説明

光量調節装置、レンズ装置、カメラシステム

【課題】光学性能を維持し、光学設計の自由度を向上できる光量調節装置の実現。
【解決手段】回転部材と、当該回転部材を駆動する駆動部と、開口部を形成するように互いに重なり合うように配置されて前記回転部材に係合する複数の絞り羽根と、前記回転部材の回転により前記開口部が予め決められた開度になるように前記複数の絞り羽根を作動させるカム部材と、を有する光量調節装置において、前記絞り羽根に当接部を形成すると共に、前記カム部材又は前記回転部材に、当該当接部に当接する斜面部を形成し、前記絞り羽根の作動に伴い前記当接部が前記斜面部に沿って移動し、前記複数の絞り羽根が開放側から小絞り側に作動するほど、前記当接部を光軸方向に沿って光学系とは反対方向に押圧し、前記絞り羽根の開口部の光軸方向への迫り上がりが小さくなるように前記斜面部を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系に用いられる光量調節装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の光量調節装置として、特許文献1には、ポリエステルシート等の樹脂材やステンレスシート等の金属材に射出成型によって駆動鋲と回転鋲を形成した複数の絞り羽根を、レンズ枠の周上に重ねて配置することで絞り開口を形成している。そして、絞り駆動板に形成された長孔と駆動鋲とを係合させ、絞り駆動板を駆動させることで各絞り羽根が回転鋲を中心として絞り開口を開閉させる。
【0003】
また、特許文献2では、羽根基板を射出成形する際に駆動ダボと回転ダボを一体的に形成し、このように成形された複数枚の絞り羽根を羽根室のまわりに配置することで絞り開口を形成している。
【特許文献1】特許第2707622号明細書
【特許文献2】特開平06−317826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光量調節装置では、複数枚の絞り羽根を周上に重ねて配置して絞り開口を形成しているため、絞り羽根が開放側よりも相対的に開口部を覆っている小絞り側で、開口部付近が迫り上がる(光軸方向へ盛り上がる)現象が発生することが知られている。この現象は、絞り羽根が、近接するレンズ等の光学系に接触して表面のコーティングを損傷させ光学性能を劣化させる要因となる。また、従来は、絞り羽根の迫り上がり量を見込んで、絞り羽根に近接する光学系を光軸方向に沿って離間して配置せざるをえず、光学設計の自由度を低くする要因となっている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、光学性能を維持し、光学設計の自由度を向上できる光量調節装置の実現を例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明の光量調節装置は、回転部材と、当該回転部材を駆動する駆動部と、開口部を形成するように互いに重なり合うように配置されて前記回転部材に係合する複数の絞り羽根と、前記回転部材の回転により前記開口部が予め決められた開度になるように前記複数の絞り羽根を作動させるカム部材と、を有する光量調節装置において、前記絞り羽根に当接部を形成すると共に、前記カム部材又は前記回転部材に、当該当接部に当接する斜面部を形成し、前記絞り羽根の作動に伴い前記当接部が前記斜面部に沿って移動し、前記複数の絞り羽根が開放側から小絞り側に作動するほど、前記当接部を光軸方向に沿って光学系とは反対方向に押圧し、前記絞り羽根の開口部の光軸方向への迫り上がりが小さくなるように前記斜面部を形成した。
【0007】
また、本発明のレンズ装置は、上記光量調節装置を有する絞り装置と、複数のレンズを有する光学系と、前記絞り装置と前記光学系とを制御する制御部と、を有する。
【0008】
また、本発明のカメラシステムは、上記レンズ装置と、前記レンズ装置が着脱自在なカメラ装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、絞り羽根が小絞側に作動する際に発生する迫り上がり現象を抑制できるため、絞り羽根が光学系に接触して光学性能を劣化するのを抑制することができる。
【0010】
また、絞り羽根の迫り上がり量を見込んだ光学設計が不要となるため、光学設計の自由度を高め、良好な光学性能を持った光学系を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正又は変更されるべきものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[カメラシステム]
