説明

光記録媒体の製造方法及びその製造装置

【課題】製造効率が改善された光記録媒体の製造方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】基板上に複数の記録層と、複数の記録層の間に、凹凸形状を有する中間層とを有する光記録媒体の製造方法であって、中間層を形成する工程において、放射線硬化性樹脂原料を放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板との間に塗布し、放射線透過性スタンパと記録層を有する基板とを重ね合わせる第一の工程と、放射線透過性スタンパと記録層を有する基板とを、互いに接近する方向に加圧した状態で捻ることにより、放射線硬化性樹脂原料を延伸する第二の工程と、基板の中心孔近傍のみに放射線を照射し、放射線硬化性樹脂原料を硬化させる第三の工程と、記録層を有する基板及び放射線透過性スタンパの回転を行うと同時に、放射線硬化性樹脂原料を硬化させ、放射線透過性スタンパと記録層を有する基板とを接着する第四の工程とを、少なくとも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の製造方法及びその製造装置に関し、より詳しくは、複数の記録層を有する光記録媒体の製造方法、及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長時間かつ高画質の動画等の大容量データを記録・再生するために、従来と比較してさらなる情報の高密度化が可能となる光記録媒体の開発が望まれている。このような情報の高密度化が可能な光記録媒体としてブルーレイディスクがあり、例えば、1枚の媒体に記録層を2層(デュアルレイヤ)設けた積層構造を有するBD−R等が挙げられる。このような、記録層を2層以上設ける多層化の技術を用いれば、1層あたりの記録密度は変化させることなく容量を増大させることが可能である。
【0003】
このような積層型多層光記録媒体の中間層は、通常、フォトポリメリゼーション法(Photo Polymerization:以下、「2P法」と記すことがある。)と呼ばれる製造方法により製造される。2P法によれば、例えば、記録トラック用の凹凸が形成された透明な第1基板上に第1反射層、第1記録層、記録トラック用の凹凸が形成された中間層、第2反射層、第2記録層をこの順に形成し、最後にカバー層を形成することにより2層構造の光記録媒体が製造される。
【0004】
2P法の場合は、中間層は、通常、以下のようにして製造される。先ず、記録層等を形成した基板上に放射線硬化性樹脂原料等を塗布した後、この上に凹凸を有する放射線透過性スタンパを載置する。次いで、上記放射線硬化性樹脂原料等を硬化させた後にスタンパを剥離する。このようにして、放射線硬化性樹脂原料の表面に凹凸を転写させて、中間層を形成する。この後、更に中間層上に記録層等を形成することで、複数の記録層を有する光記録媒体が製造されることとなる。中間層は、記録再生光が基板側あるいはカバー層側のいずれから入射されるかにかかわらず、少なくとも1つの記録層への記録再生光の光路の一部を形成しており、中間層の光学的な均一性が記録再生特性に大きな影響を与えることとなる。
【0005】
従って、2P法により形成される中間層には、ある程度以上の基板全面での膜厚の均一性、さらには光学特性の均一性が要求される。通常は、放射線硬化性樹脂原料をスピンコート法により基板上に塗布し、放射線透過性スタンパをその上に載置した後、紫外線等の放射線を照射して樹脂原料を硬化させ、中間層を形成する方法が一般的である(特許文献1参照)。
しかしながら、上記のような従来の技術では、基板全面における中間層の膜厚分布が不均一になったり、中間層内に気泡が生じてしまう等の不具合が発生する頻度が高く、光学的に良好な均一性を有する中間層を安定して効率良く形成することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−288259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような2P法により積層型多層光記録媒体を製造する上で浮き彫りになった技術的課題を解決すべくなされたものである。
即ち、本発明の目的は、製造効率が改善された積層型多層光記録媒体の製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決すべく、本発明の要旨は下記に存する。
(1)中心孔を有する円板状の基板上に複数の記録層と、複数の前記記録層の間に、放射線硬化性樹脂原料からなる凹凸形状を有する中間層とを有する光記録媒体の製造方法であって、前記中間層を形成する工程において、前記放射線硬化性樹脂原料を放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板との間に塗布し、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを重ね合わせる第一の工程と、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを、互いに接近する方向に加圧した状態で捻ることにより、前記放射線硬化性樹脂原料を延伸する第二の工程と、前記基板の中心孔近傍のみに放射線を照射し、前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させる第三の工程と、前記記録層を有する基板全体に前記放射線硬化性樹脂原料を延伸するために、前記記録層を有する基板及び前記放射線透過性スタンパの回転を行うと同時に、前記基板全体に延伸された前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させ、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを接着する第四の工程とを、少なくともこの順に有することを特徴とする、光記録媒体の製造方法。
【0009】
(2)前記基板及び前記放射線透過性スタンパともに、前記第一の工程において重ね合わせる面側の、クランプ領域より中心孔側に円環状の小突起が形成されていることを特徴とする(1)に記載の光記録媒体の製造方法。
(3)前記第二の工程において、捻りの回転数を0.1rpm〜30rpm、捻りの間の押付幅を10μm〜100μm、捻りの回転角度を180°〜360°の範囲とすることを特徴とする(1)又は(2)に記載の光記録媒体の製造方法。
(4)前記第三の工程において、放射線を照射する範囲を前記基板の中心から半径15mm以内の範囲とすることを特徴とする請求項(1)乃至(3)のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
(5)前記第二の工程と前記第三の工程との間に、前記放射線透過性スタンパ及び前記基板の間に50g〜100gの荷重をかけることにより加圧することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
【0010】
(6)前記第二の工程と第三の工程との間に、前記放射線透過性スタンパと前記基板の中心孔を固定するための中心軸から前記放射線硬化性樹脂原料を減圧吸引することを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
(7)前記放射線硬化性樹脂原料の粘度が50cPから1000cPの間である
ことを特徴とする、(1)乃至(6)のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
(8)前記放射線透過性スタンパの前記小突起と、前記基板の前記小突起との高さの合計を、前記中間層の目標膜厚±15μm以内とし、前記放射線透過性スタンパの前記小突起と前記基板の前記小突起との半径方向の位置ずれを0.5mm以内とすることを特徴とする(2)乃至(7)のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
(9)前記中心軸からの吸引圧を、−1kPa〜−20kPaの範囲とすることを特徴とする(6)乃至(8)のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
【0011】
