説明

光造形法、造形物

【課題】従来の光造形法では、内部に微小立体構造物を形成した後に、微小立体構造物を簡易的に取り出すこと困難であった。
【解決手段】本発明は、固体状態で透明な蛋白質を融点以上の温度にして溶解させる蛋白質溶解ステップと、溶解した蛋白質に光重合溶液を導入する光重合溶液導入ステップと、光重合溶液が導入された蛋白質を凝固点以下の温度にして固化させる蛋白質固化ステップと、固化した蛋白質の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成する造形物形成ステップと、内部に造形物が形成された蛋白質を融点以上の温度にして溶解させ、造形物を取り出す造形物取出ステップと、を有する光造形法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形法、及び光造形法により生成される造形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子を形成し得る酸化重合性モノマーを用いた光造形法は、マイクロマシンのアクチュエータやセンサーなどの微小立体構造物を形成するために用いられている。従来の一般的な光造形法では、光重合性モノマーが溶解した重合液に基板を浸漬させ、基板表面付近に光を照射することによって光重合反応を励起させていた。そして、基板表面を起点として重合高分子が積層させることで微小立体構造物を形成させていた。
【0003】
しかしながら、上記従来の光造形法においては、光重合反応の反応場は流動性の高い液体であり、重合高分子の積層過程において微小立体構造物の形状・構造を精度よく整えることが難しかった。この点に着目して、引用文献1においては、パーフルオロスルホン酸系ポリマーなどのイオン交換膜の内部を3次元的な反応場として規定し、当該反応場において導電性高分子の光重合を行う光造形法を開示している。この光造形法を用いることによって、高分子膜の内部に導電性高分子かなる微小立体構造物を精度よく形成することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−108175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、パーフルオロスルホン酸系ポリマーなどのイオン交換膜は容易に溶解するものではないため、内部に微小立体構造物を形成した後に、当該イオン交換膜を取り除いて微小立体構造物を簡易的に取り出すこと困難であった。そこで、微小立体構造物の形状・構造を精度よく整えることが可能であり、かつ、容易に微小立体構造物を取り出すことが可能な光造形法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は新たな光造形法を提案する。本発明は、固体状態で透明な蛋白質を融点以上の温度にして溶解させる蛋白質溶解ステップと、溶解した蛋白質に光重合溶液を導入する光重合溶液導入ステップと、光重合溶液が導入された蛋白質を凝固点以下の温度にして固化させる蛋白質固化ステップと、固化した蛋白質の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成する造形物形成ステップと、内部に造形物が形成された蛋白質を融点以上の温度にして溶解させ、造形物を取り出す造形物取出ステップと、を有する光造形法に関する。また、本発明は、固体状態で透明な蛋白質膜に光重合溶液を導入する膜光重合溶液導入ステップと、光重合溶液が導入された蛋白質膜の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成する膜造形物形成ステップと、内部に造形物が形成された蛋白質膜をその蛋白質膜の溶媒により溶解させ、造形物を取り出す膜造形物取出ステップと、を有する光造形法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光造形法により、微小立体構造物の形状・構造を精度よく整えることが可能であり、かつ、容易に微小立体構造物を容易に取り出すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態1の光造形法の処理の流れを示したフローチャート図
【図2】蛋白質を固化させて形成する露光セルの一例を示す図
【図3】光造形装置の具体的な構成の一例を示す図
【図4】実施例1の光造形法により作成された造形物の走査型顕微鏡(SEM)写真図
