説明

光触媒材料およびその製造方法

【課題】本発明は、水素発生に適した光触媒材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】光電着法によって貴金属を酸化チタン微粒子に担持させる。調整した貴金属水溶液に犠牲剤として水−メタノール混合物を添加した系に対し、酸化チタン粉末を投入し、紫外線を照射しながら当該懸濁溶液を撹拌する。続いて、上記懸濁溶液を吸引ろ過することによって得た貴金属担持酸化チタンの泥しょうに対し紫外線を照射しながら乾燥させる。酸化チタン粒子の表面上に貴金属を金属微粒子として析出・担持させる工程のみならず、貴金属が担持した酸化チタンを乾燥させる間も紫外線を照射することによって、水素発生反応における触媒活性が格段に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料に関し、より詳細には、高い活性を有する貴金属担持酸化チタンを含む光触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油資源の枯渇の問題や二酸化炭素排出による地球温暖化の問題などに鑑みて、炭化水素に代る新たなエネルギー源の開発が求められており、近年、新たなエネルギー源の有力な候補として水素が注目されている。水素は、水を分解することによって地球上のどこでも製造しこれを貯蔵することでき、燃料電池によって電気エネルギーに変換することも、燃焼させて熱エネルギーに変換することもできる上、その利用の結果排出されるのは水のみであり、地球温暖化の最大の要因として考えられる二酸化炭素を発生しないという点で、従来の炭化水素にない利点を有する。
【0003】
現在、水素は、一般に水を電気分解することによって製造されているが、これ以外に簡潔な方法として酸化チタンを用いて水素を発生させる、本多−藤島効果を利用した方法が注目されている。特開2001−199701号公報(特許文献1)および特開2007−69158号公報(特許文献2)は、光触媒としての酸化チタンの本多−藤島効果を利用した水素の製造方法を開示する。また、特開2005−281031号公報(特許文献3)は、酸化チタンの光触媒活性を向上させるべく光電着法によって酸化チタンに白金を均一に担持させる方法を開示する。しかしながら特許文献1〜3に開示された光触媒材料は、水素の発生においてその活性が未だ充分でなく、本多−藤島効果を利用した水素の製造方法によっては未だ実用化レベルの水素の発生効率が実現されていなかった。
【特許文献1】特開2001−199701号公報
【特許文献2】特開2007−69158号公報
【特許文献3】特開2005−281031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、水素発生に適した光触媒材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、酸化チタンの光触媒活性がより向上した光触媒材料の製造方法につき鋭意検討した結果、従来の光電着法による酸化チタン−貴金属−触媒の製造方法の貴金属が担持した酸化チタンを乾燥させる工程おいて、紫外線を照射しながら乾燥して得られた光触媒材料によれば、従来のものと比較して数倍高い効率で水素が発生することを見出し、本発明に至ったのである。
【0006】
すなわち、本発明によれば、貴金属の水溶液と酸化チタンとを含む混合液に対して紫外線を照射しながら、該混合液を撹拌する工程と、前記混合液をろ過する工程と、ろ過後の残渣に対して紫外線を照射しながら、該残渣を乾燥させる工程とを含む光触媒材料の製造方法が提供される。前記貴金属は、白金、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属とすることができる。また、本発明においては、前記撹拌する工程において、紫外線を上記混合液の液面から15cm以内に設置された光源から照射することが好ましく、前記乾燥させる工程において、紫外線を残渣の表面から15cm以内に設置された光源から照射することが好ましい。さらに、本発明によれば、上述した製造方法によって水素発生に適した高活性の光触媒材料が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上述したように、本発明によれば、水素発生に適した光触媒材料およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0009】
図1は、本実施形態の光触媒材料の製造方法を示したフローチャートである。本実施形態の光触媒材料は、金属担持法によって酸化チタン微粒子に貴金属微粒子が担持してなるものであり、本実施形態においては光電着法によって酸化チタン微粒子に貴金属微粒子を担持させる。まず、貴金属水溶液を調整する。本発明においては、貴金属水溶液の調整には、白金、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属塩または金属錯体を使用することができ、白金あるいは金の金属塩または金属錯体を用いることが好ましく、白金の金属塩または金属錯体を用いることが特に好ましい。
【0010】
例えば酸化チタンに白金を担持させる場合には、ヘキサクロロ白金酸、テトラニトロ白金酸、テトラ(オキサラト)白金酸、ジニトロジアンミン白金、ジニトロジアンミン白金硝酸塩、シス−ジアンミンジアクア白金硝酸塩、トランス−ジアンミンジアクア白金硝酸塩、シスジニトロジアクア白金、テトラアンミン白金水酸塩、ヘキサアンミン白金水酸塩、テトラアンミン白金塩化物、ヘキサアンミン白金塩化物、ヘキサヒドロキシ白金酸、酸化白金、塩化白金(I)、塩化白金(II)、テトラクロロ白金酸カリウムを含む水溶液を使用することができる。その他ルテニウムを担持させる場合には、触媒金属化合物としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、テトラニトロシルジアクアルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩、ペンタアンミンアクアルテニウム硝酸塩、ニトロシルペンタアンミンルテニウム硝酸塩、ヒドロキソニトロシルテトラアンミンルテニウム硝酸塩を含む水溶液を使用することができる。その他の金属元素に関しても、類似の金属塩または金属錯体を含む水溶液を使用することができ、これらの混合物を含む水溶液を用いることもできる。
【0011】
