説明

光触媒活性化装置及びその使用方法

【課題】光触媒反応の反応速度を高める。
【解決手段】光触媒活性化装置100は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層10と、光触媒層10の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な励起光源12と、光触媒層10と処理対象のガスとの接触面を加熱するための加熱手段16を備える。これにより、光触媒と対象ガスとの接触が改善され、反応を促進してより短時間で効果を発揮できる利点が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒反応を利用した光触媒活性化装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、励起光源により活性化させて光触媒反応を生じさせ、消臭・脱臭、抗菌・殺菌、防汚・防曇効果を発揮し、悪臭除去や空気清浄、除菌、殺菌等に利用される(非特許文献1)。光触媒反応を生じる反応体としては、ガリウムリン(GaP)、ガリウム砒素(GaAs)等の半導体の他、酸化チタン(TiO2)が知られている。特に酸化チタンは化学的に極めて安定であって光溶解反応を生じず、またバンドギャップエネルギーが比較的小さく、可視光に近い紫外線を吸収して反応できるので、広く利用されている。このような酸化チタンを利用して、紫外線を照射して光触媒反応を生じさせ、処理対象のガスを消臭する消臭装置が開発されている(例えば特許文献1、2)。酸化チタンに対する紫外線光源としては、ブラックライト、水銀灯、LEDなどが使用されているが、何れの光源もその種類と出力に応じた発熱がある。
【0003】
従来、電気化学反応は温度に依存しないとされており、その一種である光触媒反応においても、紫外光による光励起は同様に考えられている。また光触媒反応の速度定数が温度上昇により増加するとしても、対象ガスの吸着量は温度上昇とともに減少するため、加熱の効果が期待できない。このため従来の光触媒活性化装置は、熱源や発熱体からの熱を、光触媒に伝搬しないような保護機構が設けられており、例えばヒートシンクを設けて外部へ放熱したり断熱材でシールドするなどの熱対策が施されてきた。
【特許文献1】特開2002−98375号公報
【特許文献2】特開2006−296811号公報
【非特許文献1】野坂,野坂,「入門光触媒」東京図書p.105−106(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述した光触媒反応の、特に消臭・脱臭効果を利用した製品が多く登場している。しかしながら、光触媒反応は比較的弱い反応である上、光触媒物質の表面積も小さいため、より消臭・脱臭性能を向上させるための改善が求められている。特に、このような光触媒の有効性をユーザに判りやすく伝えられるよう、消臭・脱臭性能を短時間で発揮できる構造が希求されている。とりわけ、広く用いられている二酸化チタンを利用した光触媒反応の脱臭速度は、洗浄法や吸着法といった他の脱臭方法に比較して遅いという問題があった。加えて、二酸化チタン光触媒による脱臭では、対象ガスのガス濃度が低くなるにつれて、その分解効率が低下するという問題もある。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、光触媒反応をより効果的に行えるようにした光触媒活性化装置及びその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第1の光触媒活性化装置によれば、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な励起光源と、を備える光触媒活性化装置であって、さらに、前記前記光触媒層と処理対象のガスとの接触面を加熱するための加熱手段を備えることができる。これにより、光触媒と対象ガスとの接触が改善され、反応を促進してより短時間で効果を発揮できる利点が得られる。
【0007】
また第2の光触媒活性化装置によれば、前記加熱手段が、前記光触媒層及び/又は対象ガスを加熱することができる。これにより、効果的に光触媒層と対象ガスとの接触を促進できる。
【0008】
また第3の光触媒活性化装置によれば、さらに前記加熱手段で加熱される接触面の表面温度を、30〜120℃の温度範囲に制御するための温度制御手段を備えることができる。これにより、光触媒と対象ガスとの反応を一層促進でき、短時間で消臭・脱臭等の光触媒反応の効果を発揮させることができる。