【図5】実施形態2の光造形法の処理の流れを示したフローチャート図
【図6】蛋白質膜からなる露光セルの一例を示す図
【図7】実施例2の光造形法により作成された造形物の走査型顕微鏡(SEM)写真図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を説明する。実施形態1は主に請求項1、2、5〜10に記載の発明に関し、実施形態2は主に請求項3、4、5〜10に記載の発明に関する。
【0010】
<実施形態1>
【0011】
<概要>
本実施形態の光造形法は、固化した蛋白質の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成することを特徴とする。蛋白質は、温度を調整することによって容易に溶解させることができるため、固体状態の蛋白質の内部にて形成された光造形物を容易に取り出すことが可能になる。
【0012】
<光造形法>
図1は、本実施形態の光造形法の処理の流れを示したフローチャート図である。この図に示すように、「蛋白質溶解ステップ」(S0101)と、「光重合溶液導入ステップ」(S0102)と、「蛋白質固化ステップ」(S0103)と、「造形物形成ステップ」(S0104)と、「造形物取出ステップ」(S0105)と、を有する。以下、各ステップについて説明する。
【0013】
「蛋白質溶解ステップ」(S0101)は、固体状態で透明な蛋白質を融点以上の温度にして溶解させるステップである。蛋白質が固体状態で透明であるとは、固体状態において光透過性であることを意味するものである。固体状態で透明な蛋白質として、ゼラチン、寒天などが挙げられる。ゼラチンは、約15〜20℃の凝固点以下まで冷却すると固化し、約20〜25℃の融点以上に温度を上げると液化する。また、寒天は、約35〜45℃の凝固点を有し、約85〜95℃の融点を有する。なお、ゼラチンは、室温程度の温度で固化・液化の処理を行うことができるため、より好適である。
【0014】
蛋白質を融点以上の温度にして溶解させる方法としては、融点以上の液体(熱湯など)を熱源として蛋白質を温めたり、熱電素子を用いて温めたりする方法などが挙げられる。ただし、蛋白質の温度を上昇させることが可能な方法であれば足り、上記の方法に限定されるものではない。
【0015】
「光重合溶液導入ステップ」(S0102)は、溶解した蛋白質に光重合溶液を導入するステップである。ここで、光重合溶液としては、導電性高分子のモノマー又は/及びオリゴマー(電子供与分子)と光増感分子及び電子受容分子、支持電解質、純水などを混合した水溶液が一例として挙げられる。また、他の例として、水溶性高分子のモノマー又は/オリゴマー(電子供与分子)と光重合剤及び電子供与分子、支持電解質、純水などを混合した水溶液が挙げられる。導電性高分子や水溶性高分子は、蛋白質の融点よりも高い融点を有するものである。また、溶解した蛋白質に光重合溶液を導入する方法としては、溶解した蛋白質に光重合溶液を撹拌して混ぜ合わせたり、溶解した蛋白質を光重合溶液に浸して含浸させたりする方法が挙げられる。
【0016】
光重合溶液に用いる導電性高分子のモノマー・オリゴマーとしては、ピロール系化合物、チオフェン系化合物、アニリン系化合物が例として挙げられる。また、光増感分子としては、金属錯体系色素や有機色素などが挙げられ、具体的にはトリスビピリジリンルテニウム錯体などが挙げられる。また、電子受容分子としては、メチルビオローゲンが一例として挙げられる。また、支持電解質としては、テトラフルオロほう酸リチウムが一例として挙げられる。光重合溶液に用いる水溶性高分子のモノマー/オリゴマーとしては、アクリレート系化合物などが挙げられる。また、光重合剤としては、ポリシメチルシロキ酸などが挙げられる。
【0017】
導電性高分子は、単なる電気の流れる高分子としてだけでなく、電気や光などのエネルギーの刺激により能動的に諸物性を変化させることができる。このため、記録・表示や、光通信、ロボット等の分野で使われることが期待される材料である。よって、本実施形態の光造形法によって導電性高分子からなる高精度の造形物を容易に作成することができることは非常に意義あることである。なお、光増感分子を介さずに導電性高分子又はそのモノマーを直接的にレーザー光により光励起して光重合反応を励起することも可能である。
【0018】
