説明

光電変換素子およびその製造方法

【課題】作用極と対極との距離が一定に保に保たれた光電子変換素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の光電変換素子は、作用極44と、対極47と、これらの間に形成された電解質層52とからなる積層体49を備え、積層体49が袋体60に収容され、袋体60が積層体49の外側の面に密着した状態で密封されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池などの光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子としては、例えば、安価で、かつ、高い光電変換効率が得られる色素増感型太陽電池が挙げられる。
【0003】
色素増感型太陽電池は、例えば、ガラス基板などの光透過性の素材からなる透明基板、その一方の面に順に形成された透明導電膜および多孔質酸化物半導体層からなる作用極と、ガラス基板などの絶縁性の素材からなる基板およびその一方の面に形成された導電膜からなる対極と、これらの間に封入されたゲル状電解質などからなる電解質層とから概略構成されている。
【0004】
従来、このような色素増感型太陽電池は、以下に示すような製造方法で製造されている。
図7は、従来の色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略断面図である。
まず、透明基板101、その一方の面に順に形成された透明導電膜102および多孔質酸化物半導体層103からなる作用極104を形成し、多孔質酸化物半導体層103に増感色素を担持させる。
【0005】
次いで、ホットメルト接着剤110を用いて、作用極104と、基板106およびその一方の面に形成された導電膜107からなる対極108を、所定の間隔をおいて貼り合わせる。
次いで、予め対極108に設けられた貫通孔109から作用極104と対極108との間に、加圧しながら有機電解液115を充填して、この有機電解液115からなる電解質層を形成し、色素増感型太陽電池を得る。
【0006】
近年、透明基板101と基板106としてガラス基板ではなく、合成樹脂などの可撓性の材料からなる基板が用いられている可撓性の色素増感型太陽電池の開発が進められている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。
【0007】
しかしながら、このように可撓性の材料からなる基板を用いた色素増感型太陽電池を、上述の従来の製造方法によって製造すると、以下のような問題がある。
図8に示すように、貫通孔109から作用極104と対極108との間に、加圧しながら有機電解液115を充填すると、作用極104と対極108に対して、図中に示した矢印の方向に圧力が加わって、色素増感型太陽電池が膨らんでしまい、作用極104と対極108との距離が一定に保たれないという問題がある。作用極と対極との距離(以下、「二極間距離」と言うこともある。)が一定に保たれないと、色素増感型太陽電池の光電子変換効率が劣化する。
【0008】
特に、有機電解液としてイオン性液体電解質のような高粘度の電解液を使用する場合、高い圧力を加えないと、作用極と対極との間に電解液を充填することができないので、上述のような問題が顕著に現れる。
また、色素増感型太陽電池の寸法が大きくなると、従来のように、作用極および対極をなす基板としてガラス基板を用いた場合でも、僅かながらも同様の問題が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−288745号公報
【特許文献2】特開2001−357896号公報
【特許文献3】特開平11−329519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、作用極と対極との距離が一定に保に保たれた光電子変換素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光電変換素子は、作用極と、対極と、これらの間に形成された電解質層とからなる積層体を備えた光電変換素子であって、前記積層体が袋体に収容され、該袋体が前記積層体の外側の面に密着した状態で密封されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の光電変換素子の製造方法は、作用極と、対極と、これらの間に形成される電解質層を備えた光電変換素子の製造方法であって、前記作用極と前記対極を積層して、前記作用極と前記対極との間に前記電解質層を形成する電解液を充填して積層体を形成した後、該積層体を真空包装により密封することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光電変換素子は、作用極と、対極と、これらの間に形成された電解質層とからなる積層体が袋体に収容され、この袋体が積層体の外側の面に密着した状態で密封されているから、作用極と対極は、両者が対向する面の方向に大気圧が加えられた状態のまま固定されるので、作用極または対極のいずれか一方、または、これらの両方をなす材料が可撓性のものからなる場合でも、作用極と対極との距離が一定に保たれたものとなる。したがって、本発明の光電変換素子は、光電子変換効率に優れたものとなる。
