説明

光輝性複層塗膜形成方法および塗装物

【課題】 設計膜厚に対する光輝性塗膜厚の変動幅が±3μm程度であっても、外観不良を起こさず、良好な塗膜外観を有する高彩度の赤系〜黄系光輝性複層塗膜が得られる光輝性複層塗膜形成方法、および、その塗装物を提供する。
【解決手段】 被塗基材10にカラーベース塗膜20を形成した後、光輝性塗膜30のハイライト部分における干渉色と、カラーベース塗膜色とを、マンセル色相が10RP〜10Yの範囲内の同系色とする光輝性塗膜30を形成し、さらに光輝性塗膜30上にトップクリヤー塗膜40を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や家電製品などに好適に用いられ、優れた外観を与える光輝性複層塗膜形成方法および塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高彩度系光輝性塗色ベースコートには、通常、アルミニウムフレーク顔料やマイカフレーク顔料などの光輝性顔料が配合されている。これらの光輝性顔料は、メタリック調等の光輝感を発現するため、自動車や家電製品などの高い意匠性が求められる分野において、好適に用いられている。
【0003】
これに関して、カラーベース塗膜上に干渉性顔料を含有する干渉性塗膜を形成した後、干渉性顔料の干渉色と同系色の有彩色有機樹脂粒子を含む艶消しトップクリヤーコート層を形成して得られる真珠光沢塗膜に関する技術が特許文献1に開示されている。また、カラーベース塗膜上に、ベースカラー塗膜、マイカベース塗膜、および、クリヤー塗膜を順次形成し、マイカベースが透明性顔料と非透明性顔料とを含むことを特徴とする技術が特許文献2に開示されている。さらには、マンセル表示の10色相環の色相が同系色であり、マンセル表示の彩度の差が5以下、明度の差が3以下である着色アルミニウム顔料および補助着色顔料を含む塗料組成物を、カラーベース塗膜上に塗布して光輝性ベース塗膜を形成する技術が特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開2002−273335号公報
【特許文献2】特開2003−236465号公報
【特許文献3】特開2002−121488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光輝性複層塗膜形成技術においては、カラーベース塗膜、光輝性塗膜、および、クリヤー塗膜を順次形成して焼付乾燥する3コート2ベーク(3C2B)塗装系が一般的である。これらの塗膜はいずれも、膜厚が平均15μm以上であるのが通常であり、設計膜厚に対する光輝性塗膜厚の変動幅が±3μm程度で管理された場合、色ムラ等の外観上の不具合が生じることは少なかった。
【0005】
ところが、近年では、上記の各塗膜をウェットオンウェットで塗装後、一時に焼付乾燥する3コート1ベーク(3C1B)塗装系が主流となりつつある。この塗装系では、1層あたりの設計膜厚が10μm前後と薄膜であるため、僅かな膜厚変動によって色ムラが生じてしまう。特に、本来的に隠蔽力が低く、塗膜厚の影響を受け易い高彩度の赤〜黄系塗色においては、上記の傾向は顕著である。従って、色ムラを生じることなく、目的の塗装色を実現するためには、設計膜厚に対する光輝性塗膜厚の変動幅を±1μm以内に抑える必要があるが、特別な塗膜厚の管理技術およびノウハウが必要となり、その実現は非常に困難であった。また、塗膜厚の管理幅を逸脱した光輝性塗膜の色彩変動(色差)は大きく、外観不良の原因となるため、自動車等の生産ライン上の大きな課題となっていた。
【0006】
一方、従来の塗装系の設計膜厚に対する光輝性塗膜厚管理幅は±3μmであることから、かかる管理幅でもって外観不良を起こさずに高彩度の赤〜黄系塗色を実現できる光輝性塗膜形成技術が求められていた。しかしながら、上記いずれの従来技術においても、塗膜厚の管理幅にかかる問題点を解決課題としていなかった。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、設計膜厚に対する光輝性塗膜厚の変動幅が±3μm程度であっても、外観不良を起こさず、良好な塗膜外観を有する高彩度の赤〜黄系光輝性複層塗膜が得られる光輝性複層塗膜形成方法、および、その塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、カラーベース塗膜、光輝性塗膜、および、トップクリヤー塗膜を有する光輝性複層塗膜において、光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色と、カラーベース塗膜色とを、マンセル色相が10RP〜10Yの範囲内の同系色とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 被塗基材上に赤系〜黄系の色相を有する光輝性複層塗膜を形成する光輝性複層塗膜形成方法であって、前記被塗基材にカラーベース塗料を塗装してカラーベース塗膜を形成する工程と、前記カラーベース塗膜上に光輝性塗料を塗装して光輝性塗膜を形成する工程と、前記光輝性塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装してトップクリヤー塗膜を形成する工程と、を含み、前記光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色と前記カラーベース塗膜色とを、マンセル色相が10RP〜10Yの範囲内の同系色とする光輝性複層塗膜形成方法。
