説明

光記録媒体

【課題】ジッター特性に優れ、良好な記録再生特性を有する、極めて高密度の光記録媒体を提供する。
【解決手段】案内溝が形成された基板21と、Agを主成分とする光反射機能を有する層23と、未記録状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する記録層22と、前記記録層22に入射する記録再生光を透過し得るカバー層24とをこの順に備えた光記録媒体20において、前記Agを主成分とする光反射機能を有する層23と前記記録層22との間に、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する中間層30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光記録媒体に関し、より詳しくは、色素を含有する記録層を有する光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超高密度の記録が可能となる青色レーザの開発は急速に進んでおり、それに対応した追記型の光記録媒体の開発が行なわれている。中でも、比較的安価のコストで効率的な生産が可能となる色素塗布型の追記型媒体の開発が強く望まれている。従来の色素塗布型追記型の光記録媒体では、色素を主成分とする有機化合物からなる記録層にレーザ光を照射し、有機化合物の分解・変質による光学的(屈折率・吸収率)変化を主に生じさせることで記録ピットを形成させている。記録ピット部は、光学的変化のみならず、通常は、記録層体積変化による変形、発熱による基板と色素の混合部形成、基板変形(主として基板膨張による盛り上がり)等を伴う(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0003】
記録層に用いられる有機化合物の記録・再生に用いるレーザ波長に対する光学的挙動、分解・昇華及びこれに伴う発熱等の熱的挙動が、良好な記録ピットを形成させるための重要な要素となっている。従って、記録層に用いる有機化合物としては、光学的性質、分解挙動の適切な材料が選択される。
【0004】
そもそも、従来型の追記型媒体、特に、CD−RやDVD−Rでは、Al、Ag、Au等の反射層を基板上にあらかじめ形成した凹状ピットに被覆してなる再生専用の記録媒体(ROM媒体)との再生互換を維持することを目的とし、概ね60%以上の反射率と、同様に、概ね60%を超える高変調度を実現することを目的としている。先ず、未記録状態で高反射率を得るために、記録層の光学的性質が規定される。通常は、未記録状態で屈折率nが約2以上、消衰係数が0.01〜0.3程度の値が要求される(特許文献5、特許文献6参照)。
【0005】
色素を主成分とする記録層では、記録によるかかる光学的性質の変化だけでは、60%以上もの高変調度を得ることが困難である。即ち、屈折率nと吸収率kの変化量が有機物である色素では限りがあるので、平面状態での反射率変化には限りがある。
【0006】
そこで、記録ピット部と未記録部の反射光の位相差による両部分からの反射光の干渉効果を用いて、記録ピット部分での反射率変化(反射率低下)を見かけ上大きくする方法が利用されている。つまり、ROM媒体のような位相差ピットと同様の原理が用いられており、屈折率変化が無機物より小さい有機物記録層の場合、むしろ、位相差による反射率変化を主として用いることが有利であることが報告されている(特許文献7参照)。また、上記の記録原理を総合的に考慮した検討が行なわれている(非特許文献1参照)。
【0007】
以下の記載では、上述のように記録が行なわれた部分(記録マーク部と言われることがある。)を、その物理的な形状によらず、記録ピット、記録ピット部、或いは記録ピット部分と称す。
【0008】
図1は、従来構成の色素を主成分とする記録層を有する追記型媒体(光記録媒体10)を説明する図である。図1に示すように、光記録媒体10は、溝を形成した基板11上に少なくとも記録層12と反射層13、保護コート層14をこの順に形成してなり、対物レンズ18を用いて、基板11を介して記録再生光ビーム17を入射し、記録層12に照射する。基板11の厚みは、1.2mm(CD)又は0.6mm(DVD)が通常用いられる。また、記録ピットは、記録再生光ビーム17が入射する面19から見て近い側で、通常の溝と呼ばれる基板溝部16の部分に形成され、遠い側の基板溝間部15には形成されない。
【0009】
前述した従来技術文献において、位相差変化は、色素を含む記録層12の記録前後の屈折率変化もできる限り大きくする一方で、記録ピット部の形状変化、即ち、溝内に形成された記録ピット部で、局所的に溝形状が変化する(基板11が膨らむ、或いは、陥没することで溝深さが等価的に変化する)、膜厚が変化する(記録層12の膨張、収縮による膜厚の透過的な変化)効果が位相差変化に寄与することも報告されている。
【0010】
上記のような記録原理においては、未記録時の反射率を高め、またレーザの照射によって有機化合物が分解し、大きな屈折率変化が生じるようにするため(これによって大きな変調度が得られる)、通常は、記録再生光波長は大きな吸収帯の長波長側の裾に位置するように選択される。これは、大きな吸収帯の長波長側の裾では、適度な消衰係数を有し、かつ大きな屈折率が得られる波長領域となるためである。
【0011】
しかしながら、青色レーザ波長に対する光学的性質が従来並みの値を有する材料は見出されていない。特に、現在実用化されている青色半導体レーザの発振波長の中心である405nm近傍においては、従来の追記型光記録媒体の記録層に要求される光学定数と同程度の光学定数を有する有機化合物が殆ど存在せず、いまだ探索の段階である。更に、従来の色素記録層を有する追記型光記録媒体では、記録再生光波長近傍に色素の主吸収帯が存在するため、その光学定数の波長依存性が大きくなり(波長によって光学定数が大きく変動する)、レーザの個体差や、環境温度の変化等による記録再生光波長の変動に対し、記録感度や変調度、ジッター(Jitter)やエラ−率等の記録特性や、反射率等が大きく変化するという課題がある。
【0012】
例えば、405nm近傍に吸収を有する色素記録層を用いた記録のアイデアが報告されているが、そこに用いられる色素は、従来と同じ光学特性及び機能が要求されており、ひとえに、高性能な色素の探索発見に依存している(特許文献8、特許文献9参照)。さらに、図1に示すような、従来の色素を主成分とする記録層12を用いた追記型の光記録媒体10では、溝形状及び記録層12の基板溝部16と基板溝間部15の厚みの分布も適正に制御しなければならないこと等が報告されている(特許文献10、特許文献11、特許文献12参照)。
【0013】
即ち、上述のように高反射率の確保の点から、記録再生光波長に対し、比較的小さな消衰係数(0.01〜0.3程度)を持つ色素しか使用することができない。そのため、記録層12において記録に必要な光吸収を得るために、また、記録前後の位相差変化を大きくするために、記録層12の膜厚を薄膜化することが不可能である。その結果、記録層12の膜厚は、通常、λ/(2ns)(ここで、nsは基板11の屈折率を表わす。)程度の厚みが用いられ、記録層12に用いる色素を溝に埋め込み、クロストークを低減するために、深い溝を持った基板11を使用することが望ましい。色素を含む記録層12は、通常スピンコート法(塗布法)によって形成されるため、色素を深い溝に埋めて、溝部の記録層12を厚膜化することは、かえって都合がよい。他方、塗布法では、基板溝部16と基板溝間部15の記録層膜厚に差が生じるが、かかる記録層膜厚の差が生じることは、深い溝を用いても安定したトラッキングサーボ信号が得られるという点で有効である。
【0014】
つまり、図1の基板11表面で規定される溝形状と、記録層12と反射層13との界面で規定される溝形状とは、これら双方を適正な値に保たなければ、記録ピット部での信号特性とトラッキング信号特性の両方を良好に保つことができない。溝の深さは、通常、λ/(2ns)(ここで、λは記録再生光ビーム17の波長を表わし、nsは基板11の屈折率を表わす。)近くとすることが望ましく、CD−Rでは200nm程度、DVD−Rでは150nm程度の範囲としている。このような、深い溝を有する基板11の形成が非常に難しくなり、光記録媒体10の品質を低下させる要因になっている。
【0015】
特に、青色レーザ光を用いる光記録媒体では、λ=405nmとすれば、100nm近い深い溝が求められる一方で、高密度化のためにトラックピッチを0.2μm〜0.4μmとすることが多い。かかる狭トラックピッチで、そのように深い溝を形成することは尚さら困難が伴い、実際上、従来のポリカーボネート樹脂では量産は不可能に近い。即ち、青色レーザ光を用いる媒体の場合、従来構成では量産化が困難となる可能性が高い。
【0016】
更に、上記の従来技術公報に記載された実施例の多くは、図1に示す光記録媒体10に代表される従来の構成(基板入射構成)を用いた例である。しかし、青色レーザを用いた高密度記録を実現するために、いわゆる膜面入射と呼ばれる構成が注目されており、相変化型記録層等の無機材料記録層を用いた構成が報告されている(非特許文献3参照)。膜面入射と呼ばれる構成においては、従来とは逆に、溝を形成された基板上に、少なくとも反射層、記録層、カバー層をこの順に形成してなり、カバー層を介して記録・再生用の集束レーザ光を入射し、記録層に照射する。カバー層の厚みは、いわゆるブルーレイ・ディスク(Blu−Ray)では、100μm程度が通常用いられる(非特許文献9参照)。このような薄いカバー層側から、記録再生光を入射するのは、その集束のための対物レンズに従来のより高開口数(NA(開口数)、通常は0.7〜0.9、ブルーレイ・ディスクでは0.85)を用いるためである。高NA(開口数)の対物レンズを用いた場合、カバー層の厚みによる収差の影響を小さくするために、カバー層の厚みは100μm程度という薄さが求められる。このような青色波長記録、膜面入射層構成をとりあげた例は数多く報告されている(非特許文献4、特許文献13〜特許文献24参照)。また、関連する技術についても多くの報告がある(非特許文献5〜非特許文献8参照、特許文献25〜特許文献43参照)。
【0017】
【非特許文献1】「プロシーディングス・オブ・インターナショナル・シンポジウム・オン・オプチカル・メモリ(Proceedings of International Symposium on Optical Memory)」、(米国)、第4巻、1991年、p.99−108
【非特許文献2】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)第42巻、2003年、p.834−840
【非特許文献3】「プロシーディングス・オブ・エスピーアイイー(Proceedings of SPIE)」、(米国)、第4342巻、2002年、p.168−177
【非特許文献4】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.1056−1058
【非特許文献5】中島平太郎・小川博共著、「コンパクトディスク読本」改訂3版、オ−ム社、平成8年、p.168
【非特許文献6】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.914−918
【非特許文献7】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第39巻、2000年、p.775−778
【非特許文献8】「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、(日本国)、第42巻、2003年、p.912−914
【非特許文献9】「光ディスク解体新書」、日経エレクトロニクス編、日経BP社、2003年、第3章
【非特許文献10】藤原裕之著、「分光エリプソメトリー」、丸善出版社、平成15年、第5章
【非特許文献11】アィフォンス・ブイ・ポシウス(Alphonsus V. Pocius)著、水町浩、小野拡邦訳「接着剤と接着技術入門」、日刊工業新聞社、1999
【特許文献1】特開平2−168446号公報
【特許文献2】特開平2−187939号公報
【特許文献3】特開平3−52142号公報
【特許文献4】特開平3−63943号公報
【特許文献5】特開平2−87339号公報
【特許文献6】特開平2−132656号公報
【特許文献7】特開昭57−501980号公報
【特許文献8】国際公開01/74600号パンフレット
【特許文献9】特開2002−301870号公報
【特許文献10】特開平3−54744号公報
【特許文献11】特開平3−22224号公報
【特許文献12】特開平4−182944号公報
【特許文献13】特開2003−331465号公報
【特許文献14】特開2001−273672号公報
【特許文献15】特開2004−1375号公報
【特許文献16】特開昭59−19253号公報
【特許文献17】特開平8−138245号公報
【特許文献18】特開2004−30864号公報
【特許文献19】特開2001−273672号公報
【特許文献20】特開2002−245678号公報
【特許文献21】特開2001−155383号公報
【特許文献22】特開2003−303442号公報
【特許文献23】特開2002−367219号公報
【特許文献24】特開2003−16689号公報
【特許文献25】特開平5−128589号公報
【特許文献26】特開平5−174380号公報
【特許文献27】特開平6−4901号公報
【特許文献28】特開2000−43423号公報
【特許文献29】特開2001−287466号公報
【特許文献30】特開2003−266954号公報
【特許文献31】特開平9−277703号公報
【特許文献32】特開平10−26692号公報
【特許文献33】特開2000−20772号公報
【特許文献34】特開2001−155383号公報
【特許文献35】特開平11−273147号公報
【特許文献36】特開平11−25523号公報
【特許文献37】特開2003−217173号公報
【特許文献38】特開2004−86932号公報
【特許文献39】特開2004−98542号公報
【特許文献40】特開2004−160742号公報
【特許文献41】特開2003−217177号公報