【0014】
本発明の光電変換素子の製造方法によれば、作用極と対極を積層して、作用極と対極との間に電解質層を形成する電解液を充填して積層体を形成した後、この積層体を真空包装により密封するから、電解液が大気圧よりも低い圧力で光電変換素子内に封入される。したがって、作用極または対極のいずれか一方、または、これらの両方が可撓性の材料からなる場合でも、作用極と対極との距離が一定に保たれた光電変換素子を実現することができる。したがって、本発明で得られた光電変換素子は、光電子変換効率に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第一の実施形態として、色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る第一の実施形態として、色素増感型太陽電池を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る第二の実施形態として、色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略斜視図である。
【図4】本発明に係る第三の実施形態として、色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略斜視図である。
【図5】本発明に係る第三の実施形態を示す概略図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図6】本発明の実施例および比較例における色素増感型太陽電池について、電圧と電流密度との関係を測定した結果を示すグラフである。
【図7】従来の色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略断面図である。
【図8】従来の色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光電変換素子およびその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
図1および図2を参照して、本発明に係る第一の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る第一の実施形態として、色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略断面図である。図2は、本発明に係る第一の実施形態として、色素増感型太陽電池を示す概略断面図である。
図1および図2中、符号11は透明基板、12は透明導電膜、13は多孔質酸化物半導体層、14は作用極、15は基板、16は導電膜、17は対極、18は接着剤、19は積層体、20は貫通孔、21は電解液、22は封止部材、23は電解質層をそれぞれ示している。
【0018】
この実施形態において、色素増感型太陽電池を製造するには、まず、透明基板11、その一方の面に順に形成された透明導電膜12および多孔質酸化物半導体層13からなる作用極14を形成し、多孔質酸化物半導体層13の表面に増感色素を担持させる。
【0019】
また、基板15、および、その一方の面に形成された導電膜16からなる対極17を形成する。
【0020】
次いで、接着剤18を介して、作用極14と対極17を接着して、積層体19を形成する。この積層体19を形成することにより、作用極14と対極17の間には、所定の大きさの空間(後段の工程において、電解液が充填される空間)ができる。
【0021】
次いで、予め対極17に設けた2つの貫通孔20、20の一方から、作用極14と対極17との間に電解液21を充填し、電解液21の大部分を多孔質半導体層13の空隙部分に含浸させる。
【0022】
次いで、2つの貫通孔20、20のうち一方を封止部材22で封止する。
【0023】
次いで、真空ポンプなどを用いて、封止部材22で封止されていない貫通孔20から作用極14と対極17との間の空間に充填した電解液21の一部を吸い出すことによって、この空間内を減圧する。すると、大気圧によって、作用極14と対極17は、両者が対向する面の方向(図1中に示した矢印の方向)に押され、結果として、積層体19がこの方向に収縮して、作用極14と対極17との間の距離が狭くなる。この際、封止部材22で封止されていない貫通孔20には逆止弁などを設けておく。逆止弁などを設けることにより、真空ポンプによる前記空間内の電解液21の吸引を終了しても、前記空間内の減圧状態は保たれる。
