説明

光起電力装置及びその製造方法

【課題】半導体基板を薄型化しても半導体基板の反りが生じないと共に、キャリア再結合の抑制効果が高く、直列抵抗が小さい光起電力装置を提供する。
【解決手段】p型不純物元素及び酸素を含む水素化珪素膜から構成される裏面電界層を半導体基板と裏面電極との間に具備する光起電力装置であって、前記裏面電界層が、前記半導体基板側に形成されたエピタキシャル層と、前記裏面電極側に形成された無配向微結晶層とを含むことを特徴とする光起電力装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等で用いられる光起電力装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の多結晶シリコン太陽電池は、厚さが200μm程度のp型多結晶シリコン基板を用い、光吸収率を高める表面テクスチャ、n型拡散層、反射防止膜及び表面電極(例えば、櫛型Ag電極)を当該基板の受光面側に順次形成し、また、裏面電極(例えば、Al電極)をスクリーン印刷によって当該基板の非受光面側に形成した後、これらを焼成することによって一般に製造されている。かかる焼成では、表面電極及び裏面電極の溶媒分が揮発すると共に、当該基板の受光面側において櫛型Ag電極が反射防止膜を突き破ってn型拡散層に接続され、また、当該基板の非受光面側においてAl電極の一部のAlが当該基板に拡散して裏面電界層(BSF:Back Surface Field)を形成する。このBSF層は、当シリコン基板との接合面で内部電界を形成してBSF層近傍で発生した少数キャリアをシリコン基板内部へ押し戻し、Al電極近傍でのキャリア再結合を抑制するため、開放電圧を高くすることができる。
【0003】
一方、今後の多結晶シリコン太陽電池においては、原料消費量を抑えて低コスト化を実現するために、シリコン基板を薄型化することが切望されている。
しかしながら、シリコン基板を薄型化した場合、上記方法で裏面電極及びBSF層を形成すると、裏面電極とシリコン基板との熱膨張係数の違いによって基板に反りが生じ易くなる。この基板の反りは、特に、150μm以下のシリコン基板を用いた場合に非常に大きい。
【0004】
シリコン基板の反りを抑制する技術としては、低応力の金属ペーストを用いて印刷及び焼成することにより裏面電極及びBSF層を形成する方法(例えば、特許文献1参照)や、応力を分散させるために金属ペーストを格子状に印刷して焼成することにより裏面電極及びBSF層を形成する方法(例えば、特許文献2参照)がある。
また、p型不純物元素を含む微結晶シリコン膜から構成されるBSF層と裏面電極とをCVDによって形成する方法もある(例えば、特許文献3〜8参照)。この特許文献3〜8の方法では、BSF層及び裏面電極の厚さを数十nm程度に薄くすることが可能であるため膜ストレスを低減することができ、また、低温での形成が可能であるため熱膨張係数の違いによるストレスも低減することができるため、シリコン基板の反りが抑制される。
【0005】
さらに、特許文献5では、p型不純物元素を含む微結晶及び非晶質の水素化シリコンの混合膜をBSF層に用いることで、シリコン基板の反りを抑制し得るだけでなく、BSF層内でのキャリア再結合も抑制し得ることが開示されている。
また、特許文献6〜8では、シリコン基板とBSF層との間に、酸化珪素(SiO)や、水素を含む窒化珪素(SiN)等の、開口部を有するパッシベーション層を形成することで、基板の反りを抑制し得るだけでなく、光電変換効率を高め得ることが開示されている。かかるパッシベーション層は、BSF層に比べてキャリア再結合をより一層抑制することができるため、開放電圧がより一層高くなる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−313402号公報
【特許文献2】特開2002−141533号公報
【特許文献3】特公平5−63103号公報
【特許文献4】特公平5−75189号公報
【特許文献5】特開平10−190033号公報
【特許文献6】特開平6−310740号公報
【特許文献7】特開平9−237910号公報
