説明

光遅延器

【課題】
MEMSスキャナを用いることによって、遅延量の高速、繰り返し可変を可能とした光遅延器を提供する。
【解決手段】
自身の焦点を通る光路上から入射された光を平行光に変換するレンズ7と、レンズ7から出射された平行光を、元の光路を通るようにレンズ7に反射させる反射体8と、反射面41を有し中心軸を中心に回転可能な回転体35と回転体駆動手段50とを含んで構成され、回転体35の反射面41で中心軸の軸線から所定距離離れた部位に入射された入射光をレンズ7に向けて反射させ、その反射光がレンズ7によって平行光に変換された後に反射体35で反射され、再びレンズ7を透過して元の光路を通って反射面41に入射されて反射されるとき、この反射によって反射面41から出射される出射光の上記入射光に対する遅延量が所望の値となるように回転体35の反射面41の角度を回転体駆動手段50により変化させるMEMSスキャナ60とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の遅延量(光路長)を連続的に変化させる光遅延器に関し、特に遅延量の高速、繰り返し可変を可能とした光遅延器に関する。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換分光等に用いられる光遅延器としては、遅延量を高速に連続的に繰り返し変化させることが必要である。この種の光遅延器として、従来、対数螺旋形状の鏡を回転させて遅延量を変化させるものがあった。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
従来の光遅延器の概略構成を図12に示す。対数螺旋鏡1は主軸2を中心として矢印H1、H2方向へ回転可能に設けられており、主軸2の軸方向に垂直な断面の外輪郭1aが主軸2の中心を原点(対数螺旋鏡1の原点)Pとする対数螺旋形状とされ、かつこの対数螺旋形状とされた外輪郭1aの主軸2の軸方向に沿った側面(凸面)が凸鏡面1bとされている。回転駆動部5は、対数螺旋鏡1を主軸2を中心としてH1、H2方向へ回転させる。垂直反射鏡4は、反射光軸6に対して垂直となるように対数螺旋鏡1の凸鏡面1bに向けられており、原点Pを通る光軸3に沿って入射されて凸鏡面1bで反射光軸6に沿って反射された光を、入射し反射させて再び反射光軸6に沿って凸鏡面1bに戻している。
【0004】
この光遅延器において、回転駆動部5によって対数螺旋鏡1をH1方向へ回転させると、この対数螺旋鏡1の原点Pを通る光軸3に沿って入射される光の凸鏡面1b上の入射位置が光軸3の原点Pの方向に沿って移動し、またH2方向へ回転させると光軸3の原点Pの反対方向に沿って移動する。これによって、光軸3に沿って入射された光の凸鏡面1bに到達するまでの光路長が変えられ、その結果、入射された光が凸鏡面1b、垂直反射鏡4及び凸鏡面1bでそれぞれ反射されて元へ戻るまでの光路長(遅延量)が変えられる。そして、回転駆動部5で対数螺旋鏡1を矢印H1、H2方向へ所定の周期で交互に繰り返して回転させることによって、遅延量を連続的に繰り返し変化させる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−206425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の光遅延器では、対数螺旋鏡1を矢印H1、H2方向へ所定の周期で交互に繰り返して回転させて遅延量を連続的に繰り返し変化させる場合、対数螺旋鏡1が回転軸(主軸2)に対して非対称であるために振動が発生し、それによって装置が破損しやすく、またそのために、遅延量を変化させる速度(周期)を数100Hz以上の高速にはできないという問題があった。
【0007】
本発明は、MEMSスキャナを用いることによって、これらの課題を解決し、遅延量の高速、繰り返し可変を可能とした光遅延器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の光遅延器では、自身の焦点を通る光路上から入射された光を平行光に変換するレンズ(7)と、該レンズから出射された前記平行光を、元の光路を通るように該レンズに反射させる反射体(8)と、反射面(41)を有し中心軸を中心に回転可能な回転体(35)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記反射面で前記中心軸の軸線から所定距離離れた部位に入射された入射光を前記レンズに向けて反射させ、その反射光が該レンズによって前記平行光に変換された後に前記反射体で反射され、再び該レンズを透過して元の光路を通って前記反射面に入射されて反射されるとき、この反射によって該反射面から出射される出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記反射面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(60)とを備えた。
【0009】