この工程において、余分な電解液21の一部は貫通孔20から吸い出されるが、多孔質半導体層13の空隙部分が電解液21で完全に満たされた状態を保ちながら、電解液21は吸い出される。また、作用極14と対極17が接触するまで減圧することが好ましい。
【0024】
次いで、真空ポンプによる前記空間内の電解液21の吸引を終了し、作用極14と対極17との間の空間内を減圧した状態を保ったまま、電解液21の吸い出しに用いた貫通孔20を、封止部材22で封止して、作用極14と対極17との間に電解質層23を形成し、色素増感型太陽電池を得る。
【0025】
なお、この実施形態では、貫通孔20を対極17に2つ設けた例を示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、作用極または対極に、貫通孔を少なくとも1つ設け、この1つの貫通孔介して電解液を充填した後、この1つの貫通孔から電解液の一部を吸い出した後に、この貫通孔を封止してもよい。あるいは、作用極または対極に、貫通孔を3つ設け、貫通孔のうち1つを除く全てを封止して、封止されていない1つの貫通孔から電解液の一部を吸い出した後に、この封止していない貫通孔を封止してもよい。
【0026】
透明基板11としては、光透過性の材料からなる基板が用いられ、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなどからなる、通常、太陽電池の基板として用いられる基板であればいかなるものでも用いることができる。なお、可撓性の色素増感型太陽電池を実現するためには、透明基板11としては、可撓性の材料からなる基板を用いることが好ましい。可撓性の材料からなる基板としては通常、合成樹脂からなる基板が用いられるが、例えば、上記のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなどからなる基板が挙げられる。
【0027】
透明導電膜12は、透明基板11に導電性を付与するために、その一方の面に形成された金属、炭素、導電性金属酸化物などからなる薄膜である。
透明導電膜12として金属薄膜や炭素薄膜を形成する場合、透明基板11の透明性を著しく損なわない構造とする。透明導電膜12を形成する導電性金属酸化物としては、例えば、インジウム−スズ酸化物(Indium−Tin Oxide、ITO)、酸化スズ(SnO)、フッ素ドープの酸化スズなどが用いられる。
【0028】
多孔質酸化物半導体層13は、透明導電膜12の上に設けられている。多孔質酸化物半導体層13を形成する半導体としては特に限定されず、通常、太陽電池用の多孔質半導体を形成するのに用いられるものであればいかなるものでも用いることができる。このような半導体としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)などを用いることができる。
多孔質酸化物半導体層13を形成する方法としては、例えば、上記半導体のナノ粒子を含むペーストを透明導電膜12上に塗布した後、焼成することにより形成する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0029】
増感色素としては、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニンなどの含金属錯体、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができる。これらの中から、用途、使用半導体に適した励起挙動を示す増感色素を特に限定無く選ぶことができる。
【0030】
基板15としては、透明基板11と同様のものや、特に光透過性を有する必要がないことから金属板、合成樹脂板などが用いられる。なお、可撓性の色素増感型太陽電池を実現するためには、基板15としては、可撓性の材料からなる基板を用いることが好ましい。可撓性の材料からなる基板としては通常、合成樹脂板が用いられる。このような合成樹脂
板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなどからなる基板が挙げられる。
【0031】
導電膜16は、基板15に導電性を付与するために、その一方の面に形成された金属、炭素などからなる薄膜である。導電膜16としては、例えば、炭素や白金などの層を、蒸着、スパッタ、塩化白金酸塗布後に熱処理を行ったものが好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
【0032】
