説明

光電場増強デバイス、表面増強ラマン分光方法および表面増強ラマン分光装置

【課題】光電場増強デバイスの光電場の増強度にバラツキが生じても、光電場増強デバイスの表面に載置された試料のラマンスペクトルのスペクトル強度を精度よく、定量的に測定する。
【解決手段】光電場増強デバイス110は、光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料115から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域112と、ラマンスペクトルが既知である参照試料113が予め固定され、光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域114とが、デバイス表面111に設けられている。この光電場増強デバイス110を用いた表面増強ラマン分光装置では、参照試料113から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて、試料115から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスの表面において光電場を増強する光電場増強デバイスおよびこの光電場増強デバイスを用いた表面増強ラマン分光方法および表面増強ラマン分光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光方法は、物質に単波長光を照射して得られる散乱光を分光して、ラマン散乱光のスペクトル(ラマンスペクトル)を得る方法であり、試料に含まれる物質の同定等に使用されている。またラマンスペクトルのスペクトル強度は、試料中の分子濃度に比例するため、試料中の分子濃度の測定等にも使用されている。ラマン散乱光は微弱な光であることから、表面においてラマン散乱光が増強される光電場増強デバイスが開発されている。光電場増強デバイスの一つとして局在プラズモン共鳴を利用したデバイスが挙げられる。これは、金属体、特に表面にナノオーダの凹凸を有する金属体に試料を接触させた状態で光を照射すると、局在プラズモン共鳴による電場増強が生じ、金属体表面に接触せしめられた試料のラマン散乱光強度が増強されるというものであり、金属の微細構造の規則性が高いほど、より均一性が高く効果的な電場増強が得られると言われている。
【0003】
特許文献1には、規則的な配列で分布形成された微細孔内にナノオーダの金属微粒子を配置した光電場増強デバイスが開示されている。
【特許文献1】特開2005−172569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料中の未知物質を同定するために、ラマンスペクトルを測定するような場合であれば、スペクトル強度を定量的に測定する必要はないが、試料中の分子濃度を測定するような場合には、スペクトル強度を定量的に測定する必要がある。しかしながら、上記のように局在プラズモン共鳴を利用した光電場増強デバイスにより増強されたラマンスペクトルを測定する場合、光電場増強デバイスの作成ロットが異なる等の原因により、光電場の増強度にバラツキが生じることがあり、ラマンスペクトルのスペクトル強度を精度よく定量的に測定することが困難になる恐れがある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光電場増強デバイスの光電場の増強度にバラツキが生じても、ラマンスペクトルのスペクトル強度を精度よく、定量的に測定することのできる光電場増強デバイスを提供することを目的とする。また、この光電場増強デバイスを用いた表面増強ラマン分光方法および表面増強ラマン分光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光電場増強デバイスは、光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられていることを特徴とするものである。
【0007】
なお、ここで「載置された試料」とは、具体的にはデバイス表面に接触あるいは隣接している試料や、デバイス表面に近接して存在する試料等である。また、「一体的に製造されたひとつのデバイス」とは、製造の際に、製造当初からひとつのデバイスとして製造されたデバイスを意味し、別箇に製造された複数個のデバイスを製造後に一体化したものは含まない。
【0008】
前記測定領域が前記デバイス表面内の第1の方向の所定範囲内に存在するものであれば、前記参照領域は前記第1の方向の所定範囲を含むものであることが好ましい。なお、ここで、「領域が第1の方向の所定範囲内に存在する」とは、第1の方向の所定範囲内において、領域が連続的に存在し、かつ領域の第1方向の最大幅が前記所定範囲の幅であることを意味している。以下同様である。
【0009】
前記測定領域が前記第1の方向とは略垂直な第2の方向の所定範囲内に存在するものであれば、前記参照領域は前記第2の方向の所定範囲を含むものであることが好ましい。なお、ここで、「領域が第2の方向の所定範囲内に存在する」とは、第2の方向の所定範囲内において、領域が連続的に存在し、かつ領域の第2方向の最大幅が前記所定範囲の幅であることを意味している。以下同様である。
【0010】
前記測定領域および前記参照領域は、前記光の波長よりも小さい凹凸構造を有する金属体からなるものであってもよい。なお、ここで「光の波長よりも小さい凹凸構造」とは、凹凸構造をなす凸部及び凹部の平均的な大きさと平均的なピッチが光の波長よりも小さいことを意味する。凹部に金属はあってもなくてもよい。また、金属体の主成分は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。
【0011】
本発明の表面増強ラマン分光方法は、光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられている光電場増強デバイスを用いる表面増強ラマン分光方法であって、