【特許文献42】国際公開03/003361号パンフレット
【特許文献43】特表2005−504649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、開発の先行する膜面入射型の相変化型媒体では、入射光側から見たカバー層溝部に記録マークを形成する。これは、入射光側から見れば、従来の基板上の基板溝部への記録と同じであり、CD−RW、DVD−RWと殆ど同じ層構成で実現できることを意味し、実際、良好な特性が得られている。他方、色素を主成分とする記録層、特に塗布型の場合、カバー層溝部への記録は容易ではない。通常、基板上のスピンコートでは、基板における溝部に、色素が溜まり易いからである。たとえ基板溝間部に色素が適当な膜厚塗布されたとしても、通常は基板溝部にも相当量の色素が溜まるので、カバー層溝部に形成した記録ピット(記録マーク)がカバー層溝間部にもはみ出し易く、このためクロストークが大きくなるトラックピッチを詰めることができず、高密度化に限度がある。
【0019】
しかし、前述した従来技術文献においては、殆どが従来通り、入射光側からみて近い側のカバー層溝部への記録により反射光強度が低下することを主眼としている。或いは、溝部の段差による反射光の位相の変化を考慮しない単に平面状態で起きる反射率低下に注目している。或いは、位相差を極力使わない平面状態での反射率変化を利用することを前提としている。このような前提条件では、カバー層溝部記録でのクロストークの課題は解決できず、溶液塗布による記録層形成プロセスになじまない。位相変化を有効に活用してカバー層溝間部への良好な記録特性を実現しているとは言えない。特に、マーク長変調記録において、最短マーク長から最長マーク長までの全マーク長に対して、実用的な記録パワーマ−ジンを有し、良好なジッター(Jitter)特性を実現した例はない。
【0020】
このように、いまだ、従来のCD−R、DVD−Rに匹敵する高性能、低コストの色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型追記型光記録媒体は知られていないのが現状である。
【0021】
本発明者等は、色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型媒体について鋭意検討を行なった。その結果、記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とし、この記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度を、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなるようにすれば、良好な記録特性を有する膜面入射型媒体を得ることができることを見出した(このような膜面入射型光記録媒体に関する詳細な説明については、国際公開第WO2006/009107号パンフレット(国際特許出願PCT/JP2005/013145号明細書)を参照)。
そして、上記知見をもとに更に検討を行なった結果、より良好なジッター特性を得るためには、更なる改良が必要であることが分かった。
【0022】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、ジッター特性に優れ、良好な記録再生特性を有する、極めて高密度の光記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型光記録媒体において、Agを主成分とする光反射機能を有する層と記録層との間に中間層を設けることにより、より良好なジッター特性を得ることができることを見出した。
【0024】
即ち、本発明の趣旨は、案内溝が形成された基板と、前記基板上に、Agを主成分とする光反射機能を有する層と、未記録状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する記録層と、前記記録層に入射する記録再生光を透過し得るカバー層とをこの順に備え、前記光反射機能を有する層と前記記録層との間に、中間層が設けられ、前記中間層が、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有することを特徴とする、光記録媒体に存する(請求項1)。
【0025】
また、前記中間層の膜厚が、1nm以上、15nm以下であることが好ましい(請求項2)。
【0026】
また、前記Agを主成分とする光反射機能を有する層の膜厚が、30nm以上、90nm以下であることが好ましい(請求項3)。
【0027】
また、前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなることが好ましい(請求項4)。
【0028】
ここで、前記記録溝部の未記録時における記録層膜厚が、5nm以上、70nm以下であることが好ましい(請求項5)。
【0029】
ここで、前記記録溝部間の未記録時における記録層膜厚が、10nm以下であることが好ましい(請求項6)。
【0030】
また、前記記録再生光の波長λが、350nm以上、450nm以下であることが好ましい(請求項7)。
【0031】
また、前記記録層と前記カバー層との間に、当該記録層の材料と当該カバー層の材料との混合を防止する界面層を設けることが好ましい(請求項8)。
【0032】
ここで、前記界面層の厚みが、1nm以上、50nm以下であることが好ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0033】
かくして本発明によれば、良好なジッター特性を有する、極めて高密度な光記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明について実施の形態を用いて具体的に説明する。但し、本発明は以下に挙げる実施の形態によって何ら限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々変形して実施することが出来る。
【0035】
図2は、本実施の形態が適用される色素を主成分とする記録層を有する膜面入射構成の追記型媒体(光記録媒体20)を説明する図である。
本実施の形態においては、案内溝を形成した基板21上に、少なくともAgを主成分とする反射機能を有する層(反射層23)と、中間層30と、未記録(記録前)状態において記録再生光に対して吸収を有する色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層22、及びカバー層24が順次積層された構造を有し、記録再生を、カバー層24側から対物レンズ28を介して集光された記録再生光ビーム27を入射して行なう。即ち、「膜面入射構成」(Reverse stackともいう)をとる。
【0036】
以下においては、Agを主成分とする反射機能を有する層を単に「反射層23」と呼び、色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層を単に「記録層22」と呼ぶ。前述したように、図1を用いて説明した従来構成を「基板入射構成」と呼ぶ。
膜面入射構成のカバー層24側に記録再生光ビーム27を入射するに当たり、高密度記録のために、通常、NA(開口数)=0.6〜0.9程度の高NA(開口数)の対物レンズが用いられる。
記録再生光波長λは、赤色から青紫色波長(350nm〜600nm程度)がよく用いられる。更に、高密度記録のためには、350nm〜450nmの波長域を用いることが好ましいが、必ずしもこれに限定されない。
【0037】
本実施の形態においては、図2において、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面29)から見て遠い側の案内溝部(記録再生光ビームが入射する面から遠い側の案内溝部)を記録溝部とし、記録溝部に形成した記録ピット部の反射光強度が記録溝部の未記録時の反射光強度より高くなるような記録(「Low to High」記録、以下、LtoH記録、と呼ぶことがある)を行なうことが好ましい。その主たるメカニズムは、反射光強度の増加が前記記録ピット部での反射光の位相変化による。即ち、記録溝部における反射光の往復光路長の記録前後での変化を利用する。
【0038】
ここで、膜面入射型の光記録媒体20では、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面29)から遠い案内溝部(基板21の溝部と一致)をカバー層溝間部(in−groove)25、記録再生光ビーム27が入射する面29から近い案内溝間部(基板21の溝間部と一致)をカバー層溝部(on−groove)26と呼ぶことにする(on−groove、in−grooveの呼称は、非特許文献3による。)。
より具体的には、以下のような工夫をすることにより、本発明に好ましい態様を実現することができる。
【0039】
(1)未記録状態のカバー層溝間部からの反射光とカバー層溝部からの反射光の位相の差Φが、概ねπ/2〜πとなるような深さの溝を形成し、カバー層溝間部(in−groove)での記録層膜厚を該溝深さより薄くなるような薄膜とし、他方、カバー層溝部(on−groove)での膜厚が殆どゼロとなる非常に薄い色素を主成分とする記録層22を設ける。該カバー層溝間部に、カバー層側から記録再生光ビームを照射して、該記録層に変質を生じさせ、主として位相変化による反射光強度の増加による記録ピットを形成する。膜面入射構造において、従来のon−groove、HtoL記録に比べ、塗布型色素媒体の性能が大幅に改善される。また、クロストークの小さな高トラックピッチ密度(例えば、0.2μm〜0.4μm)での記録が可能となる。また、そのような高トラックピッチの溝の形成が容易となる。
【0040】
(2)記録層22として、未記録状態において比較的低屈折率(例えば屈折率が1.3〜1.9)、比較的高消衰係数(例えば、消衰係数が0.3〜1)の主成分色素を利用し、記録により、反射面の記録再生光入射側に屈折率が低下する記録ピット部を形成する。これにより、記録ピット部を通過した記録再生光の光路長が、記録前に比べて短くなる位相変化が起きる。つまり、光学的に記録溝部深さが浅くなるような変化が起きて、反射光強度が増加する。
従来の色素記録層を用いた記録媒体に比べ屈折率が低くてもよく、主吸収帯と記録再生光波長との相対関係に自由度が増し、特に、記録再生光波長400nm近傍での記録に適した色素選択の幅が増える。
【0041】
(3)記録ピット部での屈折率の低下に、記録層22内部もしくはその界面部での空洞形成を利用してもよい。また、記録層22がカバー層24方向に膨らむ変形をあわせて用いるのが好ましく、カバー層24の少なくとも記録層22側には、ガラス転移点が室温以下の粘着剤等からなる柔らかい変形促進層を形成して、前記変形を助長する。これにより、記録により反射光強度が増加するような位相変化の方向が揃う(記録信号波形の歪が無くなる)。かつ、比較的小さな屈折率変化でも位相変化量(記録信号振幅)を大きくできる。更に、記録層の消衰係数の減少及び平面状態で生じる反射率変化による反射光強度の増加も合わせて用いることができる。
【0042】
以上により、案内溝が形成された基板と、前記基板上に、少なくとも、光反射機能を有する層と、中間層と、未記録状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する記録層と、前記記録層に対して記録再生光が入射するカバー層と、をこの順に備え、前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録部の反射光強度より高くなっている光記録媒体が実現できる。すなわち、該記録ピット部から高変調度かつ歪みの無いLtoHの記録信号の極性が得られるという特徴がある。
【0043】
このような記録方式を用いる光記録媒体については、本発明者等が既に、国際公開第WO2006/009107号パンフレットの明細書にて説明した通りであり、ここでは要所を抜粋して以下に説明する。
【0044】
以下においては、記録再生光波長λにおける記録層の未記録状態(記録前)の光学特性を、複素屈折率nd*=nd−i・kdで表わす。ここで、実部ndを屈折率、虚部kdを消衰係数と呼ぶ。記録後における記録ピット部においては、ndがnd’=nd−δndに、kdがkd’=kd−δkdに、それぞれ変化するものとする。
【0045】
更に、以下で用いる反射率と反射光強度という2つの言葉の区別を説明する。反射率とは、平面状態で2種の光学特性の異なる物質間で生じる光の反射において、入射エネルギー光強度に対する、反射エネルギー光強度の割合である。記録層が平面状であっても、光学特性が変化すれば、反射率が変化する。一方、反射光強度は、集束された記録再生光ビームと対物レンズを介して記録媒体面を読んだときに、ディテクター上に戻ってくる光の強度のことである。
【0046】
ROM媒体において、ピット部、未記録部(ピット周辺部)は同一の反射層で覆われているから、反射層の反射率は、ピット部、未記録部で同じである。一方、ピット部で生じる反射光と未記録部の反射光との位相差のために、干渉効果によって、記録ピット部で反射光強度が変化して見える(通常は、低下して見える)のである。このような干渉効果は、記録ピットが局所的に形成され、記録再生光ビーム径内部に、記録ピット部とその周辺の未記録部が含まれている場合に、記録ピット部と周辺部との反射光が位相差によって干渉して起きる。一方、記録ピット部でなんらかの光学的変化を生じる記録可能媒体においては、凹凸がない平面状態であっても記録層それ自体の屈折率変化によって、反射率変化が生じる。これを、本実施の形態においては「平面状態で生じる反射率変化」という。言い換えると、「平面状態で生じる反射率変化」とは、記録層平面全体の屈折率が記録前の屈折率か記録後の屈折率かによって、記録層に生じる反射率の変化のことであり、記録ピットとその周辺部の反射光の干渉を考慮しなくても生じる反射光強度変化である。一方、記録層の光学的変化が局所的ピット部である場合、記録ピット部の反射光の位相と、その周辺部の反射光の位相が異なる場合に、反射光の2次元的干渉が生じて反射光強度が記録ピット周辺部で局所的に変化して見える。
【0047】