接着剤18としては、透明導電膜12および導電膜16に対する接着性に優れるものであれば特に限定されないが、特に透明導電膜12および導電膜16が金属からなる場合には、金属に対する接着性に優れるものが望ましい。金属に対する接着性に優れる接着剤としては、分子鎖中にカルボン酸基を有する熱可塑性樹脂からなる接着剤などが望ましく、具体的には、ハイミラン(三井デュポンポリケミカル社製)、バイネル(三井デュポンポリケミカル社製)などが挙げられる。
【0033】
電解液21としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されてなるものや、イオン性液体などが用いられる。
【0034】
封止部材22としては、対極17をなす基板15に対する接着性に優れるものであれば特に限定されないが、例えば、分子鎖中にカルボン酸基を有する熱可塑性樹脂からなる接着剤などが望ましく、具体的には、ハイミラン(三井デュポンポリケミカル社製)、バイネル(三井デュポンポリケミカル社製)、アロンアルファ(東亞合成社製)などが挙げられる。
【0035】
以上説明したように、この実施形態では、作用極14と対極17との間に、対極14設けた貫通孔20、20を介して電解液を充填した後、一方の貫通孔20を封止して、他方の貫通孔20から電解液21の一部を吸い出した後、他方の貫通孔20も封止して、作用極14と対極17との間に電解液21を封入するから、電解液21が大気圧よりも低い圧力で色素増感型太陽電池内に封入される。したがって、作用極14と対極17は、両者が対向する面の方向に大気圧が加えられた状態のまま固定されるので、作用極14または対極17のいずれか一方、または、これらの両方が可撓性の材料からなる場合でも、作用極14と対極17との距離が一定に保たれた色素増感型太陽電池を実現することができる。したがって、この実施形態で得られた色素増感型太陽電池は、光電子変換効率に優れたものとなる。
【0036】
次に、図3を参照して、本発明に係る第二の実施形態を説明する。
図3は、本発明に係る第二の実施形態として、色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略斜視図である。
この実施形態では、上記第一の実施形態とは、積層体19において、作用極14と対極17との距離を一定に保つ方法が異なっている。図3において、図1および図2に示した第一の実施形態の構成要素と同じ構成要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0037】
この実施形態では、上記第一の実施形態と同様にして、積層体19を形成した後、この積層体19を、作用極14および対極17の外側の面から、一対の平板31、31で構成される加圧部材30で挟み込む。この加圧部材30によって、作用極14と対極17を、両者が対向する面の方向(図3中に示した矢印の方向)に均一に加圧して、二極間の距離を狭くする。この際、作用極14と対極17が接触するまで加圧してもよい。
【0038】
次いで、この状態で、予め対極17に設けた、少なくとも1つの貫通孔20から作用極14と対極17との間に、電解液を充填し、電解液の大部分を多孔質酸化物半導体層の空隙部分に含浸させる。
【0039】
次いで、加圧部材30で、作用極14と対極17を加圧した状態を保ったまま、貫通孔20を封止部材で封止して、作用極14と対極17との間に電解液からなる電解質層を形成する。
【0040】
次いで、加圧部材30によって、作用極14と対極17に加えた圧力を徐々に開放し、最後に加圧部材30を取り外して、色素増感型太陽電池を得る。
【0041】
加圧部材30としては、例えば、一対のシリコンゴムからなる平板31、31が用いられるが、本発明はこれに限定されない。加圧部材30としては、作用極14または対極17と接する面が平らで、かつ、両極に所定の圧力を均一に加えることができるもので構成されていれば特に限定されない。
【0042】
また、貫通孔20を封止する封止部材としては、上記封止部材22と同様のものが用いられる。
【0043】
以上説明したように、この実施形態では、加圧部材30によって、作用極14と対極17が、両者が対向する面の方向に均一に加圧された状態を保ったまま、作用極14と対極17との間に電解液を封入するから、電解液が大気圧よりも低い圧力で色素増感型太陽電池内に封入される。したがって、作用極14と対極17は、両者が対向する面の方向に大気圧が加えられた状態のまま固定されるので、作用極14または対極17のいずれか一方、または、これらの両方が可撓性の材料からなる場合でも、作用極14と対極17との距離が一定に保たれた色素増感型太陽電池を実現することができる。したがって、この実施形態で得られた色素増感型太陽電池は、光電子変換効率に優れたものとなる。
【0044】
次に、図4および図5を参照して、本発明に係る第三の実施形態を説明する。