上記の光重合反応が、光増感分子の多光子吸収増感反応によって励起されるものである場合は、より微小な構造を造形することが可能になる。具体的には、2光子吸収増感反応によって光重合反応が励起される場合が挙げられる。2光子吸収増感反応を起こすために、例えば光増感分子としてトリスビピリジリンルテニウム錯体を用い、波長850nm(範囲は±100nm)のレーザー光を用いる。ルテニウムは、400−500nmの波長領域で吸収帯を用い、波長850nmのレーザー光に対して1光子過程による吸収は示さず、850nmの入射光子2つを同時に吸収して初めてルテニウム電子が励起準位へ移る。光重合反応は、この2光子吸収増感反応によって励起されるが、2光子の吸収は光子密度の高い焦点でのみ起こるため、より細かい光造形を行いやすくなる。
【0019】
「蛋白質固化ステップ」(S0103)は、光重合溶液が導入された蛋白質を凝固点以下の温度にして固化させるステップである。ここで、光重合溶液が導入された蛋白質を凝固点以下の温度にする方法としては、熱電素子の冷却機能により冷却する方法や、冷媒によって冷やしたりする方法、冷蔵機器などの装置を用いて冷やしたりする方法などが挙げられる。ただし、光重合溶液が導入された蛋白質の温度を下げることが可能な方法であれば足り、上記の方法に限定されるものではない。なお、所定の型に入れた状態で蛋白質を固化させることによって、所望の形状とすることが可能である。形成したい造形物を十分含みうる形状・大きさの型を用いることで、光重合反応の適切な反応場となる蛋白質を準備することができる。
【0020】
また、光重合溶液が導入された蛋白質を固化させる際に用いる基板としては、種々のものが挙げられる。例えば、導電性高分子のモノマー/オリゴマーを光重合させて導電性高分子からなる造形物を形成する場合は、エレクトロードを基板として利用し、造形後にそのまま電極として用いてもいい。また、造形後に基板と造形物を分離させる場合は、ガラス板を用いてもいい。
【0021】
「造形物形成ステップ」(S0104)は、固化した蛋白質の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成するステップである。ここで、レーザー光の集光位置を動かす方法としては、固化した蛋白質を配置するステージを上下左右に移動させることによって、蛋白質の内部におけるレーザー光の集光位置を動かすことが一例として挙げられる。また、レーザー装置の光学系など(対物レンズ、シャッター、アッテネーターなど)を調整することによって集光位置を動かすことも考えられる。集光位置を動かす方向は、水平方向、垂直方向、いずれであってもよく、立体的な造形物を形成する場合は、水平方向、垂直方向を適宜組み合わせてレーザー光の集光位置を所望の経路で動かす。
【0022】
固化した蛋白質を配置するステージの移動や、レーザー装置の光学系の調整は、手動によって行うことも可能であるが、造形物の形状精度を高めるためにコンピュータを用いたプログラム制御を行うことが好ましい。集光位置の移動に関してプログラム制御を行う場合は、集光位置の移動経路の実行データを予め作成する。具体的には、造形対象物の立体データを輪切り状に分割し、各断面データを用いて平面的な移動軌跡を算出し、立体データの高さから垂直方向の移動軌跡を算出することによって集光位置の移動経路のデータを作成することが可能である。
【0023】
そして、集光位置の移動経路のデータに基づいて、コンピュータがステージ制御装置を介してステージを左右・上下に移動させるようプログラム制御したり、光学系を制御してレーザー光の焦点位置を移動させたりする。
【0024】
レーザー光としては、狭い範囲に強いレーザー光を照射するために、フェムト秒レーザーを用いることが好ましいが、青色レーザーを用いても光重合反応によって内部に造形物を形成することも可能である。
【0025】
「造形物取出ステップ」(S0105)は、内部に造形物が形成された蛋白質を融点以上の温度にして溶解させ、造形物を取り出すステップである。ここで、内部に造形物が形成された蛋白質を融点以上の温度にする方法としては、融点以上の液体を熱源として蛋白質を温めたり、熱電素子を用いて温めたりする方法など種々なる方法が考えられる。具体的には、融点以上の水で蛋白質を洗浄することによって蛋白質を溶解させ、内部の造形物を取り出す。
【0026】
<効果>
本実施形態の光造形法により、微小立体構造物の形状・構造を精度よく整えることが可能であり、かつ、容易に微小立体構造物を容易に取り出すことが可能になる。
【実施例1】
【0027】
以下、実施形態1の光造形法について、実施例を用いて具体的に説明を行う。なお、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0028】
