説明

光記録媒体の初期化装置、およびそれを用いて初期結晶化された光記録媒体

【課題】光記録媒体の初期化装置において、ビームスポットの短径(半値幅)は2〜10μmが好ましいとされていて、ビームスポットの通過時間が長すぎるとその場所の温度が必要以上に上昇し記録膜の変形を生じてくるという問題点があった。
【解決手段】すくなくとも、2層以上の金属及び金属合金層を有する光記録媒体を最初に記録可能な状態にするためにレーザビームを照射して当該光記録媒体の初期結晶化を行なう初期化装置であって、レーザビームのビームスポットをその長手方向の記録トラック方向に対する角度θが0<θ≦90度をなすように配置し、かつ、光記録膜面上において、ビームスポットの幅(ピークパワーの半値幅)x[m]とビームスポットの長手方向の記録トラック方向に対する角度θ[度]と照射される光記録媒体の移動速度をv[m/s]とを1×10−5<x<(3×10−6)(v×sinθ)の関係で設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビーム等を用いて情報を記録媒体に記録する技術に係り、特に記録媒体の初期化方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報産業の発展に伴い、記録媒体として書き換え可能な光記録媒体が盛んに用いられ、映像信号、音声信号、電子計算機のデータ信号等の各種の情報信号を同光記録媒体に記録することが一般的に行なわれるようになってきた。書き換え可能な光記録媒体の例として、結晶−非晶質間の相変化を利用して情報の記録を行なう相変化型光記録媒体がある。
【0003】
記録するレーザ照射時間とほぼ同じ程度の時間で結晶化が行なうことが可能な相変化型記録膜を光記録媒体に用いた場合、1つのエネルギービームのパワーを読み出しパワーレベルより高い2つのレベル、即ち高いパワーレベルと中間のパワーレベルとの間で変化させることにより、既存の情報を消去しながら新しい情報を記録する、所謂オーバーライト(重ね書きによる書き換え)が可能である。
【0004】
このような記録膜を真空蒸着法又はスパッタリング法などで形成した直後は、少なくとも一部分が非晶質状態となっているか、又は準安定な結晶状態となっている。このような状態の記録膜は、通常、反射率が低く、対物レンズの自動焦点制御(オートフォーカス)や記録トラックの追跡(トラッキング)が不安定になり易い。
【0005】
そこで、記録膜を予め安定な結晶状態にする初期結晶化(以下単に「初期化」という)が行なわれる。従来の初期化の手段の一例が特許文献1によって開示示されている。上記例においては、出力1Wの高出力半導体レーザのビームが用いられる。同レーザビームは、長円形の光スポットとなって光ディスクの記録膜に照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−186530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ビームスポットの短径(半値幅)は2〜10μmが好ましいとされていて、ビームスポットの通過時間が長すぎるとその場所の温度が必要以上に上昇し記録膜の変形を生じてくるという問題点があった。また短径と長径の比は1:3から1:10の範囲が好ましいとされ、すなわち長径は100μm程度が上限であった。また、多数回照射のため、ディスク全体の初期化に1分以上の時間を要し、ディスクの量産に障害となっていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、従来技術の前記問題点を解決し、ビームスポットが大きなビームを用いて生産性良く大面積に結晶化を行なうことが可能な新規の情報記録媒体の初期化方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の光記録媒体の初期化装置は、すくなくとも、2層以上の金属及び金属合金層を有する光記録媒体を最初に記録可能な状態にするためにレーザビームを照射して当該光記録媒体の初期結晶化を行なう初期化装置であって、前記レーザビームのビームスポットをその長手方向の記録トラック方向に対する角度θが0<θ≦90度をなすように配置し、かつ、光記録膜面上において、ビームスポットの幅(ピークパワーの半値幅)x[m]とビームスポットの長手方向の記録トラック方向に対する角度θ[度]と照射される光記録媒体の移動速度をv[m/s]とを1×10−5<x<(3×10−6)(v×sinθ)の関係で設定する。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、長円形で従来よりも幅の広いレーザビームを用いても光記録媒体の移動速度と関係付けることによって、記録膜の変形を生じる事なく良好な初期化を生産性良く行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態の光記録媒体構造を示す断面図
【図2】実施の形態の長円形ビームスポットによる初期化を説明するための平面図
【図3】θ=90°のときのビーム幅と光記録媒体の移動速度依存を示す図
【図4】θ=60°のときのビーム幅と光記録媒体の移動速度依存を示す図
【図5】θ=45°のときのビーム幅と光記録媒体の移動速度依存を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本実施の形態の、光記録媒体の構造断面図を示す。
【0014】
光記録媒体は、樹脂基板1、Al反射膜2、窒化Si誘電体膜3、合金記録膜4、窒化Si誘電体膜5で構成される。
【0015】