図4は、本発明に係る第三の実施形態として、色素増感型太陽電池の製造方法を示す概略斜視図である。図5は、本発明に係る第三の実施形態を示す概略図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0045】
図4および図5中、符号41は透明基板、42は透明導電膜、43は多孔質酸化物半導体層、44は作用極、45基板、46は導電膜、47は対極、49は積層体、52電解質層、55、56は導電体、60は袋体をそれぞれ示している。
【0046】
この実施形態において、色素増感型太陽電池を製造するには、まず、透明基板41、その一方の面に順に形成された透明導電膜42および多孔質酸化物半導体層43からなる作用極44を形成する。また、この作用極44をなす透明導電膜42の多孔質酸化物半導体層43と接する側の面に、色素増感型太陽電池内で発生した電力を外部に導き出すための導電体55を設ける。さらに、多孔質酸化物半導体層43の表面に増感色素を担持させる。
【0047】
次いで、多孔質酸化物半導体層43に、電解液を滴下して含浸させ、こ多孔質酸化物半導体層43と一体をなす電解質層52を形成する。
【0048】
また、基板45、および、その一方の面に形成された導電膜46からなる対極47を形成する。さらに、この対極47をなす導電膜46の電解質層52(多孔質酸化物半導体層43)と接する側の面に、色素増感型太陽電池内で発生した電力を外部に導き出すための導電体56を設ける。
【0049】
次いで、導電膜46が電解質層52に重なるように、対極47を作用極44に重ねて、電解質層52を作用極44と対極47で挟んでなる積層体49を形成する。
【0050】
次いで、図4(a)、(b)に示すように、ラミネートフィルムを袋状に成形してなる袋体60内に、その開口部から積層体49を収容する。この際、導電体55、56が袋体60の外部に導き出された状態で、積層体49を袋体60内に収容する。
【0051】
次いで、図5(a)に示すように、真空包装により、袋体60を積層体49における外側の面の全域に均一に密着させる。この真空包装では、真空ポンプを用いて、袋体60内部から空気を吸い出すことによって、袋体60を収縮させると共に、袋体60を積層体49における外側の面の全域に均一に密着させる。すると、この袋体60によって、作用極44と対極47が、両者が対向する面の方向に均一に加圧される。
【0052】
次いで、この状態のまま、袋体60の開口部を融着するなどして、袋体60を密封し、色素増感型太陽電池を得る。
【0053】
透明基板41としては、上記透明基板11と同様のものが用いられる。
透明導電膜42としては、上記透明導電膜12と同様のものが設けられる。
多孔質酸化物半導体層43としては、上記多孔質酸化物半導体層13を形成する半導体と同様のものが用いられる。
【0054】
増感色素としては、上述の第一の実施形態と同様のものが用いられる。
電解液としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されてなるものや、イオン性液体、イオンゲルなどが用いられる。
【0055】
電解液をゲル化する際に用いられるゲル化剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド誘導体、アミノ酸誘導体、ナノコンポジットゲルなどが挙げられる。
【0056】
基板45としては、上記基板15と同様のものが用いられる。
導電膜46としては、上記導電膜16と同様のものが用いられる。
【0057】
導電体55、56を形成する材料としては、電気配線として色素増感型太陽電池に悪影響を及ぼさないものであれば、いかなるものでも用いることができる。このような導電性材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、コバルト(Co)などが挙げられる。
【0058】
袋体60を形成するラミネートフィルムとしては、光透過性の材料で、真空包装に適用可能であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ塩化ビニルなどからなるフィルムなどが用いられる。
【0059】
なお、この実施形態では、電解質層52としては、多孔質酸化物半導体層43内に電解液を含浸させた後、この電解液を適当なゲル化剤を用いてゲル化(擬固体化)して、多孔質酸化物半導体層43と一体をなすものを例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、電解質層は、多孔質酸化物半導体層内に電解液を含浸させてなるものであってもよい。
【0060】
