説明

光量調整装置及びそれを有する撮像装置

【課題】 撮影画面の上下方向にスミアのように強い強度の光芒が発生するのを軽減しつつ、また撮影画面の特定の方向とそれと垂直な方向での解像力の差異を少なくしつつ、絞り開口を通過する光量を制限することができる光量調整装置を得ること。
【解決手段】 光路中に配置され、絞り羽根の駆動により絞り開口を変化させて、前記絞り開口を通過する光量を制限する絞り機構と、
前記絞り開口の光入射側又は光出射側の光路中に挿脱されるNDフィルターを有する光量調整装置であって、
前記NDフィルターは前記開口絞りの侵入方向で透過率が異なる透過率分布を有し、
前記絞り開口に挿脱するときの侵入側の先端領域の中央部が前記絞り開口へ挿脱するときの侵入方向と逆方向に凹んだ切り欠き部を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオカメラ、監視カメラ、デジタルカメラ等の撮像装置において、撮像素子に入射する光量を絞り機構とNDフィルターを用いて制御する際に好適な光量調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラやデジタルカメラ等の撮像装置には、複数の絞り羽根を用いて絞り開口を形成し、その開口形状や開口面積を種々と変化させることによって、撮像素子に入射する光量を調整する、光量調整装置が使用されている。絞り開口の開口面積の変化のみで光量調整をおこなうと、高輝度被写体を撮影する際に絞り開口の面積(開口径)が小さくなり、光の回折現象により光学性能が劣化してくる。そのため、絞り開口の径をあまり小さくしないでNDフィルターを用いて撮像素子に入射する光量を低減させている。
【0003】
これによって、所望の解像力を維持できる程度の小絞り開口を維持して、絞り開口が小さくなるのを防止するようにした光量調整装置が知られている(特許文献1、2)。特許文献1の絞り装置では、2枚の絞り羽根に対して、それぞれの絞り羽根の一部に段階的もしくは連続的に透過率が変化するNDフィルターを設けている。そしてNDフィルターの透過率を光軸から放射方向外側に向かうにつれて低くなるよう設定して、絞り開口の径が小さくなりにくくしている。
【0004】
また、特許文献2の光量調整装置では、絞りとNDフィルターが異なる駆動となるように制御し、所定の絞り開口において、NDフィルターの透明部がその開口全域を覆う大きさを有するように構成している。そして、絞り開口が所定の開口のときに、NDフィルターが、絞り開口から退避する位置から所定の開口全域を透明部が覆う位置まで、停止することなく移動するように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−43878号公報
【特許文献2】特開2008−003408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の絞り装置では、絞り開口に対するNDフィルターの重なり具合によってピント面で生ずる光量差を低減し、撮影画面内の光量むらの発生を抑えている。絞り開口の全域がNDフィルターで覆われる前の段階で、NDフィルターの先端面に対して垂直な方向にのみ、絞り開口内のNDフィルターが有る部分と無い部分とにおいて位相差が発生する。その結果、その方向では解像力が低下する傾向がある。それに対し、NDフィルターの先端面と平行な方向では、上記の位相差が発生しないため、解像力は低下しない。
【0007】
この結果、NDフィルターの先端面の方向と、それと垂直な方向とで、解像力の差が発生してくる傾向がある。また、NDフィルターの端面の形状は直線形状のため、絞り開口がNDフィルターで覆われる前の段階で、NDフィルターの端面の直線と垂直の方向に、集中的に光の回折が発生する。そのため、高輝度被写体が撮影画面内に入ると、強度の強い直線状の光芒が発生する場合があった。前述の光芒が、撮影画面の上下方向に発生すると、撮像装置に用いられるCMOSセンサーでは、CCDと異なり、撮影画面の上下方向にスミアが発生しないにも関わらず、光芒がスミアに見えてしまうことがある。
