説明

光送信器

【課題】より安定した光出力を実現させることが可能な光送信器を提供する。
【解決手段】誤差信号計算部は、誤差x(n)の収束予測値xave(n)を計算する。そして、範囲設定部は、収束予測値xave(n)の絶対値が増加するほど変化率収束判定範囲を縮小するように設定し、収束予測値xave(n)の絶対値が減少するほど変化率収束判定範囲を拡大するように設定する。よって、光出力がON/OFFを繰り返して不安定になる問題を回避できる。また、収束予測値xave(n)の絶対値が減少しているときは、早期に光出力を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光信号を送信する光送信器が開示されている。特許文献1の光送信器は、レーザーダイオードと、レーザーダイオードドライバと、熱電素子と、温度制御部と、判定部とを備える。熱電素子は、レーザーダイオードの温度を調整するために設けられる。温度制御部は、熱電素子を駆動するための制御信号を出力する。また、温度制御部は、温度モニタ信号と目標信号との差を示す誤差信号を出力する。判定部は、誤差信号の値が誤差収束判定範囲に連続してとどまり、かつ、誤差信号の値の変化率(以下、誤差変化率と称する)の値が変化率収束判定範囲に連続してとどまる時間が基準値を超えたときに、レーザーダイオードドライバを動作可能にするイネーブル信号を出力する。特許文献1の光送信器は、誤差信号と誤差変化率とがそれぞれの収束判定範囲にあるか否かに基づいて光出力を行うため、レーザーダイオードが所望の温度範囲に収束した後に速やかにイネーブル信号を出力することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−140719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、誤差信号の値が誤差収束判定範囲にとどまり、かつ誤差変化率が変化率収束判定範囲にとどまる時間が基準値を超えることを条件として光出力を行う場合、例えば図6のタイミングチャートに示すように、誤差信号の値が収束していない状態で光信号の出力(TxEnable)がONになることがある。また、光信号の出力がONになった後に、再度、誤差信号の値が誤差収束判定範囲から脱することより、再度、光信号の出力がOFFになることがある。このように、光信号のON/OFFが繰り返され、光出力が不安定になる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、より安定した光出力を実現させることが可能な光送信器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る光送信器は、レーザーダイオードと、前記レーザーダイオードを駆動するレーザーダイオードドライバと、前記レーザーダイオードの温度を調整するための熱電素子と、前記レーザーダイオードの温度に対応する温度モニタ信号を出力するセンサと、前記センサにより出力された前記温度モニタ信号を受信するとともに、前記レーザーダイオードの目標温度を示す目標信号と前記レーザーダイオードドライバを動作可能にするイネーブル信号とを出力するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記温度モニタ信号の値と前記目標信号の値との差に対応する誤差信号を出力するとともに、前記誤差信号の値の収束予測値と前記誤差信号の値の変化率とを周期的に計算する誤差計算部と、前記誤差信号の値が第1の収束判定範囲内にあり、かつ前記変化率が第2の収束判定範囲内にある状態が基準時間だけ継続した場合に、前記イネーブル信号を出力する判定部と、前記誤差計算部が前記収束予測値と前記変化率とを計算する毎に、前記第2の収束判定範囲を設定する範囲設定部とを有し、前記範囲設定部は、前記収束予測値の絶対値に基づいて前記第2の収束判定範囲を設定し、前記範囲設定部が用いる前記収束予測値の絶対値と前記第2の収束判定範囲との対応関係は、前記収束予測値の絶対値が増加すると前記第2の収束判定範囲が減少するように対応付けられる。
【0007】
本発明に係る光送信器によれば、範囲設定部は、誤差信号の値の収束予測値の絶対値が増加すると第2の収束判定範囲を縮小するように設定し、誤差信号の値の収束予測値の絶対値が減少すると第2の収束判定範囲を拡大するように設定する。よって、誤差信号の値が目標値から大きく乖離している場合に、光出力をONになりにくいように制御することが可能となる。また、実際に誤差信号の値が収束していない状態における光出力を抑えることができる。従って、光信号のON/OFFが繰り返され、光出力が不安定になる事象の発生を抑え、より安定した光出力を実現させることができる。なお、収束予測値の絶対値が小さいほど光出力がONになりやすいように制御することも可能となるため、目標値に近い値で収束している状態では早期に光出力を行うことができる。
【0008】