【0010】
(2) 前記光輝性塗料を、光輝性顔料を塗料固形分あたり3質量%以上10質量%以下含み、且つ、有彩色着色顔料を塗料固形分あたり0.3質量%以上2.0質量%以下含むものとする(1)記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【0011】
(3) 前記カラーベース塗料を、有彩色着色顔料を塗料固形分あたり15質量%以上40質量%以下含むものとする(1)または(2)に記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【0012】
(4) 100色相分割されたマンセル色相環上において、前記光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色を色相0と定め、色相0を基準に左回り+50、右回り−50で表示したとき、前記カラーベース塗膜の色相を、0〜+10または0〜−10の色相範囲とする(1)から(3)いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【0013】
(5) 前記光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色のマンセル色相を10R〜10YRとし、且つ、明度を4.0〜7.0とする(1)から(4)いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【0014】
(6) 前記カラーベース塗膜のマンセル色相を10R〜10YRとし、且つ、明度を4.0〜7.0とする(1)から(5)いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【0015】
(7) 前記カラーベース塗膜のマンセル表色系における彩度を8以上とする(6)記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【0016】
(8) 前記光輝性顔料をマイカフレーク顔料とする(1)から(7)いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【0017】
(9) (1)から(8)いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法により得られた塗装物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、3C1B塗装系においても、設計膜厚に対する光輝性塗膜厚の変動幅が±3μm程度であっても、外観不良を起こさず、良好な塗膜外観を有する高彩度の赤系〜黄系光輝性複層塗膜が得られる光輝性複層塗膜形成方法、および、その塗装物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本発明の光輝性複層塗膜形成方法を図1に示す。本発明の光輝性複層塗膜形成方法は、先ず、被塗基材10にカラーベース塗膜20を形成する。次いで、光輝性顔料31および有彩色着色顔料32を含有し、カラーベース塗膜色と同系色であって、塗膜のハイライト部分における干渉色のマンセル色相が10RP〜10Yの範囲内である光輝性塗膜30を形成する。さらに、光輝性塗膜30上にトップクリヤー塗膜40を形成する。
【0021】
光輝性塗膜30の乾燥膜厚は、5μm以上15μm以下が好ましい。5μm未満では、高彩度の赤系〜黄系塗色を実現するのが困難であり、15μmを超えると塗膜外観不良を生じるおそれがある。より好ましくは7μm以上13μm以下である。
【0022】
<被塗基材>
本発明の光輝性複層塗膜形成方法で用いる被塗基材としては、特に限定されるものでなく、鉄、アルミニウム、銅またはこれらの合金などの金属類;ガラス、セメント、コンクリートなどの無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂類や各種のFRPなどのプラスチック材料;木材、繊維材料(紙、布など)などの天然または合成材料などが挙げられる。
【0023】
導電性基材を被塗基材として用いる場合には、予め化成処理や電着塗装などによる下塗り塗装を施したものや、下塗り塗装および中塗り塗装を施したものであることが好ましい。また、非導電性基材を被塗基材として用いる場合には、予め化成処理を施したものや、必要により導電処理を行った後にプライマー塗装を施したものであることが好ましい。
【0024】
下塗り塗装によって形成される下塗り塗膜は、基材との密着性、基材表面の隠蔽性、防食性、および、防錆性を付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗布した後、焼付乾燥することで得られる。下塗り塗膜の膜厚は、例えば、8μm以上30μm以下である。下塗り塗料としては特に限定されず、例えば、カチオン電着塗料やアニオン電着塗料などを挙げることができる。これらは電着塗装された後、用いた塗料の種類に応じて焼付乾燥される。
【0025】