また、本発明の請求項2の光遅延器では、凹面鏡(9)と、反射面(41)を有し中心軸を中心に回転可能な回転体(35)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記反射面で前記中心軸の軸線から所定距離離れた部位に入射された入射光を前記凹面鏡に向けて反射させ、その反射光が該凹面鏡によって反射されて再び元の光路を通って前記反射面に入射されて反射されるとき、この反射によって該反射面から出射される出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記反射面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(60)とを備えた。
【0010】
また、本発明の請求項3の光遅延器では、上述した請求項1又は2の光遅延器において、前記MEMSスキャナの回転体は、固定基板(36、37)と、該固定基板の縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部(38、39)と、該軸部の先端に自身の縁部で連結されるとともに該軸部を結ぶ線を前記中心軸として前記固定基板に対して回転自在に支持され、一面側に前記入射光を反射させるための前記反射面が設けられた回転板(40)とを有しており、かつ、前記MEMSスキャナの回転体駆動手段は、前記回転体の軸部と回転板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の駆動信号によって前記回転板に力を与えて、該回転板を前記固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるように構成した。
【0011】
また、本発明の請求項4の光遅延器では、入射された光を元の光路を通るように反射させる反射体(10)と、透過面(67)を有する回転体(65)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記透過面に入射された入射光を前記反射体に向けて透過させ、その透過光が前記反射体で反射されて再び元の光路を通って前記回転体に入射されて透過されるとき、この透過によって前記透過面から出射される出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記透過面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(70)とを備えた。
【0012】
また、本発明の請求項5の光遅延器では、透過面(67)を有する回転体(65)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記透過面に入射された入射光を透過させて出射光とするとき、当該出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記透過面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(70)を備えた。
【0013】
また、本発明の請求項6の光遅延器では、上述した請求項4又は5の光遅延器において、前記MEMSスキャナの回転体は、固定基板(36、37)と、該固定基板の縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部(38、39)と、該軸部の先端に自身の縁部で連結されるとともに該軸部を結ぶ線を中心軸として前記固定基板に対して回転自在に支持され、前記入射光を透過させるための前記透過面が設けられた回転板(66)とを有しており、かつ、前記MEMSスキャナの回転体駆動手段は、前記回転体の軸部と回転板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の駆動信号によって前記回転板に力を与えて、該回転板を前記固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるように構成した。
【0014】
また、本発明の請求項7の光遅延器では、上述した請求項4〜6のいずれかの光遅延器において、前記回転体の前記透過面であって前記入射光が入射される位置に、屈折率が1より大きくかつ光を透過させる透明体(11)を備えた。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1、2、4及び5の光遅延器では、MEMSスキャナを用いて遅延量(光路長)を変化させるようにしたので、遅延量の高速、繰り返し可変ができ、また装置の小型化ができる。
【0016】
本発明の請求項3及び6の光遅延器では、入射光を反射又は透過させるためのMEMSスキャナの回転体を、固定基板と、その縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部と、軸部の先端に自身の縁部で連結されるとともにこの軸部を結ぶ線を中心軸として固定基板に対して回転自在に支持され、入射光を反射又は透過させるための反射面又は透過面が設けられた回転板とによって構成して、回転体の軸部と回転板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の電気信号によって回転板に力を与え、回転板を固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるようにしている。このため、回転板を高速に往復回転させることができ、しかも、その回転中心が回転板内にあるため、その回転板に設けられた反射面又は透過面の角度の変化量を大きくすることができる。それにより、遅延量の高速、繰り返し可変ができる。