前記試料および前記参照試料からラマンスペクトルを測定し、
前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正することを特徴とする。
【0012】
また、前記光電場増強デバイスの前記測定領域が前記デバイス表面の第1の方向の所定範囲内に存在し、前記参照領域が前記デバイス表面の前記第1の方向の所定範囲を含むものであり、
前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、
前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料からラマンスペクトルを測定し、
前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正してもよい。
【0013】
さらに、光電場増強デバイスの前記測定領域が前記第1の方向とは略垂直な第2の方向の所定範囲内に存在するものであり、
前記参照領域が、前記第2の方向の所定範囲を含むものであれば、
前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標および前記第2の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、
前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料および前記参照領域内の前記第2の方向における前記所定座標に形成された参照試料からそれぞれラマンスペクトルを測定し、
前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定されたそれぞれのラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正してもよい。
【0014】
前記補正としては、前記参照試料から測定したラマンスペクトルの所定の波数のスペクトル強度を用いて、前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を規格化してもよい。
【0015】
本発明の表面増強ラマン分光装置は、
光を射出する光照射部と、
前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられている光電場増強デバイスと、
前記試料から発せられるラマンスペクトルおよび前記参照試料から発せられるラマンスペクトルを測定するスペクトル測定手段と、
前記試料から測定したラマンスペクトル強度を前記参照試料から測定したラマンスペクトル強度を用いて補正するスペクトル強度補正手段とを備えることを特徴とする表面増強ラマン分光装置。
【0016】
前記光電場増強デバイスの前記測定領域が前記デバイス表面の第1の方向の所定範囲内に存在し、前記参照領域が前記デバイス表面の前記第1の方向の所定範囲を含むものであり、
れば、前記スペクトル測定手段は、前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料からラマンスペクトルを測定するものであってもよい。
【0017】
前記光電場増強デバイスの前記測定領域が前記第1の方向とは略垂直な第2の方向の所定範囲内に存在するものであり、
前記参照領域が、前記第2の方向の所定範囲を含むものであり、
前記スペクトル測定手段は、前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標および前記第2の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料および前記参照領域内の前記第2の方向における前記所定座標に形成された参照試料からそれぞれラマンスペクトルを測定するものであれば、
前記スペクトル強度補正手段は、前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定したそれぞれのラマンスペクトのスペクトル強度を用いて補正するものであってもよい。
【0018】
前記スペクトル強度補正手段は、前記参照試料から測定したラマンスペクトルの所定の波数のスペクトル強度を用いて、前記試料から測定したラマンスペクトル強度を規格化するものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光電場増強デバイスによれば、光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられているため、例えば参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて、試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を補正することができ、個々の光電場増強デバイスの光電場の増強度にバラツキが生じている場合であっても、試料のラマンスペクトルのスペクトル強度を精度よくかつ定量的に測定することができる。
【0020】
また、局在プラズモンを誘起する光電場増強デバイス、例えば基体上に凹凸構造を有する金属体を設けた光電場増強デバイスにおいては、凹凸構造を有する金属体を形成する際に、金属体領域の領域内で光電場の増強度にバラツキが生じることがあり、このような場合に測定領域のどの点からスペクトルを測定するかによって、スペクトル強度にバラツキが生じてしまう。一方、このような領域内におけるバラツキは、例えば、デバイスの基体として、圧延により薄膜化されたアルミニウムなどを用いる場合であれば、アルミニウムの圧延方向等の所定の方向では光電場増強度はほほ一定になり、圧延方向と垂直な方向では増強度にバラツキが生じるなど、一定の傾向を有している場合が多い。このため