<光造形法>
【0029】
(1)蛋白質溶解ステップ
ビーカーにゼラチンを入れて、そのビーカーをお湯に付けることでゼラチンを40℃程度の温度にして溶解させる。
【0030】
(2)光重合溶液導入ステップ
そのまま40℃程度に温度制御した状態で、溶解したゼラチン入りのビーカーに、ピロール(導電性高分子のモノマー、かつ電子供与分子)、トリスビピリジリンルテニウム錯体(光増感分子)、メチルビオローゲン(電子受容分子)、テトラフルオロほう酸リチウム(支持電解質)、純水からなる光重合溶液を混ぜ合わせる。光重合溶液に対してゼラチンは質量比にして2%程度である。
【0031】
(3)蛋白質固化ステップ
図2は、蛋白質を固化させて形成する「露光セル」0200の一例を示す図である。この図に示すように、「下部ガラス板」0201及び「エレクトロード」0202の上に「オーリング」0203を配置し、その内側に「ポリピロール等が混ぜ合わされたゼラチン」0204を滴下し、「上部ガラス板」0205でカバーする。そして、「下部ガラス板」0201の下方に「熱電素子又は/及び冷却銅板」0206を配置することにより、ゼラチンを1−20℃の温度で30分間冷却して、固化させる。なお、「下部ガラス板」0201を設けずに直接「熱電素子又は冷却銅板」を設けることも可能である。
【0032】
(4)造形物形成ステップ
ゼラチンが固化した後に、そのまま1−20℃に温度制御した状態で、ゼラチンの内部にフェムト秒レーザーを照射して3次元パターンを生成する。レーザー光の焦点の移動速度は4μm/sとし、硬化率を向上させるために、15回程度繰返して同じ軌跡でレーザー光の焦点を移動させる。露光セルに入射させるレーザー光は、波長850nm、繰り返し周波数8MHzとする。なお、繰り返し周波数は100MHzから数十Hzまでの範囲でも使用可能である。なお、レーザー光の焦点の移動は、対物レンズを固定して、ステージを水平方向及び垂直方向に移動させることによって行う。
【0033】
(5)造形物取出ステップ
ゼラチンの内部に造形物が形成された後に、30−50℃の純粋でゼラチンを洗浄することにより、ゼラチンを溶解させ、造形物を取り出す。
【0034】
<光造形装置>
図3は、造形物形成ステップにおいて主に用いられる光造形装置の構成を示す図である。光造形装置は、「ダイオード励起固体レーザー」0301、「モードロックチタンサファイヤレーザー(フェムト秒レーザー)」0302、「レーザーアッテネーター」0303、「集光光学系(スペーシャルフィルタ、対物レンズ等からなる)」0304、「ステージ」0305、「ステージ制御装置」0306、「制御プログラムを実行するコンピュータ」0307から構成される。「ステージ」0305には、図2で説明した「露光セル」0308が配置される。
【0035】
ステージを移動させるための制御データとして、造形物の立体データを輪切り状に分割し、各断面の二次元形状から水平方向の移動軌跡を算出し、立体データの高さから垂直方向の移動軌跡を算出した。また、ステージの移動の制御、レーザー光のシャッター開閉の制御、入射光強度の制御などの制御機構は、制御プログラムを実行するコンピュータ、ステージ制御装置、レーザーアッテネーターなどを用いて実装した。また、集光光学系の内部に、試料を観察するためのCCDカメラを設けた。
【0036】
<造形物の評価>
図4は、本実施例の光造形法により作成された造形物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。この図が示すように、μm単位の形状精度で造形物が作成されていた。また、造形工程において固体状態のゼラチンが造形部分をサポートしており、また造形物の取り出し工程において造形物を容易に取り出すことが可能であったため、一部が欠けてしまうこともほとんどなかった。
【0037】
<実施形態2>
【0038】
<概要>
本実施形態の光造形法は、固化した蛋白質膜の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成し、その後に蛋白質膜を溶媒により溶解させ、造形物を取り出すことを特徴とする。これにより、固体状態の蛋白質の内部にて形成された光造形物を容易に取り出すことが可能になる。
【0039】
<光造形法>
図5は、本実施形態の光造形法の処理の流れを示したフローチャート図である。この図に示すように、「膜光重合溶液導入ステップ」(S0501)と、「膜造形物形成ステップ」(S0502)と、「膜造形物取出ステップ」(S0503)と、を有する。以下、各ステップについて説明する。