【0008】
特許文献2の光量調整装置では、NDフィルターの端面が絞り開口内にある状態を不使用領域としている。このために、特許文献1のような、NDフィルターの先端面の方向と、それと垂直な方向とでの解像力の差異は発生しない。また、NDフィルターの先端面を凸形状とすることで、撮影画面の上下方向にスミアのように強い強度の光芒が発生しない。特許文献2では、NDフィルターの駆動方向の大きさが、不使用領域を通過させる分だけ大きくなる傾向がある。不使用領域を維持してNDフィルターを小さくするには、絞り開口を通過する光量を低下させるための領域(絞り開口)を小さくすることになる。
【0009】
そうすると、小絞り時の回折による画質が劣化する場合がある。更に、不使用領域を回避するために、瞬間的にNDフィルターの端面が絞り開口を通過するよう制御すると、動画撮影中などに不自然な映像が瞬間的に入り込むことになってくる。
【0010】
本発明は、撮影画面の上下方向に光芒が発生するのを軽減し、撮影画面の特定の方向とそれと垂直な方向での解像力の差異が少なくしつつ、絞り開口を通過する光量を制限することができる光量調整装置及びそれを有する撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光量調整装置は、光路中に配置され、絞り羽根の駆動により絞り開口を変化させて、前記絞り開口を通過する光量を制限する絞り機構と、
前記絞り開口の光入射側又は光出射側の光路中に挿脱されるNDフィルターを有する光量調整装置であって、
前記NDフィルターは前記開口絞りの侵入方向で透過率が異なる透過率分布を有し、
前記絞り開口に挿脱するときの侵入側の先端領域の中央部が前記絞り開口へ挿脱するときの侵入方向と逆方向に凹んだ切り欠き部を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撮影画面の上下方向にスミアのように強い強度の光芒が発生するのを軽減しつつ、また撮影画面の特定の方向とそれと垂直な方向での解像力の差異が少なくしつつ、絞り開口を通過する光量を制限することができる光量調整装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1におけるNDフィルターと絞り開口形状の関係を示す概略図。
【図2】本発明の撮像装置の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施例1におけるNDフィルターの構成を示す概略図。
【図4】本発明の実施例1における絞り開口形状と絞り羽根の構成を示す概略図。
【図5】本発明の実施例1におけるNDフィルター及び絞り開口の状態とMTFの関係の説明図。
【図6】本発明の実施例2におけるNDフィルターの構成を示す概略図。
【図7】本発明の実施例3におけるNDフィルターの構成を示す概略図。
【図8】本発明の実施例4におけるNDフィルターの構成を示す概略図。
【図9】本発明の実施例4における絞り開口形状と絞り羽根の構成を示す概略図。
【図10】本発明の実施例5におけるNDフィルターの構成を示す概略図。
【図11】本発明の実施例6におけるNDフィルターの構成を示す概略図。
【図12】本発明の実施例7におけるNDフィルター及び絞り開口の構成を示す概略図。
【図13】従来例におけるNDフィルター及び絞り開口の状態とMTFの関係の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光量調整装置は、光路中に配置され、絞り羽根21、22の駆動により絞り開口を変化させて、絞り開口を通過する光量を制限する絞り機構2を有する。絞り開口の光入射側又は光出射側の光路中に挿脱されるNDフィルター1を有する。NDフィルター1は開口絞りの侵入方向であって、光束の通過する領域の違いにより透過率が異なる透過率分布を有している。NDフィルター1は、絞り開口に挿脱するときの侵入側の先端領域の中央部が絞り開口へ挿脱するときの侵入方向と逆方向に凹んだV字形状、U字形状、円形状、楕円形状等からなる切り欠き部102を有している。