先ず、本発明の光量調節装置を適用したレンズ装置が装着されたカメラシステムについて説明する。
【0014】
図13は、本発明の光量調節装置を適用したレンズ装置が装着されたカメラシステムを示すブロック図である。
【0015】
図13において、200はカメラ本体、300はカメラ本体200に着脱自在な交換レンズ本体であり、カメラ本体200に交換レンズ本体300が装着されて、レンズレンズ交換式オートフォーカス(AF)一眼レフカメラを構成している。
【0016】
201はマイクロコンピュータで構成されるカメラ制御部で、後述するカメラ本体200に搭載された各種装置の動作を制御する。更に、カメラ制御部201は、レンズ本体300が装着された状態で、レンズ接点302とカメラ接点202が接続されて、レンズ制御部301との間で通信を行う。
【0017】
203はユーザが操作可能な電源SWであり、カメラ制御部201を起動してカメラ本体200の各アクチュエータやセンサ等への電源供給を行い、動作可能な状態とするためのSWである。
【0018】
204はユーザが操作可能な2段ストローク式のレリーズSWで、その信号はカメラ制御部201に入力される。カメラ制御部201は、レリーズSW204から入力された信号に従い、以下の撮影動作を行う。
【0019】
即ち、第1ストロークSWがONされSW1信号が出力されると、測光装置205による露光量演算や測距装置208による被写体の測距演算や測距結果に基づいた合焦装置306によるフォーカスレンズの合焦動作や合焦判定等の撮影準備状態に移行する。
【0020】
また、第2ストロークSWがONされSW2信号が出力されると、レンズ本体300のレンズ制御部301に対して後述する絞り装置307の駆動命令を出力する。尚、レンズ制御部301は、後述するレンズ本体300の各種装置の動作を制御すると共に、カメラ本体200に装着された状態で、レンズ接点302とカメラ接点202が接続されて、カメラ制御部201との間で通信を行う。
【0021】
レンズ制御部301は絞り装置307を駆動し、カメラ制御部201は露光装置206に露光開始指令を出力して実際に露光動作を実行させ、露光装置206から露光終了信号を受信すると記憶装置207に記録開始指令を出力して撮影画像の記憶を行う。
【0022】
209は表示装置であり、カメラ制御部201からの表示制御指令に基づいて、絞り値やシャッタスピード等の各種撮影条件や、撮影枚数、電池残量、各種モードの表示を行う。
【0023】
306は合焦装置であり、フォーカスレンズ及びその保持部材と、フォーカスレンズを目標位置まで駆動するためのレンズ駆動手段と、レンズ駆動手段の駆動力をフォーカスレンズに伝達する伝達機構と、を有する。更に、合焦装置306は、カメラ制御部201から出力されたフォーカスレンズの移動量の情報に従い、レンズ制御部301によって制御され、レンズ駆動手段に駆動指令を出力するレンズ駆動回路を有する。
【0024】
307は絞り装置であり、絞り開口面積を予め決められた所定開度に設定する絞り機構と、絞り機構を駆動するための絞り駆動部と、カメラ制御部201からの絞り動作指令に従ってレンズ制御部301により制御される。そして、絞り装置307は、絞り駆動部に駆動指令を出力する絞り駆動回路とを有する。
【0025】
尚、本発明の光量調節装置は、上記絞り装置の絞り機構及び絞り駆動部を含む概念である。
【0026】
[光量調節装置]
図1は、本発明の光量調節装置を適用した実施形態の絞り装置の分解図である。図2は、図1の絞り羽根の斜視図である。図3は、図1の絞り羽根の正面図である。図4は、図1のカムプレートの斜視図である。図5は、図1の絞り羽根とカムプレートとの位置関係を示す正面図である。
【0027】
図1において、1は合成樹脂等の弾性材料で形成されたカバー部材であり、後述する絞り駆動部としてのローターユニットをカバーする。カバー部材1は、後述の回転軸4を軸支する軸受1a、後述のボビン5の端子を挿通させる穴部1b−1〜1b−4を有する。また、カバー部材1は、後述の位置検出素子12の抜けを抑える張り出し片1c、張り出し片1cに形成されて位置検出素子12の端子部12aを挿通させる穴部1c−1〜1c−3、位置検出素子12の端面部に接触する突起部1j(図14)を有する。更に、カバー部材1は、後述のケース部材13に締結される座部1d、座部1dに形成された挿通穴1d−1とスナップフィット結合するように先端部に係止爪部が形成された弾性片部1k(図14)を有する。更に、カバー部材1は、座部1dと後述の駆動部材を収納する収納部とを橋渡しする薄肉片部1f(図14)、ケース部材13と嵌合することにより位置決めするための嵌合片部1e−1,1e−2(図14)を有する。また、カバー部材1は、後述するヨーク部材9を嵌合させて位置決めするための嵌合部1g−1,1g−2,1h−1〜1h−4(図14)を有する。
