説明

光触媒塗膜形成方法

【課題】
添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【解決手段】
建築物の内壁や外壁等に用いられる基材で、光触媒コーティング剤によって劣化するおそれのある基材の表面に、光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成する光触媒塗膜形成方法において、基材の表面に、光触媒コーティング剤による劣化を防止するアンダーコート剤をミスト塗布し、ミスト塗布した上にさらにアンダーコート剤を塗布してアンダーコート層を形成した後、アンダーコート層の上に、光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光触媒を建築物の内壁や外壁等に用いられる基材に塗布して光触媒膜を形成する光触媒コーティング剤として、ペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルを主成分とした光触媒コーティング剤がある。しかし、光触媒コーティング剤の必要量のみをスプレーガンなどを用いて基材に塗布すると、基材の撥水性などから定着に時間がかかり、また、密着度、膜強度が弱く、長期に渡り光触媒機能を確保することが困難であった。そこで例えば特許文献1に示されているような、ペルオキソ改質アナターゼゾルを主成分とし、結合硬化剤として珪酸リチウムなどのシリコーン化合物を、分散媒としてエタノールなどのアルコール類を添加する光触媒コーティング剤がある。
【特許文献1】特開2004−331794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、添加物を混入した光触媒コーティング剤は光触媒塗膜の仕上がり感では添加物を混入しない光触媒コーティング剤には及ばない。また、光触媒塗膜の崩壊状況を調査するため、撥水を防止するために添加物として界面活性剤を混入したペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液を用いて、アクリルシリコーン樹脂塗膜に光触媒塗膜を形成した。光触媒塗膜を形成し半年以上経過後に確認を行ったところ、この光触媒塗膜の外観は、全体にやや白色を帯びていて、部分的に透明感のない虹色を発していた。さらに、膜強度は黒色の木綿布で拭き取り試験を行ったところ、虹色を発していた部分を擦ると白色の表面が削り取られ、木綿布に白色の粉がついた。このように、添加物を用いた光触媒塗膜は、塗膜の白濁等の変色、剥離が起きやすく長期に渡り光触媒機能を維持することが困難である。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の光触媒塗膜形成方法は、基材の表面に、光触媒コーティング剤による劣化を防止するアンダーコート剤をミスト塗布し、ミスト塗布した上にさらにアンダーコート剤を塗布してアンダーコート層を形成した後、アンダーコート層の上に、光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の光触媒塗膜形成方法は、基材の表面にアンダーコート剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を4.0g/m〜18g/m並びに基材とスプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の光触媒塗膜形成方法は、基材の表面に光触媒コーティング剤をミスト塗布した後、ミスト塗布した上にさらに光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成することを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の光触媒塗膜形成方法は、基材の表面に光触媒コーティング剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を4.0g/m〜18g/m並びに基材とスプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の光触媒塗膜形成方法は、基材の表面に光触媒コーティング剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を0.5g/m〜2.0g/m並びに基材とスプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の光触媒塗膜形成方法は、スプレーノズルのノズル穴の口径が0.3〜0.5mmのスプレーガンを用いることを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の光触媒塗膜形成方法は、アンダーコート剤または光触媒コーティング剤を圧送供給する低圧スプレーガンを用いることを特徴とする。