【特許文献8】特開平9−97916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、シリコン基板を薄型化する試みは進められ、100μm以下のシリコン基板の薄型化が検討されているところ、印刷及び焼成による従来の方法では、特許文献1及び2の技術を用いたとしても100μm以下の薄型シリコン基板に対しては反りを十分に抑制することができない。
一方、特許文献3〜8のようにp型不純物元素を含む微結晶シリコン膜をBSF層に用いた場合、シリコン基板の反りについては抑制することができるものの、品質が良好な微結晶シリコン膜を形成することが難しいという問題がある。特に、微結晶シリコン膜は、その形成条件によってはシリコン基板にエピタキシャル成長し易く、エピタキシャル成長した場合には、p型不純物元素を含むことに起因する格子の不整合によって膜ストレスを生じ、大きな結晶粒界や欠陥が発生する。そして、この大きな結晶粒界や欠陥は、キャリアの再結合を促進させるため、開放電圧が低下してしまう。また、特許文献5のように、p型不純物元素を含む微結晶及び非晶質の水素化シリコンの混合膜をBSF層に用いた場合でも、その格子定数がシリコン基板に近いために膜全体がエピタキシャル成長し易く、エピタキシャル成長した膜では上記と同様にキャリアの再結合を促進させる。かかるエピタキシャル成長は、非晶質の水素化シリコンの比率を増加させることにより抑制することができるものの、その代わりに導電率が低下し、セルを作製した場合に直列抵抗が増大してしまう。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、半導体基板を薄型化しても半導体基板の反りが生じないと共に、キャリア再結合の抑制効果が高く、直列抵抗が小さい光起電力装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、p型不純物元素及び酸素を含む水素化珪素膜から構成される裏面電界層を半導体基板と裏面電極との間に具備する光起電力装置であって、前記裏面電界層が、前記半導体基板側に形成されたエピタキシャル層と、前記裏面電極側に形成された無配向微結晶層とを含むことを特徴とする光起電力装置である。
また、本発明は、水素化珪素ガス、炭酸ガス、p型不純物元素の水素化物ガス及び水素ガスを含むガス雰囲気下でプラズマCVDを行うことによりp型不純物元素及び酸素を含む水素化珪素膜から構成される裏面電界層を半導体基板上に形成した後、前記裏面電界層上に裏面電極を形成する光起電力装置の製造方法であって、前記炭酸ガスの流量を前記水素化珪素ガスの流量の1/5未満とすることでエピタキシャル層を形成した後、前記炭酸ガスの流量を前記水素化珪素ガスの流量の1/5以上とすることで無配向微結晶層を形成することを特徴とする光起電力装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体基板を薄型化しても半導体基板の反りが生じないと共に、キャリア再結合の抑制効果に優れ、直列抵抗が小さい光起電力装置及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態1における光起電力装置の断面模式図である。図1において、光起電力装置は、半導体基板1と、半導体基板1の非受光面側に順次形成された裏面電界層2及び裏面電極5と、半導体基板1の受光面側に順次形成された不純物拡散層6、反射防止膜7及び表面電極8とから構成されている。そして、裏面電界層2は、半導体基板1側に形成されたエピタキシャル層3と、裏面電極5側に形成された無配向微結晶層4とを含む。
【0012】
半導体基板1としては、特に限定されることはなく、p型及びn型の半導体基板のいずれであってもよい。かかる半導体基板1としては、例えば、多結晶シリコン基板や単結晶シリコン基板を用いることができる。
半導体基板1の厚さも特に限定されることはないが、印刷及び焼成により裏面電界層2及び裏面電極5を形成する従来の方法では半導体基板の反りが生じるために用いることが困難であった100μm以下の薄型半導体基板も用いることが可能である。
【0013】