【0017】
本発明の請求項7の光遅延器では、入射光を透過させるためのMEMSスキャナの回転体の透過面に、屈折率が1より大きくかつ光を透過させる透明体を備えるようにしたので、遅延量を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を記載する。
【0019】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態の光遅延器の構成を図1(a)、(b)、(c)に示す。MEMSスキャナ60は回転体35及び回転体駆動手段50で構成されており、その回転体駆動手段50は回転体35を中心軸で往復回転させて回転体35の反射面41の角度を所定の範囲で変化させる。回転体35の中心軸の軸線から所定距離離れた反射面41に入射された入射光はレンズ7に向けて反射される。レンズ7は、自身の焦点Fを通る光路上から入射された光を平行光に変換するレンズ(例えば凸レンズ)であり、回転体35の反射面41からの反射光を平行光に変換して反射体8に出射する。反射体8は、例えばミラーあるいはレンズ7自体に施された反射率の高い膜であり、レンズ7からの平行光を元の光路を通るようにレンズ7に反射させる。反射体8で反射された反射光は再びレンズ7を透過し、元の光路を通って回転体35の反射面41に入射し反射されて出射光となる。
【0020】
回転体駆動手段50は、回転体35の反射面41から出射される出射光の上記入射光に対する遅延量が所望の値となるように回転体35の反射面41の角度を変化させる。なお、回転体35の反射面41で反射されてレンズ7に向かう反射光の光路はレンズ7の焦点Fを通る光路である。また、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャナとは、マイクロ電気機械式構造体(電気信号の制御を受けて機械的に動作する構造体)によって形成されたスキャナを意味している。
【0021】
入射光に対する出射光の遅延量(光路長)は、図2(a)に示すように、回転体35の反射面41の角度によって変化する。すなわち、入射光が回転体35の反射面41に入射する位置が反射面41の角度によって異なり、それによって光路長差が生じる。具体的に示すと、入射光が中心軸から5mm離れた反射面41に入射し、反射面41の角度が入射光の光軸に対して45度から±3度変化したとすると、光路長差は往復で1.4mmとなる。なお、入射光が回転体35の反射面41で反射されてレンズ7及び反射体8を通って再び反射面41へ戻って来るまでの光路長は反射面41の角度によらずほぼ一定である。
【0022】
なお、図2(a)では、レンズ7の焦点Fが回転体35の反射面41とレンズ7との間に位置する場合を示したが、図2(b)に示すように、回転体35の反射面41がレンズ7の焦点Fとレンズ7との間に位置するようにしてもよい。
【0023】
ここで、MEMSスキャナ60を構成する回転体35及び回転体駆動手段50について説明する。すなわち、回転体35は、図3に示すように、横長矩形で互いに平行に配置された一対の固定基板36、37と、この一対の固定基板36、37の長辺側縁部の中央からこの固定基板36、37と直交する方向に所定幅、所定長さで延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な一対の軸部38、39と、横長矩形で一方の長辺側縁部の中央部で軸部38の先端に連結され、他方の長辺側縁部の中央部で軸部39の先端に連結された回転板40とを有している。この回転板40は、捩じれ変形可能な軸部38、39に中心部が支持されているので、この軸部38、39を結ぶ線を中心軸として固定基板36、37に対して回転することができる。また、軸部38、39と回転板40とからなる部分の固有振動数f0は、回転板40自体の形状や質量及び軸部38、39のバネ定数によって決まる。
【0024】
また、回転板40の一面側には、光を反射するための反射面41が形成されている。この反射面41は、回転板40自体を鏡面仕上げして形成したり、反射率の高い膜(図示しない)を蒸着あるいは接着して形成したものであってもよい。なお、この回転体35は、薄い半導体基板からエッチング処理等により一体的に切り出されたもので、金属膜の蒸着加工により高導電性を有している。
【0025】
支持基板45は絶縁性を有する材料からなり、その一面側の上部と下部には、前方へ突出する支持台45a、45bが形成されており、回転体35の固定基板36、37は、この上下の支持台45a、45bに接した状態で固定されている。また、支持基板45の一面側中央部の両端には、回転体35の回転板40の両端にそれぞれ対向する電極板46、47がパターン形成されている。この電極板46、47は、後述する駆動信号発生器55とともに回転体駆動手段50(図1参照)を構成するものであり、回転板40の両端部に静電力を交互にかつ周期的に印加して、回転板40を、軸部38、39を結ぶ線を中心軸に往復回転運動させる。
【0026】