測定領域が前記デバイス表面内の第1の方向の所定範囲内に存在する場合に、前記参照領域が前記デバイス表面の前記第1の方向の所定範囲を含むものであれば、例えば測定領域内の第1の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、参照領域内の前記第1の方向における所定座標に形成された参照試料からラマンスペクトルを測定し、試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正することにより、一つの光電場増強デバイス内で増強度にバラツキが生じている場合であっても、試料のラマンスペクトルのスペクトル強度を精度よくかつ定量的に測定することができる。
【0021】
また、測定領域が前記第1の方向とは略垂直な第2の方向の所定範囲内に存在するものであり、参照領域が、前記第2の方向の所定範囲を含むものであれば、例えば測定領域内の第1の方向における所定座標および第2の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、参照領域内の第1の方向における所定座標に形成された参照試料および参照領域内の第2の方向における所定座標に形成された参照試料からそれぞれラマンスペクトルを測定し、試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、参照試料から測定したそれぞれのラマンスペクトのスペクトル強度を用いて補正することにより、第1の方向のおける光電場の増強度のバラツキと第2の方向における光電場の増強度のバラツキを加味した補正を行うことができ、試料のラマンスペクトルのスペクトル強度をより精度よくかつ定量的に測定することができる。
【0022】
本発明の表面増強ラマン分光方法および表面増強ラマン分光装置では、光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられている光電場増強デバイスを用い、試料および参照試料からラマンスペクトルを測定し、試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正することにより、個々の光電場増強デバイスの光電場の増強度にバラツキが生じている場合であっても、試料のラマンスペクトルのスペクトル強度を精度よくかつ定量的に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態の光電場増強デバイス、この光電場増強デバイスを用いたラマン分光方法およびラマン分光装置について、説明する。図1は光電場増強デバイス110の概略上面図であり、図2はこの光電場増強デバイス110を用いラマン分光装置100の概略構成図である。
【0024】
図1に示すように、光電場増強デバイス110の表面111にはラマンスペクトル測定用の測定領域112が設けられ、その中心部には試料115が載置されている。また、表面111の端部の測定領域112と重ならない部分には、厚さ0.5μmのメタクリル酸メチル樹脂 (PMMA)からなる参照試料113が真空蒸着されている参照領域114が設けられている。なお、光電場増強デバイス110の詳細な構成は後述する。
【0025】
図2に示すように、ラマン分光装置100は、上述の光電場増強デバイス110と、この光電場増強デバイス110が載置され、この光電場増強デバイス110をXY方向へ移動させるステージ部139と、光L1を光電場増強デバイス110へ照射する光照射部140と、試料111から発せられるラマン散乱光L2のスペクトルおよび参照試料113から発せられる参照ラマン散乱光L3のスペクトルを測定するスペクトル測定部150と、参照ラマン散乱光L3の所定波長のスペクトル強度を用いて、ラマン散乱光L2のスペクトル強度を補正するスペクトル強度補正部161を含み、各部位へ接続されて、装置全体の動作を制御する制御部160と、この制御部160と接続されている表示部170とを備えている。
【0026】
光照射部140は、30mWで波長780nmの光Lを射出する半導体レーザ141、該半導体レーザ141から射出された光Lを平行光とするレンズ142、780nmの光を直角方向へ反射し、他の波長の光は透過するノッチフィルタ143およびノッチフィルタ143で反射された光Lを光電場増強デバイス110の試料115またな参照試料上へ集光するレンズ144とを有してしる。
【0027】
スペクトル測定部150は、ノイズ光を除去するためのピンホール151を備えたピンホール板152と、試料115または参照試料113から発せられ、レンズ144およびノッチフィルタ143を透過したラマン散乱光を、ピンホール151へ集光するためのレンズ153と、ピンホール151を通ったラマン散乱光を平行光化するレンズ154と、ラマン散乱光を分散する回折格子155と、分散されたラマン散乱光の中の所定波長の光を集光する対物レンズ156と、集光された所定波長のラマン散乱光の光強度を測定するフォトダイオード157とを有している。回折格子155には、該回折格子155を回転させる回転部158が取り付けられている。この回転部158は制御部160へ接続され、制御部160の制御により回折格子155を回転させ、順次異なる波長のラマン散乱光をフォトダイオード157へ入射させる。フォトダイオード157は、検出した光強度を順次スペクトル強度補正部161へ出力する。
【0028】
以下、図3を用いて、光電場増強デバイスの作製方法について簡単に説明する。光電場増強デバイス110は、Al等の被陽極酸化金属体の一部を陽極酸化して金属酸化物体(Al等)とし、陽極酸化の過程で形成される金属酸化物体の多数の微細孔内に各々金属をメッキ等により成長させて得られたデバイスである。
【0029】
本発明の光電場増強デバイスは種々の方法によって作製できるものであるが、ここでは、その一例としてアルミニウムの基体を用いた作製方法を示す。(a)〜(c)は、本実施形態の光電場増強デバイスの作製過程における基板断面の形状を概略的に示すものである。図3(d)は、作成された光電場増強デバイス110の一部を表す斜視図である。