また、本発明に係る光送信器によれば、前記収束予測値と前記第2の収束判定範囲との対応関係を示すテーブルを備え、前記範囲設定部は、前記テーブルを参照し、前記テーブルにおける、前記誤差計算部により計算された前記収束予測値に対応する前記第2の収束判定範囲を設定する。本発明によれば、予め誤差信号の値の収束予測値と第2の収束判定範囲との関係をテーブルとして保持しておくことが可能となる。従って、範囲設定部の処理負担を軽減させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より安定した光出力を実現させることが可能な光送信器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る光送信器を示すブロック図である。
【図2】誤差信号の値と誤差変化率の値との取得タイミングを示すタイミングチャートである。
【図3】ルックアップテーブルの例を示す図である。
【図4】(A)は、誤差信号の波形を示す図である。(B)は、誤差変化率の波形を示す図である。(C)は、イネーブル信号の波形を示す図である。
【図5】光送信器の処理内容を示すフローチャートである。
【図6】従来の光送信器の信号波形を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。光送信器11は、図1に示すように、レーザーダイオード13と、レーザーダイオードドライバ15と、熱電素子17と、コントローラ21と、温度センサ25とを備える。
【0012】
レーザーダイオード13としては、例えば、ファブリペロ型LD、分布帰還(DFB)型LD、または面発光型LDを使用することができる。レーザーダイオードドライバ15は、駆動信号をレーザーダイオード13に出力する。レーザーダイオード13は、レーザーダイオードドライバ15から出力される駆動信号に応答して光出力を行う。熱電素子17は、レーザーダイオード13の温度を調整するために設けられる。熱電素子17としては、例えば、ぺルチェ素子を使用することができる。温度センサ25は、レーザーダイオード13の温度に対応するLD温度モニタ信号(以下、単に温度モニタ信号と称する)をコントローラ21に送信する。
【0013】
また、コントローラ21には、予めレーザーダイオード13の目標温度が設定される。コントローラ21は、レーザーダイオード13の目標温度に対応するLD温度目標信号(以下、単に目標信号と称する)を熱電素子17に出力する。熱電素子17は、目標信号に基づいて、レーザーダイオード13の温度を調整する。また、コントローラ21は、レーザーダイオードドライバ15を動作可能にするイネーブル信号をレーザーダイオードドライバ15に出力する。
【0014】
コントローラ21は、物理的には、CPU、ROMおよびRAM(いずれも不図示)を備える。コントローラ21は、ROM等のメモリに格納されているコンピュータプログラムをRAMにロードして実行することによって、光送信器11を統括的に制御する。コントローラ21のCPUは、コンピュータプログラムを実行することによって、複数の機能を実現する。すなわち、コントローラ21は、機能的には、誤差計算部31と、判定部33と、範囲設定部35とを備える。コントローラ21のROM等のメモリには、ルックアップテーブル37(図3参照)が格納されている。誤差計算部31と、判定部33と、範囲設定部35とは、コントローラ21のCPUが、ROM等のメモリに格納されているルックアップテーブル37を用いて、ROM等のメモリに格納されているコンピュータプログラムを実行し、図1に示す光送信器11の各構成部を動作させることにより実現される機能である。特に、コントローラ21のCPUは、誤差計算部31と、判定部33と、範囲設定部35とを用いて、図5のフローチャートに示す処理を実行する。
【0015】
誤差計算部31は、温度モニタ信号の値と目標信号の値との差に対応する誤差信号を出力する。また、誤差計算部31は、誤差信号の値の収束予測値と、誤差信号の値の変化率(以下、誤差変化率と称する)とを計算する。なお、収束予測値とは、時間の経過とともに、誤差が最終的に収束すると予測される値である。収束予測値の計算方法については、後述する。
【0016】
具体的には、誤差計算部31は、図2に示すように、例えば周期的に誤差信号の値をモニタする。図2は、n回目(nは0以上の整数)にモニタした誤差信号の値を誤差x(n)、n回目に計算した誤差変化率を誤差変化率d(n)とした場合における、誤差x(n)と誤差変化率d(n)の時間変化を示す。なお、周期tの値は、例えば5である。また、誤差計算部31は、誤差x(n)と誤差x(n−1)とを用いて、式(1)により、誤差変化率d(n)を計算する。なお、誤差x(n)、誤差x(n−1)、誤差変化率d(n)、および後述する収束予測値xave(n)は、デジタルデータとして処理される。
【0017】
d(n)={x(n)−x(n−1)}/t ・・・(1)
【0018】