裏面電界層2は、少数キャリアを内部電界により半導体基板1内部へ押し戻し、裏面電極5近傍でのキャリア再結合を抑制するための層であって、p型不純物元素及び酸素を含む水素化珪素膜である。ここで、p型不純物元素としては、特に限定されることはなく、例えば、硼素、窒素、リン、ヒ素等が挙げられる。
また、裏面電界層2は、半導体基板1側に形成されたエピタキシャル層3と、裏面電極5側に形成された無配向微結晶層4を含む。ここで、エピタキシャル層3と無配向微結晶層4との間は、両方の層が混在し、エピタキシャル層3が無配向微結晶層4に連続的に変化する層(以下、混合層という)となっている。なお、図1では、混合層については図示していない。
このような裏面電界層2の構成により、少数キャリアを内部電界により半導体基板1内部へ押し戻し、裏面電極5近傍でのキャリア再結合を抑制して光電変換効率を高める効果(以下、「BSF効果」という)だけでなく、半導体基板1の界面の欠陥を不活性化し、この界面特性を向上させる効果(以下、「パッシベーション効果」という)も得られる。さらに、かかる裏面電界層2は結晶状態にあるので直列抵抗も小さい。
【0014】
裏面電界層2をエピタキシャル層3のみから構成した場合には、半導体基板1との界面の状態は良好であるものの、エピタキシャル層3中に大きな結晶粒界や欠陥が発生してしまい、上記効果が十分に得られない。また、裏面電界層2を無配向微結晶層4のみから構成した場合には、半導体基板1との界面において格子欠陥が発生し、上記効果が十分に得られなかったり、直列抵抗が大きくなったりする等の問題がある。
これに対して実施の形態1における裏面電界層2では、半導体基板1側に半導体基板1との界面の状態が良好なエピタキシャル層3を形成し、且つ結晶粒界や欠陥が発生しないようにエピタキシャル層3を無配向微結晶層4に連続的に変化させた構造とすることで、上記効果が達成される。
【0015】
裏面電界層2の厚さは、30nm以上100nm以下であることが好ましい。裏面電界層2の厚さが30nm未満であると、混合層の厚さが10〜15nm程度となるため、エピタキシャル層3から無配向微結晶層4へのスムーズな変化が得られないことがある。また、裏面電界層2の厚さが100nmを超えると、無配向微結晶層4が厚すぎ、キャリア再結合が生じる可能性が高くなる。
エピタキシャル層3の厚さは、層中に結晶粒界や欠陥が発生しない程度の厚さであれば特に限定されることはなく、また、無配向微結晶層4の厚さも、エピタキシャル層3と裏面電極5とが直接接触しないようにすれば特に限定されることはない。
【0016】
裏面電極5は、キャリアを取り出すための電極である。裏面電極5としては、特に限定されることはなく、例えば、AlやAg等の金属を用いることができる。また、裏面電極5の厚さは、特に限定されることはなく、作製する光起電力装置の大きさに併せて適宜設定することができる。
不純物拡散層6としては、半導体基板1がp型であればn型の不純物拡散層6を、半導体基板1がn型であればp型の不純物拡散層6を用いることができる。かかる不純物拡散層6は、例えば、半導体基板1の表面を、不純物元素を含むガス雰囲気中に曝しながら熱処理することにより形成することができる。
不純物拡散層6の厚さは、特に限定されることはなく、一般に0.05μm以上1μm以下である。
なお、入射光の反射を低減する観点から、不純物拡散層6の形成前に予め半導体基板1にテクスチャを形成しておいてもよい。
【0017】
反射防止膜7としては、特に限定されることはなく、例えば、SiNやTiO等を使用することができる。
表面電極8は、電子を取り出すための電極である。表面電極8としては、特に限定されることはなく、例えば、AlやAg等の金属を用いることができる。また、表面電極8の厚さも特に限定されることはなく、作製する光起電力装置の大きさに併せて適宜設定することができる。
【0018】
次に、実施の形態1の光起電力装置の製造方法について説明する。
まず、半導体基板1の受光面側に不純物拡散層6、反射防止膜7及び表面電極8を形成する。これらの形成方法は、特に限定されることはなく、従来公知の方法に従って行うことができる。例えば、半導体基板1の受光面側表面に、異方性エッチングや機械的手段等によりテクスチャを形成した後、気相拡散によって不純物拡散層6を形成して半導体基板1と不純物拡散層6との間をpn接合させる。次いで、プラズマCVD等によって不純物拡散層6上に反射防止膜7を形成した後、電極ペーストを用いて反射防止膜7上に印刷し、焼成することで表面電極8を形成する。