このようにして、本実施の形態では、位相の異なる反射光の2次元的干渉を考慮しない反射光強度変化を「平面状態で生じる反射光強度変化」或いは「平面状態の反射光強度変化」とし、記録ピットとその周辺部の位相の異なる反射光の2次元的干渉を考慮した反射光強度変化を「位相差によって生じる(局所的)反射光強度変化」、或いは、「位相差による反射光強度変化」として、両者を区別して考える。
【0048】
一般的に、「位相差による反射光強度変化」によって、十分な反射光強度変化、つまり、記録信号の振幅(或いは、光学的コントラスト)を得ようとすると、記録層22自体の屈折率変化が、非常に大きくなければならない。例えば、CD−RやDVD−Rでは、色素記録層の屈折率の実部が、記録前には2.5〜3.0であり、記録後には1〜1.5程度になることが求められる。また、色素記録層の記録前における複素屈折率の虚部kdは0.1程度より小さいことが、未記録状態でのROM互換の高反射率を得る上で好ましいとされていた。また、記録層22の膜厚が50nm〜100nmと厚めであることが望ましい。その程度の厚みが無いと大部分の光が記録層22内を通過してしまい、十分な反射光強度変化とピット形成に必要な光吸収が起こり得ないからである。このように厚い色素記録層ではピット部での変形による局所的位相変化は、補助的に用いられているに過ぎない。他方、前述のROM媒体では、記録ピット部での局所的屈折率変化はなく、「位相差による反射光強度変化」のみが検出されていると考えられる。良好な記録品質を得るためには、記録ピット分での反射光強度変化が、上記2種類の反射光強度変化が混合して起きる場合、両者が強め合うことが望ましい。2種類の反射光強度変化が強め合うとは、それぞれで生じる反射光強度の変化の方向、つまり、反射光強度が増加するか低下するかが、揃っているということである。
【0049】
上記のような記録層の屈折率低下は、「平面状態の反射光強度変化」において、反射率の低下、惹いては反射光強度の低下をもたらす。従来のCD−R,DVD−Rでは、上記のようにこの屈折率変化は、1以上となり得るので、「平面状態の反射光強度変化」による反射率低下が、記録信号の振幅の相当部分を占める。従って、基本的に記録により反射率は低下する。また、補助的に利用される記録ピット部での「位相差による反射光強度変化」の方向が、反射率低下に寄与するように種々の検討がなされてきたといえる。他方、記録層色素の分解による消衰係数の低下は、反射率増加につながって、信号振幅をむしろ低下させるので、消衰係数の変化を小さくすることが望ましい。更に、記録前反射率をROM媒体並みに高くするには、記録前の記録層の消衰係数を小さくすることが望ましい。よって、消衰係数を通常0.3以下、好ましくは0.2以下程度に小さくすることを意図している。
【0050】
次いで、反射基準面を先ず定義する。反射基準面としては、主反射面となる中間層の記録層側界面(表面)をとる。主反射面とは、再生反射光に寄与する割合が最も高い反射界面をさす。本実施の形態が適用される光記録媒体20を示す図2において、主反射面は記録層22と中間層30との界面にある。なぜなら、本実施の形態が適用される光記録媒体20において対象とする記録層22は、比較的薄く、且つその吸収率が低いために、大部分の光エネルギーは記録層22をただ通過し、記録層22と中間層30との境界に達し得るからである。尚、他にも反射を起こし得る界面があり、再生光の反射光強度は、各界面からの反射光強度と位相の全体の寄与で決まる。本実施の形態が適用される光記録媒体20では、主反射面での反射の寄与が大部分であるため、主反射面で反射する光の強度と位相だけを考慮すればよい。このため、主反射面を反射基準面とするのである。
【0051】
本実施の形態においては、先ず、図2において、カバー層溝間部25へピット(マーク)を形成することが好ましい。それは、主として製造が容易なスピンコート法(塗布法)で形成された記録層22を利用するためである。すなわち、塗布法を利用することで、自然に、カバー層溝間部(基板溝部)25の記録層膜厚がカバー層溝部(基板溝間部)26の記録層膜厚より厚くなるとはいえ、その厚みが「平面状態の反射光強度変化」で、十分な反射光強度変化を得られるほどは厚くなく、主として、「干渉を考慮した反射光強度変化」により、比較的薄い記録層膜厚でかつ記録自体の屈折率変化が小さくてもカバー層溝間部25に形成されたピット部で大きな反射光強度変化(高変調度)が実現できるのである。
【0052】
本実施の形態においては、記録ピット部における反射光の位相の変化により、図2の反射基準面で構成されるカバー層溝間部25とカバー層溝部26の段差が、記録後には記録前より光学的に浅く見えるような変化を生じさせることが好ましい。その際に、トラッキングサーボを安定化させるために、先ず、プッシュプル信号の反転を生じさせず、且つ、記録前の反射光強度に比べて記録後の反射光強度が増加するような位相変化を記録ピットにおいて生じさせる。
【0053】
図2に示す本実施の形態が適用される膜面入射構成の光記録媒体20の層構成を、反射基準面で反射される光の位相に注目して説明するために、図2に示すカバー層溝間部25に記録する場合を例として、図3(a),(b)を用いて表わす。
【0054】
図3(a),(b)は何れも、膜面入射型媒体(光記録媒体20)の層構成とカバー層溝間部25部に記録する場合の反射光の位相差を説明する図である。即ち、図3(a),(b)は、図2の膜面入射構成の光記録媒体20において、膜面入射構成のカバー層24の入射面28側から入射する記録再生光ビーム27の反射光の位相差を説明するための図である。なお、図3(a),(b)において、図2と共通の要素については同一の符号で示している。また、図2で示した要素の一部については、図3(a),(b)では符号を省略している。
【0055】
具体的に、図3(a)は記録前、図3(b)は記録後の記録ピットを含む断面図である。以下において、記録ピットを形成する方の溝ないし溝間部を、「記録溝部」、その間を「記録溝間部」と称する。即ち、本発明の好ましい態様を表わす図3(a),(b)においては、カバー層溝間部25が「記録溝部」であり、カバー層溝部26が「記録溝間部」となる。
【0056】
先ず、記録溝部の反射光と記録溝間部の反射光との位相差を求めるに当たり、位相の基準面をA−A’で定義する。未記録状態を表わす図3(a)においては、A−A’は、記録溝間部における記録層22/カバー層24界面に対応している。一方、記録後状態を表わす図3(b)においては、A−A’は、記録溝間部における記録層22/カバー層24界面に対応している。A−A’面より手前(入射側)では、光路によって光学的な差は生じない。また、図3(a)に示すように、記録前の記録溝部における反射基準面をB−B’、記録前のカバー層24の記録溝部底面(記録層22/カバー層24界面)をC−C’で定義する。
【0057】
記録前の記録溝部での記録層厚みをdG、記録溝間部での厚みをdLとし、反射基準面での記録溝部と記録溝間部の段差をdGL、基板21表面での記録溝間部の段差をdGLSとする。反射層23及び中間層30の記録溝部と記録溝間部での被覆具合によるが、通常は、反射層23及び中間層30は、記録溝部と記録溝間部でほぼ同じ膜厚となり、基板21表面での段差がそのまま反映されるので、dGL=dGLSである。
【0058】
基板21の屈折率をns、カバー層24の屈折率をncとする。記録ピットの形成により、一般的には以下のような変化が生じる。記録ピット部25pにおいて、記録層22の屈折率は、ndからnd’=nd−δndに変化する。また、記録ピット部25pにおいて、記録層22の入射側界面において、記録層22の材料とカバー層24の材料との間に混合が生じ、混合層が形成される。更に、記録層22が体積変化を起こして、反射基準面(記録層22/中間層30界面)の位置が移動する。尚、通常は、有機物である基板21の材料と金属である反射層23の材料との間での混合層形成は無視できる程度である。
なお、以下の記載では、二層間の関係について、その二層の名前を「/」で区切って併記して表わす場合がある。例えば「記録層/中間層界面」とは、記録層と中間層との界面を表わす。
【0059】
そこで、記録層22/カバー層24(図2)間で記録層22の材料とカバー層24の材料との混合が起き、厚さdmixの混合層25mが形成されるものとする。また、混合層25mの屈折率を、nc’=nc−δnc(図3(b))とする。
【0060】
この際、記録層22/カバー層24界面は、C−C’を基準として、記録後はdbmpだけ移動する。なお、dbmpは、図3(b)に示すように、記録層22内部へ移動する方向を正とする。逆に、dbmpが負であれば、記録層22がC−C’面を超えて膨張することを意味する。また、もし、記録層22/カバー層24間に両者の混合を妨げる界面層を設けた場合には、dmix=0となり得る。但し、記録層22の体積変化によりdbmpの変形が生じ得る。色素混合が起きない場合の基板21又はカバー層24のdbmp変形に伴う屈折率変化の影響は、無視できる程度に小さいと考えられる。
【0061】
他方、記録前の反射基準面の位置B−B’を基準とした、記録溝部での反射基準面の移動量をdpitとする。なお、dpitは、図3(b)に示すように、記録層22が収縮する方向(反射基準面が記録層22内部へ移動する方向)を正とする。逆に、dpitが負であれば、記録層22がB−B’面を超えて膨張することを意味する。記録後の記録層22の膜厚dGaは、下記式(1)で表わされる。
Ga=dG−dpit−dbmp 式(1)
尚、dGL、dG、dL、dmix、nd、nc、ns及びdGaは何れも、その定義及び物理的特性から、負の値をとらない。
【0062】
このような記録ピットのモデル化や、以下で述べる位相の見積もりの方法としては、公知の方法を用いた(非特許文献1)。
【0063】
さて、位相の基準面A−A’における記録溝部と記録溝間部の再生光(反射光)の位相差を記録前と記録後で求める。記録前における記録溝部と記録溝間部の反射光の位相差をΦb、記録後、記録ピット部25pと記録溝間部の反射光の位相差をΦaとし、Φで総称する。これらのΦa及びΦbは、何れも、下記式(2)及び式(3)により定義される。
【0064】
Φ=Φb又はΦa
=(記録溝間部の反射光位相)−(記録溝部(記録後はピット部を含む)の位相)
式(2)
【0065】
Φ=Φb又はΦa
=(2π/λ)・2・
{(記録溝間部光路長)−(記録溝部(記録後はピット部を含む)の光路長)}
式(3)
【0066】
ここで、式(3)において係数2が掛かっているのは、往復の光路長を考えるためである。
【0067】
図3(a),(b)においては、下記式(4)及び式(5)が成立する。
Φb=(2π/λ)・2・{nd・dL−〔nd・dG+nc・(dL+dGL−dG)〕}
=(4π/λ)・{(nc−nd)・(dG−dL)−nc・dGL} 式(4)
Φa=(2π/λ)・2・{(nd・dL−〔nc・(dL+dGL−dG+dbmp−dmix
+(nd−δnd)・(dG−dpit−dbmp)+(nc−δnc)・dmix〕}
=Φb+ΔΦ 式(5)
【0068】
但し、ΔΦは、下記式(6)で表わされる。
ΔΦ=(4π/λ){(nd−nc)・dbmp+nd・dpit+δnc・dmix
δnd・(dG−dpit−dbmp)} 式(6)
【0069】
また、記録溝部が入射側から見て記録溝間部より奥にあることから、Φb<0である。
ΔΦは、記録により生じたピット部での位相変化である。
【0070】
ΔΦによって生じる信号の変調度mは、
m∝1−cos(ΔΦ)=sin2(ΔΦ/2) 式(7)
≒(ΔΦ/2)2 (8)
となる。なお、最右辺(8)は、ΔΦが小さい場合の近似である。
【0071】
|ΔΦ|が大きければ変調度は大きくなるが、通常は、記録による位相の変化|ΔΦ|は0からπの間にあり、通常はπ/2程度以下であると考えられる。実際上、従来のCD−R、DVD−Rを始めとする従来の色素系記録層では、そのような大きな位相変化は報告されていない。また、前述のように青色波長域では、色素の一般的特性から、尚さら位相変化は小さくなる傾向にある。一方、|ΔΦ|がπを超える変化は、記録前後でプッシュプルの極性を反転させる可能性、プッシュプル信号の変化が大きくなり過ぎる可能性があり、トラッキングサーボの安定性維持の面から好ましくない場合がある。
【0072】
ここで、図4は、記録溝部と記録溝間部の位相差と反射光強度の関係を説明する図である。図4では、|Φ|と記録前後の記録溝部における反射光強度の関係が示されている。ここでは、簡単のため、記録層22の吸収の影響は無視している。図3(a),(b)の構成では、通常、Φb<0となるので、ΔΦ<0なる場合が、図4の|Φ|が増加する方向である。つまり、図4における横軸に(−1)を乗じたものに相当する。よって、|Φb|が増加して|Φa|となることを示す。
【0073】
平面状態(dGL=0)での記録溝部の反射率をR0とすると、|Φ|が大きくなるにつれ、記録溝部と記録溝間部の反射光の位相差Φbから干渉効果が生じ、反射光強度が低下していく。そして、位相差|Φ|がπ(半波長)と等しくなると、反射光強度は極小値となる。更に、|Φ|がπを超えて増大すると、反射光強度は増加に転じ、|Φ|=2πで極大値をとる。
【0074】
ここで、プッシュプル信号強度は、位相差|Φ|が、π/2の時に最大となり、πのときに極小となって、極性が反転する。以後、再び増加・減少し、2πにおいて極小となって再び極性が逆転する。以上の関係は、位相ピットによるROM媒体における、ピット部の深さ(dGLに相当)と反射率との関係と全く同様である(非特許文献5)。
【0075】
以下に、プッシュプル信号について説明をする。
図5は、記録信号(和信号)とプッシュプル信号(差信号)を検出する4分割ディテクターの構成を説明するための図である。4分割ディテクターは、4つの独立した光検出器からなり、それぞれの出力をIa、Ib、Ic、Idとする。図5の記録溝部及び記録溝間部からの0次回折光及び1次回折光は、4分割ディテクターにて受光され、電気信号に変換される。4分割ディテクターからの信号から、下記式(9)及び式(10)で表わされる演算出力を得る。
【0076】
Isum=(Ia+Ib+Ic+Id) 式(9)
IPP =(Ia+Ib)−(Ic+Id) 式(10)
【0077】