また、中塗り塗装によって形成される中塗り塗膜は、基材表面や下塗り塗膜との密着性、隠蔽性、耐チッピング性を付与する目的で、基材上または下塗り塗膜上に中塗り塗料を塗布することにより形成される。中塗り塗膜の膜厚は、例えば、10μm以上50μm以下である。中塗り塗料としては特に限定されず、例えば、水酸基含有ポリエステル樹脂および/または水酸基含有アクリル樹脂と、メラミン樹脂および/またはブロック化ポリイソシアネートとを配合した塗料などが挙げられる。これらは、用いる塗料の形態に応じて、塗布された後、常温乾燥または焼付乾燥によって乾燥、硬化される。
【0026】
<カラーベース塗膜>
本発明の光輝性複層塗膜形成方法においては、カラーベース塗膜20を形成するためにカラーベース塗料が用いられる。カラーベース塗料には、有彩色着色顔料、体質顔料、ビヒクル等が含まれる。
【0027】
溶剤としては、従来公知のものが使用可能であるが、好ましくは、キシレン、トルエン、酢酸エチルを各10〜20質量%程度用いることができる。また、塗料の加熱残分は、30〜50質量%であり、好ましくは40〜50質量%である。
【0028】
[有彩色着色顔料]
カラーベース塗料に含有される有彩色着色顔料としては、一般的な有彩色着色顔料が使用できる。例えば、イソインドリノン系イエロー(商品名「パリオトールエロー2140HD」チバスペシャルケミカルズ社製)、ビスマスバナデイト系イエロー(商品名「シコパールエローL1100」BASF社製、商品名「イルガジンエロー2GLMA」チバスペシャルケミカルズ社製)、アゾメチン系イエロー(商品名「イルガジンエロー5GLT」チバスペシャルケミカルズ社製)、酸化鉄系イエロー(商品名「マピコエローLL−XL0」チタン工業社製、商品名「シコトランスエローL1916」BASF社製)、酸化鉄系レッド(商品名「バイフェロックス120FS」バイエル社製)、ジケトピロロピロール系レッド(商品名「イルガジンDPPレッドBO」チバスペシャルケミカルズ社製、商品名「イルガジンDPPレッドFTX」チバスペシャルケミカルズ社製)等を組み合わせて用いることができる。また、明度調製用の顔料として、酸化チタン系ホワイト、カーボンブラックなどが好ましく用いられる。
【0029】
本発明におけるカラーベース塗膜20は、マンセル色相環上の色相が、後述する光輝性塗膜30のハイライト部分における干渉色と同系色である。具体的には、光輝性塗膜30のハイライト部分における干渉色を色相0と定め、100色相分割されたマンセル色相環上の色相を、色相0を基準に左回り+50、右回り−50で表示した際に、カラーベース塗膜20が、0〜+10または0〜−10の色相範囲にあるものを用いることが好ましい。
【0030】
ここで、本発明における「ハイライト部」とは、たとえば、被観察塗膜面に対し45度角で入射した光の90〜135度角方向を意味する。
【0031】
また、マンセル色相環とは、赤(R)、黄(Y)、緑(G)、青(B)、紫(P)の5つの基本色相と、黄赤(YR)、黄緑(YG)、青緑(BG)、青紫(PB)、赤紫(RP)の5つの中間色相があり、各色相に0〜10の目盛りを付して、環状に表したものである。明度とは、理想的な黒を0、理想的な白を10としたスケールで表し、明るさを色相に関係なく比較する度合いである。また、彩度は、その色の中の純色成分の含まれ具合をいい、無彩色を0とし、色相、明度によってその上限は異なるものである。
【0032】
例えば、図2に示すように、色相が10R〜10YR(オレンジ系色)である光輝性塗膜30を用いた場合、カラーベース塗膜20の色相は、10RP〜10Yの範囲内にあることが好ましい。
【0033】
また、着色顔料以外にも体質顔料を用いることができ、その種類は特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が挙げられる。これら着色顔料、体質顔料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらには、上記カラーベース塗料における全顔料濃度(PWC)としては、15〜40質量%であり、好ましくは、20〜30質量%である。40質量%を超えると、塗膜外観不良が生じるおそれがある。
【0034】
[ビヒクル]
ビヒクルを構成する塗膜形成用樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテル樹脂などが挙げられ、特に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。また、必要に応じて架橋剤としてアミノ樹脂、ブロックポリイソシアネートを配合することができる。
【0035】
アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピルなどのエステル化物、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジブチルメタクリルアミドなどのアミド基含有アクリルモノマー、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。また、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0036】
ポリエステル樹脂としては、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを縮合してなるオイルフリーポリエステル樹脂の他、多価アルコール成分および多塩基酸成分に、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、桐油、サフラワー油、大豆油、アマニ油、トール油、ヤシ油など、および、それらの脂肪酸のうち少なくとも1種以上の混合物である油成分を添加して反応させることにより得られる油変性ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0037】