上記のように構成された光記録媒体は、次のように作成される。樹脂基板1は、厚さ約6μmのPETペットフィルムである。まず、樹脂基板1上に、蒸着法によって厚さ約100nmのAl反射膜2を形成する。次ぎに、マグネトロンスパッタ法によって厚さ約20nmの窒化Si誘電体膜3を形成する。次ぎに、GeBiTeからなる合金記録膜4を厚さ約10nm形成する。最後に、厚さ20nmの窒化Si誘電体膜5を形成する。
【0016】
上記のように作成した光記録媒体の初期化方法について、図2を用いて説明する。
【0017】
図2は、光記録媒体の合金記録膜4の面を、長円形のビームスポット6で初期化する様子を示す。
【0018】
本実施の形態では、波長810nmの高出力半導体レーザー(最大出力100W)から出射されたビーム(図示しない)を各種光学レンズ(図示しない)を用いて、ビームスポット6の短径(半値幅)xを11.5μm、長径(半値幅)120μmに成形し、前記光記録媒体の合金記録膜4の面に図2に示すように照射する。この時、ビームスポット6の長径方向が記録トラック7方向に対してほぼ直交(90度)するように配置した。
【0019】
以下、光記録媒体の移動速度、ビームスポット6の短径、長円形のビームスポット6の記録トラック7方向に対する角度θのような条件を変更することで、合金記録膜4の変化を調べた。図3は、光記録媒体の移動速度とビーム幅xとの関係を示す。
【0020】
まず、光記録媒体の移動速度を変えてビーム照射を行った。図3に示すように、ビームスポット6の短径(半値幅)xが11.5μmでは、3m/sより遅い移動速度では照射時間が長くなり記録膜の変形が生じた。
【0021】
次ぎに、θを90度で固定しビームスポット6の短径を変化させて同様に照射を行った。
【0022】
また同様に、θを0〜90度に変化させて評価を行った結果、ビームスポット6の記録トラック7方向成分(x/sinθ)と光記録媒体の移動速度に強い相関が得られた。図4及び図5は、それぞれθが60度、45度の場合における記録媒体の移動速度とビーム幅との関係を示す。いずれの場合にも、ビームスポット6の記録トラック7方向成分(x/sinθ)と光記録媒体の移動速度に強い相関が見られることがわかる。
【0023】
以上の結果から、x/(v×sinθ)<3×10−6の範囲で初期化を行うことにより、ビームスポット6の短径が大きくても、記録膜の変形を生じることなく結晶化が行えることが判明した。
【0024】
短径を大きく設計できることにより長径も大きく成形することが可能となり、半導体レーザの出力が許す限り大きなビームスポットにすることが可能となり、生産性が向上した。
【0025】
なお、本実施の形態では、樹脂基板1は、厚さ約6μmのPETペットフィルムで説明したが、厚さの制限はなく、PENフィルム、PA、PC等でもよい。
【0026】
なお、本実施の形態では、誘電体は窒化Si誘電体膜の例で説明したが、これに限らず材料は問わない。
【0027】
なお、本実施の形態では、反射膜はAl反射膜の例で説明したが、これに限らず材料は問わない。
【0028】
なお、本実施の形態では、光記録媒体は5層構成として説明したが、書き換え型の光記録媒体であれば界面層や保護膜が構成されていても同様の効果を得ることができる。また、本実施の形態では810nmの半導体レーザを使用したが、これに限らずこれに限らず400nm〜900nmの半導体レーザを用いて良好な結晶化が得られ、更にレーザは、半導体レーザに限らずガスレーザ等の他の構造のレーザを用いることができ、同様の効果を得ることができる。
【0029】
なお、光記録媒体の上面のビームスポットは、従来と同様、長手方向が記録トラック方向に対して平行以外の角度をなすように、ビームスポットの長手方向の記録トラック方向に対する角度θが0<θ≦90度をなすように配置される。特に角度θをほぼ90度とすることにより、多くの領域の初期化が可能となり、初期化時間が短縮される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、レーザビーム等を用いて情報を光記録媒体に記録する技術に係り、特に光記録媒体の初期化方法及び装置に有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 樹脂基板
2 Al反射膜
3 窒化Si誘電体膜
4 合金記録膜
5 窒化Si誘電体膜
6 ビームスポット
7 記録トラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層以上の金属及び金属合金層を有する光記録媒体を最初に記録可能な状態にするためにレーザビームを照射して当該光記録媒体の初期結晶化を行なう初期化装置であって、前記レーザビームのビームスポットをその長手方向の記録トラック方向に対する角度θが0<θ≦90度をなすように配置し、かつ、光記録膜面上において、ビームスポットの幅(ピークパワーの半値幅)x[m]とビームスポットの長手方向の記録トラック方向に対する角度θ[度]と照射される光記録媒体の移動速度をv[m/s]とを1×10−5<x<(3×10−6)(v×sinθ)の関係で設定することを特徴とする光記録媒体の初期化装置。
【請求項2】
少なくとも2層以上の金属及び金属合金層を有する光記録媒体であって、請求項1に記載の初期化装置にて初期結晶化された光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−51006(P2013−51006A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187207(P2011−187207)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】