また、図6(a),(b)は、実際に、複数の溝部、溝間部を横断しながら得られる出力信号を低周波通過フィルター(カットオフ周波数30kHz程度)を通過させた後に検出する信号を示す図である。
【0078】
図6(a),(b)において、Isump-pは、Isum信号のpeak−to−peakでの信号振幅であり、IPPp-pは、プッシュプル信号のpeak−to−peakの信号振幅である。プッシュプル信号強度とはIPPp-pのことをいい、プッシュプル信号そのもの(IPP)とは区別される。
【0079】
トラッキングサーボは、図6(b)のプッシュプル信号(IPP)を誤差信号として、フィードバック・サーボを行なう。図6(b)で、例えば、IPP信号の極性が、+から−に変化する0クロス点を、記録溝部中心に対応させ、−から+に変化する0クロス点を、記録溝間部に対応させるとき、プッシュプルの極性が反転するとは、この符号の変化が逆になることである。符合が逆になると、記録溝部にサーボがかかった(即ち、集光ビームスポットが記録溝部に照射される。)つもりが、逆に記録溝間部にサーボがかかるような不都合を起こす。
【0080】
記録溝部にサーボがかかったときのIsum信号が、記録信号であり、本実施の形態では、記録後に増加する変化を示す。
【0081】
ここで、下記式(11)で表わされる演算出力は、規格化プッシュプル信号強度(IPPactual)という。
【0082】
IPPactual=[{(Ia+Ib)(t)−(Ic+Id)(t)}/
{(Ia+Ib)(t)+(Ic+Id)(t)}]p-p
={IPP(tb)/Isum(tb)}−
{IPP(ta)/Isum(ta)} 式(11)
(ここで、taはIPPが最小値となる時間であり、tbはIPPが最大値となる時間である。)
【0083】
実際に光記録再生装置がトラッキングサーボをかけるためのプッシュプル信号は、Isum、IPPの値から計算した信号である規格化プッシュプル信号を使用することが多い。
【0084】
図4に示すような位相差と反射光強度との関係は、上記式(7)からも分かるように、周期的である。記録前後での|Φ|の変化、即ち|ΔΦ|は、色素を記録層の主成分とする光記録媒体では、通常、(π/2)程度より小さい。逆に、本実施の形態では、記録による|Φ|の変化は、最大でもπ以下であるとする。そのために、必要なら、記録層膜厚を適宜薄くすればよい。
【0085】
ここで、位相基準面A−A’からみて、記録ピット部25pの形成により記録溝部の反射光の位相(或いは光路長)が記録前より小さくなった場合(記録前より位相が遅れた場合)、即ち、ΔΦ>0である場合、入射側から見て反射基準面の光学的距離(光路長)は減少し、光源に(或いは、位相の基準面A−A’に)近寄ったことになる。従って、図3(a),(b)においては、記録溝部の反射基準面が上方に移動する(dGLが減少する)のと同等の効果があり、結果として、記録ピット部25pの反射光強度は増加する。
【0086】
一方、位相基準面A−A’からみて、記録ピット部25pの反射光の位相(或いは光路長)が記録前より大きくなった場合(記録前より位相が遅れた場合)、すなわち、ΔΦ<0である場合、入射側から見て反射基準面の光学的距離(光路長)は増加し、光源(或いは、位相基準面A−A’)から遠ざかったことになる。図3(a),(b)においては、記録溝部の反射基準面が下方に移動する(dGLが増加する)のと同等の効果があり、結果として、記録ピット部25pの反射光強度は減少する。ここで、記録ピット部の反射光強度が記録後に減少するか増加するかという、反射光強度の変化の方向を記録(信号)の極性という。
【0087】
従って、記録ピット部25pでΔΦ>0となる位相変化が起きるならば、図3(a),(b)の記録溝部においては、記録により反射光強度が増加する「Low to High」となる極性を利用することが好ましい。他方、ΔΦ<0となる位相変化が起きるならば、図3(a),(b)の記録溝部においてはHtoLとなる極性を利用することが好ましい。
【0088】
(位相変化ΔΦの符号と記録極性の好ましい態様について)
さて、記録ピット部25pでは、光学的に記録層22の屈折率変化或いは変形による位相の変化(即ち、位相差を考慮した反射光強度の変化に寄与する。)と、屈折率変化による平面状態での反射光強度の変化(即ち、位相差を考慮しない反射光強度の変化)が、同時に起こりうるが、これらの変化の方向が揃っていることが好ましい。つまり、記録信号の極性が、記録パワーや記録ピットの長さ、大きさに寄らず一定であるためには、個々の反射光強度変化が揃っていることが好ましい。
【0089】
ここで、記録層内、或いは、その隣接する界面に空洞が出来易い場合を考えると、空洞内はnd’=1と考えられ、屈折率が低下するとみなすこと等を総合的に勘案すると、図3(a),(b)の記録媒体においては、ΔΦ>0となる位相変化、即ちLtoHとなる極性が好ましい。
また、各位相変化の方向を合わせるためには、各位相変化を制御し易くすることが好ましい。
【0090】
例えば、記録層入射側界面に界面層を設ける等して、dmix=0とすることも好ましい。dmixによる位相差変化は、あまり大きくできないので積極的に利用し難いだけでなく、その厚みの制御が難しいからである。よって、記録層入射側界面に界面層を設けるなどして、dmix=0とすることが好ましい。
【0091】
変形に関しては、一箇所に集中し、且つ、一方向に限定されることが好ましい。複数の変形部位よりも、一箇所の変形部位をより正確に制御する方が、良好な信号品質が得られ易いからである。
【0092】
ここで、ΔΦ>0なる位相変化とプッシュプル信号の関係について考察しておく。
従来のCD−RやDVD−Rの類推からカバー層溝部26に対するHtoL記録を行なう場合、プッシュプル信号極性が反転しないようにするには、往復の光路長が1波長より大きくなるような深い溝段差(「深溝」と称する)にするか、かろうじてプッシュプル信号が出るような溝段差(「浅溝」と称する)にするか、に限られる。深溝の場合、図4の矢印αの方向の位相変化を利用し、光学的に溝が深くなるようにする。この場合、矢印の始点となる溝深さは、400nm前後の青色波長では100nm程度であることが望ましい。前述のように、狭トラックピッチでは成形時に不良転写が起き易く、量産に困難を伴う。また、たとえ所望の溝形状が得られても、溝壁の微小な表面粗さによるノイズが信号に混入し易い。更に、溝の底部や側面の壁に反射層23を均等に形成するのが困難である。反射層23自体の溝壁への密着性も悪く、剥離等の劣化が起こり易い。このように、「深溝」を用いた従来の方式でΔΦ>0なる位相変化を利用して、HtoL記録を行なおうとすると、トラックピッチを詰めるのに困難が伴う。
【0093】
一方、浅溝の場合は、図4の|Φ|=0〜πの間の斜面で矢印βの方向の位相変化を使用し、光学的に溝が深くなるようにすることで、HtoL記録となる。未記録状態である程度のプッシュプル信号強度を得ようとすれば、溝深さは、青色波長では、20nm〜30nm程度となる。このような状態で記録層22を形成した場合、平面状態と同じく、記録溝部(この場合、カバー層溝部26)にも溝間部にも同等に記録層膜厚が形成され易く、記録ピットが記録溝部からはみ出し易いし、記録ピットからの回折光が隣接記録溝に漏れ込んで、クロストークが非常に大きくなってしまう。同様に、従来方式でΔΦ>0なる位相変化を利用して、HtoL記録を行なおうとすると、トラックピッチを詰めるのに困難が伴うのである。
【0094】
本発明者等は、これらの課題を克服すべく、膜面入射型色素媒体、特に塗布型記録層を有する媒体について検討を行なった。その結果、膜面入射型色素媒体に好ましい構成は、従来の、「深溝」を用いたHtoL記録ではなく、図4において、矢印γの方向の位相変化、すなわち、後述の「中間溝」を用いたLtoHなる記録極性の信号を得るものであることを見出したのである。即ち、記録再生をカバー層24側から記録再生光を入射して行なう光記録媒体20であって、記録再生光ビーム27がカバー層24に入射する面(記録再生光ビーム27が入射する面29)から遠い側の案内溝部を記録溝部するとき、記録溝部に形成した記録ピット部の反射光強度が記録溝部の未記録時の反射光強度より高くなるような光記録媒体である。従来、色素を記録層に用いた追記型媒体は、記録後にROM媒体と同等の記録信号が得られるのが特徴であるが、そのためには、記録後に、再生互換性が確保できればよいのであって、記録前にROM媒体同様の高反射光強度を保持する必要はなく、記録後のHレベルの反射光強度が、ROM媒体で規定される反射光強度(ROM媒体では単に反射率と呼ぶことが多い)の範囲内であればよい。LtoH記録は決して、ROM媒体との再生互換性を維持することと矛盾しないのである。
【0095】
尚、本実施の形態において重要なことは、上述した記録層屈折率の低下、空洞の形成等によるピット部での屈折率低下、並びに、記録層22内部もしくはその界面での変形が、何れも、主反射面である反射層23の記録再生光入射側で起きているということである。記録ピット部において、中間層/記録層、及び、反射層/基板界面の何れにも変形及び混合が生じていないことが、記録信号極性を支配する要素を簡素化でき、記録信号波形へのひずみを抑制できるので好ましい。
【0096】
図2及び図3(a),(b)に示すような膜面入射構成で、記録再生光ビーム27の入射する面29から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、従来構成と同じ位相変化による記録原理を適用しようとすれば、ΔΦ>0となるような位相変化を利用してLtoH記録を行ない得る。
【0097】
そのためには、先ず、前記記録ピット部25pでの位相変化が、前記反射層23の入射光側におけるndより低い屈折率部の形成によるものであることが望ましい。そして、記録前において、各種サーボの安定性を維持するために、少なくとも3%〜30%の反射率を維持することが好ましい。
【0098】
ここでいう未記録状態の記録溝部反射率(Rg)は、反射率既知(Rref)の反射層のみを、図2に示す光記録媒体20と同様な構成で成膜し、集束光ビームを記録溝部に焦点が合うように照射して得られた反射光強度をIref、図2に示す光記録媒体20において同様に、集束光ビームを記録溝部に照射して得られた反射光強度をIsとするとき、Rg=Rref・(Is/Iref)として得られたものである。同様に、記録後において、記録信号振幅の、記録ピット間(スペース部)の低反射光強度ILに対応する記録溝部反射率をRL、記録ピット(マーク部)の高反射光強度IHに対応する記録溝部反射率をRHと呼ぶ。
【0099】
以下では、慣用に従って、記録溝部の反射光強度変化を定量化する際には、この、記録溝部反射率を用いて表わす。
本実施の形態では、記録による位相変化を利用するため、記録層22自体の透明性を高くすることが好ましい。記録層22を単独で透明なポリカーボネート樹脂基板に形成した場合の透過率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。透過率が高過ぎると十分記録光エネルギーが吸収できないから、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。
【0100】
一方、このような高透過率が維持されていることは、図2の構成のディスク(未記録状態)において、平坦部(鏡面部)で平面状態の反射率R0を測定し、その反射率が、記録層膜厚をゼロとした他は同一構成を有するディスクの平面状態での反射率を基準とした相対値で通常40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上あることで概ね確認できる。
【0101】
(記録溝深さdGL、並びに、記録溝部の記録層厚みdGと記録溝間部の記録層厚みdLの好ましい態様について)
ΔΦ>0なる位相変化を利用し、カバー層溝間部25にLtoH記録する場合、光学的にピット部で溝深さが変化するので、溝深さに強く依存するプッシュプル信号が、記録前後で変化し易くなる。特に課題になるのは、プッシュプル信号の極性が反転するような位相変化である。
【0102】
LtoH記録を行なって、且つ、プッシュプル信号の極性変化を起こさないためには、図4において、0<|Φb|、|Φa|<πなる斜面で矢印γの方向の位相変化により、光学的な溝が浅くなる現象を利用することが好ましい。つまり、図3(a),(b)において、位相差基準面A−A’からみて、記録溝部の反射基準面までの光路長が小さくなるような変化が記録ピット部25pで起きるようにする。
【0103】
また、プッシュプルの信号強度の記録前後の値を考慮し、溝の最適な深さを考えると、記録再生光波長λ=350〜450nmの青色波長とした場合、溝深さdGLは、通常30nm以上、好ましくは35nm以上とする。一方、溝深さdGLは、通常70nm以下、好ましくは65nm以下、より好ましくは60nm以下とする。このような深さの溝を「中間溝」と呼ぶこととする。上述の「深溝」を用いる場合に比べ、溝形成及びカバー層溝間部25への反射層の被覆が格段に容易になるという利点を有する。
【0104】
つまり、本実施の形態が適用される光記録媒体20では、記録層22を塗布によって形成し、(溝の深さ)>(記録溝部記録層膜厚)>(記録溝間上の記録層膜厚)となるようにするのが好ましい。
【0105】
溝の深さが30〜70nmである場合には、記録溝部の記録層膜厚は、5nm以上とすることが好ましく、10nm以上とすることがより好ましい。これは、記録溝部の記録層膜厚を5nm以上とすることによって、位相変化を大きくでき、記録ピット形成に必要な光エネルギーの吸収が可能となるからである。一方、記録溝部の記録層膜厚は、50nm未満とすることが好ましく、45nm以下とすることがより好ましく、40nm以下とすることが更に好ましい。位相変化を主として用い、屈折率変化による「平面状態での反射率変化」の影響を小さくするためにも、記録層22はこのように薄いことが望ましい。従来のCD−RやDVD−Rのように、未記録での屈折率が2.5〜3である高屈折率の色素主成分の記録層では、記録によってndが減少した場合、「平面状態の反射率」低下を招くことがある。位相差変化によってLtoH記録をする場合には逆の極性となり易い。
【0106】
更に、記録層22が薄い方が、記録ピット部での変形が大きくなり過ぎたり、記録溝間部へはみ出したりすることを抑制できる。