【0015】
[実施例1]
図1は本発明の光量調整装置の実施例1におけるNDフィルター1と絞り機構2の絞り開口の関係を示す概略図である。図1はNDフィルター1を絞り機構2の開口絞りの一部に侵入させ、光束の通過方向(撮像光学系(不図示)の光軸方向)から見た時を示している。図1において、2aは絞り装置の開放時の絞り開口、2bはNDフィルター1を絞り開口に挿入する際の絞り開口(侵入絞り開口)である。D0は、絞り開口の開放状態における撮像光学系の光線通過領域である。Aは、NDフィルター1の光路中への挿入方向である。
【0016】
HはNDフィルター1を光路中に配置したときのNDフィルター1の光束が通過する有効領域の幅(撮像画面の左右方向の幅)である。P0は、NDフィルター1を光路中に挿入したときに光束が開口の中心部を通過する第1の領域である。P1、P2は、光束が開口の周辺部を通過する第2の領域である。切り欠き部102は、NDフィルター1の先端領域101の中央部が絞り開口へ挿脱するときの侵入方向Aと逆方向に凹んだV字形状、U字形状、円形状、楕円形状等からなる。
【0017】
すなわち、本実施例におけるNDフィルター1の端部(先端部)に形成した切り欠き部102は次のようになっている。絞り開口への挿入時に絞り開口の中心部を通過する第1の領域P0が、絞り開口の周辺部を通過する第2の領域P1、P2に対して凹むように、第1の領域P0から第2の領域P1、P2にかけて傾斜している。
【0018】
図2は、本発明の光量調整装置を有する撮像装置の構成を示すブロック図である。図2について説明する。1はNDフィルターである。2は絞り機構である。3は撮影レンズである。撮影レンズ3は複数レンズ枚で構成されている。撮影レンズ3は絞り機構2やNDフィルター1に対し物体側か像側かの制限なく配置して良い。4は入射した光を受光し、光電変換する撮像素子である。5は光電変換された信号から標準テレビジョン信号を生成したりするために、電気的な増幅、アナログ信号からデジタル信号への変換、ガンマ補正、色分離、色差マトリクス等を行う信号処理装置(カメラ信号処理装置)である。
【0019】
6は各種処理命令を出すマイクロコンピューターである。7は絞り羽根を駆動するための駆動モータ等の絞り駆動手段である。8は絞り機構2の状態を検出するエンコーダーである。9はNDフィルター1を光路中に挿脱する駆動モータ等のNDフィルター駆動手段である。10はNDフィルター1の状態を検出するエンコーダーである。11は光電変換された信号を読みだすと共に信号の蓄積時間を制御するいわゆる電子シャッター機能を制御する撮像素子駆動手段である。但し、エンコーダー8、10は必ずしも必要ではない。
【0020】
図3は、本実施例のNDフィルター1の概略構成図である。NDフィルター1は絞り開口への侵入方向から順に透過率が均一な領域1A、透過率が連続的に変化している領域1B、領域1Aよりも透過率が低く、透過率が均一な領域1Cより透過率分布を構成している。領域1Aと領域1Bとの境界と、領域1Bと領域1Cとの境界を、点線で表現している。図4は、本実施例における、絞り機構2の絞り羽根21、22と、絞り羽根21、22により形成される絞り開口2a、2bの概略構成図である。
【0021】
図5は、本実施例における絞り機構2とNDフィルター1による露出制御図である。図5上部の図は、絞り機構2の各絞り値での、絞り羽根で形成される絞り開口(Fナンバー)と、NDフィルター1との位置関係を示している。下部のグラフは横軸に撮影光学系に適用したときの絞り値(Fno)、縦軸に撮影光学系のMTFを示している。また、上部の図の配置は下部グラフの横軸と略一致している。ここで撮影光学系は一般的な撮影レンズを想定してMTFを示している。図5の絞り値F1.6におけるNDフィルター1が配置されている位置が、NDフィルター1の移動開始位置となる。図5の下部のMTFグラフは、実線が撮影画面上下方向に読み取ったMTF、点線が撮影画面左右方向に読み取ったMTFである。
【0022】
