説明

光記録媒体

【課題】半透過記録層においての記録再生信号特性を確保しつつ、欠陥発生を抑えることにより、さらなる記録容量の増加を可能にする光記録媒体を提供する。
【解決手段】半透過記録層7,9を含む複数の記録層5,7,9を積層した相変化型の光記録媒体1に関する。この光記録媒体1は、支持基板3と、支持基板3側から第1誘電体層101/半透過半反射層102/第2誘電体層103/相変化型の記録材料層104/第3誘電体層105を順に積層してなる半透過記録層7,9とを有する。そして特に、半透過半反射層102が銀を用いて構成される。また、第2誘電体層103は、半透過半反射層102側の界面に配置される下層103aと、下層103aよりも記録材料層104側に配置される上層103bとを有する積層構造である。このうち下層103aは、酸化インジウムからなる層、または酸化インジウムと酸化スズとの複合酸化物からなる層として構成される。一方、上層103bは、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ジルコニウム、または酸化ニオブからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光記録媒体に関し、特には複数の記録層を積層した相変化型の光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光の照射による情報の記録、再生および消去が可能な光記録媒体の一つとして相変化型の光記録媒体が知られている。相変化型の光記録媒体は、結晶−非晶質間、あるいは異なる結晶相間の相転移を利用して情報の記録、再生および消去を行う。このような相変化型光記録媒体としては、例えばCD−RW(Compact Disc - Rewritable)、DVD−RW(Digital Versatile Disc - Rewritable)、DVD−RAM(Digital Versatile Disc - Random Access Memory)、Blu−ray Discなどが商品化されている。また近年は、記録容量を高めるために、複数の記録層を積層した構成(2層ディスク)が実用化されている。
【0003】
以上のような相変化型光記録媒体における2層ディスクの構成は、次のようである。すなわち、支持基板上に第1の記録層が形成され、その上に記録再生波長に対して透明な中間層を介して第2の記録層が形成され、その上に記録再生波長に対して透明な光透過保護層が形成された層構造を有する。記録再生に用いるレーザ光は光透過保護層側から対物レンズを通して光記録媒体に入射される。対物レンズを通過したレーザ光は第1の記録層または第2の記録層に集光され、情報の記録再生が行われる。
【0004】
ここで2層ディスクの特徴的な構成は、第2の記録層が第1の記録層の記録再生のために光を透過する性能を有する半透過記録層として構成されるところにある。このような第2の記録層は、誘電体、金属、相変化記録材料などを記録再生性能が発揮できるように積層してなり、典型的な積層構造は基板側から第1誘電体層/金属反射層/第2誘電体層/相変化記録材料層/第3誘電体層の順に積層されている。また、おおよそ45%から55%の光透過率をもたせることで、光ディスク記録再生装置(ドライブ)からみて、第1の記録層と第2の記録層の記録再生パワーや反射率が一致するように設計されている。
【0005】
以上のような構成の第2の記録層(半透過記録層)において、金属反射層と相変化記録層との間の第2誘電体層は、光学距離を調整して記録層の吸収効率を高める働きと、記録前後の反射光量の変化を大きくして信号振幅を大きくする働きを有する。
【0006】
このような第2誘電体膜を構成する材料には、酸化物、窒化物、硫化物、炭化物、フッ化物、炭素などが単体でまたは混合物として用いられる。また第2誘電体層は、これらの材料を組み合わせた積層構造であっても良く、特に記録層側の界面層には、酸化インジウム(In)、酸化クロム(Cr)、酸化ガリウム(Ga)などの酸化物や、さらにシリコンを含有することが提案されている(以上、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2008/018225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、以上の光記録媒体においては、さらなる記録容量の増加を図るために、記録層を3層とした3層ディスクや、4層とした4層ディスクの開発が進められている。これら3層ディスクおよび4層ディスクにおいては、レーザ光の入射側に配置される半透過記録層に、2層ディスクの半透過記録層よりもより高い光透過率が求められる。
