説明

光触媒性材料および光触媒性部材

【課題】 高い光触媒活性を有するルチル型酸化チタンからなる光触媒性材料および光触媒性部材を提供する。
【解決手段】 長軸方向が(001)方向に配向している異方性のルチル型酸化チタン粒子を主として含有してなる光触媒性材料、ないし、前記異方性のルチル型酸化チタンを含む被膜が基材に形成されている光触媒性部材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒性材料および光触媒性部材に関する。本発明は、鏡、レンズ、板ガラスその他の基材の表面を高度に親水化することにより、基材の曇りや水滴形成を防止する防曇効果を発揮させる技術、および表面を自己浄化(セルフクリーニング)し、若しくは容易に清掃できるようにする技術に関する。本発明は、また、表面に付着した有機物を分解する効果により、表面の汚れ物質や環境中の悪臭物質などを除去する技術にも適用できる。
【背景技術】
【0002】
光触媒に励起光に相当する光を照射することで、表面に接触した有機物を分解する酸化分解反応と、光触媒自身の表面が高度に親水化する反応を誘起することができる。ここで言う高度とは表面の水との接触角が20°以下であることを指す。水との接触角は好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下である。光触媒のこれらの特性を利用して、防曇、防汚、セルフクリーニング材料等、様々な応用が提案されている。酸化チタンは代表的な光触媒材料として知られ、これまでに数多くの検討がなされてきた。これらの検討に使われてきた酸化チタン薄膜の製法としては、例えば、水に分散した酸化チタンゾルを基材に塗布する方法や、金属アルコキシドを基材に塗布後、焼成する方法や、スパッタ、蒸着などの真空プロセスによって作製する方法が提案されてきた。酸化チタン粒子の形状、結晶配向性に異方性を持たせることで効率的に光触媒反応を起こさせることが期待できるのだが、これらの酸化チタン粒子の形状は、一般的に球状、すなわち等方的であるか、あるいは無定形である。さらに、酸化チタン粒子の結晶構造としては、等方的あるいは無定形等の粒子形状からも容易に分かるように、単一粒子内での配向性の高いものはほとんど報告例がなく、多くの場合、多くの結晶面がランダムに粒子表面に露出した構造になっている。
【0003】
一方、酸化チタンの最安定相であるルチル型については、光吸収端がせいぜい380nmのアナターゼ型よりも長波長側(400nm)まで光吸収できる。つまり、太陽光・人工光等の広い領域の光を反応に利用できる高活性な光触媒である。また、ルチル単結晶を用いた光誘起親水化特性が調べられており、表面にブリッジ酸素のある面(例えば、110面や100面)が光誘起親水化反応には高活性な結晶面であることが明らかにされている(たとえば、非特許文献1参照)。さらに、ルチル型酸化チタンは、アナターゼ型(約3.2eV)に比べ、バンドギャップが小さいこと(約3.0eV)が知られており、よって紫外線の吸収能がアナターゼに比べて高いことも知られている。
【0004】
しかしながら、これまで、ルチル型酸化チタンは、TiO2の結晶多形の中では最安定な相のため、この構造を得るためには高温の熱処理、例えば700℃以上の加熱工程が必要であった。またルチル型酸化チタン粒子としては、多くは数百nmサイズの大粒径のものしか得られておらず、しかも特定の結晶面が優先的に露出した構造の微粒子は報告されていない。そのため、光触媒部材としては、光触媒活性や光誘起親水化活性が高く、薄膜等の透光性の優れた部材の作製は困難であった。
【非特許文献1】R.Wang et al., J.Phys.Chem.B, 103, 2188 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光誘起親水化活性が高い光触媒性材料、および、光触媒親水化活性が高く透明な光触媒性部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では長軸方向が(001)方向に配向している異方性のルチル型酸化チタン粒子を含有する光触媒材料を提供する。また、本発明では基材と、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子を含む被膜とを含んでなる光触媒性部材を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い親水化特性を有する光触媒性材料および光触媒性部材を提供することができる。さらに透光性を高くすることも可能である。防曇、防汚、セルフクリーニング材料、水浄化、空気浄化等の環境浄化用途へと適用することが可能な光触媒性材料および光触媒性部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の光触媒性材料ないし光触媒性部材に含まれる異方性のルチル型酸化チタン粒子は、長軸方向が(001)方向に配向していることを特徴とする。ルチル型酸化チタンのバンドギャップは3.0eVで、アナターゼ型酸化チタンのバンドギャップ(3.2eV)よりも小さい値を持ち、400nm付近の近可視光領域の紫外線を吸収することができる。また、(001)面はブリッジ酸素のない面で酸化分解力や親水化活性が弱い。すなわち、長軸と垂直な方向、つまり異方性粒子の端面が(001)面で、この面の親水化活性が弱い。一方、光触媒活性の高い(100)面や(110)面は長軸と平行な面にあり、露出面積も高い。本発明に係るルチル型酸化チタン粒子には光触媒活性の高い(100)や(110)面が多く存在するため、高度な酸化分解活性、親水化能力を発揮する。本発明に係るルチル型酸化チタン粒子の形状の模式図を図1に示す。