(10)中心孔を有する円板状の基板上に複数の記録層と、複数の前記記録層の間に、放射線硬化性樹脂原料からなる凹凸形状を有する中間層とを有する光記録媒体の製造装置であって、前記中間層を形成する工程に用いられ、前記放射線硬化性樹脂原料を前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板との間に塗布し、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを重ね合わせる第一の手段と、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板同士を、互いに接近する方向に加圧した状態で捻ることにより、前記放射線硬化性樹脂原料を延伸する第二の手段と、前記基板の中心孔近傍のみに放射線を照射し、前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させる第三の手段と、前記記録層を有する基板全体に前記放射線硬化性樹脂原料を延伸するために、前記記録層を有する基板及び前記放射線透過性スタンパの回転を行うと同時に、前記基板全体に延伸された前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させ、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板を接着する第四の手段とを、
少なくとも有することを特徴とする、光記録媒体の製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全面で光学的に均一な特性を有する中間層を含む光記録媒体を製造可能である。またさらに、2P法による積層型多層光記録媒体の製造効率を改善することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光記録媒体の製造方法を説明するための図である。
【図2】ギャップディスペンス法を説明するための図である。
【図3】本発明の光記録媒体の製造方法に用いられる錘及び遮光マスクの設置位置を説明するための図である。
【図4】本発明に用いる基板の小突起を説明するための断面図である。
【図5】本発明の光記録媒体の製造装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、発明の実施の形態ともいう。)について詳述する。しかしながら、本発明は、以下の発明の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変更して実施することができることはいうまでもない。
【0015】
A.本発明の光記録媒体の製造方法の好ましい実施の形態
図1は、本発明の光記録媒体の製造方法の好ましい一例を説明するための図である。図1には、積層型多層光記録媒体の製造方法の例として、有機色素を含む2つの記録層を有するデュアルレイヤタイプの片面入射型の光記録媒体(片面2層DVD−R又は片面2層DVDレコーダブル・ディスク)の製造方法が示されている。なお、図1では便宜的に、光記録媒体の記録領域の一部断面のみを拡大した図面としている。
【0016】
図1(f)に示される片面2層DVD−Rに代表される片面2層の光記録媒体100は、中心孔を有する円板(ディスク)状の光透過性の第1基板101と、色素を含む第1記録層102と、半透明の第1反射層103と、放射線硬化性樹脂原料からなる光透過性の中間層104と、色素を含む第2記録層105と、第2反射層106と、接着層107と、最外層を形成する第2基板108とが、順番に積層された構造を有している。第1基板101及び中間層104上にはそれぞれ凹凸が形成され、それぞれ記録トラックを構成している。片面2層DVD−Rである光記録媒体100の光情報の記録・再生は、第1基板101側から第1記録層102及び第2記録層105に照射されるレーザー光109により行われる。
【0017】
尚、本発明の実施の形態において、「光透過性(又は透明)」とは、色素を含む第1記録層102及び第2記録層105に光情報を記録・再生するために照射される光(レーザー光109)の波長に対する光透過性を意味するものとする。具体的には、記録・再生のための光の波長について、通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上の透過性があることを言う。一方、記録・再生のための光の波長に対する透過性は、理想的には100%であるが、通常は、99.9%以下の値となる。
【0018】
ここで、本発明は、中心孔を有する円板状の基板上に、複数の記録層と、これらの記録層の間に、放射線硬化性樹脂原料からなる凹凸形状を有する中間層とを有する光記録媒体の製造方法に関するものであり、中間層を形成する工程において、後述の第一の工程から第四の工程を有することを特徴とする。本発明の実施の形態においては、上記中間層を除く各層の材料及び製造方法について特に制限はなく、従来公知の技術によって適宜形成することができる。
【0019】
例えば、図1(a)に示すような、溝、ランド、及びプリピットが表面に凹凸で形成された第1基板101は、ポリカーボネート樹脂をニッケル製スタンパ等を用いて射出成形すること等により作製することができる。また、有機色素を含有する塗布液を第1基板101の凹凸を有する側の表面にスピンコート等により塗布し、その後塗布液に使用した溶媒を除去するために加熱等を行うこと等により、第1記録層102を成膜することができる。さらに、第1記録層102を成膜した後、例えばAg合金等をスパッタまたは蒸着することにより、第1記録層102上に第1反射層103を成膜することができる。
【0020】
また、後述の中間層104の形成工程後、図1(d)に示すように、有機色素を含む塗布液を、スピンコート等により中間層104表面に塗布し、塗布液に使用した溶媒を除去するために加熱を行うこと等により、第2記録層105を成膜することができる。この場合、加熱する温度は、中間層104を構成する樹脂のガラス転移温度以上の温度とすることが好ましい。上記温度で加熱することにより、中間層104の収縮が原因と考えられる第1基板101に反りが発生する現象を抑制することが可能となる。尚、本発明の実施の形態においては、第2記録層105を中間層104上に直接形成しているが、他の層(例えば保護層やバッファー層)を介して第2記録層105を形成してもよいことはいうまでもない。
【0021】
さらに、図1(e)に示すように、Ag合金等をスパッタ蒸着すること等により第2記録層105上に第2反射層106を成膜することができる。その後、図1(f)に示すように、ポリカーボネートを射出成形して得られた鏡面基板としての第2基板108を、接着層107を介して第2反射層106に貼り合わせること等により、光記録媒体100の製造が完了する。
【0022】
接着層107は、不透明であっても、表面が多少粗くてもよく、また、遅延硬化型の接着剤等も使用できる。例えば、第2反射層106上にスクリーン印刷等の方法で接着剤を塗布し、紫外線を照射してから第2基板108を載置し、押圧することにより接着層107を形成できる。また、第2反射層106と第2基板108との間に感圧式両面テープを挟んで押圧することにより接着層107を形成すること等も可能である。
【0023】
図1(f)の光記録媒体の層構成は上記の通り、2つの記録層を有する光記録媒体の一例である。従って、当然ながら図1(f)に図示しない他の層(例えば、第1基板101と第1記録層102との間に形成される下地層等)を用いてもよいことはいうまでもない。
【0024】
以下、図1(a)に示す第1基板101上に第1記録層102及び第1反射層103をこの順に積層したデータ基板111上に中間層104を形成する場合を例に、中間層104の形成工程(第一の工程から第四の工程)を説明する。なお、本発明の実施の形態において、データ基板111は、通常透明である。
【0025】
(1)第一の工程
本工程では、放射線硬化性樹脂原料を、放射線透過性スタンパと記録層を有する基板(ここではデータ基板)との間に塗布し、放射線透過性スタンパと記録層を有する基板とを重ね合わせる。
具体的には、図2に示すように、データ基板111の第1反射層側の表面に、放射線硬化性樹脂原料の一種である紫外線硬化性樹脂原料104aをノズル等により、データ基板111と同心円の略円環状に、連続的若しくは断続的に塗布し、図1(c)に示すように凹凸形状を有する放射線透過性スタンパ110を重ね合わせる。なお、紫外線硬化性樹脂原料104aは放射線透過性スタンパ110表面にに塗布しても良く、またデータ基板111及び放射線透過性スタンパ110(以下、両基板と記載することがある)を重ね合わせて(対向させて配置して)から、これらの隙間に塗布しても良い。
【0026】
上記の中でも、紫外線硬化性樹脂原料104aの塗布は、データ基板111と放射線透過性スタンパ110とを重ね合わせて(対向させて配置して)から隙間にノズルを挿入して塗布する方法が好ましい。当該方法はギャップディスペンス法と呼ばれており、この方法について以下に図2を用いて説明する。
【0027】