【0012】
請求項8記載の光触媒塗膜形成方法は、アンダーコート剤をペルオキソチタン酸水溶液とすることを特徴とする。
【0013】
請求項9記載の光触媒塗膜形成方法は、光触媒コーティング剤を、ペルオキソ改質アナターゼゾル、またはペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、基材の表面に、光触媒コーティング剤による劣化を防止するアンダーコート剤をミスト塗布し、ミスト塗布した上にさらにアンダーコート剤を塗布してアンダーコート層を形成した後、アンダーコート層の上に、光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成することから、基材の撥水性を抑えることができるため、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【0015】
請求項2の発明によれば、基材の表面にアンダーコート剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を4.0g/m〜18g/m並びに基材とスプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することから、微細なミストを容易に吐出することができるため、安定して基材にミスト塗布を形成することができ、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【0016】
請求項3の発明によれば、基材の表面に光触媒コーティング剤をミスト塗布した後、ミスト塗布した上にさらに光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成することから、光触媒コーティング剤を直接塗布する基材などの撥水性を抑えることができるため、添加物またはアンダーコート剤を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【0017】
請求項4の発明によれば、基材の表面に光触媒コーティング剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を4.0g/m〜18g/m並びに基材とスプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することから、微細なミストを容易に吐出することができるため、光触媒コーティング剤を直接塗布する、遮光性を有する材料で形成され、撥水性のある基材などに、安定してミスト塗布を形成することでき、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【0018】
請求項5の発明によれば、基材の表面に光触媒コーティング剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を0.5g/m〜2.0g/m並びに基材とスプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することから、微細なミストを容易に吐出することができるため、光触媒コーティング剤を直接塗布する、透明性を有する材料で形成され、撥水性のある基材などに、安定してミスト塗布を形成することでき、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な高い透明性を有する光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【0019】
請求項6の発明によれば、スプレーノズルのノズル穴の口径が0.3〜0.5mmのスプレーガンを用いることから、吐出条件を容易に設定、変更することができるため、安定して撥水性のある基材などにミスト塗布を形成することでき、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【0020】
請求項7の発明によれば、アンダーコート剤または光触媒コーティング剤を圧送供給する低圧スプレーガンを用いることから、アンダーコート剤または光触媒コーティング剤の補給の回数を減らすことができ、一回に必要とされる吐出量を短時間で確保できるため、作業効率が向上し、施工性に優れた光触媒塗膜形成方法を提供することができる。