【0009】
本発明における「(001)方向に配向している」とは、(001)方向が長軸と必ずしも180度平行でなくても構わない。結晶方向がランダムな多結晶と比較して、一定の方向性を有していれば良い。配向性は、例えば、透過型電子顕微鏡による電子線回折測定によって確認され、具体的には(株)日立製作所製 H-9000UHR IIIによって測定される。
【0010】
本発明に係る異方性のルチル型酸化チタン粒子の短軸の長さは5〜100nm、長軸の長さは60〜300nmであって、かつ、長軸が短軸よりも長い。この形状にすることで、高い分散性を発現し、塗膜として部材に固定化した場合に可視光の散乱が抑えられ、透明性も高い。
【0011】
本発明に係る異方性のルチル型酸化チタン粒子の別の態様として、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子は柱状の1次粒子が長軸方向に配向して複数会合しており、前記柱状の1次粒子の長軸が(001)方向に配向した形状であっても構わない。このような形状にすることでも、多結晶と比較して光触媒活性の高い面を露出させることができる。
【0012】
本発明の好ましい態様において、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の内部には粒界が存在しない。粒界が存在すると電子正孔対の移動を阻害するため、光触媒活性が低下してしまう。
【0013】
本発明に係る異方性のルチル型酸化チタン粒子において、長軸方向が(001)方向に配向していれば高度な親水化活性を発現するため、粒子の形状は角柱状であっても円柱状であっても構わない。前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が角柱状の場合、長軸に平行な面は4回対称軸を持つ(100)面や(110)面が露出する。また、(100)面と(110)面の双方で構成された八角柱の構造であっても構わない。円柱状の場合、(001)面に垂直な複数の面が露出することになる。また、長軸の端部は長軸に直交していても、角錘状ないし円錐状に尖った形状でも構わない。
【0014】
本発明に係る異方性のルチル型酸化チタン粒子の別の態様として、板状であっても構わない。好ましくは前記板状粒子の厚み方向が親水化活性の高い(110)方向に配向している。前記「板状」とは、扁平な形態である。このように扁平状にすることで、基材の上に被膜を形成した場合の密着性が高くなる。ここで板状粒子の長さLl,幅Ls(Ll≧Ls),厚みDとすると、Dが2〜30nmであり、アスペクト比(D/Ls)が1以下である。より好ましいDの範囲は10〜25nmである。また、Lsは10〜50nmであることが好ましく、Llは60〜300nmであることが好ましい。ここで、厚み(D)が30nmより大きい場合、粒子径が大きくなる事から、実質比表面積の低下が起こる。更に、アスペクト比(D/Ls)が1より大きい場合、粒子の形態が棒状に近づくことから、塗膜化した際の基板との接触面積が小さくなる。更に、Lsが10nmより小さい、もしくは、Llが60nmより小さい板状ルチル型酸化チタン粒子の作製は困難である。更に、Lsが50nmより大きい、もしくは、Llが300nmより大きい板状ルチル型酸化チタン粒子の作製は困難であり、しかも粒子径が大きくなる事から、実質比表面積の低下が起こる。なお、この板状粒子は必ずしも直方体形状で無くてもよい。例えば角が丸くなっていてもよく、楕円柱形状であってもよい。ここで、「厚み方向が(110)方向に配向している板状ルチル型酸化チタン粒子」とは、(110)方向が板状ルチル型酸化チタン粒子の厚み方向に平行に配列した粒子であれば良い。ここで全ての(110)方向が板状粒子の厚み方向に平行に配列していなくても、(110)方向が優先的に配列していれば良い。
【0015】
本発明の好ましい態様においては、前記板状ルチル型酸化チタン粒子を含む被膜は、基材の垂直方向に対し、前記板状ルチル型酸化チタン粒子の(110)方向が配向している。基材の垂直方向に対し、板状ルチル型酸化チタン粒子(110)方向が配向していることによる利点は多い。例えば、板状ルチル型酸化チタン粒子の(110)面が基材の垂直方向に対して配向することで、前記板状ルチル型酸化チタン粒子が被膜中で密にパッキングされるため、透明性が高い。また、本発明の光触媒性部材に水滴が付着すると、光触媒活性及び親水化活性が高いルチル型酸化チタンの(110)面が多く表面に露出しているため、親水化活性が高い表面を提供することができる。高度に親水化した表面においては、防曇、雨水によるセルフクリーニング効果等、様々な機能が発現する。
【0016】
前記被膜において、基材の垂直方向に対し、ルチル型酸化チタン粒子の(110)面が配向しているかどうかは、X線回折測定装置、例えば、MacScience製MXP-18により確認でき、または表面や破断面の透過型電子顕微鏡(TEM)、例えば日立製作所製H-9000UHR IIIによる電子線回折測定等を行うことにより確認することができる。ここで、本発明における「基材の垂直方向に対し、ルチル型酸化チタン粒子の(110)方向が配向している」とは、全ての結晶が(110)方向に揃っている必要はなく、他の面よりも優先的に配向していれば良い。さらに、本発明における被膜の面内配向性はあってもなくても良い。