本実施例の光量調整装置は、絞り開放状態の開口2a(F1.6)から任意の開口2b(F4.0)(F4a)までは絞り開口のみを変化させる。そしてさらに被写体が高輝度となった場合は、絞り開口は開口2b(F4a)のままで、NDフィルター1を挿入することで透過率を低下させる(F4b)(F4c)。さらに、NDフィルター1の最大駆動量まで透過率を低下させてからは(F4d)、絞り開口2bの面積を小さくすることで通過する光量を少なくする、という制御をしている。
【0023】
本実施例では、開放状態をF1.6、任意の開口2bをF4.0に相当する開口としている。このように制御することで、NDフィルター1を挿入する前にある程度絞り開口を小さくし、NDフィルター1が絞り開口2bを覆うのに必要な面積を小さくしている。また、F4.0相当と、ある程度大きな口径で絞り開口2bを維持した状態でNDフィルター1を挿入することで、絞り開口とNDフィルター1の端部とで形成される開口で発生する光の回折の影響を小さくしている。
【0024】
なお、本実施例ではNDフィルター1を挿入するときの絞り開口2bを、F4.0相当とした場合で説明したが、前記F値は、任意に選択することができる。一方、絞り開口の全域がNDフィルター1で覆われる前の段階(F4b)では、絞り開口内の、NDフィルター1が有る部分と無い部分とにおける大きな位相差が発生する状態となる。
【0025】
本実施例のNDフィルター1は絞り開口に挿脱するときの侵入側の先端領域101に切り欠き部102を有している。すなわち図1、図3に示すように、NDフィルター1の端部を上記の形状とすることにより、NDフィルター1の端部の第2の領域P1・P2を結ぶ方向と、それとは垂直な方向の両方に、上記の位相差が発生するため、解像力の差異が小さくなる。更に、本実施例におけるNDフィルター1の端部を上記の形状とすることにより、NDフィルター1の端部にある直線部分による光の回折で発生する強度の強い直線状の光芒は、撮影画面の上下方向に発生しなくなる。
【0026】
以下に、本発明の効果を説明するために、従来の光量調整装置のNDフィルターと絞り開口の状態について、図13を参照して説明する。図13は、従来例における露出制御の説明図で実施例1の図5に相当している。図13の上部の図は、各絞り値での、絞り羽根で形成される絞り開口と、NDフィルター1との位置関係を示している。下部のグラフは横軸に絞り値(Fno)、縦軸にMTFを示している。また、上部の図の配置は下部グラフの横軸と略一致している。図13の絞り値F1.6におけるNDフィルター1が配置されている位置が、NDフィルター1の開始移動位置となる。
【0027】
図13の下図のMTFグラフは、実線が撮影画面上下方向に読み取ったMTF、点線が撮影画面左右方向に読み取ったMTFである。従来例のNDフィルター1の先端面は光路への侵入方向に対して垂直方向で直線となっており、なおかつ先端面の全域が、撮影画面の上下方向に対して90度となっている。
【0028】
NDフィルター1の光束が通過する領域の透過率は、先端から連続的に任意の領域で所望の透過率まで低下し、途中からは均一透過率領域となっている。従来例の光量調整装置は、NDフィルターと絞り開口は以下のとおり、別駆動の制御により撮像素子に到達する光量を調整している。絞り開放状態F1.6から絞り値F4.0(F4a)までは絞り開口面積を変化させる。絞りF4.0(F4a)からNDフィルターが全挿入されるまで(F4d)は、絞り開口面積を変化させずにNDフィルターを挿入駆動する。NDフィルターが全挿入されてから(F4d)は、再度絞り開口面積を変化させる。
【0029】
従来例が上記駆動をおこない、NDフィルター1の先端面が、F4.0相当の開口中に掛かっているとき(F4b)、NDフィルター1の先端面に対して垂直な方向で、絞り開口内のNDフィルター1が有る部分と無い部分とにおける大きな位相差が発生する。そして、大きな位相差が発生する方向では解像力が大きく低下する。それに対し、NDフィルター1の先端面と平行な方向では、上記の位相差が発生しないため、解像力は低下しない。上記により、NDフィルター1の先端面の方向と、それと垂直な方向とで、解像力の差が発生し、不自然な画像となるために、好ましくない。
