説明

光透過性を高めたフッ素化不活性液体及びその製造方法

【課題】光透過性を高めたフッ素化不活性液体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより光透過率を傾斜的に向上させて光透過性の高いフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理により250−500nmの光透過率(光路長:50mm)を少なくとも50%とし、これを2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法、及びフッ素化不活性液体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性を向上させたフッ素化不活性液体に関するものであり、更に詳しくは、紫外・可視領域の光透過性を高めて、220−500nm又は200−500nmの光透過率(本明細書に記載の光透過率は、特に断りがない限り、光路長50mmにおける光透過率とする。)を90%以上に向上させたフッ素化不活性液体及びその製造方法に関するものである。本発明は、半導体用フォトマスクやフォトリソグラフィー、各種光学用途等の分野において、半導体デバイス等の製造工程で使用するフッ素化不活性液体に要求される高い光透過性と、プロトンや金属成分を低減した高純度化の要件を満たすと共に、当技術分野において、好適に使用することが可能な光透過性が極めて高い高純度のフッ素化不活性液体及びその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業、とりわけフォトリソグラフィー用途等において、紫外・可視領域の光透過性が極めて高いフッ素化不活性液体に対するニーズが一段と高まっている。半導体用フォトマスクやフォトリソグラフィー、各種光学用途等の分野において、フッ素化不活性液体に対する高い光透過性、プロトンや金属成分を低減した高純度化の要求が高まっている。その他、各種電子材料や電子部品の試験液や媒体、洗浄等の用途においても、加熱時の酸の発生量の低減や金属成分含有量の低減が求められている。具体的な要求品質としては、光透過率(光路長:50mm)が220−500nmで90%以上、より好ましくは200−500nmで90%以上、プロトン含有量が1ppm以下、より好ましくは0.5ppm以下、金属成分含有量が10ppb以下、が挙げられる。
【0003】
従来、フッ素化不活性液体を製造する方法として、例えば、トリブチルアミン等を原料として、無水フッ酸中での電解フッ素化反応により相当するペルフルオロトリブチルアミン等を製造する電解フッ素化法や、フッ素ガスにより直接炭化水素化合物をフッ素化する直接フッ素化法や、高原子価金属フッ化物によりフッ素化する方法等をはじめ、各種の方法が報告されている。
【0004】
これらの方法によって製造されたフッ素化不活性液体は、一般に、紫外・可視領域における光透過性が前述の要求に対しては不十分であり、220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上に向上させる方法は、従来知られていない。また、これらの方法では、目的物であるペルフルオロ化合物の他に、1)水素原子が一部残存した不完全フッ素化物(水素含有化合物)や、2)炭素−炭素結合の一部に2重結合を有するオレフィン化合物(2重結合含有化合物)等が副生し、これらが目的物に不純物として含有される。
【0005】
従来法で製造されたフッ素化不活性液体の光透過性が低下する原因の一つとして、フッ素化不活性液体中に不純物として含まれるオレフィン化合物に起因する光吸収が考えられる。フッ素化不活性液体中のオレフィン不純物を除去する方法としては、幾つかの方法が提案されている。すなわち、例えば、フルオロパーハロカーボン液体からオレフィン不純物を除去する方法として、アルミナ、シリコン酸化物等の微粒子を包含する塩基性アルミナ微粒子にフルオロパーハロカーボン液体を接触させる工程により毒性が極めて強いペルフルオロイソブテン(PFIB)を除去する方法(特許文献1)や、フッ素ガスと接触させる工程によりペルフルオロオレフィン、特に、ペルフルオロイソブテン(PFIB)を10ppb以下まで低減する方法(特許文献2)、が提案されている。
【0006】
また、特定のペルフルオロ化合物(パーフルオロ−N−アルキルデカヒドロキノリン類)をシリカ/アルミナを主成分とする吸着剤で吸着処理することにより、不飽和化合物を分離除去する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、オレフィン不純物を除去する効果と光透過性を向上させる効果とは必ずしも一致せず、また、光透過性の向上効果は、波長範囲によっても種々相違しており、これらいずれの方法によっても220−500nm又は200−500nmの光透過率を90%以上に向上させることは困難である。
【0007】
また、フッ素化不活性液体中の不完全フッ素化物を除去する方法として、上述の特許文献3や、更にこれを改良した方法である、フッ素化不活性液体をシリカ、アルミナ又はケイ酸塩の存在下に0℃から100℃において水又はアルカリ水溶液と接触させることによって不純物を分解し、フッ素化不活性液体の加熱使用時におけるフッ化水素の発生量を低減する方法(特許文献4)、が公知である。しかし、この方法は、加熱による処理が必要なため、装置が煩雑となり、また、多量のアルカリ廃液が発生するなど、環境への負荷が大きいという問題がある。
【0008】
その他、パーフルオロ第三アミンを含むフッ素化合物を活性炭と接触させることにより加熱や長時間の保存によってもフッ化水素濃度の上昇しない安定なフッ素化合物を得る方法(特許文献5)等、フッ素化不活性液体の加熱や長期保存時のフッ化水素発生量を低減する方法は多数知られているが、フッ素化不活性液体のプロトン含有量を1ppm以下まで低減する方法は知られておらず、これらのいずれの方法によってもこれを達成することは困難である。更に、従来、フッ素化不活性液体に含まれる金属成分含有量を10ppb以下まで低減する方法は全く知られていない。
【0009】
【特許文献1】特開平4−226928号公報
【特許文献2】特開平9−173773号公報
【特許文献3】特開平5−79669号公報
【特許文献4】特開平8−3075号公報
【特許文献5】特開平5−112496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めたフッ素化不活性液体を製造することができる新しいフッ素化不活性液体の製造技術とその製品を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、フッ素化不活性液体の250−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を50%以上に高める1段目の処理工程と、これによって得られたフッ素化不活性液体に2段目の処理工程を適用する、いわゆる2段の処理工程を組み合わせて光透過率を傾斜的に向上させる手法を採用することがフッ素化不活性液体の光透過性を高める上で極めて有効であるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
また、本検討の過程において、フッ素化不活性液体中のプロトン含有量や金属成分含有量についても、同様の2段の処理を行うことがこれらを低減する上で極めて有効であることを見出した。本発明は、紫外・可視領域の220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であることと併せ、残留プロトンが1ppm又は0.5ppm以下で、かつ金属成分含有量が10ppb以下である高純度のフッ素化不活性液体及びその工業的に実現可能な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより光透過率を傾斜的に向上させて光透過性の高いフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理により250−500nmの光透過率(光路長:50mm)を少なくとも50%とし、これを2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