【0028】
2は永久磁石で形成されたロータ、3はロータ2を接着等で固定するための円盤形状のコア、4はコア3を圧入等で固定するための回転軸である。5a,5bは合成樹脂等で形成されたボビンで、給電のための端子部を有しており、コイル6a,6bが取り付けられると共に、端子部にコイルの引き出し線が連結され、半田によるメッキ処理が施されている。
【0029】
7は潤滑性の高い材料で形成され、コア3の端面部と後述の軸受10の端面部の摺動摩擦を低減させるためのワッシャである。8は絶縁性のあるシート材により形成され、コイル6a,6bと後述のヨーク9の間に配置されて両者が導通しないようにするためのシート部材であり、後述の軸受10の逃げ穴部8aと後述のヨーク9の逃げ穴部8b−1,8b−2が形成されている。
【0030】
9は軟磁性材料で形成されたヨークであり、ロータ2と対向するように曲げられたステータ部9b−1,9b−2、後述の軸受10を圧入等により固定するための穴部9a、カバー部材1と嵌合するための嵌合面部9c−1〜9c−6を有している。軸受10は磁性材料で形成され、回転軸4が係合する軸受穴10aとフランジ部10bとを有している。
【0031】
11はピニオンで、回転軸4の先端に圧入等により固定されるための穴部11aと、駆動部の回転力を後述のロータリープレート14に伝達するためのギヤ部11bとを有している。12は後述のロータリープレート14の回転位置を検出するためのフォトインタラプタ等の位置検出素子であり、端子部12aを有する。
【0032】
13は合成樹脂等で形成されたケース部材であり、光軸方向に突出した突出部13aを有する。突出部13aには、カバー部材1の座部1dの裏面に当接する受け面部13a−3が形成されている。また、突出部13aには、嵌合片部1e−1,1e−2の嵌合端面部1e−1−a、1e−2−a(図14)に嵌合する嵌合突起部13a−2が形成されている。また、突出部13aには、締結部材17を締め込む穴部13a−1が形成されている。
【0033】
また、ケース部材13には、ピニオン11を挿通させる穴部13b、軸受10のフランジ部10bを嵌合させる穴部13c、ヨーク9の端面部に当接する座面部13dが形成されている。また、ケース部材には、位置検出素子12を収納する収納部13e、後述のロータリープレート14の遮蔽板部14aの逃げ穴13gが形成されている。また、ケース部材13には、弾性片部1k(図14)の挿通穴13f、後述のカムプレート16の係止爪部16b−1〜16b−3が係合する係止溝13h−1〜13h−3が形成されている。また、ケース部材13には、位置決め軸16a−1,16a−2に係合する穴部及び溝部13i−1,13i−2が形成されている。また、また、ケース部材13には、後述のロータリープレート14のリブ部14b−1〜14b−6が係合する穴部13jが形成されている。
【0034】
14は合成樹脂等で形成された回転部材としてのロータリープレートであり、位置検出素子12の投射光を遮蔽する遮蔽板部14a、穴部13jに係合してロータリープレート14を光軸中心に回転させるリブ部14b−1〜14b−6を有する。また、ロータリープレート14は、ピニオン11のギヤ部11bに噛み合い、ロータリープレート14に回転力を伝達するギヤ部14cを有する。また、ロータリープレート14には、後述の絞り羽根15の軸部15a−1,15b−1,15c−1,15d−1,15e−1,15f−1を係合させるための穴部14d−1〜14d−6が形成されている。また、ロータリープレート14には、ケース部材13の端面部に光軸方向に当接してプレート14を光軸方向に位置決めするための突起部14e−1〜14e−3(14e−3は不図示、3箇所の突起部は略光軸まわりに等分に配置される)が形成されている。14fは開口径である。
【0035】