【0107】
カバー層溝間部に記録ピットを形成する本発明において、前述のような「中間溝」深さを用いること、及び、基板溝間部での記録層厚みは0に近くして、記録層22を薄くして「中間溝」深さの記録溝内に閉じ込めることは、後述のように記録ピット部での空洞形成及びカバー層方向への膨れ変形を積極的に用いる場合には、なおさら好ましいこととなる。この点においても、本発明は、カバー層溝部に記録を行ない、空洞を形成してHtoL記録を行なう場合より、クロストークを抑制する効果に優れている。
【0108】
かくして、記録ピットは、記録溝内にほぼ完全に閉じ込められ、且つ、図3(a),(b)における記録ピット部25pの回折光の隣接記録溝への漏れこみ(クロストーク)も非常に小さくできるという利点が得られる。つまり、カバー層溝間部25への記録でLtoH記録を志向することは、単にΔΦ>0なる位相変化とカバー層溝間部25へ記録との有利な組み合わせとなるだけではなく、狭トラックピッチ化による高密度記録により適した構成が得られ易くなるのである。
【0109】
(記録層屈折率、nd、nc、δnd、及び、変形量のdbmpの好ましい態様について)
記録層の記録前後の屈折率、カバー層の屈折率の大小関係、及び記録層22、カバー層24付近での変形の方向の組み合わせを特定の関係に保つことが、マーク長によって、記録信号極性(HtoLかLtoH)が逆転したり、混合したりする(微分波形が得られる)現象を防ぐ上で有効である。
【0110】
例えば、LtoHとなるよう位相差をあわせた変形を促進するためには、記録層22の熱変質に熱膨張、分解、昇華による体積膨張圧力が生じることが望ましい。また、記録層22とカバー層24の界面に界面層を設けて、前記圧力を閉じ込めて、他の層にリークしないようにすることが好ましい。界面層は、ガスバリア性が高く、カバー層24よりも変形し易いことが望ましい。特に、昇華性の強い色素を主成分として用いると、記録層22部分に局所的に体積膨張圧力が生じ易い。また、この際、同時に空洞を形成し易く、色素主成分の記録層単体の屈折率変化が小さくても、空洞形成(内部のnd’は1とみなし得る。)による効果が加わって、記録層22の屈折率変化みなし分を大きくできるので好ましい。つまり、記録層22の内部或いはその隣接する層との界面に空洞が形成されるのが、位相のあった屈折率を大きくするために好ましく、且つ、空洞内の圧力によって生じる記録層22のカバー層24側への膨れは、ΔΦ>0なる変化を最も効率よく生じ得ると考えられ最も好ましい。
【0111】
(具体的な層構成及び材料の好ましい態様について)
以下において、図2及び図3(a),(b)で示す層構成の具体的材料・態様について、青色波長レーザの開発が進んでいる状況を考慮して、特に、記録再生光ビーム27の波長λが405nm近傍の場合を想定して説明する。
【0112】
(基板)
基板21は、膜面入射構成では、適度な加工性と剛性を有するプラスチック、金属、ガラス等を用いることができる。従来の基板入射構成と異なり、透明性や複屈折に対する制限はない。表面に案内溝を形成するのであるが、金属やガラスを用いる場合には、表面に光や熱硬化性の薄い樹脂層を設け、そこに溝を形成することになる。この点、プラスチック材料を用い、射出成型によって、基板21の形状(特に円板状)と表面の案内溝とを一挙に形成する方が、製造上は好ましい。
【0113】
射出成型できるプラスチック材料としては、従来CDやDVDで用いられたポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。基板21の厚みとしては0.5mm〜1.2mm程度とするのが好ましい。基板厚とカバー層厚を合わせて、従来のCDやDVDと同じ1.2mmとすることが好ましい。従来のCDやDVDで使われるケ−ス等をそのまま用いることができるからである。基板厚を1.1mm、カバー層厚みを0.1mmとすることが、ブルーレイ・ディスクでは規定されている(非特許文献9)。
【0114】
基板21にはトラッキング用の案内溝が形成されている。本実施の形態では、カバー層溝間部25が記録溝部となるトラックピッチは、CD−R、DVD−Rより高密度化を達成するためには、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、また、通常0.6μm以下、好ましくは0.4μm以下とするのが望ましい。溝深さは、前述のように、記録再生光波長λ、dGL、dG、dL等に依存するが、概ね30nm〜70nmの範囲にあることが好ましい。溝深さは、前記範囲内で、未記録状態の記録溝部反射率Rg、記録信号の信号特性、プッシュプル信号特性、記録層の光学特性等を考慮して適宜最適化される。例えば、記録層の光学特性の変化に対して、同等のRgを得るためには、nd、kdが大きな場合は、溝深さを相対的に浅くし、nd、kdが小さな場合は、相対的に深くするのが好ましい。また、同じ溝深さであっても、ndが約1.5以上であれば、kdを約0.5以下とする、逆に、kdが約0.5以上であれば、ndが約1.5以下となるような値の記録層を選べば、Rgを10%以上に保つことができる。
【0115】
本実施の形態では、記録溝部と記録溝間部とにおけるそれぞれの反射光の位相差による干渉を利用しているから、両方が集束光スポット内に存在することが求められる。このため、記録溝幅(カバー層溝間部25の幅)は、記録再生光ビーム27の記録層22面におけるスポット径(溝横断方向の直径)より小さくするのが好ましい。記録再生光波長λ=405nm、NA(開口数)=0.85の光学系で、トラックピッチを0.32μmとする場合、0.1μm〜0.2μmの範囲とするのが好ましい。これらの範囲外では、溝又は溝間部の形成が困難となる場合が多い。
【0116】
案内溝の形状は、通常は矩形となる。特に、後述の塗布による記録層形成時に、色素を含む溶液の溶剤が殆ど蒸発するまでの数十秒間に、基板溝部上に、色素が選択的に溜まることが望ましい。このため、矩形溝の基板溝間の肩を丸くして色素溶液が、基板溝部に落下して溜まり易くすることも好ましい。このような丸い肩を有する溝形状は、プラスチック基板若しくはスタンパの表面を、プラズマやUVオゾン等に数秒から数分さらしてエッチングすることで得られる。プラズマによるエッチングでは、基板の溝部の肩(溝間部のエッジ)のようなとがった部分が選択的に削られる性質があるので、丸まった溝部の肩の形状を得るのに適している。
【0117】
案内溝は、通常は、アドレスや同期信号等の付加情報を付与するために、溝蛇行、溝深さ変調等の溝形状の変調、記録溝部或いは記録溝間部の断続による凹凸ピット等による付加信号を有する。例えば、ブルーレイ・ディスクでは、MSK(minimum−shift−keying)とSTW(saw−tooth−wobbles)という2変調方式を用いたウォブル・アドレス方式が用いられている(非特許文献9)。
【0118】
(Agを主成分とする光反射機能を有する層)
Agを主成分とする光反射機能を有する層(反射層23)には、記録再生光波長に対する反射率が高く、記録再生光波長に対して70%以上の反射率を有するものが好ましい。一般に、記録再生用波長として用いられる可視光で高反射率を示すものとして、Au、Ag、Al及びこれらを主成分とする合金が挙げられる。本発明においては、この中でも、λ=350〜450nmでの反射率が高く、吸収が小さいAgを主成分とする合金を採用する。ここで、「Agを主成分とする」とは、反射層におけるAgの含有量が50原子%以上であることを意味し、好ましくは80原子%以上、より好ましくは90原子%以上、特に好ましくは95原子%以上である。Agを主成分として、Au、Cu、希土類元素(特に、Nd)、Nb、Ta、V、Mo、Mn、Mg、Cr、Bi、Al、Si、Ge等を0.01原子%〜10原子%加えることで、水分、酸素、硫黄等に対する耐食性が高めることができ好ましい。この他に、誘電体層を複数積層した誘電体ミラーを用いることも可能である。
【0119】
反射層23の膜厚は、基板21表面の溝段差を保持するために、dGLと同等程度かそれより薄いことが好ましい。同様に、記録再生光波長λ=405nmとする場合、前述のように、dGLを70nm以下とするのが好ましいから、反射層の膜厚は、90nm以下が好ましく、より好ましくは70nm以下とする。2層媒体を形成する場合を除いて、反射層膜厚の下限は、30nm以上が好ましく、より好ましくは40nm以上とする。反射層23の表面粗さRaは、5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。Agは添加物の使用によって平坦性が増す性質があり、この意味でも、上記の添加元素の使用量を、通常0.1原子%以上、好ましくは0.5原子%以上とするのが望ましい。反射層23は、スパッタリング法、イオンプレーティング法や、電子ビーム蒸着法などで形成することができる。
【0120】
(中間層)
反射層23と記録層22との間には、中間層30が設けられる。中間層30を設けることにより、ジッター特性の向上を図ることができる。
中間層30は、ジッター特性を向上させる観点から、通常、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる元素を含有する。中でも、Ta、Nb、Mo及びVのうち何れかを含有することが好ましく、Ta及びNbのうち何れかを含有することが好ましい。なお、中間層30は、これらの元素のうち何れか一種のみを単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよい。上記元素は、広く反射層として使用される銀又は銀合金との反応性及び固溶度が低いことから、これらの元素を中間層30として使用すれば、保存安定性の優れた光記録媒体を得ることが可能となる。
【0121】
中間層30は、上記元素を主成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において「主成分」とは、中間層30を構成する元素のうち、上記元素が50原子%以上含有されるようにすることを意味する。中でも、上記元素は、70原子%以上含有されることが好ましく、90原子%以上含有されることがより好ましく、95原子%以上含有されることが更に好ましく、99原子%以上含有されることが特に好ましい。理想的には、上記元素が100原子%含有されることである。なお、中間層30が上記元素を二種以上含有している場合には、その合計割合が上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0122】
中間層30を設けることによって、ジッターが改善される効果が得られるメカニズムは明らかではない。しかしながら、本発明者等の検討によれば、反射層23の材料として使用されるAgを主成分とする合金と比較して硬度が高い元素で中間層30を構成すること、及び/又は、記録再生波長における光吸収が大きい元素を中間層30として使用することにより、ジッターが改善される傾向となることがわかった。他方、当該中間層材料からなる層を反射層23と基板21との間に設けた場合は、顕著なジッター低減効果は得られなかった。このことから、本発明の中間層30の効果は、硬度によって基板側の変形を抑制する機能のみならず、反射層と記録層との間の変形・反応を抑制する機能による好ましくない付随的変形を抑制する効果を持つものと推察される。更には、本発明の中間層30が適度な光吸収機能を有することにより、記録層の反射層側での発熱を促し、記録層の分解等を促進する効果があいまって、良好なジッターが得られるものと推察される。なお、硬度と光吸収効果だけであれば、他の金属を選択する余地もあるが、特に、本発明で用いる中間層30の材料は、光吸収が大きく高硬度であるだけでなく、Ag合金と接して形成した場合でも、Ag合金と相互に拡散しにくく安定である(主成分であるAgとの固相での溶解度が低く、固溶体を形成しにくい)という特徴も加味して選ばれた。
このため、特に上記元素を用いて中間層30を形成することにより、上記条件が満たされ易くなるのではないかと推測される。
【0123】
なお、中間層30には、所望の特性を付与するために、添加元素或いは不純物元素として、上記元素以外の元素を含有させてもよい。このような添加元素或いは不純物元素の例としては、Mg、Si、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Pd、Hf、Pt等が挙げられる。これらの添加元素或いは不純物元素は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。これらの添加元素或いは不純物元素の中間層30における含有濃度の上限は、通常5原子%以下程度である。
【0124】
中間層30の膜厚は、少なくとも膜として形成されればその効果を発揮することが可能であるが、その膜厚の下限は通常1nm以上である。一方、中間層30の膜厚は、厚くなり過ぎると中間層の光吸収が大きくなり、記録感度低下と反射率低下を引き起こすため、通常15nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下とする。上記の膜厚範囲内とすれば、ジッター改善効果と適正な反射率及び記録感度を同時に得ることが出来る。
【0125】
中間層30は、スパッタリング法、イオンプレーティング法や、電子ビーム蒸着法などで形成することができる。
【0126】
(色素を主成分とする記録層)
記録層22は、未記録(記録前)状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する。記録層22に主成分として含有される色素は、具体的には、300nm〜800nmの可視光(及びその近傍)波長領域に、その構造に起因した顕著な吸収帯を有する有機化合物であるのが好ましい。このような色素を記録層22として形成した未記録(記録前)の状態において記録再生光ビーム27の波長λに吸収を有し、記録により変質して記録層22に再生光の反射光強度の変化として検出されうる光学的変化を起こす色素を、「主成分色素」と呼ぶ。主成分色素は、複数の色素の混合物として、上記の機能を発揮するものであってもよい。
【0127】
