説明

光通信システム

【課題】本発明は、信号光及び妨害光の光周波数及びパルス幅によらずに妨害光を除去することの可能な光通信システムの提供を目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明に係る光通信システムは、コヒーレント光通信システムを用い、データ変調手段12が送信データで変調する1シンボル時間内で、信号光に周期の自然数倍の光位相変化を送信光位相変化手段13が同周期同方向に加えて光送信器10から送信し、光受信器20での受信の際に、局部発振光位相変化手段31及び積分包絡線検波手段33からなる同相検出手段が妨害光の受信出力の1シンボル時間での平均値を概ねゼロとすることによって、妨害光を除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妨害耐性の高いコヒーレント光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
PON(Passive Optical Network)システムを用いた経済的な光サービスの需要の増大が予想される。PONシステムでは、局内のOLT(Optical Line Terminal)の制御により、単一の光ファイバと伝送設備を複数のユーザ宅内機器のONU(Optical Network Unit)で共用する。PONシステムの普及に従い、ONUは、電気通信法49条の規定に準じた端末開放の可能性がある。この開放により、OLTの制御に従わないメディアコンバータやLAN機器等のPONシステムへの誤接続の可能性が増大する。これらの誤接続機器の出力光は、光ファイバと伝送設備を共用する他ユーザの通信に対する妨害光として作用し、通信途絶の問題を引き起こしかねない。この問題を解決するため、光符号多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)技術を適用した方法が提案されている。
【0003】
光符号多重技術を適用した一つの方法は、妨害光を光路間の干渉により選択的に除去する除去器を用いる方法である。この方法では、メディアコンバータやLAN機器等で用いられている通常の光源からの妨害光を十分に除去できる光路長差の信号光を用いるが、除去器の除去する光周波数によらず、光符号多重信号光の除去器出力が一定かつ、信号光同士の直交性は保たれるようにする。
【0004】
除去器を用いる方法では、除去器の光路長差では干渉が起きない程度に可干渉性が低い光であるか、除去器の光路長差では分割されたパルス同士が重なり合わない程度にパルス幅が狭い光であるか、干渉により除去される強度が除去対象とする光周波数によらずに一定であり符号間の直交関係が保たれる符号と光周波数幅を有する光符号多重信号光を用いる。そのため、光符号多重信号光の受信に影響を与えることなく、妨害光を選択的に除去することができる。
【0005】
光符号多重技術を適用したもう一つの方法は、妨害光と光周波数が重なる光周波数チップ及び光符号多重信号光間の直交性を保持するために必要な光周波数チップを備え、妨害光を選択的に受信しない方法である(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0006】
一方、直接変調レーザダイオードの光周波数変動(チャープ)を利用する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。光周波数変動に同期して受信対象とする光周波数を変更する光受信器を適用し、1シンボル時間内で受信信号に混入する妨害光の寄与を軽減することで、ONU側のコスト上昇を抑止しながら、妨害光の光周波数によらず妨害光を除去する(例えば、非特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−74557号公報
【特許文献2】特開2008−160707号公報
【非特許文献1】Yoshino,Manabu;Yoshimoto,Naoto;Tsubokawa,Makoto,“Chirp Frequency Synchronized Detection for Suppression of Light Interference in Optical Access Networks”,Optical Fiber Conference on 24−28 Feb.2008 OWB7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来例の方法は、以下のような課題があった。
光符号多重技術を適用した除去器を用いる方法及び光周波数チップを用いる方法では、除去器や除去対象とする光周波数チップの光周波数を妨害光の光周波数に合致させなければならない。このため、妨害光の発生を検出してから妨害光の光周波数に合致させるまでの間は、妨害光が除去できず、通信が途絶するという課題があった(課題1)。
また、適応的に妨害光を除去する場合には、妨害光の光周波数変化を感受して光周波数を変更するためのフィードバック機構が必要であることから、制御系が複雑となるという課題があった(課題2)。
【0008】
除去器を用いる方式で妨害光と信号光の発光が継続する時間の差を用いて妨害光を除去する方式では、パルスの短い妨害光を除去することが困難であるという課題があった(課題3)。
また、光路間の干渉により妨害光を選択的に除去する場合に、可干渉長の短い光を用いれば、信号光自体の雑音によりその信号対雑音比が劣化するという課題があった(課題4)。
【0009】
複数の妨害光の光周波数の差が除去器の除去する光周波数の間隔の整数倍でないと、全ての妨害光の除去ができない可能性がある。妨害光の光周波数がそれぞれ除去器の除去する光周波数の周期の整数倍であるときは、複数の妨害光を同時に除去することが可能である。しかし、妨害光の光周波数がそれぞれ除去器の除去する光周波数の周期の整数倍でないときは除去できない。そのため、複数の異なる光周波数の妨害光が存在する場合、すべての妨害光を除去するためには複数の除去器が必要となる。このように、除去器を用いる方法では、除去可能な異なる光周波数の妨害光の数が限定されている。
光周波数チップを選択的に受信しない方法でも同様に、選択的に受信しないチップ数の上限は符号長から制限され、除去可能な異なる光周波数の妨害光の数が限定されている。
したがって、複数の異なる光周波数の妨害光が存在する場合、いずれの光符号多重技術を適用した方法も、除去可能な妨害光の数が限定されるという課題があった(課題5)。
【0010】