【0017】
本発明に係る基材として、例えば、ガラス、セラミックス、レンズ、プリズム、透明プラスチック、フィルム、それらの組み合わせ、それらの積層体、それらに反射コートを施した鏡などが好適に利用できる。具体的な物品としては、自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウェイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船、のような乗り物の窓に用いられるガラス;眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体製造用レンズのようなレンズ;浴室または洗面所用鏡、車両用バックミラー、歯科用歯鏡、道路鏡のような鏡; 防護用またはスポーツ用ゴーグルまたはマスク、潜水用マスク、ヘルメットのシールド;冷凍食品陳列ケースのガラス;計測機器のカバーガラス、およびそれらの物品に貼付可能なフィルムなどが好適に利用できる。また、本発明の基材として、板ガラス、壁材、壁紙、タイル、屋根材等の建築材料を適用した場合、部材の自己浄化機能を発現することができる。
【0018】
本発明の光触媒性部材に係る被膜の膜厚の好ましい範囲は、10nm〜1000nmであり、より好ましくは20nm〜500nmである。10nmより小さい膜厚では、該板状粒子の厚みより小さいので製膜できない恐れがある。20nmより小さい膜厚では、該板状粒子の担持量が少ない為、光触媒活性・親水化活性の低下が起こる恐れがある。1000nmより大きい膜厚では膜の剥離が起こる恐れがあり、500nmより大きい膜厚では、透明性を確保する場合、膜が不透明になる恐れがある。そして、透明性・光触媒活性の両方を達成できるような、最も好ましい膜厚としては、50nm〜300nmであり、更に50nm〜100nmに膜厚を設定すると、透明性がより優れる被膜を作製できる。
【0019】
本発明の光触媒性部材における被膜部分は波長500nmにおいて70%以上の透過率を有する。本発明の光触媒性部材における被膜部分の波長500nmにおける透過率としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは90%以上である。ここで、70%未満の透過率では、基材の色が白濁してしまう等の恐れがある。70%以上の透過率を有する場合、基材の色・意匠性を妨げない程度の透光性が確保でき、より好ましい80%以上の透過率では、光の散乱の影響が少なく、且つ高い透光性が確保でき、更に好ましい90%以上の透過率では、薄膜の色が色・意匠性にほとんど影響を与えない程度の透光性が確保できる。本発明における透過率は紫外-可視分光光度計によって好適に測定することができる。基材における光吸収をキャンセルするために、基材に被膜を形成させていない条件で測定した透過率を実測値から差し引けばよい。
【0020】
本発明の光触媒性部材に係る被膜に更にバインダー成分が含まれていても構わない。バインダーとして、例えば、シロキサン結合を有する物質を好適に使用することができる。シロキサン結合は水との濡れ性に優れ、化学的な安定性や耐候性も高い。前記シロキサン結合を有する物質としては水ガラス等のアルカリシリケート、コロイダルシリカ、アルミノシリケート化合物を使用することもできる。アルミノシリケート化合物はシリケート化合物のSiの一部をAlで置換した化合物であって、更に電荷を補償するためにH+やLi+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Fr+などのアルカリ金属イオンやBe2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+などのアルカリ土類金属イオンが含有されていてもよい。前記シリケート結合を有する化合物のSiの一部をAlで置換した物や、ゼオライトなどを使用することができる。また、前記シロキサン結合を有する物質として、更に好ましい態様において、シリコーンエマルジョンを用いることができる。シリコーンエマルジョンとしては、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt-ブトキシシラン;エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリt-ブトキシシラン;n-プロピルトリクロルシラン、n-プロピルトリブロムシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリイソプロポキシシラン、n-プロピルトリt-ブトキシシラン;n-ヘキシルトリクロルシラン、n-ヘキシルトリブロムシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリイソプロポキシシラン、n-ヘキシルトリt-ブトキシシラン;n-デシルトリクロルシラン、n-デシルトリブロムシラン、n-デシルトリメトキシシラン、n-デシルトリエトキシシラン、n-デシルトリイソプロポキシシラン、n-デシルトリt-ブトキシシラン;n-オクタデシルトリクロルシラン、n-オクタデシルトリブロムシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン、n-オクタデシルトリエトキシシラン、n-オクタデシルトリイソプロポキシシラン、