【0019】
次に、半導体基板1の非受光面側に裏面電界層2及び裏面電極5を形成する。
裏面電界層2は、水素化珪素ガス、炭酸ガス、p型不純物元素の水酸化物ガス及び水素ガスを含むガス雰囲気下でプラズマCVDを行うことにより形成される。
ここで、裏面電界層2は、エピタキシャル層3と無配向微結晶層4とから構成されるが、炭酸ガスを入れないか、又は低い流量で炭酸ガスを導入しつつプラズマCVDを行うことでエピタキシャル層3をまず形成し、その後、所定の流量以上の炭酸ガスを導入しつつプラズマCVDを行うことで無配向微結晶層4を形成することができる。具体的には、エピタキシャル層3を形成するための炭酸ガスの流量は、水素化珪素ガスの流量の1/5未満であることが好ましい。また、無配向微結晶層4を形成するための炭酸ガスの流量は、水素化珪素ガスの流量の1/5以上であることが好ましい。かかる方法によれば、炭酸ガスの流量を調整するだけで、エピタキシャル層3から無配向微結晶層4へのスムーズな変化を実現することが可能となる。
ただし、炭酸ガスの流量が水素化珪素ガスの流量の1/5付近であれば、流量を変化させなくても、エピタキシャル層3から無配向微結晶層4へのスムーズな変化が得られる可能性もある。また、プラズマCVDにより形成される層の状態は、使用する装置のチャンバーの大きさ等にも依存するため、上記の構成を有する層が得られるのであれば、炭酸ガスの流量を上記範囲に調整しなくてもよい。
【0020】
プラズマCVDでは、上述のように各ガスの流量を変化させることにより、裏面電界層2に含有される元素の比率を制御することができるが、炭酸ガスを原料ガスとして導入した場合には、炭酸ガス中の酸素のみが裏面電界層2中に取り込まれるため、裏面電界層2中の酸素濃度が制御される。そのため、上記の方法により得られた裏面電界層2では、エピタキシャル層3の酸素濃度が、無配向微結晶層4の酸素濃度よりも低くなる。
なお、酸素、窒素ガスやアンモニアガス、又はメタンガスを炭酸ガスの代わりに用いた場合であっても上記と同じ構造を有する裏面電界層2を得ることができる。ただし、窒素ガス及びアンモニアガスを用いた場合には、これらのガス中の窒素のみが裏面電界層2中に取り込まれるので、エピタキシャル層3の窒素濃度が、無配向微結晶層4の窒素濃度よりも低くなる。同様に、メタンガスを用いた場合には、メタンガス中の炭素のみが裏面電界層2中に取り込まれるので、エピタキシャル層3の炭素濃度が、無配向微結晶層4の炭素濃度よりも低くなる。
【0021】
プラズマCVDの周波数は、裏面電界層2中の水素含有量及び結合状態を最適化する観点から、13.56MHz以上60MHz以下であることが好ましい。かかる範囲の周波数を印加したプラズマCVDを行うことで、裏面電界層2中のSi−H結合を増加させ、水素のパッシベーション効果によって界面の欠陥を不活性化し、この界面特性を向上させることができる。周波数が上記範囲外であると、裏面電界層2中の所望の水素含有量及び結合状態が得られないことがある。
【0022】
裏面電極5は、半導体基板1の非受光面側に裏面電界層2が形成された後、裏面電界層2上に形成される。裏面電極5の形成方法は、特に限定されることはなく、従来公知の方法に従って行うことができる。例えば、裏面電極5は、真空蒸着やスパッタ法によって裏面電界層2上に形成することができる。
【0023】
ここで、半導体基板1の非受光面側に裏面電界層2及び裏面電極5が形成された直後は、半導体基板1と裏面電界層2との間の界面の欠陥に起因して良好なBSF効果及びパッシベーション効果が得られないことがある。そのため、かかる半導体基板1と裏面電界層2との間の界面状態を改善する観点から、裏面電極5の形成後、200℃以上300℃以下の温度でアニールすることが好ましい。かかる温度が200℃未満であると、界面状態の改善効果が十分でないことがある。また、かかる温度が300℃を超えると、裏面電界層2の特性が劣化することがある。
また、アニールを行う時間は、特に限定されることはなく、半導体基板1や裏面電界層2の大きさ等に併せて適宜設定すればよい。
【0024】
実施の形態2.