直接変調レーザダイオードのチャープを利用する方法では、光符号多重技術を適用した方法の課題1から5は解決することはできる。しかし、信号光の光周波数を時間と共に変動させて光周波数を選択的に受信することで妨害光の受信を抑圧する。このため、妨害光が信号光と同様に時間と共に光周波数が変動し、かつ各時間における光周波数が信号光と偶然一致した場合は、妨害光を除去することができないという課題があった(課題6)。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、信号光及び妨害光の光周波数及びパルス幅によらずに妨害光を除去することの可能な光通信システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る光通信システムは、コヒーレント光通信システムを用い、送信データで変調する1シンボル時間内で、信号光に周期の自然数倍の光位相変化を同周期同方向に加えて送信し、受信の際に妨害光の受信出力の1シンボル時間での平均値を概ねゼロとすることによって、妨害光を除去することを特徴とする。
【0013】
具体的には、本発明に係る光通信システムは、光送信器から光受信器へ信号光を伝送する光通信システムであって、前記光送信器は、予め定められた光周波数の連続光を出力する光源と、前記光源からの連続光の強度又は光位相を送信データに応じて変調するデータ変調手段と、前記データ変調手段における変調の1シンボル時間の間に、光位相を周期の自然数倍変化させる送信光位相変化手段と、を備え、前記データ変調手段によって変調されかつ前記送信光位相変化手段によって光位相を変化された信号光を送信し、前記光受信器は、前記光送信器の送信する信号光と局部発振光を合波した光を検波して電気信号を出力する光検波手段と、前記光送信器の送信する信号光の出力から、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差をもつ光の出力を検出する同相検出手段と、を備え、前記光検波手段によって検波されかつ前記同相検出手段によって検出された光を受信することを特徴とする。
【0014】
信号光と局部発振光を一定の位相差でコヒーレント受信するので、1シンボル時間内の受信信号の積分値もシンボルの値に応じた値となる。一方、妨害光は、1シンボル時間内で周期の自然数倍だけ局部発振光との位相差が変化する。このため、1シンボル時間内での妨害光による信号の積分値がゼロとなる。これにより、誤接続機器の出力光による妨害光を除去することができる。このため、妨害光と信号光の光周波数は同じであっても、シンボル時間内での妨害光のコヒーレント検波の出力がゼロとなる。そのため、課題6を解決することができる。
妨害光の光周波数によらずに妨害光を除去することができるので、課題1、2及び5を解決することができる。また、信号光の可干渉長又はパルス幅の短さによらずに妨害光を除去することができるので、課題3及び4を解決することができる。
したがって、信号光及び妨害光の光周波数及びパルス幅によらずに妨害光を除去することの可能な光通信システムを提供することができる。
【0015】
本発明に係る光通信システムでは、前記同相検出手段は、局部発振光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差で変化させる局部発振光位相変化手段と、前記光検波手段の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を1シンボル時間積分したのちに包絡線検波する積分包絡線検波手段と、を備える構成とすることができる。
【0016】
本発明に係る光通信システムでは、前記同相検出手段は、前記光送信器からの信号光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と時間に対する位相変化を反転した位相で変化させる受信光位相変化手段と、前記光検波手段の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を1シンボル時間積分したのちに包絡線検波する積分包絡線検波手段と、を備える構成とすることができる。
【0017】
本発明に係る光通信システムでは、前記同相検出手段は、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の位相差で位相の変化する電気信号を発生させる検波信号発生手段と、前記光検波手段の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を、前記検波信号発生手段からの電気信号で同期検波する同期検波手段と、を備える構成とすることができる。
【0018】
本発明に係る光通信システムでは、前記局部発振光位相変化手段は、局部発振光が入力され、入力された局部発振光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差で変化させる外部光位相変調器を備える構成とすることができる。
【0019】
本発明に係る光通信システムでは、前記局部発振光位相変化手段は、局部発振光を直接強度変調によって発生する直接変調レーザであり、当該直接変調レーザの直接強度変調に伴って発生する光位相変化を用いて、前記局部発振光の光位相を変化させる構成とすることができる。
【0020】
本発明に係る光通信システムでは、前記受信光位相変化手段は、前記光送信器からの信号光が入力され、入力された信号光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と時間に対する位相変化を反転した位相で変化させる外部光位相変調器を備える構成とすることができる。
【0021】
本発明に係る光通信システムでは、前記送信光位相変化手段は、前記光源又は前記データ変調手段からの光が入力され、入力された光の光位相を周期の自然数倍変化させる外部光位相変調器である構成とすることができる。
【0022】
本発明に係る光通信システムでは、前記データ変調手段と前記送信光位相変化手段は一体化され、当該一体化された手段は、前記光源からの連続光を強度変調し、強度変調の1シンボル時間の間に、強度変調する際に発生する光位相変化を用いて光位相を周期の自然数倍変化させる構成とすることができる。
【0023】
本発明に係る光通信システムでは、前記光源、前記データ変調手段及び前記送信光位相変化手段は一体化され、当該一体化された手段は、直接強度変調によって強度変調された光を発生し、直接強度変調の1シンボル時間の間に、直接強度変調に伴って発生する光位相変化を用いて光位相を周期の自然数倍変化させる直接変調レーザである構成とすることができる。
【0024】
本発明に係る光通信システムでは、前記光送信器は、前記直接変調レーザからの光に、光周波数毎に異なる遅延時間を付与する送信側分散手段をさらに備え、前記光受信器は、前記送信側分散手段の付与する光周波数毎の遅延時間と逆の遅延時間を前記光送信器からの前記信号光に付与する逆分散手段をさらに備える構成とすることができる。
【0025】
本発明に係る光通信システムでは、前記光送信器は、前記直接変調レーザからの光に、光周波数毎に異なる遅延時間を付与する送信側分散手段をさらに備え、前記光受信器は、前記送信側分散手段の付与する光周波数毎の遅延時間と同じ遅延時間を局部発振光に付与する局部発振光分散手段をさらに備える構成とすることができる。