また、架橋剤としては、アミノ樹脂、ブロックポリイソシアネートなどを用いることができるが、好ましくはアミノ樹脂が用いられ、具体的にはジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−メチロールメラミン、および、それらのアルキルエーテル化物(アルキルはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルなど)、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−メラミン共縮合物などが挙げられる。これらのうち、より好ましく用いられるのはメラミン樹脂である。
【0038】
ブロックポリイソシアネートは、ブロック剤でブロックされたポリイソシアネートであり、昇温することによりブロック剤が解離し、アクリル樹脂やポリエステル樹脂と架橋反応するものである。具体例としては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどの脂肪族−芳香族イソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネートのダイマーまたはトリマー、などのトリまたはそれ以上のポリイソシアネートが挙げられる。ブロック剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコールなどのアルコール、ジエタノールアミンなどの第3級アミン、カプロラクタムなどのラクタム、メチルエチルケトオキシムなどのオキシムが挙げられる。
【0039】
塗膜形成用樹脂と架橋剤との配合割合は、塗膜形成用樹脂が50質量%以上90質量%以下、架橋剤が10質量%以上50質量%以下である。より好ましくは、塗膜形成用樹脂が60質量%以上85質量%以下であり、架橋剤が15質量%以上40質量%以下である。架橋剤が10質量%未満では(塗膜形成用樹脂が90質量%を超えると)、塗膜中の架橋密度が十分でない。一方、架橋剤が50質量%を超えると(塗膜形成用樹脂が50質量%未満では)、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに架橋反応速度が大きくなるため、塗膜外観が悪化する。
【0040】
さらに、カラーベース塗料は、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を添加することができる。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを使用でき、例えば、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの;酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの;有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの;ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料;顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料;架橋または非架橋の樹脂粒子等を挙げることができる。
【0041】
本発明の塗料組成物には、その他の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、シリコーンおよび有機高分子のような表面調整剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール等が挙げられる。特に、表面調整剤としては、アクリル系表面調整剤が好適に用いられる。
【0042】
本発明に用いられる塗料組成物の製造方法は、後述するものを含めて、特に限定されず、顔料等の配合物をニーダーまたはロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の方法により製造される。
【0043】
<光輝性塗膜>
本発明の光輝性複層塗膜形成方法では、被塗基材上にカラーベース塗膜を形成した後、光輝性塗膜を形成する。光輝性塗膜形成の際には、ウェットオンウェット法を採用することもできる。光輝性塗膜は、光輝性顔料、有彩色着色顔料、および、ビヒクルを含有する光輝性塗料により形成される。
【0044】
光輝性塗膜の乾燥膜厚は、5μm以上15μm以下が好ましい。5μm未満では、高彩度の赤〜黄系塗色を実現するのが困難であり、15μmを超えると塗膜外観不良を生じるおそれがある。より好ましくは7μm以上13μm以下である。
【0045】
溶剤としては、従来公知のものが使用可能であるが、好ましくは、キシレン、トルエン、酢酸エチルを各10〜20質量%程度用いることができる。また、塗料の加熱残分は、30〜50質量%であり、好ましくは35〜45質量%である。
【0046】
[光輝性顔料]