図2は、本実施の形態2における光起電力装置の断面模式図である。図2において、実施の形態2の光起電力装置は、実施の形態1の光起電力装置と基本的な構成は同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
実施の形態2の光起電力装置は、半導体基板1と裏面電界層2との間に形成され、且つ開口部を有するパッシベーション層9をさらに具備する点で、実施の形態1の光起電力装置と相違する。ここで、パッシベーション層9の開口部では、半導体基板1に裏面電界層2が直接接続される。かかる開口部は、裏面電極5の集電性を向上させる観点から、縦横一定間隔で配列されていることが好ましい。
かかるパッシベーション層9は、裏面電界層2と比べて、パッシベーション効果がより優れているので、かかる構成を有する光起電力装置は、キャリアの再結合の抑制効果がより一層大きくなり、開放電圧をより一層高めることができる。
【0025】
パッシベーション層9としては、パッシベーション効果を有する層であれば特に限定されることはなく、例えば、酸化珪素膜、窒化珪素膜、炭化珪素膜及び炭化窒化珪素膜からなる群より選択されるアモルファス珪素膜を用いることができる。
パッシベーション層9の厚さは、特に限定されることはなく、作製する光起電力装置の大きさに併せて適宜設定することができる。
【0026】
次に、実施の形態2の光起電力装置の製造方法について説明する。
実施の形態2の光起電力装置の製造方法は、実施の形態1の光起電力装置の製造方法と基本的な構成が同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
まず、半導体基板1の非受光面側にパッシベーション層9を形成した後、パッシベーション層9に開口部を設けることにより、所望の形状のパッシベーション層9を形成することができる。かかるパッシベーション層9の形成方法としては、特に限定されることはなく、プラズマCVD、常温CVD、減圧CVD等の公知の方法を用いることができる。また、開口部を設ける方法も、特に限定されることはなく、フォトエッチング等の公知の方法を用いることができる。
このようにして半導体基板1の非受光面側に開口部を設けたパッシベーション層9を形成した後、その上に裏面電界層2及び裏面電極5を順次形成すればよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
[実施例1]
200μmの厚さ及び1Ωcmの抵抗率を有するp型多結晶シリコンを基板とし、アルカリ溶液中でスライス時のワイヤーソーダメージを除去した後、アルカリ溶液を用いる異方性エッチングにより当該基板の受光面側表面にテクスチャを形成した。次に、POClガス雰囲気下でアニールすることにより当該基板にリン拡散層を形成した。次に、当該基板表面に形成されたリンガラス層をフッ酸により除去した後、シランガス及びアンモニアガスを原料ガスとするプラズマCVDにより、SiNから構成される反射防止膜を受光面側のリン拡散層上に形成した。次に、形成された反射防止膜を保護した後、フッ硝酸を用い、非受光面側表面を5μm程度エッチングしてリン拡散層を完全に除去した。次に、反射防止膜上にAg電極ペーストを櫛型に印刷し、800℃で焼成することにより表面電極を形成した。
【0028】
次に、60MHzのVHFプラズマCVDを用い、基板温度170℃、ガス圧0.5Paの条件下で、シランガスを2.0sccm、水素ガスを200sccm、ジボランガスを1.5sccm流して当該基板の非受光面側表面にエピタキシャル層を形成した後、前記ガスに加えて炭酸ガスを0.5sccm流して無配向微結晶層を形成した。ここで、エピタキシャル層と無配向微結晶層とを含む裏面電界層の厚さは30nmであった。次に、真空蒸着によりAl電極(裏面電極)を裏面電界層上に形成した後、フォーミングガス(水素を5%含むAr)雰囲気下、275℃で30分間アニールし、光起電力装置を得た。
【0029】
[比較例1]
裏面電界層を形成する際に炭酸ガスを追加導入しない点を除き、実施例1と同様にして光起電力装置を得た。ここで、かかる光起電力装置における裏面電界層は、エピタキシャル層のみから構成される。