【0021】
請求項8または請求項9の発明によれば、アンダーコート剤をペルオキソチタン酸水溶液または、光触媒コーティング剤を、ペルオキ改質アナターゼゾル、またはペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液とすることから、ペルオキソ基またはペルオキソ改質アナターゼ微粒子の配列が平滑な塗膜を形成することができるため、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。本発明の形態における光触媒塗膜形成方法は、建築物の内壁や外壁等に用いられる基材に光触媒塗膜を形成するためのものである。
【0023】
図1は、本発明に係る光触媒塗膜形成方法を実施するための塗装装置の説明図である。図2は、スプレーガンを使用して基材に光触媒コーティング剤を塗布する方法の説明図である。図3は、スプレーノズルの正面図である。
【実施例1】
【0024】
図において、塗装装置は、スプレーガン10、加圧コンテナ40、エアコンプレッサ50などから構成されている。スプレーガン10は、エア入口30、注入口32、引金12、パターンバルブ14、ニードルバルブ16、エアバルブ18、スプレーノズル20などからなる。スプレーノズル20は、ノズル穴22が設けられ、空気キャップ26を備える。空気キャップ26は、ノズル穴22の周囲に中心空気穴23、その周囲に対向して突き出した角部より内側に向けて噴出するパターン形成空気穴24、を設けている。スプレーガン10のエア入口30に圧縮空気が供給され、圧縮空気は中心空気穴23、パターン形成空気穴24から吐出する。注入口32にはコート剤Cが供給され、コート剤Cはノズル穴22から吐出する。パターンバルブ14はパターン形成空気穴24、エアバルブ18は、中心空気穴23、パターン形成空気穴24から吐出する圧縮空気の吐出圧を調節することができる。ニードルバルブ16は、ノズル穴22から吐出するコート剤Cの吐出量を調節することができる。ここで吐出量とは、1回の塗布に使用するコート剤Cの1mあたりの使用量をいう。引金12を引くことによって、先ず中心空気穴23、パターン形成空気穴24から霧化空気が噴出し、つぎにノズル穴22からコート剤Cが吐出して、霧化空気でコート剤Cがミスト化される。本発明では、基材Sに微細なミストを塗布する必要があるためスプレーノズル20のノズル穴22の口径が0.3mm〜0.5mmのスプレーガン10を用いる。ノズル穴22から基材Sまでの距離を、コート剤Cの吹き付け距離L1とする。
【0025】
エアコンプレッサ50はエア用ホース56、減圧弁44、減圧弁54を介して圧縮空気を加圧コンテナ40、スプレーガン10に供給する。エアコンプレッサ50が供給する圧縮空気の供給圧は減圧弁54で減圧され、さらに加圧コンテナ40に供給される圧縮空気の供給圧は減圧弁44で減圧される。加圧コンテナ40は、内部にコート剤Cであるアンダーコート剤または光触媒コーティング剤を貯留する。このコート剤Cは、加圧コンテナ40の内部が圧縮空気の導入に応じて加圧されることにより、吸上管42にて吸い上げられて、液体用ホース46を介して、スプレーガン10の注入口32に圧送供給される。ただし、エアバルブ18での吐出圧の調整は圧力計がないので正確に行うことが出来ない。したがって、減圧弁54で吐出圧の調整を行い、エアバルブ18は全開状態で使用する。
【0026】
建築物の内壁や外壁等に用いられる基材で、光触媒コーティング剤によって劣化するおそれのある基材Sの表面に、光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成する方法について以下説明する。基材Sとして、例えばアクリルシリコーン樹脂が基材Sとして挙げられる。アクリルシリコーン樹脂はアクリル樹脂を母体にシリコーン化合物の化学特性を取り入れ高耐候性、耐薬品性を有する樹脂として外装建材用などの各種コーティング用途に使用されている。光触媒コーティング剤はその光触媒作用によって、アクリルシリコーン樹脂などの基材Sを劣化させるおそれがある。そこで、光触媒コーティング剤を塗布する前に、基材Sの表面に、光触媒コーティング剤による劣化を防止するアンダーコート剤を塗布してアンダーコート層を形成する必要がある。
【0027】