n-オクタデシルトリt-ブトキシシラン;フェニルトリクロルシラン、フェニルトリブロムシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリt-ブトキシシラン;テトラクロルシラン、テトラブロムシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン;ジメチルジクロルシラン、ジメチルジブロムシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン;ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジブロムシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン;フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジブロムシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン;トリクロルヒドロシラン、トリブロムヒドロシラン、トリメトキシヒドロシラン、トリエトキシヒドロシラン、トリイソプロポキシヒドロシラン、トリt-ブトキシヒドロシラン;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリブロムシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリt-ブトキシシラン;トリフルオロプロピルトリクロルシラン、トリフルオロプロピルトリブロムシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロプロピルトリt-ブトキシシラン;γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリt-ブトキシシラン;γ-メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタアクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタアクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-メタアクリロキシプロピルトリt-ブトキシシラン;γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルトリt-ブトキシシラン;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリt-ブトキシシラン;β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランの部分加水分解物、脱水宿重合物を好適に使用することができる。
【0021】
更に、前記バインダーとして、フッ素樹脂エマルジョンを使用することができる。フッ素樹脂エマルジョンを含む塗膜は化学的安定性が高く、また、耐候性も高く、柔軟性にも優れている。前記フッ素樹脂エマルジョンとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、パーフルオロシクロポリマー、ビニルエーテル-フルオロオレフィンコポリマー、ビニルエステル-フルオロオレフィンコポリマー、テトラフルオロエチレン-ビニルエーテルコポリマー、クロロトリフルオロエチレン-ビニルエーテルコポリマー、テトラフルオロエチレンウレタン架橋体、テトラフルオロエチレンエポキシ架橋体、テトラフルオロエチレンアクリル架橋体、テトラフルオロエチレンメラミン架橋体等フルオロ基を含有するポリマーのエマルジョン等から選択される少なくとも一つが好適に利用できる。
【0022】
本発明の光触媒性材料および光触媒性部材の電荷分離を促進させるため、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子にPt, Pd, Ag, Cu, Au, Ni等の金属を担持させてもよい。前記金属を担持することによって光励起した電子正孔対が効率的に分離し、親水化活性、酸化分解活性が増大する。また、特にAgやCuを担持した場合、抗菌性や防藻性も発揮する。
【0023】
前記異方性ルチル型酸化チタン粒子を製造する方法としては、チタン元素を含む化合物からなる中空ファイバを出発原料として好適に用いることができる。前記チタン元素を含む化合物からなる中空ファイバは、酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の少なくともいずれか一種を含んでいる。本発明に係るチタン元素を含む化合物が酸化チタンの場合、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、TiO2(B)が好適に使用できる。また、前記酸化チタンとして、Ti2O3やTi3O5などの還元体やマグネリ相を含んでいても構わない。前記チタン元素を含む化合物がチタン酸塩の場合、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸、レピドクロサイト型チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸や、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の多価チタン酸塩であっても構わない。特に好ましい態様においては、前記チタン元素を含む化合物は巻物状の層状のトリチタン酸で構成されている。前記巻物状の層状のトリチタン酸は、電荷の中性を保つため、層間にプロトンが挿入されており、溶媒中での安定性は極めて高い。前記中空ファイバの作製方法としては、例えば、酸化チタン粒子を水酸化ナトリウム水溶液中において、水熱処理する方法が好ましく用いられる。