【0030】
更に、従来例が上記駆動をおこない、NDフィルター1の先端面が、F4.0相当の開口中に掛かっているとき(F4b)、NDフィルター1の端面の直線と垂直の方向にだけ、集中的に光の回折が発生する。これにより、高輝度被写体が撮影画面内に入ると、撮影画面の上下方向にスミアのような強度の強い光芒が発生するため、好ましくない映像となってしまう。これに対して本実施例では前述した構成をとることによって、NDフィルター1の侵入方向とそれと直交する方向の双方で位相差を持つことにより、双方での解像力の差が軽減され、良好なる光学性能が得られる。
【0031】
絞り機構2によって形成される面積または形状の異なる複数の絞り開口のうち、NDフィルター1が侵入するときの侵入絞り開口(図5のF4a)において、侵入絞り開口(F4a)の開口端部には開口直線部分104が形成されている。このとき図1に示すようにNDフィルター1の侵入方向(挿脱方向)103と開口直線部分104とのなす角度をθspとする。一方、NDフィルター1の切り欠き部102は切り欠き直線部分105を有している。NDフィルター1の侵入方向(挿脱方向)103と切り欠き直線部分105とのなす角度をθndとする。このとき、
0.0≦|sin(θsp−θnd)|<0.4 ・・・(1)
なる条件式を満足している。
【0032】
本実施例において、角度θsp、θndは、共に60度である。上記のように設定することによって、撮影画面で発生する絞り羽根21、22での回折による光芒と、NDフィルター1での回折による光芒とが重なり合い、光芒の発生状態が目立たなくなる。条件式(1)の範囲を超えてしまうと、絞り羽根21、22での回折による光芒とNDフィルター1での回折による光芒が異なる方向に発生し、撮影画面上好ましくない。
【0033】
本実施例において、NDフィルター1と絞り開口の形状2a、2bは、共に開口中心を通る前記NDフィルター1挿脱方向の軸に対して線対称の形状となっているが、左右の角度を異ならせることにより、任意の角度を選択しても良い。更に好ましくは、条件式(1)は以下の範囲の如く設定することが良い。
【0034】
0.00≦|sin(θsp−θnd)|<0.35 ・・・(1a)
また、更に好ましくは、条件式(1a)は以下の範囲の如く設定することが良い。
【0035】
0.0≦|sin(θsp−θnd)|<0.3 ・・・(1b)
NDフィルター1の端部が絞り開口2bの途中にある状態(F4b)のときに、撮影画面内の光量むらを抑える必要がある。更に、NDフィルター1の端部が、中途半端に光線通過領域に掛かっている駆動領域、すなわち撮像光学系のMTFが不利となる領域を、ピント面上に到達する光量の変化が少ない範囲で通過させることが好ましい。また、撮影画面内に高輝度被写体が入ってきても、所望の解像力を維持できる小絞り開口より、絞り開口が小さくなりにくくするのが良い。
【0036】
NDフィルター1の先端領域101の切り欠き部102のうち中央領域の透過率をTa、NDフィルター1の光束の通過領域における透過率のうち透過率が最も低い領域7の最小値をTbとする。このとき、
1.5<Ta/Tb<200.0 ・・・(2)
なる条件式を満足するのが良い。
【0037】
条件式(2)の上限値を超えてしまうと、NDフィルター1の最低透過率が低くなりすぎて、NDフィルター1を光路中に全挿入した際の撮影画面内の光量むらが大きくなり、好ましくない。また、条件式(2)の下限値を超えてしまうと、NDフィルター1の先端部の透過率が低くなり、先端面が光線通過領域を通過する際の、撮像素子に到達する光量の変化が大きくなる。そのため、撮影画面内の光量むらが大きくなり、好ましくない。また、撮影光学系のMTFが低下する領域を利用する範囲が広くなり、好ましくない。更に好ましくは、条件式(2)は以下の範囲の如く設定することが良い。
【0038】
1.7<Ta/Tb<150.0 ・・・(2a)
また、更に好ましくは、条件式(2a)は以下の範囲の如く設定することが良い。
【0039】
1.9<Ta/Tb<100.0 ・・・(2b)