光輝性塗料に含まれる光輝性顔料としては、マイカフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料、チタンフレーク顔料、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料より選ばれた少なくとも一種の顔料を用いることができる。好ましくはマイカフレーク顔料が用いられる。このようなマイカフレーク顔料としては、干渉性マイカ(商品名「イリオジン302」メルク社製、商品名「イリオジンウルトラ7205」メルク社製、商品名「イリオジン303」メルク社製、商品名「シラリックT60−20」メルク社製、商品名「シラリックT60−21」メルク社製、商品名「イリオジンウルトラ7215」メルク社製、商品名「イリオジン215」メルク社製等)、着色マイカ(商品名「イリオジン504」メルク社製、商品名「イリオジン524」メルク社製、商品名「イリオジン522」メルク社製、商品名「カラーストリームT20−02」メルク社製等)が挙げられる。光輝性顔料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
光輝性顔料の光輝性塗膜中のPWCは、好ましくは3質量%以上10質量%以下、より好ましくは5質量%以上7質量%以下である。3質量%未満では高彩度の赤〜黄系塗色を実現するのが困難であり、7質量%を超えると塗膜外観が低下するおそれがある。
【0048】
[有彩色着色顔料]
有彩色着色顔料としては、例えば酸化チタン系ホワイト、イソインドリノン系イエロー(商品名「パリオトールエロー2140HD」チバスペシャルケミカルズ社製)、ビスマスバナデイト系イエロー(商品名「シコパールエローL1100」BASF社製、商品名「イルガジンエロー2GLMA」チバスペシャルケミカルズ社製)、アゾメチン系イエロー(商品名「イルガジンエロー5GLT」チバスペシャルケミカルズ社製)、酸化鉄系イエロー(商品名「マピコエローLL−XL0」チタン工業社製、商品名「シコトランスエローL1916」BASF社製)、酸化鉄系レッド(商品名「バイフェロックス120FS」バイエル社製)、ジケトピロロピロール系レッド(商品名「イルガジンDPPレッドBO」チバスペシャルケミカルズ社製、商品名「イルガジンDPPレッドFTX」チバスペシャルケミカルズ社製)等を組み合わせて用いることができる。
【0049】
[ビヒクル]
ビヒクルを構成する塗膜形成用樹脂、必要に応じて配合することができる架橋剤はカラーベース塗膜と同様のものを用いることができる。塗膜形成用樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテル樹脂などが挙げられ、特に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。また、架橋剤としては、アミノ樹脂、ブロックポリイソシアネートを配合することができる。
【0050】
[その他の成分]
上記光輝性塗料は、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子などの表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)などを適宜添加して含有することができる。特に、表面調整剤としては、アクリル系表面調整剤が好適に用いられる。
【0051】
また、その他の顔料として、有機系としてはアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などを添加することができ、無機系としては黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどを添加することができる。また、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカなどの各種体質顔料などを併用することができる。
【0052】
[トップクリヤー塗膜]
本発明の光輝性複層塗膜形成方法では、カラーベース塗膜、光輝性塗膜を形成した後、ウェットオンウェット法により、トップクリヤー塗膜を形成する。
【0053】
トップクリヤー塗膜を形成するトップクリヤー塗料としては、上塗り用として常用されているものを用いることができる。例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、および、これらの変性樹脂から選ばれた少なくとも一種の架橋反応性樹脂と上記の架橋剤とを混合したものを用いることができる。例えば、アクリル−メラミン系自動車用トップコートクリヤー、酸-エポキシ硬化系、またはウレタン系トップコートクリヤーを用いることができる。
【0054】
これらのトップクリヤー塗料は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で、着色顔料、体質顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤などの添加剤を配合することが可能である。特公平8−19315号公報に記載されたカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するクリヤー塗料が、酸性雨対策という観点から好ましく用いられる。また、トップクリヤー塗料は、溶剤型、水性、または、粉体型などの種々の形態を採用できる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよく、二液型ウレタン樹脂塗料などのような二液型塗料を用いてもよい。