また、誤差計算部31は、誤差変化率d(n)の絶対値が0となるタイミング(誤差x(n)の波形が山または谷となっているタイミング)における誤差x(ni-1)を記憶する(iは自然数)。また、誤差計算部31は、次の誤差変化率d(n)の絶対値が0となるタイミング(誤差x(n)の波形が谷または山となっているタイミング)における誤差x(ni)を記憶する。そして、誤差計算部31は、誤差x(ni-1)と誤差x(ni)とを用いて、式(2)により、収束予測値xave(n)を計算する。なお、収束予測値xave(n)は、直近の波形の振動の中心位置である。
【0019】
ave(n)={x(ni-1)+x(ni)}/2 ・・・(2)
【0020】
また、判定部33は、誤差計算部31が出力した誤差x(n)と、誤差変化率d(n)とを受信する。判定部33は、誤差x(n)が誤差収束判定範囲(第1の収束判定範囲)内にありかつ誤差変化率d(n)が変化率収束判定範囲(第2の収束判定範囲)内にある状態が基準時間だけ継続した場合に、光出力信号(TxEnable)をONにして、イネーブル信号をレーザーダイオードドライバ15に出力する。
【0021】
範囲設定部35は、誤差計算部31が収束予測値xave(n)と誤差変化率d(n)とを計算する毎に、変化率収束判定範囲を設定する。範囲設定部35は、収束予測値xave(n)の絶対値に基づいて変化率収束判定範囲を設定する。範囲設定部35が用いる収束予測値xave(n)の絶対値と変化率収束判定範囲との対応関係は、収束予測値xave(n)の絶対値が増加すると変化率収束判定範囲が減少するように対応付けられている。範囲設定部35は、ルックアップテーブル37を用いて、変化率収束判定範囲の設定を行う。
【0022】
ルックアップテーブル37は、例えば図3に示すような、収束予測値xave(n)と変化率収束判定範囲との関係を示すテーブルである。範囲設定部35は、ルックアップテーブル37を参照し、ルックアップテーブル37における、誤差計算部31により計算された収束予測値xave(n)に対応する変化率収束判定範囲を設定する。
【0023】
また、図3に示すように、ルックアップテーブル37では、収束予測値xave(n)の絶対値が増加するほど、変化率収束判定範囲は縮小されており、収束予測値xave(n)の絶対値が減少するほど、変化率収束判定範囲は拡大されている。
【0024】
以上のように構成される光送信器11の動作について、図4および図5を参照しながら説明する。下記の説明では、光送信器11の電源を投入した時刻を0(msec)とする。まず、光送信器11の電源が投入されると、ステップS10(以下、「S10」という。他のステップにおいても同様とする。)において、ディスエーブル信号が出力される。そして、S12において、目標信号の値の設定が行われ、S14において、誤差計算部31により、誤差x(n)が周期t(msec)でモニタされる。また、S16において、誤差計算部31により、誤差変化率d(n)が周期t(msec)で算出される。周期tは、例えば、5(msec)程度にできるが、これに限られない。
【0025】
そして、S18に移行し、判定部33により、誤差変化率d(n)が0であるか否かが判定される。そして、S18に移行した時点において、例えば、図4に示す時刻t1である場合、誤差変化率d(n)は0ではないため、S26へ移行する。また、S18に移行した時点において、例えば、図4に示す時刻t2である場合、誤差変化率d(n)は0であるため、S20へ移行する。
【0026】
S20では、判定部33により、誤差変化率d(n)が0であると判定された時点における誤差x(ni)が、誤差計算部31によりコントローラ21のメモリに記憶される。また、S22において、誤差x(ni)と誤差x(ni-1)とを用いて、誤差計算部31により収束予測値xave(n)が計算される。そして、S24において、範囲設定部35により、ルックアップテーブル37を用いて変化率収束判定範囲が設定される。ここで、例えば、図4に示す時刻t2の場合、誤差x(ni)が20pmであり、誤差x(ni-1)が180pmであるため、S22において、式(2)により収束予測値xave(n)の絶対値は100pmと計算される。また、S24において、範囲設定部35によりルックアップテーブル37が参照され変化率収束判定範囲が15pm/sに設定される。
【0027】
S24において変化率収束判定範囲が設定された後、判定部33により、誤差x(n)が誤差収束判定範囲内であって、かつ、誤差変化率d(n)が変化率収束判定範囲内である時間が基準時間だけ継続したか否かが判定される。そして、基準時間だけ継続したと判定された場合はS28に移行し、基準時間だけ継続していないと判定された場合はS14に移行する。
【0028】