【0030】
まず(a)は、光電場増強デバイス110の作製プロセスに入る前の基体121を表している。本実施形態では、基体121として圧延により薄膜化されたアルミニウム層を用いている。陽極酸化装置を用いてアルミニウム層122の表面に陽極酸化処理を施すと、(b)に示すように、基板表面122に開口している多数の微細孔123を有するアルミナ層124が形成される。微細孔123は、基体表面122のほぼ全面にわたって規則的に配置される。微細孔123の孔径、深さおよび間隔は、陽極酸化の条件(例えば陽極酸化に用いる電解液の濃度や温度、電圧の印加方法、電圧値、時間など)によって変化する。
【0031】
次に、陽極酸化処理により自然形成された微細孔123に、電気メッキにより金(Au)を充填する。なお電気メッキを行う場合には、金が基体表面122と同位置まで充填された後もメッキ処理を継続する。このため、(c)に示すように、頭部が基体表面122よりも上に突出し、且つ、その頭部の径が微細孔123の孔径よりも大きい(いわばマッシュルーム型の)金微粒子125が形成される。金属粒子125の径は、任意の値に設計可能であるが、ラマン散乱光の増強効果が大きくなるように、光L1の波長よりも小さいことが好ましい。
図3(d)は、作成された光電場増強デバイス110の一部を表す斜視図である。この図に示すように、金微粒子125は光電場増強デバイス110の表面111全体に亘って高密度で配列される。このように、デバイス表面111に光L1の波長よりも小さい凹凸構造を有する金属体が形成されることにより、デバイス表面111に光L1が照射されると、局在プラズモンが誘起される。このため、光L1の照射により、試料115で発せられたラマン散乱光が増強される。
【0032】
なお、光電場増強デバイスとしては、上記の構成に限定されるものではなく、例えば図4および図5に示すようなデバイスも用いることができる。なお、図4は断面図、図5は斜視図および上面図である。
【0033】
図4(a)に示す光電場増強デバイス110aは、図3(a),(b)に示すように陽極酸化を実施し、陽極酸化により形成された金属酸化物体124を除去して、被陽極酸化金属体の非陽極酸化部分121のみを残したデバイスである(特開2006-250924号公報を参照)。かかるデバイスは、デバイス表面に複数のディンプル状の凹部126を有する非陽極酸化部分121により構成される。
【0034】
図4(b)に示す光電場増強デバイス110bは、上記光電場増強デバイス110aの表面に、その凹凸形状に沿って金属層127を成膜したものである(特開2006-250924号公報を参照)。
【0035】
図4(c)に示す光電場増強デバイス110cは、上記光電場増強デバイス110bの金属層127をアニール処理により粒子化して、被陽極酸化金属体の非陽極酸化部分121上に金属粒子128を形成したものである(特願2006-198009号(本件特許出願時において未公開)を参照)。
【0036】
図5(a)に示す光電場増強デバイス110eは、導電体130および平坦な誘電体131の上に、複数の金属粒子132がアレイ状に固着されたデバイスである。金属粒子132の配列パターンは適宜設計でき、略規則的であることが好ましい。かかる構成では、金属粒子132の平均的な径及びピッチが光L1の波長よりも小さく設計される。
【0037】
図5(b)に示す光電場増強デバイス110fは、導電体130および平坦な誘電体131の上に、金属細線133が格子状にパターン形成された金属パターン層134が形成されたデバイスである。金属パターン層134のパターンは適宜設計でき、略規則的であることが好ましい。かかる構成では、金属細線133の平均的な線幅及びピッチが光L1の波長よりも小さく設計される。
【0038】
図5(c)に示す光電場増強デバイス110gは、プレート135上に配置された複数の金属ナノロッド136から構成されている(特開2007-139612号公報を参照)。金属ナノロッドのサイズは、短軸長さが3nm〜50nm程度、長軸長さが25nm〜1000nm程度であり、長軸長さを励起光の波長よりも小さいサイズとする。
【0039】
また光電場増強デバイスの表面は、表面が粗面化された金属層により構成してもよい。粗面化方法としては、酸化還元等を利用した電気化学的な方法等が挙げられる。その他光電場増強デバイスとしては、表面電場増強効果を有する公知のデバイスを用いることができる。
【0040】
次に、上述のラマン分光装置100を用いて、試料115のラマンスペクトルを定量的に測定するラマン分光方法について、説明する。まず、測定に先立って、検出領域112へ試料115が載置されている光電場増強デバイス110がステージ139上へ置かれる。
【0041】
以下制御部160の制御により、ラマンスペクトルの検出およびスペクトル強度の補正が行われる。まず、ステージ139が移動し、試料115上へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス110が移動する。
【0042】
光照射部140の半導体レーザ141から出力30mW、波長780nmの光L1が射出され、レンズ142により平行光化される。光L1は、ノッチフィルタ143で反射され、レンズ144で集光されて、光電場増強デバイス110上の試料115へ照射される。
【0043】