【0009】
さらに第3の光触媒活性化装置によれば、前記加熱手段として、前記励起光源の発熱を利用することができる。このように励起光源の発熱を利用あるいは他の熱源と併用することで、エネルギー効率を高めた低消費電力の光触媒反応を実現できる。
【0010】
さらにまた第4の光触媒活性化装置によれば、前記光触媒物質が、酸化チタンを含むことができる。これにより、安定した光触媒物質として、光触媒効果の持続を高めることができる
【0011】
さらにまた第5の光触媒活性化装置の使用方法によれば、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な励起光源と、を備える光触媒活性化装置の使用方法であって、前記光触媒層に、処理対象のガスを接触させる工程と、前記光触媒層と処理対象のガスとの接触面を加熱すると共に、該接触面の表面温度を30〜120℃の温度範囲に制御する工程と含むことができる。これにより、光触媒と対象ガスとの接触が改善され、反応を促進してより短時間で効果を発揮できる利点が得られる。
【0012】
さらにまた第6の光触媒活性化装置の使用方法によれば、さらに前記光触媒層に処理対象のガスを接触させる工程に先立ち、予め光触媒物質を500〜650℃の温度で焼成する工程を含むことができる。これにより、光触媒物質の結晶化が進み、光触媒反応が改善される効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための光触媒活性化装置及びその使用方法を例示するものであって、本発明は光触媒活性化装置及びその使用方法を以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0014】
上述のとおり、光触媒の反応速度に対する温度依存性については、電子と正孔の再結合という要素も加わり複雑であるため、この点に着目した研究が殆ど行われていなかった。本発明者はこのような事情に鑑み、温度依存性に関して種々研究を進めた結果、光触媒反応を改善するために温度制御が有効であることを見出し、本発明を成すに至った。
【0015】
光触媒反応を改善すること、具体的には反応速度を高めるための方法としては、光触媒反応自体を促進すること、あるいは光触媒物質の表面への対象ガスの吸着を促進させて反応性を高めること、が考えられる。後者については、光触媒物質が光触媒効果を発揮するのは、対象ガスを吸着した場合であり、十分な吸着が行われない場合には消臭等の効果が十分に発揮されないとの考えに基づく。そして、本発明者の研究の結果、後者の方法が有効であることを見出した。
【0016】
この性質を利用して、光触媒反応を利用した有機物の分解や殺菌作用を用いた消臭・脱臭装置や殺菌装置、防汚機器等の光触媒活性化装置の高効率化が実現できる。以下、本発明の一実施の形態として、光触媒活性化装置として広く利用されている消臭・空気清浄機能に着目し、悪臭を浄化する悪臭浄化装置に本発明を適用した例について、図1のブロック図に基づき説明する。この図に示す光触媒活性化装置100は、光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層10と、この光触媒層10に光を照射可能な位置に固定された励起光源12と、励起光源12を駆動する駆動回路14と、光触媒層10を加熱する加熱手段16と、接触部分の温度を制御する温度制御手段17と、これらを駆動する電源18とを有する。
(励起光源12)
【0017】
励起光源12は、選択した光触媒物質に応じて、該光触媒物質が光触媒反応を生じさせる励起光の波長を照射可能なタイプを選択する。例えば、発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)、水銀ランプやハロゲンランプ、ブラックライト、殺菌灯等を利用できる。特に、後述する熱源として利用する場合は、発熱量の高い励起光源12を使用すると効率よく廃熱を利用できる。
【0018】
また紫外線を照射可能なUV−LEDを使用すれば、水銀ランプなどと比べ低消費電力で長寿命の、信頼性と安定性に優れた光触媒活性化装置を実現できる。さらにLEDを用いることで、点灯回路を含めた励起光源12を小型化できる利点も得られる。特に従来の二酸化チタン光触媒による悪臭浄化装置は、紫外線光源として水銀ランプ、ブラックライトなどを用いていたため、そのサイズは市販のエアコン空気清浄機程度となっていたが、その容積を大幅に低減でき、また長寿命であるためバルブの交換などのメンテナンス作業も排除できる。LEDの発光波長は、360〜400nmの紫外線を含む光を発光するものが利用できる。LED等の発光素子の数は1個でも良いし、多数個並設しても良い。