【0040】
「膜光重合溶液導入ステップ」は、固体状態で透明な蛋白質膜に光重合溶液を導入するステップである。ここで、固体状態で透明な蛋白質膜としては、透過性コラーゲン膜や、透過性ゼラチン膜、透過性寒天膜が挙げられる。また、光重合溶液としては、光増感分子導電性高分子のモノマー又は/及びオリゴマー(電子供与分子)と光増感分子及び電子受容分子、支持電解質、純水などを混合した水溶液や、水溶性高分子のモノマー又は/オリゴマー(電子供与分子)と光重合剤及び電子供与分子、支持電解質、純水などを混合した水溶液が挙げられる。また、蛋白質膜に光重合溶液を導入する方法としては、蛋白質膜を光重合溶液に浸して含浸させたり、蛋白質膜に光重合溶液を滴下したりする方法が挙げられる。蛋白質膜は、3次元的な微細構造を有するため、内部に光重合溶液を取り込むことが可能である。その他については、実施形態1の光重合溶液導入ステップと同様であるため、説明を省略する。
【0041】
「膜造形物形成ステップ」は、光重合溶液が導入された蛋白質膜の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成するステップである。ここで、レーザー光の集光位置を動かす方法としては、固化した蛋白質膜を配置するステージを上下左右に移動させることによって、蛋白質膜の内部におけるレーザー光の集光位置を動かすことが一例として挙げられる。また、レーザー装置の光学系など(対物レンズ、シャッター、アッテネーターなど)を調整することによって集光位置を動かすことも考えられる。集光位置を動かす方向は、水平方向、垂直方向、いずれであってもよく、立体的な造形物を形成する場合は、水平方向、垂直方向を適宜組み合わせてレーザー光の集光位置を所望の経路で動かす。その他については実施形態1の造形物形成ステップと同様であるため、説明を省略する。
【0042】
また、蛋白質膜を配置する基板としては、種々のものが挙げられる。例えば、導電性高分子のモノマー/オリゴマーを光重合させて導電性高分子からなる造形物を形成する場合は、エレクトロードを基板として利用し、造形後にそのまま電極として用いてもいい。また、造形後に基板と造形物を分離させる場合は、ガラス板を用いてもいい。
【0043】
「膜造形物取出ステップ」は、内部に造形物が形成された蛋白質膜をその蛋白質膜の溶媒により溶解させ、造形物を取り出すステップである。ここで、蛋白質膜の溶媒としては、蛋白質膜を加水分解する蛋白分解酵素が挙げられる。蛋白分解酵素としては、コラーゲンを分解するコラゲナーゼや、ゼラチンを分解するゼラチナーゼ、寒天を分解するアガラーゼなどが挙げられる。
【0044】
ここで、内部に造形物が形成された蛋白質膜をその溶媒により溶解させる方法としては、蛋白質膜を溶媒により洗浄することによって蛋白質を溶解させたり、溶媒中に蛋白質膜を浸して撹拌することによって溶解させたりすることが挙げられる。
【0045】
<効果>
本実施形態の光造形法により、微小立体構造物の形状・構造を精度よく整えることが可能であり、かつ、容易に微小立体構造物を容易に取り出すことが可能になる。
【実施例2】
【0046】
以下、実施形態2の光造形法について、実施例を用いて具体的に説明を行う。なお、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0047】
<光造形法>
(1)膜光重合溶液導入ステップ
コラーゲン膜をピロール(導電性高分子のモノマー、かつ電子供与分子)、トリスビピリジリンルテニウム錯体(光増感分子)、メチルビオローゲン(電子受容分子)、テトラフルオロほう酸リチウム(支持電解質)、純水からなる光重合溶液が入ったビーカーに30分以上浸す。
【0048】
(2)膜造形物形成ステップ
図6は、本実施例の蛋白質膜からなる「露光セル」0600を示す図である。この図に示すように、「下部ガラス板」0601及び「エレクトロード」0602の上に「ポリピロール等を含浸したコラーゲン膜」0603を配置し、さらにその上に「上部ガラス板」0604を配置する。そして、コラーゲン膜の内部にフェムト秒レーザーを照射して3次元パターンを生成する。レーザー光の焦点の移動速度は4μm/sとし、硬化率を向上させるために、15回程度繰返して同じ軌跡でレーザー光の焦点を移動させる。露光セルに入射させるレーザー光は、波長850nm、繰返し周波数8MHzとする。なお、レーザー光の焦点の移動は、対物レンズを固定して、ステージを水平方向及び垂直方向に移動させることによって行う。光造形装置は、実施例1の図3で示したものと同一である。