以上説明したように、この実施形態では、袋体60を収縮させると共に、袋体60を積層体49における外側の面の全域に均一に密着させ、この袋体60を密封することによって、作用極44と対極47が、両者が対向する面の方向に均一に加圧された状態を保ったまま、作用極44と対極47との間に電解質層52を封入するから、電解質層52をなす電解液が大気圧よりも低い圧力で色素増感型太陽電池内に封入される。したがって、作用極44と対極47は、両者が対向する面の方向に大気圧が加えられた状態のまま固定されるので、作用極44または対極47のいずれか一方、または、これらの両方が可撓性の材料からなる場合でも、作用極44と対極47との距離が一定に保たれた色素増感型太陽電池を実現することができる。したがって、この実施形態で得られた色素増感型太陽電池は、光電子変換効率に優れたものとなる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
上記第二の実施例で示した光電変換素子の製造方法を用いて、色素増感型太陽電池を作製した。
透明基板としては、PETフィルムの一方の面に透明導電膜が設けられた、10cm×10cmの導電性PETフィルム(商品名;OTEC、王子トービ社製、導電性10Ω/□)を用いた。
この導電性PETフィルムをなす透明導電膜の上に、スパッタリング法により、厚み25nmの酸化チタンからなる薄膜を成膜して、可撓性の導電性基板を作製した。
次いで、ドクターブレード法により、この酸化チタン膜を覆うように、酸化チタンナノ粒子のペーストを、その厚みが10μmとなるように塗布した後、150℃で3時間焼成して、多孔質酸化物半導体層を形成した。
次いで、多孔質酸化物半導体層にN3色素を担持させて、作用極を得た。
また、作用極の作製に用いたものと同様の導電性PETフィルムを用い、この導電性PETフィルムをなす透明導電膜の上に、スパッタリング法により、白金からなる薄膜を成膜して、対極を得た。
次いで、この対極に、貫通孔を2箇所形成した。
次いで、接着剤として、作用極または対極の周縁部に幅2mm、厚み50μmの熱可塑性樹脂からなるシート(商品名;ハイミラン、三井デュポンポリケミカル社製)を配し、作用極と対極を、これらの間に所定の大きさの空間ができるように、この熱可塑性樹脂からなるシートを介して重ねた。
次いで、熱可塑性樹脂からなるシートを加熱、溶融して、作用極と対極を接着し、積層体を形成した。
次いで、この積層体を、作用極および対極の外側の面から、一対のシリコンゴム板からなる加圧部材を、15kg/100cmの圧力で挟み込み、この状態のまま、対極に設けた貫通孔から作用極と対極との間に、電解液を充填し、電解液の大部分を多孔質酸化物半導体層の空隙部分に含浸させた。
電解液の充填が終了した後、加圧部材によって積層体に圧力を加えたまま、貫通孔を封止部材で封止した。
次いで、加圧部材によって、作用極と対極に加えた圧力を徐々に開放し、最後に加圧部材を取り外して、色素増感型太陽電池を得た。
【0063】
(実施例2)
上記第二の実施例で示した光電変換素子の製造方法を用いて、色素増感型太陽電池を作製した。
透明基板としては、ガラス基板の一方の面に透明導電膜が設けられた、10cm×10cmの導電性ガラス(導電性10Ω/□)を用いた。
この導電性ガラスをなす透明導電膜の上に、スパッタリング法により、厚み25nmの酸化チタンからなる薄膜を成膜して、導電性基板を作製した。
次いで、ドクターブレード法により、この酸化チタン膜を覆うように、酸化チタンナノ粒子のペーストを、その厚みが10μmとなるように塗布した後、150℃で3時間焼成して、多孔質酸化物半導体層を形成した。
次いで、多孔質酸化物半導体層にN3色素を担持させて、作用極を得た。
また、作用極の作製に用いたものと同様の導電性ガラスを用い、この導電性ガラスをなす透明導電膜の上に、スパッタリング法により、白金からなる薄膜を成膜して、対極を得た。
次いで、この対極に、貫通孔を2箇所形成した。
次いで、接着剤として、作用極または対極の周縁部に幅2mm、厚み50μmの熱可塑性樹脂からなるシート(商品名;ハイミラン、三井デュポンポリケミカル社製)を配し、作用極と対極を、これらの間に所定の大きさの空間ができるように、この熱可塑性樹脂からなるシートを介して重ねた。
次いで、熱可塑性樹脂からなるシートを加熱、溶融して、作用極と対極を接着し、積層体を形成した。
次いで、この積層体を、作用極および対極の外側の面から、一対のシリコンゴム板からなる加圧部材を、15kg/100cmの圧力で挟み込み、この状態のまま、対極に設けた貫通孔から作用極と対極との間に、電解液を充填し、電解液の大部分を多孔質酸化物半導体層の空隙部分に含浸させた。
電解液の充填が終了した後、加圧部材によって積層体に圧力を加えたまま、貫通孔を封止部材で封止した。
次いで、加圧部材によって、作用極と対極に加えた圧力を徐々に開放し、最後に加圧部材を取り外して、色素増感型太陽電池を得た。
【0064】
(実施例3)
上記第三の実施例で示した光電変換素子の製造方法を用いて、色素増感型太陽電池を作製した。
