説明

光触媒酸化チタンの製造方法

【課題】 優れた光触媒活性を有する光触媒酸化チタンを安定して生産性よく得ることができる光触媒酸化チタンの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の光触媒酸化チタンの製造方法は、光触媒酸化チタン前駆体を焼成したのち、冷却速度150℃/時間以下で冷却する。本発明の好ましい態様は、300℃以上の温度から100℃以下の温度にまで冷却することである。前記光触媒酸化チタン前駆体は、水酸化チタン、オルトチタン酸、メタチタン酸および窒化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた光触媒活性を有する光触媒酸化チタンを安定して生産性よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒酸化チタンは、酸化チタンを主成分とし、光触媒活性を示す物質であり、その光触媒作用は、例えば脱臭や殺菌等を目的とした様々な分野で利用されている。
従来、光触媒酸化チタンの製造方法としては、水酸化チタンのような光触媒酸化チタン前駆体を焼成する方法などが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−302241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の製造方法においては、製造時に得られる触媒の一部もしくは全部に充分な光触媒活性が付与されず、活性が不充分であったり、活性にばらつきが生じたりすることがあった。そのような触媒は通常不良品として処分されることになり、その量が多いと生産性を大きく損なうことがあった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、優れた光触媒活性を有する光触媒酸化チタンを安定して生産性よく得ることができる光触媒酸化チタンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、光触媒酸化チタン前駆体を焼成して光触媒酸化チタンを製造するにあたり、焼成後の冷却速度が光触媒活性に影響を及ぼすことを突き止め、焼成後の冷却速度を特定範囲に調整することによって、前記課題を一挙に解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)光触媒酸化チタン前駆体を焼成したのち、冷却速度150℃/時間以下で冷却する、ことを特徴とする光触媒酸化チタンの製造方法。
(2)300℃以上の温度から100℃以下の温度にまで冷却する、前記(1)記載の光触媒酸化チタンの製造方法。
(3)前記光触媒酸化チタン前駆体は、水酸化チタン、オルトチタン酸、メタチタン酸および窒化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記(1)または(2)記載の光触媒酸化チタンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造時において充分に高い光触媒活性が付与された触媒を安定して生産性よく得ることができる、という効果がある。それによって、触媒の活性が不充分であったり、活性にばらつきが生じたりするという従来の問題を容易に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の光触媒酸化チタンの製造方法(以下「本発明の製造方法」と称することもある。)は、光触媒酸化チタン前駆体を焼成したのち、特定の冷却速度で冷却する方法である。
本発明の製造方法において原料とする光触媒酸化チタン前駆体は、焼成することにより光触媒活性を示す酸化チタンに導かれる化合物であればよく、例えば、以下のチタン含有無機化合物やチタン含有有機化合物等が挙げられる。
【0010】
チタン含有無機化合物としては、例えば、窒化チタン、ホウ化チタン、臭化チタン、炭化チタン、水素化チタン、ヨウ化チタン、水酸化チタン、セレン化チタン、硫化チタン、テルル化チタン、硫酸チタン〔Ti(SO42・mH2O、0≦m≦20〕、オキシ硫酸チタン〔TiOSO4・nH2O、0≦n≦20〕、三塩化チタン〔TiCl3〕、四塩化チタン〔TiCl4〕、オキシ塩化チタン〔TiOCl2〕、四臭化チタン〔TiBr4〕、シュウ酸チタンアンモニウム、シュウ酸チタンバリウム、オルトチタン酸、メタチタン酸などが挙げられる。