[比較例2]
基板の非受光面側表面にAl電極をスクリーン印刷した後、800℃で焼成することで、裏面電界層及びAl電極(裏面電極)を形成した点を除き、実施例1と同様にして光起電力装置を得た。
【0030】
実施例1、比較例1及び2の光起電力装置において、AM1.5のソーラーシミュレータを用いて短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(VOC)、曲線因子(FF)及び光電変換効率を測定した。なお、実施例1及び比較例1の光起電力装置については、裏面電極形成後のアニールの前後で当該測定を行った。これらの測定結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示されているように、実施例1の光起電力装置は、比較例1の光起電力装置に比べて光電変換効率が高かった。さらに、実施例1の光起電力装置では、裏面電極形成後にアニールを行った場合に光電変換効率が高くなり、かかる裏面電極形成後にアニールを行った実施例1の光起電力装置は、Al電極を印刷形成した従来の光起電力装置(比較例2)と同程度の特性を有していた。
【0033】
[実施例2]
100μmの厚さに研磨した多結晶シリコン基板(3cm×3cm)の片面に実施例1と同様の方法で裏面電界層及び裏面電極を形成した。この基板の反りを目視によって評価したところ、基板の反りは生じなかった。
[比較例3]
100μmの厚さに研磨した多結晶シリコン基板(3cm×3cm)の片面に比較例2と同様の方法で裏面電界層及び裏面電極を形成した。この基板の反りを目視によって評価したところ、基板の端部に反りが生じた。この反りは、基板中央部を基準とした場合に、5mm程度の大きさであった。
【0034】
[実施例3]
単結晶シリコンを基板として用い、実施例1と同様の条件で基板上に裏面電界層を形成し、当該裏面電界層のTEM観察を行った。その結果を図3に示す。
[比較例4]
単結晶シリコンを基板として用い、比較例1と同様の条件で基板上に裏面電界層を形成し、当該裏面電界層のTEM観察を行った。その結果を図4に示す。
【0035】
図3に示されているように、実施例3の裏面電界層では、単結晶シリコン基板10から20nm付近まではエピタキシャル成長してエピタキシャル層11となり、それを超えるとエピタキシャル層11から無配向微結晶層13に徐々に変化する混合層12となり、それを超えると完全に無配向微結晶層13となっていることがわかる。かかる裏面電界層のエピタキシャル層11及び無配向微結晶層13は、コントラストが一様であることから、欠陥やストレスが少ない良好な層であると考えられる。これに対して、比較例4の裏面電界層では、図4に示されているように、単結晶シリコン基板10上に層全体がエピタキシャル成長してエピタキシャル層11を形成していた。そして、かかるエピタキシャル層11には、層厚方向に大きな粒界が生じていた。
【0036】
[実施例4]
実施例1と同様にして基板の受光面側に、テクスチャ、リン拡散層、反射防止膜及び表面電極を順次形成した。
次に、60MHzのVHFプラズマCVDを用い、基板温度170℃、ガス圧0.5Paの条件下で、シランガス、水素ガス及び炭酸ガスからなる原料ガスを流して60nmの酸素含有非晶質珪素膜(パッシベーション層)を形成した。次に、パッシベーション層の開口部を形成する部分にレーザーを照射し、当該照射部に生じたレーザーによるダメージをフッ硝酸で除去することにより、100μm×100μmの開口部を500μm間隔でパッシベーション層全体に形成した。次に、実施例1と同様にして裏面電界層及び裏面電極を形成した後、アニールを行い、光起電力装置を得た。
【0037】
[比較例5]
裏面電界層を形成する際に炭酸ガスを追加導入しない点を除き、実施例3と同様にして光起電力装置を得た。ここで、かかる光起電力装置における裏面電界層は、エピタキシャル層のみから構成されている。
【0038】
実施例4及び比較例5の光起電力装置において、上記と同様の方法で短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(VOC)、曲線因子(FF)及び光電変換効率を測定したところ、実施例4の光起電力装置は、比較例5の光起電力装置に比べて開放電圧が10mV高かった。