(光触媒物質)
【0019】
光触媒物質は、半導体系の物質を利用し、好ましくは光溶解反応で溶出する半導体の量が少なく、効果の持続性が高いものを使用する。ここではバンドギャップエネルギーが比較的小さく、可視光に近い紫外線で励起可能な光触媒物質として酸化チタンを利用した。
(酸化チタン)
【0020】
酸化チタンの反応機構を、以下説明する。酸化チタンには、ルチル、アナターゼ、ブルッカイトの3種の結晶形がある。ブルッカイトは他に比べて不安定であり、純粋な結晶を合成するのは難しい。塗料中の顔料として広く用いられているのはルチルで、光触媒としてはアナターゼが主として用いられている。酸化チタンはn型半導性を示し、光電極や光触媒の材料として太陽エネルギー変換材料への応用が注目されていた。一般の光化学反応は反応基質の光励起によって起こる。これに対して酸化チタンの光触媒反応は、3〜3.2eV程度のバンドギャップ以上の光(紫外線)のエネルギーを吸収すると、次式のように伝導帯に電子(e-)、荷電子帯に正孔(h+)を生成する。
【0021】
[化1]
TiO2+近紫外線→e-(電子)+h+(正孔)
【0022】
この電子は、酸素を還元してスーパーオキシドイオン(O2-)を生成する。その後、スーパーオキシドイオンは水分と反応して過酸化水素を経てヒドロキシルラジカルが生成すると思われる。また、正孔もヒドロキシルラジカル生成へ関与している。この様子を次式に示す。
【0023】
[化2]
2+e-→O2-
2-+2H+→H22
22+e-+H+→OH+H2
++H2O→OH+OH-
【0024】
ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドイオン等は活性酸素と呼ばれ、ヒドロキシルラジカルはその中で最も反応性が高く、最も酸化力が強い。そのため、あらゆる有機物を分解して水と二酸化炭素などに変化させる。
(光触媒層10)
【0025】
光触媒物質自体を造粒・焼成し、又は光触媒物質を布地、陶器、金属等の他の部材に担持させて光触媒層10を形成する。担持には、例えばバインダを使用できる。
(駆動回路14)
【0026】
励起光源12は駆動回路14により駆動される。励起光源12としてブラックライト等の蛍光灯を用いる場合は、蛍光灯の点灯回路が用意される。また励起光源12としてLEDを用いる場合の駆動回路14は、FET等によりLEDをON/OFFさせるスイッチング回路とできる。駆動回路14は、励起光源12を連続点灯する他、パルス点灯させることもできる。このようなパルス点灯用途には、LED等の半導体発光素子が最も好ましい。紫外光を連続照射する場合に比べ、パルス照射することによって、消灯時間に新たな反応物を供給して、効率よく光触媒反応を行うことができる。特に、光触媒表面への有機物の吸着は点灯時より消灯時の方が効率よく行われ、しかも光分解は短時間で行われるので、点灯時間を抑えることで連続点灯よりも優れた効率を達成できる。また消灯時間は点灯時間と同じ又はそれよりも短くすることが好ましい。またデューティ比を小さくすることで省電力化が図られ、電池駆動でも実現可能とできる。パルス点灯の場合は、例えば駆動回路が備えるパルス駆動回路がLEDに供給される電流量や点灯周期を調整する。またLEDのON時間を規定するデューティ比を調整可能なPWM制御を行う。デューティ比は、パルス周期に対するLED照射時間の比率(点灯時間/周期)である。パルス制御回路は、例えばパルス周期を120μs〜999sまで可変とし、LED1素子あたりの電流量を最大100mA、タイマを0.5h間隔で0.5〜9.5h可変にできる。この光触媒活性化装置は、LEDを駆動回路で駆動して励起光を光触媒物質に照射することにより光触媒物質を活性化させる。この際の点灯周期やデューティ比を調整することで、光触媒効率を向上させる。
(電源18)
【0027】
駆動回路14は、電源18と接続される。電源18は、商用電源の他、消費電力の低い励起光源12を使用する場合は一次電池や二次電池等とすることもできる。これにより、電源線の接続が不要で取り回しの容易な光触媒活性化装置や、電源設備のない場所で利用可能な携帯型の光触媒活性化装置が実現できる。さらに電源18として、太陽電池を利用することもできる。昼間は太陽光に含まれる紫外光を利用して光励起する一方で太陽電池で電力を蓄えておき、夜間には蓄えられた電力を利用することで、昼夜にわたって連続駆動可能とできる。なお、電源18として商用電源と蓄電池、太陽電池のいずれかを併用したり、これらを切り替えて利用可能とする構成も採用できることはいうまでもない。