例えば、放射線透過性スタンパ110を上に、データ基板111を下側にしてこれらの中心孔を略一致させて平衡に配置し、両基板の隙間を2〜4mm程度として固定する。その隙間に直径1.5mm程度の単一、もしくは(その先端が同心円上、かつ等間隔に配置された)複数のノズルを基板外周側から横向きに挿入してその吐出口が中間層形成領域の中央付近になるように配置する。この状態でノズル先端から紫外線硬化性樹脂原料104aを吐出すると、両基板の距離が接近しているため、吐出された紫外線硬化性樹脂原料104aは直ちに両基板110及び111と接触してこれらの隙間を毛細管現象により延伸してゆく。またこの際、ノズルもしくは、データ基板111及び放射線透過性スタンパ110をデータ基板111の周方向に回転させることにより、略円環状に紫外線硬化性樹脂原料104aを塗布することができる。所定量の前記紫外線硬化性樹脂原料104aの吐出が完了した後、ノズルを退避させ、上側に配置した放射線透過性スタンパ110を下降、もしくは下側に配置したデータ基板111を上昇させて、前記紫外線硬化性樹脂原料104aをさらに延伸させる。こうすることにより、紫外線硬化性樹脂原料104a内に気泡が発生することの少ない塗布ができる。
【0028】
なお、データ基板111及び放射線透過性スタンパ110を重ね合わせる際には、両基板110及び111のそれぞれの中心孔を、光記録媒体の製造装置の同一の中心軸に貫通させ、両基板の偏心量が30μm以内となるように調整することが好ましい。
【0029】
また、データ基板における第1基板101、及び放射線透過性スタンパ110の重ね合わせる面側には、それぞれ図4のような円環状の小突起をあらかじめ形成しておくことが好ましい。図4(a)は第1基板101を模式的に示したものであり、図4(b)は図4(a)α−α部の断面図である。小突起は例えば、第1基板101もしくは放射線透過性スタンパ110成型時の金型押さえの位置や形状を工夫するなどの公知の方法により所望の位置に形成することができる。
【0030】
小突起の形成位置は、光記録媒体のクランプ領域(光記録媒体の記録再生装置によりクランプされる領域であり、通常、光記録媒体の中心から半径11.5mm〜16.5mm程度の領域)より中心孔側に形成することが好ましい。したがって、データ基板における第1基板101については、第1基板101の中心から半径8.5〜11.5mmの領域、放射線透過性スタンパ110については、上記領域に対応する位置に、それぞれ小突起を形成することが好ましい。
【0031】
また、小突起の高さについては、両基板の小突起の高さの合計が、所望の中間層膜厚の±15μmの範囲となることが好ましく、特に好ましくは±5μmである。ここで、小突起の高さとは、記録トラックが形成されたデータ記録領域を基準とした高さする。小突起の高さをこの範囲とすることで、両基板を重ね合わせて加圧する際、両基板の間隔を好ましい範囲とすることができ、所望の中間層膜厚を得やすくなる。小突起の断面形状は特に制限は無く、矩形状、三角状、半円状のいずれでも構わない。
【0032】
また、両基板を対向させた際の、両小突起の半径方向の位置関係については、両小突起の頂点の半径方向の位置ずれが0.5mm以下とすることが好ましく、特に好ましくは0mmである。両小突起の半径位置が近接していることで、紫外線硬化性樹脂原料の中心孔方向への延伸が、小突起でせき止められ、所望の位置に中間層を形成することができるからである。
【0033】
(2)第二の工程
第二の工程では、第一の工程で重ね合わせた両基板を、互いに接近する方向に加圧し、両基板の間隔を更に狭めた状態で両基板を捻る。
この際の押し付け幅は紫外線硬化性樹脂原料の量や重ね合わせた際の間隔にもよるが、10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上である。また、100μm以下が好ましく、より好ましくは60μm以下である。本発明でいう押し付け幅とは、第二の工程において、両基板の間隔を更に狭めた際の、両基板の相対的な移動距離をいう。
【0034】
本工程では上記加圧と同時に、例えば、重ね合わせた両基板の内、一方を固定し、他方を周方向に回転させることにより、塗布した紫外線硬化性樹脂原料104aを両基板面上に延伸する。前記回転を、本願明細書では「捻る」と記載する。なお、両基板を互いに逆方向に回転させて捻ってもよい。また、両基板への加圧は、両基板を捻る前に行っても良いし、両基板の間隔を狭めて加圧しながら捻ってもよい。捻る工程を行うことにより、塗布した紫外線硬化性樹脂原料104aを両基板面上により延伸することができる。両基板を捻る際の相対的な回転数は0.1rpm以上が好ましく、より好ましくは10rpm以上である。また30rpm以下が好ましく、より好ましくは20rpm以下である。回転数が低いほど紫外線硬化性樹脂原料は均一に延伸される傾向にあるが、生産効率の観点からは回転数が高い方がよい。また、両基板を捻る際の相対的な回転角度は、光記録媒体の製造装置のターンテーブルの平行度の機械精度、回転数にもよるが、180°〜360°が好ましい。この範囲であれば、生産効率への影響が小さく、紫外線硬化性樹脂原料104aが両基板上に均一に広がる傾向にある。
【0035】
(3)加圧工程
本発明の実施の形態においては、上記第二の工程後、後述の第三の工程の前に、放射線透過性スタンパ110及びデータ基板111の間に、所定の荷重をかけることにより加圧する工程を有することが好ましい。
具体的には、図3(a)に示すように、前記放射線透過性スタンパ110を上方側に配置し、前記放射線透過性スタンパ110上に錘を載せることによって両基板110及び111間を加圧することが好ましい。図3(a)では、特にデータ基板111の中心孔側に更に紫外線硬化性樹脂原料104aを延伸させるため、データ基板111の中心から半径7.5mm〜28mmの領域に錘を配置しているが、錘を配置する位置は、紫外線硬化性樹脂原料104aの粘度等により適宜調整することができる。
【0036】
この際の錘の荷重は50g以上が好ましく、より好ましくは70g以上である。また100g以下が好ましく、より好ましくは90g以下である。この範囲であれば、紫外線硬化性樹脂原料104aを好ましい範囲に延伸可能である。また、図3(a)に示すように、複数の錘によって加圧を行なってもよく、また一つの錘によって加圧を行なってもよい。また、ここでは、錘を載せることにより加圧を行っているが、公知の機械的な加圧法によって加圧してもよい。
【0037】
また、後述の第三の工程での紫外線照射のために、中心孔近傍に配置する錘は、紫外線を十分透過する材質を用いることが好ましい。本発明の実施の形態においては、紫外線に対する透過性と、ある程度の荷重とを両立させるため、中心孔近傍に配置する錘は合成石英のリングとすることが好ましい。なお、上記錘として、紫外線を十分透過しない材質の錘を使用する場合は、後述の第三の工程において紫外線を照射する際、ディスクの中心、直径20mm付近の領域が錘の影にならない為に、上記錘の直径は20mm以下にすることが望ましい。
【0038】
また、第三の工程における紫外線照射前に、図3(a)に示すように、両基板110及び111の中心孔を固定するための中心軸の側面に吸引用の細孔をあけておき、そこから紫外線硬化性樹脂原料104aを減圧吸引することにより、紫外線硬化性樹脂原料を中心孔側に延伸する速度を速くすることが好ましい。これにより、減圧吸引を行わなかった場合と比較して前記紫外線硬化性樹脂原料104aがデータ基板111側及び放射線透過性スタンパ110に形成された小突起に到達するまでの時間が短くなり、タクト時間を短縮することができる。この際の最適な吸引圧は、前記紫外線硬化性樹脂原料104aの粘度やデータ基板111の表面形状等にもよるが、−1kPa〜−20kPaの範囲が好ましい。
【0039】
(4)第三の工程
次いで、前記基板の中心孔近傍のみに放射線を照射し、前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させる第三の工程を行なう。
具体的には、両基板110及び111の小突起に、紫外線硬化性樹脂原料104aが到達した直後に、図3(b)に示すように、基板の中心孔近傍にのみ紫外線を照射し、当該領域の紫外線硬化性樹脂原料104aを硬化させる。このときの照射範囲が広過ぎると、自然延伸された不均一な膜厚の前記紫外線硬化性樹脂原料104aが広い範囲でそのまま硬化されてしまい、第四の工程において両基板110及び111を高速回転させて膜厚を均一化しようとしても、その照射範囲の近傍の膜厚分布が乱れてしまう可能性がある。従って、このときの照射範囲は高い膜厚精度が要求される光記録媒体の情報記録領域よりもできるだけ離れた範囲のみに限定することが望ましい。また、照射範囲が狭すぎると内周端の硬化が不十分になり、第四の工程において回転延伸中に両基板の内周端から紫外線硬化性樹脂原料104a内に空気が侵入する可能性がある。
【0040】