主成分色素含有量は、重量%にして50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。主成分色素は単独の色素が記録再生光ビーム27の波長λに対して吸収があり、記録によって変質して上記光学的変化を生じることが好ましいが、記録再生光ビーム27の波長λに対する吸収を有し、発熱することで、間接的に他方の色素を変質させ光学的変化を起こさせるように機能分担されていてもよい。主成分色素にはこの他、光吸収機能を有する色素の経時安定性(温度、湿度、光に対する安定性)を改善するためのいわゆるクエンチャーとしての色素が混合されていてもよい。主成分色素以外の含有物としては、低・高分子材料からなる結合剤(バインダー)、誘電体等が挙げられる。
【0128】
主成分色素は、特に、構造によって限定されるものではない。本実施の形態においては、記録により、記録層22内にδnd>0なる変化を生じるものであり、未記録(記録前)状態での消衰係数kd>0である限り、原則として光学的特性に対する強い制約はない。主成分色素が記録再生光ビーム27の波長λに対する吸収を有し、且つ、自らの吸光、発熱によって、変質を起こし、屈折率の低下、δnd>0、を生じればよい。ここで、変質とは、具体的には、主成分色素の吸収・発熱による膨張、分解、昇華、溶融等の現象をいう。主成分となる色素そのものが変質して、なんらかの構造変化を伴い、屈折率が低下してもよい。また、δnd>0なる変化は記録層22内及び/又は界面に空洞が形成されてもよいし、記録層22の熱膨張による屈折率低下であってもよい。
【0129】
このような変質を示す温度としては、通常100℃以上、また、通常500℃以下、好ましくは350℃以下の範囲にあることがより望ましい。保存安定性、耐再生光劣化の観点からは、150℃以上であることが更に好ましい。また、分解温度が300℃以下であれば、特に10m/s以上の高線速度でのジッター特性が良好になる傾向があり好ましい。分解温度が280℃以下であることが、更に高速記録での特性を良好にする可能性があるので、好ましい。通常は、以上で述べた変質挙動は、主成分色素の熱特性として測定され、熱重量分析−示差熱分析(TG−DTA)法によって、重量減少開始温度として大まかな挙動を測定できる。前述のようにdbmp<0、即ち、記録層22がカバー層24に向かって膨らむような変形が同時に起きること、がΔΦ>0なる位相変化を利用する上でより好ましい。従って、昇華性があるか、分解物の揮発性が高く、記録層22内部に膨張のための圧力を生じ得るものが好ましい。
【0130】
記録層22の膜厚は、通常70nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは50nm未満、更に好ましくは40nm以下である。他方、記録層膜厚の下限は、5nm以上であり、10nm以上とすることが好ましい。
【0131】
記録層における主成分の色素としては、メチン系、(含金)アゾ系、ピロン系、ポルフィリン系化合物若しくはこれらの混合物等が挙げられる。より具体的には、含金アゾ系色素(特開平9−277703号公報、特開平10−026692号公報等)、ピロン系色素(特開2003−266954号公報)は、本来、耐光性に優れ、且つ、TG−DTAでの重量減少開始温度Tdが、150℃〜400℃にあり、急峻な減量特性(分解物の揮発性が高く、空洞を形成し易い)を有する点で好ましい。特に好ましいのは、nd=1.2〜1.9、kd=0.3〜1、Td=150℃〜300℃である色素である。中でも、これらの特性を満足する含金属アゾ系色素が好ましい。
【0132】
アゾ系色素としては、より具体的には、6−ヒドロキシ−2−ピリドン構造からなるカップラー成分と、イソキサゾールトリアゾール、ピラゾールから選ばれる何れか1種のジアゾ成分とを有する化合物と、該有機色素化合物が配位する金属イオンとから構成される金属錯体化合物が挙げられる。特に、下記一般式[I]〜[III]で表わされる構造の含金属ピリドンアゾ化合物が好ましい。
【0133】
【化1】

(式中、R1〜R10は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の官能基を表わす。)
【0134】
また、下記一般式[IV]又は[V]で示される環状β−ジケトンアゾ化合物と金属イオンからなる含金属環状β−ジケトンアゾ化合物が好ましい。
【0135】
【化2】

(式中、
環Aは、炭素原子及び窒素原子とともに形成される含窒素複素芳香環を表わし、
X、X’、Y、Y’、Zは、各々独立に、水素原子以外に置換基(スピロ含む)を有していてもよい炭素原子、酸素原子、硫黄原子、N−R11で表わされる窒素原子、C=O、C=S、又は、C=NR12を表わし、βジケトン構造と共に5員環又は6員環構造を形成する。
11は、水素原子、直鎖又は分岐のアルキル基、環状アルキル基、アラルキル基、アリール基、複素環基、−COR13で表わされるアシル基、又は、−NR1415で表わされるアミノ基を表わし、
12は、水素原子、直鎖又は分岐のアルキル基、又は、アリール基を表わす。
13は、炭化水基、又は、複素環基を表わし、
14、R15は、各々独立に、水素原子、炭化水素基又は複素環基を表わす。
なお、上述の各基は、必要に応じて置換されてもよい。
また、X、X’、Y、Y’、Zが、各々独立に、炭素原子又はN−R11で表される窒素原子の場合、隣接する両者の結合は、単結合であっても二重結合であってもよい。
更に、X、X’、Y、Y’、Zが、各々独立に、炭素原子、N−R11で表される窒素原子、又は、C=NR12の場合、隣接するもの同士で互いに縮合して、飽和又は不飽和の炭化水素環或いは複素環を形成してもよい。)
【0136】
また、下記一般式[VI]で示される化合物と金属からなる含金属アゾ系色素もまた好ましい。
【0137】
【化3】

(式中、
Aは、これが結合している炭素原子及び窒素原子とともに複素芳香環を形成する残基を表わし、
Xは、活性水素を有する基を表わし、
16及びR17は、各々独立に、水素原子、又は、任意の置換基を表わす。)
【0138】
更に、下記一般式[VII]で表される含金属アゾ系色素も挙げられる。
【0139】
【化4】

(式[VII]中、
環Aは、炭素原子及び窒素原子とともに形成される含窒素複素芳香環を表わし、
XLは、Lが脱離することによりXが陰イオンとなり金属が配位可能となる置換基を表わし、
18、R19は、それぞれ独立に、水素原子、直鎖又は分岐のアルキル基、環状アルキル基、アラルキル基又はアルケニル基を表わし、これらは各々隣接する置換基同士又は互いに縮合環を形成してもよい。
20、R21、R22は、各々独立に、水素原子、又は、任意の置換基を表わす。)
【0140】
これらのアゾ系色素は、従来CD−RやDVD−Rで用いられたアゾ系色素より、更に、短波長よりの主吸収帯を有しており、400nm近傍での消衰係数kdが、0.3〜1程度の大きな値となるので好ましい。金属イオンとしては、Ni、Co、Cu、Zn、Fe、Mnの2価の金属イオンが挙げられるが、特に、Ni、Coを含有する場合が、耐光性、耐高温高湿環境性に優れており、好ましい。なお、式[VII]で表される含金属アゾ系色素は、長波長化して後述の化合物Yとしても用いることができる。
【0141】
ピロン系色素としては、より具体的には、下記一般式[VIII]又は[IX]を有する化合物が好ましい。
【0142】
【化5】

(式[VIII]中、
23〜R26は、各々独立に、水素原子又は任意の置換基を表わす。また、R23とR24、R25とR26とが各々縮合して、炭化水素環又は複素環構造を形成していてもよい。その場合、該炭化水素環及び該複素環は、置換基を有していてもよい。
1は、電子吸引性基を表わし、
2は、水素原子、又は、−Q−Y(ここで、Qは、直接結合、炭素数1又は2のアルキレン基、アリーレン基、又は、ヘテロアリーレン基を表わし、Yは、電子吸引性基を表わす。)を表す。該アルキレン基、該アリーレン基、該ヘテロアリーレン基は、Y以外に任意の置換基を有していてもよい。
Zは、−O−、−S−、−SO2−、−NR27−(ここで、R27は、水素原子、置換されてもよい炭化水素基、置換されてもよい複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、−NR2829(ここで、R28、R29は、各々独立して、水素原子、置換されてもよい炭化水素基、置換されてもよい複素環基、−COR30(ここで、R30は置換されてもよい炭化水素基又は置換されてもよい複素環基を表わす。)を表す。)、又は、−COR31(ここで、R31は、置換されてもよい炭化水素基、又は、置換されてもよい複素環基を表わす。)を表わす。)を表す。)
【0143】
【化6】

(式[IX]中、
32〜R35は、水素原子又は任意の置換基を表わす。又は、R32とR33、R34とR35とが各々縮合して、炭化水素環又は複素環構造を形成していてもよい。この場合、該炭化水素環及び該複素環は、置換基を有していてもよい。
環Aは、C=Oと共に置換基を有していてもよい炭素環式ケトン環又は複素環式ケトン環を表わし、
Zは、−O−、−S−、−SO2−、又は、−NR36−(ここで、R36は、水素原子、置換されてもよい炭化水素基、置換されてもよい複素環基、シアノ基、ヒドロキシ基、−NR3738(R37、R38は各々独立して水素原子、置換されてもよい炭化水素基又は置換されてもよい複素環基、−COR39(ここで、R39は、置換されてもよい炭化水素基、又は、置換されてもよい複素環基を表わす。)を表す。)、又は、−COR40(ここで、R40は、置換されてもよい炭化水素基、又は、置換されてもよい複素環基を表わす。)を表わす。)を表わす。)
【0144】
尚、本実施の形態が適用される光記録媒体20においては、ndが2程度より大きい色素Xに、nd<ncなる色素又は他の有機物、無機物材料を混合し(混合物Y)、記録層22の平均的なndを低下させて、ncと同等以下とすることも可能である。
【0145】
色素Xは、通常nd>nc、特にnd>2であって、主吸収帯が記録再生光波長の長波長側にあり、高屈折率を有する色素である。このような色素としては、主吸収帯のピークが300nm〜400nmにあるもので、屈折率ndが2〜3の範囲にあるものが好ましい。
【0146】
色素Xとしては、具体的には、ポルフィリン、スチルベン、(カルボ)スチリル、クマリン、ピロン、カルコン、トリアゾ−ル、メチン系(シアニン系、オキソノール系)、スルホニルイミン系、アズラクトン系化合物若しくはこれらの混合物等が挙げられる。特に、クマリン系色素(特開2000−043423号公報)、カルボスチリル系色素(特開2001−287466号公報)、前述のピロン系色素(特開2003−266954号公報)等は適度な分解又は昇華温度を有するので好ましい。また、主吸収帯ではないが、それに準じた強い吸収帯を350nm〜400nm付近に有するフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物若しくはその誘導体、更にはこれらの混合物も好ましい。
【0147】
混合物Yとしては、含金アゾ系色素で、主吸収帯が600nm〜800nmの波長帯にあるものが挙げられる。CD−RやDVD−Rの使用に適した色素で、405nm近傍では、消衰係数kdが通常0.2以下、好ましくは0.1以下であるものが望ましい。当該色素の屈折率ndは、長波長端λLでは、2.5以上と非常に高くても、短波長端では吸収のピークから、十分離れているので、1.5程度となり都合が良い。
【0148】
より具体的には、特開平6−65514号公報において開示される一般式[X]で示される含金属アゾ系色素が挙げられる。
【0149】
【化7】

(式[X]中、
41、R42は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素化アルキル基、分岐アルキル基、ニトロ基、シアノ基、−COOR45、−COR46、−OR47、又は、−SR48(ここで、R45〜R48は、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素化アルキル基、分岐アルキル基、又は、環状アルキル基を表わす。)を表わし、
Xは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、分岐アルキル基、−OR49、又は、−SR50(ここで、R49、R50は、各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)を表わし、
43、R44は、各々独立に、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、分岐アルキル基、又は、環状アルキル基を表わし、R43、R44が各々、隣接するベンゼン環と結合していてもよく、また、窒素原子とR43とR44とが一つの環を形成していてもよい。)
【0150】
或いは、特開2002−114922号公報で開示される一般式[XI]で示される含金属アゾ系色素も好ましい。
【0151】
【化8】

(式[XI]中、
51、R52は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素化アルキル基、分岐アルキル基、ニトロ基、シアノ基、−COOR55、−COR56、−OR57、又は、−SR58(ここで、R55〜R58は、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素化アルキル基、分岐アルキル基、又は、環状アルキル基を表わす。)を表わし、
Xは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、分岐アルキル基、−OR59、又は、−SR60(ここで、R59、R60は、各々独立に、炭素数1から3のアルキル基を表わす。)を表わし、
53、R54は各々独立に、水素原子、又は、炭素数1から3のアルキル基を表わす。)
【0152】
本実施の形態においては、記録層22は塗布法、真空蒸着法等で形成するが、特に、塗布法で形成することが好ましい。即ち、上記色素を主成分に結合剤、クエンチャー等とともに適当な溶剤に溶解して記録層22塗布液を調製し、前述の反射層23上に塗布する。溶解液中の主成分色素の濃度は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.2重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2重量%以下の範囲とする。これにより、通常1nm〜100nm程度の厚みに記録層22が形成される。その厚みを50nm未満とするために、上記色素濃度を1重量%未満とするのが好ましく、0.8重量%未満とするのがより好ましい。また、塗布の回転数を更に調整することも好ましい。