(2)フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することによりプロトン含有量を傾斜的に低減させてプロトン含有量が1ppm以下のフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理によりプロトン含有量を少なくとも100ppmとし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
(3)フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより金属含有量を傾斜的に低下させて金属成分含有量を10ppb以下のフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理により金属成分含有量を少なくとも100ppbとし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって金属成分含有量を10ppb以下とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
(4)光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理においてプロトン含有量を100ppm以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とする前記(1)に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(5)光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理において金属成分含有量を100ppb以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって金属成分含有量を10ppb以下とする前記(1)に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(6)光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理においてプロトン含有量を100ppm以下、かつ金属含有量を100ppb以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって、プロトン含有量を1ppm以下、かつ金属成分含有量を10ppb以下とする前記(1)に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(7)プロトン含有量の傾斜的低減操作と併せて、1段目の処理において金属成分含有量を100ppb以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ/及び又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は、炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって、金属成分含有量を10ppb以下とする、前記(2)に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(8)吸着剤が、ゼオライトである、前記(1)から(7)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(9)ゼオライトの平均細孔径が5から12Åである、前記(8)に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(10)フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより光透過率を傾斜的に向上させて光透過性の高いフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理により250−500nmの透過率(光路長:50mm)を少なくとも50%とし、これを2段目の処理において紫外光照射下にフッ素ガスで処理することによって220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
(11)フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することによりプロトン含有量を傾斜的に低減させてプロトン含有量が1ppm以下のフッ素化不活性液体製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理によりプロトン含有量を少なくとも100ppmとし、これを、2段目の処理において紫外光照射下にフッ素ガスで処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
(12)光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理において任意の処理によりプロトン含有量を少なくとも100ppm以下とし、これを、2段目の処理において紫外光照射下にフッ素ガスで処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とすることを特徴とする、前記(10)に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(13)200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上とする、前記(1)、(4)、(5)、(6)、(8)、(9)、(10)、(12)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(14)プロトン含有量を0.5ppm以下とする、前記(2)、(4)、(6)、(7)、(8)、(9)、(11)、(12)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(15)紫外・可視領域における光透過率を向上させたフッ素化不活性液体であって、220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であることを特徴とするフッ素化不活性液体。
(16)プロトン含有量を低減させたフッ素化不活性液体であって、プロトン含有量が1ppm以下であることを特徴とするフッ素化不活性液体。
(17)金属成分含有量を低下させたフッ素化不活性液体であって、金属成分含有量が10ppb以下であることを特徴とするフッ素化不活性液体。
(18)220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であって、かつプロトン含有量が1ppm以下である、前記(15)に記載のフッ素化不活性液体。
(19)220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であって、かつ金属成分含有量が10ppb以下である前記(15)に記載のフッ素化不活性液体。
(20)プロトン含有量が1ppm以下であって、かつ金属成分含有量が10ppb以下である、前記(16)に記載のフッ素化不活性液体。