15a〜15fは、合成樹脂又は金属薄板等で形成された絞り羽根であり、穴部14d−1〜14d−6に係合する軸部15a−1,15b−1,15c−1,15d−1,15e−1,15f−1を有する。また、絞り羽根15には、後述のカムプレート16のカム穴16c〜16hに係合する軸部15a−2,15b−2,15c−2,15d−2,15e−2,15f−2(15b−2,15c−2,15d−2は不図示)が形成されている。
【0036】
図2及び図3は図1の絞り羽根の拡大図である。絞り羽根15aの片面には、突起部15a−3が形成されている。この突起部15a−3は、射出成型により絞り羽根15aに一体的に形成されている。この突起部15a−3は他の絞り羽根15b〜15fにも同様に形成されている(図5の15a−3〜15f−3)。
【0037】
16はカム部材としてのカムプレートであり、カム穴16c〜16hを有する。また、カムプレート16は、ケース部材13との位置決めのための軸部16a−1,16a−2、ケース部材13にカムプレート16をスナップフィット結合させるための係止爪部16b−1〜16b−3、開口穴部16kを有する。16p〜16uは、カム穴16c〜16hと開口穴部16kの外周との間に設けられる傾斜面部であり、前述の絞り羽根15a〜15fの突起部15a−3〜15f−3に当接する。これら傾斜面部16p〜16uは、絞り羽根15a〜15fが小絞り側へ移動するほど徐々に高さが高くなるような傾斜面を有する。図5は絞り羽根15a〜15fが小絞り側にある状態を示しており、小絞り側では突起部15a−3〜15f−3は傾斜面部16p〜16uの高さが高い位置にある。
【0038】
次に、各部品の相互関係について組立手順に従って説明する。
【0039】
先ず、ヨーク9に軸受10が取り付けられる。ヨーク9の穴部9aに軸受10の外形が圧入等によって固定される、その際、軸受10のフランジ部10bがヨーク9の端面部に当接し、軸受10のヨーク9に対する位置が決まる。
【0040】
次に、ヨーク9にシート部材8を敷設する。その際、ヨーク9のステータ部9b−1,9b−2に穴部8b−1,8b−2を挿通させる。
【0041】
次に、コイル6a,6bが取り付けられたボビン5a、5bの中空穴部(不図示)をヨーク9のステータ部9b−1,9b−2挿通させる。
【0042】
次に、ロータ2と回転軸4が一体となったローターユニットの回転軸4にワッシャ7を挿通し、回転軸4の端部を軸受10の穴部10aに係合させる。
【0043】
次に、ヨーク9をカバー部材1に取り付ける。その際、ヨーク9の嵌合面部9c−1〜9c−6が嵌合部1h−1〜1h−4,1g−1,1g−2にそれぞれ嵌合する。また、この時に嵌合部の一部、例えば9c−5,9c−6と1g−1,1g−2を圧入すると、ヨーク9がカバー部材1に固定され、組立の際に不用意に分解してしまうことがなくなる。上述した組立後の状態を図5に示す。
【0044】
次に、ピニオン11を回転軸4の先端部に圧入等により固定する。
【0045】
次に、カバー部材1をケース部材13に取り付ける。
【0046】
図15に示すように、ピニオン11まで取り付けた状態のカバー部材1を、光軸方向にケース部材13に移動させていく。その際、位置検出素子12をケース部材13の収納部13eに収める。更にカバー部材1をケース部材13に接近させていき、嵌合面部1e−1−a、1e−2−a(図14)を突起部13a−2(図1)にそれぞれ嵌合させる。また、軸受10のフランジ部10bをケース部材13の穴部13cに嵌合させる。これらの嵌合により、カバー部材1がケース部材13に位置決めされる。これらの嵌合と同時に、穴部1c−1〜1c−3に端子部12aを挿通させる。そして、更にカバー部材1をケース部材13に接近させていくと、座部1dの端面部が受け面部13a−3に当接する。受け面部13a−3は傾斜面となっていて、図15に示すように、穴部13a−1の中心と穴部13cの中心を結ぶ線方向にTの高低差があり、穴部13c側の方が低くなっている。
【0047】
締結部材17によりカバー部材1をケース部材13に締め込んでいくと、座部1dの端面部が高低差を持った受け面部13a−3に倣おうとして薄肉片部1fが弾性変形する。高低差Tは穴部13c側の方が低くなっているので、この弾性変形により、ヨーク部材9の端面部9eを座面部13dに当接する力が発生する。これにより、ヨーク部材9とケース部材13の光軸方向の位置が定まり、ピニオン11の位置が適切な位置に配置され、ギヤ部11bとロータリープレート14のギヤ部14cとが良好な噛み合いを維持できるため、絞り羽根による精度の良い開口径が実現される。尚、座面部13dに設けられた突起部1d−2は、締結部材17が締め込まれた状態で締結部材17の端面部に押圧されることで、座部1dの端面部を受け面部13a−3に積極的に倣わせるためにあり、薄肉片部1f寄りに設けられている。