【0026】
本発明に係る光通信システムでは、前記光源は、異なる光周波数の複数の連続光を出力し、前記データ変調手段は、前記連続光の強度又は光位相を光周波数毎に変調し、前記送信光位相変化手段は、光位相を光周波数毎に変化させ、前記光送信器は、前記データ変調手段によって変調されかつ前記送信光位相変化手段によって光位相を変化された複数の光周波数の信号光を送信し、前記光検波手段は、前記光源の出力する各光周波数の連続光と所定の中間周波数だけ光周波数の異なる光を前記局部発振光として用い、前記光送信器の送信する複数の光周波数の信号光と当該局部発振光をそれぞれ合波した光を検波し、前記同相検出手段は、前記光送信器の送信する複数の光周波数の信号光から、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差をもつ光を光周波数毎に検出し、前記光受信器は、前記光検波手段によって検波されかつ前記同相検出手段によって検出された光を光周波数毎に受信することが好ましい。
信号光が複数の光周波数チップから構成されるために、単一光周波数の妨害光の寄与が光周波数チップ数分の1に削減できる。すなわち、光符号多重技術を適用することで妨害光除去能力をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、信号光及び妨害光の光周波数及びパルス幅によらずに妨害光を除去することの可能な光通信システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0029】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る光通信システムの構成概略図である。本実施形態に係る光通信システムは、光送信器10から光受信器20へ信号光を伝送する。図1では光送信器10と光受信器20のみを示し、光送信器10と光受信器20を接続する光ファイバや光合波器などからなる光ネットワークは省略している。
【0030】
光送信器10は、光源11と、データ変調手段12と、送信光位相変化手段13と、を備え、データ変調手段12によって変調されかつ送信光位相変化手段13によって光位相を変化された信号光を送信する。
【0031】
光源11は、予め定められた光周波数の連続光を出力する。データ変調手段12は、光源からの連続光の強度又は光位相を、送信データに応じて変調する。送信光位相変化手段13は、データ変調手段12における変調の1シンボル時間の間に、光位相を周期の自然数倍変化させる。ここで、1シンボル時間は、データ変調手段12で変調するデータ系列の一つの送信データで変調する時間である。一つの送信データは例えば1ビット送信データである。送信光位相変化手段13は、例えば、データ変調手段12からの光が入力され、入力された光の光位相を周期の自然数倍変化させる外部光位相変調器13aを備える。外部光位相変調器13aは、例えばLN外部変調器である。
【0032】
光源11、データ変調手段12、送信光位相変化手段13の順に配置される例を示したが、これに限定されない。例えば、光源11、送信光位相変化手段13、データ変調手段12の順に配置されていてもよい。また、光源11の予め定められた光周波数は、単一であってもよいし、複数であってもよい。光源11が複数の光周波数の光を出力することで、光符号多重技術を用いた妨害光の除去も併用することができる。
【0033】
光送信器10は、光源11を出力した光を、伝送対象であるデータ系列に従って、データ変調手段12で変調した後に、送信光位相変化手段13の外部光位相変調器13aで位相変調して信号光として出力する。ここで、外部光位相変調器13aは、信号源13bからの制御信号に従って光位相変調する。制御信号は、データ変調手段12で1シンボル時間の間に、信号光の位相を概ね自然数倍変化させる。
【0034】
光送信器10を出力した信号光は光ネットワークを介して、光受信器20に入力する。光受信器20は、局発光源21と、光合波手段22と、光検波手段23と、バンドパスフィルタ(BPF)24と、光送信器10の送信する信号光の出力から、送信光位相変化手段13の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差をもつ光の出力を検出する同相検出手段を備える。光受信器20は、光検波手段23によって検波されかつ同相検出手段によって検出された光を受信する。これにより、光受信器20は、光位相の変化する信号光を、ヘテロダイン包絡線検波によって受信することができる。
【0035】
本実施形態では、同相検出手段は、局部発振光位相変化手段31と、積分包絡線検波手段33を備える。局部発振光位相変化手段31は、局部発振光が入力され、入力された局部発振光の光位相を、送信光位相変化手段13の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差で変化させる外部光位相変調器31aを備える。この場合、局部発振光位相変化手段31は信号源31bを備え、外部光位相変調器31aは、信号源31bからの信号に従って局部発振光の光位相を変化させる。
【0036】
局発光源21は、信号光と干渉する局部発振光を出力する。局部発振光位相変化手段31は、局部発振光の光位相を、送信光位相変化手段13の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差で変化させる。光合波手段22は、局部発振光位相変化手段31を介した局部発振光と光送信器10からの信号光とを合波して、局部発振光と信号光を干渉させる。光検波手段23は、例えばフォトダイオードであり、局部発振光と信号光の干渉光を検波し、光電変換して電気信号を出力する。光電変換した電気信号はBPF24に入力する。BPF24は、光検波手段23の出力する電気信号から、局部発振光と信号光の中間周波数であるビート信号を抜き出して、積分包絡線検波手段33に入力する。積分包絡線検波手段33は、光検波手段の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を1シンボル時間積分したのちに包絡線検波する。積分包絡線検波手段33は積分手段と包絡線検波手段からなる。積分手段としては、例えば、光又は電気段のトランスバーサルフィルタ等の遅延線を組み合わせた積分器などがある。この系統の積分器を用いる場合は、その遅延線の段数は位相変化手段の1シンボル時間に光位相を1周期の自然数倍変化させる段数以上とする。なお、光合波手段22で信号光と局部発振光を合波する際に両光の偏波は合わせてあるか、偏波に依存せずに中間周波数信号が出力される偏波ダイバシティの構成としている。
【0037】