(21)220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であって、かつプロトン含有量が1ppm以下であり、かつ金属成分含有量が10ppb以下である前記(15)に記載のフッ素化不活性液体。
(22)200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上である前記(15)、(18)、(19)、(21)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。
(23)プロトン含有量が0.5ppm以下である、前記(16)、(18)、(20)、(21)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。
(24)金属成分が、鉄、銅、アルミ、マグネシウム、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガン、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はモリブデンである、前記(3)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(13)、(14)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(25)金属成分が、鉄、銅、アルミ、マグネシウム、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガン、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はモリブデンである、前記(17)、(19)、(20)、(21)、(22)、(23)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。
(26)上記のフッ素化不活性液体が、炭素原子6以上を有する直鎖、分岐鎖、もしくは環状のペルフルオロアルカン類、ペルフルオロエーテル類、又は、ペルフルオロアミン類である、前記(1)から(14)、(24)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
(27)上記のフッ素化不活性液体が、炭素原子6以上を有する直鎖、分岐鎖、もしくは環状のペルフルオロアルカン類、ペルフルオロエーテル類、又は、ペルフルオロアミン類である、前記(15)から(23)、(25)のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、前述のフッ素化不活性液体に対する要求品質を満たす製品を開発することを目標として、フッ素化不活性液体の紫外・可視領域における光透過性を向上させるべく、鋭意検討を行った。当初、フッ素化不活性液体の光透過性を向上させる上では、フッ素化不活性液体に含まれるオレフィン不純物を除去することが効果的であると予想された。
【0014】
そこで、本発明者らは、フッ素化不活性液体の光透過性を向上させることを目的として前述のフッ素化不活性液体中のオレフィン不純物を除去する先行技術について種々検討した結果、先行技術文献に記載されているオレフィン除去の効果は、光透過性の向上効果とは必ずしも相関性が得られず、特に、特定の波長範囲における光透過性の向上効果については、オレフィンの除去効果から光透過性の向上効果を予想することは困難であることを確認した。また、上記先行技術文献を含め、220−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めたフッ素化不活性液体を製造する技術は従来知られておらず、仮に、従来公知の技術によってそのようなフッ素化不活性液体を製造しようとした場合、目的とするフッ素化不活性液体の収率が極めて低くなるなど、工業的に満足できる手段は知られていなかった。
【0015】
本発明者らは、鋭意検討の結果、従来技術を組み合わせた1段目の処理によって透過率をあるレベルまで向上させた上で、特定の2段目の処理を行うことが、工業的に満足できる収率の範囲において目的とする光透過率の向上を達成する上で極めて効果的であることを見出した。また、光透過性の向上と併せ、前述の2段処理を行うことにより、意外にも、フッ素化不活性液体中のプロトン含有量を著しく低減可能であることを見出した。
【0016】
フッ素化不活性液体については、フォトリソグラフィー用途においては、光透過性の向上と共に、フッ素化不活性液体中のプロトン含有量を1ppm以下、好ましくは0.5ppmまで低減することが求められている。しかし、例えば、先行技術として知られている不完全フッ素化物の低減方法やこれを改良したフッ化水素発生量を低減する方法等では、上記のようなレベルでのプロトン含有量の低減は実現できないが、本発明では、上記2段の処理工程を組み合わせて実施することで、フッ素化不活性液体中のプロトン含有量を1ppm又は0.5ppm以下まで低減することに成功した。
【0017】
更に、フッ素化不活性液体中の金属成分含有量を10ppb以下まで低減する方法は、従来知られていないが、本発明者らは、本検討の過程において、1段目の処理で金属含有成分量をあるレベルにまで低減した上で、2段目の処理として吸着剤による処理を行うことにより、意外にも、金属成分含有量を10ppb以下まで低減する効果があることを見出した。使用する吸着剤が、金属成分を含有している場合でも、それらとの接触による処理で、フッ素化不活性液体中の金属含有量が10ppb以下まで低減することは予測困難な事実であった。
【0018】
本発明は、1段目の処理工程において、フッ素化不活性液体の250−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を50%以上、及び/又はプロトン含有量を100ppm以下、及び/又は金属成分含有量を100ppb以下とし、これに2段目の処理工程を適用することによって得られる220−500nm又は200−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)が90%以上、及び/又はプロトン含有量が1ppm又は0.5ppm以下、及び/又は金属成分含有量が10ppb以下である光透過性が極めて高い高純度のフッ素化不活性液体の点、及び上記2段の処理工程からなる当該フッ素化不活性液体の製造方法の点、に特徴を有するものである。
【0019】
本発明において、上記1段目の処理工程としては、フッ素化不活性液体の精製方法又は一般的な処理方法として従来公知の任意の処理を適用することによって実施可能である。これらの技術として、具体的には、例えば、蒸留、抽出、洗浄、アルカリ金属水酸化物と二級アミンを含む水溶液を加熱下に混合攪拌する処理、もしくはそれに硫酸処理等を組み合わせた方法、アルコラート処理、ヨウ化カリウムを含むアセトン水溶液との混合攪拌処理、フッ素ガス処理等が例示される。次に、2段目の処理として、シリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤や炭素を主成分とする吸着剤による処理、又は紫外光照射下においてフッ素ガスで処理する方法が採用される。しかし、この場合、上記1段目の処理で用いる手段、上記2段目の処理で用いる手段の選択及びその組み合せは、前述の光透過率、プロトン含有量及び/又は金属成分含有量の要求基準を全て満たすことが要件になることから、それらの要求基準を満たす適宜の手段を選択及び組み合せて使用する。
【0020】
本発明の対象とされるフッ素化不活性液体としては、具体的には、ペルフルオロアルカン、ペルフルオロエーテル、ペルフルオロ三級アミン等の化合物が挙げられる。これらのうち、ペルフルオロアルカンとしては、例えば、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロノナン、ペルフルオロメチルシクロヘキサンが例示される。また、ペルフルオロエーテルとしては、例えば、ペルフルオロジブチルエーテル、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、ペルフルオロ(2−プロピルテトラヒドロピラン)が例示される。
