタン酸化物、セリウム酸化物のような固体塩基性を示す化合物、またインジウム酸化物やピスマス酸化物のような可視光線を吸収する金属化合物を担持していてもよい。
【0023】
光触媒含有液中の光触媒の平均粒子径は通常500nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは180nm以下であり、かつ光触媒含有量が分散液を基準に通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また30重量%以下である。
【0024】
光触媒含有液に含有される光触媒は、波長約430nm〜約830nmの光照射に対して光触媒活性を示すものであることが好ましい。光触媒の光触媒活性は、具体的には、密閉式容器内に光触媒粉末とアセトアルデヒドを入れ、密閉した後、光触媒粉末から約15cm離れた位置にある光源(例えば、500Wキセノンランプ)により波長約430nm〜約830nmの光を照射したとき、アセトアルデヒドの20分間(照射開始から20分後まで)の平均分解速度が、光触媒粉末1gあたり10μmol/h以上、さらには20μmol/h以上であるものが好ましい。またこの光触媒は、通常、平均一次粒子径が500nm以下、平均二次粒子径が15μm以下である。
【0025】
光触媒含有液ないし光触媒分散体には、必要に応じて添加剤を添加してもよい。係る添加剤としては、塗料の分野において通常使用される塗料添加剤を使用することができ、充填剤、骨材、硬化触媒、粘性調整剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、防腐剤、防錆剤等、並びに非晶質シリ力、シリカゾルのような珪素酸化物,非晶質アルミナ、アルミナゾルのようなアルミニウム(水)酸化物.ゼオライト、カオリナイトのようなアルミノ珪酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム.酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムのようなアルカリ土類金属(水)酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ又は活性炭、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La又はCeのような金属元素の水酸化物又はこれらの金属元素の非晶質酸化物などが挙げられる,これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の光触媒分散体に必要に応じて添加するバインダーとしては、公知のバインダーを使用することができ、具体的にはアルキルシリケートないしその重縮合物であるオルガノポリシロキサンなどの有機ケイ素化合物、ハロゲン化ケイ素、シリカ、コロイダルシリカ、水ガラスなどの無機ケイ素系化合物、セメント、石灰、石こう、フリット、ジルコニア系化合物等の無機バインダー、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂等の有機バインダーを例示することができる。
【0027】
本発明で得られる光触媒分散体を用いれば、硝子、プラスチック、金属、陶磁器およびコンクリートのような基材に、光照射によって高い親水性を示す膜を形成することができる。膜形成は、例えばスピンコート、ディップコート、ドクターブレードによるコーティング、スプレーコート又はハケ塗りなどの公知の塗装方法により行うことができる。この光触媒分散体の保管は、光が当たらない条件で行うことが好ましく、例えば暗室内に置くか、又は紫外線と可視光線の透過率が各々10%以下の遮光性容器に入れることが好ましい。
【0028】
この光触媒分散体は,建築材料、自動車材料等に光触媒体を塗布することを容易にし、かつこれらの材料に高い光触媒活性を付与することを可能とする。このようにして得られた建築材料および自動車材料は、大気中のNOxを分解したり、居住空間や作業空間での悪臭物質(例えば煙草臭)を分解したり、水中の有機溶剤、農薬、界面活性剤等を分解したり、又は細菌(例えば放射菌)、藻類、薇類等の増殖を抑制することに適用できる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、光触媒塗膜の作製、光触媒分散体の粒子径、光触媒活性の評価は以下の方法で行った
【0030】
<評価方法>
(1)光触媒塗膜の作製
外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mLのガラス製シャーレ容器内に、固形分で1g/mとなるように光触媒分散液を滴下し、シャーレ全体に均一となるように展開した。これを110℃の乾燥機で60分乾燥させ、光触媒塗膜を作製した。