アンダーコート剤は、ペルオキソチタン酸水溶液、シリコーン変性樹脂、無機質塗料等が挙げられる。本実施例では、乾燥膜が平滑な膜を形成しやすく密着性に優れ、光触媒コーティング剤による基材の劣化を防止するペルオキソチタン酸水溶液を用いる。光触媒コーティング剤としては、チタン化合物と過酸化水素水とを反応させることにより得られるチタン含有水性液、ペルオキソ改質アナターゼゾル、酸化チタン粉体塗料、チタニアゾル塗料、またはペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液等が挙げられる。本実施例では、常温で光触媒活性を起こすペルオキソ改質アナターゼゾルを用いる。なお、アンダーコート剤、光触媒コーティング剤のいずれにも、添加物を混入しない。
【0028】
作業者は、アンダーコート剤を材料供給口48より加圧コンテナ40の中に注入する。エアコンプレッサ50を始動して、スプレーガン10に供給される圧縮空気の供給圧を減圧弁54で0.2MPa〜0.4MPaに減圧し、さらに加圧コンテナ40に供給される圧縮空気の供給圧は、減圧弁44で0.09MPa〜0.12MPaに減圧する。作業者は、基材Sの表面にアンダーコート剤を、スプレーガン10を用いて、パターンバルブ14、ニードルバルブ16を調節して、一定の吐出条件でミスト塗布する。このときミスト塗布の塗布斑を防止するため、1回の塗布は基材Sに対して縦方向の塗布と、横方向の塗布の1セットとする。また、水性のアンダーコート剤は、ウェットオンウェット法で塗布する。ここで、ミスト塗布における一定の吐出条件とは、アンダーコート剤の吐出圧を0.2MPa〜0.4MPaとする。また、吐出量は4.0g/m〜18g/mとし、吹き付け距離L1を15cm〜30cmとして微細なミスト塗布をする。
【0029】
次に、作業者は、ミスト塗布した上にさらにアンダーコート剤を、スプレーガン10を用いて、一定の吐出条件で塗布する。このときアンダーコート層の塗布斑を防止して一定の厚みを得るために、2セットを塗布する。ここで、アンダーコート層の形成における一定の吐出条件とは、アンダーコート剤の吐出圧を0.20MPa〜0.25MPaとする。また、吐出量は20g/m〜30g/mとし、吹き付け距離L1を15cm〜25cmとすることでアンダーコート層を形成できる。
【0030】
次に、加圧コンテナ40の中身をアンダーコート剤から光触媒コーティング剤に入れ替える。作業者は、アンダーコート層の上に、光触媒コーティング剤を、スプレーガン10を用いて一定の吐出条件で塗布する。このとき光触媒コーティング層の塗布斑を防止して一定の厚みを得るために、2セットを塗布する。また、水性の光触媒コーティング剤は、ウェットオンウェット法で塗布するのが好ましい。ここで、光触媒コーティング層の形成における一定の吐出条件とは、光触媒コーティング剤の吐出圧を0.20MPa〜0.25MPaとする。また、吐出量は20g/m〜35g/mとし、吹き付け距離L1を15cm〜25cmとすることで光触媒コーティング層を形成できる。
【0031】
以上より、本実施例の光触媒塗膜形成方法は、基材Sが光触媒機能によって劣化することを防ぎ、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な施工性に優れた光触媒塗膜形成方法を提供することができる。もっとも、ミスト塗布がアンダーコート剤の足がかりとなり、基材Sの撥水性を抑えることができるため、膜強度の高いアンダーコート層を形成することができ、このアンダーコート層に適切な吐出条件で光触媒コーティング剤を塗布することから、本発明の光触媒コーティング層を形成することができる。
【0032】
さらに、スプレーノズル20のノズル穴22の口径が0.3〜0.5mmのスプレーガン10を用いることから、パターンバルブ14、ニードルバルブ16を調節することで、吐出条件を容易に設定、変更することができるため、安定して撥水性のある基材Sなどにミスト塗布を形成することでき、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な施工性に優れた光触媒塗膜形成方法を提供することにある。
【0033】
また、加圧コンテナ40を利用して、アンダーコート剤や光触媒コーティング剤等のコート剤を圧送供給する低圧スプレーガン10を用いて塗布していることから、アンダーコート剤または光触媒コーティング剤の補給の回数を減らすことができ、一回に必要とされる吐出量を短時間で確保できるため、作業効率が向上し、施工性に優れた光触媒塗膜形成方法を提供することができる。例えば、コート剤を圧送供給せずにスプレーノズルのノズル口径が0.4mmの低圧スプレーガンを用いて塗布すると、コート剤のスプレーガンからの噴出量は最大で9g/minであり、一般的な塗装方法で1mに18gを施工するのに2分かかる。これに対して圧送供給した場合には、84g/min以上の噴出量を得ることができる。