【0021】
また、ペルフルオロ三級アミンとしては、例えば、ペルフルオロトリヘキシルアミン、ペルフルオロトリペンチルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリエチルアミン、ペルフルオロ(N,N−ジメチルヘキシルアミン)、ペルフルオロ(N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン)、ペルフルオロメチルモルフォリン、ペルフルオロエチルモルフォリンが例示される。
【0022】
本発明では、被処理対象のフッ素化不活性液体として、常温において液体であるものが好適に用いられる。この場合、フッ素化不活性液体は、公知のものに制限されるものではなく、新規のものに適用しても良い。上述のフッ素化不活性液体は、単独に限らず、2種以上の混合物として用いることも適宜可能である。本発明では、上記フッ素化不活性液体のうち、とりわけ、低沸点化合物を除いた炭素数6以上のものが好適に用いられる。
【0023】
フッ素化不活性液体の製造方法としては、従来公知の方法を使用することができる。これらの方法としては、例えば、電解フッ素化法、フッ素ガスによる直接フッ素化法、三フッ化コバルト等の原子価の高い金属フッ化物によるフッ素化法、予め水素原子が実質的に全てフッ素原子で置換されたモノマーを重合あるいは共重合させるフッ素化法、あるいはこれらの方法を適宜組み合わせた方法等が例示される。
【0024】
本発明では、上記フッ素化不活性液体に対して、1段目の処理工程と2段目の処理工程を組み合わせて段階的な処理を施すことにより、光透過率を傾斜的に向上させる処理を実施する。1段目の処理工程においては、任意の処理によりフッ素化不活性液体の250−500nmの光透過率を少なくとも50%とするが、この1段目の処理工程としては、250−500nmの光透過率を50%以上に向上できる方法であれば、任意の方法を利用することが可能であり、フッ素化不活性液体の精製方法又は処理方法として従来公知の方法を適宜利用することが可能である。具体的には、例えば、蒸留、抽出、洗浄、アルカリ金属水酸化物と二級アミンを含む水溶液を加熱下に混合攪拌する処理、もしくはそれに硫酸処理等を組み合わせた方法、アルコラート処理、ヨウ化カリウムを含むアセトン水溶液との混合攪拌処理、フッ素ガス処理等が例示される。
【0025】
本発明では、上記フッ素化不活性液体をこれらの方法による1段目の処理工程に供して、フッ素化不活性液体の250−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を50%以上に高めたフッ素化不活性液体を製造することが重要である。上述の方法を本発明に適用する際の好適な手段について具体的に説明すると、例えば、電解フッ素化法により製造されたフッ素化不活性液体をアルカリ金属水酸化物と第二アミンの水溶液と長時間還流させる処理を行った後、濃硫酸による洗浄処理、次いで、ヨウ化カリウムを含むアセトン水溶液との混合攪拌処理を行い、これを蒸留する方法などが例示される。
【0026】
次に、得られたフッ素化不活性液体を2段目の処理工程に供するが、2段目の処理工程としては、シリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤や炭素を主成分とする吸着剤による処理、あるいは紫外光照射下においてフッ素ガスで処理する方法が採用される。吸着剤としては、無定形シリカ、結晶性シリカ、シリカ水和物、具体的には、シリカゲル、ケイソウ土等を含む吸着剤が例示される。また、無定形アルミナ、結晶性アルミナ、アルミナ水和物を含む吸着剤が例示される。また、ケイ酸塩を含む鉱物であるゼオライト、合成ゼオライト、カオリナイト、活性白土、ハロサイト、モンモリナイト、アロフェン、ベントナイトからなる吸着剤、あるいは活性炭からなる吸着剤が例示される。
【0027】
上述のように、上記2段目の処理工程では、吸着剤として、好適には、例えば、ゼオライト、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ等が使用されるが、より好適には、ゼオライトが用いられる。この場合、ゼオライトの孔径は5Åより大きく12Å以下であることが好ましく、より好ましくは6から10Åである。本発明では、上記1段目の処理工程によって得られたフッ素化不活性液体を上記吸着剤と接触させる処理を実施することで220−500nm又は200−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めたフッ素化不活性液体を調製する。
【0028】
上記フッ素化不活性液体に対する上記吸着剤の添加量は、ゼオライトの場合、フッ素化不活性液体100重量部に対し、0.1〜50重量部であり、より好ましくは1〜40重量部であり、更に好ましくは、5〜40重量部である。接触温度は、ゼオライトの場合、−20〜180℃であり、より好ましくは、−10〜100℃であり、更に好ましくは0℃〜50℃である。また、接触時間は、できるだけ長時間接触させることが望ましいが、通常は、0.5〜50時間である。本発明では、これらの条件については、使用する吸着剤の種類に応じて、好適な範囲に適宜設定することができる。
【0029】
上記吸着剤として、ゼオライトを使用する場合、例えば、フッ素化不活性液体とゼオライトを攪拌槽等に導入し、これらを混合して、両者を接触させる方法、ゼオライトを充填したカラム、あるいはゼオライト膜を配設したカラムにフッ素化不活性液体を導入し、両者を接触させる方法が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、ゼオライトとフッ素化不活性液体を接触させることができる方法であれば、それらの方式にかかわらず任意の方法を使用することができる。
【0030】
上記接触処理を実施した後、例えば、ろ過処理等の便宜の分離手段を利用してゼオライトを分離し、フッ素化不活性液体を回収する。これらの処理工程においては、必要に応じて、適宜、加熱、加圧、減圧、窒素ガス導入、洗浄、蒸留、脱水等の操作を付加的に採用することができる。更に、吸着剤に吸着されたフッ素化不活性液体を、常圧又は減圧下に加熱する方法等によって回収することが、フッ素化不活性液体の歩留まりを高める上で有効であり、光透過性が極めて高い、プロトン含有量及び金属成分含有量の極めて低い高純度のフッ素化不活性液体を容易に回収することが可能である。
【0031】
また、本発明では、上記吸着剤による処理に代えて、紫外光照射下においてフッ素ガスで処理する方法が採用されるが、その具体的方法は、例えば、攪拌槽に1段目処理を行ったフッ素化不活性液体を入れ、紫外光を照射しながらフッ素ガスを液中に供給する方法を使用することができる。この場合、攪拌槽は、透明フッ素樹脂、サファイヤ、又は石英等の紫外線を透過する窓を有し、窓は攪拌槽の外面の一部(外部照射)でも良いし、内面にシールした円筒を設けても(内部照射)良い。照射光の波長としては、200−400nmが適当であり、そのような紫外光源としては、高圧〜低圧水銀灯、タングステンランプ、発光ダイオード等を用いることができる。
【0032】
フッ素ガスとしては、100%の濃度から窒素、ヘリウム等のフッ素と反応しないガスで予め希釈したものを用いることができるが、30%−フッ素/70%−希釈ガス〜1%フッ素/99%−希釈ガスのものが反応の制御、入手及び取扱性の面からも好適である。処理温度は、−20〜50℃があげられるが、0〜30℃が好適である。
【0033】