(加熱手段16)
【0028】
加熱手段16は、電源18から電力供給を受け、光触媒層10と処理対象のガスとの接触面を加熱する。このような加熱手段16には電熱ヒータなどが使用できる。なお、図1の例では加熱手段16で光触媒層10を直接加熱しているが、光触媒層表面で接触する対象ガス側を加熱する構成とすることもできる。このような加熱手段としては熱交換器が利用できる。また、光触媒層を加熱する光触媒層用加熱手段と、対象ガスを加熱する対象ガス用加熱手段とを個別に設けて、これらを併用することもできる。いずれに構成によっても、加熱手段16でもって光触媒層10と対象ガスとの接触面を加熱することで、吸着が促進され、広い面積で効率よく光触媒反応が促進される。加えて、接触面あるいは反応環境内を加熱することにより熱流が発生するので、これによっても吸着が促進される。すなわち、光触媒物質と有機物との接触部分で分解が生じると、その結果発生するガスの影響により新たな有機物の吸着が阻害されるおそれがあるが、ガスの熱流で攪拌される結果、新たな有機物が吸着し易くなる。また、より多くの有機物が光触媒物質に吸着するようになると、光触媒反応も活発になり分解が促進される。さらに特に狭い空間での熱流によって悪臭ガスの循環浄化も可能となる。
【0029】
また加熱手段16は温度制御手段17によってその駆動を制御される。温度制御手段17は、接触面の表面温度を好ましい範囲内に維持するよう、加熱手段16の運転を制御する。好ましい表面温度としては、30℃〜120℃、より好ましくは50℃〜100℃、さらに好ましくは60℃〜80℃とする。この温度範囲に維持することで、光触媒効率を向上させる効果が得られる。このような温度による光触媒効率の改善の主因としては、加熱により光触媒反応が促進されるのか、あるいは接触面の表面での対象ガスと光触媒層との吸着が促進されるのか、のいずれかが考えられる。本発明者の行った通常の蛍光灯を用いた可視光応答型光触媒での長時間の分解実験では、加熱の有無によって反応速度は変化しなかった。そのことは、加熱による反応促進は光触媒反応自体の促進でなく、対象ガスとの接触改善によるものと考えられる。特に加熱することで対象ガスが熱振動するため、接触面の光触媒層表面で対象ガスが攪拌され、トラップされて反応が進むものと推察される。
【0030】
さらに、接触面を加熱する熱源として、加熱手段に変わって、あるいはこれに加えて励起光源12の発熱を利用することもできる。励起光源は一般に発熱を伴う。特に水銀ランプやハロゲンランプは発熱量が大きい。よって励起光源で得られた発熱を、そのまま光触媒層の加熱にも利用できるので、好ましい。
【0031】
光触媒層10は、ステージ上に載置される。図1の例では、光触媒層10は加熱手段16上に固定されている。なお、光触媒層を振動させる振動付与手段を備えてもよい。これによって、光触媒層と光触媒反応の対象物との表面積を大きくでき、光触媒反応をさらに促進できる。振動付与手段は、低周波振動器であり、振動数を0〜300Hzまで可変できる。微細振動を付加することで、光触媒層と光触媒反応の対象物との接触確率を増加させ、光触媒反応をさらに促進できる。特に、悪臭ガス等有機物の分解・除去が困難な低濃度域での分解速度を向上させることができる。
(実施例)
【0032】
以下、実施例として図1の悪臭浄化装置を用いて、悪臭物質を含む対象ガスを封入し、紫外線照射したガス濃度の時間変化を測定し、それぞれの分解速度を観察した。
(ガス濃度測定)
【0033】
ガス濃度の測定及び分析する機器として、ここでは気体検知管(検知管式気体測定器)を使用した。気体検知管は対象とする気体の濃度を測定する機器で、対象気体に反応して変色する粒状の検知剤を一定内径のガラス管に緊密に充填し、両端が熔封されたガラス管の表面に濃度目盛りを印刷したものである。充填する検知剤には、乾燥剤となるシリカゲルやアルミナ等粒体に各試薬をコーティングしており、その試薬は測定対象の気体のみ反応して鮮明な変色層を示し、長時間にわたって安定しているものが用いられる。
(悪臭物質)
【0034】
