説明

光送信器

【課題】電子回路の出力インターフェースの大容量化に伴い、半導体LSI上で電気信号を光信号に変換する光信号の本数が大幅に増大する。光信号を生成する手段として用いる半導体レーザの信頼性は、半導体LSIに比べて低いため、光信号が増大するに伴い、半導体レーザの数を減らさなければならないという課題がある。
【解決手段】光信号源として、半導体レーザの電流を直接変調する構成ではなく、半導体レーザからの連続光を外部光変調器によって変調し信号を生成する構成とする。半導体レーザからの連続光を分岐し、それぞれの連続光を外部光変調器により信号を生成する。例えば連続光を8分岐すると、半導体レーザの数は1/8に低減され、信頼性が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信器に係り、特に、電子回路の出力インターフェースの大容量化を目的として、電子回路からの出力を光信号に変換し伝送するために有効な超小型光送信器に関し、レーザの数を削減し信頼性を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信インフラの急速な広帯域化、コンピュータ等の情報処理能力の飛躍的な増大などに伴って、非常に高速な情報伝送路を有する情報処理回路へのニーズが高まっている。このような背景のもと、電気信号の伝送速度限界を突破する一つの手段として、光信号による伝送が考えられている。
【0003】
ここで1辺1cmの半導体LSI(Large Scale Integration)から信号を取り出し、伝送することを考える。現状技術である電気信号による伝送の場合、LSIチップから取り出せる信号容量は、1chあたりの容量を10Gbit/s、伝送路のピッチを100μmとすると、10Gbit/s×100本=1Tbit/sが限界となる。この容量は将来の大容量化への要求には不十分である。
【0004】
一方、半導体LSI上で光信号に変換し光信号により伝送する場合、半導体LSIチップから取り出せる信号容量は、1chあたりの容量を40Gbit/s、伝送路(光導波路)のピッチを125μm、8波長多重とすると、25.2Tbit/sと、電気の場合と比較して25倍もの大容量化が実現される。
【特許文献1】特開平10-197837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、高速な情報伝送路を有する情報処理回路に対して、上記25.2Tbit/sを実現するためには、例えば、光信号が640本必要となる。すなわち、640個もの多数のレーザ装置が必要となる。
【0006】
ところで、半導体LSIでは高い信頼性が要求されるが、光信号を生成する半導体レーザの信頼性は、一般に半導体LSIより低い。そのため、半導体LSI並みの高い信頼性を確保するためには、光信号の数は、減らすことなく、半導体レーザの数を極力減らさなければならないという課題が存在する。
【0007】
そこで、本願発明の目的は、半導体LSIに比べて信頼性が低い半導体レーザの台数を極力低減した高速な情報伝送路を有する情報処理回路を実現する技術を提供することである。
【0008】
なお、半導体レーザの数は一定にして置き、光信号の数を増加させるマルチチャンネル光変調装置が、特許文献1(特開平10-197837号公報)に開示されている。ただし、この発明はバルク光学系に対するものであり、本発明の課題である半導体基板上の光導波路光学系に関する構成を開示するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、半導体レーザと光学的に接続され、この半導体レーザから出力されたレーザ光を伝搬する第1の光導波路と、第1の光導波路に接続され、レーザ光を複数の光に分岐する光分岐器と、この光分岐器に設けられた複数の光出力端子の各々に接続された第2の光導波路と、この第2の光導波路の各々に光学的に接続された光変調器と、光変調器の各々に制御信号を供給する電子回路とが、それぞれ半導体基板上に設けられ、
当該制御信号により光変調器を伝搬するレーザ光が変調されることを特徴とする光送信器に達成できる。
【0010】
なお、光信号源として、半導体レーザの電流を直接変調する構成ではなく、半導体レーザからの連続光を外部光変調器によって変調し信号を生成する構成とする。半導体レーザからの連続光を分岐し、それぞれの連続光を外部光変調器により信号を生成する。例えば、連続光を8分岐すると、半導体レーザの数は1/8に低減され、信頼性が高まる。ここで、外部光変調器の信頼性は半導体レーザと比較し高いと考えられており、その数を減らす必要はない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光送信器の信頼性を半導体LSI並みに維持しつつ、半導体LSIチップから大容量の信号を取り出すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施例を、図を用いて詳細に述べる。
<実施例1>
図1に本発明の実施例を示す。本実施例は、レーザ光が4本に分岐される場合を示す。