次に、上述した手順で調整した貴金属水溶液に犠牲剤として水−メタノール混合物を添加した系に対し、酸化チタン粉末を投入し、紫外線を照射しながら当該懸濁溶液を撹拌する。紫外線が照射されると酸化チタンの光触媒作用により貴金属イオンが還元され、その結果、酸化チタン粒子の表面上に金属微粒子として担持される。本実施形態においては、酸化チタン微粉末として、その平均粒径が5〜100nmのものを用いることができ、10〜30nmのものを用いることが好ましい。さらに、酸化チタン微粉末は、光触媒活性の観点からアナターゼ型結晶を多く含むものを用いることが好ましく、その含有率が70%以上であることが望ましい。また、本実施形態の光触媒材料においては、貴金属と酸化チタンのモル比(貴金属/TiO)を0.01〜0.07の範囲とすることが触媒活性の観点から好ましく、上記範囲のモル比をもって酸化チタンに貴金属が担持しうるように、貴金属水溶液、犠牲剤、酸化チタン粉末の量を調整することが好ましい。さらに加えて、本実施形態の上記工程における紫外線の照射時間は6〜24時間とすることが好ましく、その際、紫外線の光源は、上記懸濁溶液の液面から15cm以内に設置することが好ましい。なお、紫外線の光源としては、キセノン灯、高圧水銀灯、ブラックライトなどを適宜用いることできる。
【0012】
続いて、上記懸濁溶液を吸引ろ過することによって、残渣として貴金属担持酸化チタンの泥しょうを得る。従来の光電着法による貴金属担持酸化チタンを含む光触媒材料の作製においては、この残渣を乾燥させて適宜焼成したものを光触媒材料としていたが、本発明は、この貴金属担持酸化チタンを含む残渣を乾燥させる工程において、当該残渣に対し紫外線を照射することを特徴とする。酸化チタン粒子の表面上に貴金属を金属微粒子として析出・担持させる工程のみならず、貴金属が担持した酸化チタンを乾燥させる間も紫外線を照射することによって、水素発生反応において格段に高い活性を備えた光触媒材料が作製される。なお、本実施形態の乾燥工程における紫外線の照射の際、当該紫外線の光源は、上記残渣の表面から15cm以内に設置することが好ましい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の光触媒材料について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0014】
(光触媒材料の作製)
塩化白金酸六水和物1gに純水100mlを加えて原液濃度1.93×10−5mol/lの塩化白金酸水溶液を調整した。調整した塩化白金酸水溶液10mlにメタノール50mlを加えた後、純水を加えて200mlとした。この200mlの溶液に酸化チタン0.5gを加えて攪拌した。なお、攪拌する際に連続して24時間紫外線を照射した。紫外線強度は0.05W/cmとし、撹拌する溶液の液面より10cm上から紫外線を照射した。
【0015】
上述した手順で調整した溶液を吸引ろ過して白金が担持した酸化チタンの泥しょうを得た。この泥しょうに対し紫外線を照射し、乳鉢で軽く解せる程度まで乾燥させた。紫外線強度は0.05W/cmとし、泥しょうの表面より10cm上から紫外線を照射した。最後に、上述した手順で乾燥させた白金担持酸化チタンを乳鉢で粉砕して本実施例の試料Aとした。一方、上述したのと同様の手順で得た泥しょうを、紫外線を照射せずに自然乾燥させたのち、同じく乳鉢で粉砕して比較例の試料Bとした。
(一文消去)
【0016】
(水素発生実験)
上述した手順で作製した試料A(200mg)を光透過性の容器に投入したのち、純水(100ml)を入れて撹拌した。試料Aの分散溶液に対し紫外線を照射した。このとき紫外線強度は0.05W/cmとし、ガスクロマトグラフィーにより所定時間経過毎に、当該所定時間当たりの水素発生量を求めた。上述したのと同様の手順で、試料Bについても水素発生量を求めた。
【0017】
図2は、紫外線の照射合計時間と水素発生量の関係について、試料Aと試料Bとを相対化して比較した図である。図2の横軸は紫外線照射合計時間(h)を示し、縦軸は水素発生量(任意単位)を示す。図2に示されるように、本実施例の試料A(実線)は、紫外線照射開始直後から高い水素発生量を示し、70時間を超える長い時間にわたって、高い水素発生効率を維持した。一方、比較例の試料B(破線)は、図2に示されるように、紫外線照射開始から徐々に水素発生効率が上昇するものの、そのピーク値は試料Aのそれの半分以下でしかなく、また、35時間を過ぎたあたりから発生効率が急激に低下した。上述した結果から、本実施例の光触媒材料が水素発生において格別に高い活性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上、説明したように、本発明によれば、水素発生に適した光触媒材料およびその製造方法が提供される。本発明の光触媒材料の普及により、水素をエネルギー源とした新しいエネルギーシステムの構築が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の光触媒材料の製造方法を示したフローチャート
【図2】紫外線の照射合計時間と水素発生量の関係について、実施例Aと比較例Bとを相対化して比較した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属の水溶液と酸化チタンとを含む混合液に対して紫外線を照射しながら、該混合液を撹拌する工程と、
前記混合液をろ過する工程と、
ろ過後の残渣に対して紫外線を照射しながら、該残渣を乾燥させる工程と
を含む光触媒材料の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属は、白金、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記撹拌する工程において、紫外線が上記混合液の液面から15cm以内に設置された光源から照射される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥させる工程において、紫外線が残渣の表面から15cm以内に設置された光源から照射される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される光触媒材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−78226(P2009−78226A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249573(P2007−249573)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(505165251)学校法人幾徳学園神奈川工科大学 (14)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】