ここで、誤差収束判定範囲を例えば、100pmとした場合、S24に移行した時点で図4に示す時刻t3のときは、誤差x(n)が、この100pmを超えているため、S14に移行し、再度、誤差x(n)のモニタが行われる。一方、S24に移行した時点で図4に示す時刻t4のときは、誤差x(n)が100pmの範囲内であって、かつ、誤差変化率d(n)が変化率収束判定範囲内である時間が基準時間だけ継続したため、S28に移行する。そして、S28において、判定部33により、レーザーダイオードドライバ15にイネーブル信号が出力される。
【0029】
なお、図4の(A)部における太線B1は、収束後の誤差x(n)を示す。図4の(B)部における太線B2は、収束後の誤差変化率d(n)を示す。図4の(C)部における太線B3は、ONになったTxEnable信号の波形を示す。
【0030】
以上、本実施形態における光送信器11では、誤差計算部31は、誤差x(n)の収束予測値xave(n)を計算する。そして、範囲設定部35は、ルックアップテーブル37により、収束予測値xave(n)の絶対値が増加すると変化率収束判定範囲を縮小するように設定し、収束予測値xave(n)の絶対値が減少すると変化率収束判定範囲を拡大するように設定する。よって、収束予測値xave(n)の絶対値が増加し、目標信号の値からのずれが増加しているときは、変化率収束判定範囲を縮小することにより、光出力をONになりにくいように制御することが可能である。また、実際に誤差x(n)が収束していない状態における光出力を抑えることができる。従って、光出力のON/OFFが繰り返され、光出力が不安定になる事象の発生を抑え、より安定した光出力を実現させることができる。なお、収束予測値xave(n)の絶対値が減少しているときは、変化率収束判定範囲を拡大することにより、光出力がONになりやすいように制御することも可能である。このため、目標信号の値に近い値で収束している状態では早期に光出力を行うことができる。
【0031】
また、本実施形態における光送信器11では、範囲設定部35は、ルックアップテーブル37に従って、変化率収束判定範囲を設定する。よって、範囲設定部35は、ルックアップテーブル37を参照するだけで変化率収束判定範囲を設定できるため、範囲設定部35の処理負担を軽減させることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、ルックアップテーブル37を用いて範囲設定部35が変化率収束判定範囲を設定する例を説明した。しかし、ルックアップテーブル37を用いなくてもよい。例えば、範囲設定部35が、ルックアップテーブル37に格納されている変化率収束判定範囲に相当する値を都度算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
11…光送信器、13…レーザーダイオード、15…レーザーダイオードドライバ、17…熱電素子、21…コントローラ、25…温度センサ、31…誤差信号計算部、33…判定部、35…範囲設定部、37…ルックアップテーブル(テーブル)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーダイオードと、
前記レーザーダイオードを駆動するレーザーダイオードドライバと、
前記レーザーダイオードの温度を調整するための熱電素子と、
前記レーザーダイオードの温度に対応する温度モニタ信号を出力するセンサと、
前記センサにより出力された前記温度モニタ信号を受信するとともに、前記レーザーダイオードの目標温度を示す目標信号と前記レーザーダイオードドライバを動作可能にするイネーブル信号とを出力するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記温度モニタ信号の値と前記目標信号の値との差に対応する誤差信号を出力するとともに、前記誤差信号の値の収束予測値と前記誤差信号の値の変化率とを周期的に計算する誤差計算部と、
前記誤差信号の値が第1の収束判定範囲内にあり、かつ前記変化率が第2の収束判定範囲内にある状態が基準時間だけ継続した場合に、前記イネーブル信号を出力する判定部と、
前記誤差計算部が前記収束予測値と前記変化率とを計算する毎に、前記第2の収束判定範囲を設定する範囲設定部とを有し、
前記範囲設定部は、前記収束予測値の絶対値に基づいて前記第2の収束判定範囲を設定し、
前記範囲設定部が用いる前記収束予測値の絶対値と前記第2の収束判定範囲との対応関係は、前記収束予測値の絶対値が増加すると前記第2の収束判定範囲が減少するように対応付けられる、
ことを特徴とする光送信器。
【請求項2】
前記収束予測値と前記第2の収束判定範囲との対応関係を示すテーブルを備え、
前記範囲設定部は、前記テーブルを参照し、前記テーブルにおける、前記誤差計算部により計算された前記収束予測値に対応する前記第2の収束判定範囲を設定することを特徴とする請求項1に記載の光送信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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