一方、回転体駆動手段50(図1参照)の一部を構成する駆動信号発生器55は、例えば図4(a)、(b)に示すように、回転体35の電位を基準として電極板46、47に対して、固有振動数f0に対応した周波数(あるいは固有振動数f0の近傍の振動数に対応した周波数)を有し、位相が180°ずれた駆動信号Da、Dbを印加して、電極板46と回転板40の一端側との間及び電極板47と回転板40の他端側との間に、交互にかつ周期的に静電力(引力)を与え、回転板40を固有振動数f0あるいはその近傍の振動数で所定角度範囲を往復回転させる。なお、図4では、2つの駆動信号Da、Dbがデューティ比50%の矩形波の場合を示しているが、両信号のデューティ比は50%以下であってもよく、また、波形も矩形波に限らず、正弦波、三角波等であってもよい。
【0027】
このように構成されたMEMSスキャナ60では、回転体35を、一対の固定基板36、37と、その縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部38、39と、軸部38、39の先端に自身の縁部で連結され、軸部38、39に対して対称な形状に形成され、一面側に反射面41が形成された回転板40とによって構成するとともに、回転体35の軸部38、39と回転板40とからなる部分の固有振動数f0に対応した周波数の駆動信号によって回転板40に力を与えて、回転板40を固有振動数f0又はその近傍の振動数で往復回転させている。
【0028】
このため、僅かな電気エネルギーで回転板40を高速に往復回転させることができ、しかも、その回転中心が回転板40の内部(この場合、中央部)にあるので、回転板40の反射面41への入射光の反射角の変化量を大きくすることができる。なお、軸部38、39のバネ定数は、軸部38、39の長さ、幅、厚み、材質によって決まり、このバネ定数と、回転板40の形状、厚み、材質等で固有振動数f0が決定され、これらのパラメータを選ぶことにより、固有振動数f0を数100Hz〜数10KHzの範囲内で設定することができる。
【0029】
したがって、本発明の第1実施形態の光遅延器は、このようなMEMSスキャナ60(回転体35及び回転体駆動手段50で構成される)を用いて構成するようにしたので、遅延量の高速、繰り返し可変(最大数10KHz)ができ、また装置の小型化ができる。
【0030】
なお、上述の図3の説明では、回転体35を導電性の高い材料で構成していたが、回転体35を導電性の低い材料で構成する場合には、回転板40の反射面41と反対面の両側(全面でもよい)に電極板46、47と対向する電極板をそれぞれ設け、更に固定基板36、37の背面側にも電極板を設け、それらの電極板の間をパターン等によって接続する。そして、支持基板45の支持台45a、45bの表面に、固定基板36、37の背面側の電極板と接触する電極板をパターン形成して、その少なくとも一方を基準電位ラインとして上述した駆動信号発生器55に接続すればよい。
【0031】
また、固定基板36、37の一端側同士の間あるいは両端の間を連結して、固定基板をコの字枠あるいは矩形枠状に形成してもよい。また、回転板40の形状も任意であり、上述の横長矩形の他に、円形、楕円形、長円形、菱形、正方形、多角形等であってもよい。また、高速往復回転時の空気抵抗を減らすために、回転板40の内側に大きな穴あるいは多数の小さな穴を設けてもよい。
【0032】
また、上述の図3の説明では、回転体35の回転板40の両端にそれぞれ対向する2つの電極板46、47を設けていたが、一方側の電極板(例えば電極板46)だけによって静電力を印加してもよい。また、駆動方式についても、上述の静電力の他に、電磁力によって回転板40を往復回転させてもよい。この場合、例えば、上述の電極板46、47の代わりにコイルを用い、回転板40の両端部に磁性体あるいはコイルを設け、コイル間あるいはコイルと磁性体との間に発生する磁界による吸引力及び反発力によって、回転板40を往復回転させる。
【0033】
また、上述の静電力や電磁力を回転板40に直接与える方法の他に、超音波振動子等によって上述の固有振動数f0又はその近傍の振動を回転体35全体に加えて、その振動を回転板40に伝達させて往復回転させることも可能である。この場合、振動子を支持基板45の背面側や支持台45a、45bの部分に設けることで、その振動を回転板40に効率的に伝達することができる。
【0034】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態の光遅延器の構成を図5に示す。第2実施形態は、図1に示した第1実施形態とは、図1におけるレンズ7及び反射体8を、図5における凹面鏡9で構成した点のみ異なる。したがって、同一部分の説明は省略する。回転体35の中心軸の軸線から所定距離離れた反射面41に入射された入射光は凹面鏡9に向けて反射される。凹面鏡9に入射されて反射された反射光は再び元の光路を通って回転体35の反射面41に入射し反射されて出射光となる。回転体駆動手段50は、回転体35の反射面41から出射される出射光の上記入射光に対する遅延量が所望の値となるように回転体35の反射面41の角度を変化させる。入射光に対する出射光の遅延量(光路長)は第1実施形態と同様に求められる。なお、回転体35の反射面41で反射されて凹面鏡9に向かう反射光の光路は凹面鏡9の焦点距離fの2倍の点(2f)を通る光路である。
【0035】
なお、ここで、凹面鏡9の焦点距離fの2倍の点(2f)が回転体35の反射面41と凹面鏡9との間に位置する場合を図6(a)に、また回転体35の反射面41が凹面鏡9の焦点距離fの2倍の点(2f)と凹面鏡9との間に位置する場合を図6(b)に示す。