【0153】
主成分色素材料等を溶解する溶剤としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールジアセトンアルコール等のアルコール;テトラフルオロプロパノール(TFP)、オクタフルオロペンタノール(OFP)等のフッ素化炭化水素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;ジクロルメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン等を挙げることができる。これらの溶剤を溶解すべき主成分色素材料等の溶解性を考慮して適宜選択し、また、2種以上を混合して用いることができる。
【0154】
結合剤としては、セルロース誘導体、天然高分子物質、炭化水素系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリビニールアルコール、エポキシ樹脂等の有機高分子等を使うことができる。更に、記録層22には、耐光性を向上させるために、種々の色素又は色素以外の褪色防止剤を含有させることができる。褪色防止剤としては、一般的に一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、前記記録層材料に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下の範囲である。
【0155】
塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロ−ルコート法等が挙げられるが、特に、ディスク上記録媒体においては、スピンコート法が膜厚の均一性を確保しかつ、欠陥密度を低減できて好ましい。
【0156】
(界面層)
本実施の形態においては、特に、記録層22とカバー層24の間に界面層を設けることで、記録層22のカバー層24側への膨れを有効に利用することができる。
界面層の膜厚は、膜として形成されれば効果が現れるので、通常1nm以上、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、また、通常50nm以下、好ましくは40nm以下、より好ましくは30nm以下の範囲とする。界面層の膜厚をこの範囲内に制御すれば、カバー層24側へのふくらみ変形を良好に制御することができるようになる。
【0157】
界面層における反射は、できるだけ小さいことが望ましい。主反射面である反射層23からの反射光の位相変化を選択的に利用するためである。界面層に主反射面があることは、本実施の形態においては好ましいことではない。このため、界面層と記録層22、或いは界面層とカバー層24の屈折率の差が小さいことが望ましい。その差は、何れも1以下であることが好ましく、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0158】
尚、界面層を用いて、図3に示すような混合層25mの形成を抑制することや、逆構成で記録層22上にカバー層24を貼り付ける際の接着剤による腐食防止や、カバー層24を塗布するときの溶剤による記録層22の溶出を防止する効果が知られており、本実施の形態においても、そのような効果を併せて利用することは適宜可能である。界面層として用いられる材料は、記録再生光波長に対して透明で、且つ、化学的、機械的、熱的に安定なものが好ましい。ここで、透明とは、記録再生光ビーム27に対する透過率が80%以上となることであるが、90%以上であることがより好ましい。透過率の上限は100%である。
【0159】
界面層は、金属、半導体等の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、又はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のフッ化物等の誘電体化合物やその混合物が好ましい。界面層の屈折率は、前述のように、記録層やカバー層の屈折率との差が1以下のものが好ましく、値としては1〜2.5の範囲にあることが望ましい。界面層の硬度や厚みにより、記録層22の変形、特に、カバー層24側へのふくらみ変形を促進したり、抑制したりすることができる。ふくらみ変形を有効に活用するためには、比較的、硬度の低い誘電体材料が好ましく、特に、ZnO、In23、Ga23、ZnSや希土類金属の硫化物に、他の金属、半導体の酸化物、窒化物、炭化物を混合した材料が好ましい。また、プラスチックのスパッタ膜、炭化水素分子のプラズマ重合膜を用いることもできる。
【0160】
(カバー層)
カバー層24は、記録再生光ビーム27に対して透明で複屈折の少ない材料が選ばれ、通常は、プラスチック板(シートと呼ぶ)を接着剤で貼り合せるか、塗布後に光、放射線、又は熱等により硬化して形成する。カバー層24は、記録再生光ビーム27の波長λに対して透過率70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。なお、透過率の上限は、100%である。
【0161】
シート材として用いられるプラスチックは、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート等である。接着には、光、放射線硬化、熱硬化樹脂や、感圧性の接着剤が用いられる。感圧性接着剤としては、また、アクリル系、メタクリレート系、ゴム系、シリコン系、ウレタン系の各ポリマーからなる粘着剤を使用できる。
【0162】
例えば、接着層を構成する光硬化性樹脂を適当な溶剤に溶解して塗布液を調整した後、この塗布液を記録層22又は界面層上に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜上にポリカーボネートシートを重ね合わせる。その後、必要に応じて重ね合わせた状態で、媒体を回転させるなどして塗布液を更に延伸展開した後、UVランプで紫外線を照射して硬化させる。或いは、感圧性接着剤をあらかじめシートに塗布しておき、シートを記録層22或いは界面層上に重ね合わせた後、適度な圧力で押さえつけて圧着する。
【0163】
前記粘着剤としては、透明性、耐久性の観点から、アクリル系、メタクリレート系のポリマー粘着剤が好ましい。より具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−オクチルアクリレートなどを主成分モノマーとし、これらの主成分モノマーに、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド誘導体、マレイン酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等の極性モノマーを共重合させて得られる粘着剤が好ましい。主成分モノマーの分子量調整、その短鎖成分の混合、アクリル酸による架橋点密度の調整により、ガラス転移温度Tg、タック性能(低い圧力で接触させたときに直ちに形成される接着力)、剥離強度、せん断保持力等の物性を制御することができる(非特許文献11、第9章)。アクリル系ポリマーの溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等が用いられる。上記粘着剤は、更に、ポリイソシアネート系架橋剤を含有することが好ましい。
【0164】
また、粘着剤は、前述のような材料を用いるが、カバー層シート材の記録層側に接する表面に所定量を均一に塗布し、溶剤を乾燥させた後、記録層側表面(界面層を有する場合はその表面)に貼り合わせローラー等により圧力をかけて硬化させる。該粘着剤を塗布されたカバー層シート材を記録層を形成した記録媒体表面に接着する際には、空気を巻き込んで泡を形成しないように、真空中で貼り合せるのが好ましい。
【0165】
また、離型フィルム上に上記粘着剤を塗布して溶剤を乾燥した後、カバー層シートを貼り合わせ、更に離型フィルムを剥離してカバー層シートと粘着剤層を一体化した後、記録媒体と貼りあわせてもよい。
【0166】
塗布法によってカバー層24を形成する場合には、スピンコート法、ディップ法等が用いられるが、特に、ディスク上媒体に対してはスピンコート法を用いることが多い。塗布によるカバー層24材料としては、同様に、ウレタン、エポキシ、アクリル系の樹脂等を用い、塗布後、紫外線、電子線、放射線を照射し、ラジカル重合若しくはカチオン重合を促進して硬化する。
【0167】
ここで、カバー層24側への変形を利用するためには、カバー層24の少なくとも記録層22或いは、上記界面層に接する側の層が、膨れ変形に追従し易いことが望ましい。カバー層24は、適度なやわらかさ(硬度)を有することが好ましく、例えば、カバー層24が厚み50μm〜100μmの樹脂のシート材からなり、感圧性の接着剤で貼り合せた場合は、接着剤層のガラス転移温度が−50℃〜50℃と低く、比較的やわらかいので、カバー層24側への変形が比較的大きくなる。特に好ましいのは、ガラス転移温度が室温以下となっていることである。接着剤からなる接着層の厚みは、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは30μm以下の範囲であることが望ましい。接着層材料の厚み、ガラス転移温度、架橋密度を制御してかかる膨れ変形量を積極的に制御する変形促進層を設けることが好ましい。或いは、塗布法で形成するカバー層24においても、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは30μm以下の厚みの比較的低硬度の変形促進層と、残りの厚みの層に分けて多層に塗布することも、変形量dbmpの制御のためには好ましい。
【0168】
このように、カバー層の記録層(界面層)側に粘着剤、接着剤、保護コート剤等からなる変形促進層を形成する場合、一定の柔軟性を付与するため、ガラス転移温度Tgが25℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることが更に好ましい。ここでいうガラス転移温度Tgは、粘着剤、接着剤、保護コート剤等の硬化後において測定した値とする。Tgの簡便な測定方法としては、示差走査熱分析(DSC)が挙げられる。また、動的粘弾性率測定装置により、貯蔵弾性率の温度依存性を測定しても得られる(非特許文献11、第5章)。
【0169】
このような変形を促進することは、LtoHの信号振幅を大きくできるのみならず、記録に必要な記録パワーを小さくできる利点もある。他方、変形が大き過ぎるとクロストークが大きくなったり、プッシュプル信号が小さくなり過ぎたりするので、変形促進層はガラス転移温度以上においても適度な粘弾性を保持していることが好ましい。
【0170】
カバー層24は、更にその入射光側表面に耐擦傷性、耐指紋付着性といった機能を付与するために、表面に厚さ0.1μm〜50μm程度の層を別途設けることもある。カバー層24の厚みは、記録再生光ビーム27の波長λや対物レンズ28のNA(開口数)にもよるが、通常0.01mm以上、好ましくは0.05mm以上、また、通常0.3mm以下、好ましくは0.15mm以下の範囲であることが望ましい。接着層やハードコート層等の厚みを含む全体の厚みが、光学的に許容される厚み範囲となるようにするのが好ましい。例えば、いわゆるブルーレイ・ディスクでは、100μm±3μm程度以下に制御するのが好ましい。
【0171】
なお、変形促進層を設ける場合のように、カバー層の記録層側に屈折率の異なる層を設けた場合、本発明におけるカバー層屈折率ncとしては、記録層側の層の値を参照する。
【0172】
(その他の構成)
なお、本実施形態の光記録媒体は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の各層の他に任意の層を有していたり、上述の各層のうち一部が省略されていたりしてもよい。
例えば、前述の記録層とカバー層との界面の他に、例えば基板と反射層との間に、相互の層の接触・拡散防止や、位相差及び反射率の調整のために、界面層を挿入することができる。
【0173】
また、基板上に、複数の記録層を設けた多層型の光記録媒体においても、本発明を適用することが可能である。この場合、全ての記録層と反射層の間に中間層を設けてもよいし、場合によっては特定の記録層と反射層の間にのみ中間層を設けてもよい。
【実施例】
【0174】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0175】
(実施例1)
トラックピッチ0.32μm、溝幅約0.18μm、溝深さ約55nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約65nmの反射層を形成した。この反射層上にTaをスパッタすることにより、厚さ約3nmの中間層を形成した。更に、下記構造式で表される色素をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
【0176】
【化9】

【0177】
スピンコート法の条件は以下の通りである。即ち、上記色素を0.6重量%の濃度でOFPに溶解させた溶液を、ディスク(上記基板上に反射層及び中間層を形成したもの)の中央付近に1.5g環状に塗布し、ディスクを1200rpmで7秒間回転させ色素溶液を延伸し、その後、9200rpmで3秒間回転させ色素溶液を振り切ることにより塗布を行なった。尚、塗布後にディスクを100℃の環境下に1時間保持し、溶媒であるOFPを蒸発除去することにより、記録層を形成した。記録溝部における記録層の膜厚はおよそ30nm前後であり、記録溝間部の膜厚はほぼ0nm(断面TEM(Transmission Electron Microscope、透過電子顕微鏡)での観察において、記録層の存在を確認するのは難しかった。)であった。
【0178】
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約20nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体(実施例1の光記録媒体)を作製した。