本発明では、フッ素化不活性液体の光透過性を高めるために、フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより、光透過率を傾斜的に向上させることが重要である。本発明者らが検討した結果、1段目の処理工程では、フッ素化不活性液体の精製方法又は処理方法として従来公知の処理方法が適用されるが、これらの方法だけでは、最終的に紫外・可視領域の220−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めたフッ素化不活性液体を調製することが困難であることが分かった。
【0034】
本発明では、1段目の処理工程において、フッ素化不活性液体の250−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を50%以上に高める操作を実施し、次いで、2段目の処理工程において、吸着剤による処理、あるいは紫外光照射下におけるフッ素ガス処理によりフッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することによって、紫外・可視領域の光透過率を傾斜的に高める操作を実施することが重要であり、上記1段目の処理のみ、あるいは当該処理を省略した場合には、最終的に220−500nm又は200−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めることは困難である。
【0035】
本発明では、上記フッ素化不活性液体の2段の処理工程において、個別の処理手段としては、公知の精製技術が用いられる場合があるが、本発明は、それらの個別の処理手段に特徴を有するのではなく、上記1段目の処理工程において、フッ素化不活性液体の250−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を50%以上に高めておくこと、これによって得られたフッ素化不活性液体に2段目の処理工程を採用することによってはじめて220−500nm又は200−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めたフッ素化不活性液体を調製することを実現可能にしたものである。これらの事実は、本発明者が、格別の実験を実施してはじめて実証された新規知見であり、公知文献の記載からは、これらの事実を予想することは到底困難である。尚、本発明において、フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理するとは、上述の2段の処理を組み合せてstep by stepに処理することを意味し、また、光透過率を傾斜的に向上させて光透過性の高いフッ素化不活性液体を製造するとは、上記の処理に従って、光透過率をgradientに向上させることを意味する。
【0036】
また、本発明では、上記2段の処理工程において、1段目の処理でプロトン含有量を100ppm以下とし、同様の2段目の処理を組み合わせて実施することによって、上記光透過性の向上と併せ、フッ素化不活性液体中のプロトン含有量を1ppm以下ないし0.5ppm以下に低減させることが可能である。更に、上記2段の処理工程において、1段目の処理で金属成分含有量を100ppb以下とし、上記吸着剤による2段目の処理を組み合わせて実施することによって、上記光透過性の向上とプロトン含有量の低減と併せ、フッ素化不活性液体中の金属成分含有量を10ppb以下に低減させることが可能である。これらは、上記2段の処理工程を組み合わせたことに基づく各手段の作用効果が相乗的に作用したものと推察される。
【0037】
従来、パーフルオロ第三アミンを含むフッ素化不活性液体を加熱状態で使用したり、長期間保存したりしておくと、フッ素化不活性液体中の腐食性の高いフッ化水素濃度が上昇し、加熱によりフッ化水素を発生し、そのことが、装置の腐食の原因のひとつとなることが知られている。これに対し、本発明の2段の処理工程を組み合わせて実施して作製したフッ素化不活性液体は、加熱によるフッ化水素発生量のレベルが低減化されることが判明した。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)フッ素化不活性液体に対する要求品質を満たす光透過性が極めて高い高純度のフッ素化不活性液体の新規製造方法を提供することができる。
(2)本発明により、紫外・可視光領域の220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めたフッ素化不活性液体を製造し、提供することができる。
(3)上記光透過性の向上と併せ、フッ素化不活性液体中のプロトン含有量を1.0ppm又は0.5ppm以下まで低減させることができる。
(4)上記光透過性の向上とプロトン含有量の低減と併せ、フッ素化不活性液体中の金属成分含有量を10ppb以下まで低減させることができる。
(5)半導体技術、とりわけフォトリソグラフィー用途等において要求されている高い光透過率(220−500nm又は200−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)が90%以上)と低いプロトン含有量(1ppm又は0.5ppm以下)と低い金属成分含有量(10ppb以下)の要件を満たした高純度のフッ素化不活性液体を提供することができる。
(6)本発明により、半導体産業、とりわけフォトリソグラフィー用途等において、強く要請されている高純度のフッ素化不活性液体を工業的な生産要求を満たして生産できる当該フッ素化不活性液体の生産技術及びその製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
−55℃の還流冷却器を備えた容量1.5Lの鉄製電解槽に、ニッケル製の電極(陽極9枚と陰極10枚、極板面積1.97dm/枚)を取り付けた電解装置を使用し、無水フッ化水素酸とトリブチルアミンを原料とし、トリブチルアミンの濃度を10wt%として、電流値35A(電流密度2A/dm)にて電解フッ素化を行った。無水フッ化水素酸とトリブチルアミンを連続的に供給しながら、沈降分離するペルフルオロトリブチルアミンの原料(粗PFTBA)を電解槽の下部より連続的に抜き出した。
【0041】
次に、1段目処理としてコンデンサーを上部に配した1Lステンレス製反応容器に、40wt%水酸化ナトリウム水溶液240gと、ジイソブチルアミン120gを入れて、100℃に加熱後、粗PFTBA300gを滴下した。48時間加熱攪拌した後、蒸留水で希釈し、分液した。これを水洗し、分液後、濃硫酸50gを添加し、30分攪拌して硫酸洗浄を行った。再度、分液し、水洗後、3%ヨウ化カリウムを含む90%アセトン水溶液10gを添加し、1時間攪拌した。分液後、水洗し、蒸留を行い、1段目処理PFTBA222gを得た。
【0042】
次いで、1段目処理PFTBAの光透過率(光路長:50mmセル)を測定した。光透過率の測定は、自記分光光度計「UV−2100PC」(株式会社島津製作所製)を用いて行った。その結果、1段目処理PFTBAの250−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率は、51%以上であった。
【0043】
また、1段目処理PFTBA1gを正確に秤量し、これに、内部標準物質としてペンタフルオロベンゼンを約0.02g正確に秤量して加え、良く混合した。NMRサンプルチューブに、調製したサンプルとキャピラリー管(重クロロホルム+テトラメチルシラン入り)を入れ、H−NMRを測定した。測定には、核磁気共鳴装置「JNM−GSX270」(日本電子株式会社製)を用いた。ペンタフルオロベンゼンのプロトンに由来するシグナルの積分強度を1とし、原料中の残存プロトンに由来する2〜7ppmに現われるシグナルとの積分比からプロトン含有量を求めた。その結果、1段目処理PFTBAのプロトン含有量は42ppmであった。
【0044】