InPを材料とする半導体基板11上に光変調器駆動回路16-1,16-2,16-3,16-4、レーザ光入力光導波路12、MMI(Multi Mode Interferometer)光分岐器13、光分岐器出力導波路14-1,14-2,14-3,14-4、光変調器15-1,15-2,15-3,15-4が形成される。さらにレーザ18が用意され、レーザ光入力光導波路12と光学的に接続される。レーザ18から出力された連続的なレーザ光は、レーザ光入力光導波路12を通り、MMI光分岐器13で光分岐器出力導波路14-1,14-2,14-3,14-4に分岐される。それぞれの光は、光変調器駆動回路16-1,16-2,16-3,16-4からの電気信号に従って、光変調器15-1,15-2,15-3,15-4で変調され、光ファイバ17-1,17-2,17-3,17-4に出力される。本構成により、信頼性が劣るレーザの数が従来の4個から1個に減る結果、光送信器の信頼性が向上する。
【0013】
本光送信器作製法は以下の通りである。半導体基板11上に光変調器駆動回路16-1,16-2,16-3,16-4を作製する。該作製法は、通常の半導体LSI作製法による。次に、光変調器駆動回路16-1,16-2,16-3,16-4を絶縁膜で保護した後、光変調器15-1,15-2,15-3,15-4の吸収層、レーザ光入力光導波路12、MMI(Multi Mode Interferometer)光分岐器13、及び光分岐器出力導波路14-1,14-2,14-3,14-4のコア層を、有機金属気相成長法により選択的に成長した。続いて絶縁ストライプ形状のマスクを用いて、通例の選択的ドライエッチング技術により光導波路を形成する。光導波路の配置は図1の上面図を参酌して理解される。続いてポリイミドにより平坦化したのち、光変調器駆動回路16-1,16-2,16-3,16-4、及び光変調器15-1,15-2,15-3,15-4に電極を形成する。さらに半導体レーザを準備し、レーザ光入力光導波路12に光学的に結合する。
【0014】
作製した光送信器は、全4本の光変調器15-1,15-2,15-3,15-4から、波長1551nmのレーザ光を40Gbit/sで変調し、良好な光信号を出力した。
【0015】
以上は分岐数4の例を示したが、分岐数は2以上の複数であればよい。MMI光分岐器13でレーザ光を分岐したがY分岐でもよい。又、本発明の典型的な実施の形態として、InP基板上の結晶材料を用いたハイメサリッジ型レーザ構造により説明した。本発明は、GaAs基板、Si基板について同様に適用可能である。又、ハイメサリッジ型レーザだけでなく、いわゆる埋め込み型構造を用いたレーザなどレーザ発振の横モードの閉じ込め構造によらず、同様に適用可能である。又、波長帯は1550nm帯としたが、特に発振波長に制限されることは無い。例えば、本発明は、通信用によく利用される850nmから1620nmの間の波長にも適用可能であり、極めて実用的である。
<実施例2>
図2に本発明の実施例を示す。半導体レーザ21が半導体基板11上に集積されている以外は、実施例2と同じ構成をとる。本光送信器作製法は、光変調器15-1,15-2,15-3,15-4の吸収層、レーザ光入力光導波路12、MMI(Multi Mode Interferometer)光分岐器13、及び光分岐器出力導波路14-1,14-2,14-3,14-4のコア層を形成する前に、半導体レーザ21のゲイン層を成長する以外は、実施例1と同じである。
【0016】
半導体レーザを集積した結果、光送信器が小型化され、半導体LSIチップから大容量の光信号を取り出す場合に、好適な構成となる。
<実施例3>
図3に本発明の実施例を示す。波長の異なるレーザ38-1,38-2からのレーザ光が、光変調器セット33-1,33-2によって変調され、その後に合波され、波長多重信号として出力される。波長多重する結果、出力するための光ファイバ37-1,37-2,37-3,37-4の本数が4本と、波長多重しない場合の半分となり、光導波路と光ファイバの光結合のための調整が容易となる。
【0017】
本実施例の構成は以下の通りである。実施例1の光変調器駆動回路16-1,16-2,16-3,16-4、レーザ光入力光導波路12、MMI(Multi Mode Interferometer)光分岐器13、光分岐器出力導波路14-1,14-2,14-3,14-4、光変調器15-1,15-2,15-3,15-4をセットとした光変調器セット33-1,33-2、レーザ光入力光導波路32-1,32-2、光変調器セット33-1の出力導波路34-1,34-2,34-3,34-4、光変調器セット33-2の出力導波路35-1,35-2,35-3,35-4、MMI光合波器36-1,36-2,36-3,36-4がInP半導体基板上31に形成され、MMI光合波器36-1,36-2,36-3,36-4がからの出力が光ファイバ37-1,37-2,37-3,37-4から出力される。本実施例の作製法は実施例1と同じである。
【0018】
以上はレーザの波長数が2つの例を示したが、レーザ数は2以上の複数であればよい。又、レーザは半導体基板31とは別に形成されていたが、半導体基板31上に形成されている方がより好ましい。また、合波器してMMIとしたが、波長選択性のあるAWG(Arrayed Waveguide Grating)がより好ましい。又、本発明の典型的な実施の形態として、InP基板上の結晶材料を用いたハイメサリッジ型レーザ構造により説明した。本発明は、GaAs基板、Si基板について同様に適用可能である。又、ハイメサリッジ型レーザだけでなく、いわゆる埋め込み型構造を用いたレーザなどレーザ発振の横モードの閉じ込め構造によらず、同様に適用可能である。又、波長帯は1550nm帯としたが、特に発振波長に制限されることは無い。例えば、本発明は、通信用によく利用される850nmから1620nmの間の波長にも適用可能であり、極めて実用的である。
<実施例4>