【0009】
このような高い光透過率を実現するために、半透過記録層を構成する相変化記録材料層や金属反射層を薄膜化する傾向にあるが、これらの層の薄膜化は限界に達しており、さらなる薄膜化は欠陥の発生や記録再生信号特性の劣化を招く要因になる。
【0010】
そこで本発明は、半透過記録層においての記録再生信号特性を確保しつつ、欠陥発生を抑えることにより、さらなる記録容量の増加を可能にする光記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するための本発明は、半透過記録層を含む複数の記録層を積層した相変化型の光記録媒体に関する。この光記録媒体は、支持基板と、当該支持基板側から第1誘電体層/半透過半反射層/第2誘電体層/相変化型の記録材料層/第3誘電体層を順に積層してなる半透過記録層とを有する。そして特に、半透過半反射層が銀を用いて構成される。また、第2誘電体層は、半透過半反射層側の界面に配置される下層と、当該下層よりも前記記録材料層側に配置される上層とを有する積層構造である。このうち下層は、酸化インジウムからなる層、または酸化インジウムと酸化スズとの複合酸化物からなる層として構成される。一方、上層は、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ジルコニウム、または酸化ニオブからなる。
【0012】
このような構成の光記録媒体では、第2誘電体層の積層構成を限定したことにより、以降の実施例で詳細に説明するように半透過記録層においての記録再生信号特性の確保と欠陥発生の防止の両立が可能であることが確認された。
【発明の効果】
【0013】
以上より本発明によれば、半透過記録層を含む複数の記録層を積層した相変化型の光記録媒体において、半透過記録層の積層数の増加を実現し、さらなる記録容量の増加を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態の光記録媒体の構造を示す模式図である。
【図2】実施例1における各光記録媒体のDOW特性を示すグラフである。
【図3】実施例2における各光記録媒体のDOW特性を示すグラフである。
【図4】実施例3における各光記録媒体についての各種評価の結果を示すグラフである。
【図5】実施例4における各光記録媒体についての各種評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を図1に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は、実施形態の光記録媒体1の構成を示す模式図である。この図に示す光記録媒体1は、半透過記録層を含む複数の記録層を積層した相変化型の光記録媒体である。特に本実施形態においては、半透過記録層を構成する誘電体層のうち、記録材料層−半透過半反射層間に設けられた第2誘電体層の構成が特徴的である。尚、ここでは一例として、3層の記録層を積層した構成を説明するが、記録層の積層数がこれに限定されることはなく、2層の積層構造であっても良く、4層以上の層構造であっても良い。
【0017】
この光記録媒体1は、支持基板3と、支持基板3上に積層された複数の記録層5,7,9と、これらの記録層5,7,9間に挟持された透明な中間層11と、最上部に配置された透明保護膜13とを備えている。これらの記録層5,7,9は、支持基板3の直上に設けられた反射記録層5、およびこれよりも透明保護膜13側に設けられた半透過記録層7,9である。つまり、支持基板3側からは、支持基板3/反射記録層5/中間層11/半透過記録層7/中間層11/半透過記録層9/透明保護膜13がこの順に積層されている。尚、記録層が4層以上の場合、半透過記録層9と透明保護膜13との間に、中間層を介してさらに半透過記録層が積層される構成となる。
【0018】
ここで、この光記録媒体1の記録再生には、例えば波長が400〜410nmのレーザ光が用いられ、透明保護膜13側から入射される。ディスク記録再生装置から出射されて、透明保護膜13側から入射したレーザ光hは、ディスク記録再生装置側のフォーカス制御に応じて、反射記録層5または半透過記録層7,9に集光され、情報の記録再生が行われる。以下、各層の構成を説明する。