最適な照射範囲はデータ基板111(特には第一の基板)及び放射線透過性スタンパ110の中心から半径8mm以上の領域であり、より好ましくは10mm以上、更に好ましくは11mm以上の領域である。また好ましくはデータ基板111(特には第一の基板)及び放射線透過性スタンパ110の中心から半径15mm以下の領域であり、より好ましくは14mm以下、更に好ましくは13mm以下である。この範囲であれば、後述する第四の工程において紫外線硬化性樹脂原料を延伸する際に紫外線硬化性樹脂原料104a内に空気が入り込まず、かつ均一な膜厚分布を得ることができる。紫外線光量及び照射時間は紫外線硬化性樹脂原料の材料や作製環境により適宜最適化すれば良いが、通常20mW/cm〜200mW/cm、0〜5秒程度である。
【0041】
また、上記限定した領域にのみ紫外線を照射するためには、所望の半径の円形開口を持つ遮光マスクを中心孔上に設置すればよいが、紫外線の回折による照射領域境界のぼやけを防ぐため、遮光マスクは放射線透過性スタンパ110の上面から1mm以内の位置に平行に設置するのが望ましい。また、例えば図3(b)に示すように、上述した加圧用の錘として、紫外線を照射する領域(中心孔側の領域)には、紫外線透過性の合成石英リングを用い、紫外線を照射しない領域には、遮光性の錘を用いること等により、錘に遮光マスクとしての役割を持たせることも可能である。
【0042】
(5)第四の工程
次に、前記記録層を有する基板全体に前記放射線硬化性樹脂原料を延伸するために、前記記録層を有する基板及び前記放射線透過性スタンパの回転を行うと同時に、前記基板全体に延伸された前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させ、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板を接着する第四の工程を行なう。
【0043】
具体的には、第三の工程に用いた遮光マスクや、錘等を取り去り、両基板110及び111を高速回転可能なターンテーブル上に固定し、高速回転(スピンコート)させることにより前記紫外線硬化性樹脂原料104aを更に両基板の外周部まで延伸させると同時に、紫外線硬化性樹脂原料104aを硬化させることにより紫外線硬化性樹脂原料からなる層(以下、単に「樹脂原料層」とも称する)104aを形成し、放射線透過性スタンパ110とデータ基板111とを接着する。
スピンコートの回転数は、通常500rpm〜15000rpm程度である。
【0044】
両基板を回転させた状態で、放射線透過性スタンパ110を介して、放射線透過性スタンパ110側から両基板110及び111の全面に紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂原料104aを硬化させ、十分に硬化したところで放射線透過性スタンパ110を剥離することにより、中間層104が形成される。
中間層の膜厚は、光記録媒体の種類により適宜設定されるが、片面2層DVD−Rの場合は55μm程度である。
【0045】
本発明の実施の形態では、中間層厚みの均一性を高めるため、両基板の回転による紫外線硬化性樹脂原料の延伸と同時に、紫外線硬化性樹脂原料の硬化工程を行う。ここで、通常のスピンコート法では、樹脂原料層の膜厚は遠心力により内周部が薄く、外周部が厚くなる傾向にあるため、スピンコートしながら紫外線を照射し、回転延伸と紫外線硬化を同時に進めることで、内外周の中間層の膜厚の均一性を更に高めることが出来る。またこの際、適当な開口寸法を持つ膜厚分布調整用遮光マスクを通して紫外線照射しながらスピンコートを行うことが好ましい。前記膜厚分布調整用遮光マスクとして、内周側に多く紫外線が照射されるように設計されているものを用いることにより、内周が外周より先に硬化する傾向となり、中間層の膜厚の均一性を良好なものとすることができる。
【0046】
本工程における紫外線光量及び照射時間は紫外線硬化性樹脂原料の材料や作製環境により適宜最適化すれば良いが、通常10mW/cm〜120mW/cm、0.1〜5.0秒程度である。
【0047】
(6)その他の工程
実際の光記録媒体の製造においては、上記第一の工程〜第四の工程を順に行ない、第四の工程に続いて、樹脂原料層104a(図1(c)参照)から放射線透過性スタンパ110を剥離させる。これにより、樹脂原料層104aに放射線透過性スタンパ110の転写用凹凸形状が転写された中間層104が形成される。なお、本明細書では、樹脂原料層104aとは、塗布後、硬化され、放射線透過性スタンパが剥離するよりも以前のものを指す。また、中間層104とは、放射線透過性スタンパ110が剥離した後のものを指す。したがって、樹脂原料層104a及び中間層104は同様の位置に形成された層を指すものであるが、その状態が異なるものである。
【0048】
放射線透過性スタンパ110を剥離させる具体的方法に制限はないが、通常は、内周を真空吸着して、光記録媒体の中心孔側にナイフエッジを入れ、そこにエアーを吹き込みながら樹脂原料層104aが形成されたデータ基板111と放射線透過性スタンパ110を引き離すという方法で剥離を行なう。
【0049】
ここで、上記の放射線透過性スタンパ110の剥離は、常温で行う等、温度制御せずに行ってもよく、樹脂原料層104aが形成されたデータ基板111を加熱した状態において行ってもよいが、加熱した状態において放射線透過性スタンパ110を剥離することで剥離が良好となり、良好な凹凸形状を有する樹脂原料層104aを得ることができ、ひいては良好な凹凸形状を有する中間層104が得られるので好ましい。
【0050】
加熱操作を行う時期は任意であるが、紫外線硬化性樹脂原料104a硬化後、すなわちスタンパ剥離工程において加熱操作を行うようにすることが好ましい。また、放射線透過性スタンパ110を剥離する時の温度は任意であるが、通常、50℃以上が好ましく、また、樹脂原料層104aの(即ち、中間層104の)ガラス転移温度以下、かつスタンパ110のガラス転移温度以下とすることが好ましい。
【0051】
本発明の実施の形態では、放射線透過性スタンパ110を剥離することによって中間層104を形成した後で、さらに中間層104に表面改質処理を施すことも好ましい。これにより、中間層104は更に硬化が進行し安定な凹凸を維持することができる。
【0052】
ここで、表面改質処理とは、中間層104の硬化を促進する処理であれば限定されないが、放射線照射処理及び/又は加熱処理であることが好ましい。また、放射線の中でも、紫外線を用いることが好ましい。したがって、例えば樹脂原料層104aが紫外線硬化性樹脂原料からなる場合には、表面改質処理として紫外線照射及び加熱処理の何れを用いてもよいが、少なくとも紫外線照射を用いることが好ましい。
【0053】
(放射線透過性スタンパについて)
本発明の実施の形態において使用される放射線透過性スタンパ110の「放射線透過性」とは、放射線硬化性樹脂原料を硬化させる際の放射線に対する透過性をいうものとする。具体的には、上記放射線について、通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上の透過性があることを言う。一方、上記放射線に対する透過性は、理想的には100%であるが、通常は、99.9%以下の値となる。
なお、本発明においては、「放射線」を、電子線、紫外線、可視光、赤外線を含む意味で用いる。上記実施の形態では、放射線として紫外線を用いる場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
放射線透過性スタンパとしては、従来公知の材料を用い、公知の製造方法により製造されるものを適宜用いることができる。放射線透過性スタンパの材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂等の非極性材料、あるいはポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂等の汎用で低コストの樹脂が使用可能である。なお、放射線透過性スタンパの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記の中でも、低コストで精度の高い溝形状を実現可能なポリカーボネート系樹脂が好ましく、特には、光記録媒体の基板として従来公知のポリカーボネート系樹脂を用いることが好ましい。
【0055】
放射線透過性スタンパは例えば、放射線透過性スタンパが有する転写用凹凸形状の逆(ネガ)の凹凸パターンを有する金属製スタンパ(例えば、ニッケル製スタンパ)を用いて、射出成形等により作製することができる。
さらに、放射線透過性スタンパは、通常、中央部に表裏を貫通する中心孔を形成された円板形状に形成される。本発明の実施の形態においても、放射線透過性スタンパは、表面に転写用凹凸形状を有し、中央部に中心孔を形成された円板形状のものを用いることが好ましい。
【0056】