【0024】
前記出発原料から本発明に係る異方性のルチル型酸化チタン微粒子を製造する方法として、前記出発原料の層間にプロトンを挿入することにより層間を拡大させる方法が好ましく用いられる。より具体的には、チタン元素を含む化合物からなる中空ファイバを酸性水溶液に接触させる方法が好ましく用いられる。こうした酸性水溶液中での処理によって、請求項6、7、15、16、17に記載の板状のルチル型酸化チタン粒子を含む光触媒性材料および光触媒性部材を作製することができる。前記異方性のルチル型酸化チタンの結晶性を高めたり、欠陥量を低減させるため、水熱処理した後に大気中で熱処理をしてから分散処理しても構わない。
【0025】
本発明において、前記出発原料の中空ファイバにプロトンを付加する方法として、中空ファイバを酸水溶液と接触させる方法が好適に用いられる。ここで用いる酸の種類としては、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、フッ酸、臭素酸、沃素酸、亜硝酸、酢酸、蓚酸などが挙げられる。プロトンの付加を効率的に促進させるため、静置・攪拌・振とうさせてもよく、より好ましくは静置させる方法がある。前記酸水溶液と接触させる時の温度条件としては、0℃以上100℃未満が好ましく、より好ましくは10℃以上50℃以下である。ここで、0℃未満の温度条件では、溶媒である水が凍結してしまい、プロトンの付加反応が阻害される恐れがあり、また100℃以上の温度条件では、水の沸点以上になる為に、溶媒の揮発が顕著になることや中空ファイバの溶解・分解反応が促進される恐れがある。そして、10℃未満の温度では、溶液中の拡散低下により中空ファイバへのプロトン付加反応が遅くなり、50℃より高い温度では、中空ファイバの溶解・分解反応が起こる恐れがある。
【0026】
前記酸水溶液の酸濃度としては、0.1M以上10M以下が好ましく、より好ましくは0.2M以上5M以下である。ここで、0.1M未満の濃度条件では、プロトン量が不十分になる恐れがあり、10Mより大きい濃度条件では、中空ファイバの溶解・分解反応が進む可能性がある。そして、0.2M未満の場合、プロトン付加反応が遅くなる恐れがあり、5Mより大きい場合、中空ファイバの溶解・分解反応が起こる恐れがある。
【0027】
本発明の光触媒性材料および光触媒性部材を製造する別の方法として、前記プロトン処理して板状のルチル型酸化チタン粒子を作製した後に、更に水熱処理をおこなう。このときの水熱処理条件によって、粒子の形状を任意に制御することができる。例えば、塩基性水溶液中で水熱処理をおこなうと、請求項4,5,13,14に記載の円柱状、ないし、角柱状の異方性ルチル型酸化チタン粒子を得ることができる。一方、酸性水溶液中で水熱処理をおこなうと、請求項8、18に記載の長軸方向に配列した複数の柱状粒子を束ねた形状の異方性のルチル型酸化チタン粒子を合成することができる。塩基性水溶液として、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、四級アンモニウム水酸化物等の誘起アミン水溶液等が好適に使用することができる。酸性の水溶液としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、フッ酸、臭素酸、沃素酸、亜硝酸、酢酸、蓚酸、リンゴ酸等好適に用いられる。
前記異方性のルチル型酸化チタンの結晶性を高めたり、欠陥量を低減させるため、水熱処理した後に大気中で熱処理をしてから分散処理しても構わない。
【0028】
本発明の光触媒性部材を製造する方法として、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子を含むコーティング剤を基材に塗布する方法を好ましく用いることができる。この塗布方法としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分でできるものとして、特公昭58-4589号公報に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパ法、エクストルージョン法、カーテン法等が好ましい。また汎用機としてスピン法やスプレー法も好ましく用いられる。更に、前記板状ルチル型酸化チタン粒子が分散した溶液と、カチオン性ポリマーを含む溶液に対し、基材を交互に浸漬することによって製造する方法も好ましく用いられる。
【0029】
本発明の光触媒性部材に含まれる異方性のルチル型酸化チタン粒子の結晶性を高めたり、緻密性を上げるため、被膜を形成させた後に熱処理をしても構わない。熱処理温度としては、50℃〜600℃が好適である。
【0030】
本発明の光触媒性材料および光触媒性部材は高度な光触媒活性を有する。防曇、防汚、セルフクリーニング機能を有する物品に広範に適用することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
【0032】
1.チタン元素を含む化合物からなる中空ファイバの作製