透明基板としては、PETフィルムの一方の面に透明導電膜が設けられた、10cm×10cmの導電性PETフィルム(商品名;OTEC、王子トービ社製、導電性10Ω/□)を用いた。
この導電性PETフィルムをなす透明導電膜の上に、スパッタリング法により、厚み25nmの酸化チタンからなる薄膜を成膜して、可撓性の導電性基板を作製した。
次いで、ドクターブレード法により、この酸化チタン膜を覆うように、酸化チタンナノ粒子のペーストを、その厚みが10μmとなるように塗布した後、150℃で3時間焼成して、多孔質酸化物半導体層を形成した。
次いで、多孔質酸化物半導体層にN3色素を担持させて、作用極を得た。
また、作用極の作製に用いたものと同様の導電性PETフィルムを用い、この導電性PETフィルムをなす透明導電膜の上に、スパッタリング法により、白金からなる薄膜を成膜して、対極を得た。
次いで、作用極をなす多孔質酸化物半導体層に、電解液を滴下して含浸させた後、多孔質酸化物半導体層と一体をなす電解質層を形成した。
次いで、作用極と対極を重ねて、電解質層を作用極と対極で挟んでなる積層体を形成した。
次いで、PETフィルムを袋状に成形した、11cm×12cmの袋体内に、その開口部から積層体を収容する。
次いで、真空ポンプを用いて、袋体内部から空気を吸い出すことによって、袋体を収縮させると共に、袋体を積層体における外側の面の全域に均一に密着させた。
次いで、この状態のまま、袋体の開口部を融着して、袋体を密封し、色素増感型太陽電池を得た。
【0065】
(比較例)
実施例1と同様にして、作用極と対極を作製した。
次いで、対極に、貫通孔を2箇所形成した。
次いで、接着剤として、作用極または対極の周縁部に幅2mm、厚み50μmの熱可塑性樹脂からなるシート(商品名;ハイミラン、三井デュポンポリケミカル社製)を配し、作用極と対極を、これらの間に所定の大きさの空間ができるように、この熱可塑性樹脂からなるシートを介して重ねた。
次いで、熱可塑性樹脂からなるシートを加熱、溶融して、作用極と対極を接着し、積層体を形成した。
次いで、対極に設けた貫通孔から作用極と対極との間に電解液を充填し、電解液の大部分を多孔質酸化物半導体層の空隙部分に含浸させた。
電解液の充填が終了した後、貫通孔を封止部材で封止し、色素増感型太陽電池を得た。
【0066】
上記実施例1、2および比較例で得られた色素増感型太陽電池に関して、JIS規格のC8913で定める測定方法を用いて、電圧と電流密度との関係を調べた。結果を図6に示す。
【0067】
図6の結果から、作用極と対極に圧力を加えて、二極間の距離が一定となるように作製された、実施例1および実施例2の色素増感型太陽電池は、二極間の抵抗が低く、発電効率に優れたものとなることを確認できた。一方、作用極と対極に圧力を加えずに作製された、比較例の色素増感型太陽電池は、二極間の抵抗が高く、発電効率に劣るものとなることを確認できた。
【符号の説明】
【0068】
11,141・・・透明基板、12,42・・・透明基板、13・・・多孔質酸化物半導体層、14,44・・・作用極、15,45・・・基板、16,46・・・導電膜、17,47・・・対極、18・・・接着剤、19,49・・・積層体、20・・・貫通孔、21・・・電解液、22・・・封止部材、23,52・・・電解質層、30・・・加圧部材、31・・・平板、55,56・・・導電体、60・・・袋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と、対極と、これらの間に形成された電解質層とからなる積層体を備えた光電変換素子であって、
前記積層体が袋体に収容され、該袋体が前記積層体の外側の面に密着した状態で密封されていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
作用極と、対極と、これらの間に形成される電解質層を備えた光電変換素子の製造方法であって、
前記作用極と前記対極を積層して、前記作用極と前記対極との間に前記電解質層を形成する電解液を充填して積層体を形成した後、該積層体を真空包装により密封することを特徴とする光電変換素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−14545(P2011−14545A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192566(P2010−192566)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【分割の表示】特願2004−169629(P2004−169629)の分割
【原出願日】平成16年6月8日(2004.6.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】