【0049】
(3)膜造形物取出ステップ
コラーゲン膜の内部に造形物が形成された後に、コラゲナーゼ入りのビーカーにコラーゲン膜を入れて溶解させることにより、造形物を取り出す。
【0050】
<造形物>
図7は、本実施例の光造形法により作成された造形物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。この図が示すように、μm単位の形状精度で造形物が作成されていた。また、造形工程においてコラーゲン膜が造形部分をサポートしており、また造形物の取り出し工程において造形物を容易に取り出すことが可能であったため、一部が欠けてしまうこともほとんどなかった。
【符号の説明】
【0051】
0200…「露光セル」、0201…「下部ガラス板」、0202…「エレクトロード」、0203…「オーリング」、0204…「ポリピロール等が混ぜ合わされたゼラチン」、0205…「上部ガラス板」、0206…「熱電素子又は/及び冷却銅板」、0301…「ダイオード励起固体レーザー」、0302…「モードロックチタンサファイヤレーザー(フェムト秒レーザー)」、0303…「レーザーアッテネーター」、0304…「集光光学系(スペーシャルフィルタ、対物レンズ、等からなる)」、0305…「ステージ」、0306…「ステージ制御装置」、0307…「制御プログラムを実行するコンピュータ」、0308…「露光セル」、0600…「露光セル」、0601…「下部ガラス板」、0602…「エレクトロード」、0603…「ポリピロール等を含浸したコラーゲン膜」、0604…「上部ガラス板」

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状態で透明な蛋白質を融点以上の温度にして溶解させる蛋白質溶解ステップと、
溶解した蛋白質に光重合溶液を導入する光重合溶液導入ステップと、
光重合溶液が導入された蛋白質を凝固点以下の温度にして固化させる蛋白質固化ステップと、
固化した蛋白質の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成する造形物形成ステップと、
内部に造形物が形成された蛋白質を融点以上の温度にして溶解させ、造形物を取り出す造形物取出ステップと、
を有する光造形法。
【請求項2】
前記蛋白質は、ゼラチンである請求項1に記載の光造形法。
【請求項3】
固体状態で透明な蛋白質膜に光重合溶液を導入する膜光重合溶液導入ステップと、
光重合溶液が導入された蛋白質膜の内部にレーザー光をその集光位置を動かしながら照射して、光重合反応により内部に造形物を形成する膜造形物形成ステップと、
内部に造形物が形成された蛋白質膜をその蛋白質膜の溶媒により溶解させ、造形物を取り出す膜造形物取出ステップと、
を有する光造形法。
【請求項4】
前記蛋白質膜は、透過性コラーゲン膜である請求項3に記載の光造形法。
【請求項5】
前記光重合溶液は、導電性高分子のモノマー又は/及びオリゴマーと光増感分子を含む請求項1から4のいずれか一に記載の光造形法。
【請求項6】
前記導電性高分子のモノマー・オリゴマーは、ピロール系化合物、チオフェン系化合物、アニリン系化合物のいずれか一以上である請求項5に記載の光造形法。
【請求項7】
前記光増感分子は、金属錯体系色素又は有機色素である請求項5又は6に記載の光造形法。
【請求項8】
前記光重合反応は、前記光増感分子の多光子吸収増感反応によって励起される請求項5から7のいずれか一に記載の光造形法。
【請求項9】
前記光重合溶液は、水溶性高分子のモノマー又は/及びオリゴマーと光重合剤を含む請求項1から4のいずれか一に記載の光造形法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一に記載の光造形法により生成される造形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−67088(P2013−67088A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207653(P2011−207653)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(597040902)学校法人東京工芸大学 (28)
【Fターム(参考)】