なお、本実施形態の光受信器20では、ヘテロダイン包絡線検波による信号光の受信を前提に説明するが、光位相同期ループを具備した同期検波の光受信器としてもよいし、中間周波数をゼロに近似するホモダイン検波の光受信器としてもよい。ホモダイン検波の場合は、位相ダイバシティ型の光受信器としてもよいし、同期検波としてもよい。
【0038】
次に、本実施形態の効果の例について図2を用いて説明する。図2は、局部発振光、信号光及び妨害光の光強度と光位相を示し、(a)は局部発振光の光強度であり、(b)は局部発振光の光位相であり、(c)は送信された信号光の光強度であり、(d)は送信された信号光の光位相であり、(e)は妨害光の光強度であり、(f)は妨害光の光位相であり、(g)は局部発振光と合波後の信号光の光強度であり、(h)は局部発振光と合波後の妨害光の光強度である。
【0039】
信号光及び局部発振光は、図2(b)及び図2(d)に示すように、1シンボル時間の半分で光位相がπ切り替わっている。このため、信号光と局部発振光との光位相差は一定であり、シンボル時間を構成するどの時間でもその中間周波数成分は一定である。したがって、局部発振光と合波後の信号光を1シンボル時間内で積分した光強度は、図2(g)に示すように、図2(c)に示す送信データのシンボルの値に応じた値となる。これによって、光受信器は、送信データを受信することができる。
【0040】
他方、妨害光は、図2(f)に示すように、1シンボル時間を通じて一定の位相である。このため、妨害光と局部発振光との光位相差は1シンボル時間の半分でπ異なることとなる。このとき、局部発振光と合波後での妨害光は、図2(h)に示すように、1シンボル時間を構成する前半の時間と後半の時間ではその中間周波数成分の光強度は同一で、符号は逆符号となる。このため、局部発振光と合波後での妨害光を1シンボル時間内で積分した光強度はゼロとなる。したがって、図1に示す光受信器20は、図1に示す積分包絡線検波手段33から出力された電気信号から、局部発振光と合波後での妨害光の影響を除去することができる。
【0041】
上記のように、図1に示す光通信システムは、光受信器20において、信号光を受信し、なおかつ妨害光の影響を除去することができる。妨害光と信号光の光周波数は同じであっても、この効果は失われない。
【0042】
送信光位相変化手段13での光位相の変化は、位相が0からπまでの時間と、位相がπから2πまでの時間が等しいことが好ましい。これにより、光受信器20での1シンボル時間内での妨害光による信号の積分値をゼロとすることができる。送信光位相変化手段13での位相が0からπまでの時間と位相がπから2πまでの時間とが等しくない場合であっても、妨害光による信号の積分値をゼロに近づけることができるので、送信データと妨害光による信号とを分離することができる。
【0043】
送信光位相変化手段13での光位相変化は、信号光と局部発振光の光位相差が概ね一定に保たれれば、正弦波状であってもよいし、ステップ状であってもよい。
送信光位相変化手段13が光位相を変化させる速度は、一定であることが好ましい。信号光と局部発振光との光位相差が常に一定となるので、1シンボル時間中のどのタイミングでも信号光と局部発振光の中間周波数成分における信号強度を一定にすることができる。光位相変化が同周期の正弦波であるか、等速で一定方向に変化するのであれば、信号光と局部発振光の位相差は一定となるので、光送信器10及び光受信器20での厳密な同期を不要とすることができる。
【0044】
さらに、本実施形態の原理について説明する。
チャープ量が一定の強度変調器により変調されたコヒーレント光が妨害光として光受信器20に入力されて、局部発振光との光周波数差が図1に示すBPF24を通過する受信帯域に入った場合を想定する。このとき、1シンボル時間の中で局部発振光との信号光の光位相が1周期のn倍(nは自然数)だけ変化すると、妨害光の光強度L、信号光の光強度L、局部発振光の光強度Lについて次式が成り立つ。
【数1】

【0045】
ここで、E、E、Eは、それぞれ、妨害光、信号光、局部発振光の光強度を示す。f、f、fは、それぞれ、妨害光、信号光、局部発振光の光周波数を示す。θ、θ、θは、それぞれ、妨害光、信号光、局部発振光の初期位相を示す。nは自然数、Bは1シンボル時間の逆数を示す。このとき、妨害光と信号光の時間tにおける中間周波数成分M、Mは以下となる。
【数2】

【0046】
したがって、包絡線検波によって1シンボル時間で中間周波数成分M及びMを平均化すると、妨害光の中間周波数成分Mはゼロとなり、信号光の中間周波数成分Mのみとなる。これにより、妨害光の光周波数が信号光と同一であっても、妨害光の出力をゼロとし、信号光のみとすることができる。
【0047】
1シンボル時間の間に光位相を1周期だけ変化させる回数となる自然数nは、2以上であることが好ましい。これは、妨害光が直接変調レーザからの光であり、その位相変化が偶然、送信光位相変化手段13での位相変化と合致する危険性を防止する観点からである。この場合、妨害光は1/2シンボル時間で1周期分位相スクランブルされているので、自然数nが2以上であることで、妨害光を除去することができる。
【0048】
本実施形態では、妨害光の光周波数が受信対象となる場合も、1シンボル時間での積分により、その影響を軽減するために、妨害光の光周波数に応じた光周波数チップを適合するまでの通信途絶は発生しない。また、妨害光の光周波数に応じたフィードバック制御系も不要である。異なる複数の光周波数の妨害光が受信帯域に入る場合も、それぞれの光周波数に応じた光周波数の変更が不要である。また、信号光と妨害光の可干渉長やパルス幅に依存した妨害光除去ではないので、信号光と妨害光の可干渉長又はパルス幅が同程度である場合の除去と、可干渉長の短い光を用いたときの信号対雑音比の劣化を回避できる効果もある。
【0049】
本実施形態では、送信光位相変化手段13として独立な外部光位相変調器13aを用いる構成を示したが、データで変調するためのデータ変調手段12や光源11と兼ねることがコスト削減の観点から望ましい。
例えば、データ変調手段12と送信光位相変化手段13は、一体化されていることが好ましい。具体的には、強度変調に位相変調が伴うデータ変調手段を用い、強度変調深さは、それに伴う位相変調が周期の自然数倍となる深さを選択する。周波数変調と位相変調の関係から、データ信号の微分操作を行い、そのような位相変調となるように光源を周波数変調する。このようなデータ変調手段を用いることで一体化する。図3に、この場合の光送信器の一例を示す。図3に示す一体化された手段14aは、光源11からの連続光を強度変調する。そして、強度変調の1シンボル時間の間に、強度変調する際に発生する光位相変化を用いて光位相を周期の自然数倍変化させる。
【0050】
例えば、光源11、データ変調手段12及び送信光位相変化手段13は、一体化されていることが好ましい。図4に、この場合の光送信器の一例を示す。図4に示す直接変調レーザ14bは、図1に示す光源11、データ変調手段12及び送信光位相変化手段13が一体化された構成となっている。直接変調レーザ14bは、直接強度変調によって強度変調された光を発生し、直接強度変調の1シンボル時間の間に、直接強度変調に伴って発生する光位相変化を用いて光位相を周期の自然数倍変化させる。