【0019】
<支持基板3>
支持基板3は、ポリカーボネート等のプラスチック、またはガラス等からなる。
【0020】
<反射記録層5>
反射記録層5は、相変化型の記録材料層と共に、記録再生に用いるレーザ光hを反射するための十分な厚みの反射層を備えている。このような反射記録層5は、支持基板3側から順に、少なくとも反射層/誘電体層/相変化型の記録材料層/誘電体層が順に積層されている。記録材料層は、相変化型の記録材料を用いたであれば良く、例えば次に説明する半透過記録層7,9を構成する記録材料と同様の材料の中から選択した材料を用いて構成される。
【0021】
<半透過記録層7,9>
半透過記録層7,9は、本実施形態に特徴的な第2誘電体層103を有する層である。これらの半透過記録層7,9は、相変化型の記録材料層104と共に、記録再生に用いるレーザ光hを反射すると共に透過する半透過半反射層102を備えている。このような半透過記録層7,9は、図示した通り、支持基板3側から順に第1誘電体層101/半透過半反射層102/第2誘電体層103/記録材料層104/第3誘電体層105が積層されている。本実施形態においては、このような積層構造の半透過記録層7,9において、半透過半反射層102と記録材料層104との間に配置された第2誘電体層103の構成が特徴的である。以下、半透過記録層7,9の構成を下層側から順に説明する。
【0022】
第1誘電体層101は、透過率を調整する層として所定の屈折率を有する材料を用いる構成が提案されている。このような材料としては、TiO、ZrO、ZnO、Nb、Ta、SiO、Al、Bi、Ti−N、Zr−N、Nb−N、Ta−N、Si−N、Ge−N、Cr−N、Al−N、Ge−Si−N、Ge−Cr−NおよびZnSが例示されている。またこれらの材料は、混合物として用いても良く、さらに積層構造としても良い。
【0023】
半透過半反射層102は、金属薄膜で構成される。ここでは、例えば銀(Ag)または銀合金を用いた薄膜からなり、膜厚の調整によってレーザ光の透過率、反射率、および放熱速度が調整される。銀合金を用いる場合、銀(Ag)の他の材料には、例えばNd,Pd,Cuなどが用いられる。
【0024】
そして本発明に特徴的な第2誘電体層103は、半透過半反射層102側の下層103aと、その上部の記録材料層104側の上層103bとの積層構造となっている。
【0025】
このうち半透過半反射層102側の下層103aは、酸化インジウム(In)からなる層、または酸化インジウム(In)と酸化スズ(SnO)との複合酸化物(いわゆるITO:Indium Tin Oxide)からなる層として構成されている。下層103aが、ITOからなる層である場合、酸化インジウム(In)と酸化スズ(SnO)との組成比は、酸化スズ(SnO)50mol%以下であることが好ましい。
【0026】
このような材料からなる下層103aに対して積層される上層103bは、酸化タンタル(Ta)、酸化ガリウム(Ga)、酸化ジルコニウム(ZrO)、または酸化ニオブ(Nb)からなる層として構成されている。
【0027】
記録材料層104は、レーザ光の照射によって相変化する材料、さらに詳しくはレーザ光の照射による加熱後の冷却過程によって、結晶または非晶質、あるいは結晶1または結晶2の何れかの相に制御される。このような記録材料層104は、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、およびテルル(Te)のうちの少なくとも1つを用いて構成される。具体的な一例としては、組成式GeaSbTea+3、GeBi2Tea+3(1≦a≦20)の化合物が用いられる。これらの化合物は、ゲルマニウム(Ge)およびテルル(Te)の量を微調整して用いられ、また2種類を混ぜあわせた複合化合物として用いられる。またこれらの化合物を用いて構成される記録材料層104には、記録情報保存性能等を向上するために用途に応じた元素を適宜添加しても良い。
【0028】
第3誘電体層105は、第1誘電体層101と同様の材料を用いて構成される。また第3誘電体層105も、例示した材料の混合物として用いても良く、単層構造であることに限定されることはなく、複数層を積層させた層構造であっても良い。
【0029】