本発明の実施の形態において使用する放射線透過性スタンパは、形状安定性及びハンドリングの容易さの点で、厚さは、通常、0.3mm以上とするのが望ましい。但し、通常5mm以下である。放射線透過性スタンパの厚さがこの範囲であれば、十分な放射線透過性を有するため、放射線透過性スタンパを介して放射線を照射しても、放射線硬化性樹脂原料を効率よく硬化させることができ、生産性を向上させることができる。
【0057】
また、放射線透過性スタンパの外径は、第1基板の外径(光記録媒体の外径)より大きくすることが好ましい。放射線透過性スタンパの外径を第1基板の外径より予め大きく設計しておくと、射出成形の際に、光記録媒体の外径より外側の外周部にも余裕を持って凹凸形状を形成することが可能となり、放射線透過性スタンパの中間層形成に用いられる領域の全面にわたって良好な凹凸形状を形成することができる。
【0058】
また、第1基板の外径よりも放射線透過性スタンパの外径を大きくすることにより、中間層(放射線硬化性樹脂原料からなる層)の外径よりも放射線透過性スタンパの外径が大きくなる。このようにすると、中間層の端面の形状を良好にしやすくなる。具体的には、放射線透過性スタンパを放射線硬化性樹脂原料上に載置した際に、放射線透過性スタンパや中間層の外周端部に放射線硬化性樹脂原料層の樹脂が付着することがあり、この樹脂は、放射線透過性スタンパを剥離する際にバリとなる場合がある。そこで、中間層(紫外線硬化性樹脂原料層)の外径よりも放射線透過性スタンパの外径を大きくすることにより、バリとなりやすい樹脂が、中間層の外径よりも外側、すなわち放射線透過性スタンパの外周端部に存在することとなる。その結果、バリが発生したとしても、中間層の端面に影響を与えることなく、バリ発生の部分を取り除くことができる。
【0059】
放射線透過性スタンパの外径として具体的には、第1基板の外径より、直径で通常1mm以上大きくすることが好ましく、より好ましくは2mm以上である。但し、第1基板の外径との差は通常直径で15mm以下であり、好ましくは10mm以下である。
【0060】
(放射線硬化性樹脂原料について)
中間層の形成に用いる放射線硬化性樹脂原料としては、放射線により硬化する放射線硬化性樹脂を含有するものであれば特に制限はない。放射線硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
放射線硬化性樹脂としては、例えば紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等、種々のものが挙げられるが、中でも紫外線硬化性樹脂が特に好ましい。紫外線硬化性樹脂の採用により、放射線透過性スタンパの凹凸形状の転写が行いやすくなる。
【0061】
紫外線硬化性樹脂としては、ラジカル系(ラジカル重合型の)紫外線硬化性樹脂とカチオン系(カチオン重合型の)紫外線硬化性樹脂が挙げられ、従来公知のこれらの材料を適宜使用することができる。
【0062】
ラジカル系紫外線硬化性樹脂を放射線硬化性樹脂原料に用いる場合には、例えば、紫外線硬化性化合物(ラジカル系紫外線硬化性化合物)と光重合開始剤とを必須成分として含む組成物を用いることができる。ラジカル系紫外線硬化性化合物としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレートを重合性モノマー成分として用いることができる。これらは、各々、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、ここで、アクリレートとメタアクリレートとを併せて(メタ)アクリレートと称する。
【0063】
また、光重合開始剤に制限はないが、例えば、分子開裂型または水素引き抜き型のものが好ましい。本発明においては、ラジカル重合型のアクリル酸エステルを主体とする未硬化の紫外線硬化性樹脂原料を用いて、これを硬化させて中間層を得ることが好ましい。
【0064】
一方、カチオン系紫外線硬化性樹脂を放射線硬化性樹脂原料に用いる場合には、例えば、カチオン重合型の光開始剤を含むエポキシ樹脂を用いることができる。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロールヒドリン型、脂環式エポキシ、長鎖脂肪族型、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型、グリシジルエーテル型、複素環式系等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、遊離した塩素および塩素イオン含有率が少ないものを用いるのが好ましい。塩素の量は、1重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以下である。
【0065】
また、カチオン重合型の光開始剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩等が挙げられる。
【0066】
また、放射線硬化性樹脂原料は20℃〜40℃において液状であるものを用いることが好ましい。放射線硬化性樹脂原料を塗布する際に、溶媒を用いることなく塗布できるので、生産性が向上するためである。また、放射線硬化性樹脂原料の粘度は、常温で50cP以上、1000cP以下となるように、適宜調整することが好ましい。更に好ましくは100cP以上である。また、500cP以下が更に好ましく、特に好ましくは400cP以下である。放射線硬化性樹脂原料の粘度の調整は、放射線硬化性樹脂原料中のモノマーの含有率を適宜変更すること等により行なうことができる。
【0067】
B.本発明の光記録媒体の製造方法の他の好ましい形態
上記では、片面2層DVD−R又は片面2層DVDレコーダブル・ディスクを例にとって、本発明の光記録媒体の製造方法について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。即ち、データ基板上に、直接又は他の層を介して放射線硬化性樹脂原料を塗布し、凹凸形状を有する放射線透過性スタンパを固着した後に剥離して、樹脂に放射線透過性スタンパの凹凸形状を転写して中間層を形成する工程を含む製造方法によって製造される光記録媒体又は光記録媒体用積層体であれば、本発明の効果が良好に発揮される。つまり、他の構成の光記録媒体に対しても本発明の実施の形態の製造方法を適用することができる。
【0068】
例えば、記録層を3層以上有し、中間層を2層以上有する光記録媒体に適用することもできる。この場合、2層以上の中間層のそれぞれを形成するのに本発明の実施の形態の製造方法を適用することができる。さらに、上述した実施形態では、いわゆる基板面入射型の光記録媒体の製造方法について説明したが、いわゆる膜面入射型の光記録媒体の製造方法にも当然に適用することができる。
【0069】
本発明の実施の形態が適用される光記録媒体の他の例として、ブルーレイディスクがあり、例えば、1枚の光記録媒体に記録層を2層(デュアルレイヤ)設けた積層構造を有する2層BD−R光記録媒体が挙げられる。当然ながら、2層BD−R光記録媒体においても、上述した中間層の形成方法を同様に用いる事が可能である。その場合は、前項における接着層107、第二基板108の代わりに、厚さ75μm程度のカバー層を形成することになる。カバー層の形成方法については、スピンコート法等、従来公知の製造方法が適用可能である。この際、2層BD−R光記録媒体においては、規格上中間層の膜厚を25μm程度とする。また記録層が3層以上ある場合、中間層の膜厚は適宜設定される。
なお、BD−R等、カバー層側からレーザー光照射が行なわれる膜面入射型の光記録媒体においては、上述した形態と、第1記録層及び第1反射層の積層順、並びに第2記録層及び第2反射層の積層順がそれぞれ逆となる。
【0070】
また、上記の実施の形態では、中間層を1層のみからなる層としたが、放射線透過性スタンパの中間層からの剥離性を高めるため、中間層を形成する紫外線硬化性樹脂原料に2種類以上の樹脂材料を用い、中間層を異なる樹脂の積層構造とする方法を用いることも可能である。この方法の長所は、例えば放射線透過性スタンパ側に放射線透過性スタンパとの剥離性の良好な樹脂材料Aを用い、データ基板側にデータ基板との密着性が良好な樹脂材料Bを用いる等して剥離性を改善することができる点である。この場合、本発明の製造方法を、中間層の大部分の膜厚を有するいずれか一方の樹脂材料のみに適用することによっても、本発明の効果を得る事が可能である。具体的には、例えば、前記樹脂材料Aをあらかじめ放射線透過性スタンパに塗布、硬化させておき、樹脂材料Bからなる樹脂原料層を形成する際に、本発明の製造方法を用いる例が挙げられる。
【0071】