【0051】
直接変調レーザでは、印加電流と光出力により生じるレーザ内のキャリア変動に応じた屈折率変化を主たる原因として、出力光の光位相と光周波数が変動するチャープが発生する。レーザのチャープでは、正弦波変調でも変調度を大きくすると、出力する光の時間に対する位相変化が線形に近似できるようになる。この条件下では、位相を変化させる信号は正弦波信号でよい。
【0052】
なお、チャープを用いる構成では、光周波数も変化するので、光周波数差による除去も適用することができる。適用する場合は、同周期であるだけでなく、信号光と局部発振光を同期して変調する必要がある。したがって、信号光と局部発振光の変調を同期しない効果は失われるが、信号光と局部発振光の光周波数が重なっても除去できる効果はそのままであり、かつ妨害除去能力が向上するメリットがある。
【0053】
チャープを用いる構成において光周波数差による除去を適用しない場合は、光周波数領域の選別による妨害光除去能力の向上は見込めないが、信号光と妨害光の光周波数が重なってもよい効果と、信号光と局部発振光の変調を同期しなくてもよい効果が得られる。具体的には、図1に示すBPF24の透過周波数幅を広くすることで、信号光と局部発振光の変調は、特に直接変調レーザ14bが正弦波変調であるときに直接変調レーザ14bと外部光位相変調器31aを同周期での変調とすればよい。信号光と局部発振光の変調を同期せずに周波数領域の選別による除去の効果を得るには、例えば、BPF24で抜き出す中間周波数を、信号光と局部発振光の各瞬間の光周波数差に応じて変更することで対応することも可能である。
【0054】
局部発振光位相変化手段31は、信号光の有無に関わらず一定の周期で連続的に、局部発振光の光位相変化をする。一方、送信光位相変化手段13は、連続的に光位相変化してもよいし、データ変調手段12が光を出力しているときだけ光位相変化を加えてもよい。このため、光源11、データ変調手段12及び送信光位相変化手段13が一体化されている直接変調レーザで光位相変化を加える構成では、各時間で出力周波数が十分に変動するような強度変化がデータ変調時にあるので、その変化によって光位相が周期の自然数倍回転するように直接変調レーザの出力強度を変化させれば、直接変調レーザで発振する光の強度を制御するデータ信号と光位相を制御するための位相変調用の信号とを混合する混合器とを具備しなくてもよい。例えば、シンボルレート以下の75%程度の通過帯域を有するローパスフィルタ等を通過したRZ(Return to Zero)のパルス上のデータ信号であれば、時間に対する信号強度が変動する。
【0055】
局部発振光位相変化手段31は、局発光源21と外部光位相変調器31aが一体化されていることが好ましい。例えば、局部発振光位相変化手段31は、局発光源21及び外部光位相変調器31aに代えて、信号源31bから入力される信号に従って、局部発振光を直接強度変調によって発生する直接変調レーザを備える。この場合、局部発振光位相変化手段31は、当該直接変調レーザの直接強度変調に伴って発生する光位相変化を用いて、局部発振光の光位相を変化させる。
【0056】
また、本実施形態では、データ変調手段12が光強度変調を行う例について説明したが、データ変調手段12は光位相変調を行ってもよい。図5に、データ変調を光位相変調で行う場合の光通信システムの構成概略図を示す。PSK(Phase Shift Keying)変調の場合、信号光は送信光位相変変化手段13による位相変化に、データ変調手段12による位相変調が加えられている。この場合、局部発振光は、信号光と異なり、データ変調手段12による位相変調がないので、局部発振光位相変化手段31にて送信光位相変化手段13による位相変化と同周期方向の位相変化のみ与えられる。
【0057】
同期検波を例に説明する。図1に1×2の光合波器、1光入力の光検波手段として示される光合波手段22及び光検波手段23は、それぞれ図5では、2×2の光合波手段27と、2光入力のバランス型光検波手段28に該当する。図1に示すBPF24と積分包絡線検波手段33は、積分手段35に該当する。信号光と局部発振光は2×2の光合波手段27で合波される。合波光は光合波手段27の2つの出力から出力され、それぞれバランス型光検波手段28の2つの入力に入力され、光電変換後のそれぞれの出力が逆極性で加算されて検波される。局部発振光は光検波出力から局発光源21の制御信号を外部光位相変調器31aで抽出して、自動周波数制御が行われる。中間周波数が零に近似されるホモダインの場合は、自動周波数制御に加えて位相同期制御が行われる。
【0058】
以上示したように、本実施形態に係る光通信システムは、送信データの1シンボル時間の間に信号光の位相を1周期の概ね自然数倍位相を変化することで、信号光と妨害光の光周波数が同一であっても、妨害光を除去することができる。さらに、信号光の位相が1シンボル時間内に同方向同速度で周期の自然数倍変化する信号光を用いることで、信号光と局部発振光の位相変調する周期を同期することなく、簡易に妨害光を除去することができる。
【0059】
(実施形態2)
図6は、本実施形態に係る光通信システムの構成概略図である。本実施形態と実施形態1の違いは、光受信器20が、図1に示す局部発振光位相変化手段31の代わりに受信光位相変化手段32を具備することにある。光受信器20は、受信光位相変化手段32で逆位相変化した後の信号光をコヒーレント検波する。
【0060】
局発光源21は、信号光と干渉する局部発振光を出力する。受信光位相変化手段32は、光送信器10からの信号光の光位相を、送信光位相変化手段13の変化させる光位相と時間に対する位相変化を反転した位相で変化させる。光合波手段22は、受信光位相変化手段32を介した信号光と局発光源21からの局部発振光とを合波して、局部発振光と信号光を干渉させる。その後は実施形態1と同様である。これにより、光検波手段23の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を1シンボル時間積分したのちに積分包絡線検波手段33が包絡線検波することで、妨害光の出力をゼロとし、信号光のみを受信することができる。
【0061】
ここで、送信光位相変化手段13の変化させる光位相をθ(t)、局部発振光位相変化手段31の変化させる光位相をθ(t)、受信光位相変化手段32の変化させる光位相をθ(t)とする。このとき、光位相θ(t)、光位相θ(t)、光位相θ(t)は、次式の関係が成立する。
【数3】

このように、受信光位相変化手段32が送信光位相変化手段13の変化させる光位相と時間に対する位相変化の極性を反転させた位相で、信号光の光位相を変化させる。これにより、1つの光に対して、光位相θ(t)及び光位相θ(t)の2度の位相変化を加えて、両方の位相変化の和を一定に保つことができる。