(2)粒子径の測定
サブミクロン粒度分布測定装置N4Puls(ベックマンコールター製)を用いて、試料の光触媒微粒子の平均粒子径(nm)を測定した。
(3)光触媒活性の測定(アセトアルデヒド分解能測定)
1Lガスバッグに測定サンプルである光触媒塗膜を入れて密閉し、ガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガスを600mL封入した。さらにアセトアルデヒド6mLを封入し、暗所で1時間安定化させた後、光触媒塗膜表面の照度が6000ルクスになるようにシャーレを設置し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。光源には市販の蛍光灯を用いた。蛍光灯照射後よりガスバッグ内のガスを1.5時間毎にサンプリングして、アセトアルデヒドの残存濃度をガスクロマトグラフGC‐14A(島津製作所製)にて測定した。照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度減少を対数軸にプロットし、得られた直線の傾きから一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能とした。一次反応速度定数が大きいほど光触媒塗膜のアセトアルデヒドの分解能が大きいと評価できる。
【0031】
(実施例1)
〔光触媒の調製〕
オキシ硫酸チタン75kgをイオン交換水50kgに溶解させ、オキシ硫酸チタン水溶液を調製した。冷却下、このオキシ硫酸チタン水溶液に35%過酸化水素水30kgを添加した。pH電極とこのpH電極に接続され,25重量%アンモニア水を供給してpHを一定に調整する機構を有するpHコントローラーとを備えた反応容器にイオン交換水30kgを入れ、pHコントローラーのpH設定を4とした。この反応容器では、容器内の液のpHが設定値より低くなるとアンモニア水が供給されはじめ、pHが設定値になるまで前記速度にて連続供給される。この反応容器に、42rpmで撹拌しながら上で得られた混合溶液を530mL/分の速度で添加し、pHコントローラーにより反応容器に供給されるアンモニア水と反応させて、反応生成物を得た。このときの反応温度は、20℃〜30℃の範囲であった。得られた反応生成物を、撹拌しながら1時間保持し、ついで25重量%アンモニア水を供給してスラリーを得た。反応容器に供給されたアンモニア水の合計量は90kgであり,オキシ硫酸チタンを水酸化チタンに変えるために必要な量の2倍量であった。得られたスラリーをろ過し、そのまま引き続いてリンス洗浄し、固形物(ケーキ)を得た。
【0032】
上記で得られたケーキ2.3kgを30cm×40cmのステンレス製バットに入れた。このバット12枚を内容量216リットルの箱型乾燥機スーパーテンプオープンHP‐60(旭科学製)に入れ、40m/hの乾燥空気流通下に115℃で5時間保持し、続けて250℃に昇温して5時間乾燥を行なった,このときの炉内最大水蒸気分圧は27.4kPaであった。また、得られた乾燥粉末のBET比表面積は18.0m/gであった。得られた乾燥粉末を350℃の空気雰囲気下で2時間焼成を行った後、室温まで冷却して、粒子状酸化チタン光触媒を得た。
【0033】
〔光触媒分散体の調製〕
イオン交換水95gにリン酸2水素アンモニウム1g(和光特級試薬)を溶解し、得られた水溶液と上記の酸化チタン粉末24gを媒体撹拌式分散機サンドグラインダーに入れ、媒体として直径0.3mmのジルコニア製ビーズ323gを使用し、撹拌速度を周速2.8m/秒、合計処理時間30分間の条件で混合分散して光触媒含有液(1)を得た。得られた光触媒含有液(1)中の酸化チタンは、平均粒子径が532nmであった。さらにこの光触媒含有液(1)60gを、上記のサンドグラインダーに仕込み、媒体として直径0.05mmのジルコニア製ビーズ190gを使用し、撹拌速度を周速5.6m/秒、処理時間240分間の条件で分散混合し、光触媒含有液(2)を得た。得られた光触媒含有液(2)中の酸化チタンは、平均粒子径が191nmであった。また、この酸化チタンスラリー中のリン酸アンモニウム塩の量は、酸化チタンに対して3mol%であり、pHは7.4であった。得られた光触媒含有液(2)を一昼夜デカンテーションし、上澄みだけを採取して粗粒分を除去したところ、平均粒径が172nm,pHが7.3、固形分濃度が16.4%であった。この光触媒含有液(2)を固形分濃度が10%になるように純水で希釈し、光触媒含有液(3)とした。1gの光触媒含有液(3)に対して,1.8×10−6mol/g硝酸鉄水溶液を1g添加して2倍希釈し、光触媒分散体Aを作製した。このとき光触媒分散体Aに含まれる鉄化合物の量は、FeのTiに対するモル比にて0.14mol%であり、光触媒分散体Aの固形分濃度は5重量%である。