酸化チタン粉末(商品名P25、日本アエロジル(株)製、平均一次粒子径約25nm、比表面積約55m2/g)0.96gを10M水酸化ナトリウム水溶液80mlに投入し、ガラス棒にて1分間攪拌することにより、白色懸濁液を得た。この白色懸濁液を100mlフッ素樹脂製容器に入れ、さらにステンレス製容器にこのフッ素樹脂製の容器を入れた。乾燥器の中にこのステンレス容器を入れて、120℃で40時間保持した。反応終了後、室温までステンレス容器を自然放冷させ、白色沈殿物を含む溶液を回収した。洗浄工程として、この白色沈殿物を含む溶液から、上澄み液をまずスポイトにて除去した。残った白色沈殿物に0.1M硝酸水溶液100mlを少量ずつ添加した。硝酸水溶液を全量添加後、室温(20℃)で3時間静置した。静置後、上澄み液を除去した。この洗浄工程を合計3回行い、上澄み液がpH7以下であることを確認した。これらの中和操作の後、残った白色沈殿物を蒸留水で2回洗浄することにより、白色粉末を得た。この白色粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)製STEM S-5200)で観察したところ、15万倍の倍率において、この方法で得られる白色粉末が中空ファイバの集合体であり、各ファイバの中心部は直径3〜5nmの中空構造になっていることを確認した。
【0033】
1−2.板状ルチル型酸化チタン粒子を含むコーティング剤の作製
上記の方法で作製した白色粉末を2M硝酸水溶液64ml中に添加、室温で1週間暗所で静置した。静置後、得られた半透明溶液を遠心分離機(佐久間製作所(株)製 M200-IVD)により5000rpmで30分遠心分離することで、プロトンを付加した白色ゲルを得た。このゲルを0.1M硝酸水溶液に再分散させることで、白色透明なコーティング剤を得た。このコーティング剤は、1週間静置しても沈澱生成は見られなかった。この白色透明なコーティング液中の粒子を透過型電子顕微鏡(日立製作所(株)製H-9000UHR III)で観察した結果を図2に示したが、異方性形状を有していることがわかった。単一粒子の電子線回折像により、この粒子はルチル型酸化チタンのスポットと一致し、厚み方向が(110)方向に配向している結晶構造を有することが明らかとなった。またこの白色透明なコーティング液を滴下・乾燥したホウ珪酸ガラス基板の表面を原子間力顕微鏡(Digital Instruments Inc.製 Nanoscope 3a)にて観察した結果を図3に示したが、厚みが約20nm、幅が50nm、長さが200nmの板状構造であることがわかった。同様に、プロトン化直後の白色ゲルを0.1Mの水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)の水溶液に加え、室温で3日間シェイカーによって振とうして作製した白色透明なコーティング剤についても、TEM観察により、板状ルチル型酸化チタン粒子が高分散していることも確認した。
【0034】
1-3.基材への固定化
基材としてホウ珪酸ガラス(コーニング社、7059)を用い、熱濃硫酸中で表面に付着した有機物を除去した後、純水で洗浄した。この基材に、前記板状ルチル型酸化チタン粒子(0.5wt%)を含む0.1M硝酸水溶液を蒸留水で2.5倍に希釈した溶液を用いて、スピンコート法により1500rpmで10秒間回転させることで塗布した。
【0035】
1-4.比較例の作製
前記洗浄方法で清浄化したホウ珪酸ガラス基材に、アナターゼ型酸化チタンゾル(石原産業STS-01、30wt%)を蒸留水で30倍に希釈した溶液を用いて、スピンコート法により1500rpmで10秒間回転させることで塗布した。
【0036】
2.SEMによる構造観察
前記方法により作製した板状ルチル型粒子薄膜について、走査型電子顕微鏡(日立製作所(株)製SEM S-4100)で表面を観察した結果を図4に示す。比較例のアナターゼ型酸化チタン薄膜を構成する粒子は略球状であったのに対し、実施例の薄膜は異方性の板状粒子で構成されていることを確認した。また、板状粒子の長軸は基材に対して平行に配向していることも確認できた。実施例の板状ルチル型酸化チタン薄膜、及び比較例のアナターゼ型酸化チタン薄膜の膜厚は、ほぼ同じ60nmであった。
【0037】
3.UV-Vis分光光度計による測定
前記1-3で作製した板状ルチル型酸化チタンの薄膜、およびその400℃焼成した薄膜の吸収スペクトルを分光光度計(日本分光製、UBEST55)で測定した。これらの薄膜の透過率の結果を比較例と共に図5に示す。この結果、500nmの波長において、ホウ珪酸ガラスの光吸収分(8%)を差し引いた板状ルチル型酸化チタン薄膜の実質の透過率としては、96%であることがわかり、本発明の薄膜の可視光での透過率が非常に高いことが明らかになった。
【0038】
4.光誘起親水化特性の評価
板状ルチル型酸化チタン薄膜と、比較例のアナターゼ型酸化チタン薄膜、更にそれらを大気中で400℃の熱処理をしたサンプルの光誘起親水化特性を評価した。紫外線の照射は、10Wのブラックライト(東芝製)を用い、紫外線照度を0.2mW/cm2となるように照射した。紫外線照度の測定は紫外線照度計(トプコン製、UVR-2)を用いた。親水性の指標として水との接触角を用い、接触角測定機(協和界面科学社製、CA-X150)で測定した。
【0039】
結果を図6に示したが、熱処理なし同士のサンプル、そして熱処理したサンプル同士の比較では、どちらも板状ルチル型酸化チタン薄膜の方が、比較例のアナターゼ型酸化チタン薄膜よりも、接触角の減少が速やかに起こっており、水との接触角に換算して5度以下まで高度に親水化した。このことより、光誘起親水化活性が従来のアナターゼ型の薄膜に比べて高いことが示された。