【0034】
ペルオキソチタン酸水溶液に含まれるペルオキソ基や、ペルオキソ改質アナターゼゾルに含まれるペルオキソ改質アナターゼ微粒子は、鱗状の形状であり適切な吐出条件で塗布すれば乾燥時に鱗状の形状が基材Sの表面に沿って配列して平滑な膜を形成する。この平滑な膜を形成することで仕上がり感がよく、密着性に優れた、膜強度の高い塗膜を得ることができる。
【0035】
したがって、ペルオキソチタン酸水溶液のアンダーコート剤は、ミスト塗布の後に本実施例の塗布方法により塗布することで、ペルオキソ基が基材Sの表面に沿って配列する平滑な膜のアンダーコート層を形成する。ペルオキソ改質アナターゼゾルの光触媒コーティング剤は、このアンダーコート層に本実施例の塗布方法により塗布することで、ペルオキソ改質アナターゼ微粒子が平滑な膜の光触媒コーティング層を形成する。なお、ペルオキソ改質アナターゼゾルとペルオキソチタン酸水溶液との混合液を光触媒コーティング剤とすることでペルオキソ改質アナターゼゾル由来のアナターゼ型酸化チタン成分で光触媒活性を確保しつつ、塗布対象面への結合力に優れるペルオキソチタン酸水溶液でさらに確実な膜強度を得ることができる。また、ウェットオンウェット法で塗布することで表面乾燥したアンダーコート層が光触媒コーティング剤の水分を吸収するため剤粘度が急激に上昇し塗着率が向上し、液だれ等を防止することができる。以上により、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な施工性に優れた光触媒塗膜形成方法を提供することができる。
【0036】
施工後の光触媒機能の効果を確認するため、添加物を混入していないペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液を用いて、本出願に係る光触媒塗膜形成方法でアクリルシリコーン樹脂塗膜に光触媒塗膜を形成した。光触媒塗膜を形成してから9ヶ月後に確認を行ったところ、この光触媒塗膜の外観は、外観は白色を帯びることはなく、光触媒塗膜が透明性を保ち、透明感のない虹色を発する部分もなかった。また、膜強度は黒色の木綿布で拭き取り試験を行ったところ、表面が削り取られることはなかった。以上の実験の結果、本発明の光触媒塗膜形成方法で形成された光触媒塗膜は、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、光触媒機能を長期に渡り維持することが可能な施工性に優れた光触媒塗膜形成方法を提供することができる。
【0037】
なお、アンダーコート剤または光触媒コーティング剤の必要量を基材Sに塗布した場合、液だれを起こすことがある。液だれは、アンダーコート層または光触媒コーティング層の部分的な膜強度低下を起こし、光触媒機能を長期に渡り維持することができなくなる。例えば、ペルオキソチタン酸水溶液の液だれは、ペルオキソ基の配列に偏りを発生させ、部分的な膜強度低下を起こす。また、アンダーコート剤または光触媒コーティング剤は空中乾燥増粘を起こすことがある。特にペルオキソチタン酸水溶液またはペルオキソ改質アナターゼゾルの空中乾燥増粘は、基材Sのペルオキソ基およびペルオキソ改質アナターゼ微粒子の平滑な配列を阻害する。したがって空中乾燥増粘を防ぐためには、吹き付け距離L1を短くする必要がある。また、基材Sに対してスプレーノズル20を垂直に保つことで、吹き付け距離L1を短くすることができる。同時にコート剤Cの塗着率も向上する。
【0038】
ミスト塗布において、吐出圧は、0.2MPaを下回るとミスト粒子が大きくなるため、微細なミストを形成することが困難となる。また、吐出圧は0.4MPaを上回るとミスト粒子は小さくなる。しかし、アンダーコート剤の基材Sへの塗着率が下がり施工性が低下する。吐出量については、4.0g/mを下回るとミスト粒子の量が少なくなるため、撥水防止の効果が下がる。このため重ねて塗布することが必要になるが、撥水防止効果は向上するものの施工性が低下すると共に、膜強度の低下を起こす。また吐出量は18g/mを上回ると、基材Sの撥水性でアンダーコート剤が水滴になり液だれを起こす。
【0039】
さらに、吹き付け距離L1については、15cmを下回るとミスト粒子密度が高く、さらに塗布範囲が狭くなり均一な塗布が出来ず、基材Sの撥水性でアンダーコート剤が液だれを起こし、30cmを上回るとアンダーコート剤が空中乾燥増粘を起こすため、膜強度の低下を生ずる。
【0040】
このため、作業者が安定してミスト塗布するには、好ましくは吐出条件として、吐出圧を0.28MPa〜0.32MPaとする。また、吐出量は8.0g/m〜12g/mとし、吹き付け距離L1は23cm〜27cmとする。