【0036】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態の光遅延器の構成を図7に示す。MEMSスキャナ70は回転体65及び回転体駆動手段50で構成されており、その回転体駆動手段50は回転体65を中心軸で往復回転させて回転体65の透過面67の角度を所定の範囲で変化させる。回転体65の透過面67に入射された入射光は回転体65を透過して反射体10に入射する。反射体10は、例えばミラーあるいはMEMSスキャナ70自体に施された反射率の高い膜であり、回転体65からの透過光を元の光路を通るように回転体65に反射させる。反射体10で反射された透過光は再び元の光路を通って回転体65に入射され透過されて出射光となる。回転体駆動手段50は、回転体65の透過面67から出射される出射光の上記入射光に対する遅延量が所望の値となるように回転体65の透過面67の角度を変化させる。
【0037】
入射光に対する出射光の遅延量(光路長)は、入射光が回転体65を透過するときの光路長によって変化する。すなわち、その光路長は入射光の光軸に対する回転体65の透過面67の角度によって変わる。具体的には、その光路長(δ)は、図9に示すように、回転体65の厚さをd、屈折率をn、入射光の光軸の垂直方向に対する回転体65の透過面67の角度をθとすると、δ=2・n・d・(1/cosθ)で表わされる。したがって、θ=0のときに光路長が一番短く、θが大きくなるにしたがって光路長が長くなる。なお、入射光が回転体65を透過して反射体10で反射され再び回転体65へ戻って来るまでの光路長は回転体65の透過面67の角度によらず一定である。
【0038】
なお、回転体65の透過面67の角度を変えたときの光路長差(遅延量差)を大きくしたい場合には、回転体65の厚さを厚くするか、又は図8に示すように、回転体65の透過面67の入射光が入射される位置に、屈折率が1より大きくかつ光を透過させる透明体11、例えばシリコン(Si)、ガラス等を設けるようにすればよい。
【0039】
ここで、MEMSスキャナ70を構成する回転体65及び回転体駆動手段50について説明する。第1実施形態のMEMSスキャナ60とは、下記の(1)、(2)のみ異なり他は同一である。したがって詳細説明は省略する。(1)図3において、MEMSスキャナ60の場合には、回転体35の一部を構成する回転板40の一面側に光を反射するための反射面41を形成したが、MEMSスキャナ70の場合には、回転体65の一部を構成する回転板66の一面側に光を透過させるための透過面67を形成するとともにその背面にも透過面を形成する。透過面は、回転板66に誘電体多層膜でなる反射防止膜を蒸着すると、透過率を向上させることができる。(2)図3において、MEMSスキャナ60の場合には、支持基板45に絶縁性を有する材料を用いたが、MEMSスキャナ70の場合には、支持基板45に絶縁性を有しかつ光を透過する材料、例えばシリコン(Si)、ガラス等を用いるとともに、この支持基板45の回転板66に対向する面とその背面とに光を透過させるための透過面を形成する。
【0040】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態の光遅延器の構成を図10に示す。第4実施形態は、図7に示した第3実施形態とは、図7における反射体10を備えていない点のみ異なる。したがって、同一部分の説明は省略する。回転体65の透過面67に入射された入射光は回転体65を透過して出射光となる。回転体駆動手段50は、回転体65からの出射光の上記入射光に対する遅延量が所望の値となるように回転体65の透過面67の角度を変化させる。入射光に対する出射光の遅延量(光路長)は第3実施形態と同様に求められる。
【0041】
なお、回転体65の透過面67の角度を変えたときの光路長差(遅延量差)を大きくしたい場合には、回転体65の厚さを厚くするか、又は図11に示すように、回転体65の透過面67の入射光が入射される位置に、屈折率が1より大きくかつ光を透過させる透明体11、例えばシリコン(Si)、ガラス等を設けるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態の構成を示す図
【図2】本発明の第1実施形態の動作を説明するための図
【図3】MEMSスキャナを説明するための分解斜視図
【図4】駆動信号を説明するための図
【図5】本発明の第2実施形態の構成を示す図
【図6】本発明の第2実施形態の動作を説明するための図
【図7】本発明の第3実施形態の構成を示す図
【図8】本発明の第3実施形態の別の構成を示す図
【図9】本発明の第3実施形態の動作を説明するための図
【図10】本発明の第4実施形態の構成を示す図
【図11】本発明の第4実施形態の別の構成を示す図
【図12】従来例の概略構成を示す図
【符号の説明】
【0043】
1・・・対数螺旋鏡、1a・・・外輪郭、1b・・・凸鏡面、2・・・主軸、3・・・光軸、4・・・垂直反射鏡、5・・・回転駆動部、6・・・反射光軸、7・・・レンズ、8,10・・・反射体、9・・・凹面鏡、11・・・透明体、35,65・・・回転体、36,37・・・固定基板、38,39・・・軸部、40,66・・・回転板、41・・・反射面、45・・・支持基板、45a,45b・・・支持台、46,47・・・電極板、50・・・回転体駆動手段、55・・・駆動信号発生器、60,70・・・MEMSスキャナ、67・・・透過面。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の焦点を通る光路上から入射された光を平行光に変換するレンズ(7)と、