チタン含有有機化合物としては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン、テトラキス−2−エチルヘキシロキシチタン、テトラステアリロキシチタンのようなテトラアルコキシチタン化合物、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジ(2−エチルヘキシロキシ)ビス(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン、イソプロポキシ(2−エチルヘキサンジオラト)チタン、テトラアセチルアセトネートチタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタンのようなチタンキレート化合物などが挙げられる。これらチタン含有無機化合物やチタン含有有機化合物は、一部が加水分解されていてもよいし、一部が結晶性酸化チタンに結晶化していてもよい。
【0011】
前記光触媒酸化チタン前駆体は、上記のチタン含有無機化合物やチタン含有有機化合物の中でも特に、水酸化チタン、オルトチタン酸、メタチタン酸および窒化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
前記光触媒酸化チタン前駆体は、焼成することにより、通常、アナターゼ型の酸化チタンに遷移する。本発明の製造方法において、焼成条件は特に制限されるものではないが、例えば、焼成温度は、通常、好ましくは200〜800℃、より好ましくは300〜600℃とするのがよく、焼成に要する時間は、通常、0.1時間〜30時間程度とすることが好ましい。また、焼成に用いられる装置は、特に制限はないが、例えば、熱風循環式焼成炉、静置式焼成炉、トンネル炉、ロータリーキルン、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉等を使用することができる。
【0013】
焼成後の冷却に際しては、冷却速度を特定範囲に制御することが重要である。すなわち、冷却速度は150℃/時間以下でなければならず、好ましくは5〜150℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、さらに好ましくは10〜50℃/時間で冷却するのがよい。冷却速度が150℃/時間を超えると、良好な光触媒活性が均一に安定して付与できない。また、冷却速度が5℃/時間を下回ると、冷却に時間がかかりすぎて生産性が低下するので好ましくない。
【0014】
冷却に際しては、300℃以上の温度から100℃以下の温度にまで冷却することが好ましい。すなわち、前記冷却速度での冷却の開始温度は300℃以上であることが好ましく、前記冷却速度での冷却の終了温度が100℃以下であることが好ましいのである。前記冷却速度での冷却の開始温度が300℃未満であったり、前記冷却速度での冷却の終了温度が100℃を超える温度であると、充分な触媒活性が発現されない恐れがある。
【0015】
本発明の製造方法においては、前記焼成の際には、光触媒酸化チタン前駆体(以下「被焼成物」と称することもある)が水と接触することのないように焼成を行ない、かつ、前記冷却の際には、温度が100〜600℃の範囲となっている間に前記被焼成物を水分と接触させる、ことが好ましい。このような態様によれば、より一層光触媒活性を向上させることができる。
【0016】
焼成の際に、前記被焼成物が水と接触することのないようにするには、例えば、実質的に水蒸気を含まない乾燥状態の雰囲気中(具体的には、水蒸気濃度が2vol%未満、より好ましくは1vol%以下、さらに好ましくは0vol%である雰囲気中)で焼成を行なうようにすればよい。
なお、焼成を行なう際の雰囲気ガスは、大気であってもよいし、アルゴンなどの希ガスや窒素ガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0017】
冷却の際に、温度が100〜600℃の範囲となっている間に前記被焼成物を水分と接触させるには、通常、雰囲気中の水蒸気濃度を2〜80vol%、好ましくは60vol%以下とすればよい。ここで、水蒸気濃度を上記範囲にするには、例えば、炉内に水蒸気(スチーム)を雰囲気ガスとともに吹き込み、置換すればよい。前記被焼成物を水分と接触させる際の時間は、通常、0.1時間〜1時間程度とすればよい。冷却の際に、被焼成物と水分とを接触させる場合、冷却前後の温度差は、通常30〜200℃、好ましくは50〜200℃となるようにするのがよい。
なお、冷却する際の雰囲気ガスは、大気であってもよいし、アルゴンなどの希ガスや窒素ガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0018】