【0179】
(比較例1)
実施例1の光記録媒体の有する各層のうち、中間層を省略した他は、実施例1と同じ条件で光記録媒体を作製した。
【0180】
(実施例2)
実施例1の条件のうち、以下の点を変更した。即ち、基板上に形成した案内溝の溝深さを約48nmとし、反射層の厚みを約70nmとし、中間層の材料をNbとし、中間層の厚みを約3nmとした。また、記録層の形成時における色素のスピンコートについては、上記色素を1.2重量%の濃度でOFPに溶解させた溶液を、ディスク(上記基板上に反射層及び中間層を形成したもの)の中央付近に1.5g環状に塗布し、ディスクを120rpmで4秒間、1200rpmで3秒間回転させ色素溶液を延伸し、その後、9200rpmで3秒間回転させ色素溶液を振り切ることにより塗布を行なった。また、界面層の材料としてはZnS−SiO2(モル比60:40)を用い、界面層の厚みを約16nmとした。その他は実施例1と同じ条件で、光記録媒体を作製した。
【0181】
(実施例3)
実施例2の条件において、中間層にNbの厚みを約5nmと変えた他は、実施例2と同じ条件で光記録媒体を作製した。
【0182】
(比較例2)
実施例2の光記録媒体の有する各層のうち、中間層を省略した他は、実施例2と同じ条件で光記録媒体を作製した。
【0183】
(実施例4)
トラックピッチ0.32μm、溝幅約0.18μm、溝深さ約48nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂の基板上にAg99.45Bi0.35Nd0.20の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約70nmの反射層を形成した。この反射層上にNbをスパッタすることにより、厚さ約3nmの中間層を形成した。更に、実施例1と同一の色素材料をオクタフルオロペンタノール(OFP)に溶解し、得られた溶液を上記中間層の上にスピンコート法で成膜した。
【0184】
スピンコート法の条件は以下の通りである。即ち、上記色素を0.7重量%の濃度でOFPに溶解させた溶液を、ディスク(上記基板上に反射層及び中間層を形成したもの)の中央付近に1.5g環状に塗布し、ディスクを120rpmで4秒間、更に、ディスクを1200rpmで3秒間回転させ色素溶液を延伸し、その後、9200rpmで3秒間回転させ色素溶液を振り切ることにより塗布を行なった。尚、塗布後にディスクを100℃の環境下に1時間保持し、溶媒であるOFPを蒸発除去することにより、記録層を形成した。
【0185】
その後、上記記録層上に、スパッタ法により、ZnS−SiO2(モル比80:20)からなる界面層を、約16nmの厚みに形成した。その上に、厚さ75μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚さ25μmの感圧接着剤層とからなる合計の厚さ100μmの透明なカバー層を貼り合わせることにより、光記録媒体を作製した。
【0186】
(比較例3)
実施例4の光記録媒体の有する各層のうち、中間層を省略した他は、実施例4と同じ条件で光記録媒体を作製した。
【0187】
(比較例4)
実施例4の光記録媒体の有する各層のうち、反射層と中間層の積層の順番を逆にした。すなわち、基板上にまずNb層をスパッタにより厚さ約3nm形成し、その後、Ag99.45Bi0.35Nd0.20の組成を有する合金ターゲット(前記組成は原子%で表わしている。)をスパッタすることにより、厚さ約70nmの反射層を形成した。その他は、実施例4と同じ条件で光記録媒体を作製した。
【0188】
(評価条件)
評価については、基本的にブルーレイ・ディスクのレコーダブル・ディスクの規格(System Description Blu−ray Disc Recordable Format Version1.1)に準拠した測定系を使用した。具体的には以下の通りである。
実施例1及び比較例1の光記録媒体に対する記録再生評価は、記録再生光波長λが約405nm、NA(開口数)=0.85、集束ビームスポットの径約0.42μm(1/e2強度となる点)の光学系を有するパルステック社製ODU1000テスターを用いて行なった。記録再生は基板溝部(in−groove)に対して行なった。
【0189】
記録は、線速度4.92m/sを1倍速とし、1倍速又はその2倍速となるように回転させ、(1,7)RLL−NRZI変調されたマーク長変調信号(17PP)を記録した。基準クロック周期Tは、1倍速では15.15nsec.(チャネルクロック周波数66MHz)とし、2倍速では7.58nsec.(チャネルクロック周波数132MHz)とした。記録パワー、記録パルス等の記録条件は、下記ジッターが最小になるように調整を行なった。再生は1倍速で行ない、ジッター及び反射率を測定した。
【0190】
ジッター(Jitter)の測定は、以下の手順で行なった。つまり、記録信号をリミット・イコライザー(パルステック社製)により波形等化した後、2値化を行なった。なお、リミットイコライザーのゲインは5dBとした。その後、2値化した信号の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジと、チャネルクロック信号の立ち上がりエッジとの時間差の分布σを、タイムインターバルアナライザ(横河電機社製)により測定した。そして、チャネルクロック周期をTとして、σ/Tによりジッター(%)を測定した(データ・トゥー・クロック・ジッター:Data to Clock Jitter)。
【0191】
反射率は再生ディテクターの電圧出力値に比例するので、この電圧出力値を既知の反射率Rrefで規格化することで値を求めた。実施例1〜4及び比較例1〜4の各々について記録前後の反射率の変化を確認したところ、未記録部の反射率よりも記録後の反射率が高くなっており、LtoH記録が実現出来ていたことが確認された。実際の反射率の値について、記録によるマーク部分(記録ピット部)と、未記録部であるマーク間のスペース部を、各々9Tマーク、9Tスペース部分で測定した。マーク部分の信号の中で反射率の最も高い9Tマーク部分、及び、スペース部分のなかで反射率の最も低い9Tスペース部分の各反射率をそれぞれRH、RLとし、更に、下記式によって変調度mを計算した。
m=(RH−RL)/RH
【0192】
(評価結果)
実施例1の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=5.6%、RH=29.0%、RL=12.3%、m=0.58であり、2倍速記録ではσ=6.4%、RH=28.7%、RL=12.1%、m=0.58であった。ここで、反射層材料としてAgCuAuNd、AgBi等の組成を有する合金を用いた場合においても、同等の特性が得られる。
【0193】
一方、比較例1の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=6.7%、RH=37.1%、RL=15.4%、m=0.58であり、2倍速記録ではσ=7.7%、RH=37.4%、RL=15.5%、m=0.58であった。
【0194】
実施例2の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=5.4%、RH=32.6%、RL=19.2%、m=0.41であり、2倍速記録ではσ=6.1%、RH=32.3%、RL=18.8%、m=0.42であった。
【0195】
実施例3の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=5.7%、RH=25.8%、RL=14.3%、m=0.45であり、2倍速記録ではσ=6.4%、RH=25.5%、RL=13.5%、m=0.47であった。
【0196】
一方、比較例2の光記録媒体におけるジッターσ、反射率RH、RL、及び変調度mは、1倍速記録ではσ=6.2%、RH=39.1%、RL=23.5%、m=0.40であり、2倍速記録ではσ=7.0%、RH=39.3%、RL=23.6%、m=0.40であった。
実施例4の光記録媒体におけるジッターσは、1倍速記録ではσ=6.1%、2倍速記録ではσ=6.2%であった。
一方、比較例3の光記録媒体におけるジッターσは、1倍速記録ではσ=8.3%であった。
また、比較例4の光記録媒体におけるジッターσは、1倍速記録ではσ=7.5%であった。
【0197】
比較例1の光記録媒体においても、1倍速記録で6.7%、2倍速記録で7.7%という良好なジッターが得られた。しかしながら、ブルーレイ・ディスクの規格であるジッター(6.5%以下)を満足することはできなかった。一方、実施例1の光記録媒体においては、比較例1の光記録媒体に対して、1倍速記録、2倍速記録ともにジッターが改善しており、中間層の設置による記録信号特性改善の効果が明らかとなった。
【0198】
また、比較例2の光記録媒体においても、良好なジッターが得られたが、ブルーレイ・ディスクの規格であるジッター(6.5%以下)を満足することはできなかった。一方、実施例2及び実施例3の光記録媒体においては、比較例2の光記録媒体に対して、1倍速記録、2倍速記録ともにジッターが改善しており、中間層の設置による記録信号特性改善の効果が明らかとなった。
【0199】
さらに、比較例3,4の光記録媒体においては、1倍速記録でも良好なジッターが得られなかった。一方、実施例4の光記録媒体においては、比較例3及び比較例4の光記録媒体に対してジッターが改善しており、中間層の設置による記録信号特性改善の効果が明らかとなった。
【0200】
以上の結果から、本発明に規定する中間層を設けることにより、1倍速記録、2倍速記録ともにブルーレイ・ディスクの規格を満足する、優れた光記録媒体を得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明は各種の光記録媒体に適用可能であるが、中でも、色素を主成分とする記録層を有する青色レーザ対応の膜面入射型の光記録媒体に、とりわけ好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】従来構成の色素を主成分とする記録層を有する追記型媒体(光記録媒体)を説明する図である。
【図2】本実施の形態が適用される色素を主成分とする記録層を有する膜面入射構成の追記型媒体(光記録媒体)を説明する図である。
【図3】(a),(b)は何れも、本実施の形態が適用される膜面入射型媒体の層構成とカバー層溝間部に記録する場合の位相差を説明する図である。
【図4】記録溝部と記録溝間部の位相差と反射光強度の関係を説明する図である。
【図5】記録信号(和信号)とプッシュプル信号(差信号)を検出する4分割ディテクターの構成を説明する図である。
【図6】(a),(b)は何れも、複数の記録溝及び溝間を横断しながら得られる出力信号を、低周波通過フィルター(カットオフ周波数30kHz程度)を通過させた後に検出される信号を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0203】
10、20 光記録媒体
11、21 基板
12、22 記録層
13、23 反射層
14 保護コート層
15 基板溝間部
16 基板溝部
17、27 記録再生光ビーム
18、28 対物レンズ
19、29 記録再生光ビームが入射する面
24 カバー層
25 カバー層溝間部
26 カバー層溝部
30 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内溝が形成された基板と、
前記基板上に、Agを主成分とする光反射機能を有する層と、未記録状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する記録層と、前記記録層に入射する記録再生光を透過し得るカバー層とをこの順に備え、
前記光反射機能を有する層と前記記録層との間に中間層が設けられ、
前記中間層が、Ta、Nb、V、W、Mo、Cr、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有する
ことを特徴とする、光記録媒体。
【請求項2】
前記中間層の膜厚が、1nm以上、15nm以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
前記Agを主成分とする光反射機能を有する層の膜厚が30nm以上、90nm以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項4】
前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、当該記録溝部における未記録時の反射光強度より高くなる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の光記録媒体。
【請求項5】
前記記録溝部の未記録時における記録層の膜厚が5nm以上、70nm以下である
ことを特徴とする、請求項4に記載の光記録媒体。
【請求項6】
前記記録溝部間の未記録時における記録層の膜厚が、10nm以下である
ことを特徴とする、請求項4又は請求項5に記載の光記録媒体。
【請求項7】
前記記録再生光の波長λが、350nm以上、450nm以下である
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の光記録媒体。
【請求項8】
前記記録層と前記カバー層との間に、当該記録層の材料と当該カバー層の材料との混合を防止する界面層を有する
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の光記録媒体。
【請求項9】
前記界面層の厚みが、1nm以上、50nm以下である
ことを特徴とする、請求項8に記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−213782(P2007−213782A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4696(P2007−4696)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】