光L1の照射により試料115から発せられたラマン散乱光L2は、その波長が780nmからずれているため、ノッチフィルタ143を透過し、レンズ153で集光され、ピンホール151を通り、再度レンズ154により平行光化され、回折格子155へ入射する。なお、レーリー散乱光などは、その波長が光L1と同じ780nmであるため、ノッチフィルタ143で反射されるため、回折格子155へ入射することはない。ラマン散乱光L2は、回折格子155により分散され、フォトダイオード157の方向へ分散された所定波長の光がレンズ156により集光されて、フォトダイオード157へ入射する。回転部158が回折格子155を回転させると、フォトダイオード157の方向へ分散される光の波長が変化する。このため、ラマン散乱光L2の中の波長の異なる光が順次フォトダイオード157へ入射する。フォトダイオード157の出力は、スペクトル強度補正部161へ順次出力される。スペクトル強度補正部161では、フォトダイオード157で検出された光強度を時間経過に沿って記憶することにより図6に示すようなラマン散乱光L2のラマンスペクトルを測定する。
【0044】
この後、ステージ139が移動し、参照試料113上へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス110が移動する。光L1が照射された参照試料113からは参照ラマン散乱光L3が発せられ、ラマン散乱光L2のラマンスペクトル測定と同様の手順で、図7に示すような散乱光L3のラマンスペクトルが測定される。
【0045】
スペクトル強度補正部161では、参照試料113から測定したラマンスペクトルの中で最もスペクトル強度の大きいラマンピーク波数Kにおけるスペクトル強度Sを求め、試料115から測定されたラマンスペクトルの各光強度を値Sにより除算して、図8に示すような規格化ラマンスペクトルを算出し、表示部170へ出力する。なお、参照試料113のラマンピーク波数Kは予め既知のものであるため、参照試料113のラマンスペクトルは波数Kの近傍のみを測定してもよい。
【0046】
以上の説明で明らかなように、本発明の第1の実施形態である表面増強ラマン分光装置100においては、光電場増強デバイス110上に載置された試料115から測定したラマンスペクトル強度を、参照試料113から測定したラマンスペクトル強度を用いて規格化したため、複数の光電場増強デバイス110の光電場の増強度にバラツキが生じている場合であっても、試料115のラマンスペクトル強度を精度良く、定量的に測定することができる。
【0047】
なお、参照試料の材料は、上記のメタクリル酸メチル樹脂 (PMMA)に限定されるものではなく、ラマンスペクトルが既知のものであり、光L1を透過するものであればいかなるものであってもよい。例えば、ポリマー、無機材料あるいは半導体材料などであってもよい。また形成方法も、真空蒸着に限られるものではなく、フォトリソグラフィーなどであってもよい。なお、厚さとしては、光増強効果が得られる厚さを確保することが望ましく、100nm以上の厚さであることが好ましい。
【0048】
次に図9を用いて図面を参照して、本発明に係る第2実施形態の光電場増強デバイス、この光電場増強デバイスを用いたラマン分光方法およびラマン分光装置について説明する。図9は光電場増強デバイス210の概略上面図である。なお、この光電場増強デバイス210を用いたラマン分光装置200は、図2に示すラマン分光装置100とは制御部における動作が異なっているが、他の構成および動作はほぼ同様である。このため、ラマン分光装置200は、制御部の符号のみを図2内に示す。また、ラマン分光装置100と同様の構成および動作については、その詳細な説明を省略する。また、光電場増強デバイス210は、図1に示す光電場増強デバイス110とは、測定領域および参照領域の形状および配置が異なるが、その他の構成は同様である。
【0049】
図9に示すように、光電場増強デバイス210の表面211にはラマンスペクトル測定用の測定領域212が設けられている。この光電場増強デバイス210の測定領域212は、デバイス表面211の第1の方向、すなわち図9におけるY方向の所定範囲内(Y座標0.5〜9.5)に設けられ、また、参照領域214もY方向の所定領域内(Y座標0.5〜〜9.5)に形成されている。試料115は測定領域212内に配置され、参照試料113は参照領域214内に予め真空蒸着されている。なお、光電場増強デバイス210は、(a)に示すように、基体121として圧延により薄膜化されたアルミニウム層が用いられている。このアルミニウム層の圧延方向に沿って、ほぼ同一の光電場増強度が得られる。このため、この圧延方向(図9においてはX方向)と略垂直な方向(図9のY方向)に沿って、参照領域214は形成されている。
【0050】
以下、例えば図9の測定領域212のA1点(Y座標7)およびA2点(Y座標3)からラマンスペクトルを測定し、そのスペクトル強度を補正する場合の動作について説明する。
【0051】
まず、制御部260の制御により、ステージ139が移動され、測定領域212のA1点(Y座標7)へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス210が移動される。光L1が照射され、試料115からラマン散乱光L(A1)が発せられ、このラマン散乱光L(A1)のラマンスペクトルが測定され、スペクトル強度補正部261に記憶される。
【0052】
次に、制御部260の制御により、ステージ139が移動され、参照領域114のB1点(Y座標7)へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス210を移動する。光L1が照射され、参照試料113からラマン散乱光L(B1)が発せられ、このラマン散乱光L(B1)のラマンスペクトルが測定され、スペクトル強度補正部261に記憶される。スペクトル強度補正部261では、ラマン散乱光L(B1)のラマンスペクトルの中で最もスペクトル強度の大きいラマンピーク波数Kにおけるスペクトル強度S(B1)を求め、ラマン散乱光L(A1)のラマンスペクトルの各光強度を、値S(B1)により除算して、規格化ラマンスペクトルを算出し、表示部170へ出力する。
【0053】