なお、本実施例において、透過率Taは50.1%、透過率Tbは10.0%である。更に、透過率がNDフィルター1の侵入方向に(光軸と直交する方向に)連続的に変化している領域1Bは、NDフィルター1の端部から領域1C側に向かい、常に透過率が低くなり続ける構成となっている。また、領域1Aと領域1Bの境界と、領域1Bと領域1Cの境界においては、透過率が連続的に変化するようになっている。
【0040】
このように、NDフィルター1が光路中に端部から挿入されるにつれて、徐々に透過率が低くなっていくように設定している。これにより、NDフィルター1に設定する透過率による、撮影画面内の光量むらの発生を防止している。
【0041】
本実施例のNDフィルター1は、その先端面の切り欠き部102が有する最小の曲率半径が、以下の条件式を満たすように構成されている。
【0042】
0.001<Rnd/Dnd<10.000 ・・・(3)
ただし、RndはNDフィルター1の端部の切り欠き部102の開口通過領域の最小曲率半径である。DndはNDフィルター1の端部の切り欠き部102の開口通過領域の幅(NDフィルター1の開口通過領域の幅)である。このように構成することにより、撮影画面内に高輝度被写体が入った際に、NDフィルター1の先端面内の曲率半径が最小の領域で発生する光の回折を抑え、撮影画面において高輝度被写体からの光芒の発生を防止できる。
【0043】
条件式(3)の上限値を超えると、NDフィルター1の先端面の角部の曲率半径が大きくなりすぎてしまい、直線に近い形状となる。それにより、NDフィルター1での回折による光芒が不自然な方向に発生するため、映像上好ましくない。条件式(3)の下限値を超えると、NDフィルター1の先端面の角部の曲率半径が小さくなりすぎ、製造が困難となる。更に好ましくは、条件式(3)は以下の範囲の如く設定することが良い。
【0044】
0.005<Rnd/Dnd<7.000 ・・・(3a)
また、更に好ましくは、条件式(3a)は以下の範囲の如く設定することが良い。
【0045】
0.010<Rnd/Dnd<5.000 ・・・(3b)
本実施例では、絞りの開放状態において、NDフィルター1は、絞り開放時の光線通過領域D0と重なっていない。しかしながら、撮像光学系が有する開放F値から大きく変化しない程度であれば、開放状態において、NDフィルター1の一部は光線通過領域D0と重なっていても良い。ここで開放F値から大きく変化しない程度とは、たとえば、開放時の光線通過領域D0全体の平均透過率が80%を超えることを指す。
【0046】
本実施例において、絞り開口2bがF4.0(図3のF4a)相当ときに、NDフィルター1を駆動する。そして最大駆動量まで挿入したとき(図3のF4d)、透過率が均一な領域1Cが絞り開口2bと重なる面積は、絞り開口2bの面積の50%より大きく設定されている。このように設定することにより、NDフィルター1を最大駆動量まで挿入した際に、絞り開口2b内の平均透過率を充分に減らした上で、絞り開口2bの平均透過率の製造誤差による変動が小さくなる。
【0047】
以上のように本実施例によれば、撮影画面の上下方向にスミアのように強い強度の光芒が発生せず、不使用領域が無く、なおかつ画面方向での解像力の差異が少ない光量調整装置が得られる。
【0048】
以下、本発明の他の実施例について説明する。他の実施例では前述した実施例1に比べて、NDフィルター1と絞り羽根21、22の駆動は同一である。また、駆動によるMTFの変化に関してはほぼ同等の状態となる。このため、上記に関する説明は省略する。
【0049】
[実施例2]
図6は、本発明の実施例2に係るNDフィルター1の説明図である。本実施例では、NDフィルター1の端部を含む領域1Aの透過率を50.1%、NDフィルター1の領域1Cの透過率を25.1%としている。領域1BはNDフィルターの光路中への侵入方向に連続的に透過率が変化し、領域1Aとの境界の透過率を50.1%、領域1Cとの境界の透過率を25.1%としている。本実施例において、条件式(1)における角度θspは60度、θndは50度である。
【0050】
[実施例3]