【数1】

【0045】
また、1段目処理PFTBA100gを白金皿に正確に秤量し、硫酸を2滴加え、砂浴上で乾固寸前まで分解し、塩酸(1+1)を2〜3mLと水を加え、加熱溶解し、放冷後、50mLメスフラスコに洗い移し、標線を合わせた。Fe、Cu、Al、Cr、Niのホロ−カソ−ドランプを使用し、原子吸光光度計で測定した。測定には、ゼーマンファーネス原子吸光分光光度計「SPECTRAA 800 ZEEMAN」(バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド製)を用いた。1段目処理PFTBAのFe、Cu、Al、Cr、Niは、それぞれ67ppb、69ppb、33ppb、53ppb、46ppbであった。
【実施例2】
【0046】
2段目処理として、1段目処理PFTBA100gと粉末状のモレキュラーシーブス13X(平均孔径10Å、商品名「モレキュラーシーブス13X」ユニオン昭和株式会社製)20gを、100mL丸底フラスコに入れ、攪拌速度200rpmで攪拌しながら、室温下で、17時間接触させた。その後、ろ過操作によりモレキュラーシーブスを分離し、吸着処理PFTBA80gを得た。分離したモレキュラーシーブスは、50mL丸底フラスコに入れ、5torr、120℃に加熱し、モレキュラーシーブスに吸着しているPFTBAを回収し、PFTBA17gを得た。吸着処理PFTBAと回収PFTBAを混合し、2段目処理PFTBA97gを得た。
【0047】
次いで、2段目処理PFTBAの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した。その結果、光透過率は、98%以上、プロトン含有量は、0.5ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Niの含有量は、それぞれ2ppb、1ppb、1ppb以下、1ppb以下、1ppb以下であった。
【実施例3】
【0048】
上記実施例2と同様の操作を行い、1段目処理PFTBA100gを、ペレットのモレキュラーシーブス10X(平均孔径8Å、商品名「F9SA600A」東ソー株式会社製)35gと接触させ、吸着処理PFTBA65g、回収PFTBA26gを得た。この二つを混合した2段目処理PFTBA91gの200−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率は、91%以上、プロトン含有量は、0.3ppm以下、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ3ppb、1ppb、1ppb以下、1ppb以下、1ppb以下であった。
【実施例4】
【0049】
モレキュラーシーブスに代えて、モレキュラーシービングカーボンを使用した他は、実施例2と同様の操作を行い、1段目処理PFTBA100gをモレキュラーシービングカーボン(平均孔径5Å、商品名「粒状白鷺X2M」日本エンバイロケミカルズ株式会社製)20gと接触させた。吸着処理PFTBA82g、回収PFTBA16gを混合した2段目処理PFTBA98gの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率は、92%以上、プロトン含有量は、0.8ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ5ppb、3ppb、2ppb、1ppb、1ppbであった。
【実施例5】
【0050】
モレキュラーシーブスに代えて、シリカゲルを使用した他は、実施例2と同様の操作を行い、1段目処理PFTBA100gをシリカゲル(平均孔径20〜120Å、商品名「シリカゲル60」関東化学株式会社製)20gと接触させた。吸着処理PFTBA70g、回収PFTBA22gを混合した2段目処理PFTBA92gの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率は、92%以上、プロトン含有量は、0.7ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ4ppb、4ppb、3ppb、1ppb以下、1ppbであった。
【実施例6】
【0051】
モレキュラーシーブスに代えて、塩基性アルミナを使用した他は、実施例2と同様の操作を行い、1段目処理PFTBA100gを塩基性アルミナ(酸化アルミニウム60活性型、塩基性、活性度I メルク株式会社製)20gと接触させた。吸着処理PFTBA81g、回収PFTBA14gを混合した2段目処理PFTBA95gの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率は、90%以上、プロトン含有量は、0.9ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ6ppb、5ppb、3ppb、1ppb、1ppbであった。
【実施例7】
【0052】
フッ素化不活性液体として、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)(以下、PFBTHFと記載する。)とペルフルオロ(2−プロピルテトラヒドロピラン)(以下、PFPTHPと記載する。)の混合物を用い、上記実施例1と同様の操作を行い、1段目処理PFBTHFとPFPTHPの混合物を得た。
【0053】
次いで、1段目処理したPFBTHFとPFPTHPの混合物の250−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した結果、光透過率は、60%以上、プロトン含有量は、36ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ39ppb、23ppb、18ppb、75ppb、88ppbであった。
【実施例8】
【0054】
上記実施例2と同様の操作を行い、1段目処理したPFBTHFとPFPTHPの混合物100gと、粉末状のモレキュラーシーブス13X20gを接触させ、吸着処理品80g、回収品15gを得た。吸着処理品と回収品を混合し、2段目処理PFBTHFとPFPTHPの混合物95gを得た。次いで、2段目処理PFBTHFとPFPTHPの混合物の220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した結果、光透過率は、98%以上、プロトン含有量は、0.3ppm以下、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ1ppb、1ppb、1ppb以下、1ppb以下、1ppb以下であった。
【実施例9】
【0055】
フッ素化不活性液体として、ペルフルオロオクタン(以下、PFOと記載する。)を用い、上記実施例1と同様の操作を行い、1段目処理PFOを得た。次いで、1段目処理PFOの250−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した結果、光透過率は、52%以上、プロトン含有量は、16ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ72ppb、66ppb、25ppb、60ppb、56ppbであった。
【実施例10】
【0056】
上記実施例2と同様の操作を行い、1段目処理PFO100gを、粉末状のモレキュラーシーブス13X20gと接触させ、吸着処理PFO79g、回収PFO16gを得た。この二つを混合した2段目処理PFO95gの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率は、98%以上、プロトン含有量は、0.5ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ2ppb、1ppb、1ppb以下、1ppb以下、1ppb以下であった。