また、記録層材料としても、通常の光記録媒体で適用可能なものであれば特に制限は無く、本発明の実施の形態の製造方法を適用することができる。例えば、有機色素材料だけでなく、相変化型の記録材料や部分窒化膜、部分酸化膜を用いることも可能である。相変化型記録材料の具体例としては、例えば、SbTe系、GeSbTe系、InSbTe系、AgSbTe系、AgInSbTe系、GeSbSn系、InGeSbTe系、InGeSbSnTe系等のSbを主成分とする組成を用いることが好ましい。部分窒化膜、部分酸化膜の具体例としては、BiGeN、SnNbNなどの部分窒化膜、TeOx、BiFOxなどの部分酸化膜が挙げられる。
【0072】
C.本発明の光記録媒体の製造装置の好ましい形態
上述した光記録媒体の製造方法は、以下の製造装置を用いること等により行なうことができる。
具体的には、中心孔を有する円板状の基板上に複数の記録層と、複数の前記記録層の間に、放射線硬化性樹脂原料からなる凹凸形状を有する中間層とを有する光記録媒体の製造装置であって、前記中間層を形成する工程において用いられるものであり、以下の第一の手段、第二の手段、第三の手段、及び第四の手段を少なくとも有するものである。
【0073】
(1)第一の手段
本発明の光記録媒体の製造装置が有する第一の手段は、放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板との間に塗布し、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを重ね合わせる手段である。
第一の手段の一例を図5(a)に示す。図5(a)に示すように、第一の手段は、記録層が形成されたデータ基板111の記録層側を上面として略水平に保持、回転等させるための基板保持テーブル部201と、放射線透過性スタンパ110の凹凸形成面側がデータ基板111側となるよう放射線透過性スタンパ110を保持し、回転等させるためのスタンパ保持反転テーブル部202と、放射線硬化性樹脂原料104aを、ディスク基板111と放射線透過性スタンパ110との間に塗布するためのノズル部203と少なくとも有するものとすることができる。
【0074】
基板保持テーブル部201は、例えば、データ基板111を載置するためのターンテーブル210、データ基板111及び放射線透過性スタンパ110の中心孔を挿通するための中心軸211、データ基板111がターンテーブル210上で移動しないよう固定するための吸引孔212、及びターンテーブル210を回転させるための回転機構(図示せず)等を有するものとすることができる。
【0075】
また、スタンパ保持反転テーブル部202は、例えば放射線透過性スタンパ110を吸引によって保持するための吸引孔213を有する反転ターンテーブル214、反転ターンテーブル214によって保持した放射線透過性スタンパ110を任意の方向に搬送可能な搬送機構(図示せず)、及び反転ターンテーブル214を回転させるための回転機構(図示せず)等を有するものとすることができる。
【0076】
ノズル部203は、ノズルと、ノズルの先端を任意の位置に移動させるための移動機構(図示せず)、及びノズルの先端から所定量の放射線硬化性樹脂原料104aを吐出するための制御機構(図示せず)等を有するものとすることができる。なお、放射線硬化性樹脂原料104aを吐出するためのノズルは1つのみ設けられていてもよく、また2つ以上のノズルが設けられていてもよい。
【0077】
第一の手段では、例えば、図5(a)に示すように、基板保持テーブル部201及びスタンパ保持反転テーブル部202により、それぞれデータ基板111及び放射線透過性スタンパ110を搬送し、同一の中心軸211に貫通させ、これらが対向するよう配置する。続いて、ノズル部203におけるノズルの先端を、両基板110及び111間に挿入し、ノズル部203より放射線硬化性樹脂原料104aを所定量吐出させる。この際、基板保持テーブル部201のターンテーブル210及び/又はスタンパ保持反転テーブル202の反転ターンテーブル214をデータ基板111の周方向に回転させることにより、放射線硬化性樹脂原料104aを円環状に塗布するものとする。続いて放射線硬化性樹脂原料104aの塗布後、ノズル先端を退避させ、ターンテーブル210及び反転ターンテーブル214の両方、もしくはいずれか一方を上方もしくは下方に移動させることにより、データ基板111及び放射線透過性スタンパ110を重ね合わせる。
図5(a)では、前記ギャップディスペンス法を用いた場合について示したが、両基板を対向させる前に、データ基板111もしくは放射線透過性スタンパ110にあらかじめ放射線硬化性樹脂原料104aを塗布した後、両基板を重ね合わせてもよい。
【0078】
なお、本手段における放射線硬化性樹脂原料104aの塗布量等の製造条件や、本手段で用いられる放射線硬化性樹脂原料104a、放射線透過性スタンパ110、データ基板111等の材料については、上述の光記録媒体の製造方法で説明したものと同様とすることができる。
【0079】
(2)第二の手段
第二の手段は、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板同士を、互いに接近する方向に加圧した状態で捻ることにより、前記放射線硬化性樹脂原料を延伸する手段である。
第二の手段では、例えば図5(b)に示すように、上述の基板保持テーブル部201のターンテーブル210及び/又はスタンパ保持反転テーブル部202の反転ターンテーブル214を上方もしくは下方に移動させて、データ基板111と放射線透過性スタンパ110とを接近する方向に加圧し、上述のターンテーブル210及び反転ターンテーブル214の両方、もしくはいずれか一方をデータ基板111の周方向に回転させることにより、第一の手段で塗布した紫外線硬化性樹脂原料104aを両基板面上に延伸する。
【0080】
第二の手段においては、ターンテーブル210及び反転ターンテーブル214のうち、いずれか一方を固定し、他方を上方または下方に移動させることにより加圧状態を制御してもよく、またターンテーブル210及び反転ターンテーブル214の両方を上方及び下方に移動させることにより加圧状態を制御してもよい。
【0081】
また放射線透過性スタンパ110とデータ基板111とを捻る際、一方を固定し、他方を周方向に回転させるよう、それぞれターンテーブル210及び反転ターンテーブル214の回転を制御してもよく、また放射線透過性スタンパ110及びデータ基板111を逆方向に回転させるよう、ターンテーブル210及び反転ターンテーブル214をそれぞれ逆方向に回転させるよう制御してもよい。
なお、上記回転後、スタンパ保持反転テーブル部202は放射線透過性スタンパ110上から取り外され、放射線透過性スタンパ110は、データ基板111と重ね合わされた状態で基板保持テーブル部201側に保持されるものとする。
【0082】
上記加圧制御時の押し付け幅、捻り時の回転速度、回転角度等の製造条件は上述の光記録媒体の製造方法で説明したものと同様とすることができる。
【0083】
(3)第三の手段
第三の手段は、前記基板の中心孔近傍のみに放射線を照射し、前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させる手段である。
例えば図5(c)に示すように、放射線220を放射するための放射線源205と、目的とする領域を遮光可能な遮光機構204とを備える手段等とすることができる。
なお、第三の手段は、放射線透過性スタンパ110の中心孔側を加圧するための加圧機構を有していることが好ましく、この加圧機構が遮光機構を兼ねていてもよい。
【0084】
第三の手段に用いられる放射線源205としては、所定のタイミングで、放射線硬化性樹脂原料104aを硬化させることが可能な放射線220を照射可能なものであれば特に制限はなく、放射線硬化性樹脂原料104aの種類や、必要とされる強度等に応じて適宜選択される。
【0085】
また、遮光機構は、例えば遮光マスクと、その遮光マスクを任意の位置に搬送可能な遮光マスク搬送機構等とからなるもの等とすることができる。
図5(c)では加圧機構204が遮光機構を兼ねる形態を図示している。加圧機構としては、1つ、または2つ以上の錘(図5(c)中では204a〜204c)と、当該錘204a〜204cを支持し、これらを放射線透過性スタンパ110上の任意の位置に搬送可能な錘搬送機構204dとを有するものとすることができる。
例えば放射線を照射する領域に配置する錘204aとして放射線透過性の材質のものを選択し、放射線を照射しない領域に配置する錘204b及び204cとして遮光性の錘を選択することにより、錘による加圧と遮光とを同時に行なうことができる。
【0086】
第三の手段はさらに、図5(c)に示すように、基板保持テーブル部201の中心軸211から、放射線硬化性樹脂原料104aの減圧吸引を行なう吸引機構(図示せず)等を有していてもよい。吸引機構が設けられている場合には、放射線源205からの放射線照射前、若しくは放射線照射中に放射線硬化性樹脂原料104aをデータ基板111の中心孔側に素早く延伸させることが可能となり、タクト時間を短縮させること等が可能となる。
【0087】