【0041】
アンダーコート剤の塗布においては、吐出圧は0.20MPaを下回ると、塗布粒子が大きくなり液だれが生じる。また、吐出圧は0.25MPaを上回ると、塗布粒子は小さくなるが塗着率が下がり施工性が低下する。吐出量については20g/mを下回ると、塗布粒子の量が少なる。このため重ねて塗布することが必要になるが、施工性が低下すると共に、仕上がり感の悪い、膜強度の低いアンダーコート層となる。また吐出量は30g/mを上回ると、塗布粒子が大きくなるため、基材Sの撥水性でアンダーコート剤が水滴になり液だれを起こす。したがって、部分的にアンダーコート層が厚くなりすぎ乾燥時にひび割れ崩壊を起こす。
【0042】
さらに、吹き付け距離L1が15cmを下回ると塗布粒子密度が高く、さらに塗布範囲が狭くなるので均一な塗布が出来ず液だれを起こし、25cmを上回るとアンダーコート剤が空中乾燥増粘を起こすため膜強度の低下を生ずる。このため、作業者が安定してアンダーコート層を形成するためには、好ましくは吐出条件として、吐出圧を0.21MPa〜0.23MPaとする。また、吐出量は23g/m〜27g/mとし、吹き付け距離L1は21cm〜23cmとする。
【0043】
光触媒コーティング剤の塗布においては、吐出圧が0.20MPaを下回ると、塗布粒子が大きくなり液だれが生じる。吐出圧が0.25MPaを上回ると、塗布粒子は小さくなるが、塗着率が下がり施工性が低下する。吐出量については、20g/mを下回ると、塗布粒子の量が少なくなり仕上がり感の悪い、膜強度の低い光触媒コーティング層となる。また吐出量が35g/mを上回ると、塗布粒子が大きくなるため液だれを起こす。さらに、吹き付け距離L1が15cmを下回ると塗布粒子密度が高く、さらに塗布範囲が狭くなるので均一な塗布が出来ず液だれを起こし、25cmを上回ると光触媒コーティング剤が空中乾燥増粘を起こす。
【0044】
このため、作業者が安定して光触媒コーティング層を形成するためには、好ましくは吐出条件として、吐出圧を0.21MPa〜0.23MPaとする。また、吐出量は28g/m〜32g/mとし、吹き付け距離L1は20cm〜24cmとする。
【実施例2】
【0045】
次に、建築物の内壁や外壁等に用いられ、遮光性を有する材料で形成された基材Sの表面に、光触媒コーティング剤を直接塗布することにより光触媒コーティング層を形成する光触媒塗膜形成方法について以下説明する。光触媒コーティング剤を直接塗布する基材Sとして例えば石材がある。石材は無機質で、遮光性を有し光触媒機能によって劣化しないため、石材に光触媒コーティング剤を直接塗布することができる。光触媒コーティング剤はペルオキソ改質アナターゼゾル、またはペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液が利用できる。作業者は、光触媒コーティング剤を材料供給口48より加圧コンテナ40の中に注入して、スプレーガン10を用いて塗布する。しかし、石材は撥水性を有するため、石材に光触媒コーティング剤をスプレーガン10を用いて一定の吐出条件でミスト塗布した後、ミスト塗布した上にさらに光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成する。このとき、ミスト塗布は、塗布斑を防止してミスト塗布をするため1セットを塗布する。また、光触媒コーティング層の形成については、一定の厚みを得るために2セットを塗布する。
【0046】
本実施例のミスト塗布は、吐出条件として吐出圧を0.2MPa〜0.4MPaとする。また吐出量は4.0g/m〜18g/mとし、吹き付け距離L1を15cm〜30cmとして微細なミスト塗布をする。また、光触媒コーティング層の形成については、吐出条件として吐出圧を0.20MPa〜0.25MPaとする。また吐出量は20g/m〜30g/mとし、吹き付け距離L1を15cm〜25cmとして塗布する。以上により石材に形成されたミスト塗布が足がかりとなり、基材Sの撥水性を抑えて光触媒コーティング層を石材に形成することができる。
【0047】
なお、作業者が安定して光触媒コーティング層を形成するためには、好ましくは吐出条件として、ミスト塗布の吐出量を8.0g/m〜12g/mとし、光触媒コーティング層の形成については、吐出量を23g/m〜27g/mとする。
【実施例3】
【0048】