【0034】
上記光触媒分散体Aを用い、[光触媒塗膜の作製]に記載の操作を行ってシャーレ上に光触媒塗膜である酸化チタン膜を形成した。
【0035】
(比較例1)
実施例1において得られた光触媒含有液(3)を固形分濃度が5重量%となるように純水で希釈し、光触媒分散体Bとした。光触媒分散体Bを使用して実施例1と同様にシャーレ上に光触媒塗膜である酸化チタン膜を形成した。
【0036】
(比較例2)
〔光触媒の調製〕
硝酸鉄9水和物(Fe(NO・9HO:和光純薬工業製)0.146gを100gのイオン交換水に溶解させた。得られた3.6×10−6mol/g硝酸鉄水溶液に、実施例1にて得られた粒子状アナターゼ型酸化チタン20.2gを添加し、常温常圧下で20分間撹拌した。この混合物をさらに撹拌しながら減圧し、55℃で水分を蒸発させた後、300℃の空気中で1時間焼成して、酸化チタン粉末を得た。このとき酸化チタン粉末のFe含有量は、Tiに対して0.14mol%である。
【0037】
〔光触媒分散体の作製〕
イオン交換水95gにリン酸2水素アンモニウム1g(和光特級試薬)を溶解し、得られた水溶液と上記の酸化チタン粉末24gを媒体撹拌式分散機サンドグラインダーに入れ、媒体として直径0.3mmのジルコニア製ビーズ323gを使用し、撹拌速度を周速2.8m/秒、合計処理時間30分間の条件で混合分散して光触媒分散液(4)を得た。この分散液中の酸化チタンは、平均粒子径が494nmであった。さらにこの光触媒分散液(4)を、サンドグラインダーを使用し、媒体として直径0.05mmのジルコニア製ビーズ190gを使用し、撹拌速度を周速5.6m/秒、処理時間240分間の条件で分散混合し、光触媒分散液(5)を得た。得られた分散液(5)中の酸化チタンは、平均粒子径が132nmであった。また、この光触媒分散液(5)中のリン酸アンモニウム塩の量は、酸化チタンに対して3mol%であり,pHは7.2であった。得られた分散液(5)を一昼夜デカンテーションし、上澄みだけを採取して粗粒分を除去したところ、平均粒子径が127nm、pHが7.1であった。この光触媒分散液を、固形分濃度が5%になるように純水で希釈し、光触媒分散体Cとした。
【0038】
上記光触媒分散体Cを用い、[光触媒塗膜の作製]に記載の操作を行ってシャーレ上に光触媒塗膜である酸化チタン膜を形成した。
【0039】
得られた実施例1並びに比較例1、2の酸化チタン膜について、アセトアルデヒド分解能を測定し、結果を表1に示した。表1に示す通り、実施例1の光触媒分散体にて形成された光触媒塗膜は、酸化チタンの微粒子分散液に硝酸鉄を添加することにより比較例1の光触媒塗膜に比べてアセトアルデヒド分解能が高いことが確認された。また分散前の光触媒粉末に硝酸鉄を担持する製造方法で作製した光触媒(特許文献1に記載の光触媒に相当)の分散体Cよりもアセトアルデヒド分解能が高いことも確認された。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒微粒子、モノないしポリリン酸塩及び水性媒体からなる光触媒含有液を製造する光触媒含有液製造工程及び前記光触媒含有液に鉄化合物を含有する水性液を混合して光触媒分散体とする鉄成分混合工程を有することを特徴とする光触媒分散体の製造方法。
【請求項2】
前記光触媒がアナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒分散体の製造方法。
【請求項3】
前記鉄化合物が、硝酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトネートから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒分散体の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒が、蛍光灯照射により光触媒活性を示すものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒分散体の製造方法。
【請求項5】
前記モノないしポリリン酸塩がリン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウムの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒分散体の製造方法。

【公開番号】特開2008−93630(P2008−93630A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281535(P2006−281535)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】