以上のような半透過記録層7,9は、透明保護膜13側から入射された記録再生用のレーザ光が、反射記録層5にまで達するように光を透過する性能を有する。特には、レーザ光の照射とピックアップを行う記録再生装置(ドライブ)からみて、反射記録層5および半透過記録層7,9の記録再生パワーや反射率が一致するように設計されている。このため、半透過記録層7,9は、透明保護膜13に近く配置されるものほど、光透過率が大きくなるように構成されていることとする。
【0030】
例えば、反射記録層5を含めて3層の記録層を積層した構成であれば、支持基板3側の半透過記録層7では光透過率45%〜55%程度、透明保護膜13側の半透過記録層9では光透過率60%程度に調整される。このような調整は、記録再生に用いられるレーザ光hの光透過率tc、記録材料層104が結晶状態にある場合の反射率Rc、および記録材料層104が非晶質状態にある場合の反射率Raが所定の値となるように、各層の膜厚によって制御される。
【0031】
以上のような半透過記録層7,9の形成は、例えば一連のスパッタ成膜によって行われる。一連のスパッタ成膜に用いるスパッタ成膜装置は、ロードチャンバとアンロードチャンバとの間に、半透過記録層7,9を構成する各層の成膜チャンバを順に配列したものであり、支持基板を真空雰囲気に保ったまま順次チャンバ間を移動可能に接続されている。
【0032】
このようなスパッタ装置を用いた半透過記録層7,9の形成においては、支持基板3上に反射記録層5、中間層11を成膜した後、各成膜チャンバ内で第1誘電体層101〜第3誘電体層105までの成膜を順に行う。これにより、支持基板3側から第1誘電体層101〜第3誘電体層105を順次積層させた半透過記録層7,9を形成する。
【0033】
<中間層11および透明保護膜13>
中間層11および透明保護膜13は、記録再生に用いるレーザ光に対しての光吸収が小さい材料を用いて構成され、例えば光硬化性樹脂や、光硬化性樹脂を接着剤としてガラス基板や樹脂基板を張り合わせて用いても良い。尚、光記録媒体1中に設けられる複数の中間層11および透明保護膜13は、同一構成であっても良く、それぞれが異なる構成であっても良い。
【0034】
以上説明した光記録媒体1によれば、第2誘電体層103を下層103aと上層103bとの積層構造とし、これらの層103a,103bを構成する材料の組み合わせを限定した。これにより、次の実施例1〜5で順に説明するように、半透過記録層7,9においての欠陥発生を抑えつつ、記録再生信号特性の確保が図られることが確認された。これにより、相変化型の光記録媒体1において、複数層の半透過記録層7,9を積層させた場合の光透過率を確保でき、さらなる記録容量の増加を図ることが可能になる。
【0035】
<実施例1>
記録再生波長として波長405nmのレーザ光を用いる場合を想定し、第2誘電体層103を各構成として第1実施形態で説明した構成の半透過記録層7,9を形成した。半透過記録層7,9は、光硬化性樹脂からなる中間層11上に形成し、この上部を光硬化性樹脂からなる透明保護膜13で覆い、光記録媒体を作製した。
【0036】
半透過記録層は、支持基板側から順に下記の材料を用いて形成した。
第1誘電体層101…Nb2O5(20nm)
半透過半反射層102…Ag合金(10nm)
第2誘電体層103…下記表1参照
記録材料層104…GeBiTe記録材料(6nm)
第3誘電体層105…SiN(10nm)/TiO(屈折率約2.65:16nm)
尚、記録材料層104を構成するGeBiTe記録材料は、化合物系の記録材料であり、レーザ光の照射によって結晶と非晶質との間で相変化する。
【0037】
【表1】

【0038】
以上のようにして作製した光記録媒体について、信頼性試験を行った前後の欠陥密度を測定した。信頼性試験は80℃、85%の温室度環境下で120時間保管する方法をとった。測定した初期欠陥密度および欠陥増加率を、上記表1に合わせて示した。
【0039】
尚、初期欠陥密度は、半透過記録層形成直後の欠陥数を単位面積あたりの数に換算した数である。欠陥増加率は、信頼性試験前後における単位面積当たりの欠陥数の増加数を単位時間(1日)当たりに換算した数である。初期欠陥密度および欠陥増加率の算出のための欠陥数は、ディフェクトカウンター[パルステック工業(株)製の欠陥検査機]を用いて測定した。
【0040】
上記表1より、初期欠陥密度は、第2誘電体層103をITO単層構造とした(6)の構成で最も低い0.07[個/mm]であるが、第2誘電体層103がその他の積層構造である(2)〜(5)であっても、0.15[個/mm]以下に抑えられていた。一方、欠陥増加率は、第2誘電体層103の上層103bを酸化シリコン(SiO)とした(5)のみで極端に悪い1.13[個/mm/day]であり、もはやトラッキングサーボの挙動すら不安定なレベルであった。