【実施例11】
【0057】
フッ素化不活性液体として、ペルフルオロメチルモルフォリン(以下、PFMMPと記載する。)を用い、上記実施例1と同様の操作を行い、1段目処理PFMMPを得た。次いで、1段目処理したPFMMPの250−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した結果、光透過率は、53%以上、プロトン含有量は、24ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ49ppb、18ppb、12ppb、5ppb、23ppbであった。
【実施例12】
【0058】
上記実施例2と同様の操作を行い、1段目処理PFMMP100gを、粉末状のモレキュラーシーブス13X20gと接触させ、吸着処理PFMMP80g、回収PFMMP16gを得た。この二つを混合した2段目処理PFMMP96gの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率は、98%以上、プロトン含有量は、0.8ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ3ppb、2ppb、1ppb以下、1ppb以下、1ppb以下であった。
【0059】
比較例1
実施例1において、各操作条件を変更して1段目処理をしたところ、250−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率が13%以上、プロトン含有量は112ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量はそれぞれ180ppb、69ppb、24ppb、113ppb、79ppbである1段目処理PFTBA100gを得た。1段目吸着処理PFTBA100gを用いて、実施例3と同様の操作を行い、モレキュラーシーブス13X35gと接触させ、吸着処理PFTBA64g、回収PFTBA28gを混合し、2段目処理PFTBA92gを得た。
【0060】
2段目処理PFTBAの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した結果、220nmにおける光透過率は、57%、プロトン含有量は、13ppm、Fe、Cu、Al、Cr、Ni含有量は、それぞれ12ppb、1ppb以下、1ppb以下、13ppb、1ppb以下であった。
【実施例13】
【0061】
本実施例では、実施例1で得られた1段目処理PFTBAへのフッ素ガス処理を行った。ガス出入り口、サンプリング口及び内部に反応液冷却コイルを備えた、内部容量800mLのPTFE樹脂製角形反応器の片側一面に、PFA樹脂を装着し、透明窓を設けた。ガス出口には、−78℃に冷却したコンデンサーを接続した。
【0062】
反応器に1段目処理PFTBA1350gを仕込み、攪拌しながら、窒素ガスを7L/hrの速度で液中に導入すると共に、内部温度を0℃に冷却した。30分経過後、窒素ガス導入速度を3L/hrにし、水冷式500W−高圧水銀ランプ(石英製冷却管を使用)を透明窓に可能な限り近づけて設置して、点灯した。更に、30分経過後、窒素ガスを20%−F/80%−Nガスに切り替えて、3L/hrの速度で5hr導入した。その後、高圧水銀ランプを消灯し、窒素ガスを、7L/hrの速度で1hr導入した。
【0063】
フッ素ガスで処理したPFTBAを5%亜硫酸カリウム水溶液で洗浄後、水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、ろ過操作により、フッ素ガス処理PFTBA1230gを得た。次いで、フッ素ガス処理PFTBAの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した結果、光透過率は、94%以上、プロトン含有量は、0.3ppm以下であった。
【0064】
比較例2
高圧水銀灯を使用しない他は、実施例13と同様にして、フッ素ガス処理PFTBAを得た。次いで、フッ素ガス処理PFTBAの220−500nm(光路長:50mmセル)における光透過率を測定した結果、220nmにおける光透過率は、54%、プロトン含有量は、5.5ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上詳述したように、本発明は、光透過率を高めたフッ素化不活性液体及びその製造方法に係るものであり、本発明により、紫外・可視領域の220−500nm又は200−500nmにおける光透過率(光路長:50mm)を90%以上に高めることができる。併せて、プロトン含有量が1.0ppm又は0.5ppm以下、金属成分含有量が10ppb以下の高純度のフッ素化不活性液体を製造し、提供することができる。本発明は、高光透過性と低プロトン含有量、低金属成分含有量の要件を満たす、フォトリソグラフィー等の用途に好適に使用することが可能な高純度で高品質のフッ素化不活性液体の工業的な製造方法及びその製品を提供することを実現可能にするものである。生産規模が大型の工業的生産プロセスにおいては、原料の種類及びコスト、エネルギー消費と環境負荷の程度、生成物の収率、実施可能な生産設備等の生産要件を総合的に満たすことが不可欠であり、本発明は、フッ素化不活性液体に要求されている品質基準、工業的生産要件を満たすフッ素化不活性液体の新しい生産技術を確立した点で高い技術的意義を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより光透過率を傾斜的に向上させて光透過性の高いフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理により250−500nmの光透過率(光路長:50mm)を少なくとも50%とし、これを2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項2】
フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することによりプロトン含有量を傾斜的に低減させてプロトン含有量が1ppm以下のフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理によりプロトン含有量を少なくとも100ppmとし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項3】
フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより金属含有量を傾斜的に低下させて金属成分含有量を10ppb以下のフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理により金属成分含有量を少なくとも100ppbとし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって金属成分含有量を10ppb以下とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項4】
光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理においてプロトン含有量を100ppm以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とする請求項1に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項5】
光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理において金属成分含有量を100ppb以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって金属成分含有量を10ppb以下とする請求項1に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項6】