【0055】
トップクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、15μm以上50μm以下が好ましい。この範囲を外れると、塗膜外観、塗装作業性において不具合が生じるおそれがある。より好ましくは、35μm以上45μm以下である。
【0056】
カラーベース塗膜、光輝性塗膜、トップクリヤー塗膜の形成方法は、静電、非静電エアー霧化タイプによるスプレー塗装および回転霧化(メタベルおよびマイクロマイクロベル等)による静電塗装、または、カラーベース塗料と光輝性塗料、トップクリヤー塗料の全てをウェットオンウェット塗装する系である。各塗装のインターバルは、0.5分以上15分以下で行うことが好ましく、より好ましくは、光輝性塗料の塗装が0.5分以上2分以下、クリヤー塗料の塗装が5分以上10分以下である。
【0057】
カラーベース塗膜、光輝性塗膜、トップクリヤー塗膜の焼付は、一般的な焼付乾燥炉などの乾燥設備が利用でき、所定温度・所定時間で焼付乾燥・硬化させることにより、上記被塗基材表面に複層からなる光輝性複層塗膜を得ることができる。上記所定温度および所定時間は、カラーベース塗膜、光輝性塗膜、トップクリヤー塗膜の種類に応じて適宜設定することができるが、好ましい焼付乾燥温度は、110℃以上180℃以下であり、更に好ましくは、130℃以上150℃以下である。また、好ましい焼付乾燥時間は、15〜60分間であり、更に好ましくは20〜40分間である。
【0058】
<塗装物>
本発明の塗装物は、上記の光輝性複層塗膜形成方法により得られたものであって、被塗基材にカラーベース塗膜を形成した後、光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色が前記カラーベース塗膜とマンセル色相が10RP〜10YRの範囲内の同系色とする光輝性塗膜を形成し、さらに、前記光輝性塗膜上にトップクリヤー塗膜が形成されたものである。より詳しくは、従来の膜厚管理幅である±3μmにおいても、外観不良を起こさない塗膜外観の良好な塗装物である。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、配合量は、特に断りのない限り質量部を表し、原材料、塗料、機器の名称は、特に断りのない限り商品名を表す。また、乾燥膜厚は、特に断りのない限り焼付乾燥後の平均膜厚を表す。
【0060】
[被塗基材の調製]
ダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)を燐酸亜鉛処理剤(商品名「サーフダインSD2000」日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(商品名「パワートップV−50」日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるようにカチオン電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼付けをした後、中塗り塗料(商品名「オルガP−61M−2」日本ペイント社製)を乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装した後、140℃で30分間焼付乾燥して中塗り塗膜を形成し、被塗基材とした。
【0061】
<実施例1、比較例1〜7>
[カラーベース塗料、光輝性塗料の調製]
カラーベース塗料(塗料1A〜2A)、光輝性塗料(塗料1B〜7B)は、表1に示す材料、配合により、公知の塗料調製方法に従い調製した。
【0062】
[カラーベース塗膜の形成]
被塗基材の被塗面に、平均乾燥膜厚が10μmとなるように、表1記載のカラーベース塗料(塗料1A〜2A)を塗布してカラーベース塗膜を形成した。塗膜形成はベル型静電塗装機(「メタリックベル921MV」、ABBインダストリー社製)を用いて、回転数30,000rpm、シェーピングエアー500NL/分、印加電圧−60KV、吐出量250ccおよび被塗物距離250mmの条件で行った。前記カラーベース塗膜を1分間セッティングした。
【0063】
[光輝性塗膜の形成]
次いで、前記カラーベース塗膜上に、従来の膜厚管理幅でもって平均乾燥膜厚が10μmとなるように、表1記載の光輝性塗料(塗料1B〜7B)を塗布して光輝性塗膜を形成した。塗膜形成はベル型静電塗装機(「メタリックベル921MV」、ABBインダストリー社製)を用いて、回転数30,000rpm、シェーピングエアー600NL/分、印加電圧−60KV、吐出量300ccおよび被塗物距離250mmの条件で行った。前記光輝性塗膜を5分間セッティングした。
【0064】
[トップクリヤー塗膜の形成]
次いで、前記光輝性塗膜上に、アクリル−メラミン系クリヤー塗料(商品名「スーパーラックO−80クリヤー」、日本ペイント社製)を、回転霧化型静電塗装機(「マイクロマイクロベル」、ABBインダストリー社製)を用いて、回転数35,000rpmおよび吐出量200ccの条件で、乾燥膜厚が35μmになるように塗布し、トップクリヤー塗膜を形成した。
【0065】
[カラーベース塗膜、光輝性塗膜およびトップクリヤー塗膜の同時焼付乾燥]
前記トップクリヤー塗膜を室温で10分間セッティングした後、下層の前記カラーベース塗膜および前記光輝性塗膜と共に、140℃で30分間焼付乾燥し、実施例1および比較例1〜7の光輝性複層塗膜を得た。