図7は、本発明の実施例3に係るNDフィルター1の説明図である。本実施例では、NDフィルター1の端部を含む領域1Aの透過率を100%、NDフィルター1の領域1Cの透過率を10%としている。領域1BはNDフィルター1の光路中への侵入方向に連続的に透過率が変化し、領域1Aとの境界の透過率を100%、領域1Cとの境界の透過率を10%としている。
【0051】
本実施例において、条件式(1)における角度θsp、θndは、共に60度である。本実施例では、NDフィルター1の端部を透過率100%、すなわち透明部としているが、NDフィルター1が絞り開口2bの全域を覆う前にも、絞り開口2b全域での平均透過率を変化させることが可能な設定となっている。つまり、絞り開口2b内にNDフィルター1が有る部分と無い部分が並存する駆動領域を、光量調整のために利用するため、NDフィルター1の端部は透明部であっても、不使用領域ではない。
【0052】
[実施例4]
図8は、本発明の実施例4に係るNDフィルター1の説明図である。図9は、実施例4における、絞り機構2の絞り羽根21、22と、絞り羽根21、22により形成される絞り開口2a、2bの概略構成図である。2aは絞り開放時の絞り開口、2bはNDフィルター1を挿入する際の挿入絞り開口である。D0は、絞り開放状態における撮像光学系の光線通過領域である。Hは、NDフィルター1を光路中に配置したときの絞り開口通過領域の幅である。
【0053】
本実施例では、NDフィルター1の先端面を含む、領域1Aの透過率を50.1%、NDフィルター1の領域1Cの透過率を10%としている。領域1Bは連続的に透過率が変化し、領域1Aとの境界の透過率を50.1%、領域1Bとの境界の透過率を10%としている。領域1Aと領域1Bの境界と、領域1Bと領域1Cの境界は、実施例1〜3と異なり、直線ではない。それぞれの境界は共に、開角が120度のV字形状となっている。
【0054】
本実施例の形状に限らず、各透過率領域の境界線は曲線でも良く、領域1Aと領域1Bの境界に対して、領域1Bと領域1Cの境界が、異なる形状でも良い。本実施例において、条件式(1)に係る角度θspは50度、θndは65度である。
【0055】
[実施例5]
図10は、本発明の実施例5に係るNDフィルター1の説明図である。本実施例では、透過率が均一の領域1Aが無く、NDフィルター1の端部から、透過率が均一な領域1Cとの境界までが、連続的に透過率が変化する領域1Bとなる。領域1Cの透過率を10%としている。領域1Bと領域1Cとの境界の透過率を10%としている。本実施例において、条件式(1)に係る角度θspは60度、θndは65度である。
【0056】
[実施例6]
図11は、本発明の実施例6に係るNDフィルター1の説明図である。本実施例では、透過率が連続的に変化している領域1Bが無く、NDフィルター1の端部から、透過率が均一な領域1Cとの境界までが、透過率が均一な領域1Aとなり、領域1Aの透過率を50.1%、領域1Cの透過率を10%としている。本実施例において、条件式(1)に係る角度θsp、θndは、共に60度である。
【0057】
[実施例7]
図12は、本発明の実施例7のNDフィルター1と絞り機構2の絞り開口2a、2bの説明図である。本実施例では、絞り開口形状を円形とし、NDフィルター1の先端面をそれに合わせて任意の開口2dに合わせた円弧形状となるように切り欠き部を構成している。このように設定することで、絞り開口2b、NDフィルター1の両方で直線状に光芒が発生することを防止することができる。
【0058】
ただし、絞り開口2bが円形形状の場合に、NDフィルター1の先端面は円弧形状であることを限定するものではない。NDフィルター1が実施例1乃至6のような端面形状であっても良く、画面上に上下方向の回折ゴーストは発生しない。同様に、絞り開口が、図2の絞り開口2bのような菱形形状の際に、NDフィルターの先端面が円弧形状であっても良い。
【0059】