さらに、透明性を有する材料で形成された基材Sの表面に、光触媒コーティング剤を直接塗布することにより高い透明性を有する光触媒コーティング層を形成する光触媒塗膜形成方法について以下説明する。基材Sとして例えば透明ガラスがある。透明ガラスは無機質で、光触媒機能によって劣化しないため、光触媒コーティング剤は、ペルオキソ改質アナターゼゾル、またはペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液を直接塗布することがきる。もっとも、透明ガラス面への塗布は、ガラス面の透明度を保つため、他の施工方法に比べて光触媒コーティング層の高い透明性を必要とされる。また、透明ガラス面は撥水性を有する。したがって、透明ガラス面に光触媒コーティング剤をスプレーガン10を用いて一定の吐出条件でミスト塗布した後、ミスト塗布した上にさらに光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成する。このとき、ミスト塗布は、塗布斑を防止してミスト塗布をするため1セットを塗布する。また、光触媒コーティング層の形成については、塗装斑を防ぎ、高い透明性を得るために1セットを塗布する。
【0049】
本実施例のミスト塗布は、吐出条件として吐出圧を0.2MPa〜0.4MPaとする。また吐出量は0.5g/m〜2.0g/mとし、吹き付け距離L1を15cm〜30cmとして微細なミスト塗布をする。また、光触媒コーティング層の形成については、吐出条件として吐出圧を0.20MPa〜0.25MPaとする。また吐出量は5.0g/m〜12g/mとし、吹き付け距離L1を15cm〜25cmとして塗布する。以上により透明ガラス面に形成されたミスト塗布が足がかりとなり、基材Sの撥水性を抑えて高い透明性を有する光触媒コーティング層を透明ガラス面に形成することができる。
【0050】
なお、作業者が安定して光触媒コーティング層を形成するためには、好ましくは吐出条件として、ミスト塗布の吐出量を0.8g/m〜1.2g/mとし、光触媒コーティング層の形成については、吐出量を7.0g/m〜10g/mとする。
【0051】
透明ガラス面や石材であっても、表面に有機質の汚れが残っている場合には、施工後の光触媒コーティング層の剥離、白濁等を防止するため汚れの除去が必要になる。光触媒コーティング層を形成する前に、アンダーコート層を形成して光触媒コーティング層の剥離、白濁等を防止することができる。
【0052】
透明ガラス面への光触媒コーティング層の形成は、光触媒コーティング剤の使用量が少ないため加圧コンテナ40を使用せず、ペルオキソ改質アナターゼゾルまたは、ペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液を注入したスプレーガン用の上カップを注入口32に接続して塗布することができる。
【0053】
本発明を適用して光触媒コーティング層を形成する建築物の内壁や外壁等に用いられる基材Sは、アクリルシリコーン樹脂塗膜、石材、透明ガラス面に限られず、例えば、樹脂・油脂類を含む製品(アクリル・ビニール・一般塗料など)、紙、木材、繊維、金属(アルミ・ステンレス・鉄など)、セラミックス(タイル・ガラスなど)、モルタル、コンクリート、などが挙げられる。ただし、撥水性の著しく高いアクリル樹脂板等は除く。その他の基材における吐出量(g/m)を表1に示す。なお、塗装タイプとして付した記号は、表示上の便宜的な表号である。
【0054】
【表1】

【0055】
コート剤Cの基材Sに対する塗着率は、基材Sの種類、天候により異なるため、作業者は状況に合わせて塗出条件を定める必要がある。特に吐出量は塗着率等により調節が必要になる。作業者は本発明の吐出条件を微調整することで、状況に応じた塗出条件の最適値を容易に得ることができる。したがって作業者の技術力に左右されず安定して基材Sに光触媒塗膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明によれば、建築物の内壁や外壁等に用いられる基材に、添加物を用いずに、膜強度の高い、仕上がり感のよい光触媒塗膜を形成することができ、施工後の光触媒塗膜の変色を防ぎ、光触媒機能を長期に渡り維持する施工性に優れた光触媒塗膜形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る本発明に係る光触媒塗膜形成方法を実施するための塗装装置の説明図である。
【図2】スプレーガンを使用して基材に光触媒コーティング剤を塗布する方法の説明図である。
【図3】スプレーノズルの正面図である。
【符号の説明】
【0058】
10・・・スプレーガン
12・・・引金
14・・・パターンバルブ
16・・・ニードルバルブ
18・・・エアバルブ