【0048】
一方、カバー部材1をケース部材13に取り付けた状態では、図17が示すように、係止爪部の斜面部1k−1とケース部材13に形成された係止爪部13kが接触する。ここで、弾性片部1kは若干の撓み量を持つように斜面部1k−1の位置が設定されている。このため、ヨーク部材9の端面部9e(図15)の座面部13dへの当接力(付勢力)を持ったまま、カバー部材1がケース部材13に保持される。更に、この状態では、図17が示すように、突起部1jが位置検出素子12の端面部12bに当接し、張り出し片部1cが若干の撓み量を持って、位置検出素子12を押圧保持している。
【0049】
ここで、図16及び図17に示すように、弾性変形する薄肉片部1fの位置をP、ヨーク部材9の端面部9eが座面部13dへ押圧する位置をQ、弾性片部1kの斜面部1k−1が受ける位置をR、張り出し片部1cの突起部1jが受ける位置をSとする。また、ヨーク部材9がQ点で座面部13dを押圧する力f11の線分PQに対する垂直分力をf11aとする。そして、カバー部材1がR点で受ける力f12の線分PRに対する垂直分力をf12a、カバー部材1がS点で受ける力f13の線分PSに対する垂直分力をf13aとする。更に、線分PQの長さをL1、線分PRの長さをL2、線分PSの長さをL3とすると、
f11a・L1+f12a・L2>f13a・L3
の関係になっている。
【0050】
少なくとも上記関係を満たしていれば、張り出し片部1cの突起部1jが受ける力に負けて、カバー部材1がケース部材13より浮き上がり(端面部9eの座面部13dへの当接力を得ない)、噛み合い不良を起こすことによる口径精度の低下が回避できる。
【0051】
上記構成によれば、ロータリープレート14の遮蔽板部14aに対して位置検出素子12をカバー部材1の付勢力により精度よく固定できるので、位置検出素子12の機械的ずれによる検出タイミングの変動を回避することができる。また、カバー部材1により位置検出素子12を抑える構造にし、駆動部を回転させずに光軸方向より組み込み可能なため、位置検出素子12の設置を安定させる部材等が不要となる。
【0052】
また、上記構成では、カバー部材1には弾性片部1kが形成されていたが、
f11a・L1>f13a・L3
の関係が満たされるならば、弾性片部1kはなくても構わない。
【0053】
また、傾斜面部13a−3は傾斜面である必要はない。例えば、受け面部13a−3に設けた突起部と座部1dの端面部が押圧力を持って当接することで薄肉片部1fを弾性変形させ、ヨーク部材9の端面部9eが座面部13dへ付勢するように構成してもよい。また、上記突起部を受け面部13a−3側ではなく端面部1d側に設けてもよい。
【0054】
更に、ヨーク9の端面部9eとベース部材13の座面部13dとの当接は、複数個の突起部による接触であってもよい。また、カバー部材1とヨーク9を圧入した場合は、ヨーク9がカバー部材1に固定されるので、座面部13dへの当接部はヨーク9の端面部9eではなくカバー部材1の一部であってもよい。
【0055】
[迫り上がり現象及びその対策]
上述した光量調節装置では、複数の絞り羽根15a〜1fが互いに摺接するように重ねて配置されている。つまり、絞り羽根15a上に絞り羽根15bを重ね、絞り羽根15b上に絞り羽根15cを重ねていくことで順次組み付けられる。最後の絞り羽根15fは絞り羽根15aの下に配置される。このように組み付けられた絞り羽根15a〜1fを小絞り側へ作動させると、下に配置された絞り羽根がその上に配置された絞り羽根を押し上げるため、全ての絞り羽根で形成される開口部付近が迫り上がる現象が発生する。この迫り上がり現象を図6及び図7を参照して説明する。
【0056】
図6は開放位置での開口部付近の3枚の絞り羽根15a〜15cの状態を示している。Xは光軸方向を示している。また、図中上方がカムプレート側、下方がロータリープレート側である。絞り羽根15bは絞り羽根15aの下に配置され、絞り羽根15cの上に配置されているので、絞り羽根15bは図6のように斜めに傾いた状態となる。この状態で、絞り羽根15bの根元付近(図中左端)は撓みが生じているため、絞り羽根15aとの接触部αには絞り羽根15aを押し上げる力f1(光軸方向の分力はf1’)が作用する。その分力f1’に相当する力が他の絞り羽根にも同様に作用するので、絞り羽根の開口部付近が、図中上方へ盛り上がることになる。ここで、図6は開放状態であるため分力f1’が小さく、盛り上がりの量は小絞り状態に比べて小さい。