図4に本発明の作製フローの例を示す。変調器セット19を作る工程と半導体レーザ18を作る工程が独立に進み、最後に変調器セット19と半導体レーザ18とを光結合し光送信器に組み立てる工程からなる。
【0019】
光変調器駆動回路16-1,16-2,16-3,16-4に代表される半導体LSIは通常シリコン基板上に形成される。またレーザ光入力光導波路12、MMI(Multi Mode Interferometer)光分岐器13、光分岐器出力導波路14-1,14-2,14-3,14-4、光変調器15-1,15-2,15-3,15-4もシリコン基板上に形成可能であることが公知である。
【0020】
一方、レーザをシリコン基板上に形成することは大変難しく、InPやGaAsに代表されるIII-V族半導体基板上に形成されることが想定される。よって、変調器セット19を作る工程と半導体レーザ18を作る工程は独立に進み、最後に変調器セット19と半導体レーザ18とを光結合し光送信器に組み上げることが現実的である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に示す光送信器の上面図である。
【図2】本発明の実施例2に示す光送信器の上面図である。
【図3】本発明の実施例3に示す光送信器の上面図である。
【図4】本発明の光送信器を作製するフローを示す図である。
【符号の説明】
【0022】
11…InP半導体基板、12…レーザ光入力光導波路、13…MMI(Multi Mode Interferometer)光分岐器、14-1,14-2,14-3,14-4…光分岐器出力導波路、15-1,15-2,15-3,15-4…光変調器、16-1,16-2,16-3,16-4…光変調器駆動回路、17-1,17-2,17-3,17-4…光ファイバ、18…レーザ、19…変調器セット、21…半導体レーザ、31…InP半導体基板、32-1,32-2…レーザ光入力光導波路、33-1,33-2…光変調器セット、34-1,34-2,34-3,34-4…光変調器セット33-1の出力導波路、35-1,35-2,35-3,35-4…光変調器セット、33-2の出力導波路、36-1,36-2,36-3,36-4…MMI光合波器、37-1,37-2,37-3,37-4…光ファイバ、38-1…波長λ1のレーザ、38-2…波長λ2のレーザ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザと光学的に接続され前記半導体レーザから出力されたレーザ光を伝搬する第1の光導波路と、前記第1の光導波路に接続され前記レーザ光を複数の光に分岐する光分岐器と、前記光分岐器に設けられた複数の光出力端子の各々に接続された第2の光導波路と、前記第2の光導波路の各々に光学的に接続された光変調器と、前記光変調器の各々に制御信号を供給する電子回路とが、それぞれ半導体基板上に設けられ、
前記制御信号により前記光変調器を伝搬する前記レーザ光が変調されることを特徴とする光送信器。
【請求項2】
前記半導体レーザが、前記半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光送信器。
【請求項3】
前記光分岐器が多モード干渉器(MMI)であることを特徴とする請求項1に記載の光送信器。
【請求項4】
前記光分岐器がY分岐であることを特徴とする請求項1に記載の光送信器。
【請求項5】
各々が異なる波長を発振するN(N≧2、Nは整数)個の半導体レーザに光学的に接続され前記半導体レーザの各々から出力されるレーザ光を伝搬するN個の光導波路と、前記N個の光導波路の各々に接続され前記レーザ光をM(Mは整数)個の光に分岐するN個の光分岐器と、前記N個の光分岐器の各々の出力端子に接続されたM個の光分岐器出力導波路と、前記M個の光分岐器出力導波路の各々に光学的に接続された光変調器と、前記光変調器に制御信号を供給する電子回路と、を有し、
前記N個の光分岐器の一つに接続されたM個の光変調器の第i(1≦i≦M)番目の光変調器から出力された第1の波長を有するレーザ光と、前記N個の光分岐器の他の一つに接続されたM個の光変調器の第i(1≦i≦M)番目の光変調器から出力された前記第1の波長と異なる波長を有するレーザ光とを合波するM個の合波器とが、それぞれ半導体基板上に設けられていることを特徴とする光送信器。
【請求項6】
前記合波器が、アレイ導波路型合波器であることを特徴とする請求項5に記載の光送信器。
【請求項7】
前記N個の半導体レーザの少なくとも一つが、前記半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の光送信器。
【請求項8】
請求項1、または5記載の光送信器が形成されたシリコン基板を準備する第1ステップと、
前記第1ステップとは互いに独立に進行し半導体レーザが形成されたIII―V族半導体基板を準備する第2ステップと、を有し、
前記半導体レーザからの出力光を前記光送信器に形成された光導波路に結合するように前記シリコン基板と前記III―V族半導体基板とを組み立てるステップを用いて形成されることを特徴とする光送信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−256716(P2007−256716A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82129(P2006−82129)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】