本実施例では、アセトアルデヒドを用いた。アセトアルデヒド(CH3CHO)は刺激臭のある無色の化学物質で、沸点は20.8℃、融点は−123.3℃であり、エチレンを酸化する方法等によって合成され、酢酸、ブタノール、合成高分子等の製造原料となる。大気中への排出は、アセトアルデヒドの製造工程、アセトアルデヒドを原料とする物質の製造工程から、また自動車排出ガスやたばこの煙から等がある。悪臭の原因となる物質として、特定悪臭物質に指定されている。臭気を感知できる濃度(検知閾値濃度)は0.002ppm、悪臭防止法により都道府県知事が規制基準として定めることのできる濃度範囲(臭気強度2.5〜3.5)は0.05〜0.5ppmである。またアセトアルデヒドを導入する悪臭浄化装置は、対象ガスが光触媒層を通過する連続接触型でなく、図1に示すように対象ガスを閉鎖空間内に封入した環境内に配置する構成とした。
【0035】
また光触媒物質として、MILLENNIUM社のアナターゼ型二酸化チタン(TiO2)PC−500粉末を使用した。ここでは、装置内へ導入する前の前処理として、水で混練することで造粒した後、600℃〜900℃で焼成処理を行ったものと、焼成処理しない原粉を使用した。さらに、他社の市販品の可視光応答型光触媒の3種類を用いた。このようにして作製された試料の粒子は微小球状であり、二酸化チタンを主要成分としている。なお二酸化チタンは焼成温度が高くなるにつれて、その比表面積は減少する。BET法による比表面積測定の結果は、PC−500の原粉が265m2/g、600℃焼成試料が43m2/g,700℃焼成試料が29m2/g、900℃焼成試料が4.2m2/g、可視光応答型光触媒が89m2/gであった。このようにして得られた各光触媒を、内径60mmのステンレスシャーレに約0.13g入れ、水で分散した後、100℃で乾燥させた。
【0036】
図1に示すように、加熱手段16の構成としてはステンレスシャーレの下部にヒータと断熱層を取り付けている。ヒータは温度制御手段17に接続し、ステンレスシャーレ底面すなわち光触媒層の温度が30〜100℃になるようにヒータを制御する。また、断熱層はガス吸着が殆どない材料で構成した。この加熱手段16をガスバッグに封入し、清浄空気を5L充填した。さらに、所定のガス濃度以上になるように少量の濃厚ガスを注入し、均一に拡散したことを確認した後、光触媒による分解速度を調べた。紫外線照射にはブラックライトを用い、光触媒層の紫外線強度が、1mW/cm2になるように調整した。また、後述する図7の可視光照射実験では、500Lux、紫外線40−50μW/cm2の蛍光灯を使用した。
【0037】
また試験ガスとして用いたアセトアルデヒドは、試験ガス調製用テドラーバッグを用いて空気で希釈し、アセトアルデヒドガスを作製し、この濃厚ガスを目的に応じた濃度に希釈し、あるいは直接テドラーバッグに注入して、処理前のガスとした。
(実施例1)
【0038】
以上のようにして、まず実施例1として前処理無しの二酸化チタン(PC−500原粉)を使用し、その表面温度を20℃、30℃、40℃、60℃、80℃、100℃に設定した6種類について、それぞれアセトアルデヒドの分解を行い濃度の時間変化を測定した結果を、図2のグラフに示す。この図に示すように、20℃の分解速度と比較して、30℃、40℃といった僅かな昇温でも、アセトアルデヒドの分解速度は著しく向上した。その後、80℃まで分解速度は改善されたものの、100℃では40℃の場合と同程度まで低下した。このことから、表面温度が30℃〜100℃程度で特に高い分解速度が得られることが判る。
(実施例2)
【0039】
このような表面温度が高くなりすぎると分解速度が低下する現象をさらに確認するため、実施例2として、二酸化チタンの前処理として600℃〜900℃で焼成処理を行ったもの、及び焼成処理しない原粉とを用いて、室温(20℃)でのアセトアルデヒド分解を同様に測定した結果を、図3のグラフに示す。このグラフから、600℃で焼成処理した二酸化チタンは最も優れた分解速度を示した。また700℃〜800℃程度は原粉と同様の分解速度を示した一方で、900℃で焼成処理したものは分解速度が明らかに低下した。この理由は、二酸化チタンの焼成温度が高くなると、表面が平滑化されて比表面積が減少し、対象ガスの吸着が阻害されるため反応性が低下するものと考えられる。このため、焼成温度は、500〜700℃程度が好ましいといえる。また焼成により、原粉よりも分解速度が高速化された理由は、光触媒物質の結晶化が進み、光触媒反応が改善されたためと推察される。
(参考例1)
【0040】