【0041】
この結果、第2誘電体層103を積層構造とする場合、ITOからなる下層103aであれば、酸化タンタル(Ta)、酸化ガリウム(Ga)、酸化ジルコニウム(ZrO)、または酸化ニオブ(Nb)からなる上層103bとする。つまり、積層構造の第2誘電体層103は、表1の(1)〜(4)の構成が好ましい。これにより、第2誘電体層103をITO単層構造とした構成と同程度に欠陥発生を抑えることが可能であることが確認された。
【0042】
<実施例2>
実施例1で、欠陥増加率が小数点以下に抑えられている(1)〜(4)および(6)の第2誘電体103を有する光記録媒体について、RF信号を複数回記録(Direct OverWrite :DOW)した。図2には、RF信号品質を示すジッター値を記録回数(DOW回数)ごとにプロットしたグラフをDOW特性(RF信号の書き換え特性)として示す。ここで扱うジッター値とはRF信号が正確に記録された時の再生信号レベルに対する実際の信号レベルのずれ量の統計値であり数値が大きいほどRF信号品質が悪いことを示す。信号記録条件は、変調方式:1−7PP、channel bit rate:132Mbps、channel bit length:57.26nm、その他基本的な仕様はBlu−ray規格にならった。
【0043】
図2のDOW特性より、第2誘電体層103をITO単層構造とした(6)の構成では、DOW回数100回程度から急激にジッター値が悪化していることがわかる。これに対して、第2誘電体層103を、下層103aITO/上層103b各材料とした(1)〜(4)の構成では、何れもITO単層構造の(6)よりも、大きいDOW回数までジッター値の顕著な悪化が見られなかった。
【0044】
さらに、DOW回数1回以降において、(1)〜(4)の構成のジッター値は、(6)のジッター値よりも低かった。
【0045】
以上より、第2誘電体層103は、ITOからなる下層103a上に、他の酸化膜からなる上層103aを積層させた積層構造とすることで、ITO単層構造とするよりも、信号特性の向上が図られることが確認された。
【0046】
<実施例3>
本発明の比較例として、図3の(11)〜(14)の各材料を用いた単層構造の第2誘電体層103を半透過記録層7,9に設けた光記録媒体を作製した。第2誘電体層103以外の構成は実施例1と同様である。
【0047】
このようにして作製した(11)〜(14)の構成の光記録媒体について、実施例2と同様にRF信号を複数回記録した。図3にはジッター値を記録回数(DOW回数)ごとにプロットしたグラフをDOW特性(RF信号の書き換え特性)として示す。また図3には、比較として実施例2で示した、第2誘電体層103をITO単層構造とした(6)の構成、および第2誘電体層103を本発明に対応する積層構造とした(3)の構成のDOW特性を合わせて示す。
【0048】
図3のDOW特性より、第2誘電体層103を単層構造とした(6)および(11)〜(14)の構成では、ITOと酸化ジルコニウム(ZrO)との積層構造とした(3)よりも、DOW回数1000回程を超えるまでジッター値が高いことがわかる。
【0049】
以上より、第2誘電体層103は、酸化膜の単層構造よりも、ITOからなる下層103a上に他の酸化膜(ZrO)を積層させた積層構造とすることで、信号特性の向上が図られることが確認された。
【0050】
<実施例4>
第2誘電体層103を、ITOからなる下層103a/酸化タンタル(Ta)からなる上層103bとの積層構造とし、ITO中の酸化スズ(SnO)の組成0〜100mol%の範囲で調整した各半透過記録層7,9を有する光記録媒体を作製した。第2誘電体層103以外の構成は実施例1と同様である。作製した光記録媒体について、図4(a)〜図4(d)に示す各種評価を行った。尚、図4(a)〜図4(d)において、横軸のITO中の酸化スズ(SnO)の組成0mol%は酸化インジウム(In)であり、酸化スズ(SnO)の組成100mol%は酸化スズ(SnO)である。
【0051】