本実施例では、NDフィルター1の端部を含む、領域1Aの透過率を50.1%、NDフィルターの領域1Cの透過率を10%としている。領域1BはNDフィルター1の光路への侵入方向に連続的に透過率が変化し、領域1Aとの境界の透過率を50.1%、領域1Cとの境界の透過率を10%としている。
【0060】
各実施例の光量調整装置をビデオカメラ等の光学機器に適用すれば、撮影画面の上下方向にスミアのように強い強度の光芒が発生せず、撮影画面方向での解像力の差異が少ない良好なる画像を得ることができる。次に条件式(1)乃至条件式(3)に対する前述した各実施例の数値を表−1に示す。
【0061】
【表1】

【符号の説明】
【0062】
1 NDフィルター 2 絞り機構 3 撮影レンズ 4 撮像素子
5 信号処理装置 6 マイクロコンピューター 7 絞り駆動装置
8 絞り機構2の状態を検出するエンコーダー 9 NDフィルター駆動装置
10 NDフィルター1の状態を検出するエンコーダー 11 撮像素子駆動装置
1A 透過率が均一に分布する領域 1B 透過率が連続的に変化する領域
1C 透過率が均一に分布する領域 2a 開放状態における、絞り羽根で構成される絞り開口 2b NDフィルターを駆動させる絞り開口 21 絞り羽根
22 絞り羽根 D0 開放状態における、撮像光学系の開放口径
P0 NDフィルター端部の、絞り開口中心を通過する第1の領域
P1 NDフィルター端部の、絞り開口周辺部を通過する第2の領域
P2 NDフィルター端部の、絞り開口周辺部を通過する第2の領域
H NDフィルターの開口通過領域の幅 A NDフィルター挿入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路中に配置され、絞り羽根の駆動により絞り開口を変化させて、前記絞り開口を通過する光量を制限する絞り機構と、
前記絞り開口の光入射側又は光出射側の光路中に挿脱されるNDフィルターを有する光量調整装置であって、
前記NDフィルターは前記開口絞りの侵入方向で透過率が異なる透過率分布を有し、
前記絞り開口に挿脱するときの侵入側の先端領域の中央部が前記絞り開口へ挿脱するときの侵入方向と逆方向に凹んだ切り欠き部を有することを特徴とする光量調整装置。
【請求項2】
前記絞り機構によって形成される絞り開口のうち、前記NDフィルターが侵入するときの侵入絞り開口において、
前記侵入絞り開口の開口端部は開口直線部分を有し、前記NDフィルターの侵入方向と前記開口直線部分とのなす角度をθspとし、
前記NDフィルターの切り欠き部は切り欠き直線部分を有し、前記NDフィルターの侵入方向と前記切り欠き直線部分とのなす角度をθndとするとき、
0.0≦|sin(θsp−θnd)|<0.4
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光量調整装置。
【請求項3】
前記NDフィルターの前記先端領域の切り欠き部のうち中央領域の透過率をTa、前記NDフィルターの光束の通過領域における透過率のうち最も低い透過率をTbとするとき、
1.5<Ta/Tb<200.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光量調整装置。
【請求項4】
前記NDフィルターを駆動するNDフィルター駆動手段と、前記絞り開口の面積を変化させるように前記絞り羽根を駆動する絞り駆動手段とを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光量調整装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光量調整装置を有する光学系と、該光学系によって形成された像を受光する撮像素子を有することを特徴とする撮像装置。

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−163874(P2012−163874A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25582(P2011−25582)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】