【0039】
以上の結果からわかるように、本発明の光起電力装置は、半導体基板を薄型化しても半導体基板の反りが生じないと共に、キャリア再結合の抑制効果に優れ、直列抵抗が小さいものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施の形態1における光起電力装置の断面模式図である。
【図2】実施の形態2における光起電力装置の断面模式図である。
【図3】実施例3において単結晶シリコン基板に形成した裏面電界層のTEM写真である。
【図4】比較例4において単結晶シリコン基板形成した裏面電界層のTEM写真である。
【符号の説明】
【0041】
1 半導体基板、2 裏面電界層、3、11 エピタキシャル層、4、13 無配向微結晶層、5 裏面電極、6 不純物拡散層、7 反射防止膜、8 表面電極、9 パッシベーション層、10 単結晶シリコン基板、 12 混合層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型不純物元素及び酸素を含む水素化珪素膜から構成される裏面電界層を半導体基板と裏面電極との間に具備する光起電力装置であって、
前記裏面電界層が、前記半導体基板側に形成されたエピタキシャル層と、前記裏面電極側に形成された無配向微結晶層とを含むことを特徴とする光起電力装置。
【請求項2】
前記p型不純物元素が硼素であることを特徴とする請求項1に記載の光起電力装置。
【請求項3】
前記エピタキシャル層の酸素濃度が、前記無配向微結晶層の酸素濃度よりも低いことを特徴とする請求項1又は2に記載の光起電力装置。
【請求項4】
前記裏面電界層の厚さが、30nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光起電力装置。
【請求項5】
前記半導体基板と前記裏面電界層との間に形成され、且つ開口部を有するパッシベーション層をさらに具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光起電力装置。
【請求項6】
前記パッシベーション層が、酸化珪素膜、窒化珪素膜、炭化珪素膜及び炭化窒化珪素膜からなる群より選択されるアモルファス珪素膜であることを特徴とする請求項5に記載の光起電力装置。
【請求項7】
水素化珪素ガス、炭酸ガス、p型不純物元素の水素化物ガス及び水素ガスを含むガス雰囲気下でプラズマCVDを行うことによりp型不純物元素及び酸素を含む水素化珪素膜から構成される裏面電界層を半導体基板上に形成した後、前記裏面電界層上に裏面電極を形成する光起電力装置の製造方法であって、
前記炭酸ガスの流量を前記水素化珪素ガスの流量の1/5未満とすることでエピタキシャル層を形成した後、前記炭酸ガスの流量を前記水素化珪素ガスの流量の1/5以上とすることで無配向微結晶層を形成することを特徴とする光起電力装置の製造方法。
【請求項8】
前記p型不純物元素の水素化物ガスが、水素化硼素ガスであることを特徴とする請求項7に記載の光起電力装置の製造方法。
【請求項9】
前記裏面電極の形成後に200℃以上300以下の温度でアニールすることを特徴とする請求項7又は8に記載の光起電力装置の製造方法。
【請求項10】
前記プラズマCVDにおける周波数が、13.56MHz以上60MHz以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の光起電力装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−140941(P2009−140941A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312226(P2007−312226)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム未来技術研究開発 未来型超薄型多結晶シリコン太陽電池の研究開発(放電加工スライス、セルプロセス)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】