図4(a)には、パワーマージン評価結果を示す。パワーマージンとは、信号記録時のレーザーパワーの変動に対する記録のし易さを示す指標の1つであり、以下のようにして求められる。まず、RF信号を最適記録するときのレーザーパワーを基準として、そのレーザーパワーを例えば0.5倍〜1.5倍の範囲で変えて記録を行い、ジッター値の変化をデータとして得る。ジッター値とは、上述したようにRF信号が正確に記録された時の再生信号レベルに対する実際の信号レベルのずれ量の統計値であり、数値が大きいほどRF信号品質が悪い。このジッター値には、情報を読み取りできなくなる上限値があり、通常は、各システムに見合った上限の基準値を設それぞれ設けている。ここで、信号記録時のレーザーパワーは、最適パワーから上げても下げてもジッター値が増加(悪化)するため、低パワー側でも高パワー側でも、最適パワーからのずれ量がある程度以上になるとジッター上限値に達する。このため、ジッター値が上限値以下の値をとるレーザーパワー範囲のパワー幅を、最適レーザーパワー値で規格化した値、つまりレーザーパワーのマージン幅が、パワーマージンとして求められる。ここではマージン幅20%以上あれば良しとする。
【0052】
図4(a)に示されるように、第2誘電体層103の下層103aを構成するITOの組成において、酸化スズ(SnO)の組成比80mol%をマージン幅のピークとし、全ての組成範囲でマージン幅が20%以上であった。これにより、パワーマージンの観点からは、第2誘電体層103の下層103aは、酸化インジウム(In)、ITO、または酸化スズ(SnO)であれば問題がないことがわかった。
【0053】
図4(b)には、書き換え(DOW)1000回後のジッター値を示す。ここではDOW1000後のジッター値13.5%以上でNGとする。
【0054】
図4(b)に示されるように、第2誘電体層103の下層103aを構成するITOの組成において、酸化スズ(SnO)の組成比60mol%をジッター値のピークとし、50mol%以下の範囲でジッター値が13.5%未満に抑えられている。これにより、ジッター値の観点からは、第2誘電体層103の下層103aは、酸化インジウム(In)または、酸化スズ(SnO)50mol%以下の組成範囲のITOであれば、問題がないことがわかった。尚、DOW10回でのジッター値は、組成比によらずおおよそ12%程度であった。
【0055】
図4(c)には、光記録媒体を作製した直後の欠陥数を面密度として算出した初期欠陥密度を示す。ここでは初期欠陥密度0.10[個/mm]以下であれば良しとする。
【0056】
図4(c)に示されるように、第2誘電体層103の下層103aを構成するITOの組成において、酸化スズ(SnO)の組成比70mol%以下および85mol%以上の範囲で初期欠陥密度が0.10[個/mm]以下に抑えられている。これにより、初期欠陥密度の観点からは、酸化スズ(SnO)組成比70mol%以下および85mol%以上であれば、問題がないことがわかった。
【0057】
図4(d)には、光記録媒体に対して加速試験を行った後の欠陥数の増加分を、単位面積および単位加速時間(1日)当たりの欠陥増分として算出した欠陥増加率を示す。加速試験は、光記録媒体を、80℃、85%の環境に120時間投入して行った。ここでは、欠陥増加率0.05[個/mm/day]以下であれば良しとする。
【0058】
図4(d)に示されるように、第2誘電体層103の下層103aを構成するITOの組成において、酸化スズ(SnO)の組成比の全ての範囲で欠陥増加率が0.05[個/mm/day]以下に抑えられていることが。これにより、欠陥増加率の観点からは、第2誘電体層103の下層103aは、酸化インジウム(In)、ITO、または酸化スズ(SnO)であれば問題がないことがわかった。
【0059】
以上、各図4(a)〜図4(d)に示した各種評価から、第2誘電体層103の下層103aは、ジッター値の観点から、酸化インジウム(In)または、酸化スズ(SnO)50mol%以下の組成のITOが好ましいことが確認された。尚、この際の第2誘電体層103の上層103bは、酸化タンタル(Ta)からなる。
【0060】
<実施例5>
第2誘電体層103を、ITOからなる下層103a/酸化ガリウム(Ga)からなる上層103bとの積層構造とし、ITO中の酸化スズ(SnO)の組成0〜100mol%の範囲で調整した各半透過記録層7,9を有する光記録媒体を作製した。第2誘電体層103以外の構成は実施例1と同様である。作製した光記録媒体について、図5(a)〜図5(b)に示すように、実施例4と同様の各種評価を行った。尚、図5(a)〜図5(d)において、横軸のITO中の酸化スズ(SnO)の組成0mol%は酸化インジウム(In)であり、酸化スズ(SnO)の組成100mol%は酸化スズ(SnO)である。