【0062】
図7に示す構成では、図6に示す1×2の光合成手段22、1光入力の光検波手段23ではなく、2×2の光合波手段27と、2光入力のバランス型光検波手段28である。図6に示すBPF24と積分包絡線検波手段33は、積分手段35に該当する。更に図6に示す局発光源21は不要である。光送信器10でデータ変調手段12を駆動する送信データは予め差動符号化が施されている。光送信器10からの信号光は、受信光位相変化手段32を経て、光分岐手段25により2分岐され、一方は光合波手段27に、他方は光遅延手段26に入力される。受信光位相変化手段32は、光分岐手段25により2分岐した一方の信号光に送信光位相変化手段13の変化させる光位相と時間に対する位相変化を反転した位相が、送信光位相変化手段13と同周期かつ一定の光位相差の位相同方向同速度で位相を変化させる。一定の光位相差で変化させた場合、データ信号は「0」と「1」が反転した形で出力される。光遅延手段26は他方の信号光に対して1シンボル時間の光遅延を加える。一方が他方に比べて1シンボル時間の光遅延を加えた状態で、2×2の光合波手段27で合波される。合波光は、光合波手段27の2つの出力から出力し、それぞれバランス型光検波手段28の2つの入力に入力される。バランス型光検波手段28は、光電変換後、それぞれの出力を逆極性で加算して検波する。分岐した2つの信号光は1ビットずれているので、その位相差に相当する信号が得られる。すなわち差動復号化が自動的に行われ、光DPSK(Differential Phase−Shift−Keying)信号の検波結果が得られる。
【0063】
受信光位相変化手段32は、送信光位相変化手段13と同様の構成とすることができる。例えば、受信光位相変化手段32は、光送信器10からの信号光が入力され、入力された信号光の光位相を、送信光位相変化手段13の変化させる光位相と時間に対する位相変化を反転した位相で変化させる外部光位相変調器を備える構成である。
【0064】
本実施形態の原理について説明する。本実施形態では、1シンボル時間の中で局部発振光との信号光の光位相が1周期のn倍(nは自然数)だけ変化すると、妨害光の光強度L、信号光の光強度L、局部発振光の光強度Lについて次式が成り立つ。
【数4】

【0065】
したがって、積分によって1シンボル時間で中間周波数成分M及びMを平均化すると、妨害光の中間周波数成分Mはゼロとなり、信号光の中間周波数成分Mのみとなる。これにより、妨害光の光周波数が信号光と同一であっても、妨害光の出力をゼロとし、信号光のみとすることができる。
【0066】
(実施形態3)
図8は、本実施形態に係る光通信システムの構成概略図である。実施形態1及び2では光受信器20内において局部発振光又は信号光の光位相を変化させたが、本実施形態では光受信器20内において局部発振光又は信号光の光位相を変化させない。その代わりに、信号光の中間周波数成分を取り出したビート信号の位相変化と同周期で位相が変化する電気信号を、BPF24からの出力信号に乗じて同期検波する検波信号発生手段34a及び同期検波手段34bを備えることを特徴とする。本実施形態では、電気信号で処理することができるので、光受信器における光の位相変化をさせる部品を削減する効果がある。
【0067】
局発光源21は、信号光と干渉する局部発振光を出力する。光合波手段22は、局発光源21からの局部発振光と光送信器10からの信号光とを合波して、局部発振光と信号光を干渉させる。光検波手段23は、局部発振光と信号光の干渉光を検波し、光電変換して電気信号を出力する。光電変換した電気信号はBPF24に入力する。BPF24は、光検波手段23の出力する電気信号から、局部発振光と信号光の中間周波数であるビート信号を抜き出して、同期検波手段34bに入力する。検波信号発生手段34aは、送信光位相変化手段13の変化させる光位相と同周期かつ一定の位相差で位相の変化する電気信号を発生させる。同期検波手段34bは、光検波手段23の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を、検波信号発生手段34aからの電気信号で同期検波する。
その他は実施形態1及び2と同様である。
【0068】
(実施形態4)
図9は、本実施形態に係る光通信システムの構成概略図である。本実施形態と実施形態1との違いは、光送信器10が送信側分散手段41をさらに備え、光受信器20が逆分散手段42をさらに備えることである。
【0069】
送信側分散手段41は、光周波数毎に異なる遅延時間を付与する。例えば、送信光位相変化手段13の出力する信号光に、光周波数毎に異なる遅延時間を付与する。逆分散手段42は、送信側分散手段41の付与する光周波数毎の遅延時間と逆の遅延時間を、光送信器10からの信号光に付与する。
【0070】
本実施形態では、直接変調レーザのように強度変調に伴い光周波数変化が発生するデータ変調手段12を用いていることが前提である。例えば、光源11、データ変調手段12及び送信光位相変化手段13が一体となった直接変調レーザを用いた場合である。光周波数による遅延時間の和の誤差は、ビート信号を透過するBPF24の透過周波数以下に収まることが望ましい。
【0071】
本実施形態は、妨害光が直接変調レーザからの光であり、その位相変調が偶然、本実施形態の光受信器20と合致する危険性を防止するために、特に有効である。信号光の光周波数が低周波数側から長周波数側に1シンボル時間に変化する信号光の場合、1シンボルの信号は時間方向に伸張され、いずれかが逆であれば、逆に短くなる。この送信側分散手段41により、干渉光のシンボルの周期と一致しないようなシンボル時間に伸張又は短縮する分散を付与することで、偶然に干渉光の時間−位相特性が一致してしまっていても、逆分散手段42によって、妨害光の時間に対する位相変化が変化するので、位相変化の偶然の一致を削減することができる。更に、光周波数の変化が大きい場合、ある時間における妨害光と局部発振光の光周波数差が、光受信器20の受信対象とする光周波数幅と異なり、受信対象とならない効果もある。
【0072】
ここで、送信側分散手段41及び逆分散手段42の付与する光周波数に対する遅延時間は、単調変化であってもよいし、ランダムに変化してもよい。ランダムに変化させることで、妨害光との分離が容易になる。
【0073】
送信側分散手段41及び逆分散手段42の付与する光周波数に対する遅延時間が単調変化の場合は、逆分散手段42による信号光と妨害光が同期する可能性がある。そのため、シンボル時間Tに対する逆分散手段42の付与する光周波数に対する遅延時間の幅の比は、データ変調手段12の変調する1シンボル時間とそれ以外のシンボルレートのシンボル時間の差の比と大きく異なることが望ましい。これにより、逆分散手段42による信号光と妨害光が同期することを抑止することができる。
【0074】