なお、上記放射線照射後、遮光機構204等は放射線透過性スタンパ上から取り外されるものとする。
【0088】
本手段による放射線源からの放射線照射量や照射時間、加圧量、吸引機構による吸引圧力等の製造条件については、上述の光記録媒体の製造方法で説明したものと同様とすることができる。
【0089】
(4)第四の手段
第四の手段は、前記記録層を有する基板全体に前記放射線硬化性樹脂原料を延伸するために、前記記録層を有する基板及び前記放射線透過性スタンパの回転を行うと同時に、前記基板全体に延伸された前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させ、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板を接着する手段である。
【0090】
第4の手段は、例えば図5(d)に示すように、ターンテーブル210を回転させ、データ基板111及び放射線透過性スタンパ110を同時に高速回転させる回転機構(図示せず)と、回転と同時に放射線硬化性樹脂原料104aを硬化させる放射線220を照射する放射線源206とを備える手段とすることができる。本形態においては、回転機構による回転開始とほぼ同時に放射線源206より放射線220の照射を開始し、回転完了とほぼ同時に照射を完了するよう、回転機構及び放射線源206を制御することが好ましいが、回転開始と放射線の照射開始、及び/又は回転終了と放射線の照射終了の時点を、適宜ずらしてもよい。
放射線源206としては、第三の手段と同一のものを用いてもよく、また異なるものを用いてもよい。
【0091】
また、本発明では、第四の手段が上記の回転機構及び放射線源の他に、更に、遮光機構(図示せず)を備えることが好ましい。通常単に回転機構により回転延伸するのみでは、放射線硬化性樹脂原料104aの厚さは内周で薄く外周で厚くなる。したがって、半径に応じて照射量を変えられるような開口を持つ遮光マスクを通して紫外線照射をしながら高速回転させ、高速回転中に中心孔側から順次硬化させていくことにより、全面にわたり略均一な膜厚となるようにすることができる。このような遮光機構としては、放射線源206からの照射量を調整可能な遮光マスクと、その遮光マスクを任意の位置に搬送可能な遮光マスク搬送機構等とからなるもの等とすることができる。
【0092】
なお、本手段の回転機構による回転数や、放射線源からの放射線の照射等の製造条件については、上述の光記録媒体の製造方法で説明したものと同様とすることができる。
【0093】
(5)その他
なお、上述の実施の形態では、上記第一の手段から第四の手段で、同一の基板保持テーブル部201を用いたが、これらは異なるものを用いてもよい。また、放射線透過性スタンパ110が上側、データ基板111が下側となるよう説明したが、これらが天地逆になるよう、各手段が配置されていてもよい。また、本発明は上記構成に限定されるものではなく、上記構成以外に、必要に応じて適宜他の構成を有していても良い。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明の具体的態様を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
本発明の方法を利用して、追記型2層ブルーレイディスクを作製した例を示す。
射出成型で作製した、表面にトラックピッチ0.32μm、深さ20nmの溝が転写された、厚さ1.1mm、直径120mmのポリカーボネート基板の表面に、複数のスパッタ製膜工程を経て無機膜からなる追記型記録膜を形成した(以下「データ基板」と記載)。これとは別に射出成型により、表面にピッチ0.32μm、深さ20nmの溝が転写された、厚さ0.6mm、直径124mmのポリカーボネート基板を作製した(以下「放射線透過性スタンパ」と記載)。データ基板表面の溝と、放射線透過性スタンパ表面の溝は、射出成型に用いるニッケル製スタンパの溝の凹凸配向が逆のものを用いることにより、逆向きの凹凸配向とした。
【0096】
上記データ基板、放射線透過性スタンパともに、中央に直径15mmの中心孔が形成され、かつデータ基板及び放射線透過性スタンパの中央を中心として直径20mmの位置に図4のような高さ約15μmの小突起を射出成型によりあらかじめ形成しておいた。
【0097】
次に、上記放射線透過性スタンパを高速回転可能なターンテーブル上に固定し、先端の外径が1.08mm、内径が0.72mmのノズルを用いて、常温における粘度が約280cPの紫外線硬化性樹脂原料A(以下、単に「樹脂A」と記載)を、上記放射線透過性スタンパ上の半径16mmの位置に円環状に塗布した。塗布量は約3gであった。数秒後に樹脂Aが自然に放射線透過性スタンパ上の直径20mmの小突起まで十分に到達したところで高速回転を開始し、9100rpmで4秒回転させた後、放射線透過性スタンパ上面の雰囲気を窒素パージしながら70mW/cmの紫外線を1秒間照射し、樹脂Aを硬化させた。このときの樹脂Aの硬化膜の厚みは約10μmであった。
【0098】
次に、この樹脂Aの硬化膜が形成された放射線透過性スタンパとデータ基板とを別個のターンテーブル上に固定した後、間隔3mmで対向させた。この隙間の、放射線硬化性透過性スタンパ及びデータ基板の中心から半径30mmの位置に、両者のターンテーブルを同期して1回転させ、常温における粘度が約380cPの紫外線硬化性樹脂原料B(以下、単に「樹脂B」と記載)を、先端の外径が1.49mm、内径が1.11mmのノズルを用いて約3g塗布した。このとき、データ基板の中心孔と放射線透過性スタンパの中心孔とに、同一の中心軸を貫通させ、両基板の偏心量が30μm以内となるように調整した。
【0099】
その後、データ基板のターンテーブルを固定し、更に両基板の間隔を45μm狭めながら、放射線透過性スタンパのターンテーブルのみを15rpmで180°回転させて捻り、樹脂Bを延伸した。次いで、放射線透過性スタンパのターンテーブルを取り外し、放射線透過性スタンパの中心孔の近傍からディスク中周にかけて、半径7.5mm〜11mmに紫外線を十分透過可能な石英リングを、半径11〜〜28mmに内周錘及び外周錘を接触させて合計荷重80gをかけた。ここで、内周錘及び外周錘は遮光性の材質を用いた。これにより、両基板上の小突起同士を対向させ、その状態で樹脂Bを両基板間に自然延伸させ、その内周側延伸端が小突起に到達した直後に、放射線透過性スタンパの上方から中心孔近傍のみに高圧水銀ランプの紫外線を照射した。ここで、内周錘が遮光マスクとして働き、半径11mm以内の円形領域のみに紫外線照射が可能となった。このとき、内周側への自然延伸に加えて、両基板の中心孔を貫通する中心軸の側面に設けた減圧吸引用の細孔から、樹脂を−12kPaの圧力で減圧吸引することにより、樹脂の内周側延伸端が上記突起に到達するまでの所要時間を短縮することが可能であった。
【0100】
このときの紫外線光量は70mW/cm、照射時間は1秒とした。適切な照射量は、樹脂Bの硬化性および樹脂Aの硬化膜と放射線透過性スタンパの光透過性に依存するが、照射範囲の樹脂Bが完全に硬化する程度の照射量とした。
【0101】
次に上記錘及び石英リングを取り去り、両基板をターンテーブル上に固定し高速回転させて樹脂Bを延伸した。この際、両基板間の中間層の厚さが要求される膜厚、ここでは約25μmの厚さになるように回転数を7800rpmとした。
通常単に回転延伸するのみでは、樹脂原料の厚さは内周で薄く外周で厚くなるため、半径に応じて照射量を変えられるような開口を持つ遮光マスクをとおして紫外線照射をしながら高速回転させ、高速回転中に内周ほど先に順次硬化させてゆくことにより、全面にわたり略均一な膜厚となるようにした。この膜厚調整用紫外線照射は、回転開始とほぼ同時に照射を開始し、回転完了とほぼ同時に照射を完了するように行った。
マスクの形状および紫外線照射強度を樹脂Bの硬化性、樹脂Aの硬化膜の紫外線透過性にあわせて適切に調整することにより、ディスク記録領域全面にわたり中間層の膜厚の変動をmax.−min.で2μm程度に抑えることができた。回転完了までの間に、直径20mmの樹脂Bの硬化膜の内周端から空気が侵入して基板同士が離れてしまったり、樹脂内周端から気泡が侵入したりすることは無かった。
【0102】
高速回転を停止させた後に、放射線透過性スタンパ側からさらに紫外線を基板全面に照射して樹脂Bを完全に硬化させ、放射線透過性スタンパと樹脂Aの硬化膜との間を機械的な力により剥離させた。ポリカーボネートとの剥離性が良好な樹脂材料を樹脂Aとして用い、ポリカーボネートとの密着性が良好な樹脂材料を樹脂Bとして用いることにより、上記両基板を機械的な力により剥離させた際に、放射線透過性スタンパと樹脂Aとの間で剥離させることが可能となった。