光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理においてプロトン含有量を100ppm以下、かつ金属含有量を100ppb以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ及び/又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって、プロトン含有量を1ppm以下、かつ金属成分含有量を10ppb以下とする請求項1に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項7】
プロトン含有量の傾斜的低減操作と併せて、1段目の処理において金属成分含有量を100ppb以下とし、これを、2段目の処理においてシリカ/及び又はアルミナを主成分とする吸着剤、又は、炭素を主成分とする吸着剤で処理することによって、金属成分含有量を10ppb以下とする、請求項2に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項8】
吸着剤が、ゼオライトである、請求項1から7のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項9】
ゼオライトの平均細孔径が5から12Åである、請求項8に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項10】
フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することにより光透過率を傾斜的に向上させて光透過性の高いフッ素化不活性液体を製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理により250−500nmの透過率(光路長:50mm)を少なくとも50%とし、これを2段目の処理において紫外光照射下にフッ素ガスで処理することによって220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項11】
フッ素化不活性液体を少なくとも2段の処理工程で段階的に処理することによりプロトン含有量を傾斜的に低減させてプロトン含有量が1ppm以下のフッ素化不活性液体製造する方法であって、1段目の処理において任意の処理によりプロトン含有量を少なくとも100ppmとし、これを、2段目の処理において紫外光照射下にフッ素ガスで処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とすることを特徴とするフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項12】
光透過率の傾斜的向上操作と併せて、1段目の処理において任意の処理によりプロトン含有量を少なくとも100ppm以下とし、これを、2段目の処理において紫外光照射下にフッ素ガスで処理することによってプロトン含有量を1ppm以下とすることを特徴とする、請求項10に記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項13】
200−500nmの光透過率(光路長:50mm)を90%以上とする、請求項1、4、5、6、8、9、10、12のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項14】
プロトン含有量を0.5ppm以下とする、請求項2、4、6、7、8、9、11、12のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項15】
紫外・可視領域における光透過率を向上させたフッ素化不活性液体であって、220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であることを特徴とするフッ素化不活性液体。
【請求項16】
プロトン含有量を低減させたフッ素化不活性液体であって、プロトン含有量が1ppm以下であることを特徴とするフッ素化不活性液体。
【請求項17】
金属成分含有量を低下させたフッ素化不活性液体であって、金属成分含有量が10ppb以下であることを特徴とするフッ素化不活性液体。
【請求項18】
220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であって、かつプロトン含有量が1ppm以下である、請求項15に記載のフッ素化不活性液体。
【請求項19】
220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であって、かつ金属成分含有量が10ppb以下である請求項15に記載のフッ素化不活性液体。
【請求項20】
プロトン含有量が1ppm以下であって、かつ金属成分含有量が10ppb以下である、請求項16に記載のフッ素化不活性液体。
【請求項21】
220−500nm又は200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上であって、かつプロトン含有量が1ppm以下であり、かつ金属成分含有量が10ppb以下である請求項15に記載のフッ素化不活性液体。
【請求項22】
200−500nmの光透過率(光路長:50mm)が90%以上である請求項15、18、19、21のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。
【請求項23】
プロトン含有量が0.5ppm以下である、請求項16、18、20、21のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。
【請求項24】
金属成分が、鉄、銅、アルミ、マグネシウム、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガン、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はモリブデンである、請求項3、5、6、7、8、9、13、14のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項25】
金属成分が、鉄、銅、アルミ、マグネシウム、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガン、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はモリブデンである、請求項17、19、20、21、22、23のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。
【請求項26】
上記のフッ素化不活性液体が、炭素原子6以上を有する直鎖、分岐鎖、もしくは環状のペルフルオロアルカン類、ペルフルオロエーテル類、又は、ペルフルオロアミン類である、請求項1から14、24のいずれかに記載のフッ素化不活性液体の製造方法。
【請求項27】
上記のフッ素化不活性液体が、炭素原子6以上を有する直鎖、分岐鎖、もしくは環状のペルフルオロアルカン類、ペルフルオロエーテル類、又は、ペルフルオロアミン類である、請求項15から23、25のいずれかに記載のフッ素化不活性液体。

【公開番号】特開2008−162985(P2008−162985A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356928(P2006−356928)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】