【0057】
これに対して、図7の小絞り状態では、開放状態よりも絞り羽根15bの根元付近(図中左端)は大きく撓みが生じているため、絞り羽根15aとの接触部βには絞り羽根15aを押し上げる力f2(光軸方向の分力はf2’)が作用する。ここで、f2’>f1’となるため、盛り上がる量は開放状態よりも大きくなる。従って、図6の開放状態から小絞り状態へ作動するほど、盛り上がる量が大きくなり、迫り上がり現象が発生する。
【0058】
ここで、本実施形態では、上記迫り上がり現象を抑えるために、絞り羽根に設けた突起部が、カムプレートに設けた傾斜面部に当接する構成となっている。この構成について、図8を参照して説明する。
【0059】
図8は1枚の絞り羽根15aが小絞り側に作動した状態を示している。絞り羽根15aの軸部15a−1がロータリープレート14の穴部14d−6に係合している。絞り羽根15aに設けられた突起部15a−3が傾斜面部16pの高さが高い位置で当接しているため、穴部14d−6と軸部15a−1の間のガタ(隙間)と絞り羽根15aの若干の撓みにより、絞り羽根15aは図中上方へ傾いた状態となる。ここで、絞り羽根の開口部付近の傾き方向は、前述の迫り上がり現象が発生する方向とは反対方向のロータリープレート14側である。このように、絞り羽根15aの作動に伴い、その突起部15a−3が傾斜面部16pに当接しながら傾斜面部16pに沿って移動する。これにより、絞り羽根15aを、迫り上がり現象が発生する方向とは反対方向に傾けるので、絞り羽根の開口部付近の光軸方向への盛り上がりを小さくすることができる。
【0060】
[変形例]
図8に示す構成では、カムプレート16に傾斜面部16pを設けていたが、ロータリープレート14に傾斜面部を設けても良い。
【0061】
そこで、以下では図9乃至図12を参照してロータリープレートに傾斜面部を設けた構成について説明する。
【0062】
図9乃至図11は1枚の絞り羽根315cと傾斜面部314pを設けたロータリープレート314を示している。
【0063】
ロータリープレート314には絞り羽根315cの軸部315c−1が係合する穴部314d−1〜314d−6が設けられている。また、穴部314d−1〜314d−6には、凹部314q−1〜314q−6が形成されており、絞り羽根315cの突出片部315g−1(他の絞り羽根にも同様に設けられる)が挿通可能な大きさを有する。ロータリープレート314の穴部314d−1〜314d−6の周囲には傾斜面部314p−1〜314p−6が形成されている。ここで、絞り羽根315cの組立手順を説明すると、突出片部315g−1を凹部314q−2に合わせて軸部315c−1を穴部314d−2に挿通させる。この状態では、図10に示すように、絞り羽根315cは、実際の開放位置よりも開放方向に回転した位置にある。次に、図11に示すように、突出片部315g−1を凹部314q−2に合わせて軸部315c−1を穴部314d−2に挿通し、絞り羽根315cを小絞り側に回転させる。すると、突出片部315g−1に設けられた突起部(後述の図12の315h−1)が傾斜面部314p−2に当接する。
【0064】
図12は、絞り羽根315cの軸部315c−1が穴部314d−2に係合し、突起部315h−1が傾斜面部314p−2に当接した状態を示している。図18は、図12における係合部の拡大図である。図18において、傾斜面部314p−2は絞り羽根315cが開放側から小絞り側へ作動するほど、傾斜面の高さが高くなっている。このため、突起部315h−1が傾斜面部314p−2に押圧されて、軸部315c−1と穴部314d−2との間のガタの範囲で絞り羽根315cは図中上方へ傾く。ここで、絞り羽根の開口部付近の傾き方向は、前述の迫り上がり現象が発生する方向とは反対方向のロータリープレート314側である。このように、絞り羽根315cの作動に伴い、その突起部315h−1が傾斜面部314p−2に当接しながら傾斜面部314p−2に沿って移動する。これにより、絞り羽根315cを、迫り上がり現象が発生する方向とは反対方向に傾けることで、絞り羽根の開口部付近の光軸方向への盛り上がりを小さくすることができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、絞り羽根の小絞り時に発生する迫り上がり現象を抑制できるため、絞り羽根が光学系に接触して光学性能を劣化するのを抑制することができる。