ここで二酸化チタン表面への吸着の影響を区別するため、焼成温度を変化させた二酸化チタン粉末を用いて、実施例1と同様の実験を行った参考例1の結果を図4〜図6に示す。これらの図において、図4は焼成温度600℃、図5は800℃、図6は900℃の二酸化チタン粉末を用いている。これらの図から、焼成温度が600℃で最も高い分解速度が得られ、800℃、900℃と高くなるにつれて、分解速度は低下した。また焼成温度900℃の場合においても、加熱による改善効果は図2の場合よりも小さくなったとはいえ、表面温度による改善の傾向は確認できた。このような焼成温度の粉末と原粉の比表面積を考慮すると、温度上昇により分解速度が高くなる理由は、吸着平衡的な考えでなく、気体の分子運動が活発になり、二酸化チタン表面での一時的な捕捉機会が増大するためと推察される。また二酸化チタンの温度が100℃以上になると分解速度が低下したのは、分子運動が活発になり過ぎ、捕捉力が低下したことが原因と考えられる。本発明者の試験では、表面温度が120℃よりも高くなるとこのような現象が顕著となる。
(実施例3)
【0041】
なお、そもそも表面温度によって分解反応が速くなる現象が生じた原因としては、接触面への対象ガスの吸着量が増加すること以外に、光触媒反応自体が促進されたためとも考えられる。仮に光触媒反応自体が速くなるのであれば、可視光応答型光触媒の場合も反応性が向上すると類推される。そこで実施例3として、可視光応答型光触媒を用い、蛍光灯による強い可視光(500Lux、紫外線40−50μW/cm2)でアセトアルデヒドの分解実験を行った結果を、図7に示す。この図において60℃での測定は2回行っている。この図から明らかな通り、60℃〜80℃での分解速度は、20℃の場合と同程度であった。このことからすれば、温度上昇は光触媒反応速度と吸着量変化のどちらにも関与しないように考えられる。
(参考例2)
【0042】
しかしながら、図7の実験は図2の場合よりも反応時間が長く、温度による吸着量変化の影響が顕在化され難い実験であるとも考えられる。この点を確認するために、参考例2として、可視光応答型光触媒に敢えて紫外線照射(1mW/cm2)を行った結果を、図8に示す。この結果は図2とほぼ同様であり、可視光応答型光触媒においても、顕著な高速化が見られた。このことから、温度上昇でアセトアルデヒドの分解速度が高くなった理由は、光触媒反応が速くなったのではなく、吸着に関係した現象と結論付けられる。
(実施例4)
【0043】
以上の考えを、ガス濃度の異なる光触媒反応にあてはめると、吸着が速やかに行われる高濃度の場合より、吸着の遅い低濃度の場合に、温度効果がより顕著に表れることが予想される。このことを確認するために、実施例4としてアセトアルデヒド濃度を高濃度(200ppm)、中濃度(100ppm)、低濃度(20ppm)とした場合について、二酸化チタンの原粉で分解速度を測定した結果を、それぞれ図9〜図11に示す。これらの図から明らかなように、高濃度、中濃度、低濃度のすべてにおいて加熱による分解速度の向上が見られ、低濃度、特に4ppm未満の領域における分解速度の向上が顕著であることが確認できた。
【0044】
以上のように、二酸化チタン光触媒の表面を加熱することにより、通常よりも数倍の速度での対象ガスの分解が可能となることが確認され、本発明の有用性が実証された。またその効果は、対象ガス濃度が低くなるに従って顕著であり、生活空間など実用レベルでのガス分解に極めて有効である。さらに二酸化チタン光触媒を加熱することにより、熱流が生じるので、狭い空間での熱流により悪臭ガスの循環浄化も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の光触媒活性化装置及びその使用方法は、消臭・脱臭装置に限られず、殺菌装置、防汚機器等に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る光触媒活性化装置を示すブロック図である。
【図2】実施例1に係る二酸化チタン光触媒反応において、表面温度を20℃〜100℃としてアセトアルデヒド濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図3】実施例2に係る二酸化チタン光触媒反応において、焼成温度を600℃〜900℃又は前処理無しとした場合のアセトアルデヒド濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図4】参考例1に係る焼成温度を600℃とした二酸化チタン光触媒反応において、表面温度を25℃〜80℃としてアセトアルデヒド濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図5】参考例1に係る焼成温度を