本発明の製造方法においては、焼成に供する前の光触媒酸化チタン前駆体もしくは焼成後の酸化チタンに対して、洗浄を施すことが好ましい。さらには、洗浄を施した後には、乾燥を行なうことが好ましく、例えば洗浄した光触媒酸化チタン前駆体は、乾燥後に焼成に供することが好ましい。ここで、乾燥は、通常、好ましくは10〜200℃、より好ましくは70〜150℃の温度で行われる。乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜設定すればよいのであるが、通常、1〜24時間が好ましく、より好ましくは5〜24時間である。
【0019】
本発明の製造方法においては、必要に応じて、得られた光触媒酸化チタンに対して、酸性金属酸化物および/または塩基性金属化合物を表面被覆する処理(表面被覆処理)を施してもよいし、解砕処理を施してもよい。
本発明の製造方法により得られた光触媒酸化チタンは、製造時において充分に高い光触媒活性が付与されたものであり、極めて優れた光触媒活性を示す。
【実施例】
【0020】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、得られた光触媒酸化チタンの光触媒活性は以下の方法で評価した。
【0021】
<光触媒活性>
直径8cm、高さ10cm、容量約0.5L(500cm3)の密閉式ガラス製反応容器内に、直径5cmのガラス製シャーレを載置し、その上に試料とする光触媒酸化チタン0.3gを載せ、反応容器内を酸素/窒素混合ガス(酸素/窒素=1:4(体積比))で満たし、さらにアセトアルデヒド13.4μモルを封入したのち、反応容器の外側から可視光を照射した。可視光は、500Wキセノンランプ(ウシオ電機社製「ランプUXL−500SX」)を取付けた光源装置(ウシオ電機社製「オプティカルモジュレックスSX−U1500XQ」)から、波長430nm以下の紫外線を遮蔽する紫外線カットフィルター(旭テクノガラス社製「Y−45」)を通して照射した。可視光を照射している間、反応容器内の二酸化炭素の濃度を光音響マルチガスモニタ(INNOVA社製「1213型」)により測定し、光触媒酸化チタン1gあたりの二酸化炭素生成速度を求めた。この二酸化炭素生成速度が大きいほど、光触媒活性が高いと言える。
【0022】
(製造例−光触媒酸化チタン前駆体の製造)
オキシ硫酸チタン(添川理化学社製)90gを純水360gに溶解させて水溶液とし、氷冷下に撹拌しながら25%アンモニア水(和光純薬工業社製;試薬1級品)104gを5mL/分の添加速度で加えることによりオキシ硫酸チタンを加水分解させて、スラリーを得た。このスラリーを濾過して固形分を得、温水で洗浄したのち100℃で乾燥して、光触媒酸化チタン前駆体としての水酸化チタン粉末を得た。
【0023】
(実施例1)
製造例で得られた水酸化チタン粉末を炉内に入れ、200℃/時間の昇温速度で300℃まで昇温し、同温度で1時間保持することにより焼成した。焼成は、水蒸気濃度0vol%の乾燥大気中で行った。その後、炉内に水蒸気濃度30vol%の大気を導入して炉内を置換し、15℃/時間の冷却速度で30℃まで冷却して、粉末状の光触媒酸化チタンを得た。得られた光触媒酸化チタンの光触媒活性を評価したところ、二酸化炭素生成速度は1gあたり16.4μモル/時間であった。
【0024】
(比較例1)
製造例で得られた水酸化チタン粉末を炉内に入れ、200℃/時間の昇温速度で300℃まで昇温し、同温度で1時間保持することにより焼成した。焼成は、水蒸気濃度0vol%の乾燥大気中で行った。その後、炉内に水蒸気濃度30vol%の大気を導入して炉内を置換し、600℃/時間の冷却速度で30℃まで冷却して、粉末状の光触媒酸化チタンを得た。得られた光触媒酸化チタンの光触媒活性を評価したところ、二酸化炭素生成速度は1gあたり9.5μモル/時間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒酸化チタン前駆体を焼成したのち、冷却速度150℃/時間以下で冷却する、ことを特徴とする光触媒酸化チタンの製造方法。
【請求項2】
300℃以上の温度から100℃以下の温度にまで冷却する、請求項1記載の光触媒酸化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記光触媒酸化チタン前駆体は、水酸化チタン、オルトチタン酸、メタチタン酸および窒化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2記載の光触媒酸化チタンの製造方法。

【公開番号】特開2007−260534(P2007−260534A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87525(P2006−87525)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】