次に、制御部260の制御により、ステージ139が移動され、測定領域212のA2点(Y座標3)へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス210が移動される。光L1が照射され、試料115からラマン散乱光L(A2)が発せられ、このラマン散乱光L(A2)のラマンスペクトルが測定され、スペクトル強度補正部261に記憶される。
【0054】
さらに、制御部260の制御により、ステージ139が移動され、参照領域114のB2点(Y座標3)へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス210を移動する。光L1が照射され、参照試料113からラマン散乱光L(B2)が発せられ、このラマン散乱光L(B2)のラマンスペクトルが測定され、スペクトル強度補正部261に記憶される。スペクトル強度補正部261では、ラマン散乱光L(B2)のラマンスペクトルの中で最もスペクトル強度の大きいラマンピーク波数Kにおけるスペクトル強度S(B2)を求め、ラマン散乱光L(A2)のラマンスペクトルの各光強度を値S(B2)により除算して、規格化ラマンスペクトルを算出し、表示部170へ出力する。
【0055】
以上の説明で明らかなように、測定領域212内のY方向における所定座標に載置された試料115から測定されたラマンスペクトル強度を、参照領域214内のY方向における同じ座標に設けられた参照試料113から測定したラマンスペクトル強度を用いて補正している。図9におけるX方向においては、ほぼ光電場増強度が一定であるため、Y方向における座標が略同一であれば、その光電場増強度は略等しいとみなすことができる。このため、光電場増強デバイス210の測定領域212内のY方向において、光電場の増強度にバラツキが生じても、良好な測定精度でラマン散乱光のスペクトル強度の定量測定を行うことができる。
【0056】
なお、光電場増強デバイス210の変形例として、例えば図10に示すように、デバイス表面311に、X方向で分割されている2個の測定領域312aおよび312bが設けられ、各測定領域312aおよび312bと並んで参照領域314aおよび314bが形成されている光電場増強デバイス310が考えられる。測定領域の所定点から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度は、隣接している参照領域の中で、Y方向の座標が等しい点から補正用のラマンスペクトルを測定すればよく、Y方向の光電場の増強度のバラツキに加え、X方向の光電場の増強度のバラツキも加味した補正を行うことができる。また、他の変形例として、図11に示すように、デバイス表面411に、X方向およびY方向で分割されている測定領域412a〜412hが設けられ、各測定領域に対応して、同様にX方向およびY方向で分割されている参照領域414a〜414hが形成されている光電場増強デバイス410も考えられる。このような場合、各測定領域から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度は、隣接する参照領域から測定したラマンスペクトル強度を用いて補正することができる。このため、Y方向の光電場の増強度のバラツキに加え、X方向の光電場の増強度のバラツキも加味した補正を行うことができ、また容易に多種類の試料のラマンスペクトルのスペクトル強度を補正することができる。
【0057】
次に図12を用いて図面を参照して、本発明に係る第3実施形態の光電場増強デバイス、この光電場増強デバイスを用いたラマン分光方法およびラマン分光装置について説明する。図12は光電場増強デバイス510の概略上面図である。なお、この光電場増強デバイス510を用いたラマン分光装置500は、図2に示すラマン分光装置100とは制御部における動作が異なっているが、他の構成および動作はほぼ同様である。このため、ラマン分光装置500は、制御部の符号のみを図2内に示す。また、ラマン分光装置100と同様の構成および動作については、その詳細な説明を省略する。なお、光電場増強デバイス510は、図1に示す光電場増強デバイス110とは、測定領域および参照領域の形状および配置が異なるが、その他の構成は同様である。
【0058】
図12に示すように、光電場増強デバイス510の表面511にはラマンスペクトル測定用の測定領域512が設けられ、この測定領域512は、デバイス表面511の第1の方向、すなわち図12におけるY方向の所定範囲内(Y座標0.5〜7)および第2の方向、すなわち図12のX方向の所定範囲内(座標3〜9.5)に設けられ、また、参照領域514aは、Y方向の所定領域(Y座標0.5〜7)内に形成され、参照領域514bは、X方向の所定領域(X座標3〜9.5)に形成されている。
【0059】
試料115は測定領域512内に配置され、参照試料113は参照領域514aおよぎ514bに予め真空蒸着されている。
【0060】
以下、例えば図12の測定領域512のA6点からラマンスペクトルを測定し、そのスペクトル強度を補正する場合の動作について説明する。
【0061】
まず、制御部260の制御により、ステージ139が移動され、測定領域512のA6点(Y座標4、X座標6)へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス510が移動される。光L1が照射され、試料115からラマン散乱光L(A6)が発せられ、このラマン散乱光L(A6)のラマンスペクトルが測定され、スペクトル強度補正部561に記憶される。
【0062】
次に、制御部560の制御により、ステージ139が移動され、参照領域514aのB6点(Y座標4)へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス510を移動する。光L1が照射され、参照試料113からラマン散乱光L(B6)が発せられ、このラマン散乱光L(B6)のラマンスペクトルが測定され、スペクトル強度補正部561に記憶される。スペクトル強度補正部561では、ラマン散乱光L(B6)のラマンスペクトルの中で最もスペクトル強度の大きいラマンピーク波数におけるスペクトル強度S(B6)を求める。