【0040】
更に、分光光度計(日本分光製、UBEST55)による紫外可視吸収スペクトル測定から算出した単位面積あたりの薄膜の吸収フォトン数(P)と、接触角の減少速度から割り出した親水化速度定数(V)は、比較例のアナターゼ薄膜よりも板状ルチル薄膜の方が高い値であり、板状ルチル薄膜が従来のアナターゼ薄膜に比べ、紫外線の吸収能が高く、さらに光誘起親水化活性も高いことを示している。更に吸収フォトン数当たりの接触角の親水化速度定数(V/P)も、比較例のアナターゼ薄膜よりも高い値を示していることから、より効率的に親水化が起こっていることが確認された。これらのデータを表1に示す。親水化速度は非特許文献2に従い、接触角の逆数を時間に対してプロットし、その傾きから算出した。
【0041】
【非特許文献2】N. Sakai et al., J.Phys.Chem.B, 107, 1028 (2003)
【0042】
【表1】

【0043】
5.柱状ルチル型酸化チタン微粒子の合成
前記1−2.で得られた板状ルチル型酸化チタンを更に0.2Mのテトラブチルアンモニウム水酸化物水溶液中で水熱処理した。板状ルチル型酸化チタンの重量は1g、テトラブチルアンモニウムの量は80mLとし、1.と同様の水熱反応容器を用い、200℃×20時間の水熱処理をおこなった。得られたサンプルを遠心分離、中和、洗浄工程をおこない、白色粉末である#2試料を得た。前記1−2.で得られた板状ルチル型酸化チタンを乾燥して回収したものを#1試料とする。
得られた粉末の走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、長軸が50〜200nm、短軸が20〜30nmの柱状構造であった。更に、得られた粉末をエポキシ樹脂に埋包し、のダイヤモンドナイフ35度(Diatome社)を使用し、ウルトラミクロトーム(ライカ製、LEICA EM UC6)で薄片化し、走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、四角柱状の断片が確認された(図7)。また透過像を観察する限り、粒界が存在しないことも明らかになった。またこの粉末の結晶構造を粉末X線回折(マックサイエンス、MXP18II)で測定したところ、ルチル型酸化チタンであることが明らかになった。
【0044】
6.複数の柱状の1次粒子からなる異方性ルチル型酸化チタン微粒子の合成
前記1−2.で得られた板状ルチル型酸化チタンを更に0.2Mの硝酸水溶液中で水熱処理した。板状ルチル型酸化チタンの重量は1g、硝酸の量は80mLとし、1.と同様の水熱反応容器を用い、200℃×20時間の水熱処理をおこなった。得られたサンプルを遠心分離、洗浄工程をおこない、白色粉末である#3試料を得た。
得られた粉末の走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察した。2次電子像、透過電子像を図8に示したが、長軸が200〜300nm、短軸が40〜90nmで、長軸方向に複数の柱状粒子が束なった形状を有することがわかった。更に、得られた粉末をエポキシ樹脂に埋包し、のダイヤモンドナイフ35度(Diatome社)を使用し、ウルトラミクロトーム(ライカ製、LEICA EM UC6)で薄片化し、走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、複数の四角柱状の粒子の断片が確認された。また、この粉末の結晶構造を粉末X線回折(マックサイエンス、MXP18II)で測定したところ、ルチル型酸化チタンであることが明らかになった。
【0045】
7.異方性のルチル型酸化チタン粒子の光触媒特性の評価
得られたサンプルのイソプロパノール分解活性を評価した。得られた粉末をガラス製のシャーレに均一に敷き、このシャーレを800mLのホウ珪酸ガラス製の反応用セル内に設置、セル内を相対湿度50%の合成空気で置換した後にイソプロパノールを注入、暗所で2時間放置した後に光照射した場合のイソプロパノールと分解生成物であるアセトンの濃度変化を測定した。イソプロパノールの濃度は、サンプルを設置しない状態で500ppmとなるような条件に設定した。イソプロパノール、アセトンの濃度はマルチガスモニタ(Innova社、1312)で測定した。光源は10Wの白色蛍光灯(東芝)を用い、紫外線強度が紫外線照度計(トプコン、UVR-2)で計測した値で37μW/cm2になるように設定した。#1試料:板状、#2試料:柱状、#3試料:複数の柱状粒子からなる粉末サンプルをそれぞれ、大気中で400℃熱処理したサンプルについても上記と同様に光触媒活性を評価した。また、比較例として、アナターゼ型の酸化チタン(石原産業、ST-01)についても測定した。
光照射時のアセトンの発生を図9に示した。この結果、本発明の異方性のルチル型酸化チタンはいずれも市販のアナターゼ型酸化チタンよりも高活性であることが明らかになった。

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の光触媒性材料および光触媒性部材は防曇、防汚、セルフクリーニング部材、水浄化、大気浄化用材料等として好適に使用することができる
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る異方性のルチル型酸化チタン粒子の模式図