【0061】
図5(a)には、パワーマージン評価結果を示す。ここではマージン幅20%以上あれば良しとする。図5(a)に示すように、酸化スズ(SnO)の組成比の全ての範囲でマージン幅が25%程度を保っていた。これにより、パワーマージンの観点からは、第2誘電体層103の下層103aは、酸化インジウム(In)、ITO、または酸化スズ(SnO)であれば問題がないことがわかった。
【0062】
図5(b)には、書き換え(DOW)1000回後のジッター値を示す。ここではDOW1000後のジッター値13.5%以上でNGとする。図5(b)に示すように、酸化スズ(SnO)の組成比の全ての範囲でジッター値13.5%未満を保っていた。これにより、ジッター値の観点からは、第2誘電体層103の下層103aは、酸化インジウム(In)、ITO、または酸化スズ(SnO)であれば問題がないことがわかった。
【0063】
図5(c)には、初期欠陥密度を示す。ここでは初期欠陥密度0.10[個/mm]以下であれば良しとする。図5(c)に示すように、酸化スズ(SnO)の組成比の全ての範囲で初期欠陥密度0.10[個/mm]以下を保っていた。これにより、初期欠陥密度の観点からは、第2誘電体層103の下層103aは、酸化インジウム(In)、ITO、または酸化スズ(SnO)であれば問題がないことがわかった。
【0064】
図5(d)には、80℃、85%の環境に120時間投入した加速試験前後での欠陥増加率を示す。ここでは、欠陥増加率0.05[個/mm/day]以下であれば良しとする。図5(d)に示されるように、酸化スズ(SnO)の組成比が50mol%以下の範囲で欠陥増加率0.05[個/mm/day]以下に抑えられている。これにより、欠陥増加率の観点からは、第2誘電体層103の下層は、酸化インジウム(In)または、酸化スズ(SnO)50mol%以下の組成のITOであれば、問題がないことがわかった。
【0065】
以上、各図5(a)〜図5(d)に示した各種評価から、第2誘電体層103の下層103aは、欠陥増加率の観点から、酸化インジウム(In)または、酸化スズ(SnO)50mol%以下の組成のITOが好ましいことが確認された。尚、この際の第2誘電体層103の上層103bは、酸化ガリウム(Ga)からなる。
【符号の説明】
【0066】
1…光記録媒体、3…支持基板、7,9…半透過記録層、101…第1誘電体層、102…半透過半反射層、103…第2誘電体層、103a…下層、103b…上層、104…記録材料層(相変化型)、105…第3誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、当該支持基板側から第1誘電体層/半透過半反射層/第2誘電体層/相変化型の記録材料層/第3誘電体層を順に積層してなる半透過記録層とを有し、
前記半透過半反射層が銀を用いて構成され、
前記第2誘電体層は、前記半透過半反射層側の界面に配置される下層と、当該下層よりも前記記録材料層側に配置される上層とを有する積層構造であり、
前記下層は、酸化インジウムからなる層、または酸化インジウムと酸化スズとの複合酸化物からなる層として構成され、
前記上層は、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ジルコニウム、または酸化ニオブからなる
光記録媒体。
【請求項2】
前期第2誘電体層における前記下層は、酸化インジウムと50mol%以下の酸化スズとの複合酸化物からなる
請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
前記相変化型の記録材料層は、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン、およびテルルのうちの少なくとも1つを用いて構成される
請求項1または2に記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−33217(P2012−33217A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170885(P2010−170885)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】