【0066】
<評価>
[色差]
得られた光輝性複層塗膜について、色差計(商品名「NIC」、日産自動車社製)を用いて膜厚変動による色差を測定した。膜厚10μmの塗膜色を基準に、ΔN0.5以内を○、ΔN0.5を超えた場合を×とした。結果を表1に示す。
【0067】
[塗膜外観]
得られた光輝性複層塗膜について、目視による塗膜外観(意匠性)の評価を行った。塗膜外観が良好なものを○、塗膜外観にわずかな瑕疵が認められるものを△、塗膜外観が不良であるものを×とした。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、比較例1〜7においては、設計膜厚に対する光輝性塗膜厚の変動幅が±3μmであると、色差がΔN0.5を超え、塗膜に色ムラが見られる、または、塗膜外観が良好でなかった。これに対し、本発明の光輝性複層塗膜形成方法により得られた実施例1においては、光輝性塗膜厚の変動幅が±3μmであっても色差をおよそΔN0.5以内に抑えることができ、塗膜外観の良好な塗装物を得ることができた。
【0070】
また、図3に示すように、従来技術では、色差をΔN0.5以内に抑えるためには、設計膜厚に対する光輝性塗膜厚の変動幅が±1μm以内に収まるように管理しなけれならなかったが、本発明の光輝性複層塗膜形成方法により、得られた塗装物においては、光輝性塗膜厚の変動幅が±3μmであっても色差をΔN0.5以内に抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の光輝性複層塗膜形成方法を説明するための図である。
【図2】マンセル色相環を示す図である。
【図3】色差と光輝性塗膜厚との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
10 被塗基材
20 カラーベース塗膜
30 光輝性塗膜
31 光輝性顔料
32 有彩色着色顔料
40 トップクリヤー塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗基材上に赤系〜黄系の色相を有する光輝性複層塗膜を形成する光輝性複層塗膜形成方法であって、
前記被塗基材にカラーベース塗料を塗装してカラーベース塗膜を形成する工程と、
前記カラーベース塗膜上に光輝性塗料を塗装して光輝性塗膜を形成する工程と、
前記光輝性塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装してトップクリヤー塗膜を形成する工程と、を含み、
前記光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色と前記カラーベース塗膜色とを、マンセル色相が10RP〜10Yの範囲内の同系色とする光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記光輝性塗料を、光輝性顔料を塗料固形分あたり3質量%以上10質量%以下含み、且つ、有彩色着色顔料を塗料固形分あたり0.3質量%以上2.0質量%以下含むものとする請求項1記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記カラーベース塗料を、有彩色着色顔料を塗料固形分あたり15質量%以上40質量%以下含むものとする請求項1または2記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項4】
100色相分割されたマンセル色相環上において、前記光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色を色相0と定め、色相0を基準に左回り+50、右回り−50で表示したとき、前記カラーベース塗膜の色相を、0〜+10または0〜−10の色相範囲とする請求項1から3いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記光輝性塗膜のハイライト部分における干渉色のマンセル色相を10R〜10YRとし、且つ、明度を4.0〜7.0とする請求項1から4いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項6】
前記カラーベース塗膜のマンセル色相を10R〜10YRとし、且つ、明度を4.0〜7.0とする請求項1から5いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項7】
前記カラーベース塗膜のマンセル表色系における彩度を8以上とする請求項6記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項8】
前記光輝性顔料をマイカフレーク顔料とする請求項1から7いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれか記載の光輝性複層塗膜形成方法により得られた塗装物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−289247(P2006−289247A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112537(P2005−112537)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】