【0063】
さらに、制御部560の制御により、ステージ139が移動され、参照領域514bB7点(X座標6)へ光L1が照射可能となる位置へ光電場増強デバイス510を移動する。光L1が照射され、参照試料113からラマン散乱光L(B7)が発せられ、このラマン散乱光L(B7)のラマンスペクトルが測定され、スペクトル強度補正部561に記憶される。スペクトル強度補正部561では、ラマン散乱光L(B7)のラマンスペクトルの中で最もスペクトル強度の大きいラマンピーク波数におけるスペクトル強度S(B7)を求める。その後、スペクトル強度S(B6)とスペクトル強度S(B7)との平均値Sを算出する。
【0064】
試料115から測定されたラマンスペクトルの各光強度を平均値Sにより除算して、規格化ラマンスペクトルを算出し、表示部170へ出力する。
【0065】
以上の説明で明らかなように、測定領域212内のY方向における所定座標およびX方向における所定座標に載置された試料115から測定されたラマンスペクトルのスペクトル強度を、参照領域514a内のY方向における同じ座標に設けられた参照試料113から測定したラマンスペクトル強度S(B6)と参照領域514b内のX方向における同じ座標に設けられた参照試料113から測定したラマンスペクトル強度S(B7)とを用いて補正している。このため、光電場増強デバイス510の測定領域512内のY方向における光電場の増強度のバラツキと、X方向の光電場の増強度のバラツキの両者を加味した補正を行うことができ、さらに良好な測定精度でラマン散乱光のスペクトル強度の定量測定を行うことができる。
【0066】
なお、光電場増強デバイス510の変形例として、例えば図13に示すように、デバイス表面611に、測定領域612が設けられ、また該測定領域612の外周を囲むように参照領域614が形成されている光電場増強デバイス610や図14に示すように、デバイス表面711に十字状に参照領域714が形成され、この参照領域714により分割された測定領域712a〜712dが設けられている光電場増強デバイス710等考えられる。あるいは参照領域は、メッシュ状に儲けられていてもよい。このような場合には、例えばY座標が等しくかつ最も近い距離にある参照領域から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度およびX座標が等しくかつ最も近い距離にある参照領域から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度の平均値を用いて、測定領域から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を補正、たとえば規格化すればよく、Y方向の光電場の増強度のバラツキに加え、X方向の光電場の増強度のバラツキも補正することができる。
【0067】
また、Y方向およびX方向の両方向ではなく、至近距離にある参照領域からラマンスペクトルを測定し、そのスペクトル強度を用いて、補正を行ってもよい。
【0068】
なお、各実施の形態においては、測定領域と参照領域のラマンスペクトルを交互に測定したが、必ずしもその必要はなく、例えば、まず、参照領域において該当する全ての点のラマンスペクトルを測定して記憶しておき、その後、測定領域においてラマンスペクトルを測定して、補正の際に記憶されている参照領域のラマンスペクトル強度を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る第1実施形態の光電場増強デバイス
【図2】ラマン分光装置の概略構成図
【図3】(a)〜(c)は図1に示す光電場増強デバイスの製造プロセス図、(d)は光電場増強デバイスの表面の斜視図
【図4】光電場増強デバイスの変形例の断面図
【図5】光電場増強デバイスの変形例の斜視図および上面図
【図6】試料から測定したラマンスペクトル
【図7】参照試料から測定したラマンスペクトル
【図8】規格化されたラマンスペクトル
【図9】本発明に係る第2実施形態の光電場増強デバイス
【図10】光電場増強デバイスの変形例
【図11】光電場増強デバイスの変形例
【図12】本発明に係る第3実施形態の光電場増強デバイス
【図13】光電場増強デバイスの変形例
【図14】光電場増強デバイスの変形例
【符号の説明】
【0070】
100、200、500 ラマン分光装置
110、210、310、410,510、610、710 光電場増強デバイス
111、211、311、411、511、611、711 デバイス表面
112、212,312a、312b、412a〜412h 測定領域
512、612、712a〜712d 測定領域
113 参照試料
114、214、314a、314b、414a〜414h 参照領域
514a、514b、614、714 参照領域
115 試料
139 ステージ
140 光照射部
141 光源
143 ノッチフィルタ
150 スペクトル測定部
151 ピンホール
152 ピンホール板
155 回折格子
157 フォトダイオード
158 回転部
160、260、560 制御部
161、261、561 スペクトル強度補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられていることを特徴とする光電場増強デバイス。
【請求項2】
前記測定領域が前記デバイス表面内の第1の方向の所定範囲内に存在し、前記参照領域が前記デバイス表面の前記第1の方向の所定範囲を含むものであることを特徴とする請求項1記載の光電場増強デバイス。
【請求項3】
前記測定領域が前記第1の方向とは略垂直な第2の方向の所定範囲内に存在するものであり、
前記参照領域が、前記第2の方向の所定範囲を含むものであることを特徴とする請求項2記載の光電場増強デバイス。
【請求項4】