このように作製した、データ基板、樹脂B、樹脂Aが順に積層された基板上に、複数回のスパッタ工程により追記型記録膜を積層し、次いで紫外線硬化樹脂Cをスピンコートすることにより約75umの厚さのカバー層を形成した。この際、ディスククランプ部の内周端に相当する直径23mmの部分からカバー層を均一に形成する必要があるが、当該領域における中間層が上述のように略均一に形成されていることにより、樹脂Cを塗布する際に気泡を巻き込むこと無く形成することができた。
【0103】
以上の工程にて作成した光記録媒体のサーボ特性を評価した結果を表1に示す。サーボ特性の評価は、中間層上に形成された第2記録層への記録再生を行う際の、サーボ残渣を評価することにより行った。データの記録再生を行う際には、記録再生用レーザー光の焦点を記録面に追従させるために、光ピックアップの対物レンズを自動的に上下移動させる必要がある。サーボ残渣とは、対物レンズの自動追従の際の移動距離を示す指標であり、光記録媒体に記録再生を行った際に、サーボ残渣が大きくなりすぎると、サーボ不良を起こし、記録再生エラーが発生してしまう。ブルーレイディスクにおけるサーボ残渣の値は、2倍速記録においては45nm以下が好ましく、4倍速記録では80nm以下が好ましいとされている。
【0104】
本発明では、記録再生時の光ピックアップの対物レンズを自動追従させるために必要な駆動電圧からサーボ残渣を算出し、内周から外周にかけて記録再生を行った際の、各半径におけるサーボ残渣の値を、2倍速と4倍速の場合において評価を行った。
表1より、実施例1の場合においては、光記録媒体の全面において、2倍速の場合は45nm未満、4倍速の場合は80nm未満の値が得られており、良好なサーボ特性が得られている。これは、中間層の膜厚の均一性が優れているため、対物レンズが十分追従できていることを示している。
【0105】
(比較例1)
実施例1において、捻りを行わなかったこと以外は同様にして光記録媒体を作製し、サーボ残渣を評価した結果を表2に示す。2倍速では45nm未満の値が得られているものの、4倍速では内周側において80nmを超える値となっている。これは、捻りを行わないことにより、内周側での中間層の膜厚均一性が劣化しているためと考えられる。
【0106】
(比較例2)
実施例1において、内周硬化を行わなかったこと以外は同様にして光記録媒体の作製を試みたが、内周硬化無しでは、第四の工程における高速延伸時に内周から空気が中間層に入り込み、上面の放射線透過性スタンパが剥離してしまい、光記録媒体の作製が困難であった。
【0107】
上記の結果より、本発明の光記録媒体の作製方法を採用することによって、より均一な中間層の形成が可能となり、中間層上の第2記録層の高速記録においても優れたサーボ特性を有する光記録媒体の作製が可能であることがわかる。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【符号の説明】
【0110】
100…光記録媒体
101…第1基板
102…第1記録層
103…第1反射層
104a…紫外線硬化性樹脂原料、樹脂原料層
104…中間層
105…第2記録層
106…第2反射層
107…接着層
108…第2基板
109…レーザー光
110…放射線透過性スタンパ
111…データ基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心孔を有する円板状の基板上に複数の記録層と、複数の前記記録層の間に、放射線硬化性樹脂原料からなる凹凸形状を有する中間層とを有する光記録媒体の製造方法であって、
前記中間層を形成する工程において、
前記放射線硬化性樹脂原料を放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板との間に塗布し、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを重ね合わせる第一の工程と、
前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを、互いに接近する方向に加圧した状態で捻ることにより、前記放射線硬化性樹脂原料を延伸する第二の工程と、
前記基板の中心孔近傍のみに放射線を照射し、前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させる第三の工程と、
前記記録層を有する基板全体に前記放射線硬化性樹脂原料を延伸するために、前記記録層を有する基板及び前記放射線透過性スタンパの回転を行うと同時に、前記基板全体に延伸された前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させ、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを接着する第四の工程とを、
少なくともこの順に有する
ことを特徴とする、光記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記基板及び前記放射線透過性スタンパともに、前記第一の工程において重ね合わせる面側の、クランプ領域より中心孔側に円環状の小突起が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記第二の工程において、捻りの回転数を0.1rpm〜30rpm、捻りの間の押付幅を10μm〜100μm、捻りの回転角度を180°〜360°の範囲とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記第三の工程において、放射線を照射する範囲を前記基板の中心から半径15mm以内の範囲とする
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記第二の工程と前記第三の工程との間に、前記放射線透過性スタンパ及び前記基板の間に50g〜100gの荷重をかけることにより加圧する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記第二の工程と第三の工程との間に、前記放射線透過性スタンパと前記基板の中心孔を固定するための中心軸から前記放射線硬化性樹脂原料を減圧吸引する
ことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記放射線硬化性樹脂原料の粘度が50cPから1000cPの間である
ことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記放射線透過性スタンパの前記小突起と、前記基板の前記小突起との高さの合計を、前記中間層の目標膜厚±15μm以内とし、前記放射線透過性スタンパの前記小突起と前記基板の前記小突起との半径方向の位置ずれを0.5mm以内とする
ことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記中心軸からの吸引圧を、−1kPa〜−20kPaの範囲とする
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか一項に記載の光記録媒体の製造方法。
【請求項10】
中心孔を有する円板状の基板上に複数の記録層と、複数の前記記録層の間に、放射線硬化性樹脂原料からなる凹凸形状を有する中間層とを有する光記録媒体の製造装置であって、前記中間層を形成する工程において用いられ、
前記放射線硬化性樹脂原料を放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板との間に塗布し、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを重ね合わせる第一の手段と、
前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを、互いに接近する方向に加圧した状態で捻ることにより、前記放射線硬化性樹脂原料を延伸する第二の手段と、
前記基板の中心孔近傍のみに放射線を照射し、前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させる第三の手段と、
前記記録層を有する基板全体に前記放射線硬化性樹脂原料を延伸するために、前記記録層を有する基板及び前記放射線透過性スタンパの回転を行うと同時に、前記基板全体に延伸された前記放射線硬化性樹脂原料を硬化させ、前記放射線透過性スタンパと前記記録層を有する基板とを接着する第四の手段とを、
少なくとも有する
ことを特徴とする、光記録媒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−222087(P2011−222087A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90810(P2010−90810)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】