800℃とした二酸化チタン光触媒反応において、表面温度を25℃〜80℃としてアセトアルデヒド濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図6】参考例1に係る焼成温度を900℃とした二酸化チタン光触媒反応において、表面温度を25℃〜100℃としてアセトアルデヒド濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図7】実施例3に係る可視光応答型光触媒の光触媒反応において、表面温度を20℃〜80℃として可視光を照射しアセトアルデヒド濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図8】参考例2に係る可視光応答型光触媒の光触媒反応において、表面温度を24℃〜80℃として紫外線を照射しアセトアルデヒド濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図9】実施例4に係る前処理無しの二酸化チタン光触媒反応において、アセトアルデヒド濃度を高濃度とし、表面温度を25℃〜80℃とした場合の濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図10】実施例4に係る前処理無しの二酸化チタン光触媒反応において、アセトアルデヒド濃度を中濃度とし、表面温度を25℃〜80℃とした場合の濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【図11】実施例4に係る前処理無しの二酸化チタン光触媒反応において、アセトアルデヒド濃度を低濃度とし、表面温度を25℃〜80℃とした場合の濃度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
100…光触媒活性化装置
10…光触媒層
12…励起光源
14…駆動回路
16…加熱手段
17…温度制御手段
18…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な励起光源と、
を備える光触媒活性化装置であって、さらに、
前記光触媒層と処理対象のガスとの接触面を加熱するための加熱手段を備えることを特徴とする光触媒活性化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒活性化装置において、
前記加熱手段が、前記光触媒層及び/又は対象ガスを加熱することを特徴とする光触媒活性化装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光触媒活性化装置において、さらに、
前記加熱手段で加熱される接触面の表面温度を、30〜120℃の温度範囲に制御するための温度制御手段を備えることを特徴とする光触媒活性化装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一に記載の光触媒活性化装置において、
前記加熱手段として、前記励起光源の発熱を利用したことを特徴とする光触媒活性化装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載の光触媒活性化装置において、
前記光触媒物質が、酸化チタンを含むことを特徴とする光触媒活性化装置。
【請求項6】
光触媒物質よりなる又は光触媒物質を担持した光触媒層と、
前記光触媒層の光触媒物質を活性化させるための光を照射可能な励起光源と、
を備える光触媒活性化装置の使用方法であって、
前記光触媒層に、処理対象のガスを接触させる工程と、
前記光触媒層と処理対象のガスとの接触面を加熱すると共に、該接触面の表面温度を30〜120℃の温度範囲に制御する工程と、
含むことを特徴とする光触媒活性化装置の使用方法。
【請求項7】
請求項6に記載の光触媒活性化装置の使用方法において、さらに、
前記光触媒層に処理対象のガスを接触させる工程に先立ち、予め光触媒物質を500〜700℃の温度で焼成する工程を含むことを特徴とする光触媒活性化装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−131751(P2009−131751A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308662(P2007−308662)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【Fターム(参考)】