前記測定領域および前記参照領域は、前記光の波長よりも小さい凹凸構造を有する金属体からなることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項5】
光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられている光電場増強デバイスを用いる表面増強ラマン分光方法であって、
前記試料および前記参照試料からラマンスペクトルを測定し、
前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正することを特徴とする表面増強ラマン分光方法。
【請求項6】
前記光電場増強デバイスの前記測定領域が前記デバイス表面の第1の方向の所定範囲内に存在し、前記参照領域が前記デバイス表面の前記第1の方向の所定範囲を含むものであり、
前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、
前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料からラマンスペクトルを測定し、
前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正することを特徴とする請求項5記載の表面増強ラマン分光方法。
【請求項7】
前記光電場増強デバイスの前記測定領域が前記第1の方向とは略垂直な第2の方向の所定範囲内に存在するものであり、
前記参照領域が、前記第2の方向の所定範囲を含むものであり、
前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標および前記第2の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、
前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料および前記参照領域内の前記第2の方向における前記所定座標に形成された参照試料からそれぞれラマンスペクトルを測定し、
前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定されたそれぞれのラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正することを特徴とする請求項6記載の表面増強ラマン分光方法。
【請求項8】
前記補正として、前記参照試料から測定したラマンスペクトルの所定の波数のスペクトル強度を用いて、前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を規格化することを特徴とする請求項5から7いずれか1項記載の表面増強ラマン分光方法。
【請求項9】
光を射出する光照射部と、
前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、載置された試料から発せられるラマン散乱光を増強する測定領域と、ラマンスペクトルが既知である参照試料が予め固定され、前記光の照射を受けて局在プラズモンを誘起し、該参照試料から発せられるラマン散乱光を増強する参照領域とが、一体的に製造されたひとつのデバイス表面に設けられている光電場増強デバイスと、
前記試料から発せられるラマンスペクトルおよび前記参照試料から発せられるラマンスペクトルを測定するスペクトル測定手段と、
前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を前記参照試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を用いて補正するスペクトル強度補正手段とを備えることを特徴とする表面増強ラマン分光装置。
【請求項10】
前記光電場増強デバイスの前記測定領域が前記デバイス表面の第1の方向の所定範囲内に存在し、前記参照領域が前記デバイス表面の前記第1の方向の所定範囲を含むものであり、
前記スペクトル測定手段が、前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料からラマンスペクトルを測定するものであることを特徴とする請求項9記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項11】
前記光電場増強デバイスの前記測定領域が前記第1の方向とは略垂直な第2の方向の所定範囲内に存在するものであり、
前記参照領域が、前記第2の方向の所定範囲を含むものであり、
前記スペクトル測定手段が、前記測定領域内の前記第1の方向における所定座標および前記第2の方向における所定座標に載置された試料からラマンスペクトルを測定し、前記参照領域内の前記第1の方向における前記所定座標に形成された参照試料および前記参照領域内の前記第2の方向における前記所定座標に形成された参照試料からそれぞれラマンスペクトルを測定し、
前記スペクトル強度補正手段が、前記試料から測定したラマンスペクトルのスペクトル強度を、前記参照試料から測定したそれぞれのラマンスペクトのスペクトル強度を用いて補正するものであることを特徴とする請求項10記載の表面増強ラマン分光装置。
【請求項12】
前記スペクトル強度補正手段が、前記参照試料から測定したラマンスペクトルの所定の波数のスペクトル強度を用いて、前記試料から測定したラマンスペクトル強度を規格化するものであることを特徴とする請求項9から11いずれか1項記載の表面増強ラマン分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−103651(P2009−103651A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277693(P2007−277693)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】