【0066】
また、絞り羽根の迫り上がり量を見込んだ光学設計が不要となるため、光学設計の自由度を高め、良好な光学性能を持った光学系を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の光量調節装置を適用した実施形態の絞り装置の分解図である。
【図2】図1の絞り羽根の斜視図である。
【図3】図1の絞り羽根の正面図である。
【図4】図1のカムプレートの斜視図である。
【図5】図1の絞り羽根とカムプレートとの位置関係を示す正面図である。
【図6】光量調節装置の迫り上がり現象を説明する図である。
【図7】光量調節装置の迫り上がり現象を説明する図である。
【図8】本実施形態の光量調節装置による迫り上がり現象の防止策を説明する図である。
【図9】本実施形態の変形例の光量調節装置の構成を示す斜視図である。
【図10】本実施形態の変形例の光量調節装置の構成を示す斜視図である。
【図11】本実施形態の変形例の光量調節装置の構成を示す斜視図である。
【図12】本実施形態の変形例の光量調節装置による作用を説明する図である。
【図13】本発明の光量調節装置を適用したレンズ装置が装着されたカメラシステムを示すブロック図である。
【図14】本発明の光量調節装置の駆動部の斜視図である。
【図15】本発明の光量調節装置の駆動部の取り付けを説明する図である。
【図16】本発明の光量調節装置の駆動部の取り付けを説明する図である。
【図17】本発明の光量調節装置の駆動部の取り付けを説明する図である。
【図18】図12における係合部の拡大図である。
【符号の説明】
【0068】
1 カバー部材
2 マグネット
3 コア
4 回転軸
5 ボビン
6 コイル
7 ワッシャ
8 シート部材
9 ヨーク
10 軸受
11 ピニオン
12 位置検出素子
13 ケース部材
14 ロータリープレート
15 絞り羽根
16 カムプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材と、当該回転部材を駆動する駆動部と、開口部を形成するように互いに重なり合うように配置されて前記回転部材に係合する複数の絞り羽根と、前記回転部材の回転により前記開口部が予め決められた開度になるように前記複数の絞り羽根を作動させるカム部材と、を有する光量調節装置において、
前記絞り羽根に当接部を形成すると共に、前記カム部材又は前記回転部材に、当該当接部に当接する斜面部を形成し、前記絞り羽根の作動に伴い前記当接部が前記斜面部に沿って移動し、
前記複数の絞り羽根が開放側から小絞り側に作動するほど、前記当接部を光軸方向に沿って光学系とは反対方向に押圧し、前記絞り羽根の開口部の光軸方向への迫り上がりが小さくなるように前記斜面部を形成したことを特徴とする光量調節装置。
【請求項2】
前記絞り羽根はそれぞれ、前記回転部材に係合する軸部を有し、
前記斜面部は、前記回転部材と前記軸部の係合部であるカム穴と前記カム部材の開口穴部の外周との間に形成され、前記当接部は該斜面部に当接するように形成された突起部であることを特徴とする請求項1に記載の光量調節装置。
【請求項3】
前記絞り羽根はそれぞれ、前記回転部材に係合する軸部を有し、
前記当接部は、前記軸部に形成された突起部であり、前記斜面部が前記回転部材に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光量調節装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光量調節装置を有する絞り装置と、
複数のレンズを有する光学系と、
前記絞り装置と前記光学系とを制御する制御部と、を有するレンズ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレンズ装置と、
前記レンズ装置が着脱自在なカメラ装置と、を備えることを特徴とするカメラシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−8853(P2009−8853A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169488(P2007−169488)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】