20・・・スプレーノズル
22・・・ノズル穴
23・・・中心空気穴
24・・・パターン形成空気穴
26・・・空気キャップ
30・・・エア入口
32・・・注入口
40・・・加圧コンテナ
42・・・吸上管
44・・・減圧弁
46・・・液体用ホース
48・・・材料供給口
50・・・エアコンプレッサ
54・・・減圧弁
56・・・エア用ホース
L1・・・吹き付け距離
S・・・・基材
C・・・・コート剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の内壁や外壁等に用いられる基材で、光触媒コーティング剤によって劣化するおそれのある該基材の表面に、該光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成する光触媒塗膜形成方法において、
該基材の表面に、該光触媒コーティング剤による劣化を防止するアンダーコート剤をミスト塗布し、該ミスト塗布した上にさらに該アンダーコート剤を塗布してアンダーコート層を形成した後、
該アンダーコート層の上に、該光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成することを特徴とする光触媒塗膜形成方法。
【請求項2】
前記基材の表面にアンダーコート剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を4.0g/m〜18g/m並びに該基材と該スプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することを特徴とする請求項1に記載の光触媒塗膜形成方法。
【請求項3】
建築物の内壁や外壁等に用いられる基材で、光触媒コーティング剤によって劣化するおそれのない該基材の表面に、光触媒コーティング剤を直接塗布することにより光触媒コーティング層を形成する光触媒塗膜形成方法において、
該基材の表面に該光触媒コーティング剤をミスト塗布した後、
該ミスト塗布した上にさらに該光触媒コーティング剤を塗布して光触媒コーティング層を形成することを特徴とする光触媒塗膜形成方法。
【請求項4】
前記基材は遮光性を有する材料で形成され、該基材の表面に光触媒コーティング剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を4.0g/m〜18g/m並びに該基材と該スプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することを特徴とする請求項3に記載の光触媒塗膜形成方法。
【請求項5】
前記基材は透明性を有する材料で形成され、該基材の表面に光触媒コーティング剤をスプレーノズルを用いて吐出圧を0.2MPa〜0.4MPa及び吐出量を0.5g/m〜2.0g/m並びに該基材と該スプレーノズルの距離を15cm〜30cmとした吐出条件でミスト塗布することを特徴とする請求項3に記載の光触媒塗膜形成方法。
【請求項6】
前記スプレーノズルのノズル穴の口径が0.3〜0.5mmのスプレーガンを用いることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の光触媒塗膜形成方法。
【請求項7】
前記アンダーコート剤や前記光触媒コーティング剤等のコート剤を圧送供給する低圧スプレーガンを用いることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の光触媒塗膜形成方法。
【請求項8】
前記アンダーコート剤をペルオキソチタン酸水溶液とすることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項6又は請求項7のいずれかに記載の光触媒塗膜形成方法。
【請求項9】
前記光触媒コーティング剤を、ペルオキソ改質アナターゼゾル、またはペルオキソチタン酸水溶液とペルオキソ改質アナターゼゾルの混合液とすることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の光触媒塗膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−73588(P2008−73588A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254049(P2006−254049)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(306028375)有限会社ペルセフォン (1)
【Fターム(参考)】