信号光と妨害光のシンボルレートが偶然一致する可能性を軽減する観点から、伸張又は短縮したシンボル時間が、既存の機器で用いられているようなシンボル時間に一致しないことが望ましい。例えば、155Mbit/sと622Mbit/sのシンボルレートの場合、155Mbit/sの伝送速度の信号光のシンボルレートが4倍に伸張する分散を与えてしまうと、622Mbit/sの妨害光のシンボルレートと偶然一致する可能性が出る。逆に、622Mbit/sの伝送速度の信号光のシンボルを1/4に短縮する分散を与えてしまうと、155Mbit/sの妨害光のシンボルレートと偶然一致する可能性がでる。そのために既存の機器で用いられていないようなシンボル時間に伸張、短縮するような分散を与えることが望ましい。
【0075】
逆分散手段42により妨害光の実時間波形が拡大する方向に遅延時間を付与する場合は、徐々に各シンボル同士が重なりあい、同時に複数の光周波数の妨害光が存在することになる。この場合、その極限としては妨害光の寄与が一定の値に近づくおそれがあるため、妨害光の実時間波形が縮小する方向に遅延時間を付与することが望ましい。
【0076】
その他の効果については、実施形態1と同様である。
なお、本実施形態例は実施形態1の構成を前提として説明を行ったが、実施形態1、2及び3のいずれの構成に付与しても同様の効果が得られる。
【0077】
(実施形態5)
本実施形態では、図9に示す実施形態4に係る逆分散手段42の代わりに、入力した局部発振光を光周波数に応じて異なる遅延時間を付与する局部発振光分散手段を有する。局部発振光分散手段は、送信側分散手段41の付与する光周波数毎の遅延時間と同じ遅延時間を局部発振光に付与する。
【0078】
ここで、送信側分散手段41と局部発振光分散手段は中間周波数だけ異なる光周波数に同じ遅延時間を付与する。このため、信号光と局部発振光の時間に対する位相関係は実施形態1と同様となる。局部発振光分散手段の付与する遅延時間は実施形態4と同様であれば、実施形態4と同様の効果が得られる。
なお、本実施形態は実施形態1の構成を前提として説明を行ったが、実施形態1、2及び3のいずれの構成に付与しても同様である。
【0079】
(実施形態6)
本実施形態の実施形態1との違いは、信号光と局部発振光にある。本実施形態では、信号光は異なる光周波数の光の有無又は位相で符号化した信号光であり、局部発振光は符号化された信号光と所定の中間周波数だけ光周波数が異なる。また、局部発振光は、選択する符号を復号するのに必要且つ選択しない符号を相殺するのに必要な複数の光周波数を具備する。そのため、局発光源は、光検波出力から局発光源制御信号を抽出して、自動周波数制御を行ってもよい。中間周波数が零に近似されるホモダイン検波の場合は、自動周波数制御に加えて位相同期制御が行われてもよい。
【0080】
具体的には、本実施形態に係る光通信システムは、図1に示す光通信システムと以下の構成が異なる。
光源11は、異なる光周波数の複数の連続光を出力する。各光周波数が1シンボルごとに割り当てられる。データ変調手段12は、連続光の強度を光周波数毎に変調する。送信光位相変化手段13は、光位相を光周波数毎に変化させる。その結果、光送信器10は、データ変調手段12によって変調されかつ送信光位相変化手段13によって光位相を変化された複数の光周波数の信号光を送信する。
【0081】
光検波手段23は、局部発振光を用い、光送信器10の送信する複数の光周波数の信号光と当該局部発振光をそれぞれ合波した光を検波する。ここで、局部発振光は、光源11の出力する各光周波数の連続光と所定の中間周波数だけ光周波数が異なる。所定の中間周波数は、光源11の出力する各光周波数とそのコヒーレント光との中間周波数である。また、局部発振光の各光周波数における位相は、光送信器10の送信する各光周波数の信号光との位相差が光合波手段において合波する際にそれぞれ一致している。同相検出手段は、光送信器10の送信する複数の光周波数の信号光から、送信光位相変化手段13の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差をもつ光を光周波数毎に検出する。その結果、光受信器20は、光検波手段によって検波されかつ同相検出手段によって検出された光を光周波数毎に受信する。
【0082】
この構成では、信号光が複数の光周波数チップから構成されるために、単一の妨害光の寄与が光周波数チップ数分の1に削減できる。すなわち、光符号多重技術を適用することで妨害光除去能力が更に向上する。本実施形態は実施形態1の構成を前提として説明したが、他の実施形態の構成を用いても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、PONシステムを用いた経済的な光サービスに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施形態1に係る光通信システムの構成概略図である。
【図2】局部発振光、信号光及び妨害光の光強度と光位相を示し、(a)は局部発振光の光強度であり、(b)は局部発振光の光位相であり、(c)は送信された信号光の光強度であり、(d)は送信された信号光の光位相であり、(e)は妨害光の光強度であり、(f)は妨害光の光位相であり、(g)は局部発振光と合波後の信号光の光強度であり、(h)は局部発振光と合波後の妨害光の光強度である。
【図3】データ変調手段と送信光位相変化手段が一体化された場合の光送信器の一例を示す。
【図4】光源、データ変調手段と送信光位相変化手段が一体化された直接変調レーザである場合の光送信器の一例を示す。
【図5】データ変調に光位相変調を用いた場合の光通信システムの構成概略図である。
【図6】実施形態2に係る光通信システムの構成概略図である。
【図7】データ変調に光位相変調を用いた場合の光通信システムの構成概略図である。
【図8】実施形態3に係る光通信システムの構成概略図である。
【図9】実施形態4に係る光通信システムの構成概略図である。
【符号の説明】
【0085】
10 光送信器
11 光源
12 データ変調手段
13 送信光位相変化手段
13a 外部光位相変調器
13b 信号源
14a 一体化された手段
14b 直接変調レーザ
20 光受信器
21 局発光源
22 光合波手段
23 光検波手段
24 BPF
25 光分岐手段
26 光遅延手段
27 光合波手段
28 バランス型光検波手段
31 局部発振光位相変化手段
31a、32a 外部光位相変調器
31b、32b 信号源
32 受信光位相変化手段
33 積分包絡線検波手段
34a 検波信号発生手段
34b 同期検波手段
35 積分手段
41 送信側分散手段
42 逆分散手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光送信器から光受信器へ信号光を伝送する光通信システムであって、
前記光送信器は、
予め定められた光周波数の連続光を出力する光源と、