【図2】本発明に係る#1試料(板状ルチル型酸化チタン粒子)の透過型電子顕微鏡写真及び電子線回折像を示す図である。
【図3】本発明に係る#1試料(板状ルチル型酸化チタン粒子)の原子間力顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本発明に係る光触媒性部材の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】本発明の光触媒性部材の透過スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の光触媒性部材の光誘起親水化特性を示す図である。
【図7】本発明に係る#2試料(柱状ルチル型酸化チタン粒子)の透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図8】本発明に係る#3試料(複数の柱状の1次粒子からなる異方性ルチル型酸化チタン粒子)の走査型電子顕微鏡写真および透過型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図9】本発明に係る異方性ルチル型酸化チタン粒子のイソプロパノールの光触媒分解特性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸方向が(001)方向に配向している異方性のルチル型酸化チタン粒子を主として含有してなる光触媒性材料。
【請求項2】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の短軸の長さが5〜100nm、長軸の長さが60〜300nmであって、かつ、長軸が短軸よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の光触媒性材料。
【請求項3】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子は柱状の1次粒子が長軸方向に配向して複数会合しており、前記柱状の1次粒子の長軸が(001)方向に配向していることを特徴とする請求項1ないし2に記載の光触媒性材料。
【請求項4】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の内部に粒界が存在しないことを特徴とする請求項1ないし2に記載の光触媒性材料。
【請求項5】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が角柱状であることを特徴とする請求項1〜4に記載の光触媒性材料。
【請求項6】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が円柱状であることを特徴とする請求項1〜4に記載の光触媒性材料。
【請求項7】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が板状であって、板状の厚み方向が(110)方向に配向していることを特徴とする請求項1〜4に記載の光触媒性材料。
【請求項8】
請求項7に記載の光触媒性材料であって、前記板状の異方性のルチル型酸化チタン粒子の短軸のうち、厚さをD1、幅をLsとし、長軸の長さをLl(Ll≧Ls)としたとき、アスペクト比(D/Ls)が1以下であり、Lsが10〜50nmであり、Llが60〜300nmであることを特徴とする請求項7に記載の光触媒性材料。
【請求項9】
基材と、請求項1〜8のいずれか1項に記載の異方性のルチル型酸化チタン粒子を含む被膜とを含んでなることを特徴とする光触媒性部材。
【請求項10】
前記被膜に含まれる前記異方性のルチル型酸化チタン粒子は、前記被膜形成面と平行に(001)方向が配向していることを特徴とする請求項9に記載の光触媒性部材。
【請求項11】
基材と、請求項7または8に記載の板状の異方性のルチル型酸化チタン粒子を含む被膜とを含んでなる光触媒性部材であって、前記被膜に含まれる前記板状ルチル型酸化チタン粒子は、基材の垂直方向に対し(110)方向が配向していることを特徴とする光触媒性部材。
【請求項12】
前記被膜の膜厚が10nm〜1000nmの範囲であることを特徴とする請求項9〜18いずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項13】
前記被膜の波長500nmにおける透過率が70%以上であることを特徴とする請求項9〜19いずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項14】
前記被膜に、更にバインダーが含まれることを特徴とする請求項9〜20いずれか一項に記載の光触媒性部材。
【請求項15】
請求項9〜21いずれか1項に記載の光触媒性部材を製造する方法であって、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子を含む分散液を基材に塗布する工程と乾燥する工程を有することを特徴とする光触媒性部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−224084(P2006−224084A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83899(P2005−83899)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】