該レンズから出射された前記平行光を、元の光路を通るように該レンズに反射させる反射体(8)と、
反射面(41)を有し中心軸を中心に回転可能な回転体(35)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記反射面で前記中心軸の軸線から所定距離離れた部位に入射された入射光を前記レンズに向けて反射させ、その反射光が該レンズによって前記平行光に変換された後に前記反射体で反射され、再び該レンズを透過して元の光路を通って前記反射面に入射されて反射されるとき、この反射によって該反射面から出射される出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記反射面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(60)とを備えたことを特徴とする光遅延器。
【請求項2】
凹面鏡(9)と、
反射面(41)を有し中心軸を中心に回転可能な回転体(35)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記反射面で前記中心軸の軸線から所定距離離れた部位に入射された入射光を前記凹面鏡に向けて反射させ、その反射光が該凹面鏡によって反射されて再び元の光路を通って前記反射面に入射されて反射されるとき、この反射によって該反射面から出射される出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記反射面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(60)とを備えたことを特徴とする光遅延器。
【請求項3】
前記MEMSスキャナの回転体は、
固定基板(36、37)と、
該固定基板の縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部(38、39)と、
該軸部の先端に自身の縁部で連結されるとともに該軸部を結ぶ線を前記中心軸として前記固定基板に対して回転自在に支持され、一面側に前記入射光を反射させるための前記反射面が設けられた回転板(40)とを有しており、かつ、
前記MEMSスキャナの回転体駆動手段は、
前記回転体の軸部と回転板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の駆動信号によって前記回転板に力を与えて、該回転板を前記固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光遅延器。
【請求項4】
入射された光を元の光路を通るように反射させる反射体(10)と、
透過面(67)を有する回転体(65)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記透過面に入射された入射光を前記反射体に向けて透過させ、その透過光が前記反射体で反射されて再び元の光路を通って前記回転体に入射されて透過されるとき、この透過によって前記透過面から出射される出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記透過面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(70)とを備えたことを特徴とする光遅延器。
【請求項5】
透過面(67)を有する回転体(65)と回転体駆動手段(50)とを含んで構成され、前記回転体の前記透過面に入射された入射光を透過させて出射光とするとき、当該出射光の前記入射光に対する遅延量が所望の値となるように前記回転体の前記透過面の角度を前記回転体駆動手段により変化させるMEMSスキャナ(70)を備えたことを特徴とする光遅延器。
【請求項6】
前記MEMSスキャナの回転体は、
固定基板(36、37)と、
該固定基板の縁部から所定幅で所定長さ延設され、その長さ方向に沿って捩じれ変形可能な軸部(38、39)と、
該軸部の先端に自身の縁部で連結されるとともに該軸部を結ぶ線を中心軸として前記固定基板に対して回転自在に支持され、前記入射光を透過させるための前記透過面が設けられた回転板(66)とを有しており、かつ、
前記MEMSスキャナの回転体駆動手段は、
前記回転体の軸部と回転板とからなる部分の固有振動数に対応した周波数の駆動信号によって前記回転板に力を与えて、該回転板を前記固有振動数又はそれに近い振動数で往復回転させるように構成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の光遅延器。
【請求項7】
前記回転体の前記透過面であって前記入射光が入射される位置に、屈折率が1より大きくかつ光を透過させる透明体(11)を備えたことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の光遅延器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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