前記光源からの連続光の強度又は光位相を送信データに応じて変調するデータ変調手段と、
前記データ変調手段における変調の1シンボル時間の間に、光位相を周期の自然数倍変化させる送信光位相変化手段と、を備え、
前記データ変調手段によって変調されかつ前記送信光位相変化手段によって光位相を変化された信号光を送信し、
前記光受信器は、
前記光送信器の送信する信号光と局部発振光を合波した光を検波して電気信号を出力する光検波手段と、
前記光送信器の送信する信号光の出力から、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差をもつ光の出力を検出する同相検出手段と、を備え、
前記光検波手段によって検波されかつ前記同相検出手段によって検出された光を受信することを特徴とする光通信システム。
【請求項2】
前記同相検出手段は、
局部発振光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差で変化させる局部発振光位相変化手段と、
前記光検波手段の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を1シンボル時間積分したのちに包絡線検波する積分包絡線検波手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項3】
前記同相検出手段は、
前記光送信器からの信号光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と時間に対する位相変化を反転した位相で変化させる受信光位相変化手段と、
前記光検波手段の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を1シンボル時間積分したのちに包絡線検波する積分包絡線検波手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項4】
前記同相検出手段は、
前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の位相差で位相の変化する電気信号を発生させる検波信号発生手段と、
前記光検波手段の出力する電気信号のうちの中間周波数成分を、前記検波信号発生手段からの電気信号で同期検波する同期検波手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項5】
前記局部発振光位相変化手段は、
局部発振光が入力され、入力された局部発振光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差で変化させる外部光位相変調器を備えることを特徴とする請求項2に記載の光通信システム。
【請求項6】
前記局部発振光位相変化手段は、
局部発振光を直接強度変調によって発生する直接変調レーザであり、
当該直接変調レーザの直接強度変調に伴って発生する光位相変化を用いて、前記局部発振光の光位相を変化させることを特徴とする請求項2に記載の光通信システム。
【請求項7】
前記受信光位相変化手段は、
前記光送信器からの信号光が入力され、入力された信号光の光位相を、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と時間に対する位相変化を反転した位相で変化させる外部光位相変調器を備えることを特徴とする請求項3に記載の光通信システム。
【請求項8】
前記送信光位相変化手段は、前記光源又は前記データ変調手段からの光が入力され、入力された光の光位相を周期の自然数倍変化させる外部光位相変調器であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光通信システム。
【請求項9】
前記データ変調手段と前記送信光位相変化手段は一体化され、
当該一体化された手段は、前記光源からの連続光を強度変調し、強度変調の1シンボル時間の間に、強度変調する際に発生する光位相変化を用いて光位相を周期の自然数倍変化させることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光通信システム。
【請求項10】
前記光源、前記データ変調手段及び前記送信光位相変化手段は一体化され、
当該一体化された手段は、直接強度変調によって強度変調された光を発生し、直接強度変調の1シンボル時間の間に、直接強度変調に伴って発生する光位相変化を用いて光位相を周期の自然数倍変化させる直接変調レーザであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光通信システム。
【請求項11】
前記光送信器は、
前記直接変調レーザからの光に、光周波数毎に異なる遅延時間を付与する送信側分散手段をさらに備え、
前記光受信器は、
前記送信側分散手段の付与する光周波数毎の遅延時間と逆の遅延時間を前記光送信器からの前記信号光に付与する逆分散手段をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の光通信システム。
【請求項12】
前記光送信器は、
前記直接変調レーザからの光に、光周波数毎に異なる遅延時間を付与する送信側分散手段をさらに備え、
前記光受信器は、
前記送信側分散手段の付与する光周波数毎の遅延時間と同じ遅延時間を局部発振光に付与する局部発振光分散手段をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の光通信システム。
【請求項13】
前記光源は、異なる光周波数の複数の連続光を出力し、
前記データ変調手段は、前記連続光の強度又は光位相を光周波数毎に変調し、
前記送信光位相変化手段は、光位相を光周波数毎に変化させ、
前記光送信器は、前記データ変調手段によって変調されかつ前記送信光位相変化手段によって光位相を変化された複数の光周波数の信号光を送信し、
前記光検波手段は、前記光源の出力する各光周波数の連続光と所定の中間周波数だけ光周波数の異なる光を前記局部発振光として用い、前記光送信器の送信する複数の光周波数の信号光と当該局部発振光をそれぞれ合波した光を検波し、
前記同相検出手段は、前記光送信器の送信する複数の光周波数の信号光から、前記送信光位相変化手段の変化させる光位相と同周期かつ一定の光位相差をもつ光を光周波数毎に検出し、
前記光受信器は、前記光検波手段によって検波されかつ前記同相検出手段によって検出された光を光周波数毎に受信することを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−68239(P2010−68239A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232551(P2008−232551)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】